「514」(2007/05/29 (火) 23:39:09) の最新版変更点
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<p><dt><a href="menu:514" target="_top" name="514"><font color="#0000ff">514</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:49:51 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>「神楽！受かったよ」 <br />
声の主は、電話でもわかるほど興奮していた。 <br />
「おめでとう！」 <br />
「ありがとう…ありがとう」 <br />
いつもは見せない震えた声をあげる彼女は、泣いていたのかもしれない。 <br />
<br />
「じゃあ、いろいろ決まったらまた連絡する！」 <br />
浮かれる彼女に、私は言おうとした言葉を飲み込んだ。 <br />
<br />
また…後でもいいや。 <br />
今度デートにでも誘って、そのときに言おう。 <br />
「ああ。また電話するよ」 <br />
受話器を置いた私は、彼女が合格した安堵と…タイミングを逃した後悔で小さくため息をついた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:515" target="_top" name="515"><font color="#0000ff">515</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:50:26 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>それからしばらくは、入学の手続きやら何やらで忙しい日が続いた。 <br />
お互いのスケジュールと相談しながらやっと約束を取り付けたのは、合格発表から一週間後のことだ。 <br />
<br />
穏やかな日差しの、よく晴れた春の日。 <br />
いつもの喫茶店には、すでに榊の姿があった。 <br />
｢よう。久しぶり｣ <br />
｢久しぶり｣ <br />
忙しい日が続いたせいか、なんだかしばらく会っていないように感じる。 <br />
｢おめでと｣ <br />
私は榊と向かいあって窓側の席についた。 <br />
｢ありがとう｣ <br />
控えめに笑う榊だったが、その喜びようは嫌でも伝わってくる。 <br />
凛とした顔立ちに子どもっぽい表情が重なって、なんとも言えない美しさを醸し出していた。 <br />
｢良かったな。第一志望｣ <br />
｢･･･神楽だって｣ <br />
やってきた店員に、アイスコーヒーを注文する。 <br />
｢私はさ･･･。水泳やれればどこでもよかったんだ｣ <br />
｢それでも。おめでとう｣ <br />
<br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:516" target="_top" name="516"><font color="#0000ff">516</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:51:39 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>何となくゆったりとした沈黙に、私は話を切り出せずにいた。 <br />
昨日一人で練習したが、どうも役に立ちそうに無い。 <br />
こういう時は会話の勢いでさらっと言ってしまいたいのだが･･･。 <br />
｢大学さ、結構近くだよね？｣ <br />
｢ああ｣ <br />
なるべく不自然にならないように気をつけて話す。 <br />
｢マヤーと住めるようなとこ、見つかった？｣ <br />
｢うん、今探してる｣ <br />
たった一言言うだけに、信じられないくらい緊張している。 <br />
言ってしまえば楽になるのはわかっているのだが。 <br />
｢でもなかなかペット可で家賃の安いところは･･･｣ <br />
このまま話しを続けても、言えずに終わるのは目に見えていた。 <br />
もうタイミングなんかどうでもいい。 <br />
今だ！言え、私！ <br />
｢榊！･･･一緒に･･･住まないか？｣ <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:517" target="_top" name="517"><font color="#0000ff">517</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:52:26 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>しばらく、妙な沈黙が続いた。 <br />
ぎこちない笑顔の私と、時が止まったかのような雰囲気。 <br />
ただ、さっきまでよりはずっと気が楽だった。 <br />
<br />
｢いや、お互い大学も近いしさ。家賃も半分じゃん？･･･あはは｣ <br />
言ってしまえば･･･あとは榊が喜ぶ姿を見ればいい。 <br />
きっと顔を真っ赤にして頷くに違いない。 <br />
何なら今から部屋を探しに行ってもいい。 <br />
だって恋人との同棲を喜ばない人間なんて･･･。 <br />
<br />
｢神楽｣ <br />
｢お、おう？｣ <br />
私が見つめた榊の表情は･･･ <br />
｢少し、考えさせてくれないか？｣ <br />
さっきまでとはうってかわって真っ暗に曇ってしまっていた。 <br />
<br />
｢嬉しい。嬉しいけど、そんなに簡単なことじゃない･･･｣ <br />
考えもしなかった答えに呆然とする私をよそに、榊は続ける。 <br />
｢神楽、私は神楽のこと大好きだけど･･･大好きだからこそ考えなきゃいけないことがあると思う｣ <br />
彼女の表情は暗かったが、口調は穏やかなままだった。 <br />
｢だから･･･｣ <br />
｢あ、いや、あの･･･突然でさ、悪かったよ｣ <br />
私は急にいたたまれなくなって、席を立った。 <br />
｢考えが固まったら連絡くれよ！無理にとは言わないからさ･･･｣ <br />
榊はまだ何か言いたそうだったが･･･これ以上は、この場にいれそうになかった。 <br />
｢待ってる！｣ <br />
最後だけは明るく笑顔がつくれた。 <br />
･･･昨日の練習のおかげかもしれない。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:518" target="_top" name="518"><font color="#0000ff">518</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:53:31 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>家に着くまでにあふれ出した涙は、帰るころには止まらなくなっていた。 <br />
同棲だなんて、浮かれすぎていたのかもしれない。 <br />
榊に嫌われたかな。 <br />
重いとか暴走してるとか思われたのかな。 <br />
迷惑なやつだって思われたかもしれない。 <br />
だいたいいつもそうだ。 <br />
好きになったのも私。 <br />
デートに誘うのも私。 <br />
泣くのも、怒るのも、嫉妬するのも私。 <br />
本当は榊は私のことなんかそんなに好きじゃないのかもしれない。 <br />
･･･そんな負のスパイラルが頭の中を駆け巡る。 <br />
そして榊の愛情を疑ってしまった自分に腹が立って、また涙が出てくる。 <br />
その日、涙が止まることはなかった。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:519" target="_top" name="519"><font color="#0000ff">519</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:54:37 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>次の日私は、ベッドの中でうずくまっていた。 <br />
何も考えたくは無かった。 <br />
<br />
その次の日、私は電話を待っていた。 <br />
気持ちはだいぶ落ち着いた。 <br />
<br />
私だって、同棲することが簡単なことだとは思っていない。 <br />
色んな問題が出てくるのはわかっている。 <br />
でも榊となら、きっとうまくやれるはずだと信じている。 <br />
そう思ったからこそ話を切り出したんだ。 <br />
榊もわかってくれる。 <br />
きっと。大丈夫。 <br />
<br />
その次の日には、電話がかかってくるような気がした。 <br />
私は、榊を信じなきゃと半ば盲目的に自分に言い聞かせた。 <br />
ただ、不安は無かった。 <br />
よくわからない根拠が、私の中に芽生え始めていたから。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:520" target="_top" name="520"><font color="#0000ff">520</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:55:19 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>電話が鳴ったのは、その日の夜のことだった。 <br />
｢もしもし｣ <br />
心臓が痛い。 <br />
痛いけど榊を信じなきゃと思うと、痛みは少し和らいだ。 <br />
｢榊だけど･･･この前はごめん｣ <br />
受話器の向こうから聞こえる声は、いつもと変わらない。 <br />
｢謝るなよ｣ <br />
謝りたいのはこっちなのに。 <br />
｢･･･あの｣｢･･･えと｣ <br />
声が重なる。 <br />
一瞬の沈黙の後、少し早く榊が話し始めた。 <br />
<br />
｢一緒に住むにはいろんな問題があると思う。この前もそう思ったし、今も思ってる。 <br />
･･･でも、やっぱり神楽のことは大好きで･･･。えと･･･それで･･･。 <br />
ちょっとぐらいの問題は二人で乗り越えていけると･･･思ったんだ･･･｣ <br />
｢･･･｣ <br />
｢迷惑･･･かけるけど･･･。一緒に住んでくれないか｣ <br />
すごく早口なその言葉は、それでも私の胸に痛いほど響いた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:521" target="_top" name="521"><font color="#0000ff">521</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:56:11 ID:Fr8cFfsR </dt><dd>｢お･･･せーよ｣ <br />
｢･･･え？｣ <br />
｢おぜえよ！･･･うっ･･････こいびとながせてんじゃ･･･ねー･･･ひぐっ｣ <br />
榊を信じてたはずなのに。 <br />
｢ごめん･･･ごめんね･･･。でも･･･私も･･･神楽に嫌われたかと･･･思った･･･｣ <br />
榊も泣いてる。 <br />
嫌いになるわけねーのに。 <br />
｢･･･うぅ･･･｣ <br />
あふれる涙は、うれし涙ということにしておこうか。 <br />
それから私達は、お互いの泣き声を聞いてしばらく泣いていた。 <br />
<br />
<br />
｢あのさ、私、榊に謝らなきゃいけないことがある｣ <br />
｢？｣ <br />
｢この前のアイスコーヒー代、払ってなかったろ？｣ <br />
四月になれば受話器を通さなくても毎日一緒にいられることはわかっていたが･･･どうしても電話を切ることはできなかった。 <br />
<br />
榊の笑う声が、どこか新鮮に聞こえた。 <br />
<br />
《おわり》 <br />
</dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:514" name="514"><font color="#0000ff">514</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:49:51 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>「神楽！受かったよ」<br />
声の主は、電話でもわかるほど興奮していた。<br />
「おめでとう！」<br />
「ありがとう…ありがとう」<br />
いつもは見せない震えた声をあげる彼女は、泣いていたのかもしれない。<br />
<br />
「じゃあ、いろいろ決まったらまた連絡する！」<br />
浮かれる彼女に、私は言おうとした言葉を飲み込んだ。<br />
<br />
また…後でもいいや。<br />
今度デートにでも誘って、そのときに言おう。<br />
「ああ。また電話するよ」<br />
受話器を置いた私は、彼女が合格した安堵と…タイミングを逃した後悔で小さくため息をついた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:515" name="515"><font color="#0000ff">515</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:50:26 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>それからしばらくは、入学の手続きやら何やらで忙しい日が続いた。<br />
お互いのスケジュールと相談しながらやっと約束を取り付けたのは、合格発表から一週間後のことだ。<br />
<br />
穏やかな日差しの、よく晴れた春の日。<br />
いつもの喫茶店には、すでに榊の姿があった。<br />
｢よう。久しぶり｣<br />
｢久しぶり｣<br />
忙しい日が続いたせいか、なんだかしばらく会っていないように感じる。<br />
｢おめでと｣<br />
私は榊と向かいあって窓側の席についた。<br />
｢ありがとう｣<br />
控えめに笑う榊だったが、その喜びようは嫌でも伝わってくる。<br />
凛とした顔立ちに子どもっぽい表情が重なって、なんとも言えない美しさを醸し出していた。<br />
｢良かったな。第一志望｣<br />
｢･･･神楽だって｣<br />
やってきた店員に、アイスコーヒーを注文する。<br />
｢私はさ･･･。水泳やれればどこでもよかったんだ｣<br />
｢それでも。おめでとう｣<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:516" name="516"><font color="#0000ff">516</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:51:39 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>何となくゆったりとした沈黙に、私は話を切り出せずにいた。<br />
昨日一人で練習したが、どうも役に立ちそうに無い。<br />
こういう時は会話の勢いでさらっと言ってしまいたいのだが･･･。<br />
｢大学さ、結構近くだよね？｣<br />
｢ああ｣<br />
なるべく不自然にならないように気をつけて話す。<br />
｢マヤーと住めるようなとこ、見つかった？｣<br />
｢うん、今探してる｣<br />
たった一言言うだけに、信じられないくらい緊張している。<br />
言ってしまえば楽になるのはわかっているのだが。<br />
｢でもなかなかペット可で家賃の安いところは･･･｣<br />
このまま話しを続けても、言えずに終わるのは目に見えていた。<br />
もうタイミングなんかどうでもいい。<br />
今だ！言え、私！<br />
｢榊！･･･一緒に･･･住まないか？｣<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:517" name="517"><font color="#0000ff">517</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:52:26 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>しばらく、妙な沈黙が続いた。<br />
ぎこちない笑顔の私と、時が止まったかのような雰囲気。<br />
ただ、さっきまでよりはずっと気が楽だった。<br />
<br />
｢いや、お互い大学も近いしさ。家賃も半分じゃん？･･･あはは｣<br />
言ってしまえば･･･あとは榊が喜ぶ姿を見ればいい。<br />
きっと顔を真っ赤にして頷くに違いない。<br />
何なら今から部屋を探しに行ってもいい。<br />
だって恋人との同棲を喜ばない人間なんて･･･。<br />
<br />
｢神楽｣<br />
｢お、おう？｣<br />
私が見つめた榊の表情は･･･<br />
｢少し、考えさせてくれないか？｣<br />
さっきまでとはうってかわって真っ暗に曇ってしまっていた。<br />
<br />
｢嬉しい。嬉しいけど、そんなに簡単なことじゃない･･･｣<br />
考えもしなかった答えに呆然とする私をよそに、榊は続ける。<br />
｢神楽、私は神楽のこと大好きだけど･･･大好きだからこそ考えなきゃいけないことがあると思う｣<br />
彼女の表情は暗かったが、口調は穏やかなままだった。<br />
｢だから･･･｣<br />
｢あ、いや、あの･･･突然でさ、悪かったよ｣<br />
私は急にいたたまれなくなって、席を立った。<br />
｢考えが固まったら連絡くれよ！無理にとは言わないからさ･･･｣<br />
榊はまだ何か言いたそうだったが･･･これ以上は、この場にいれそうになかった。<br />
｢待ってる！｣<br />
最後だけは明るく笑顔がつくれた。<br />
･･･昨日の練習のおかげかもしれない。<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:518" name="518"><font color="#0000ff">518</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:53:31 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>家に着くまでにあふれ出した涙は、帰るころには止まらなくなっていた。<br />
同棲だなんて、浮かれすぎていたのかもしれない。<br />
榊に嫌われたかな。<br />
重いとか暴走してるとか思われたのかな。<br />
迷惑なやつだって思われたかもしれない。<br />
だいたいいつもそうだ。<br />
好きになったのも私。<br />
デートに誘うのも私。<br />
泣くのも、怒るのも、嫉妬するのも私。<br />
本当は榊は私のことなんかそんなに好きじゃないのかもしれない。<br />
･･･そんな負のスパイラルが頭の中を駆け巡る。<br />
そして榊の愛情を疑ってしまった自分に腹が立って、また涙が出てくる。<br />
その日、涙が止まることはなかった。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:519" name="519"><font color="#0000ff">519</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:54:37 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>次の日私は、ベッドの中でうずくまっていた。<br />
何も考えたくは無かった。<br />
<br />
その次の日、私は電話を待っていた。<br />
気持ちはだいぶ落ち着いた。<br />
<br />
私だって、同棲することが簡単なことだとは思っていない。<br />
色んな問題が出てくるのはわかっている。<br />
でも榊となら、きっとうまくやれるはずだと信じている。<br />
そう思ったからこそ話を切り出したんだ。<br />
榊もわかってくれる。<br />
きっと。大丈夫。<br />
<br />
その次の日には、電話がかかってくるような気がした。<br />
私は、榊を信じなきゃと半ば盲目的に自分に言い聞かせた。<br />
ただ、不安は無かった。<br />
よくわからない根拠が、私の中に芽生え始めていたから。<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:520" name="520"><font color="#0000ff">520</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:55:19 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>電話が鳴ったのは、その日の夜のことだった。<br />
｢もしもし｣<br />
心臓が痛い。<br />
痛いけど榊を信じなきゃと思うと、痛みは少し和らいだ。<br />
｢榊だけど･･･この前はごめん｣<br />
受話器の向こうから聞こえる声は、いつもと変わらない。<br />
｢謝るなよ｣<br />
謝りたいのはこっちなのに。<br />
｢･･･あの｣｢･･･えと｣<br />
声が重なる。<br />
一瞬の沈黙の後、少し早く榊が話し始めた。<br />
<br />
｢一緒に住むにはいろんな問題があると思う。この前もそう思ったし、今も思ってる。<br />
･･･でも、やっぱり神楽のことは大好きで･･･。えと･･･それで･･･。<br />
ちょっとぐらいの問題は二人で乗り越えていけると･･･思ったんだ･･･｣<br />
｢･･･｣<br />
｢迷惑･･･かけるけど･･･。一緒に住んでくれないか｣<br />
すごく早口なその言葉は、それでも私の胸に痛いほど響いた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:521" name="521"><font color="#0000ff">521</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/05/12(土) 00:56:11 ID:Fr8cFfsR</dt><dd>｢お･･･せーよ｣<br />
｢･･･え？｣<br />
｢おぜえよ！･･･うっ･･････こいびとながせてんじゃ･･･ねー･･･ひぐっ｣<br />
榊を信じてたはずなのに。<br />
｢ごめん･･･ごめんね･･･。でも･･･私も･･･神楽に嫌われたかと･･･思った･･･｣<br />
榊も泣いてる。<br />
嫌いになるわけねーのに。<br />
｢･･･うぅ･･･｣<br />
あふれる涙は、うれし涙ということにしておこうか。<br />
それから私達は、お互いの泣き声を聞いてしばらく泣いていた。<br />
<br />
<br />
｢あのさ、私、榊に謝らなきゃいけないことがある｣<br />
｢？｣<br />
｢この前のアイスコーヒー代、払ってなかったろ？｣<br />
四月になれば受話器を通さなくても毎日一緒にいられることはわかっていたが･･･どうしても電話を切ることはできなかった。<br />
<br />
榊の笑う声が、どこか新鮮に聞こえた。<br />
<br />
《おわり》<br />
</dd></dl>
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