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SEA & SHE A.S.

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匿名ユーザー

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-----SEA & SHE  A.S.-----

「よし、泳ご。」
いきなり立ち上がり、こなたはおもむろに服を脱ぎ始める。
「ちょ…こなた!?」
誰もいないからって……
と、思ったけど心配はいらなかったみたい。服の下にはちゃっかり、しっかり水着を着ていた。
前みたいな学校用じゃなくて、今回は白いセパレート。
「まったく…。そう言う準備は良いんだから。準備体操はしなさいよ。」
「大丈夫だって!いざ行かん、我々の故郷へ!」
そう言うと、こなたは勢いをつけて飛び込んだ。
少しして浮かんでくると、すごいスピードで遠ざかっていく。こなたが離れていくのが少しだけ切なかった。
そのこなたは海の中で振り返り、立ち泳ぎのまま手を振ってきた。恥ずかしい奴め。
そう思いつつ手を振り返す私も、恥ずかしい奴なんだと思う。
私も泳ぎたいと思ったけど、こなたほど準備も良くなく、
誰もいないとは言え、外で着替えるのには抵抗があるので、諦めることにする。
代わりに波打ち際に近付いて、落書き。こなたと私の相合い傘。
こなたが帰って来たら私の気持ちを伝えよう。
「かがみ~!」
海を見ると、こなたが岩場に上がって手を振っていた。
私も手を振り返す。

--ザパァッ…

ふと見ると、波が足元まで来ていた。濡れないように、二、三歩下がる。
波が相合い傘のこなたの部分を掠っていく。
ふと、不安になり、岩場を見る。
すると、空を見ていたらしいこなたが、私の視線に気付いたのか、こちらを見て手を振ってきた。

--それが私が最後に見た生きているこなたの姿だった。


海から引き揚げられたこなたの顔は、真っ白で……
不謹慎にも綺麗だと思ってしまった。
見付かったとき、こなたの足には海藻が巻き付いていたらしい。
足に藻が絡まって、慌てたことによる溺死。
それが警察の判断らしい。多分、正しいのだろう。
でも、私にはこなたが死んだということが受け入れられなかった。
だから、警察がこなたを引き揚げてからも暫く、こなたを探していた。前みたいなドッキリだと信じて。

私が思っていた以上に現実は残酷だった。
今夜はこなたの通夜。明日には葬式が挙げられる。
事故の為、警察の取調べは事故前の状況説明だけだった。こなたのお父さんが二人っきりにはしてくれたけど、逆に辛い。
どんな出来事も私に冷酷な事実を認めさせようとしているとしか思えなかった。
化粧をされ、口や鼻に綿を詰められたこなたの姿は巫山戯てるようにしか見えなくて。
閉じられた目は眠っているようにしか見えなくて。
白雪姫の話を思い出して、口づけをしてみる。
目を覚まさないのは私が女だから…?


「お姉ちゃん、起きて。こなちゃんのお葬式だよ。」
いつの間にか私は寝ていたらしい。つかさに起こされるとは。
「ん…おはよ、つかさ。みゆきも。」
「お姉ちゃん、ひどい顔だよ。」
そんなにひどい顔かしら。
「お手洗いまでご一緒しましょうか?」
みゆきの申し出を断り、お手洗いに向かう。


つかさの言った通り、ひどい顔だった。
寝ている間に流れたらしい、涙のあと。起きてる間には一滴も流れないのに。
無意識に涙を拭いたのか、眉が三本ずつあって、目の下にはクマ。
クマはどうにもならないけど、顔を洗って、ちょっとはマシな顔に戻す。
こなたの寝ていた部屋に戻ると、こなたが運び出されるところだった。もうすぐ、お葬式が始まるらしい。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
私はまだひどい顔をしているだろうか。
「大丈夫よ。さ、行きましょ。」
「かがみちゃん。無理はしなくて良いからね。」
おじさんが一番辛いだろうに、私を気遣って呉れる。奥さんにも娘にも先立たれたのに。
私が海に連れていかなければ、こなたは死ななかったかも知れないのに。
「大丈夫です。」
そう答えて、おじさんの後に続いた。

こなたの葬式は慎ましやかに行われた。
こなたと触れ合った人達が集まり、お悔やみを述べる。
つかさが泣き、みゆきがその頭を抱え、撫でる。そのみゆきも泣いている。
峰岸と日下部は私の側にいてくれた。
成実さんが泣き、旦那さんが宥めている。
ゆたかちゃんが泣き、みなみちゃんが静かにその頭を撫でている。
ひよりちゃんとパティちゃんは抱き合って泣いている。
黒井先生は泣いている生徒や元生徒一人一人に声を掛けていた。でも、その瞳には涙。
おじさんはこなたの遺影に向かって何か叫びながら泣き、他の大人の人に慰められている。
私はと言うと、涙も流さず、ただ呆然とその様子を見ていた。

出棺の時もこなたが焼かれいてる時も、こなたの骨を見たときも何だか現実味が無くて。
涙も一滴も流れ無くて。

こなたのお葬式から一週間、私は何も無かったかの様に過ごした。自然に、だからこそ不自然に、普通の生活を送っていた。
だから、つかさの提案を聞いたときも、普通に答えていた。
「お姉ちゃん、皆で海行かない?」
「海?良いわよ。行きましょ。」

おじさん、成実さん、黒井先生、私の運転であの海に向かう。

私たちは今、海にいる。
--全ての始まりの海に。
でも、隣にこなたはいない。

海に着いた私たちは、泳ぐことも無く、浜辺を眺めていた。
「夏もそろそろ終わりやな~。」
黒井先生の言葉通り、昼間だと言うのに海水浴客の姿は少なかった。
心なしか風にも秋の匂いが混じっている気がする。
浜辺を歩いて行き、あの砂浜まで皆を案内した。
「此処か……。」
おじさんが呟く。
「此処です……。」
そう此処。この海で、二年前、こなたのことが好きだって気付いた。
「こなたの最期はどんなだった?かがみちゃんにとっての最期は。」
「……楽しそうでした。『我々の故郷へ!』とか言って--」



そこからは何も言えなかった。涙が溢れ出して。
立っていられなくて、膝をつく。
此処に来てやっと、こなたの死を誤魔化さずに受け入れられた。
これまで流さなかった分を取り戻すように、私は泣き続けた。零れた涙が砂浜に染み込んでいく。
皆が私を呼んでいる。鼻を啜る音も聞こえる。皆も泣いてるんだ。
おじさんも成実さんも。みゆきも日下部も峰岸も。ゆたかちゃんもみなみちゃんもひよりちゃんもパティちゃんも。
「お姉ちゃん。」
最後につかさが私を呼ぶ。つかさもやっぱり泣いている。
近付いて来たつかさにしがみついて、私は声をあげて泣いた。
みっともないけど、それだけこなたを想っていた、いや、今も想ってるってことだと思うから。
死んだのはこなたの方だというのに、想い出が走馬灯の様に脳裡を走り出す。
その全てにこなたがいる。

一緒に勉強もした。大抵、私が教えてたけど、それ以上にこなたからは色々教わったと思う。
そのうち、全部想い出になるんだろう。
せめて、それまでは。出来るならそれからも、こなたがくれたものと共に生き続けよう。

閉じた目に浮かぶこなたの笑顔。
かがみって呼ぶ声。

--ありがとう
心の中で呟く。
--ごめんね。素直になれなくて


涙が止まり、つかさから離れる。
「つかさ、ありがと。」
「ううん。お姉ちゃん、もう大丈夫?」
「…うん。」

周りを見ると、皆が目が赤かった。
ふと、こなたにした口づけを思い出す。あの時はこなたが起きてくれないのが、凄く悔しかった。
でも、今はそうでもない。それは、こなたの死を受け入れたからだと思う。
死人にも口はある。声を発する事は無くても口づけは出来る。

私は波打ち際に歩いていく。
「お姉ちゃん!!」
「大丈夫。」
後ろからのつかさの心配そうな声に振り向き、笑顔で返す。

--私は死なないわよ。

こなたは故郷に着けただろうか。それとも、お母さんに会ってるだろうか。


ねえ、こなた?故郷には行けた?
ねえ、こなた?皆、あんなにあんたの為に泣いて呉れるのよ?偶には帰って来なさいよ?
ねえ、こなた?知ってた?私、こなたが好きだったんだよ?一昨年、此処に来た時から。


--ふと、水面に目を遣ると
--私の左隣にこなたが映ってる気がした

こなたの右手をギュッと握る。目を閉じるとこなたが笑いながら言う。

--かがみ、バイバイ。
--こなた。違うでしょ。それを言うなら…

こなた、またね。













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  • なんという死亡フラグw
    前作見ててまさかとは思ったがww -- 名無しさん (2008-10-24 07:02:35)
  • カナシス・・・ -- 名無しさん (2008-01-20 00:01:25)

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