休み時間。教室の出入り口からツインテをひょっこり覗かせ、かがみがやってきた。
「つかさ、この前辞典貸したよね。次の時間使うから返してくれない?」
「うん。でも、辞典ってどの辞典……?」
ロッカーを開けると、大小様々な背表紙がずらり。
和英・英和・漢和・古語・国語・世界史・日本史――なぜか五巻セットの百科事典まで。
「うわ、これ全部つかさに貸してたんだっけ……すっかり忘れてたわ」
「私も、なかなか使わないからずっと置きっぱなしで……」
「はは……」
「あはは……」
双子姉妹、揃って苦笑の後、ちいさな溜息。
「つかさ、この前辞典貸したよね。次の時間使うから返してくれない?」
「うん。でも、辞典ってどの辞典……?」
ロッカーを開けると、大小様々な背表紙がずらり。
和英・英和・漢和・古語・国語・世界史・日本史――なぜか五巻セットの百科事典まで。
「うわ、これ全部つかさに貸してたんだっけ……すっかり忘れてたわ」
「私も、なかなか使わないからずっと置きっぱなしで……」
「はは……」
「あはは……」
双子姉妹、揃って苦笑の後、ちいさな溜息。
「まるで仮設図書室 in 3Bだね」
二人のやりとりを観賞していたこなたが軽く感想を漏らす。
「電子辞書なら一つあればいいのに、どうして人は紙媒体を捨てきれないんだろう」
「電池が切れたら金属の塊になるからじゃない? というか、あんたも紙の辞書を愛用してなかった?」
「そうだけど。細かいことは置いとこうよ」
哲学のような禅問答のような、些末な疑問は発問者こなたの手によって流された。
「辞書で思い出したんだけどさ、広辞苑が改訂されるらしいね」
「例の分厚い奴?」
「なんでも、メタボやニートが追加されるんだって」
ニュースソースからの受け売りだった。
「あれって一度載せた単語は消さないんじゃなかった? ニートなんて載せてもいいのか」
「『日本語として定着した』って判断したみたいだし、いいんじゃない。でも萌えとかクールビズは入れなかったって」
「岩波も、そのへんは弁えてるわね」
「もし萌えの項目が耄碌《もうろく》の後にあったら、なんて解説が書かれてたことやら……」
「うーん……ちょっと想像できないよね」
二人のやりとりを観賞していたこなたが軽く感想を漏らす。
「電子辞書なら一つあればいいのに、どうして人は紙媒体を捨てきれないんだろう」
「電池が切れたら金属の塊になるからじゃない? というか、あんたも紙の辞書を愛用してなかった?」
「そうだけど。細かいことは置いとこうよ」
哲学のような禅問答のような、些末な疑問は発問者こなたの手によって流された。
「辞書で思い出したんだけどさ、広辞苑が改訂されるらしいね」
「例の分厚い奴?」
「なんでも、メタボやニートが追加されるんだって」
ニュースソースからの受け売りだった。
「あれって一度載せた単語は消さないんじゃなかった? ニートなんて載せてもいいのか」
「『日本語として定着した』って判断したみたいだし、いいんじゃない。でも萌えとかクールビズは入れなかったって」
「岩波も、そのへんは弁えてるわね」
「もし萌えの項目が耄碌《もうろく》の後にあったら、なんて解説が書かれてたことやら……」
「うーん……ちょっと想像できないよね」
「萌えってさ、実際に見てみないと解らないものだよね。百聞は一見にしかずのいい例だよ」
「たしかに、こなちゃんから説明されてもピンとこないときもあるし」
「その点、このクラスにはみゆきさんという歩く辞書がいるから困らないね」
別の場所で作業をしていたみゆきが振り返る。
「……なにか?」
「ちょっとね。みうぃ……みゆきさんは生き字引だなあって」
「いえいえ、そんなことは」
「ゆきちゃんは実際すごいよね」
「天然系、眼鏡っ娘、ドジっ娘、委員長、きょぬー、お嬢様、雑学王、完璧超人、聖人君子、歯医者、うにょーんetc...」
「最後のほう変なの混じってるわよ」
「解説と、対応するみゆきさんの行動を一緒に載せたら一冊の辞典なるよ。題して萌辞苑」
「は、はあ」
「みゆきをおいてけぼりにして妄走しない。気にしなくていいわよ」
「そうですか……」
腑に落ちない表情で、妄進を続けるこなたを見守る。
「萌える○○シリーズみたいに出してみたら案外ヒットするかもよ? あ、自費出版で同人誌って体系でもいいか。それならひよりんに委託して――」
「だめだこりゃ」
お決まりのオチが出たところで、授業開始五分前を知らせる予鈴が鳴った。
「たしかに、こなちゃんから説明されてもピンとこないときもあるし」
「その点、このクラスにはみゆきさんという歩く辞書がいるから困らないね」
別の場所で作業をしていたみゆきが振り返る。
「……なにか?」
「ちょっとね。みうぃ……みゆきさんは生き字引だなあって」
「いえいえ、そんなことは」
「ゆきちゃんは実際すごいよね」
「天然系、眼鏡っ娘、ドジっ娘、委員長、きょぬー、お嬢様、雑学王、完璧超人、聖人君子、歯医者、うにょーんetc...」
「最後のほう変なの混じってるわよ」
「解説と、対応するみゆきさんの行動を一緒に載せたら一冊の辞典なるよ。題して萌辞苑」
「は、はあ」
「みゆきをおいてけぼりにして妄走しない。気にしなくていいわよ」
「そうですか……」
腑に落ちない表情で、妄進を続けるこなたを見守る。
「萌える○○シリーズみたいに出してみたら案外ヒットするかもよ? あ、自費出版で同人誌って体系でもいいか。それならひよりんに委託して――」
「だめだこりゃ」
お決まりのオチが出たところで、授業開始五分前を知らせる予鈴が鳴った。
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- これが本当の“好事苑”だなw -- 名無しさん (2007-10-29 20:10:08)