明日も太陽が昇るというのは仮説である。
これは誰の言葉だったろうか。
たとえほぼ明らかである未来の事実であっても、それが真実であるかは定かではない。
それでも、人はいくつかの信じれる前提を元に、今日から明日へと過ごしていく。
明日も太陽が東の空に昇る。
明日も大地が足元にある。
明日も大切な人がそこにいる。
そう信じて人は過ごす。
けれども―――その前提が一度に崩れ去ってしまったらどうなるだろう。
明日、太陽が昇らなければ―――
明日、大地が砕け落ちてしまえば―――
明日、大切な友人がいなくなってしまえば―――
人は、何を前提にして、次の明日へと過ごしていけばいいのだろう?
これは誰の言葉だったろうか。
たとえほぼ明らかである未来の事実であっても、それが真実であるかは定かではない。
それでも、人はいくつかの信じれる前提を元に、今日から明日へと過ごしていく。
明日も太陽が東の空に昇る。
明日も大地が足元にある。
明日も大切な人がそこにいる。
そう信じて人は過ごす。
けれども―――その前提が一度に崩れ去ってしまったらどうなるだろう。
明日、太陽が昇らなければ―――
明日、大地が砕け落ちてしまえば―――
明日、大切な友人がいなくなってしまえば―――
人は、何を前提にして、次の明日へと過ごしていけばいいのだろう?
《私…こなたくんのことが好きなの!》
《あたしだって好きなんだもん!》
PCの画面に、丸っこいフォトンが流れる。
一昨日まで感情移入して没頭していたストーリーととゲームのキャラクターたち。
「……やめよ」
シャットダウン。
セーブしてないことに気付いたが、どうでもよくなる。
そのどうでもよさが波及したのか、ネトゲにログインする気もなくなりそのままPCの電源を落とす。
急に手持ち無沙汰。時計を見るとまだ帰宅してから1時間も経ってないことに気づく。寝る時間には程遠い。
どれだけ自分がパソコンに時間を割いていたか思い知る。
「ふぅ…」
だらしなくベッドに寝転がる。
仰向けに寝ると、積み上げられた漫画本やゲームの最上部におかれた、先ほどまでやっていたゲームの箱が目に入る。
三角関係や友情と恋を主題にした、いわゆる泣きゲー。
発売時はスルーしていたが、近々コンシューマー移植されると聞いて、やってみようと思った一品。
やり始めた頃は、今までなぜこんな名作を放置していたのだろうと思っていたが…
「やる気、なくなっちゃったな…」
一昨日まで感じていた楽しさを、今は感じない。
主人公やキャラクターに感情移入できなくなった、と言うのではない。むしろ逆。
―――感情移入、しすぎてしまうのだ。
「いいもんじゃないよね」
境界があいまいになる友情と恋愛。どちらかを必ず傷つけてしまう想いのベクトルのぶつかり合い。
今まで、複数のヒロインに言い寄られる主人公に対して『くあぁ!うらやましい!』と笑いながら言っていた自分が、とても浅はかだったと自覚する。
「辛いよ…」
コンティニューなし、セーブポイントなし、リプレーなし。
しかも相手は、アンインストール一発で消える電子情報じゃなくて、リアルな、大切な、かけがえのない親友―――そう思っていた相手。
「ううん…今でもそう思ってる」
自分の中における二人への気持ちは変わっていない。
みゆきは頼りになる、けれどちょっと天然が入った友人。
つかさは頼りない、けれど隣にいて安心できる友人。
けれど……その関係は崩れてしまった。
「どうしてだろう?」
どうして自分はみゆきに、あんな意識させるようなことを言ってしまったのか?
どうして自分はつかさに、あんな意識させるようなことをしてしまったのか?
「みゆき君には冗談のつもりだったのに…」
いつもの軽いジョーク。ゲームのフラグイベントみたいだと思って、つい言ってしまった。
けれどもそれは『みたい』ではなく、本当にフラグイベントだった。
「つかさには…否定してほしかった…」
自分が異性として見られていない。みゆきの去り際に言ったことは冗談だった。その確証を得たくてつかさに迫った。
けれども否定されたのは、みゆきの台詞の真実性ではなく、自分の希望的観測だった。
二本のフラグ。それは三角関係ルートへのフラグだった。
「前から…そんな風に思ってたのかな?」
ずっと前から、二人は自分のことを異性として見ていたのだろうか?
嫌悪感は―――ない。と言うかそれ以前に実感がなかった。
自分には胸もなく、身長もなく、色気もない。
そんな自分に二人が恋心を抱くなんて、想像すらしていなかった。
「なんで二人同時に…」
一人だけなら、告白を受けてしまえば済んだ。
そうすれば今までの自分たちの関係図を形作る線の一本に注釈を付けるだけで済んだ。
けれど、この状況は違う。もしもどちらかの想いに応えてしまえば、もう片方の線に大きな、修繕不可能なほどのほころびを作ってしまう。
あの時と…『魔法使い』の彼と同じように…
「かがみ……どうするんだろ?」
放課後の教室で、かがみは言った。
『任せとけ。今日、つかさと話してみるから』
泣きじゃくる自分を慰めながら、そう約束してくれた。
ありがたいと思った。肩に置かれた手のぬくもりがとても救われた。
この三角関係にどんな結末が待っていようと―――三人の内、みゆきとつかさの両方が失われても、かがみだけはそのままでいてくれる。
一番にして太陽と大地を失ったような不安に曝されていたこなたにとって、肩に感じる手の温もりは、何にも代えられない大きな安息だった。
「流石私の嫁…なんてね」
言って小さく笑う。以前にかがみに対してそれを言った時のことを思い出してだ。
慌てた様子で、赤くなって、どもりながら、必死に突っ込んでくるかがみ。
「お兄ちゃんは男だからお婿さんじゃないかな?」とピントがずれたことを言うつかさ。
そして嫁という言葉から『女房役』という表現について語り始めるみゆき。
「また…元に戻れるかな」
みんなに囲まれている暖かなの回想の世界から、こなたは冷たいシーツの上に戻ってきて、呟いた。
一昨日まで続いていた、暖かな友情の輪。それがまた戻ってきてくれるだろうか?
答えは、おそらく否だろう。
「起っちゃったことは…消えないもんね」
たとえ2人の自分への思慕が消えたとしても、そう言った感情が『あった』という事実が残る。
その事実は、どういった形であれ輪の中に痕を残すはずだ。まして―――根本の原因が残っているのだから。
その根本の原因とは……
「やっぱり……男と女の間に友情って、ないのかな?」
性別。いかんともしがたい、壁。この問題の根本。
「……いっそ、私が男だったり、みんなが女だったりすればよかったのに…」
こなたは想像する。
かがみとつかさの家は神社。正月などはバイトで袴を着ていた。ということは、女の子になったらやっぱり双子巫女だろう。
髪型は…かがみは当然ツインテールだろう、ツンデレだし。つかさは…神岸あかりヘアかな?リボン付きで。
みゆき君は天然だし…巨乳キャラかな。
「もしそうだったら…こんな風に悩んだりしなかったのかな」
けれどもその想像は、願望――妄想にすぎない。現実の問題として、自分は女で彼らは男。その間にはたして友情は存在するのだろうか?
そんなことを考えていると、扉の向こうから女の子の声がした。
「お姉ちゃん、お風呂空いたよ」
「ん、分かったよ、ゆーちゃん」
声の主は小早川ゆたか。従妹で、春から泉家に居候している女の子だ。
小柄なこなたよりさらに小柄。体が弱くおとなしく、こなたと異なりオタク趣味はない。
一見して体格以外は正反対だが、もう一つ、二人には共通項があった。
それは、いつも一緒に行動しているグループのメンツが…
「――!ゆーちゃん!」
「え?」
こなたは、扉の前から去ろうとしていた足音がとまり、驚いたような声が出たのを聞いた。
驚かしてしまったかもしれないが、こなたには気遣うだけの余裕がなかった。
なぜならこなたにとって、ゆたかは自分の抱えた問題の解決の、糸口になるかもしれない存在だったからだ。なぜなら…
「ちょっとさ―――相談に乗ってもらいたいんだけど…友達のことでね」
なぜなら小早川ゆたかも、こなたと同じように三人の男子と行動を共にしている少女だから。
《あたしだって好きなんだもん!》
PCの画面に、丸っこいフォトンが流れる。
一昨日まで感情移入して没頭していたストーリーととゲームのキャラクターたち。
「……やめよ」
シャットダウン。
セーブしてないことに気付いたが、どうでもよくなる。
そのどうでもよさが波及したのか、ネトゲにログインする気もなくなりそのままPCの電源を落とす。
急に手持ち無沙汰。時計を見るとまだ帰宅してから1時間も経ってないことに気づく。寝る時間には程遠い。
どれだけ自分がパソコンに時間を割いていたか思い知る。
「ふぅ…」
だらしなくベッドに寝転がる。
仰向けに寝ると、積み上げられた漫画本やゲームの最上部におかれた、先ほどまでやっていたゲームの箱が目に入る。
三角関係や友情と恋を主題にした、いわゆる泣きゲー。
発売時はスルーしていたが、近々コンシューマー移植されると聞いて、やってみようと思った一品。
やり始めた頃は、今までなぜこんな名作を放置していたのだろうと思っていたが…
「やる気、なくなっちゃったな…」
一昨日まで感じていた楽しさを、今は感じない。
主人公やキャラクターに感情移入できなくなった、と言うのではない。むしろ逆。
―――感情移入、しすぎてしまうのだ。
「いいもんじゃないよね」
境界があいまいになる友情と恋愛。どちらかを必ず傷つけてしまう想いのベクトルのぶつかり合い。
今まで、複数のヒロインに言い寄られる主人公に対して『くあぁ!うらやましい!』と笑いながら言っていた自分が、とても浅はかだったと自覚する。
「辛いよ…」
コンティニューなし、セーブポイントなし、リプレーなし。
しかも相手は、アンインストール一発で消える電子情報じゃなくて、リアルな、大切な、かけがえのない親友―――そう思っていた相手。
「ううん…今でもそう思ってる」
自分の中における二人への気持ちは変わっていない。
みゆきは頼りになる、けれどちょっと天然が入った友人。
つかさは頼りない、けれど隣にいて安心できる友人。
けれど……その関係は崩れてしまった。
「どうしてだろう?」
どうして自分はみゆきに、あんな意識させるようなことを言ってしまったのか?
どうして自分はつかさに、あんな意識させるようなことをしてしまったのか?
「みゆき君には冗談のつもりだったのに…」
いつもの軽いジョーク。ゲームのフラグイベントみたいだと思って、つい言ってしまった。
けれどもそれは『みたい』ではなく、本当にフラグイベントだった。
「つかさには…否定してほしかった…」
自分が異性として見られていない。みゆきの去り際に言ったことは冗談だった。その確証を得たくてつかさに迫った。
けれども否定されたのは、みゆきの台詞の真実性ではなく、自分の希望的観測だった。
二本のフラグ。それは三角関係ルートへのフラグだった。
「前から…そんな風に思ってたのかな?」
ずっと前から、二人は自分のことを異性として見ていたのだろうか?
嫌悪感は―――ない。と言うかそれ以前に実感がなかった。
自分には胸もなく、身長もなく、色気もない。
そんな自分に二人が恋心を抱くなんて、想像すらしていなかった。
「なんで二人同時に…」
一人だけなら、告白を受けてしまえば済んだ。
そうすれば今までの自分たちの関係図を形作る線の一本に注釈を付けるだけで済んだ。
けれど、この状況は違う。もしもどちらかの想いに応えてしまえば、もう片方の線に大きな、修繕不可能なほどのほころびを作ってしまう。
あの時と…『魔法使い』の彼と同じように…
「かがみ……どうするんだろ?」
放課後の教室で、かがみは言った。
『任せとけ。今日、つかさと話してみるから』
泣きじゃくる自分を慰めながら、そう約束してくれた。
ありがたいと思った。肩に置かれた手のぬくもりがとても救われた。
この三角関係にどんな結末が待っていようと―――三人の内、みゆきとつかさの両方が失われても、かがみだけはそのままでいてくれる。
一番にして太陽と大地を失ったような不安に曝されていたこなたにとって、肩に感じる手の温もりは、何にも代えられない大きな安息だった。
「流石私の嫁…なんてね」
言って小さく笑う。以前にかがみに対してそれを言った時のことを思い出してだ。
慌てた様子で、赤くなって、どもりながら、必死に突っ込んでくるかがみ。
「お兄ちゃんは男だからお婿さんじゃないかな?」とピントがずれたことを言うつかさ。
そして嫁という言葉から『女房役』という表現について語り始めるみゆき。
「また…元に戻れるかな」
みんなに囲まれている暖かなの回想の世界から、こなたは冷たいシーツの上に戻ってきて、呟いた。
一昨日まで続いていた、暖かな友情の輪。それがまた戻ってきてくれるだろうか?
答えは、おそらく否だろう。
「起っちゃったことは…消えないもんね」
たとえ2人の自分への思慕が消えたとしても、そう言った感情が『あった』という事実が残る。
その事実は、どういった形であれ輪の中に痕を残すはずだ。まして―――根本の原因が残っているのだから。
その根本の原因とは……
「やっぱり……男と女の間に友情って、ないのかな?」
性別。いかんともしがたい、壁。この問題の根本。
「……いっそ、私が男だったり、みんなが女だったりすればよかったのに…」
こなたは想像する。
かがみとつかさの家は神社。正月などはバイトで袴を着ていた。ということは、女の子になったらやっぱり双子巫女だろう。
髪型は…かがみは当然ツインテールだろう、ツンデレだし。つかさは…神岸あかりヘアかな?リボン付きで。
みゆき君は天然だし…巨乳キャラかな。
「もしそうだったら…こんな風に悩んだりしなかったのかな」
けれどもその想像は、願望――妄想にすぎない。現実の問題として、自分は女で彼らは男。その間にはたして友情は存在するのだろうか?
そんなことを考えていると、扉の向こうから女の子の声がした。
「お姉ちゃん、お風呂空いたよ」
「ん、分かったよ、ゆーちゃん」
声の主は小早川ゆたか。従妹で、春から泉家に居候している女の子だ。
小柄なこなたよりさらに小柄。体が弱くおとなしく、こなたと異なりオタク趣味はない。
一見して体格以外は正反対だが、もう一つ、二人には共通項があった。
それは、いつも一緒に行動しているグループのメンツが…
「――!ゆーちゃん!」
「え?」
こなたは、扉の前から去ろうとしていた足音がとまり、驚いたような声が出たのを聞いた。
驚かしてしまったかもしれないが、こなたには気遣うだけの余裕がなかった。
なぜならこなたにとって、ゆたかは自分の抱えた問題の解決の、糸口になるかもしれない存在だったからだ。なぜなら…
「ちょっとさ―――相談に乗ってもらいたいんだけど…友達のことでね」
なぜなら小早川ゆたかも、こなたと同じように三人の男子と行動を共にしている少女だから。