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スケッチスケッチ!  1筆目 全員集合!

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匿名ユーザー

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ガタンゴトン――ガタンゴトン――


秋も深まりかけ、だんだん風が冷たくなってきた11月の初め。受験生にとっては試験までの
ラストスパートをかけなきゃならない重要な時期だ。

「……それなのに……」
「ん? どうしたの? お姉ちゃん」
「……ううん、なんでもない」
そんな時期にもかかわらず、今私達二人は、電車に乗って、名も知らぬ駅に向かっている。
電車の中は、休日だというのにガラガラで、私達の車両を見ても、つり革を持っている人は
もちろん、座っている人さえいない。つまり乗ってるのは私達だけ。
そんなローカルな路線に乗っている私達――私、柊かがみと、妹のつかさ――は、普段
着ている私服を着て、肩にかばんを提げている。そして今座っている私たちのひざの上には、
B4サイズほどのスケッチブックがあり、その上には、絵の具や色鉛筆、弁当などが入った
手提げかばんが乗せてある。つまり……

「……なんで……」
「へっ?」
「……なんでこんな時に、スケッチ大会なんてしなきゃいけないのよー!!」
「ふえっ!?」
私は溜まったフラストレーションを、叫ぶことで発散することにした。


スケッチスケッチ!  1筆目 全員集合!


事の始まりは今週の火曜日。ちなみにテスト週間である。
「芸術の秋だねー。スケッチ大会しよー!」
というこなたの何の脈略のない一言から始まった。

何でも、最近のアニメ、漫画業界では、美術、芸術をテーマとした作品がひそかなブームを
呼んでいるらしい。
「それに今期から三大美術四コマ漫画の『スケッチブック』がアニメ化されたんだよ。
その中の話で、主人公が山にスケッチしに行く話があってね」
「何? それで、スケッチ大会がしたくなった、と」
「うむ、そのとーり! さすがかがみ、わかってるねー」

はぁ、アホらし……子供かよ。
そう思って断ろうとすると、前の方から、
「面白そうだね~」
と、ほんわりとした声がした。
「なっ、つかさ!? あんた、何言って……」
「ええ、それに、楽しそうでもありますね」
今度は左側からの、大人びた声。
「えっ、み、みゆきまで……」
つかさはともかく、みゆきまでもがこなたの提案に乗ってしまった。

「ちょ、ちょっと! これから私達はとても重要な時期に入るのよ? そんな時に遊んで
なんか……」
「まぁまぁ、そんな堅い事言わないでさー」
「そうだよー。いっつも勉強勉強って言ってたら、疲れちゃうよー」
「そうですね。たまにはお休みがてら、遊びに行くのも言いですよね」
私は必死に止めさせようとしたが、こなた、つかさに加え、みゆきまでも賛成では、もう
止める術はなかった。

「で、かがみはどうするの?」
「えっ……!?」
「行くの? 行かないの? どっちなの?」
「お姉ちゃん、一緒に行こうよー」
「人数は多いほうが楽しいと思いますよ」
こっちの攻撃が終わったら、今度はあっちが三人合体攻撃を仕掛けてきやがった。
ちくしょう、最初から決めてた様な見事な連携だな。

「……わかったわよ。私も行くわ」
「ホント!? ありがとかがみん!」
「はいはいそんなんで抱きついてくんな!」



……とまあこんな感じでスケッチ大会の開催が決まった訳。
ちなみに今持ってるスケッチブックやらは、その日家に帰った夜、つかさが自分の部屋から
持ってきた物である。テスト勉強中に何やってんだとは思ったが、あまりにもつかさの目が
キラキラしてたもんだから、私は少し呆れた様な顔をしただけで済ましておいた。

「……それにしても、昨日いきなりこなたから行き先を聞かされた時はビックリしたわー……」
「うん、そうだね~」
「あんまり聞いた事のない地名だったから調べてみたら、そこ、電車が1時間に1本しか
来ないって書いてあったのよねー」
「でも、本格的でいいんじゃないかな~」
「それに、現地集合って言うのも変な話よね。4人で行くんだから、集合場所決めてみんなで
行けばいいのに……」
「う~ん、何でだろう……」
と考え事をしているうちに、電車は目的の駅に滑り込んだ。そして、それまで疑問に思って
いた事は、電車を降りた後しばらくして解決することになった。


一つしかホームのない駅に降り立ってすぐ、
「あれっ? 柊と妹じゃん。お前らもこの電車だったのか?」
と、耳慣れた声が右から聞こえてきた。私がそのほうを向いてみると――

「えっ、日下部!?……と峰岸!?」
「あらあら、奇遇ねー、柊ちゃん」
「な、何でお前らがこんな所にいるんだ?」
「あれっ、ちびっ子から聞いてないのか? ちびっ子に誘われたから、私達もスケッチ大会に
参加する事にしたんだってヴァ!」
「わ、私達は何も……」
あまりに予想外な事で、目を丸くしてしまう私。

そして、さらにその後ろには、
「あ、かがみさんとつかささんもこの電車だったんですね」
と、最初からこの企画にノリノリだったみゆきと、

「……おはようございます……」
静かな声の、ショートカットの1年生が控えていた。

「あー、みなみちゃん!」
「…おはようございます、つかさ先輩」
「おはよう! みなみちゃんも、スケッチしに来たの?」
「…はい、みゆきさんに誘われて…」
つかさがみなみちゃんと妙に仲がいいのが気になるが、なぜみなみちゃんがいるのかが聞けた
からいいとしよう。なるほど、みゆき自身「人数が多いほうがいい」と言っていたから、
それを実行した訳か。ちなみに4人ともちゃんとスケッチ用の道具を持ってきている。

と、ここでさっき私達が不思議に思っていた事の答えを見つけた。
なるほど、こなたには誰が来るかわかってて、私達を驚かすためにそれを黙ってやがったな。

さて、と。
現在の時刻、10時10分。集合時刻、11時。
現在の集合状況、私とつかさ、みゆきにプラス、こなたに誘われた日下部と峰岸、
みゆきに誘われたみなみちゃんの6人。まだこなたは来ていない。
電車は1時間に1本しかないので、11時までに来る電車はもうない。つまり、ここで
こなたの遅刻は決定的である。まあでも遅刻といってもほんの数分だろうし、大目に
見てやろう。ちゃんとした理由があるなら。
それに今までのサプライズからして、あと来るのはこなただけじゃない、と私は予想している。
例えば、ゆたかちゃんとか。
日下部達まで誘っておいて、こなたが従姉妹のゆたかちゃんを誘わない訳がないと思うし、
みなみちゃんも参加するって言ったら、ゆたかちゃんも積極的に参加してくると思う。

私は「そっか、さっきの叫び声は柊のだったんだなっ!」という日下部の話をスルーしつつ、
そんな事を考えながら、誰もいない駅の改札口を通過した。


駅舎を出てすぐ、
「「……わぁー……」」
私とつかさは感嘆の声を出した。
そこには、普段都会では見ることのできない、素晴らしい景色が広がっていた。
目の前には田んぼが山の麓まで見渡す限りに広がっていて、建物はその田んぼの中に家や
倉庫がちらほら建っているくらい。
そしてその山肌は、赤、黄色、オレンジ、綺麗なグラデーションで染まっていた。

「わ、すっげー! めちゃくちゃ綺麗なんだってヴァ!」
「……本当ねー……」
「……ええ、そうですね」
「……はい……」
日下部が率直な意見を言い、それに答える様に他の3人も感想を述べた。
周りがうっとりしているのに自分だけがはしゃいでいるのに気がついて、日下部は少し罰が
悪そうに押し黙った。

「……こなたのやつ、いいとこ見つけてきたじゃない」
「ええ、天気もいいですし、いいスケッチ大会になりそうですね」
小春日和の日差しの下、今日はいい日になることを望みつつ、私とみゆきはそう呟いた。
ホントは今からスケッチし始めたいんだけど、こなたが昨日「全員集まるまで始めちゃ
だめだよ」と連絡してきていたので、そのこなたが来るまでは開始できない。
だったら遅刻してくんなよとツッコミたくなるのをおさえて、私はこなたが来るまでラノベを
読んで待つことにした。ちなみにみゆきと峰岸とみなみちゃんもそれぞれが持ってきた本を
読み始め、日下部は時たま飛んでくる虫達を追い掛け回し、つかさはそれについていって、
たまに転びそうになったりしていた。

そして11時過ぎ、駅に次の電車がようやく滑り込んできた。
しばらくして、予想通り、
「おー、みんなー、おはよー。ちゃんと集合してるねー」
と、遅刻してもまったく反省した様子のないこなたと、
「あ、み、みなさん、おはようございます」
と、遅刻して、少し申し訳なさそうな顔をしたゆたかちゃんが駅舎出口から現れた。
しかし、
「やーすいません。遅刻してしまいまして……」
という少し大人しめな声と、
「Oh! みなさん、おそろいデスネー!」
少し変でハイテンションな日本語が聞こえてくるのは予想外だった。

「いやー、二人にはこの路線の始発駅で会ってね?」
「まさか1時間に1本しか電車がないなんて思わなかったんで、次の電車が来るまで待ち
呆けていたんスけど……」
「そしたらコナタとユタカがキタので、一緒に行くコトになったのデス!」
こなた、ひよりちゃん、パティちゃんの順番でいきさつを話し、私の「何で遅刻したんだ」
という質問には3人揃って「夜遅くまでチャットしてた」と答えた時は、怒りを通り越して
呆れてしまった。

「ごめんなさい……何度も起こしに行っても、お姉ちゃん、全然起きなくて……」
「あ、い、いいのよ! ゆたかちゃんは気にしなくて!」
ゆたかちゃんが本当に申し訳なさそうにしていたので、私は慌ててなだめて、
「……あそこにいるオタクな姉のせいなんだから、気に病むことはないわ」
とジト目でこなたを見ながらそう囁いた。



「さて、じゃあ遅くなったけど、これから第20回陵桜学園スケッチ大会を始めるよー!」
誰のせいで遅くなったんだ、とか、第20回って何だよ、とかツッコミ所はいろいろと
あったが、ともかくようやくこなたの開会宣言でスケッチ大会が始まることになった。

「ルールはまず、2人1組になってある場所に行って、そこでその場所に合ったお題を
各自で見つけて、それをスケッチしてきてね。制限時間は移動距離が長い人もいるから、
12時から2時半までの2時間半。2時半になったらここまで戻ってきて、ある人が審査して
くれるから、それが終わったら結果発表。優秀だった人には賞品もあるから、それを目指して
頑張ってねー。何か質問のあるひとー?」
「組分けって、どうやってするの?」
とりあえず私が気になることを尋ねる。
「それは後で説明するから。はい、他にはー?」
「なぁなぁ、賞品って何だ?」
今度は日下部が目をキラキラさせて尋ねた。
「それも後で。じゃあ、組分けを始めるよー」
……何か冷たいな、今日のこなたは……
一通りのルール説明も終わり、こなたがポケットから取り出したのは……

「……爪楊枝?」
「そう! 組分けと言ったら、やっぱりこれでしょー!」
と、テンションやや高めのこなた。同じくひよりちゃんとパティちゃんも
「やはりそうきましたか!」
「Oh! 一度ヤッテみたかったんデス!」
と、結構ハイになっている。

「ささ、一人一本ずつ引いて引いて。楊枝は色分けしてあるから、同じ色の人同士でペアに
なってねー」
そういって、こなたはその爪楊枝を一本引いた。続いてみんなが順番に爪楊枝を引いていく。

「色で行く場所も分けてあるから、ペアが決まったらその場所に行ってね。地図もここに
あるから、ペアの色のやつを持っていってね。12時には地図に示した所にいて、12時に
なったら地図に描いてある範囲でスケッチを始めてねー」
私達はこなたに言われた様に同じ色の爪楊枝を持った人を探してペアを組み、その色の地図を
こなたから受け取った。


「……それではスケッチ大会、よーい、スタート!」







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  • 面白いです! -- チャムチロ (2012-11-02 12:10:35)

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