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つかさとみゆき2

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kairakunoza

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☆第三幕☆


 二人の間を流れる穏やかで静かな時間。
 木製の洋風ちゃぶ台を挟んだ向こうではつかさが熱心に教科書に向かっている。
 みゆきは彼女を見ていると、可愛い妹を愛でる幸せというものはきっとこのような幸せだろうなと思う。そう思うと少しかがみを羨ましく思ってしまう。
 ……でも、そろそろ休憩ですね。
 彼女自身は気付いていないけれど、教科書の問題をそのまま書き写したりで進みが遅くなってきていた。
「つかささん……もうそろそろおやつにしませんか……?」
 むっくりと顔を上げる。
「……はぅ?」
 書き写し作業に熱中していたつかさは寝ぼけたような声が漏れた。
 みゆきが落ち着いた微笑みでペースを合わせてくれるので、つかさも気持ち良く笑顔になれる。
「うん!」
「難しくないですか?」
「あはは……、やっぱりまだ慣れてないかな」
 仕上げにやっている発展問題。基礎的な事はそれなりに自身があるけれど、混ざり込んで現実的なワンシーンになって現れると世の中を見せつけられたように風当たりが悪くなる。
 ばっちり解いて見せたいのに……。
 テスト期間中はお互いに家でやることに決めたので、今日で二人の勉強会はその目的を達せられる事になっている。
「大丈夫ですよ。本番は基礎が沢山出ますから」
 基礎は完璧。
「わ、私基礎だったらもう心配無いって、実感してるよ!」
「そうですね、私もそう思います」
 よ、良かったぁ……
「かがみさんや泉さんをびっくりさせちゃいましょうね!」
「うん!」
 みゆきは茶道の作法にでも従っているように行儀良く立ち上がる。
「ケーキがありますのでとってきますね。紅茶も入れるので少し待っていて下さい。」
「うん、楽しみに待ってるね」
 みゆきは楽しげに何かを口ずさみながら部屋を出た。


 みゆきはティーポットの金網に茶葉を入れ、お湯を注ぎ入れる。
 今日で終わりなんですね……
 そう考えると何か物寂しい。
 今日のつかさの出で立ちは、白を基調にしながらもピンク色チェック柄のワンピース、首もとにはシャーリングの入っていて、黒い薄手のキャミソールを下肢から覗かせている。どちらも新しいようだった。
 照れながらも自分からその評価を訊いてはこなくて、「素敵ですね」とみゆきが言うと、顔を真っ赤にしてうつむいた。
 彼女との勉強会は、みゆきにとっても楽しみな事だった。
 充実してたなぁ……
 と、天井を仰ぎ見る。
 ……みゆきが説明をする。
 ……へぇ~、そうなんだぁ!
 小学生の頃、友達は素直に喜んでくれた。
 みゆきに教えて欲しくてみんなが色んな事を訊いてきた。友達にとってみゆきとの話しはとても楽しいもののようだった。
 みゆきは自分の楽しみを、調べる事を、みんなが共有してくれているんだと嬉しかった。
 だからみゆきは学ぶ事が大好きになった。
 でも、それは少し違っていたのだ。
 なぜならみんなは訊くだけで調べたり学んだりに熱心ではなかったから。
 やがておしゃれと成績がクラスの重要な話題となると、みゆきの肩書きは美人で成績優秀な秀才になった。
 だからどうだという訳でもない。友達はいつだっていたし、自分は変わらずに学ぶ事が好きだったから。
 ………。
 紅茶を白くて、控えめに花柄の入ったカップ2つに注ぎ入れる。テーブルには読みかけの本がある。
 ……つかささんが「一緒」って言ってくれた事、やっぱり嬉しいです。


「うぅん……」
 つかさは悩んでいた。昨日自分が四人での勉強会を拒んでしまったことだ。
 二人きりでの勉強を望んでしまった。
 こんなのなんだか意地悪だ。
 しかもその事で悩んでいたはずなのに、ここに来てみゆきに会って服を褒められた頃にはすっかり忘れていた。
 私、お姉ちゃんやこなちゃんのことないがしろにしてる……
 昨日までそれに気付かなかった自分がいた。
 どうしよう……
 ゆきちゃんだってこんな私のこと嫌いになるかも……
 みゆきに嫌われる、それを思うと胸に刺さるような痛みを感じる。
 ゆきちゃん、はやく来ないかな……
 何度目かにそう願った直後、扉が開いてつかさは花が咲いたように嬉しくなったのだった。


 勉強道具一式を下において机にはケーキと紅茶が並べられる。
 つかさはお菓子の家にでも出会ったかのように笑顔がこぼれた。
「お疲れさまですね、じゃあいただきましょう!」
「うん!」
 二人はゆったりとケーキを口に運んだ。
 素材の香りと一緒に甘く柔らかなクリームがスポンジをほどいて上品に口を楽しませる。
「おいし~い!」
「そうですね!このお店のは今日初めて買ったんですけど、これはいいお店を見つけました」
「えぇ!そうなの!じゃあ大発見かも!」
「そうですね」
「あのね、私自分でこういう発見したりするとすっごく嬉しいんだぁ♪いっぱい通いつめちゃったりして」
「わかります。つかささんも喜んでくれてるので嬉しさは二倍ですね」
「そうなの!?それ凄いよぉ!じゃあ私はぁ、自分とゆきちゃんので三倍かな……?」
「うふふっ凄いですね」
 つかさは二口目をパクりとして、ほわんと悦に浸る。会話が途切れたその沈黙に呟いた。
「こうやって二人で食べるのも最後かぁ……」
「そんな、いつでもいらして下さい」
 つかさは「うんっ」と笑って紅茶を飲む。華やいだ香り。天井を眺めつつ言いたいことをまとめた。
「あのね、私も本が楽しい事とか、勉強が楽しい事とかゆきちゃんと一緒にいて大発見いっぱいあったよ。なんていうかぁ、今回は本当に色々と、ありがとうございます」
 つかさはペコリとおじぎをした。それから少し照れたように微笑む。
「いえ、そんな、どういたしまして」
 今度はみゆきも頭を下げる。ピンクの髪がふわりと揺れる。つかさにはそんな仕草も優雅に見えた。


 勉強会はその全ての仕上げに入る。
 サラサラコツコツとペンの走る音だけが静寂をまぎらわせるように、せわしなく部屋に響く。
 つかさはパラパラと問題集をめくってみた。どのページの問題もなじみ深くなっていて簡単だ。大切な思い出に見える。
 問題集越しにみゆきを覗く。
 みゆきはしゃんとした姿勢でペンを走らせている。勉強会が始まってから何度も眺め、その度に魅せられて憧れた姿。
 それを追いかける自分も好きだった。最後とばかりにじっくりとそれを眺める。
 とくん……
 みゆきが側にいてくれるのが嬉しい。
 空気が好き……
 と、つかさは思った。
 二人だけの空間を包み込む特別な空気。
 ゆきちゃんも……そうだったらいいな……
 つかさがぼうっとそんなことを思っていると、みゆきは問題を1ページ解き終わる。一生懸命なつかさの調子を確認しようと優しい瞳をしながら顔を上げる。そこにはまじまじと自分を見つめるつかさがいた。

 二人はぴったりと目があった。

 みゆきはつかさの瞳に見入って何も言えずにいる。
 部屋には少しの間、静寂が流れた。
「ゆき……ちゃん?」
 室内を震わせた微かな響き
「……つかささん?」
 みゆきはわずかに首をかしげる。
 つかさの視線は声を聞いたとたんに恥ずかしそうにノートに落ちる。
「ゆきちゃんは……空気、好き?」
 聞いていいのかわからない。少し鼓動が早いようだ。
「空気、ですか?」
 つかさは喉をつまらせそうになりながら話す。
「あ、あのね。私とゆきちゃん、二人でいるときだけの空気。私は……好きなの」
 血の巡りが早くて体が火照ってくる、平静を保つのがやっと。
「お姉ちゃんとか、こなちゃんがいるとね、違うの。……二人だけ、の空気」

 みゆきは戸惑う。二人だけの、と言われてもそれに当てはまるものが見つからない。
 でも、それを「好きです」って言いたい……
 二人だけの時で違ったこと……。きっと暖かな何か。……雰囲気?
 考えていると、つかさはわたわたと言葉をつないだ。
「ご、ごめん、空気なんてだめだよね、わかんないよね。私もっと本とか読んでいい言葉探してみるね。だから今の忘れて……?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「は、はいっ」
 つかさのままの言葉が届いてくれない自分が悔しい。
 でもみゆきはわかった事もあった。
「私は……」

ーーーそれはある日、自分から欠けてしまって、つかさがもう一度くれたもの。

「つかささんのために何か出来て、凄く嬉しいんです」
 喜んでくれる誰かのために学ぶ幸せ、好きなことを共有してくれる人がいる幸せ。
「つかささんが私とお勉強してくれて……私、凄く楽しかったです」
 みゆきは自然と高揚した笑顔になる。
 胸が熱くなる。
 私にとってつかささんは特別な友達なんですね。それを伝える言葉は難しいです。でも、これがきっと私の一番確かな気持ち。
「つかささんと二人だけの時間、私は……」
 みゆきは暖かで柔らかい春のそよ風のような笑みを浮かべる、精一杯今の気持ちを伝えたい。
「大好きですよ」
「え……」

 とくん……
  とくん……とくん……

 つかさは気付いた。

 ……そうだったんだ

 私って……

 ゆきちゃんのこと……

 好き……なんだ……

 ……なんですとぉ~!?

 身振り大きくつかさはまくしたてた。
「うわっ!えっと!ゆゆゆゆゆきちゃん??」
 みゆきはぽぅっとしながらつかさに答える。
「はい……?」
「あ……えと…えと……、ありがとう、嬉しいな」
 みゆきはほっとした顔になる。
「良かったです、ちゃんと答えになっていたのですね」
「あ……うん、なんのだっけ?」
 みゆきは当たり前のように人差し指を立てて答える。
「空気です」
「う、うん!やっぱり凄いね、ゆきちゃん!」
 つかさは頭を掻きながら、凄いな凄いなと褒め続けた。







 こうしてつかさはみゆきへの気持ちを知ることになった。
 それから二日後の午後の事だった。

 あのね……口が滑りました。
 お姉ちゃんとこなちゃんにあっさりばれちゃったんです。


☆第四幕☆


「あんた……えぇっ?!ちょっ……えぇ!?」
 かがみは目を白黒させる。フルーリーの入れ物が締め付けられて辛そうにしている。蓋がとれそうだ。
「はわわわ……」
 つかさはかがみに手を伸ばして落ち着くよう促そうとしているが、彼女の方も混乱して埴輪のような顔になっている。アップルパイは既に絞殺されて泡を吹いている。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて落ち着いて……はぐわっ!」
 かがみのチョークスリーパー。
「あんたが訳の分からん事を言うからだろぉが……!」
 プルプルと蓋が射出されそうでこれが妙に怖い。
「う……つかさぁ、私……」
 つかさはようやく正気に戻った。
「お姉ちゃん!こなちゃん辛そうにしてるよ!」
 こなたは爽やかに微笑んだ。
「私、もうゴールしてもいいよね……」
 それはつかさが今まで見たことが無いくらい澄み渡ったこなたの笑顔だった。
 つかさが「いやぁああ!!」などと叫ぶ前に、フルーリーの蓋がこなたの顔面に直撃した。
「あいたぁ!」
「あ、ごめん大丈夫?こなた?」
「むぅ……かがみんのばぁか……」
 つかさは恥ずかしそうに二人を覗いている。
「……ちょっと、さすがに驚くわよ」
「仕方ない、かがみ、私達もカミングアウトしようか……」
「ねぇよ」
 っていうかあれよ
 こなたはシェイクを一口ゴクリと飲んで、ふぅ、とため息か悦の吐息かを吐くと、ウィンクして親指を立てて言った。
「つかさ、私達は応援するよ!みゆきさんは攻略難度激高だけど、つかさが幸せになったら嬉しいし!ね?かがみ?」
 つかさは嬉しそうにかがみを見る。
「う……まぁ……そう、ね。うん。みゆきとなら、私も安心。嬉しい……かな?」
 かがみも少し眉を寄せ気味ながら笑顔を贈った。
「えへへ……ありがとう、お姉ちゃん。……ごめんね、変な妹で」
「な、何言ってんのよ!私そんなふうになんか思ってないわよ!」
「ホント……?」
 今度はつかさが安心出来るだけの嘘の無い笑顔になれた。
「うん、素敵じゃない。女の子同士でもさ」
 ただそれに続く言葉は浮かばなかった。
 私もそうなんだよ、って言うのが一番なんだろうけどね……。
 隣に当人がいてはそうもいかない。

「ねぇねぇ、時につかさ。みゆきさんの事、どれくらい好きなの?」
「ふぇ!?」
 こなたはにんまりかつにやにやと次の言葉を待つ。
 私の言葉には反応無しかよ……。
「あのね、知った日の夜はね、えと……おとといの夜、なんだけど、もうドキドキして眠れなくて……」
 ははぁん、そういうことか。それで私のベッドに潜り込んだのね、納得だわ。ってあれ?
 ……それって
「ほうほう……それで?他には?」
「そのね、えと……その、とにかく……好き……だから」
 ……こなたを好きと知った頃の自分を見ているみたい。
「うわぁ~、まいった。おじさんお腹一杯だよ!!よし、みゆきさんを持っていきたまえ!!」
「ホントにおっさんだな」
「はうぅ……」
 つかさは事切れて、ふにゃふにゃとテーブルに溶けた。
 かがみは少し気になることがあった。
「それでつかさ、これからどうするつもりなの?」
「うん……、こういう事だし、とりあえず何もしないつもり。私は友達としてゆきちゃんの側にいられるだけでも幸せだから」
 かがみは心の中で深いため息をついた。
 私と全く同じだ。双子の妹とは言え、こうも同じものだろうか……
「でも良かったよぉ。テスト期間中も勉強会が続くんじゃなくて。心臓もたないもん」
「……ダメよそれじゃ」
 かがみのその声は叱りつけるように低かった。
「「え?」」
「今まで友達だったんだからそんなふうにいつも通りなんてやってたら何にも変わらなくて時間だけ過ぎちゃうじゃない。せっかくだもの少しずつでも近づこうとしなきゃ!」
「はぅっ!そうなの?」
「そうよ。今まで通りに満足しちゃったらどんどんタイミング逃しちゃうわよ!」
「恋愛経験無しの姉が妹に贈る、これは涙無しでは語れない物語……」
「あんたは黙ってろ」
「でも、ゆきちゃんの気持ちもあるから……」
「そ、そうだけど……」
 かがみはフルーリーを一口食べて飲み込み、言い放った。

「恋させちゃえばいいじゃない!!」

 店内にある時計が4時を告げる。音楽はディズニーの三匹の子豚の『狼なんか怖くない』。三人は鳴り終わるまで、その安っぽく軽快なデジタル音を重鎮指揮者のクラシックコンサートのように鑑賞していた。
「……お姉ちゃん?」
「……かがみ大胆。」
 つかさは立ち上がった。
「も、もう4時だよ?そろそろ帰って明日の勉強しなきゃ……」
 そう言うとつかさはトイレへ小走りで向かった。

 かがみは小さく縮こまってのぼせたようになっている。
「いやぁ……かがみもつかさの事となると暴走するねぇ……ん?」
 すっとかがみの腕がこなたの膝元の手に伸びる。
 その手を握った。
 指を絡めた恋人繋ぎ。
「ぬゎ?」
 こなたはその手を眺めて頬を染めた。
「えと……かがみ?」
「……こなたも他人ごとじゃ無いんだからね」
「かがみ……」
 こなたは空いた手でその手を包もうとした。
「うわっ!?」
 が、その前にかがみが自分のやっていることに気付いてとっさに手を離す。
 しまった!?バレた!?
 ヤバい、こんな変な告白ってないよ!!
 こなたはテーブルに肘をつくと、つまらなそうに言った。
「私にはそんな浮いた話はありませんよ~、買いかぶりすぎだよ」
 それからシェイクをちゅうちゅうと一気飲みし始めた。
「……お腹こわすわよ」
 鈍感ねぇ……。
 まあ危うく変な告白になるとこだったし、今はそれに感謝しなきゃ。
 でも、つかさにあんな事言ってないで、私もいい加減気持ちを伝えなきゃいけないよね。
 つかさはそれから戻って来た。
「私ちょっと頑張ることに決めたよ!」
 と言って、二人に勉強会継続作戦を話した。
 かくて物語は☆Intro☆に戻る。



☆幕間☆

 この天地に一つの大駄作を演じている、休憩時間。
「かがみ?」
 かがみはベンチでポカリを飲みながら足をブラブラさせている。
「なぁ~に?」
「そんなに私が好きかい?」
「う~ん、そうね、友達以上好き未満」
「好き未満!?ちょっ、友達としては好き、なんだよね!?」
「~♪」




(いったんおしまい)




















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  • 面白かったです。つか×みゆ・も
    良いものですね! -- チャムチロ (2012-09-12 20:14:46)
  • こっちまでドキドキするような内容で
    とてもよかったです。
    ぜひ続編を>< -- 名無しさん (2009-05-22 03:30:44)
  • また全裸で待つ作業が始まるお…。
    出来れば1ヶ月以内で頼む…。 -- 名無しさん (2008-05-13 01:25:47)

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