文 ハイネケン


<歩兵防御>

『敵軍、射撃体勢です!』
通信兵が叫ぶ。相変わらずいい声だ。今度カラオケにでも誘うかな。
「回避は間に合わん!防御だ!シールド用意!」
隊長が怒鳴る。相変わらず酷い声だ。のど飴でもプレゼントしよう。
「了解、シールド用意」
これは俺の声。自分じゃ中々のもんだと思うんだが、どうだろうか?

頭の片隅で暢気なことを考えている間にも、俺の体は訓練通り動き続ける。
手近な建物の陰に走りつつ銃をアタッチメントに引っ掛け、背負っていたシールドを引っ張り出し、膝立ちになって構える。
準備完了。

と、そこに同僚が駆け寄ってきた。シールドを持っていない。
「スマン、入れてくれ」
「うげ、男と相合傘かよ」
マジで嫌だ。変な噂立てられたらどうする。
「ところで今度の合コン、男の席が一つ空いてるんだが」
「よしきた親友、俺に任せろ」
いやー、友情ってのは感動的だなあ。後は努力と勝利が欲しいぜ。

何時死ぬともわからない戦火の中、俺達はいつもの如く軽口を叩き合う。
遅れに遅れた戦場到着、絶望的な戦力差、滅茶苦茶厳しいクリア条件。
だけど意地でも挫けない。それが俺らの生きる道、なんつってな。

「敵弾来るぞ!」
おっと、お気楽モードOFF。
さて、耐えるか。


<歩兵射撃>

「射撃戦用意!」
「了解、射撃ポジション取れ」
部隊は素早く散り、瓦礫の陰に陣取った。
それぞれ自分の得物に弾倉を叩き込み敵に狙いをつける。
ちなみに俺は最後尾。腹這いになって対戦車ライフルを構えている。
このくらいのデカブツでも使わなけりゃ奴らに痛撃なんぞ与えられやしない。

気分を落ち着けるため一回深呼吸。すぅ、はぁ。
スコープを覗き込み、十字を敵のどてっ腹に合わせて———
「なーなー」
と、前から声を掛けられた。
「んだよ、今集中しようとしてんのに」
まったく、空気読めっつーの。
「いやな、こっちからお前の頭がばっちり見えてるんだが」

………え、マジで?
慌ててゴソゴソと体の位置を調節。
「これでどう?」
「もうちょい右行け右」
「こんくらいか?」
「よしOK」

ふう、冷や汗かいたぜ。
「気いつけな」
「ありがとさん、後で取って置きの酒奢る」
「実はそれが目当てだ」
なんだとこの野郎。

「総員狙え!」
気を取り直して狙いをつける。
今のはリラックスになったとでも思っておこう。そうしよう。
「撃てーっ!」
そして引鉄を、絞る。
轟音。反動。硝煙。排莢。装填。
「続けて連射!」
第二射。第三射。第四射。
使い続けて既に体の一部にも等しい銃だ、外しようが無い。
そのまま俺は敵が吹っ飛ぶまで、撃ち続けた。


<歩兵白兵>

「総員、白兵戦用意!」
隊長の指示が飛ぶ。敵が怯んだと見たのだろう。
「了解、白兵戦用意」
すぐさま返事を返す俺。実はちょっと白兵戦が起きないかと期待していた。
だって煌月の兵装の中に、ウォーアクスがあったのだ。

ウォーアクス、それは最強の白兵武器。
ウォーアクス、それは戦士のロマン。
刃物の鋭さと鈍器の重さを併せ持ち、岩をも砕く破壊力。
遙か古代より伝わり、宇宙艦隊の時代になっても使われ続ける完成度。
ああ、まさかこの手で振り回せる日が来るとは…

こっそりヘルメットの下でにやつきながらも手は止めない。
腰からウォーアクスを引き抜き、銃を仕舞う。
柄を両手でしっかりと握り締め、肩に担いで立ち上がる。

「まーさかりかーついだなーんとやらー」
隣のアホが何か歌っている。俺も人のことは言えんが緊張感がない。
「なんで歌詞ボカしてんだよ」
「や、一応用心しないと」
お前は何を言っているんだ。

とにかくまあ、全員準備は整ったようだ。
「では隊長、行きましょう」
「うむ、総員突撃開始!」
号令一下、俺達は走り出す。
建物の間をすり抜けて死角へ肉薄、同時に躍り出て四方から挟撃。

大きく振りかぶって、叩き落す。
「うおおりゃあああっ!」
手応え、有り。
最終更新:2007年05月18日 17:11