kairakunoza @ ウィキ

8月の暑い日

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匿名ユーザー

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 長く喋りすぎたかもしれない。
 私は喉の渇きから、ようやくそれに気がついた。
 目の前のコップにはまだ麦茶が半分以上残っている。
 麦茶を飲むことすら忘れて口を動かしていたのだ。よほど夢中になっていたのだろう。
 しかし、それも仕方のないことだと思う。
 読んだ本の感想なんて聞いてくれる人はなかなかいない。
 だから、話したいという欲求は消化されないままどんどん溜まっていく。
 そして、いざ聞いてくれる人がいるとなると止まらなくなってしまうのだ。
 コップの麦茶を一息で飲み干してから、こなたの表情を窺ってみる。退屈はしていなかっただろうか。

 このところのこなたはライトノベル限定ながら結構本を読む。
 今となっては、その手の話題にも付き合ってくれる貴重な人となっていた。
 いや、それにしても今日は一方的に話し過ぎてしまったのだが。

「どったのかがみ?急に黙っちゃって」

 こなたはそんな私の反省も知らずに、私が語るのをやめたことを疑問に思ったらしい。
 軽く首をかしげて、そんなことを尋ねて来た。

「ん、いや、私ばっかり喋って退屈だったかなって」
「そんなことないよー。かがみの作品への愛が伝わってきたよ」

 こなたは人差し指を天井に向けながら言う。
 どことなく得意げな表情がおかしい。

「……愛って」

 こなたの相変わらずな言い草に、私は軽い苦笑を漏らす。
 すると、こなたがススっと近づいてきた。
 そして左手を私の頬に添える。親指が目元に当たる。

「それに、語っているときのかがみんは目がキラキラしててかわゆいしー」
「な、何言ってんの!」

 こなたの顔が目の前にある。特徴的な目は私の目をまっすぐに見つめていた。
 手が当たっている部分からこなたの体温が移ってくる。暑い。

「かがみさま照れ怒るー」
 そして、からかいを含んだこなたの声。


 ほとんど反射的に叫んでいた。

「照れてない! つーか、かがみさまって言うな!」

 叫び声を避けるようににしてこなたは下がって行く。
 元の位置に戻ってしまう。口元には笑み。
 飲み物が欲しくなった。喉はもう渇いていた。
 ついさっき、麦茶を飲み干したばかりなのに。
 私はほとんど手負いの獣みたいな気分でこなたのことを睨みつけていた。
 顔からだけじゃない。全身から火が出そうだった。
 こなたがそんな私のことを見ている。
 いつもと変わらない、吸い込まれそうなこなたの目。
 こなたはその視線をついっとそらし、窓に向けた。
 もう口元に笑みは浮かんでいない。

「暑いねー」

 唐突にかけられる気の抜けた言葉。
 え? と聞き返してしまいそうになるのを何とかこらえた。
 これはきっと、こなたから出されたこれ以上の追撃はしないというサインなのだろう。
 私はため息をつく。
 体から息と一緒に何かが抜けていった。
 それにこめられていた物はからかわれたことによる疲れとも、居心地の悪さから開放された安堵とも違っていた筈だ。
 そして、体に残るのは脱力感。

「……ホント、暑いわね」

 私も外へと視線をやる。
 遠くを見ながら、次の話題を考えた。












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  • もうこの2人は結婚する
    べきだと思います(笑)
    -- チャムチロ (2012-07-30 20:55:46)

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