kairakunoza @ ウィキ

始まり

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匿名ユーザー

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「みみ、み、ミラクルみっくるんるん~♪」
夏休みに入ってからというものの、つかさが台所に立つ頻度は上がり、お母さんにも負けず劣らないおいしい料理を御馳走してくれる。
今日も楽しそうに歌いながら、料理に熱中してるつかさの背を、私は手に頬をついて眺めてるだけなのは言うまでもない。
私だって手伝いくらいはしたいとは思う。
でも、足を引っ張って調理時間を無駄にくうのだけなら、こうしてるほうがよほど効率的で。

しかも、今の“私”の姿だと尚更邪魔になるのは解りきっていた。
…身体の大きさの意味で。

── しっかし、何も吃りまで再現して歌わなくていいと思うのは私だけか…?
丁寧に伴奏まで鼻で歌ってるし。
それ以前に、アニソンを選曲してるのもどうなのかと、喉元まで出掛かっていた突っ込みを押し止めた。
ここまで楽しそうに料理してると、水を差すのは悪い気がしたし。
私も私で、つかさの歌ってる曲がアニメの歌だとわかった時点で人の事は言えない。
自分がそうであるように、双子の妹のつかさも、ヲタク少女で親友のこなたの影響を良くも悪くも受けているんだなぁと、シンパシーを感じつつ、余した暇を勉強にでも当てようかと席を立つ。

…すっかり短くなった髪の毛を掻きながら。

そして、つかさが口ずさんでいる歌がBメロに入った頃だった。
「涙を拭いて~♪ 走りだっした、あぅ!!」
突如入ったアドリブと共に、ガシャンと何かを落とす音がした。
台所を出ようとしていた身体を音源へ向けると、楽しそうに歌ってたつかさの背が丸まっていて、足下にはお玉が転がっていた。
「つかさ!?」
心配になって駆け寄ると、つかさは左手を右手で押さえ、顔を歪めてた。
しかし、私が近づいてきた事に気づいたのか、辛いながらもすぐに笑顔を見せるのはつかさらしい。
「あ、あはは、やっちゃった」
そう言いながら、困った笑顔を浮かべてるつかさの左人差し指は赤くなっていて、『やっちゃった』の意味と状況がすぐに理解できた。

「ちょっとあんた、火傷してるじゃないの!」
「え、あ、あ、あの、お姉ちゃん!?」

蛇口を大きく捻って水を勢いよく出し、つかさの左手首を掴んで、赤くなった部分を水にさらす。

「まったく、楽しいのはわかるけど、気をつけないとだめよ?」
「う、うん…」

応急処置を怠るのもつかさらしいが、出来る事なら応急処置が必要になるようなこと自体を避けて欲しいと、姉としては思うわけで。
何か事を起こす度にこうして釘を刺してるのに。
こなた風に言えば“ドジっ子属性”を持つ、つかさには中々効果が表れない。
というか、17年間言い続けてるし、この分だとこの先もずっと言い続けそうな気がする。
── まぁ私の世話焼きな性格も、つかさありきなんだろうとは思うけどね。
つかさの手首を掴んだまま、そんな事を考えてたら、頬辺りに強い視線を感じた。
ハッとしてその視線に目を向けると、案の定つかさが私を見ていて。
「お姉ちゃん…」と、上気した顔でそう言った。
── やばっ…。
目視した途端、自分の手にも触覚が戻ってきた。
つかさの、“女の子特有”の肌の柔らかさが脳に伝わってきて、自覚できるくらい頬に熱くなっていく。
「ご、ごめん…つかさ!」
急いでつかさの手首を離して、顔ごと熱い視線から逃げる。

私自身、妹に対してそっちの気、アブノーマルな感情があるわけじゃない。
いつもの“私”が同じ行動を起こしてたら、私もつかさもこんな風にはならなかった。
でも、こうしてお互い赤面したりしてしまう原因は私に間違いなくある。

私が…私の“身体”が“異常”なのをすっかり失念していたからだ。

赤面した部分が落ち着いたのを見計らって、もう一度つかさへ向き直る。
つい数日前まで同じくらいだった身長は、今では私の方が頭一個分くらい高く。
下を向かなければ、つかさを見れないことを忘れてて少し焦ってしまった。
「つ、つかさ、頼むから、その反応やめてくれ…私も、その…反応に困るから…」
「ふぇ?あ、あぅ、ご、ごめん、お姉ちゃん!」
半音上がった私の指摘に、我に返る妹。
でも、つかさの反応はある意味、正常ではある。
元々身近な男性はお父さんしかいなくて、免疫がないのも確かにあるけど。
実の、しかも双子の姉が急激なこんな変化を経たら誰だってそうもなると思う。
…張本人の私でもこの“身体”には難儀してるしね。

── しかし、慣れないなぁ、この“身体”…。

私が指すこの“身体”は。
おおよそ175cmの身長。
色は同じでも、とてもツインテールなんか出来ない、すっかり短くなった髪。
堅い胸板に、筋肉が適度についた体格。
そして、本来ならついていないはずの“モノ”がついてる下半身…。

そう、数日前まで生物学上“女”そのものだった私の身体は。

…“男”になっていた。

気まぐれな神様のせいで ──


【気まぐれで、いたずらな神様- 柊かがみの受難/始まり】


数日前、こなたがうちに遊びにきた日。
つかさも交えて、居間でゲームをしてたときのことだ。

「えいっ!あ、そういえばさ、昨日から生理きちゃってさー」
「むむっ!ってまた、突飛的な。しかし、あんた生理きてたの」
「…かがみん、さり気にひどいこと言ってない?」
「お、お姉ちゃんそれはさすがに酷いよ」

女同士であれば生々しいこういった会話はよくするから、私も冗談混じりで対応した。
ちなみに、格闘ゲームの片手間にこんな会話してたこともあり、所々気合いを入れてる声が入ってるのは一切気にしないで欲しい。
…気合いを入れたところで、こなたに格闘ゲームで勝てるわけもなく、ここで勝敗はついてたんだけど。
こなたは「やたー」と勝利の余韻に浸りながらも、会話を続けた。

「別に重くもなんともないから、どうでもいいっちゃいいんだけど。
でも、なんだかんだ面倒くさいじゃん?」
「面倒くさいよねー…私は結構重いから、気分も沈むし、いい事なにもないなぁ」
「そこで共感するか、つかさ。まぁ、私も重い方だし、面倒だと思うけど、あと40年は確実に向き合っていくものなんだし、仕方のないことじゃない」
「むぅ、そう言われたら根も葉もないんだけどネ、かがみさん」

否定的な意見を口では言っていても、自分もそろそろ近いなぁなんて考えていて、
こなたはこなたで会話に集中することを選んだのか、すでにコントローラーを置いていた。
それは、この女の子事情の談義に続きがある事を意味していて、猫口笑顔をしてる辺り、また変な事を言い出すに違いないと予感させる。

「今回に限り、私もちょっち重くてさ。とある事を真面目に考えちゃったよ」
「何を?」
「都合のいい時だけ、男になりたいって」
「……はぁ?」

私の予感はまんまと的中した。予め答えを用意しといた分、即答に近かった私の返答に、こなたはより一層、にへらぁと笑った。
…たまに、こいつは意外とマゾなんじゃないかと思うときがある。

まぁそれはそうと。
── もしこなたやつかさが男の子だったらどんな感じなのかしら?
質問の意図を汲む前に、私の思考はこんな風に別へ回っていた。
つかさはあんまり変わらなそうだ。元々つかさはお父さん似のせいか、顔つきが優しい。簡単に言うと優男っぽい、そんな感じは絶対抜けないと思う。
── 嫌いじゃない…けど、好みじゃないわね。
では、こなたはどうなるだろうか。
今よりはもうちょっと身長が大きくて、父親の血筋が濃ければ、喋らなければ男前。
でも、母親の血筋であっても、優しい感じがあって意外とイケメンかもしれない。

「思った事ない? 何かをきっかけに男になりたいっておもった事」
「ん~、そうだなぁ。私はないかな」
「まぁつかさはそうだよネ。かがみは?」

会話は聞こえてた。けど、向けれてるこなたの猫口笑顔に、別の事を当てはめてた私はすぐに反応できずにいた。
── …うん、好みのタイプかも。…って何を考えてるんだ私は!
頭を大きく振りかぶって、邪な思考を振り払ってるところ、ようやくこなたの声が耳に届き、意味を理解するまでに至った。

「おーい、かがみー?」
「へぇ!?」

呼ばれていた。
── 何聞かれてたんだっけ?
振り払ったのは邪な思考だけでなく、これまでの話の流れまで跳んでいた。
キョトンとした私の様子に、こなたは今まで以上に嫌らしい笑顔を浮かべて。
これは、からかわれる前兆なのは言うまでもない。

「あれ、あれ~? なんで顔が赤いのかな?かな? 何考えてたの、かがみん♪」
「に、2回いうなぁ!な、なんでもないわよ!」

まさか、男版こなたやつかさを思い浮かべて、好みかどうか考えてました、とは言えるはずもなかった。
その後、『男になりたいと思った事があるかどうか?』の質問を改めてされ、『そもそも現実じゃあり得ない』と有耶無耶に返してその会話は終わりを告げた。


…今思えば、きっとこの会話がすべての発端だと思う。



その日の夕方、こなたが帰った後に私は机に向かっていた。
当然、夏休みの宿題をする為であって、他意はまったくもってない。
ちょっとだけ、男版こなたの妄想の続きをしてたなんてことは、断じてないはずだ。
そんなこんなで、2時間程机と向き合った所で、私の身体に異変が起こった。

下半身へ走る小さな痛みと微妙な重み。そして、急激な眠気。
それは間違いなく、生理前の兆しで。
個人差はあるが、私の場合は大体その2つが同時にきた翌日あたりに生理になることが多く、眠気の度合いによっては、ずれが生じる事もある。
眠気の度合いは最強レベルで、もしかしたら夜くらいにはくるかもしれないと内々では思った。
躙りよる睡魔に耐えながらも、携帯の時計を確認すると、デジタル時計は18時丁度を指している。
もうすぐ夕飯できるかなぁ、と考えてから、今日のノルマ9割を終えたノートの上にシャーペンを放り投げ、机に突っ伏して目を閉じた。
── ああ、また憂鬱な1週間が始まるんだなぁ。
こなたとの会話を思い出す。
『現実じゃあり得ない』と言ったものの、実際確実にくる憂鬱な日々を想像すると、自然と気分は沈んでいき、あり得もしないことを考えてしまうかもしれない。
むしろ、現在進行形で考えてる自分がいた。

── 男になりたい、か。なれるなら、生理の間だけでもなってみたいかも。

その思考の余韻はしばらく残りながらも、意識は深淵へと吸い込まれていった。












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