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一息、アチキ珍道中/Calm 1」(2009/06/08 (月) 00:03:58) の最新版変更点

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*作者:グリム **タイトル:一息、アチキ珍道中/Calm 1 ----  カラン、カラン……  ……  カラ……  ……  ……カラン――  踏み鳴らす下駄の音が夜道に響き渡る。  人通りの無い寂しげな道。周りの家々の住民は寝静まっているのか、アチキの歩く音以外は何も無い。空を見上げてみると、それはそれは綺麗な月が下界を照らしている。  なるほど――今日は、晴れか。  響く音、遠くの方に、影が見えた。  アチキは慌てて横道に逃げ込んだ。怖いものかもしれない。こんな綺麗な月夜には、怖いものがいる。  地を踏みしめる音を聞きながら息を潜める。足音は止む。顔を上げると、二つの瞳がジッとアチキの姿を捉えていた。影が動く。月が、その影の持つ凶器を照らす。錆色の輝きの刀と、銀色の手甲。  ああ、やっぱり。綺麗な月夜には、怖いものがいる。 「……ふん」  つまらなそうに鼻を鳴らすと、怖いものは目線を外して歩き出した。 「見逃してやる」  足音は次第に遠くなって、アチキはその場にへたりこんだ。  怖いものはどこかに行ってしまったらしい。見逃してやるってことは、アチキは運がよかったのだろうか。  うん、多分よかったんだろう。腰は抜けたし……ちびりそうだったけど。  ……  空を見上げる。煌々とアチキを照らす月。  夜明けは遠そうだった。  ――立てない。  訪れる朝は寒く、人々は慌しく去っていった。ゆったりとした流れ。黒っぽい、なんかぴっちりした感じの服を着た人が歩いていったり。鉄の箱がすぐ隣を風を切って通り過ぎて行ったり。前掛けをした中年の女の人が袋を抱えて歩いてた。  どうにも居場所は無い。なのでアチキは歩き出す。  下駄の音が響いて、町を過ぎていく。その音は、アチキの足音ながら心地よかった。  日が高くなる頃。通り過ぎた町並みは、すっかりと人だらけだった。忙しなく歩いたり走ったり、かと思えば、行き場が無いみたいに座り込んでいたり。  アチキはそこら辺のトサカっぽい頭を撫でて遊んでいた。  飽きたら次は、もじゃもじゃの頭に手を突っ込んでみたりした。飴は入っていないらしい。  飴と言えば――そろそろ日が高い。正午ではないか。正午と言えば昼餉の時間だ。辺りには店は数多あるが、アチキの懐には銭貨すらない。  ……人の世は、銭を出さねば何も食えない冷酷なものらしい。  これは、困った。  困ったが腹は鳴る。しかし銭は無い。仕方が無いので匂いで腹を満たそうか――そう思っていると、ふと、何かを感じた。そう、これはアチキと同じ匂いだ。その匂いに誘われるまま歩いてみると、店の前まで辿り着いた。  路地裏にひっそりとある、木で造られた古風な店。壁に掛かっている板には営業中とあった。どうにも古臭いが、潰れていると言うわけではないらしい。  さて、アチキと同じ匂いがここにはあったと思ったが、少しばかり違う気もする。はて?  考え込んでいると扉が開いた。 「――あらあら?」  声を上げたのは扉を開けた女。長い金の髪、そして深い青の瞳は明らかに御国の人間ではない。恐らく南蛮人か、はたまた天狗か。もしくは化け狸。 「珍しい。とっても可愛らしいお客さんね」  アチキが見えているのか。南蛮人ではない、文字通りの天狗か狐狸の類か。  身構えていると、女は困った風に首を傾げた。 「ええっと……? 私は怪しい人じゃないのよ。あ、もしかして、魔理さんのお客さんかしら?」  女の言葉に、アチキは首を振った。  ますます困った風にする女。アチキもどうするか困った。  困っていると、見かねたのか待ちかねたのか。腹の虫が機嫌を損ねたみたいに、ぐぅ、と鳴いた。 「お腹が減ってたのね」  にっこりと笑う女。アチキは恥ずかしくて顔を伏せた。  確かに腹は減ったがアチキは今、一銭も持ってない。その事を伝えると、女は笑顔で言った。 「いいのよ。ちょうど魔理さんとお昼ご飯にしようと思っていたから」  それは嬉しい。アチキはその言葉に甘えることにした。  店の中は外と同じ、古臭い感じだった。しかし、御国の造りとは少々違うらしく、畳の無い木張りの床。しかも土間もない。木でできた食台もあるが、ちゃぶ台のように丸い上に大きい。南蛮の影響を相当受けている。  その中に、ゆらゆらと安楽椅子に腰掛けたジジが一人。白い髭がもっさりしてる。服はさっきみたあぴっちりした黒じゃなくて、ゆったりとした黒だった。 「恵怜、お客さんじゃったか?」 「いいえ。けど、可愛らしい子をお昼に誘ったの」  皺ばった細い目でアチキを見ると、ジジは安楽椅子から立ち上がった。顎鬚を撫でながら、ふむ、と小さく唸る。  そしてにっこりと笑う。……狸みたいだった。 「そうじゃの。ちょうど三人分あるから、お嬢ちゃん、ほれ。そこの椅子にお座り」  アチキは言われたとおりに示された椅子に腰掛けた。その椅子は丸く、しかも体を回すと同じように回る不思議な椅子だった。これは凄い。ぐるぐる回る。もいっちょグルグルグルグル……さすがに気分が悪くなった。  女はくすくすと笑って奥に引っ込んだ。  同じように笑いながら、ジジがアチキの隣に腰掛ける。 「はい、お待たせ」  引っ込んだ女が食台の向こう側からひょっこりと現れ、三人分の盆を並べた。盆には皿が三つある。一つは黄色い山。一つは肉らしきものと野菜。そして最後の皿は薄く、薄く濁った汁のようなものが入っていた。人参が浮いているので、恐らく味噌汁か。……白味噌か。  食べようと思う。しかし、盆には小さな銀色の、柄杓みたいなものしかない。  その事を聞くと、女は目を丸くした。  ジジがその銀の柄杓みたいなもので薄い皿の白味噌汁を器用に掬うと、口に運ぶ。 「こうやって食うんじゃ」  なるほど、ハイカラだ。  同じように口に運ぶ。しかし白味噌汁は、味噌汁でない味をしていた。しかし不味いわけではない。むしろ新鮮で美味い。美味いが、この柄杓では一口に食える量が少ない気がする。  そこでアチキの頭には名案が浮かんだ。皿の両端を掴んで、そのまま口の中に流し込む。  早く食えて、美味い。これはいいものだ。 「これ、行儀が悪いぞ」 「魔理さんも、お口に物を入れながら喋ると行儀が悪いですよ」  アチキを叱ったジジは、女に叱られていた。情けない。  白味噌汁っぽいが味噌汁ではなかったそれを飲み干すと、次は野菜と肉のようなものを口に放り込んだ。野菜は野菜だったが、肉のようなものはパリッとした感触を持っていた。しかも魚や豚の味ではない。  この肉は、なんなのか。 「鳥――鶏じゃな」  ふむ、食べたことがないがこれも美味い。それを食べ終えると、次は黄色い山だ。  銀の柄杓で何度か突くと、黄色が破れて中から赤い米が零れだしてきた。どうせこれも食べたことのないものだ。口に運ぶと、やはり美味い。  なるほど、この黄色は入れ物か。  赤い米だけを口に運んでいると、不思議そうな声でジジが声をかけてきた。 「何しとるんじゃ。卵は食わんのか?」  卵?  首を傾げると、女が手本のように黄色いのと赤い米を口に運んだ。 「こっちも食べられるのよ」  そうだったのか。見せてくれたように食べてみると、一緒に食べることによって味わいが深くなった。  そして、食事が終わる。  女は静々と盆を下げ始め、ジジは先ほど座っていた安楽椅子に腰掛けた。ゆらゆらと安楽椅子を揺らしながら、ジジが問う。 「お前さん、しばらくここに居るか?」  アチキは首を振った。 「そうか」  ジジはそう言って椅子を揺らすのをやめると、立ち上がって奥にある階段に向かった。そして一段目に足をかけると、アチキのほうに手招きをする。  アチキがそっちまで歩いていくと、ジジは階段を上り始めた。ジジの癖に、階段を上る足取りは軽かった。  二階には、南蛮品がいっぱい置いてあった。しかしそれに限らず、御国のものもある。ジジは奥にはいっていくと、アチキを呼ぶ。 「お嬢ちゃん、こっちにおいで。ほれ、早く」  言われるままに置くまで行くと、ジジはそこに置かれたものを指差した。  それは、木彫りの狐の面だった。白く、ぼんやりと浮かび上がるようなそれはとても神秘的だ。ジジはそれを手に取ると、アチキに差し出してくる。アチキはジジの顔とその狐の面を見比べた。  ジジはにやりと笑う。 「どうせ売れん代物じゃ。どうにも客を選びおってな。お嬢ちゃん、要らんかね」  アチキは銭を持ってない。しかしジジは笑って言う。 「ふぉふぉ、金なんざ取りやしない。欲しいのなら譲ってやるよ、どうかね?」  木彫りの狐の面は高価と呼べるものではないかもしれないが、アチキは貰えるものは貰う、と決めている。今決めた。ジジからお面を受け取って、それを被った。付け心地は悪くない。むしろ良かった。  ジジは満足げに頷いた。 「似合ってるのぅ」  アチキはお礼を言った。そして階段まで小走りで行く。  そうそう長居をするつもりはない。同じ場所に長くとどまらない。それはアチキの決まりごとだ。ずっと前から決めている。 「またの」  答えずに階段を下った。  一階には女がのんびりと食台を拭いていた。  アチキはその背中にお礼を言うと、扉を開けて外に出て行く。  次はどこに行こうか。  人気のない路地裏には、アチキの下駄の音だけが響き渡っている。面がずり落ちてきたので、頭まで持ち上げた。この付け方はいいかもしれない。安定したらまた駆け出す。すると、でっかい何かにぶつかった。 「っと、おおう」  見上げると、それは筋肉の塊みたいな男だった。目つきは悪くて髪はぼさぼさ。けど、さっきの女と同じような前掛けをしていた。  ……少しおかしい。 「すまねぇな、ぶつかっちまって」  アチキは首を振ると、今度は急ぎ過ぎないように歩いていった。  その少し後ろで、男が言う。 「珍しいな。今どき和服で出歩くなんて」  さてさて、はてはて。  その日の昼、一角と言う青年の昼飯を食べられなかった。  彼は泉亭というアンティークショップ兼喫茶店で働いているのだが、そこでは賄が出る。  けれど今日は出なかった。  泉亭の主、魔理爺曰く。 「ふらり風来坊が飯を掻っ攫っていった」  その妻、恵怜曰く。 「可愛いお客さんが来たから、つい一角君の分まで出しちゃったの」  そしてその件の一角青年曰く。 「俺の昼飯いいいぃぃぃ!?」  お後がよろしいようで。 ---- 久方ぶりの文章になります。 パソコンのデータが吹き飛んだりと色々と面倒が起こりましたが、何とか復活。 狩猟者のほうも書き始めようかと思います。 掲示板の設置もありましたので、これの感想用にスレを立てようかと思います。 以上――のんびりライフをあなたに。 ---- [[一覧に戻る>小説一覧]]

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