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だだっこ

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「かーがみ~ん」
 授業が終わり、紙の類は一切入っていない鞄をぶらぶらさせながら、私は隣の教室の入り口で呼び慣れた名前を呼んだ。
 視線の先に、お目当ての彼女が居る。
 丁度帰り支度をしつつ向こうを向いていた彼女は、私の声が聞こえた途端びくりと肩をすくめた。
 そして、ゆっくりとこっちを向く顔は驚きとか羞恥とか複雑な表情で真っ赤。
 ああん、かわいいなぁ。
 やっぱり、あの頭には一度うさみみをつけてみたいもんだよ。
 調子に乗った私はそのまま彼女の名前を呼び続ける。
「かーがみー、かがみさまー、かがみおねえさまー! ごしゅじんさまー」
「やかましいっ!」
 ものすごい勢いでこっちに歩いてくるかがみ。
 眼前にかがみのおっきい瞳があってちょっとどきどきだね。
 …怖い意味も少しあるけど。
 でもこんなんでびびってちゃあツンデレ攻略はままならないのだよヘイスティングス。
 私は自分で言うのも何だけど、ふにっとした柔らか猫口でかがみに挨拶する。
「やふー、一緒にかえむぐ!」
 とたん、私は顔面にヘッドロックをかけられたまま引きずり出された。
 ああん、この柔らかな唇を独り占めしたいの…って痛い痛い痛い! か、かがみっ! いえ、かがみさま!
 こめかみが! こめかみが、骨がぎりぎりって! こめかみぐぁぁぁっ!
「おねえちゃーん」
「柊さん」
 と、私たちを待っていたつかさとみゆきさんが声をかけてくれる。
 おお! そこの勇者よ! この魔王を成敗してたもれ!
「お姉ちゃん、こなちゃん、なんかぴくぴくしているよ?」
「あー? いいのよこんなん、この程度で」
 こんなのあつかいって非道いよかがみん! つかさもつかさで、なんか、で済ませますかっ!
「ふおっ! ぷはーっ! ひどいよかがみぃ! みんなで帰ろうって呼びに言っただけなのに!」
 ようやくヘッドロックを外され、私の頭蓋骨はアステカの儀式よろしく変形の危機から解放された。
 どうせならその胸にぎゅっとしてくれないもんかねぇ?
「だったら普通に言いなさいよ普通に!」
 かがみはまだ顔を赤くしたまま文句を言っている。
 かがみってまじめだから、ちょっとした冗談も本当だったらって意味できちんと考えちゃうから可愛いなぁ。
「いつも通り言ったじゃん?」
「だれがご主人様かっ!」
「お、お姉ちゃん、こなちゃんにご主人様って呼ばせているの? 知らなかった…」
 つかさが顔を赤らめて聞く。
 おいおい、もうすこし空気を読み給え。
「んなわけないっ!」



「でも、主従関係と言うのは本来互いの役割を補い合う関係でもありますから、決していけない事では
ありませんし…」
 いやいやいや、みゆきさん、そこでボケなくていいから。そこが天然クオリティだけど。
「もう、一体何しに集まっているのよ!」
 進まない会話にかがみがしびれを切らす。
「だから一緒に帰るためだよ」
 特に用はなくても、一緒に帰る行為自体には大切な意味があるのだ。
「それならさっさとそうしなさい! 行くわよ」
「はいはい、それじゃ帰」「おーい、ひぃらぎー」
 と、わたしの言葉がやや舌っ足らずな声で中断された。
「あ、日下部」
 振り向くと、かがみのクラスの日下部さんがすたすたとこちらへやってくる。
 この人、本当にいつも笑顔だな。
 そして、その笑顔に八重歯が似合っている。
 そしてそれは、かがみに向けての笑顔。
「どしたのよ?」
 かがみがいつものかがみの顔で問いかける。
「……」
 何だろう。かがみが私達以外にこうやって遠慮のない喋り方をしているのを見るのって酷くか違和感を
覚える。
「んー、実はぁ今日新しいシューズを買おうと思っているんだけど、ひぃらぎにつきあって欲しいって
思ったんだ。
今度の大会用で、しっかり選びたいんだよね」
「ふぅん、峰岸は?」
「もちろん一緒だよ。意見が欲しいんだ。私一人だとデザインとかで買っちゃいそうだからぁ」
「そうねー、あんた見た目で選んで失敗する事が時々あるもんね。この前のオイスターチョコも、あれだけ
やばそうだったのに、色が美味しそうとかって理由だけで注文して泣いてたし」
「みゅぅ~~~思い出させないでよぉ…。だからお願いしたいんだよぉ」
 日下部さんはうるうるとこれ見よがしに瞳を潤ませ、かがみの両手を取って懇願する。
 涙で誘うなんて…それに、両手、握っている。
「しょうがないわね」
「えっ…!?」
 かがみの言葉に私は思わず声を出す。
 だって、かがみ、ついさっき一緒に帰るって…。
「やった! ありがとぉひいらぎぃ!」
「…か、かが…」
「そんじゃそう言う訳で、今日は特に帰りに用がある訳じゃなかったからさ、私日下部達に付き合うわ」
「うん、日下部さん、いいシューズ選んでね」
「では、失礼しますね」
 つかさとみゆきさんがにっこりと微笑み、かがみにばいばい、と手を振る。
 何で? なんでそんな簡単に!?!
 って、ああっ! かがみ! かがみもなんでそんなあっさりと私達以外の人と帰れるの? 何で?
「…こなちゃん?」
「こなたさん、どうしました?」
「え?」



 いけない。思わず立ちつくしてしまっていたらしい。
「あ、え…ううん。何でもないよ。いやしかし、かがみんもああ見えてなかなか悪よのう」
 心臓がばくばくしている。
 冷や汗が出そう。
 私はそれに気付かれないように、無理に笑いへ走った。
「もう、こなちゃんったらぁ」
 つかさがころころと笑ってくれる。
 良かった、心臓も収まりそう。
「かがみさん、ご自分のクラスでもやっぱり頼られる存在なのですね。日下部さん、あんなに嬉しそうです
もの」
 でも次の瞬間、みゆきさんのその言葉が私の心臓に突き刺さり、再び心臓が大きく鼓動した。
 かがみが他の人に頼りにされる。
 かがみが他の人と親しくしている。
 かがみが他の人と笑っている。
 かがみが他の人のお願いを聞いている。
 かがみが…かがみが…。
 頭の中を取り留めのない嫌な想像が駆けめぐり、いつの間にか足が震えていた。
「こなちゃん、行こう」
「え? あ、う、うん」
 私は反射的に歩き出してしまったけど、視線はかがみから離れなかった。
 いや、もうかがみは行ってしまった。
 正確には、かがみのいた場所から視線を話せなかった。
 そこで、かがみが楽しそうに笑って話していたから。
 そこで、かがみが私とは別の人と帰ってしまったから。
 私は胸の中にある灯りがふっと消えた様な気分になり、体温が下がったと思った。
 そして、こんな事思ってはいけないと解っている。
 解っているのに、かがみを引き留めてくれず、何事もなかった様に笑って歩き出す二人に、ほんの…ほんの
少し、ほんの少しだけ怒り、苛立ちを覚えてしまった。
 いつもの帰り道。
 いつもの道を通り、何度来たか解らない商店街のクレープ屋さんで、何度食べたか解らないチョコクレープを
食べている。
 でも、味がしない。
 楽しくない。
 私は一体何をしているのだろう。
 つかさも、みゆきさんも、何でそんなに無神経なの?
 思わず考え、そこではっとする。
 自分の汚い部分を自分でさらけ出した気がして、落ち込みかける。
 私は二人に心の中で謝った。
「一人で食べると、このクレープちょっと大きいんだね。いつもは…」
「…今日は、私達、ちょっと静かですね」
 二人が、誰かの事をつぶやいた。
 あ…。



 私は気付いた。
 つかさも、みゆきさんも、きっと同じ気持ちなんだって。
 私だけが寂しいと思っていたんだって。
 ごめん。
 ごめんなさ。
 私は心の中でもう一度謝った。
 二人のためにも元気を戻そう。かがみは今日たまたま居ないだけ。
 そう、明日になればまた一緒に…。
 その時、みゆきさんとつかさが、あ、と言う顔で通りの向こうを見ていた。
 何? と顔を上げた時、私はまた信じられない光景を見る。
 街路樹を挟んだ反対側の遊歩道に、かがみ達を見つけてしまった。
 日下部さん、峰岸さんと一緒に歩くかがみは楽しそう。
 私が隣にいないのに。
 かがみはお日様みたいに笑っている。
「いやー、やっぱりひぃらぎと峰岸に一緒に来て貰うと色々たすかるよ! おまけにセール中のお店
見つけてくれるし!」
 日下部さんは大きな袋を持っている。
 靴を買った帰りなんだろう。
 買い物が済んだんだから、かがみとさっさと別れれば…いけない、また酷い考えを浮かべてしまった。
 私は街路樹の向こう側のかがみ達を目線で追う。
「ひいらぎぃ、今日付き合ってくれたお礼にアイスぅおごっちゃうよ!」
「いいの?」
「いいのいいのぅ! 今日の功労賞はかがみなんだからぁ、特別にダブルのレギュラーおっけーだよ!」
「ふふっ。ありがと…でも、スモールにしておくわ」
「おやぁ? さてはさてはカロリーが気になりますかな? にゅふふ」
「うーるーさーい。あはは」
 かがみがまた笑った。
 笑った。
 私以外の人に…笑った!
「ほい、峰岸のオレンジにぃ、かがみにはぢゃーん! レアチーズとラムレーズンのダブルぅだよ!」
「んー! おいしそ。サンキュ。で、あんたは?」
「ふふふ、私はなんとバニラだぁっ!」
「意外ね。また素っ頓狂なの頼むかと思ったけど」
「かがみのおかげで成長したのだよ! アイスはバニラが基本! バニラが不味い店にろくな店はない!
 女将を呼べぃ!」
「はいはい。そもそもサーティーワンに外れは無いと思うけどね」
 かがみは日下部さんに対しても、やっぱりつっこみで話を合わせている。
 本当なら、そこにいるのは私だよ? 私がつっこまれる役の筈だよ?
 ヘンな事言って、かがみに怒られたり、笑われたりして、頭をこづかれたり、でも優しくなでられたりする…。
 それは、それは私の役目だよ。
 微笑ましい友人同士の会話。
 なのに、私の目頭はぐんぐん熱くなり、あたまがふわふわしてむず痒くなり、鼻の奥が痛くなってきて、
瞳に涙がこみ上げてきた。



「みさちゃん、おいしいわね。柊ちゃんはどう」
「うーん、至福の味だわ」
「……」
「日下部? どしたの?」
「こういう時ぃ、人が食べているのの方が美味しそうに見えるのは、なんででしょうねぇ?」
 日下部さんはかがみのアイスをじとっと見詰めている。
 嫌らしい瞳だと思う。
「そんなの、食べてみればいいじゃないの。はい」
 かがみが、食べかけのアイスを日下部さんに差し出した。
 私は耳がおかしくなったと思った。
 息が出来ない。
「わーい! はむ!」
「!!!」
 心臓が止まったと思った。
 私は思わずクレープを握りしめる。
 かがみの食べたアイスを、日下部さんも食べた。
 かがみの口が付いたアイスを。
 かがみの口が、日下部さんの口に…。
 手がチョコソースまみれになり、生クリームも指の間に入り込む。スカートにもソースがこぼれた。
 でも、そんなの気にならない。気にする余裕なんて無かった。
「こ、こなちゃん?」
「こなたさん!」
 そんな私を見て二人が慌ててハンカチやティッシュを出そうとする。
「うっ…! うぐ…うぁああっ!」
 涙が瞳から決壊する。涙腺が壊れたみたいに。
 私は、走り出していた。

「うっ…うっ…ひっく…う…ひぐ…ううぅ…」
 嗚咽が止まらない。
 私は、気が付いたら川のほとりを歩きながら、尚も涙を流し続けていた。
 今の私、端から見たらどんな格好なんだろう? でも、どうでもいい。
 どうでもいい。
 頭の中に、定期的に思い出したくない風景がフラッシュバックして、その度にまた涙があふれ出し、
いつまで経っても泣き止めない。
「えぐぅ…ひん…ひん…かがみのばかぁ…ばかぁ…」
 誰のせいでもない。
 もちろんかがみのせいなんかじゃないのに、さっきから嗚咽以外の言葉はこれしか口からでない。
 頭の中はかがみでいっぱい。
 でも、その中に思い出したくないかがみの姿が浮かんでは消える。
 このまま涙を流し続けて、乾涸らびて死んじゃうんじゃないかとぼんやり考えた時。
「こなた!」
「ひっ!」



 心臓がまた大きく鳴った。
 胸を突き破るかと思うくらいに。
 だって、今聞こえた声は今一番逢いたくて、でも会いたくない人の声だったから。
 私は逃げ出す。
 怖かった。
 泣きはらした顔を見られるのが怖い。
 それに、今の私はみっともない格好だろうから、それを怒られるかもと思うとそれも怖い。
 また日下部さんが隣にいたらと思うと怖い。
 こんな情けない私を見られるのが怖い。
 それを見てかがみが私を嫌ったらと思うと、背筋が寒くなるくらい怖い。
 怖くて怖くて、怖くてたまらないのに、それなのに、走り出そうとした私の手はかがみにしっかりと
捕まれてしまった。
「こら! 何で逃げるのよ!」
「は、はなして! はなしてよぉ! やだやだやだぁっ!」
「おいおい、これじゃ私が誘拐犯か何かだろ!」
 かがみは力任せにぐいっと引き寄せる。
 体力に自信はあっても、こういう時は何の役にも立たず、私はかがみの正面に立たされた。
 目を開けない。
 顔を見る事が出来ない。
 酷い顔をして、酷い格好の筈。
 それが恥ずかしくて顔を上げる事も何も出来なかった。
「あーあ…まったく、ひどいもんね」
 その通りの事を言われてしまった。
 そうだよ。だから、もう私になんかかまわなくていいよ…。
 …嫌だ。
 それは嫌だ。
 頭が混乱する。
 ふと、顔に冷たいものがあてがわれる。
 理由はないけど、もしかしたらぶたれるかもと思っていた私は肩をびくりと強張らせてしまう。
 でも、そうじゃなかった。
 泣きはらし、熱をもってしまっている私の頬に当たっているのは冷たく濡らしたハンカチ。
 いい香りがする。
 ローズかな?
「目が真っ赤よ」
 かがみはゆっくり、丁寧に私の顔を拭いてくれていた。
 まるでお母さんが子供の顔を拭いている様な風景だと思う。
「すん…すん…」
 嗚咽はまだ止まらない。でも、かがみの手が顔に触れている。
 そう思うだけで張りつめていた胸の苦しみがどんどん溶けていった。
「はい、ちーんして」



 今度は鼻にティッシュがあてがわれた。
 これじゃ本当に親子だけど、私はいわれるがままに鼻をかむ。
 こんな事してもらうの、一体何年ぶりだろう? いや、そもそもあっただろうか?
 三回かませてもらってようやく鼻の通りが良くなり、深呼吸が出来る様になる。
 一呼吸毎に、私はだいぶ落ち着いてきたのが分かった。
 そして、ようやくおそるおそるだけど目を開ける決心が付いた。
 ハンカチが目元から離れた時、私は瞳をあける。
 体は震えたままだけど、瞳を開いてみる。
 瞳に光が入るより先に、私は見たい人を見た。
 かがみが、目の前にいる。
 私をじっと見詰めている。
 かがみの大きくて綺麗な瞳に私が写っていた。
 ああ、かがみだ。
 かがみの瞳だ。
 かがみの顔だ。
 かがみの微笑みだ。
 私は堪らなくなり、両手を上げて抱きつきかけた。
「ちょい待ち」
 無体な制止。
 か…かがみ、それは本当に地獄だよ…。
「うぇ…うぅ…」
 反射的に瞳から、今拭って貰ったばかりの涙がぼろぼろとあふれてこぼれる。
 あんなに丁寧に拭いてもらったのに、あっという間に私の顔はかがみと逢う前に戻ってしまった。
 もう、本当に見た目を気にする余裕なんか無いよ。
「かがみぃ…かがみぃ…ひぐ…うええ…」
 私は本当に小学生の子供の様に、スカートの裾をつかんでぐずぐずと泣き出してしまう。
 …あ、また、鼻、出てるかも。
 でも、それは…だって、だって、かがみが、かがみが、抱きつかせてくれないから…。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 意地悪じゃないの! す、スカート! スカート拭いてから、ね?」
 かがみは酷い顔になっているであろう私の顔を見ると、大慌ててしゃがみ、濡れティッシュでスカートに
付いたチョコソースをぽんぽんと叩く。
「応急処置だから、家に帰ったらすぐ浸け置きするのよ」
 そして、かがみはもう一度立ち上がり、私の顔をもう一度拭き直してくれた。
「ぐす…ふ…ひっく…」
「ふふ。あーあ、可愛い顔が台無しよ。もう、本当に子供ねあんたは」
 こんなみっともない格好で泣いている私に、かがみは笑ってくれた。
 その一言に、私は私の心の中すべてを見られた気がした。
 すべてを受け止めてくれた気がした。
 かがみがもう一度ハンカチを顔にあてがおうとした時、もう、私の我慢は限界を超える。
「うわあぁああーーーーん!」
「きゃっ!」



 私は力の限りかがみに抱きつき、しがみつき、かがみの胸に顔を埋めた。
 瞬間、かがみの体の香りが鼻腔を満たし、そのまま脳の嗅覚をすべて支配し、思考を止めさせ、それが
ますます涙腺をゆるめる。
「いたいたいたい!」
 いつの間にか爪を立てていた。
 かろうじて意識が戻り、鷲掴みだけは止める。
 ごめんなさい。
 でも、それ以外はとても遠慮なんか出来ない。
 私はかがみの胸で、今までの人生の中で一番強く、長く泣いていた。

 私が泣きやみ、話が出来るくらいに落ち着くまで、小一時間が必要だった。
 今、私はかがみと一緒に河原の遊歩道にあるベンチに座っている。
 横隔膜が変になっちゃったかもしれない。
 まだ、嗚咽は止まらないけど、かがみが手を握ってくれているから苦しくない。
 かがみが貸してくれたハンカチは…もうびちょびちょだ。
 ついでに、かがみのシャツもびちょびちょ。
 本当に、ごめんなさい。
「…話、出来る?」
 かがみが頃合いと見て話しかけてくる。その言葉は一字一句が優しい。
「うん…」
「こな」「かが」
「……」
 しまった。声が被った。
 かがみがあーあ、みたいな顔をしている。
 またやっちゃった。
 どうしよう。どうしよう。
 呆れられるかもしれない。
 怒られるかもしれない。
 叩かれるかもしれない。
 …嫌われるかもしれない。
 体が、震えた。
「…少しは、あんたらしさが戻ってきたかしら?」
 ちょっと笑ってかがみが言う。
 …大丈夫、だった。
 嬉しい。
 ひたすら嬉しい。
「ほら、言いなさい」
「…いい?」
 本当に? と首をかしげたら涙がこぼれた。
 まだ涙は残ってたみたい。
 かがみがハンカチで目元をおさえながら、いいわよ、と笑ってくれた。



「あの、ね、かがみ…どうして、私がここにいるって…分かったの? て言うか、どうして追いかけてきたの?」
「あんた、私達がアイス食べている時同じ所に居たんでしょ? あんたが泣きながら走り出したって、
つかさとみゆきが大あわてでやってきたのよ。まぁ、その前にあの大声は私にも聞こえたけどね。本当、
一体何事かと思ったわよ」
「あ…」
 あのときの恥ずかしさがお釣り付きで襲ってきた。
 私は顔から火が出そうになり、思わずハンカチで顔を隠してしまう。
 とっさにかがみの手を離してしまったのも後悔。
「…でも、私、多分全速力で走ったと思う…よく見つけてくれたね」
 横目で見ると、かがみがにやにや笑っていた。
 いつもならどうって事はないのに、今のかがみのその笑いはどこか怖い。
「…小学生くらいの子が、泣きながら走って来ませんでしたか? って聞いたら、ほとんどの人が教えて
くれたわよ」
 にたり、と笑うかがみ。
「!……」
 私は声が出なかった。
 つまり、私はマーキングしながら逃げていた様なものだったんだ。
 しかも見る人全てに分かる、と言うか印象づける様な…。
 それなら、かがみがあれだけ用意が良くても不思議はない。
 私はかがみに、さあさっさと捕まえて世話をし給え、と言わんばかりの恥ずかしい逃走をしてしまったんだ。
 私は頭を抱えて縮こまる。
 消えてしまいたい。
 本当にそう思った。
 でも、そうしてばかりもいられない。
 かがみはそんな私を、恥ずかしがりもせず聞いて回り、探し出してくれた。
「…か、かがみは、何を言いたかったの?」
 私は震える声で問いかけた。
「決まっているでしょ」
 かがみの手が私の頭をぽん、とたたいた。
「どうして逃げ出したの?」
 また息が止まりそうになった。
 体が震える。
 口が魚みたいにぱくぱくと動くけど、声なんて出ない。
 私はまた涙をこぼしていた。
「あー、ちょっと待ちなさい。ほら、固まらないの」
 かがみがそっと肩に手を置き、私の体を引き寄せる。
 私はかがみの体に身を寄せる形となり、頭がかがみの頭にごっつんこする。
「…私の自惚れじゃなきゃ…分かっているわよ」
「…ふえ?」
 おかしな言葉が口から漏れる。
 どういう意味、とおそるおそるながら顔を上げると、私のほっぺはそのままかがみの両手に包み込まれて
しまった。
 かがみの顔がさっきよりもずっとずっと近い。
 そうじゃない。
 どんどんちかづいているんだ。



「か、かか…かがみ…」
 ほっぺをつつむてがなんだかあたたかくて、あたまがぼうっとする。
 ちからがはいらない。
 かがみのといきがかおにかかる。
 おおきいめが…わたしでいっぱいになる。
「こら、目ぇ瞑りなさい」
 わたしはめをとじる。
 そのつぎのしゅんかん、くらやみのなかにひかりがともり、くちびるが…とろけた。

「…なた、こなた」
「…うあ!」
 次に気が付いた時、私はかがみの膝枕の上だった。
「やっと気付いた」
「わ、私…あれ?」
「あんた、あの後気を失っちゃったのよ。びっくりしたわ」
「……」
 あの後。
 それは、かがみとの…。
 かがみの唇が…。
 ああ…。
「ふふ、あんた、なんでそんな簡単に顔が真っ赤になるのかしらね?」
 かがみが私の頭を優しくなでてくれた。
「こなた」
「な、なに…」
「私の言いたい事、分かってくれたかな?」
 分かった。
 とっても、とってもよく分かったよ。
 私は、今ほど幸せだと思った時は無い。
 口を動かそうとして、また涙がこぼれる。
 私はかがみの腰に抱きつき。
 ひたすら泣いた。
 でも、さっきまでの涙とはまるで違う。
 心地よくて、気持ちよくて、心の膿を全部洗い流してくれる。
 今の私が流す涙は、そんな涙だった。

 それから後。
 あれ以来も、当然だけどかがみは日下部さん達と一緒にお弁当を食べたり、休日に出かける事もある。
 でも、私はもう気にしない。
 私とかがみには、絆がある。
 ほんのちょっとだけど、肉体的な繋がりも…。
 だから、この前の様な組み合わせで休日に出かける事になって、外でかがみ達を見つけても、もう心臓は
そんなにどきどきしない。
 私、かがみの信用を得るに相応しくなっているかな?



「ひいらぎぃー」
「なーにー?
「お昼のドリアがほっぺについてるよぅ」
「あ、しまっ」「ぺろり、ちゅ」
 !!!
「こ、こら! 何するのよ!」
「にゅふふ。おべんと食べちゃった。デザートのやわらかさくらんぼ唇も美味しかったよ~」
「あらあら、みさちゃんたら」
 かがみが日下部さんを追いかけて行ってしまった。

「…みゆきさん」
「な、何でしょう?」
「憎しみで人が殺せる方法って、無い?」
「…き、禁則事項です」
 みゆきさんは引きつった笑顔で指を口に当てていた。

おわり













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コメント:
  • こなたとみさおがかがみの取り合いしてるけど
    こなたがかがみの物って考える方がしっくりくるね -- 名無しさん (2017-01-25 01:28:56)
  • 憎しみで人を殺す方法なら、どっかの三蔵法師が知ってるよ。 -- 名無しさん (2012-10-12 19:33:24)
  • みゆき「では、究極のめにゅ~から…」
    つかさ「こちらが、”泣きじゃくるこなちゃん”です」
    かがみ「これは…正に究極と呼ぶにふさわしいギャップ萌え!」 -- 名無しさん (2011-04-28 23:07:11)
  • このこなただと、ホントに殺しかねないな -- 名無しさん (2011-01-23 10:49:51)
  • こなたとみさおの戦いはさらに激化しそうな予感がするwww -- エンポリオ・イワンコフ (2009-11-28 23:00:39)
  • こなたきゃわええ・・・! -- みぐ (2009-11-08 02:05:53)
  • …こなたが可愛すぎて萌え死にそう -- 名無しさん (2009-01-11 11:47:48)
  • かがみへの依存症こなた萌え…続編希望です -- 名無しさん (2008-07-28 12:35:13)
  • こなたかわええ…
    ってか
    >>「憎しみで人が殺せる方法って、無い?」
    「…き、禁則事項です」

    禁則事項ってことは知ってるのかみゆきさん -- 名無しさん (2008-06-12 15:08:57)
  • 泣いちゃうこなたがなんとかわゆい…かがみが母性を持ってこなたに接するのは萌えるよね…やっぱ、この二人ベストカップルだよ。 -- 名無しさん (2008-06-10 00:05:40)
  • 泣ける・・・って、何でだ?? -- 名無しさん (2008-06-09 22:24:31)
  • やっぱりこなた×かがみが一番好きだなー…中でもこのSSのこなたは可愛くて、特にお気に入りだw -- 名無しさん (2008-06-09 02:10:55)
  • 制服着ててもこなたなら小学生に見えるんだな、陵桜学園初等部とか… -- 名無しさん (2008-02-17 07:31:43)
  • 依存こなた、かわええ………しかしあんな暖かく包まれたら惚れるしかないわな。
    GJかがこなでした! -- 名無しさん (2007-11-24 23:58:47)

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