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718名前:ラッキープール、雨天決行[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 17:28:57ID:4abNXDJf
「ちょっとゆかり!起きなさいよ」
「ん…?にゃも…?」
寝起きの目に、照りつける日射しが眩しい。
「ほら、もう終わったから帰るわよ」
「…帰る?」
生暖かい風の中にみなもの声が響き、ぼんやりした意識の中では、少しずつ状況が整理されていく。
青い空に白い雲。
水着のみなも。
塩素のにおい。
「…プール」
「何言ってんのよ…」
ゆかりは、閉じようとする目をこすって立ち上がると、めいっぱい伸びをした。
「さあ、シャワー浴びて」
部活の指導よりも、ゆかりのお守りに疲れたのか…、みなもは呆れた顔でため息をついた。

719名前:ラッキープール、雨天決行[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 17:30:15ID:4abNXDJf
更衣室の横に備え付けられたシャワーは、塩素を洗い流すためだけの簡易的なものだ。
温度の調節もできず、申し訳程度の薄い板が個々の空間を仕切っている。
「うわー冷たい…」
隣に入ったはずのゆかりは、不満そうな声とともにみなもの個室に顔を覗かせた。
「それで目ぇ覚ましなさいよ」
「何だよー。シャワーもにゃもも冷たいなぁ…」
「何よそれ…」
もう眠気はないのか饒舌になりはじめたゆかりは、じりじりとみなもの後ろに近付いてくる。
「こっち来たってお湯は出ないわよ」
背を向けて冷たい言葉であしらうが、その口調に厳しさはない。
甘えるゆかりに呆れた言葉を返すのは、二人の間の…お約束、のような。
それを感じとったゆかりも、みなもの首に腕をまわして湿った体を押し付ける。
「んー、やっぱスポーツしてるヤツの体は違うね」
「もう、帰ってからにしなさいよ…」
「えー、うち暑いじゃん」
多少遠慮があるのか、それとも大きな声を出す必要もないほど接近しているからか、二人は小声で話している。
ゆかりは背中に頬を押し当てると、
「にゃも~、こっち向けよ~」
精一杯の猫撫で声で囁いた。

720名前:ラッキープール、雨天決行[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 17:31:07ID:4abNXDJf
校庭の方から、生徒の笑い声が聞こえる。
ふと、水泳部の子達はもう帰ったのだろうか…と、みなもは思った。
「あの子達、もう帰ったかな」
問いかけるわけでもなく呟いて振り返ると、満足そうな笑顔がみなもを見上げている。
「鍵、あんたが持ってんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、もう帰ったわよ。こんな暑い中わざわざ残ってる意味なんてないじゃない」
「…そうね」
普段通りの口調で会話を続けつつも、ゆかりは目を細め、腕を絡めてくる。
みなもはそれに応えるわけでもなく立っていたが、
お互いの呼吸が肌で感じられる距離まで顔が近付くと、やんわりとゆかりを抱き寄せた。
剥き出しのコンクリートに背中を預け、先に目を閉じたみなもの鼻に…、
何か冷たいものが当たった。
「…ん?」
「どした?」
「…雨」
見上げると、さっきまで真っ青だった空は薄暗い雲に覆われている。
きょとんとする二人の表情は、次第に大きくなる雨粒とともに歪んでいった。
「うわ、降ってきた…」
「しょうがない…とりあえず更衣室に避難しよっか」

721名前:ラッキープール、雨天決行[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 17:31:47ID:4abNXDJf
腕を解いて歩きだそうとするみなもの体を、強い力がコンクリートの壁に押し返す。
「何よ!?」
「いいじゃん、どうせ通り雨だよ!もう濡れてるんだし一緒だって」
ゆかりは、じゃれるように体をくねらせ、逃げようとする体を押さえ付ける。
変に楽しそうな、妙な笑顔を浮かべながら。
「ちょっと…」
「へへ」
そうしている間にも、本格的…どころではない激しさで雨は降り続いている。
この近さでも、小声ならかき消されてしまいそうだ。
「いい加減更衣室…」
雨の中。
突然の攻撃に、目を閉じる暇もなかった。
言葉を封じるように覆いかぶさった唇は、雨粒が入ることさえ拒むほど密着している。

その感触を味わう隙すら与えないほど激しく動く舌に、みなもは応えずにいられなかった。

とろんとした瞼を思い出したように閉じると、
強い雨音とは別に、内側から、粘っこい液体の絡まる音が聞こえた。


雨水は二人の体をつたい、摺り寄せる肌の隙間を埋める。
雨がやむまでこうしていたら…
流れる水とともに、とろけてしまうんではないだろうか。
そんな考えが…、すでにとろけ始めたみなもの頭の中にぼんやりと浮かんだ。

722名前:ラッキープール、雨天決行[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 17:33:44ID:4abNXDJf
「あうー、なんかだるい…。あ!」
助手席でゆかりが鞄の中をあさっている。
「これ持ってきたんだった」
「…運転中に余計なことしないでよ」
「じゃーん、ビール!」
プールサイドで飲むつもりだったのか…、ゆかりの手には銀色の缶が握られていた。
「うわ…、あんたねぇ」
「げ、なんかぬるくなってる…。にゃもにあげるよ」
みなもは、差し出された手を無視してアクセルを踏むと、
「バカ」
一言だけつぶやいた。

「あれ?どこ行くの?」
柔らかい陽射しが戻ってきた午後、みなもは、ゆかりの家とは反対にハンドルを切った。
「あんたんち、暑いんでしょ?」

《おわり》

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