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「703」(2007/06/16 (土) 08:12:36) の最新版変更点

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<dl> <dt><a href="menu:703" target="_top" name="703">703</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:54:26 <a href="id:703" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「ねー、学祭どうする？行く？」 長かった夏休みは終ったけど、お休み気分はまだまだ抜けへん。 和らいできた暑さが唯一の救いの十月初め。 夕飯を片付けながらともちゃんが言った。 「えー、どうしょうな…」 私達の通う大学は、当然やけど学祭の間は授業がなくなる。 サークルやら学部やらで出しものをすれば、普段より忙しくなるんやろけど… 予定のない私らみたいな学生には、学祭の三日間…いや、水木金と開催されるわけやから… 土日も含めて都合五日間が連休ということになる。 私はお祭り大好きやし、高校のときも文化祭はすごい楽しみやった。 たこやき、焼きそば、喫茶店…、お化け屋敷は苦手やけど…祭って、雰囲気が好きやねん。 でも… 「行ってもええけど…、」 「…？」 せっかく五日もお休みなんやから、ともちゃんと二人で過ごしたいよなぁ…。 「行こっか？せっかくだし」 「ん？う～ん…、えぇけど…」 こういうとき、思いっきり甘えれへん自分がちょっと悲しい。 さらっと、学祭よりともちゃんと一緒におりたいな…って言えたら… ともちゃんも喜ぶんかなぁ。 「んー…どうしよう」 私の煮えきらん態度に呆れたんか、疲れたんか… ともちゃんは、フローリングにばたっと倒れてしまった。 </dd> <dt><a href="menu:704" target="_top" name="704">704</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:55:32 <a href="id:704" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>開け放った窓から柔らかい風が入ってくる。 …涼しなったなぁ。 「…あ！」 「ん？どないしたん？」 「うちの高校の文化祭ってさぁ、次の水曜じゃない？それ行こーよ！」 あ、日程重なっとるんやったっけ。 「あれって私ら行ってもえーの？」 「去年神楽が、水泳部の先輩が来るって言ってたから…卒業生はいいんじゃない？」 高校か…。 ゆかり先生も、にゃも先生もおるし…。 「ええよ！…でも学祭は？」 ともちゃんは、仰向けのまま首だけこっちに向くと、 「水曜は文化祭デート。木金土日は…」 にやっと笑う。 「学祭なんかより、あゆと一緒にいたいかな」 </dd> <dt><a href="menu:705" target="_top" name="705">705</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:56:24 <a href="id:705" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd> 真っ青な空が少し低く感じる、秋晴れの平日。 半年ぶりに歩く母校への通学路は、高校生やった頃よりも、ちょっとだけ長く感じた。 「全然変わっとらんなぁ」 「…そりゃ一年も経ってないしな」 昨日の夜に選んだ、一番のお気に入りのワンピースが大人っぽい…と思う。 「私ら、大学生に見えとるかな？」 「…まぁ、私服だしなぁ」 別によく知った後輩がおるわけでもないんやけど、周りの視線を気にしてまう。 ちょっとでも大人に見られたいと言うか…。 大学生やし…。 「お、にゃもちゃんだ！にゃもちゃ～ん」 え？あ、ほんまや。 「こんにちは。お久しぶりです」 「あら、珍しいじゃない。どうしたのよ？」 「学祭で講義がないんで、ぶらっと。…あ、ゆかりちゃん！おーい」 久しぶりとはいえ、たった半年。 変わったものなんかほとんどなかった。 学校も、先生も、…私達も。 </dd> <dt><a href="menu:706" target="_top" name="706">706</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:57:50 <a href="id:706" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>お昼は、どこも満席やった。 「入れそうにないなー。何か買って適当に食べるか」 「ほな、あれにしよ」 八個入りで200円…、激安のたこ焼き。 利益出るんかなぁ？ 「どこで食べよっか？」 「うーん、教室は全部つことるしな…。外に出る？」 「校庭か…。あ！あそこがいいじゃん」 上に向いた人さし指は、天井を指しとる。 「…上…？」 「屋上」 粉っぽいたこ焼きは、値段通りの味やった。 「んー、あんましおいしくなかったな」 さすがに文化祭中とあって、屋上には私ら以外誰もおらんかった。 楽しそうな声が、遠くから聞こえる。 「高いとこで食べたらおいしいと思ったんだけどな…」 高いとこ…高いとこ…。 どっかで聞いたような…。 「あ！ともちゃん！」 「何だよ？急に」 思い出した。 「私な、前から行ってみたかったとこがあるねん」 真っ青な空を独り占めしとる私らより、もうちょっとだけ高い位置にある… 入り口の上の貯水槽のとこ。 「あそこが、この学校で一番高い」 </dd> <dt><a href="menu:707" target="_top" name="707">707</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:58:47 <a href="id:707" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>歩が指さしたのは、ここよりも少しだけ空に近い場所だった。 「なー、行ってみよ」 まったく…、高いとこが好きなのは何だったっけ？ 煙？…と、馬鹿か。 「よし！行くか。私も馬鹿だしな」 「…？何言うてんの？」 「いいから！」 不思議そうな顔の歩を引っ張って、はしごを登る。 ほとんど使われていないのか、金属の軋む音が地味に怖い。 「…よいしょっと。お～！高ぇ！」 ２、３メートル上がっただけのはずなのに…、 その場所から見る景色は、さっきよりもずっと広く、大きく開けていた。 「う…。なんか怖いかもしれへん」 歩は、自分が言い出したくせに、私の袖を引っ張って離さない。 「ともちゃん、座っとこよ…」 彼女に促されて腰を下ろすと、よっぽど怖かったのか腕にぎゅっとしがみついてきた。 「何でこんなとこ来たいと思ったんだよ？」 「え…？なんやったっけな…？昔行きたいと思てたはずなんやけど…」 少し慣れてきたのか、落ち着いた口調で話している。 </dd> <dt><a href="menu:708" target="_top" name="708">708</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:59:50 <a href="id:708" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「昔ねぇ…」 そうは言っても、一年も経っていないわけで…。 それでも、こんなにも懐かしく感じるのは、この半年が忙しすぎたからかもしれない。 「あんま覚えてないけど…でも、あゆとこんな風になるとは夢にも思わなかったよ」 大学受かって、一緒に暮らして、今日ここで二人でくっついて。 「まぁ、昔の私に言っても信じないだろうな」 「えへへ、そうなんや…」 肩に頭を預ける歩は、もう怖くないはずなのに、私に絡ませた腕の力を強めた。 「私はな、ずっとずっと前からともちゃんのこと好きやったよ」 告白の時に聞いた、でも何度聞いても胸が締め付けられる言葉。 青空をバックに笑う歩むは、そのままどこかへ飛んでいきそうなほど輝いている。 「そやから…昔の私に、ともちゃんに好きになってもらえるって言うたら驚くやろなぁ」 見下ろすと、だだっ広い屋上には申し訳程度の植木が置いてある。 …いつだったか…。 歩とちよちゃんと、あそこで寝ちゃったことがあったな…。 おい、滝野智！ お前は隣で寝てる春日歩のことを、他のなによりも大切だと思う日が来ます。 しっかり幸せにするように！ 心の中で叫ぶと、どこからか「うっそだー」と笑う声が聞こえた。 </dd> <dt><a href="menu:709" target="_top" name="709">709</a> 名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 17:00:19 <a href="id:709" target="_top">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「よし、帰るか！」 「え？まだお昼やで？今日は文化祭デートちごたん？」 懐かしさはもう充分味わった。 この景色は、私の中のガラスケースにしまっておくことにしよう…。 こういうのは、時々取り出して眺めるくらいがちょうどいいんだから。 それよりも、今の私には、組み立てて磨かなきゃならないものがある。 「じゃあ、予定変更」 私が気付かない間にこの子が注いでくれた愛情を、過去に戻って汲み取ることはできない。 でも…、これからその分を取り戻すことはできると思うんだ。 「今から連休に入ります。日ごろの忙しさを忘れて、お家で仲良く過ごしましょう」 《おわり》 </dd> </dl>

<dl> <dt><a target="_top" href="menu:703" name="703">703</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:54:26<a target="_top" href="id:703">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「ねー、学祭どうする？行く？」 長かった夏休みは終ったけど、お休み気分はまだまだ抜けへん。 和らいできた暑さが唯一の救いの十月初め。 夕飯を片付けながらともちゃんが言った。 「えー、どうしょうな…」 私達の通う大学は、当然やけど学祭の間は授業がなくなる。 サークルやら学部やらで出しものをすれば、普段より忙しくなるんやろけど… 予定のない私らみたいな学生には、学祭の三日間…いや、水木金と開催されるわけやから… 土日も含めて都合五日間が連休ということになる。 私はお祭り大好きやし、高校のときも文化祭はすごい楽しみやった。 たこやき、焼きそば、喫茶店…、お化け屋敷は苦手やけど…祭って、雰囲気が好きやねん。 でも… 「行ってもええけど…、」 「…？」 せっかく五日もお休みなんやから、ともちゃんと二人で過ごしたいよなぁ…。 「行こっか？せっかくだし」 「ん？う～ん…、えぇけど…」 こういうとき、思いっきり甘えれへん自分がちょっと悲しい。 さらっと、学祭よりともちゃんと一緒におりたいな…って言えたら… ともちゃんも喜ぶんかなぁ。 「んー…どうしよう」 私の煮えきらん態度に呆れたんか、疲れたんか… ともちゃんは、フローリングにばたっと倒れてしまった。 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:704" name="704">704</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:55:32<a target="_top" href="id:704">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>開け放った窓から柔らかい風が入ってくる。 …涼しなったなぁ。 「…あ！」 「ん？どないしたん？」 「うちの高校の文化祭ってさぁ、次の水曜じゃない？それ行こーよ！」 あ、日程重なっとるんやったっけ。 「あれって私ら行ってもえーの？」 「去年神楽が、水泳部の先輩が来るって言ってたから…卒業生はいいんじゃない？」 高校か…。 ゆかり先生も、にゃも先生もおるし…。 「ええよ！…でも学祭は？」 ともちゃんは、仰向けのまま首だけこっちに向くと、 「水曜は文化祭デート。木金土日は…」 にやっと笑う。 「学祭なんかより、あゆと一緒にいたいかな」 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:705" name="705">705</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:56:24<a target="_top" href="id:705">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd> 真っ青な空が少し低く感じる、秋晴れの平日。 半年ぶりに歩く母校への通学路は、高校生やった頃よりも、ちょっとだけ長く感じた。 「全然変わっとらんなぁ」 「…そりゃ一年も経ってないしな」 昨日の夜に選んだ、一番のお気に入りのワンピースが大人っぽい…と思う。 「私ら、大学生に見えとるかな？」 「…まぁ、私服だしなぁ」 別によく知った後輩がおるわけでもないんやけど、周りの視線を気にしてまう。 ちょっとでも大人に見られたいと言うか…。 大学生やし…。 「お、にゃもちゃんだ！にゃもちゃ～ん」 え？あ、ほんまや。 「こんにちは。お久しぶりです」 「あら、珍しいじゃない。どうしたのよ？」 「学祭で講義がないんで、ぶらっと。…あ、ゆかりちゃん！おーい」 久しぶりとはいえ、たった半年。 変わったものなんかほとんどなかった。 学校も、先生も、…私達も。 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:706" name="706">706</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:57:50<a target="_top" href="id:706">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>お昼は、どこも満席やった。 「入れそうにないなー。何か買って適当に食べるか」 「ほな、あれにしよ」 八個入りで200円…、激安のたこ焼き。 利益出るんかなぁ？ 「どこで食べよっか？」 「うーん、教室は全部つことるしな…。外に出る？」 「校庭か…。あ！あそこがいいじゃん」 上に向いた人さし指は、天井を指しとる。 「…上…？」 「屋上」 粉っぽいたこ焼きは、値段通りの味やった。 「んー、あんましおいしくなかったな」 さすがに文化祭中とあって、屋上には私ら以外誰もおらんかった。 楽しそうな声が、遠くから聞こえる。 「高いとこで食べたらおいしいと思ったんだけどな…」 高いとこ…高いとこ…。 どっかで聞いたような…。 「あ！ともちゃん！」 「何だよ？急に」 思い出した。 「私な、前から行ってみたかったとこがあるねん」 真っ青な空を独り占めしとる私らより、もうちょっとだけ高い位置にある… 入り口の上の貯水槽のとこ。 「あそこが、この学校で一番高い」 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:707" name="707">707</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:58:47<a target="_top" href="id:707">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>歩が指さしたのは、ここよりも少しだけ空に近い場所だった。 「なー、行ってみよ」 まったく…、高いとこが好きなのは何だったっけ？ 煙？…と、馬鹿か。 「よし！行くか。私も馬鹿だしな」 「…？何言うてんの？」 「いいから！」 不思議そうな顔の歩を引っ張って、はしごを登る。 ほとんど使われていないのか、金属の軋む音が地味に怖い。 「…よいしょっと。お～！高ぇ！」 ２、３メートル上がっただけのはずなのに…、 その場所から見る景色は、さっきよりもずっと広く、大きく開けていた。 「う…。なんか怖いかもしれへん」 歩は、自分が言い出したくせに、私の袖を引っ張って離さない。 「ともちゃん、座っとこよ…」 彼女に促されて腰を下ろすと、よっぽど怖かったのか腕にぎゅっとしがみついてきた。 「何でこんなとこ来たいと思ったんだよ？」 「え…？なんやったっけな…？昔行きたいと思てたはずなんやけど…」 少し慣れてきたのか、落ち着いた口調で話している。 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:708" name="708">708</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 16:59:50<a target="_top" href="id:708">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「昔ねぇ…」 そうは言っても、一年も経っていないわけで…。 それでも、こんなにも懐かしく感じるのは、この半年が忙しすぎたからかもしれない。 「あんま覚えてないけど…でも、あゆとこんな風になるとは夢にも思わなかったよ」 大学受かって、一緒に暮らして、今日ここで二人でくっついて。 「まぁ、昔の私に言っても信じないだろうな」 「えへへ、そうなんや…」 肩に頭を預ける歩は、もう怖くないはずなのに、私に絡ませた腕の力を強めた。 「私はな、ずっとずっと前からともちゃんのこと好きやったよ」 告白の時に聞いた、でも何度聞いても胸が締め付けられる言葉。 青空をバックに笑う歩むは、そのままどこかへ飛んでいきそうなほど輝いている。 「そやから…昔の私に、ともちゃんに好きになってもらえるって言うたら驚くやろなぁ」 見下ろすと、だだっ広い屋上には申し訳程度の植木が置いてある。 …いつだったか…。 歩とちよちゃんと、あそこで寝ちゃったことがあったな…。 おい、滝野智！ お前は隣で寝てる春日歩のことを、他のなによりも大切だと思う日が来ます。 しっかり幸せにするように！ 心の中で叫ぶと、どこからか「うっそだー」と笑う声が聞こえた。 </dd> <dt><a target="_top" href="menu:709" name="709">709</a>名前：ベーコン2[sage] 投稿日：2007/06/12(火) 17:00:19<a target="_top" href="id:709">ID:</a>3Syj1H35</dt> <dd>「よし、帰るか！」 「え？まだお昼やで？今日は文化祭デートちごたん？」 懐かしさはもう充分味わった。 この景色は、私の中のガラスケースにしまっておくことにしよう…。 こういうのは、時々取り出して眺めるくらいがちょうどいいんだから。 それよりも、今の私には、組み立てて磨かなきゃならないものがある。 「じゃあ、予定変更」 私が気付かない間にこの子が注いでくれた愛情を、過去に戻って汲み取ることはできない。 でも…、これからその分を取り戻すことはできると思うんだ。 「今から連休に入ります。日ごろの忙しさを忘れて、お家で仲良く過ごしましょう」 《おわり》 </dd> </dl>

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