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404名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:42:11ID:vYFA5ojZ
(Sick Bay)

 初夏の日差しが、学校の壁沿いに植えられた樹木を包む濃緑色の葉達を鮮やかに
照らしている頃、温厚そうな雰囲気を纏う女性が、校舎の出入り口から校庭へ出よう
と歩いていた。
 同じ時刻、肩のあたりまで黒髪を伸ばした少女が、セーラーの裾を翻しながら、
校庭から出入り口に駆け込んでくる。
 急速に近づく両者だったが、林立する下駄箱が死角になって、お互いの存在に
気づかないまま、校舎と校庭の境界線でまともに衝突した。

「うう…… 」
「う」
 ダメージが比較的少なかった少女が、頭をかかえながらなんとか立ち上がる。
そして、倒れこんだままの女性の掌を取ると、相手も腰をあげることができた。
「だいじょうぶですかー あっ」
「ありがとう」
 ゆるいウエーブがかかっている長髪を、僅かに揺らしながら礼を述べた。

405名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:43:29ID:vYFA5ojZ
「あの~ 木村先生の奥さんです?」
「そうよ。ごめんなさいね。貴方痛くなかった? 」
「私は大丈夫なんですけど。奥さんはどうなんですか」
 丁寧な言葉遣いのまま、木村先生の奥さんの瞳を覗きこんだ。
「大丈夫。心配しないで。それから私に敬語を使わなくてもいいのよ」
 子持ちの女性とは思えないほどの、鈴の鳴るような可愛らしい声が
少女の耳に届いた。

 しかし、大阪と呼ばれる少女は、気がかりな事を見つけて心配げに尋ねる。
「ちょっと顔色が良くないと思うんやけど」
「そうかしら…… 」
 幾分、火照った顔に頬をあてて、困った表情を浮かべる。
「少し休んでいくとええよ」
「でも…… 」
 軽く首を振ろうとしたが、自分の調子の悪さは自覚していたようで、彼女は
素直に少女の後に従った。


406名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:44:30ID:vYFA5ojZ
 灰色がかった白を基調とした、学校では特別な空間、保健室。
 木製の扉を軋んだ音を立てながら開けて、頭を抑えた女性を椅子に座らせると、
大阪は戸棚から慣れた手付きで市販薬を取り出した。

「半分が優しさでできているのにするでー 」

 大阪は、水を満たしたコップと錠剤を渡す。
「ありがとう」
 頬にかかった髪を軽くかきあげながら、彼女はやや大きめな錠剤を、水と一緒に
飲み込んだ。
「しばらく、やすんでいくとええよ」
「ごめんなさいね。でも、貴方はだいじょうなの? 」
 時間は九時半をまわっていた。当然、学校の授業は始まっているのだけど、
大阪は軽く首を振った。

「困っている人がおったら、助けなあかん 」
 遅刻という、多くの生徒が動揺する事態には、大阪はあまり頓着していない。
 もっとも、真面目そうな雰囲気を持っている少女ではあるが、実は寝坊による
遅刻が結構多い。ある意味で開き直っているといえるかもしれない。

407名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:45:39ID:vYFA5ojZ
 木村先生の奥さんは、暫くの間、時々眉をしかめながら横になっていた。
 しかし、渡された市販薬はかなりの即効性があり、三十分もしないうちに
ずいぶんと具合が良くなってくる。
 そして、時計の針が十時を回る頃にはベッドから身体を起こした。
「ありがとう。だいぶ落ち着いたわ」
「よかったで。ほんでも…… 」
「どうしたのかしら? 」
 大阪は指先をあごに当てたまま首を捻ると、真剣な顔つきで尋ねる。
「なんか心配事でもあるのん? 」

「あっ、あの、大した事ないわ」
 何故か、顔を真っ赤にして木村先生の奥さんは大きく首を振った。
「どないしたん? 」
 動揺をはっきりみせてしまい、更に心配そうにみつめてくる。
「えっと、その、あのね」
 その場しのぎの言葉でごまかすことは簡単だ。しかし、とても優しくしてくれた
少女に嘘をつくことに対して、猛烈な罪悪感がわきあがってしまう。
 最終的には、この子なら誰にも言わないだろうという、確信めいた直感が彼女の
背中を押した。

408名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:46:36ID:vYFA5ojZ
「他の子には内緒にしてくれる? 」
「ええよ」
 あっさりと大阪は頷き、余計な言葉を挟まずに静かに待つ。
 木村先生は大きく息を吸うと、ゆっくりと話し始めた。

「私ったら駄目ね。またお寝坊しちゃって、主人にお弁当を届けにきたんだけど」
 てへっと、小さく舌を出す仕草は、少女のような可憐な雰囲気すら垣間見える。
「お弁当は渡せたん? 」
「ええ。あの人、職員室にいたわ」
 なおも逡巡していたが、ついに決心して重い言葉が紡がれる。
「最近、夜がご無沙汰なの…… 」

「え!? 」
 きょとんとしている少女を傍目に、奥さんはぽつりと語りだす。
「あの人、最近帰りがとても遅いのよ。帰ってもいろいろと、お仕事を持ち帰って
いてね。ほら、新年度になって三年生の担任になったでしょう。だから生徒さん
たちの進路の事とかいろいろ忙しくって、だから…… 」
「あー そうゆうことなんや」

 ようやく納得することができて、腕を組みながら何度も頷く。
「木村先生も大変やなあ」
「あの人の事、大好きなのに。何もしてあげられなくて。それなのにこんなエッチ
ことばっかり考えている自分が情け無くって」
 辛そうな表情で告白すると同時に深いため息をつく。憂色が濃くなった彼女の顔は
かなり艶かしい。
 大阪には、『あの』木村先生を愛する奥さんの心情は良く分からなかったが、
深く悩んでいる事は、正しく理解することができた。

409名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:47:38ID:vYFA5ojZ
 なおも暫くの間、大阪は沈黙を保っていたが、急にぽんっと両手を叩いた。
「そや! ええこと思いついたで! 」
 黒曜石のような瞳を爛々と輝かす。
「えっ? 」 
 戸惑っている奥さんにむけて、満面の笑みを浮かべながら近づくと、白い
ベッドに腰掛ける。
「私がかわりに、なぐさめたる! 」
「あ、あの? 」
 戸惑った表情を浮かべて、小首をかしげた女性の首筋に腕をのばして絡めると、
温かい体温が直に伝わる。

「キス…… してもいいのん? 」
 上目遣いであどけない表情に、少しだけ期待を込めた表情で見つめる。
「ええ…… 」
 何か不思議な魔法をかけられたように、反射的に頷いてしまう。

「ほな、いくでー 」
 大阪はゆっくりと小ぶりな唇を閉ざして、木村先生の奥さんの口元を塞ぐ。
「ん…… 」
 微かにくぐもった声が漏れる。小さな息遣いとともに、柔らかい唇が少しずつ
動いていき、むずがゆい感触が身体を震わす。
 大阪は、暫くは軽い口付けを愉しんでいたが、やがて満足できなくなって、
ゆっくりと唇の間に短い舌を割り込ませる。

410名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:48:44ID:vYFA5ojZ
「んんっ! 」
 木村先生の奥さんは、驚いて大きく瞼を開いたが、少女の舌の動きは絶妙で
蕩ける様な快感が、彼女の理性を痺れさせる。
「ん…… んあっ…… 」
 シーツの裾をぎゅっと握り締め、深いディープキスをなんとか受け入れる。
 相手が同性で、もしかしたら、愛する夫の教え子かもしれないという、
かなり倒錯した状況に戸惑い、混乱し、身をまかせるままになってしまっている。
 一方、大阪の舌は確実に、頬の裏側や歯茎のあたりまでを丹念に舐め取っていく。

「くう…… んあっ」
 大阪は十分に愉しんだ後、ゆっくりと顔を離して、小さく舌を出した。
「残念やけど…… これ以上はあかんねん」

 キスだけで身を引いた少女にほっと胸をなでおろしながら、彼女は少しだけ
寂しさも感じてしまい。思いがけない言葉が口から漏れる。
「私から、貴方にお願いがあるわ」
「なんや? 」
「少しだけ一緒にベッドに入って欲しいの」
「ええよ」
 快諾した大阪が、木村先生の奥さんが横になっていたシーツにもぐりこむと、
体温で既に温かくなっている。
 少女が掌をのばして手を握ると、軽く握り返された。

411名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 00:49:59ID:vYFA5ojZ
「なあなあ。奥さんってやー いつも木村先生とこんな感じで寝てるん? 」
「ええ、そうね。でも最近はあのひと、疲れてすぐ眠ってしまうの 」
「結婚して良かったとおもてるん? 」
 大阪は、白い天井に嵌め込まれた蛍光灯を見上げながら尋ねる。
「もちろんよ。すごく幸せで怖いくらい」

 新婚さんみたいな言い方に、大阪は羨ましそうな表情で呟いた。
「私も、いつか結婚できるんやろか」
「あなたはとっても魅力的だから、きっといい人があらわれるわ」
 制服姿の少女を横目でみながら、木村先生の奥さんはやんわりと微笑む。

「ごめんなさいね。申し訳ないけど、ちょっと疲れたから、少しお休みさせて
いただくわ」
「ええで。私がつきそったるねん」
 のんびりとした声に安心したのか、穏やかな微笑を浮かべたまま、彼女は
ゆっくりと瞼を閉じた。

 三時間目の終了後、保険体育を担当する黒沢教諭が、保健室のベッドで隣の
クラスの女子生徒と古文を担当する教師の妻が、手を繋いだまま熟睡している
姿を発見して、しばし呆然とした後、頭をかかえながら起こした。
 目を覚ました木村先生の奥さんに、大阪への感謝と絶賛を、熱い口調で語られた
為に、連絡を受けて来た担任の谷崎教諭も、遅刻と無断欠席という二重の
違反を犯した少女を責める事はできなくなってしまった。

 教師二人がその夜飲みに行った居酒屋で、あの倒錯的な状況の分析に二時間を
費やした挙句、納得のいく答えが見つからずに酷い悪酔いしたのは余談である。

(終わり)