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お母さんからの贈りもの

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匿名ユーザー

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……ここは、どこだろう。

いや、一応自分の家だってことは、内装とか、間取りとかでわかる。
朝起きて、自分の部屋を出て、階段を上って、2階に上がって。
確かに私ん家なんだけど、なんだろう、いつもと空気が違うというか……

「あ、お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう、ゆーちゃん」
「今日は起きるの早いね」
「いやー、いつの間にか寝落ちしててね? 気づいたらこんな時間で……」

そんなことを考えていると、リビングからゆーちゃんが顔をのぞかせた。
あ、そうそう。この会話で私、全然喋ってるつもりはないから。
何も考えてないのに、勝手に声が出てるというか……
そう、まるで私が自分自身の頭の中に入って、
そこから外側の「私」のしていることをただ眺めてるって感じ?
だから「私」は私の意志に関係なく喋るし、動いている。

まるで自動操縦のロボットに乗ってる気分だなーってアホなことを考えていると、
ゆーちゃんがおかしなことを言った。

「伯父さん、伯母さん、お姉ちゃんも起きてきたよー!」

……あれっ、伯母さん?
伯母さん……ってどういうことだろう?

もちろん「私」はそんなことを考えるために足を止めたりはせず、
ゆーちゃんが開けたドアからリビングに入った。

「おとーさん、おはよー」
「おはよう、こなた。珍しいな、こなたが誰にも起こされずに
自分で起きてくるなんてな。なぁ、かなた」

……かなた?

「私」はお父さんの視線を追って、首を横に動かした。
その視線の先にはキッチンがあって、そこには一人の女の人が立っていた。

ちんまりとした体型、青くて長い髪。
まるで、私にそっくりだった。

「お母さん、おはよう!」
「私」はお父さんのときよりも元気よく、その女の人の背中に挨拶をした。

……お母さん?

ゆーちゃんが「伯母さん」と呼び、お父さんが「かなた」と呼び、
そして私が「お母さん」と呼ぶ。

「ふふ、おはよう、こなた。もうすぐできるから、机に座って待っててね」
そう言って、その女の人はフライパンを手に持ちながら、私のほうを振り返った。

振り返って見えたその顔はやっぱり私に似ていて、違うところといえば
私にはある、頭の上のアホ毛がないことだろうか。

そう、この女の人は――



ガシャン!


「――グハッ!?」
そこまで来て、私の視界は突然暗転し、代わりに何かがぶつかった音が聞こえ、
私の鼻にかなりの衝撃と痛みが走った。

「いててて……ここは……」
鼻を押さえながら周りを見渡してみると、そこは私の部屋で、
私はパソコンの前に座っていた。
……ああ、そういえば、夕飯を食べてネトゲをしてたら、
1時くらいに突然眠くなってきて……

目の前の起動しっぱなしのパソコンを見てみる。
そっか、そのまま寝落ちしちゃったみたい。
で、うつらうつらしてるうちに、キーボードに鼻から突っ込んだと。

……なんだか不思議な夢を見てた気がするけど……
なんだったっけなぁ……
……思い出せないから、まぁいいか。

私はそんなことを考えながら、パソコン内蔵の時計を見た。
今の時間は、夜中の2時を回ったところだった。

「あっ、もうこんな時間なんだ……」
私はそう呟いて、ネトゲを止めて、パソコンの電源を切った。
こんな時間だと、ゆーちゃんはもちろん、
このところ忙しかったお父さんも、仕事を切り上げて眠っているかな。
つまり今、この家で起きているのは、おそらく私だけ。

私は自分の部屋を出て、できるだけ音を出さないように階段を昇る。
お父さんの作業間のドアを静かに開けて中に入ると、
思った通りお父さんはパソコンの前で完全に寝落ちしていた。

私はお父さんを起こさないように静かに部屋の中に入って、左奥にある仏壇の前に座った。

「……お母さん。また、報告に来たよ」
そう、今日は5月28日。
私が生まれてから18回目の、大切な記念日だ。


私は夜更かしをするようになってから、
もとい夜中にチャットやネトゲをするようになってから、
私は毎年、自分の誕生日の夜中に一人でお母さんの仏壇の前に行くようにしている。
何でそんなことを始めたのかといえば、特に理由はなかった。
ただなんとなく、お母さんにも私の「今」を知ってもらいたくて。
そして、私を生んでくれたお母さんに、「ありがとう」を言いたくて。


「……相変わらず元気だよ。私も、お父さんも」
私は静かに、自分自身の近況報告を始めた。

まずは、今年から一緒に暮らすようになったゆーちゃんについて。

「4月から、従妹のゆーちゃんが私達の高校に入学してね? 今、私達の家に下宿をしてるの。
おかげで私はお姉さんっていうプレッシャーを体感して、忙しくなったけどね。
少しはいいところ見せなきゃ、ってね。
でも私って一人っ子だったから、「妹」ができて嬉しいんだ。
それにゆーちゃんも、だんだん私たちとの生活にも慣れてきたみたいで、
お料理とかもよく手伝ってくれたりもしてくれるし、いっぱいお話をしたりもするよ。
これからも、ゆーちゃんと仲良くやっていきたいなぁ」

……大丈夫、私みたいなオタクにはしないから……できる限りは。
なんかお母さんの心配そうな声が聞こえたような気がして、私はそう付け加えた。

「あ、そうそう。ゆーちゃんね、もう高校のお友達ができたんだ。
岩崎みなみちゃんって言うんだけど、入学試験のときに出会ったらしくて、
そのときにゆーちゃんが具合を悪くなって、その人が助けてくれたんだって。
私も何回か会話をしたことがあるんだけど、
無口だけど、結構思いやりがあって優しい、って印象だったよ」

背は高いんだけど、スレンダーで胸がないことを気にしてるってことは……
言ったら失礼か。


次に私の高校の友達、かがみ達の話をした。

「かがみやつかさ、みゆきさんとも、相変わらず仲良くしてるよ。
去年の夏休みにはみんなでお祭りにも行ったし、
黒井先生やゆい姉さんと一緒に海にも行ったりしたよ。
そういえば、運動会も楽しかったなぁ。かがみやつかさが結構ドジっ娘して萌えたっけ。
みゆきさんも大活躍でねぇ、いろんな意味で」

……お父さんが怪しい人扱いされて、閉め出されそうになったってことは
内緒にしておこっかな……まぁ実際怪しかったし。

「それから、その年の文化祭でなかなかクラスの出し物が決まらなかったから、
もう少しでみゆきさんの考えた、お堅い展示をするところだったんだよ。
それを阻止するために、つかさや先生と一生懸命出し物考えたなぁ」

みゆきさんには悪いんだけど、文化祭くらいは遊びたいからね。


「あとね、それからね……」
その後も、私はこれまでの思い出話を、仏壇のお母さんに向けてたくさん話をした。

かがみとつかさが私ん家にお泊りしに来たこと。
かがみ、つかさと一緒にコミケに行ったこと。
その二人が巫女さんやってる神社に初詣に行ったこと。

あれっ、みゆきさんの話は? って、話の途中で思ったけど、
運動会や文化祭の話もしたし、まぁいいか、ってことに。


「……どれもこれもみんな、いい思い出だよ」
この一年だけでもたくさんの出来事があったけど、本当にみんな嬉しくて、楽しくて。
私にとって、かけがえのない思い出達。

でも、なんでだろう。
こんないい思い出ばかりを話してたのに、私の心はなぜか満たされてなくて。
逆に胸の中は虚しさというか、淋しさに満たされていて。


――淋しい? なんで?


今の私には、仲のいいお父さんがいる。
笑って会話ができる、親友と呼べる存在がいる。
そして、新しくやってきた「妹」もいる。

それなのに、どうして淋しいなんて……


「――あっ」

ふと、仏壇の上にある、お母さんの写真に目がいった。

あぁ、そっか……
お母さんが、いないから。
お母さんに直接、こんなにたくさんの思い出を、話せないからだ。
だから、こんなにも虚しい。だから、こんなにも淋しい。


ポタッ ポタッ


「……あれっ……?」

そのとき私は、自分の手の甲に何か冷たいものが落ちているのに気づいた。
そしてそれが自分の涙だとわかるのに、大して時間はかからなかった。

「……あれっ……どうして……?」
拭っても拭っても、零れ落ちてくる涙。
理由はわかってる。わかってるから。
今頃淋しくなって、悲しくなってどうする。
いくら泣いたって、お母さんが帰ってくるわけないんだから。
落ち着け、落ち着け私。

自分に言い聞かせ、私は無理矢理、流れ出る涙を止めた。
鼻水をすすって、一度深呼吸。
……よし、落ち着いた、と思う。

「……お母さん、私を産んでくれて、ありがとう」

私は今まで言い忘れていた感謝の言葉をお母さんに向かって述べた。
そして仏壇から離れて、静かに部屋を出て、自分の部屋に戻っていった。

部屋に戻っても、今日はネトゲの続きをする気もなくて、
私はそのままベッドに移動して、眠りにつくことにした。



私は夢の中で、夕食の席で家族団欒のひと時を過ごしていた。

「……てなことがあってね」

私が学校であったことを話して、

「ほほぅ。その娘、俺ん家に来てくれないかな」

左向かいのお父さんが、なにやらいかがわしいことを言って、

「そうですね。あ、でも、いきなり見ず知らずの人を誘ったら、
その人にはかえって迷惑じゃあ……」

左隣のゆーちゃんがその真意に気づかずに、まともな心配をする。

みんな楽しく笑っていて、空気はとても和やかで。

「……もう、そう君ったら……」

その中で、私の向かい側にいて、お父さんの発言の真意に気づいて、
苦笑い気味に、でも楽しそうにそう呟くその女の人は――



「……夢……?」
気がつくと、私はベッドの中に、横向きになって寝ていた。
起き上がって枕に手を乗せてみると、そこは何かで濡れているのか、
冷たく湿っているように感じた。頬も少し冷たい感じがする。

部屋の鏡で自分の顔を見てみると、目は少し赤く腫れ上がっていた。
寝てる間にまた泣いちゃったのかなぁ?

……みっともないなぁ、私……

そう思って、ふとパソコンのほうに視線を移してみた。

すると、
「……あれっ?」
キーボードの上に、何かが乗っているのを発見した。
よく見ると、それは青色のお守りみたいで、何のお守りかは書いていなかった。

誰かのバースデープレゼントかなと思って、
朝食の時間にゆーちゃんとお父さんに聞いてみたけど、
二人ともお守りは買ってないっていった。

じゃあこれは誰が……と考えていると、一人の人物が浮かび上がって。
その瞬間、ゾクッという寒気が全身を襲った。
……心配だからって、天国からのプレゼントって言うのはやめてほしかったなぁ。怖いから。
私は制服に着替えながら、少し苦笑いをした。

寒くはなったけど、それは一瞬だけ。
次の瞬間には、心の中は暖かさに満ちていた。

私はそのお守りを鞄につけて、軽やかな気持ちで、ゆーちゃんと一緒に玄関を出る。

「「いってきまーす!」」
2人仲良く同時に言って、私はふと足を止め、もう一度玄関のほうを振り返る。

「……お母さん?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
すでにあるか始めていたゆーちゃんが、不思議そうに私の後ろから問いかける。

「……ううん、なんでもない」
私は何事もなかったかのように、ゆーちゃんと一緒に歩き出す。


まるでお母さんが空から見守っているような。
そんな不思議な不思議な出来事が起きた、18回目の記念日の朝――








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  • 目から汗が…GJです!! -- 名無しさん (2009-06-01 22:20:27)
  • すいません、この話の中での文化祭とは、アニメ最終回の文化祭ではなく、
    原作1巻か2巻の、こなたたちが2年生のときの文化祭のことです。
    「つかさや先生と~」のところで区別したつもりでしたが……すいませんでした。
    -- 戸別響 (2009-06-01 08:25:24)
  • 良いお話だなぁと。

    無粋なことですけど、18回目の誕生日で文化祭のことを報告するには19回目じゃないと辻褄が合わないのでは?
    (良い話だからこそきちんとしてほしかったというか…まぁ無粋でしたね) -- 名無しさん (2009-05-31 09:56:27)
  • お母さんはいなくてもちゃんと見守ってくれてるんですね
    (ウルウル) -- 名無しさん (2009-05-28 17:34:53)

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