「480」(2007/05/06 (日) 12:34:17) の最新版変更点
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<p><dt><a href="menu:480" target="_top" name="480"><font color="#0000ff">480</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:43:27 <a href="id:480" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz </dt><dd>(Separation) <br />
<br />
受験という人生でおそらく最初の大きなハードルを乗り越えた、仲間たちはそれぞれ <br />
違う道を歩み始める。 <br />
榊は志望した獣医関係の学校へ。神楽は体育大学へ。ちよちゃんは見聞を広める <br />
為にアメリカに留学する。良き教師と、素晴らしい仲間達に囲まれた、楽しい高校生活 <br />
は終わりを迎え、みんな、翼を広げて未知なる大空へと羽ばたこうとしている。 <br />
そして、残りの3名も志望する大学に合格し、新生活への準備を急いでいる。 <br />
<br />
大学の入学式を翌々日に控えた。ソメイヨシノが満開になった4月上旬のある日。 <br />
最後と思われる寒気の名残が遠ざかり、温かな風が心地よく感じられる夜半過ぎ、 <br />
智は、荷作りを終えてほっと一息ついていると、扉の傍でよみが立っていた。 <br />
「よおっ」 <br />
軽く右手をあげると、智より一回り背の高い、理知的な印象を伺える少女は <br />
辺りを見渡しながら尋ねた。 <br />
「もう引越しの準備は終わったのか? 」 <br />
「うん。後はもう明日来る宅急便のトラックに荷物をいれるだけ 」 <br />
いつもは、物であふれている賑やかな部屋は、既に梱包の終えたダンボールの箱 <br />
だけが積まれる状態になっている。 <br />
<br />
「いよいよ明日か」 <br />
「もう入学式が近いから」 <br />
引越しの準備で疲れたのか、智は大きく伸びをした。生まれてからずっと過ごした <br />
この部屋と、例え一時にしてもお別れとなると、普段は、快活そのものの少女に <br />
とっても、少ししんみりしてしまう。 <br />
暦は、眠気を振り払うように首筋に手を当てた少女を眺めながら言った。 <br />
「下宿先に大阪も来るのか? 」 <br />
「そうだよ」 <br />
「そっか」 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:481" target="_top" name="481"><font color="#0000ff">481</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:44:47 <a href="id:481" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz </dt><dd> 大阪と智は同じ大学に入る。 <br />
一方、暦は別の―― 難易度がより高い大学へ進む。三年間でより開いた学力差の <br />
結果であるが、自分達の選択の結果でもある。 <br />
小学校の1年生の時から同じクラスになって以来、親しい友達になって、よく遊びに <br />
きていた部屋が、がらんとなってしまって、いや違う。大好きな智が遠くに行って <br />
しまう事がとても、寂しい…… <br />
<br />
「智、たまには遊びに戻ってきな」 <br />
「うん。暦も下宿先に遊びにこいよ。大阪ともども歓迎するぜ」 <br />
「…… ああ」 <br />
暦は物凄く複雑な表情で、少女の元気な言葉を聞いた。そして、急にどうしようも <br />
なく強い不安感に襲われる。 <br />
<br />
まさか…… まさかね。そんな事はありえない。 <br />
自分が勝手に描いた不吉な想像を振り払おうと大きく頭を振る。 <br />
大阪と智が一緒の部屋で過ごすだけ―― それ以上のことは何も起こらない。 <br />
起こるはずがない。 <br />
第一、のんびりして、マイペースな大阪が『そんな事』を考えるとは思えない。 <br />
必死で脳裏に浮べた想像を振り払うと、いつもの冷静な彼女からは信じられない <br />
ような、震えた小声で言った。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:482" target="_top" name="482"><font color="#0000ff">482</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:46:05 <a href="id:482" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz </dt><dd>「とも、私…… 」 <br />
「何? 」 <br />
智は、不安げに自分を見つめる友人の異変に気づいて、真剣な表情になって、動揺 <br />
している顔をみつめる。 <br />
「私、ともと会えて良かったと思っている」 <br />
「急に真面目になっちゃって、どうしたんだ? 」 <br />
ショートの少女は、いつもの暦とは思えない言葉に驚いて、首をかしげている。 <br />
「だって…… ともと離れたら…… 二度と会えなくなるような気がして」 <br />
「おいおい、よみ? 」 <br />
急に眼鏡が曇って、視界が閉ざされる。瞼の奥から涙が溢れてとまらない。 <br />
駄目だ。こんな情けないところを、ともに見せたくない―― <br />
<br />
「泣いてるの? 」 <br />
優しく聞かれて、こくんと頷く。 <br />
床にへたりこむように座って、よみはしゃくりあげながら呟いた。 <br />
「離れたくない」 <br />
智は、苦笑して暦の横に寄り添うように座って、軽く肩に腕を回す。 <br />
「心配すんなって」 <br />
駄々っ子のように泣きじゃくる少女をあやしながら、長い綺麗な髪をいじる。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:483" target="_top" name="483"><font color="#0000ff">483</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:47:26 <a href="id:483" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz </dt><dd>「どこにいっても、いつでも一緒だよ」 <br />
智は、暦が小さく頷くのを確認してから、言葉を続ける。 <br />
「よみは、私の一番の腐れ縁で幼馴染みだから、場所は離れても心は繋がっているのだ」 <br />
「ああ。そうだな」 <br />
親友の温かい言葉に、ようやく涙を止める事ができた。 <br />
しかし、それ以上の想いを口にすることができない。 <br />
<br />
(私は変なのだろうか。智を恋人にしたいなんて―― <br />
誰にも渡したくない。どうして大阪と一緒に住むの? なんて事を、思う事自体が <br />
おかしいのだろうか。同性なのに、恋心を抱く自分はどうかしちゃっているのか。 <br />
もし、そんな目で見られているとしたら、智は軽蔑するのか? ) <br />
<br />
無限ループのように思考が回り、決定的な一言がいえない。前に踏み出せない。 <br />
「ねえ…… よみ」 <br />
激しく懊脳する親友を心配げに見つめていた智は、頭を優しく撫でて、安心させる <br />
ように微笑む。 <br />
「今日は泊まっていけよ。一階でお布団敷くからさ…… いっしょに寝よう」 <br />
「ありがと」 <br />
暦は、素直に感謝の言葉を口に出すことができた。 <br />
いつもは憎まれ口ばっかり叩く智に、突っ込みばっかり入れていたのに、今日は <br />
とても優しかったから。 <br />
<br />
恋心は伝えられなくても、心の深い部分では繋がっている。 <br />
それ以上は、思い悩んでいても仕方がないことを暦は悟って、智の部屋を後にする。 <br />
もう、おそらくは、4年間は眺める事が無くなるであろう、空気のように違和感が <br />
なくて、大切な想い出がたくさん詰まった温かい場所を。 <br />
<br />
(終わり) <br />
</dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:480" name="480"><font color="#0000ff">480</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:43:27<a target="_top" href="id:480"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz</dt><dd>(Separation)<br />
<br />
受験という人生でおそらく最初の大きなハードルを乗り越えた、仲間たちはそれぞれ<br />
違う道を歩み始める。<br />
榊は志望した獣医関係の学校へ。神楽は体育大学へ。ちよちゃんは見聞を広める<br />
為にアメリカに留学する。良き教師と、素晴らしい仲間達に囲まれた、楽しい高校生活<br />
は終わりを迎え、みんな、翼を広げて未知なる大空へと羽ばたこうとしている。<br />
そして、残りの3名も志望する大学に合格し、新生活への準備を急いでいる。<br />
<br />
大学の入学式を翌々日に控えた。ソメイヨシノが満開になった4月上旬のある日。<br />
最後と思われる寒気の名残が遠ざかり、温かな風が心地よく感じられる夜半過ぎ、<br />
智は、荷作りを終えてほっと一息ついていると、扉の傍でよみが立っていた。<br />
「よおっ」<br />
軽く右手をあげると、智より一回り背の高い、理知的な印象を伺える少女は<br />
辺りを見渡しながら尋ねた。<br />
「もう引越しの準備は終わったのか? 」<br />
「うん。後はもう明日来る宅急便のトラックに荷物をいれるだけ 」<br />
いつもは、物であふれている賑やかな部屋は、既に梱包の終えたダンボールの箱<br />
だけが積まれる状態になっている。<br />
<br />
「いよいよ明日か」<br />
「もう入学式が近いから」<br />
引越しの準備で疲れたのか、智は大きく伸びをした。生まれてからずっと過ごした<br />
この部屋と、例え一時にしてもお別れとなると、普段は、快活そのものの少女に<br />
とっても、少ししんみりしてしまう。<br />
暦は、眠気を振り払うように首筋に手を当てた少女を眺めながら言った。<br />
「下宿先に大阪も来るのか? 」<br />
「そうだよ」<br />
「そっか」<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:481" name="481"><font color="#0000ff">481</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:44:47<a target="_top" href="id:481"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz</dt><dd> 大阪と智は同じ大学に入る。<br />
一方、暦は別の―― 難易度がより高い大学へ進む。三年間でより開いた学力差の<br />
結果であるが、自分達の選択の結果でもある。<br />
小学校の1年生の時から同じクラスになって以来、親しい友達になって、よく遊びに<br />
きていた部屋が、がらんとなってしまって、いや違う。大好きな智が遠くに行って<br />
しまう事がとても、寂しい……<br />
<br />
「智、たまには遊びに戻ってきな」<br />
「うん。暦も下宿先に遊びにこいよ。大阪ともども歓迎するぜ」<br />
「…… ああ」<br />
暦は物凄く複雑な表情で、少女の元気な言葉を聞いた。そして、急にどうしようも<br />
なく強い不安感に襲われる。<br />
<br />
まさか…… まさかね。そんな事はありえない。<br />
自分が勝手に描いた不吉な想像を振り払おうと大きく頭を振る。<br />
大阪と智が一緒の部屋で過ごすだけ―― それ以上のことは何も起こらない。<br />
起こるはずがない。<br />
第一、のんびりして、マイペースな大阪が『そんな事』を考えるとは思えない。<br />
必死で脳裏に浮べた想像を振り払うと、いつもの冷静な彼女からは信じられない<br />
ような、震えた小声で言った。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:482" name="482"><font color="#0000ff">482</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:46:05<a target="_top" href="id:482"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz</dt><dd>「とも、私…… 」<br />
「何? 」<br />
智は、不安げに自分を見つめる友人の異変に気づいて、真剣な表情になって、動揺<br />
している顔をみつめる。<br />
「私、ともと会えて良かったと思っている」<br />
「急に真面目になっちゃって、どうしたんだ? 」<br />
ショートの少女は、いつもの暦とは思えない言葉に驚いて、首をかしげている。<br />
「だって…… ともと離れたら…… 二度と会えなくなるような気がして」<br />
「おいおい、よみ? 」<br />
急に眼鏡が曇って、視界が閉ざされる。瞼の奥から涙が溢れてとまらない。<br />
駄目だ。こんな情けないところを、ともに見せたくない――<br />
<br />
「泣いてるの? 」<br />
優しく聞かれて、こくんと頷く。<br />
床にへたりこむように座って、よみはしゃくりあげながら呟いた。<br />
「離れたくない」<br />
智は、苦笑して暦の横に寄り添うように座って、軽く肩に腕を回す。<br />
「心配すんなって」<br />
駄々っ子のように泣きじゃくる少女をあやしながら、長い綺麗な髪をいじる。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:483" name="483"><font color="#0000ff">483</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/05(土) 11:47:26<a target="_top" href="id:483"><font color="#0000ff">ID:</font></a>KdrO7kCz</dt><dd>「どこにいっても、いつでも一緒だよ」<br />
智は、暦が小さく頷くのを確認してから、言葉を続ける。<br />
「よみは、私の一番の腐れ縁で幼馴染みだから、場所は離れても心は繋がっているのだ」<br />
「ああ。そうだな」<br />
親友の温かい言葉に、ようやく涙を止める事ができた。<br />
しかし、それ以上の想いを口にすることができない。<br />
<br />
(私は変なのだろうか。智を恋人にしたいなんて――<br />
誰にも渡したくない。どうして大阪と一緒に住むの? なんて事を、思う事自体が<br />
おかしいのだろうか。同性なのに、恋心を抱く自分はどうかしちゃっているのか。<br />
もし、そんな目で見られているとしたら、智は軽蔑するのか? )<br />
<br />
無限ループのように思考が回り、決定的な一言がいえない。前に踏み出せない。<br />
「ねえ…… よみ」<br />
激しく懊脳する親友を心配げに見つめていた智は、頭を優しく撫でて、安心させる<br />
ように微笑む。<br />
「今日は泊まっていけよ。一階でお布団敷くからさ…… いっしょに寝よう」<br />
「ありがと」<br />
暦は、素直に感謝の言葉を口に出すことができた。<br />
いつもは憎まれ口ばっかり叩く智に、突っ込みばっかり入れていたのに、今日は<br />
とても優しかったから。<br />
<br />
恋心は伝えられなくても、心の深い部分では繋がっている。<br />
それ以上は、思い悩んでいても仕方がないことを暦は悟って、智の部屋を後にする。<br />
もう、おそらくは、4年間は眺める事が無くなるであろう、空気のように違和感が<br />
なくて、大切な想い出がたくさん詰まった温かい場所を。<br />
<br />
(終わり)<br />
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