- 彼女は遷移状態で恋をする かがみSide(2)
「好きなわけないだろ」
そんな、十文字にも満たない言葉。
その文字を租借するたびに、喉の奥で詰まった玉子焼きがファイナルベントしだす気分。
おかげで飲み込むのが大変で、気分は下の下だよ。
カラオケで十八番のレミ○ロメンも上手くサビが伸びてくれないしな。
多分歌詞が気に食わないんだな、うん。
歌い終わった後に、次の曲を確認。
……うん、タイトルからにアニソンだな。
ったく、カラオケなんだからもっと俺達にも分かるやつを歌えばいいものを。
「おいこなた、次お前だぞ」
「あ、うん」
マイクを差し出す……っと、持つ方はこっちか。
「うお!」
ガシャンと無機質な音が外から漏れる音楽と混ざり、ざらつく不協和音。
手渡したはずのマイクが空に弾み、机に急直下したからだ。
おいおい、いつのまにお前はドジっ子属性がついたんだ? つかさやみゆきじゃあるまいし。
「ごめん、取り損なっちゃった」
それを拾うと、歌詞のでる画面に向かう。
ん? 何だか違和感。
今眼を逸らされなかったか?
「いいご身分ですね」
と、席に戻るとみゆきに睨まれた。
なんだ、こなたの隣りに座れなかったのはそんなに悔しいのか?
それともさっきの曲のサビでムセた所為か?
「どういう意味だよ、そりゃ」
「別に、なんでもありません」
ドシン、と音を立ててその不機嫌な顔の横に座る。
おい、狭いんだから詰めろよ!
「なんでもないこたないだろ、含んだ言い方しやがって」
「鈍感って、時に罪ですよねってことです」
「だから分かんねっつうの!」
「しっ、泉さんが歌うんだから黙っててください!」
ああもう、こいつ嫌い。
俺の向かいでもさっきまでつかさが俺を睨んでたし……ちなみに今は右に同じだ。
まぁ確かに、歌は上手いからなこなたは。
さっきの平野の新曲も良かったよ、って今度も平野か。
でも今日はなんかいつもより声が出てる気がする。
なんていうかそう、投げやりに歌ってるんだよな。
それを愉快に盛り上げる馬鹿二人……げに男とは情けなし。
しかしそんなに好きなのかね、その……こなたが。
イマイチ俺にはまだその可愛い云々の話が分からん。
だってほら見ろよ、歌う姿は雄々しいが如何せん身長がな。
良くて中学生、ヘタすりゃ小学生……犯罪レベル!
……。
まぁきっとそのおかげだろうな、俺達が仲良くやっていけてるのって。
隣りでこなたの歌声に呆けてるメガネがいつか言ってたんだよ。
こんな男女の関係は奇跡だとかなんとか。
確かに奇跡といえば聞こえはいい。
だけど要は、こなたに魅力がないって言ってるようなもんだろ?
……いや、あるんだっけ? 今それを議論してるわけか。
そうだそうだ、そこで問題が起きてるわけだ。
その奇跡から外れた……そこの馬鹿二人。
「おい馬鹿一号」
「なんですか? その馬鹿より成績の悪い脳みそ甘露煮君」
てめーに勝てるかっつの!
くそっ、一声かけるとすぐこれだ!
甘露煮は上手いんだぞ!
「お前は、こなたに告白する気はあるのか?」
こなたの歌声に紛れて、その言葉がようやく相手に届く。
ピクン、とメガネの奥の眉が動いたのは見逃さなかった。
「……ふぅん、ただの鈍感甘露煮じゃないみたいですね。こんな本人の居る所で言うあたりはめがっさKYですが」
甘露煮はもういいっつの!
いいんだよ、どうせ自分の歌声で聞こえてねーから! お前の席ねーから!
「確かに、君の危惧してるとおりです。私かつかさ君が告白すれば……今の関係は壊れてしまうでしょう」
俺達だって男。そしてこなたは……女、一応な。
その関係に気がつけば、確かにこの関係は終わる。
だってそうだろ? 断るにしても受け入れるにしても、あとの二人は除け者だ。
残念無念、俺達の友情も愛情の前では塵に等しかったってか?
「つかさ君も、それを心配していましたよ」
「あいつが?」
向かいの席でこなたの隣りという絶好の場所をゲットした所為もあってか、如何せん鼻の下が伸びてる弟に目をやる。
なんだそりゃ、俺は聞いてないぞ!
「まぁかがみ君は違うクラスですしね、ホームルームの後に相談されましたよ」
おいおい、まじかよ。
あのつかさがそこまで積極的だとは、お兄ちゃんびっくりだ。
ってゆーか普通恋敵に相談するか? 相談相手ってのはちゃんと考えような。誠○ね!
「俺はお前らを応援してやりたいところだが……そういう話だったお断りだぞ?」
俺は今のこの瞬間が楽しいんだ。
みんなとカラオケで馬鹿騒ぎして、遊びまわってさ。
それをぶち壊そうってんならラブコメ展開なんてお断りだね。
あれだほら、卒業式ぐらいにでも勝手にやってくれ。
「重々承知ですよ、私もつかさ君もね。所謂紳士協定というやつです」
じゃあなんだ、どっちもこなたには告白しないってか?
んだよ、俺の知らないところで色々話が進んでるな。
まぁつーか俺は今回蚊帳の外みたいなもんだからなぁ……。
おっと、そうこうしてるうちに曲が終わったか。
ぬおおっ、92点? 俺の粉雪の89点をあっさり抜きやがった!
いつも競るけど負けるんだよなぁ……い、いやまだ終わらんよ!
俺はここからがクライマックスだぜぇええ!!!
「そろそろ時間だってさ」
……とか意気込んだところで、部屋に備え付けの安っぽい電話をつかさがとった。
なんかそんなわけで、皮肉屋メガネの妙に低い地○の星で幕を閉じた。
お前好きだよな……その曲。
そうしてカラオケは終わった。
帰りになんか、こなたをどっちが送るとか揉め始めたから頭にきついのを据えてやった。
ったく、下心がみえみえだぞお前ら。
あわよくば部屋に上がりこもうって腹だろ!
まぁどうせこなたのおじさんに睨まれて退散することになるから一緒だよ。行くだけ無駄無駄。
あの人男には厳しいんだよなぁ……そんなに娘が大事かね。
俺なら送り狼にはならないから送ってやるか、とも思ったが馬鹿二人が鬱陶しそうだから進言するのもあほらしかった。
「さぁて、俺らも帰るか」
こなたも去ったところであとは男三人、むさ苦しいったらないな。
ん、なんだよお前ら。
何変な目で見てるんだ?
ああ、あれか。さっき殴ったのを怒ってるってか。
「かがみ君」
「お兄ちゃん」
ゆっくりと近づいてくる二人。
お、おーい二人とも、目が怖いデスヨ?
何をそんなに怒ることがあるんだ?
やっぱあれか? 貴重な送り狼のチャンスを失ったからってか?
いや、なんかもっと別の殺意めいたものを感じるが……。
「一発は、一発ですよ?」
「必殺……僕の必殺技」
ちょ、鈍器はらめええええ!
……。
フクロにされ遠ざかる意識の中で、別れ際のこなたの笑顔が不意に浮かんだ。
あれは、笑ってたんだよな? よく分かんないけど。
まぁ、俺が気にすることじゃない……か。
そんな、十文字にも満たない言葉。
その文字を租借するたびに、喉の奥で詰まった玉子焼きがファイナルベントしだす気分。
おかげで飲み込むのが大変で、気分は下の下だよ。
カラオケで十八番のレミ○ロメンも上手くサビが伸びてくれないしな。
多分歌詞が気に食わないんだな、うん。
歌い終わった後に、次の曲を確認。
……うん、タイトルからにアニソンだな。
ったく、カラオケなんだからもっと俺達にも分かるやつを歌えばいいものを。
「おいこなた、次お前だぞ」
「あ、うん」
マイクを差し出す……っと、持つ方はこっちか。
「うお!」
ガシャンと無機質な音が外から漏れる音楽と混ざり、ざらつく不協和音。
手渡したはずのマイクが空に弾み、机に急直下したからだ。
おいおい、いつのまにお前はドジっ子属性がついたんだ? つかさやみゆきじゃあるまいし。
「ごめん、取り損なっちゃった」
それを拾うと、歌詞のでる画面に向かう。
ん? 何だか違和感。
今眼を逸らされなかったか?
「いいご身分ですね」
と、席に戻るとみゆきに睨まれた。
なんだ、こなたの隣りに座れなかったのはそんなに悔しいのか?
それともさっきの曲のサビでムセた所為か?
「どういう意味だよ、そりゃ」
「別に、なんでもありません」
ドシン、と音を立ててその不機嫌な顔の横に座る。
おい、狭いんだから詰めろよ!
「なんでもないこたないだろ、含んだ言い方しやがって」
「鈍感って、時に罪ですよねってことです」
「だから分かんねっつうの!」
「しっ、泉さんが歌うんだから黙っててください!」
ああもう、こいつ嫌い。
俺の向かいでもさっきまでつかさが俺を睨んでたし……ちなみに今は右に同じだ。
まぁ確かに、歌は上手いからなこなたは。
さっきの平野の新曲も良かったよ、って今度も平野か。
でも今日はなんかいつもより声が出てる気がする。
なんていうかそう、投げやりに歌ってるんだよな。
それを愉快に盛り上げる馬鹿二人……げに男とは情けなし。
しかしそんなに好きなのかね、その……こなたが。
イマイチ俺にはまだその可愛い云々の話が分からん。
だってほら見ろよ、歌う姿は雄々しいが如何せん身長がな。
良くて中学生、ヘタすりゃ小学生……犯罪レベル!
……。
まぁきっとそのおかげだろうな、俺達が仲良くやっていけてるのって。
隣りでこなたの歌声に呆けてるメガネがいつか言ってたんだよ。
こんな男女の関係は奇跡だとかなんとか。
確かに奇跡といえば聞こえはいい。
だけど要は、こなたに魅力がないって言ってるようなもんだろ?
……いや、あるんだっけ? 今それを議論してるわけか。
そうだそうだ、そこで問題が起きてるわけだ。
その奇跡から外れた……そこの馬鹿二人。
「おい馬鹿一号」
「なんですか? その馬鹿より成績の悪い脳みそ甘露煮君」
てめーに勝てるかっつの!
くそっ、一声かけるとすぐこれだ!
甘露煮は上手いんだぞ!
「お前は、こなたに告白する気はあるのか?」
こなたの歌声に紛れて、その言葉がようやく相手に届く。
ピクン、とメガネの奥の眉が動いたのは見逃さなかった。
「……ふぅん、ただの鈍感甘露煮じゃないみたいですね。こんな本人の居る所で言うあたりはめがっさKYですが」
甘露煮はもういいっつの!
いいんだよ、どうせ自分の歌声で聞こえてねーから! お前の席ねーから!
「確かに、君の危惧してるとおりです。私かつかさ君が告白すれば……今の関係は壊れてしまうでしょう」
俺達だって男。そしてこなたは……女、一応な。
その関係に気がつけば、確かにこの関係は終わる。
だってそうだろ? 断るにしても受け入れるにしても、あとの二人は除け者だ。
残念無念、俺達の友情も愛情の前では塵に等しかったってか?
「つかさ君も、それを心配していましたよ」
「あいつが?」
向かいの席でこなたの隣りという絶好の場所をゲットした所為もあってか、如何せん鼻の下が伸びてる弟に目をやる。
なんだそりゃ、俺は聞いてないぞ!
「まぁかがみ君は違うクラスですしね、ホームルームの後に相談されましたよ」
おいおい、まじかよ。
あのつかさがそこまで積極的だとは、お兄ちゃんびっくりだ。
ってゆーか普通恋敵に相談するか? 相談相手ってのはちゃんと考えような。誠○ね!
「俺はお前らを応援してやりたいところだが……そういう話だったお断りだぞ?」
俺は今のこの瞬間が楽しいんだ。
みんなとカラオケで馬鹿騒ぎして、遊びまわってさ。
それをぶち壊そうってんならラブコメ展開なんてお断りだね。
あれだほら、卒業式ぐらいにでも勝手にやってくれ。
「重々承知ですよ、私もつかさ君もね。所謂紳士協定というやつです」
じゃあなんだ、どっちもこなたには告白しないってか?
んだよ、俺の知らないところで色々話が進んでるな。
まぁつーか俺は今回蚊帳の外みたいなもんだからなぁ……。
おっと、そうこうしてるうちに曲が終わったか。
ぬおおっ、92点? 俺の粉雪の89点をあっさり抜きやがった!
いつも競るけど負けるんだよなぁ……い、いやまだ終わらんよ!
俺はここからがクライマックスだぜぇええ!!!
「そろそろ時間だってさ」
……とか意気込んだところで、部屋に備え付けの安っぽい電話をつかさがとった。
なんかそんなわけで、皮肉屋メガネの妙に低い地○の星で幕を閉じた。
お前好きだよな……その曲。
そうしてカラオケは終わった。
帰りになんか、こなたをどっちが送るとか揉め始めたから頭にきついのを据えてやった。
ったく、下心がみえみえだぞお前ら。
あわよくば部屋に上がりこもうって腹だろ!
まぁどうせこなたのおじさんに睨まれて退散することになるから一緒だよ。行くだけ無駄無駄。
あの人男には厳しいんだよなぁ……そんなに娘が大事かね。
俺なら送り狼にはならないから送ってやるか、とも思ったが馬鹿二人が鬱陶しそうだから進言するのもあほらしかった。
「さぁて、俺らも帰るか」
こなたも去ったところであとは男三人、むさ苦しいったらないな。
ん、なんだよお前ら。
何変な目で見てるんだ?
ああ、あれか。さっき殴ったのを怒ってるってか。
「かがみ君」
「お兄ちゃん」
ゆっくりと近づいてくる二人。
お、おーい二人とも、目が怖いデスヨ?
何をそんなに怒ることがあるんだ?
やっぱあれか? 貴重な送り狼のチャンスを失ったからってか?
いや、なんかもっと別の殺意めいたものを感じるが……。
「一発は、一発ですよ?」
「必殺……僕の必殺技」
ちょ、鈍器はらめええええ!
……。
フクロにされ遠ざかる意識の中で、別れ際のこなたの笑顔が不意に浮かんだ。
あれは、笑ってたんだよな? よく分かんないけど。
まぁ、俺が気にすることじゃない……か。