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弟である前に

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匿名ユーザー

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 あいつとの出会いは、良い印象、とは言えなかった。

 ある日、つかさが家で「新しい友達ができた」と嬉しそうに話すものだから、私もそいつに興味が湧いた。
 つかさから聞くには、その友達とやらと知り合った経緯は外人に話しかけられて困っていたつかさを、そいつが暴力的な介入で助けたんだとか。
 それって助けたって言えるのかと思ったけれど、まあつかさが今嬉しそうなんでその辺は突っ込まないことにした。
 そして「お姉ちゃんにも紹介するね」と言われて、早速次の日の放課後つかさにクラスを尋ねると。
「もしかして、つかさのお姉さん?」
「は?」
 不意に、見知らぬ男子に話しかけられた。
 その時まず思ったことは、なんだこいつ、いきなり。しかも人の妹を「つかさ」なんて親しげに。
 けれど内心そんなことを考えていたとはいえ、流石にそれを見知らぬ人に対して顔に出すわけにもいかない。
「……まぁ、そうだけど」
 なので無難に質問に一言肯定の意を表す――と。
「やっぱり! 似てるからそうかなーと思ったんだよねえ。でも似てないとこもあるかな、お姉さんは……んー……」
 若干オーバーな動作つきで頷いたと思ったら、今度は顎に手を宛がって考えこんでしまった。
 その間に、その男子の容姿を少しばかり観察させてもらう。
 男にしては低めの背丈、大きな翠の目。そして妙に艶やかな青い髪と――何よりも目を引く、頭から飛び出ている……これは……アホ毛?
 ともかく、全体的に女っぽい印象を受ける外見。いや……女というよりは、子供か。
 ちょっと落ち着きのないところもまた、それを際立たせている。
 そんな風に私まで考え込んでいると、そいつはぱっと顔を上げて。
「ツンデレだっ!!」
 ……なんのこっちゃ。
 いや、ツンデレという単語自体はどこかで聞いたことはある。確か普段はツンツンしてるのに二人っきりになったらデレるキャラのことで……って今これはどうでもいい!
 突然のことに何も言えずにいる私に構わず、目の前のそいつは爛々と目を輝かせながら語り続けている。
「その気が強そうなツリ目に、ツインテール、おまけに気の弱い双子の姉! くはー、完璧だよお姉さん!」
「いや、なんなんだよお前さっきから!」
 何が言いたいのかはよく解らなかったけれど、とにかく突っ込まないと負けな気がして思わず。
 するとそいつはきょとんと首を傾げた。……ホント、子供みたいな動作だ。
「えっと、つかさから聞いてない?」
「はぁ?」
 また出てきたつかさの名前。
 そんなことを言われても心当たりはない。
「って、なんであんたさっきから人の妹の名前を呼び捨てで――」
「あ、お姉ちゃーん、もう来てたんだ」
 と、ガラガラと教室の扉を開ける音と共に現れたのは当の本人であるつかさ。
「ちょっと、つかさ、こいつ誰なのよ! さっきからあんたのこと呼び捨てで」
「え、あれ、言ってなかったっけっ?」
「え」
 つかさは慌てたように机の間を駆け、その男子の横に立って一言二言交わしている。
 ちょっと待て私。今日ここへは何の目的で来た?
 確か、つかさの新しく出来た友達とやらに会うためで……って、まさか。
 軽く混乱中の私を尻目に、つかさは笑顔で、
「えと、紹介するね。新しく出来た友達の、泉こなたくん。こなくんだよ」
「よろしくね、ツンデレなつかさのお姉さんっ」

 ――ちょっと待て、男だとはお姉ちゃんひっとことも聞いてないぞ。

 そんなこんなで初対面の印象はあまりよくなかったけれど、それから行動を共にする中で、そんなのも段々忘れていった。
 一緒にいて疲れる(主に突っ込みで)けど、なんだかんだで楽しいし。
 そのうちメンバーにみゆきも加わって、四人で行動するようになった。
 女子三人に男子一人、なんて特殊な構成ではあったけど……(こなた曰くハーレム、だとか。アホか)
 まあ、とにかくあいつと一緒にいるのは楽しかった。
 女子だからってあいつは私達に変に気を使うこともないし、それは私達も同じで。
 お互いの家にも遊びに行ったりもした。何気に初めて男子の部屋に入ったり、逆に部屋に入られたり。
 でも、この関係。自分でも珍しい関係だなと思うときがある。
 普通男女が集まれば、そこには恋愛とかそんな甘酸っぱいものがついてまわるって言うのに。
 少なくとも私にとってこなたは――……

「……私にとっての、あいつ……かあ」
 そして、とある日の放課後。時刻は夕暮れ、教室内は赤く染まっている。そんな中。
 私は一人学校に残って、教室でぼんやりとしていた。
 何故なら、ちょっと考えたいことがあったから。誰も居ない放課後の教室で、一人思い悩む少女……うん、青春じゃない。
 いや、そんなことのためにここを場所に選んだわけではない。まあ、どうしてと聞かれたらなんとなく、としか答えることは出来ないんだけど。
 いつもの四人組で帰ろうとしていた中、こなたに「今日はちょっと図書室に用があるから」なんて言って、ここに来た。
 そしていつも一緒にいつ面々について思考を巡らす中、よく解らないことが一つ。
 それが先程私が呟いたことだった。
「あいつ、ねぇ……」
 心に思い描いて、あいつについて考える。
 泉こなた。男子だけど背は低くて、インドア派でオタク、そのくせ運動神経はよくて。
 男のくせに綺麗な青の髪で、アホ毛があって。翠の瞳は綺麗だけど、常に半目でもったいない。
 ふと、思う。……結構あいつは容姿が整っているんだなと。
 運動神経もいいんだし、実はもててたりとかするんじゃないだろうか。好きな奴だって……
 ――と、そこまで考えて不意に走った胸の痛みに我に返る。
「違う違う、そんなんじゃなくて……」
 よく寝坊して朝の待ち合わせには遅れてくるし、いっつも昼ごはんはパン一個だし。宿題見せてってよく頼んでくるし、まるで。
「弟……みたいなもんなのかな」
 声に出してみて、そのフレーズが結構的を射ているような気がしてきた。
 そうよね、あいつ小さいし。男のくせに私と同じくらいだし。
 うん、そうだ。弟みたいなもんだ。そうに違いない。
 そう結論が出そうだったところで――
「かがみー?」
「うっひゃあっ!?」
 静かだった教室に響く扉を開ける音。そして私を呼ぶ声。
 ぼんやりとしていた私は思わずそれにビックリして、変な声を上げてしまった。
「……何してんの、かがみ?」
「え、あ、いや、な、なんでもないわよっ!?」
 入ってきたのはさっきまで心に描いていた人物。こなただった。
 それにしてもなんてタイミングで来るかな……って、あれ?
「こなた、何でここに?」
「……それは、こっちの台詞だよ。図書館に用事、って言ってたのに、いないんだもん」
「いや、それは……あれ、こなた、もしかしてわざわざ迎えに来てくれた、の?」
 こなたの言葉は、まるで私を探していたかのような言い方だ。てっきりあのままつかさ達と一緒に帰ったのだと思っていたのだけど、迎えに来てくれたのだろうか。
 ……なんだろう、そう考えると、何故かすごく嬉しいと感じてる自分がいる、ような。
「そだよー、かがみんが寂しがってないかなーと思って」
 にやりと笑って返された言葉に、思わず反論しかける。いつものやり取り。
 でも、違っていた。
「それに、かがみの様子が変だったから」
 私の反論の言葉が出る前に、急にトーンの落ちたこなたの言葉。

「……え?」
「かがみ、何かあった?」
 言いながら教室の入り口から段々私の方へと近づいてくるこなた。その雰囲気が、上手く言えないけれど、なんだか。
(いつもと、違う)
 普段の漂々としたこなたじゃない。
 具体的にどこが違うのかと聞かれたら答えられないけれど、なんとなく、としか言えないけれど。
「べ、別に何もないわよ。それより、もう結構遅いし、早く帰りましょ」
 とにかくいつもの雰囲気に戻そうと、私は何でもない風に装った。そして早く帰ろうと席を立った――刹那。
 いつの間にか横まで来ていたこなたに肩を掴まれ。
「っ!?」
 そのまま壁に、押さえつけられた。
「っちょ、な、なにすんの――」
「かがみ」
 いきなりのこなたの行動に異論を唱えようとする、が。こなたの声の止められる。
 なんだろう、いつもだったら気にせずガーッと食ってかかるのに。今は、そうすることが出来なかった。
「本当に、何も、なかったの?」
 落ち着いているかのような、こなたの声。でもどこか焦燥が込められているような気もして。
「……本当よ。何もないわよ」
 それを落ち着かせるかのように、静かに答えた。
 暫しの沈黙。
 解ってくれたのだろうか。なら、早く肩に置いている手を離して欲しい。
 なんだかこの体勢は、心臓に、悪い、ような。
 けれどこなたはその手を離すことなく、その状態のまま、逡巡の後、口を開いた。
「ねえ、かがみ。ボクのこと、どう思ってる?」
「え」
 先程まで考えていたことを尋ねられる。まさかこいつ、心を読んで――ってそんなわけないか。
 そのこなたの質問には、すぐに答えられるはずだった。さっき、「弟」って答えが出てたはずだった。
 なのに――それが私の口から出てきてくれない。
 口だけじゃない、身体も思う通りに動かない。それはこなたに壁に押し付けられているからでもあったけど、それ以上に、なんというか、動こうという意志が抜け落ちたとでも言うべきか。
「……『弟』って、思ってる?」
「っそ、そうそう!」
 暫く間を置いた後のこなたの一言に正気を取り戻して、慌てて言葉を紡ぐ。
 なんか、まるでこなたに助け舟を出されたような、変に悔しい気分。でもそんなこと考えてる余裕はあんまりなくって。
「あんたはよく寝坊するし、宿題はしないし、ホント手のかかる弟みたいで――」
 また沈黙が訪れるのが怖くて、こなたと目を合わせないようにしながら喋る。止まらない。
 なんで沈黙なんかを恐れてるんだろう、私は。
 だって、放課後の教室で二人きりで、向かい合ったままの沈黙だなんて、まるで。
 そう、まるで。
「かがみ」
 こなたの、声。
 私の名前を一言呼んだだけだった。でも、それで私は喋るのを止めてしまった。
「かがみ」
 もう一度。次のそれには、何処か逆らえない力が込められているように感じた。
 恐る恐る正面へと目を向ける。
 案の定、私を真っ直ぐな瞳で見詰めているこなたと、目が合った。
「かがみ、知ってる?」
 そのままの状態で再度の呼びかけ。けれど今度は疑問系で。何を聞きたいのか解らない、否――解りたくない?
 こなたが何かを言おうと口を開く。待って、聞きたくない。まだ――

 けれど時間も、こなたも待ってなんてくれなかった。

「『弟』だって、『男』なんだよ」

 そして――サイは、投げられた。

「な、なに言って」
「だから、ボクは、男で」
 それでも抗おうとする私は、なんて卑怯者なんだろうか。それでも言わずにはいられなかった、けど、こなたは……目の前の「男」は許してはくれない。
 さっきからずっと行き場を無くした私の手を、こなたの私のよりも一回り大きな手が掴んで、こなたの胸に押し付ける。
 そこは、当たり前だけど柔らかい胸の感触があるわけもなく。薄いけれど、確かな胸板があった。
 そして感じる、大きな鼓動。
「かがみは」
 手が、強く握られる。
 大きな手。私のそれはこなたのに比べて、こなたのに包まれてしまう程に、小さい。
「女、なんだよ」
 そんなこと、知っていた。
 ――でも、解ってなかった。
 今、私の目の前にいるのは、強い眼差しで私だけを見つめているのは。
 すごく手のかかる、でも憎めない。ちっちゃくて運動神経はよくって、でもオタクな、泉こなた。けれども、弟みたいな奴じゃ決してない。
 一人の、男だ。
「……だから」
 更にこなたは言葉を続けようとした。
 その続きが何なのか。私にはなんとなくだけど、解ってしまった。解ってしまったから――
 ――聞きたくないっ!
「ゃ……っ!!」
「っ!」
 こなたをどんっ、と押し飛ばして、私は走った。鞄がまだ机の横に置いたままだったけれど、そんなのに構う余裕もなくて。
 誰もいない廊下を、全速力で走りぬける。

 怖かった。
 あのこなたは、私の知らないこなたのようで。
 怖かった。
 こなたが私に向けた、感情の正体が。

 でも、何よりも怖かったのは。

 あの瞬間、すぐ側に在った彼の温もりを、言葉を。もっと欲しいと願った、私自身。


 急な自分の存在に驚いて、戸惑って。
 私はひたすら、自分が何処に向かっているのかも解らずに、走り続けた。





「エロゲとかだと、あのままイベントシーン突入、なんだけどな……」
 一人残された教室で、こなたは呟く。
 やってしまった、と思った。ずっと我慢しようと、友達の距離のままでいようと思っていたのに。
「やっぱり、現実はそう上手くは、いかないよね」

 こなたの言葉は誰にも聞かれることなく、夕暮れの教室の中に溶けていった。




















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コメント:
  • もしこなたが男で、原作と同じ様な関係を築いていたらこういう展開になっていたのではないか?
    というのがうまく描かれていてとても面白かったです。
    続編期待しています。 -- 名無しさん (2008-10-13 00:15:16)
  • 続編は? -- ホップ・ステップ雲のうえで (2008-03-12 19:35:20)

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