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IFから始まるStory 第2章【本当の気持ち】

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kairakunoza

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 長袖では多少汗ばむような陽気の中、私とつかさとみゆきはTDL入口ゲートで
本日の主役である泉こなたを待っていた。

約束の時間が刻一刻と迫っており、こなたは来ないのかなと諦めかけた時
人混みの中から見覚えのある青いロングヘアーの女の子が私達に近づいて来るのが見えて
とりあえず役者が揃った事に胸を撫で下ろす。

「おまたせ~、かがみにつかさにみゆきさん」
「おはよう、こなちゃん」
「おはようございます、泉さん」
「おはよ。それにしても良く起きれたわね」
軽く憎まれ口を叩くのも定例の挨拶みたいなもので
こなたは全く気にする素振りも悪びれる素振りも見せずに『早く行こうよ』と言いながら
一番遅く来た人が一番先頭で張り切っている。
そんなこなたに引き連れられ、入口ゲートを通り過ぎて着いた場所は
待ち時間120分と書かれたプラカードの後ろに並んでいた。

「ねえ、こなちゃん。この列って何のアトラクション?」
「ん~と、ビッグサン○ー・マウンテンとかいうやつ」
「へ~、面白そうだね」
面白そうとか言っているけど、それって絶叫系のアトラクションよ。
こなたは、つかさがそういう乗り物が苦手なのを知っているわけ・・・無いわよね。
無邪気につかさと話している様子を見た限りでは。

そして残り待ち時間60分と書かれたプラカードが見えた頃には
私は既にウンザリしており、つかさも『並んでいるだけで疲れたよ~』と弱音を吐いたり
忍耐力がありそうなみゆきの顔にも疲労感が漂っていたが
何故かこなたは朝のテンションを維持したままで私達に話しかけてくる。
「それにしても元気よね」
「はっはっは。私はこういった行列には慣れているのだよ」
「何で?」
「う~ん、言葉で説明するのは難しいから今度の夏に連れて行ってあげるよ」
さっきよりも数段楽しそうに語っているこなたを見ていると
ロクでも無い事を考えているのは明白で
「考えておくわ」
と軽くスルーしたつもりだったが、見事なまでにこなたの策略にハマり
夏の戦場に駆り出されてしまったのは、また別の話。


「あ、お姉ちゃん。次は私達だよ」
きっかり120分待たされた頃には既にお昼を過ぎており、
昼食は何を食べようかと考えていると、漸く私達の順番となった。
こなたとつかさが3列目のシートに腰掛け、私とみゆきはその後ろに陣取り
そして無人の廃坑をイメージしたウエスタンフィールドを疾走していく様は爽快だが
目の前のつかさが叫びっぱなしで、数分後には声すらあげていなかったのが気掛かりなのよね。

「面白かったね~」
「そうですね。あのスピード感が何とも言えませんね」
「確かに、割と楽しかったわよね」
乗り終わった後のつかさの表情は拷問を受けた後の無罪犯のような顔をしていて、
私達の会話に混ざろうとはせず遠くを見つめている我が妹を見ていると不憫に思えてくる。

その後は昼食を済ませ、こなたが選んだアトラクションの列に並んでは乗り、並んでは乗りの繰り返しだったが
スプラッシュ・○ウンテンやガジェットの○ーコースターといった選ぶもの全てが絶叫系アトラクションで
日没を迎える頃には、つかさは一歩も動けない程ぐったりとしていて
私達は備え付けのベンチで人の行き交う様子を眺めていた。

「つかさ~、大丈夫?」
「う~ん、駄目かも」
「そっか~、つかさって絶叫系が苦手だったんだね」
「最初に乗った時のつかさの反応を見れば分かるでしょ」
と無意識にツッコミを入れる私を余所にこなたは
「それじゃ、もう一つ行きますか」
と言いながら私の手を引張るこいつの体力には感心させられる。
「ちょっと待ちなさいよ。つかさがまだ無理でしょ」
「私の事は気にしないで、お姉ちゃん達で楽しんできて」
「私もつかささんと待ってますので」
「ほら~、行こうよかがみ~」
ベンチに座ったままのつかさ達を残し、こなたによって強引に連れてこられた場所は絶叫系では無く
逆に今の時間帯にはピッタリのロマンチックな時を提供してくれる船旅を楽しむ乗り物だった。


漆黒の闇に包まれるまで若干の猶予も感じさせない空の色は黒に近い紺色をしていて
その中に一点だけ映る蒸気船の眩い光は昼間の喧騒とは別世界を感じさせてくれる。

蒸気船の甲板でこなたと一緒に心地よい風に髪をなびかせていると、
さっきまで元気だったこなたはナリを潜め、今はただ黙って水面の水しぶきを眺めているだけだった。

「かがみ、今日はありがとう」
「え?」
こなたが不意にお礼など言ってくるから何の事だか分からず聞き返してしまった。
「私の為にTDLに行こうって言ってくれて」
「べ、別にあんたの為にやった訳じゃ無いわよ」
頬を赤く染めているであろう私に、曇りの無い笑顔を見せるこなたには何の迷いも感じさせず、
それが逆に私を不安にさせる。
何が不安なのか分からない。
分からないけど不安になってしまったのは事実で、
本能的にそれをこなたに悟られたくないと思っていた。

水面を見ていたこなたが、今度は星空を見返しながら私に呟きかけてくる。
「私ね・・・つかさに告白するよ」
「・・・そう」
こなたの言葉はとても淡白で私の返事はとても質素で、
告白を決心した雰囲気なんか微塵も感じさせず
そんな私達を乗せた蒸気船は船着き場へと到着した。

本日最後のアトラクションを終えてつかさ達と合流し、
幻想的にライトアップされた建物の脇を通りしながら出口ゲートに向かって歩いている途中、
こなたがつかさを呼び止めたのを合図に
私とみゆきは数メートルほど離れた場所で事の成り行きを見守る。
「なに、こなちゃん?」
「・・・わたし、つかさの事が好き」
「えっと、私もこなちゃんの事が好きだよ?」
つかさの返事に、無言で首を横に振るこなたを見ていると何だか切なくなってくる。
「私はつかさを一人の女性として好き」
「あの、でも私達は女の子同士だから・・・」
「それでも私はつかさの事が好き」
「・・・」



長い沈黙が永遠と思える時を刻み、私達の横を通り過ぎて行く家族連れやカップルの姿も疎らになった頃
つかさが自分の足元を見ながら言葉の一つ一つを確認するように話しかけてくる。
「ごめんね、こなちゃん・・・わたし、そういう気持ちって・・・良く分からないから」
下を向いている所為でつかさの表情は分からないが、足もとに1滴また1滴と
雨が降っている訳でも無いのに地面に出来た染みが、つかさの気持ちを物語っていた。
つかさの事だから、こなたの気持ちを自分の事のように感じてしまい
振った自分に対する憤りと、振られたこなたに対する悲愴で一杯になっている筈。
こんなにも相手の事を思いやるつかさだから、こなたは惹かれたのよね。

「そっか・・・」
こなたの乾いた返事が聞こえたのと同時に、出口ゲートとは逆方向に青髪の少女が走り抜けて行く。
「こなた!」
私はこなたの後を追ったが、体力でこなたに勝てる自信が無く、追い付けるか心配だったが
以外にも呆気無くこなたに追い付いてしまい、何だか拍子抜けしてしまった。


「ごめん、こなた。私がお節介な事しちゃって」
事の発端は、私がつかさの気持ちを考えずにこなたを嗾けるような事を言ったから、
だからこんな結果になってしまった。
もっと良く考えていれば分った筈なのに。

「謝らないでよ、かがみ」
「でも・・・」
「私は後悔なんかしてないよ。今はむしろ心が満たされているっていうか・・・嬉しいっていうか」
「え?」
ライトアップされた建物が間接照明の役割を果たしているようで
ぼんやりと照らされたこなたは年不相応に大人びて見えた。

「つかさやかがみやみゆきさんが、こんなにも私の事を考えてくれているんだと思うと嬉しくて
 私って幸せ者じゃんって思えてくるわけですよ」
「こなた・・・」

普段のこなたなら絶対に言わないような恥ずかしいセリフや
そんな事を言われると赤面してしまう私が、今は冷静に受け止めていたりと
日頃の私達には似合わない言動は、たぶんこのファンタジックな空間の所為だろう。


こうして私達の長くて短い1日が終わり
また平凡な日常を迎える事になる。
だけど、その日常は昨日までの日常とは違い
私達の関係も少しずつ変わっていく事になる。

そして幻想的な蒸気船の甲板でこなたを見て感じた正体不明の不安は消えること無く
私の中で禍々しくも渦巻き続けていた。













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