「笑う死神〜かかしは住み着き〜」


 文 謎の人

                  *


銀色の仮面。黒色のマント。2メートルサイズのデスサイズ。
になし藩国の農業区には、そんなものを身に着けたかかしがいる。
かかしといっても、藁やビニールのかかしではない。
呼吸だって食事だって恋だって出来る、100パー有機素材のかかしだ。
彼は普段、農作業以外は何もやらない。
戦いが起きても祭りが起きても、やる事はかかしらしく雑草取りばかりだ。

そんな彼が、ある日かくし芸に目覚めた。
いや、それがかくし芸なのかはわからない。
というか、目覚めたのかどうかもわからない。
マントをばたばたとふるわせた瞬間、重そうな鉄アレイが何十本とこぼれた。
彼は思いっきりあせった様子で、それをマントにしまいなおした。
——実際、彼がやったのは、ただそれだけの事だったのだから。

毎日同じ事ばかりのかかし様が、初めて違う事をした。
初めはそれを見た誰かの手による、単なる風聞だったのである。

でもこの頃、彼はお昼頃になるといつもそれを繰り返している。
彼は基本的に何も言わないため、何を考えているかはわからない。
5キロと書かれた大きな鉄アレイを、何十本もマントへとしまいこむかかし。
——鼻水を垂れ流しにしたり口をいつも全開きにしたりして『ぼくはあほのえりーとです』
と主張している感じの子供たちが毎日それを見にきてはいるが、彼らにも真意はわからない。

彼の名前は謎の人、名前を名乗らないから謎の人。
今の所真実に近づいているのは、になし藩国の王犬ちよこ。
——鉄アレイ型のフーセンに牙を突き立て、ひどい目にあった彼だけである。

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最終更新:2007年05月26日 08:44