文 ハイネケン


過去ログから古いものを引っ張り出してみました。
確かまだどこにも提出していなかったはず。

======================================

”ここでぼんやりしていても何もならん。復興を始めるぞ”
 灰燼と化した国土と生き残りの国民達を見渡しながら になし藩国藩王・になし

”我等!戦災復興部隊・パ○プキン○ザース!”
”バカなこと言ってないで真面目に働きなさい!”
 トモエリバーで瓦礫を撤去しながら 国立になし学園パイロット課所属・桐島楓とクラスメート達

”うふふふ、根源種族どもめ。次こそはこの新兵器でSATSUGAIして差し上げますわ☆”
 秘密工房にて工具の音を響かせながら になし藩国騎士兼I=Dデザイナー・イタ

/*/

空は快晴、風は穏やか。絶好の復興日和である。
そう、復興。戦災復興だ。
ここ、になし藩国はつい先日根源種族の襲撃を受け、国土の約半分が焦土と化したのである。
その混乱の中で我等が姫君、プリンセス・ぽちまでもが重傷を負い意識不明。生き残った国民は皆悲嘆に暮れていた。
しかし、何時までも悲しんでいる訳にもいかない。
我々はまだ生きている。プリンセスもかろうじて生きている。
ならばやるべきことはただ一つ。顔を上げ、尻尾を伸ばし、前足を突き出して奇跡を掴み取るのだ。
それが、それこそが誇り高き犬の生き方というものである。

そんなわけで、我等が摂政Arebことセレナちゃんは政庁塔の壁に穴があいた執務室で
王犬ちよこ様を頭に載せたまま目をぐるぐるさせていた。
愛鳴藩国と後ほねっこ男爵領が真っ先に派遣してくれた第一次復興支援部隊の指揮を執っているのである。
また、他の藩国からも同様に支援部隊や支援物資が続々と届いており、正直猫の手も借りたいくらい忙しいのだ。
まあ、復興資金については全額宰相府が出してくれるというのでその点だけは心配する必要は無かったが。
「そういえば、支援部隊に紛れて変装した猫のスパイが藩国に入り込んでるって噂があったっけ」
耳にした時はまさかと思っていたが、最近ちらほらと挙動不審なのを見掛けたような記憶がある。
「ま、犬だろうが猫だろうがゲ○バー大王だろうが、復興手伝ってくれるっていうのなら誰でもかまわないか。
存分にこき使ってやろうじゃない」
彼女のモットーは人類皆兄弟。犬も猫もかっこいいオジサマも大好きという博愛主義な人物なのであった。

と、そこへ入ってきたのは吏族の内の一人、九重千景である。
プリンセス・ぽちの熱狂的崇拝者である彼は、神経質で内向的な性格も相まって戦闘終結後
糸が切れたように寝込んでいたのだが、最近になってようやくベッドから這い出し
目の下をくまで真っ黒にしながらも仕事に復帰していたのだ。
「すんまへんセレナちゃん、イタさん何処におるか知りませんでっしゃろか」
「何、イタくん?現場にいるんじゃなかったの?」
現在のところ藩王は渉外、摂政は内政、吏族がその補佐、騎士団は現場指揮、
学生は支援部隊と共同作業という編成になっている。
「へえ、それが現場の人員に作業手順伝えたった後、すぐどっかに行ってしもうたみたいなんですわ。
とりあえず指示された分の作業終えた部隊が次の指示は何処に聞けばいいのか戸惑っとるんです」
ぬあー、と額を押さえるセレナちゃん。頭の上でちよこ様がおっとっととバランスを取っている。
イタという人物は騎士だけでなくもう一つ、I=Dデザイナーという顔も持っている。基本的に忠誠心は厚く、
必要ならばどんな労苦も厭わないのだが、ややマッドサイエンティストの気があり、たまに変に我を張ることがあるのだ。
「心当たりならあるわ。多分I=D工場か工業区よ」
イタは以前、新型I=Dの設計コンペに出品した際、正式採用は見送られたものの宰相府から特別に試作継続を命じられており、
その功績からI=D工場に自分の工房を持つことを藩王から許可されていたのである。そして何時の間にか隣の工業区にまで
テリトリーを広げ、今ではI=Dだけでなく剣士・騎士用の新型装備から学園の新制服まで作るようになっていたという訳だ。
「解りやした、そんならとりあえず早速誰か遣いに寄越して———」
「待った。」
立ち上がり、九重を引き止めるセレナちゃん。
「せっかくだから、あたしが行くわ。ずっと座りっぱなしで腰が痛くなってきたし、藩王さまは忙しすぎて
ちよこ様の散歩も出来ない状態だし。気分転換ついでに呼んで来るわよ」
「へ!?いやでも、とりあえずこの部屋に誰かいないと指揮系統が———」
「じゃ、九重くん後はよろしくね!」
ダッシュで執務室から出て行くセレナちゃん。うわこんにゃろ逃げよったーっという九重の叫び声。
いかにこの国の吏族が健脚であろうとも、毎日訓練で重い鎧を着て走り回っている騎士の足に追いつけはしない。
結局九重はその後セレナが戻るまでの数時間、ぎゃうーんと悲鳴を上げながら仕事に追われたのだった。

/*/

たったったっ、てててててっ、と走る足音。前者がセレナで後者がちよこ様だ。
政庁塔からI=D工場へ行く最短経路は、魔術区方面へ出て川を渡り農業区・東商店街を抜ける道である。
普段なら理力使い達の縄張りである魔術区も、最近はいつもひっそりとした雰囲気に包まれている。
理力は戦災復興にも役立つ便利な力なのだ。もっとも本人達は俺らまだ理力建築士のアイドレスとってねーんだけどな、
などとぼやいていたが。
さて、セレナは走りながら昔のことを思い返していた。
イタとセレナが知り合ったのは結構古い。セレナは元々旅人であり、この国に流れ着いて仕官したら
何故かトントン拍子に出世してしまった。一方後から来たイタの方は、昔はイタ技研とかいう兵器メーカーに
勤めていたらしいが、セレナはそんなメーカーの名前は聞いたことが無いと首をかしげていた。
お互い過去に謎を抱えた者同士でもあり、二人は先輩後輩としてそれなりに仲良くやっていたのだが———
根源種族は突然やって来た。
藩国、否、帝國、否々、犬も猫もまとめて世界ごと逃げ出した。
そして辿り着いたのが今いるこの地である。
撤退戦時の怪我でイタの顔には大きな傷痕が残り、セレナ自身も心に大きな傷を受けた。
それでも生き残った仲間達と共に藩王を支え、また人を集め、見事藩国再建を果たしたのだ。
今また根源種族との戦いによって藩国は滅亡の危機に瀕したが、今回だってきっと何とかなるとセレナは思っている。
イタだって何度も一緒に死線をくぐった仲だ。考えてることは同じに違いない。きっとこの街の惨状を何とかするため
何か発明品を持ってくるつもりなんだ。うん、きっとそうだ。

と、そこまで考えたところで丁度I=D工場についた。ここも根源種族の攻撃によって半壊していたが、
イタの工房は地下にあるため何とか無事だったのだ。
深い階段を降り、と、段差を利用してちよこ様が頭に飛び乗ってきた。まあいいか。気を取り直して扉をたたく。
「イタ、いるんでしょ。入るわよ」
『ええ、よろしくってよ。扉が壊れかけているからお気をつけなさって』
この口調も昔はたまに冗談として使うだけだったのになぁ。それにしても何だか篭もった様な声だな。
といぶかしみながらセレナが中に入るとそこには———

<巨大な/鎌を持った/死神が/そこに/立っていた———>

え 何 これ 根源種族? あれ イタは?

混乱。一瞬固まるセレナ。しかし流石は歴戦の騎士、次の一瞬で護身用に常備していた短剣を抜き放ち
目の前の何者かに跳びかか———
『ちょっ、タンマタンマ!私よ!イタよ!』
「へ?イタ?」
また固まるセレナ。ちよこ様が頭から振り落とされる。今の声は確かに目の前の死神から聞こえた。これがイタなのだろうか。
『あー、御免なさいね。復興の方ほったらかしにしてしまいまして。でもこの新兵器がようやく完成したんですのよ?』
「新兵器?」
思わずオウム返しに聞き返すセレナ。
『えぇ。この間の対根源種族戦で思い知ったんですのよ。チャリオットから攻撃するにはあの螺旋ブレードは
リーチが短すぎるし威力もあんなデカブツ相手にするにはいまいち物足りないって。だからほらこれ、名付けて
ナイト・オブ・デスサイズ。とりあえずそこらで拾った戦車砲の砲身に大鎌と螺旋槍の穂先とカウンターウェイト
付けてそれでもちょっとアレだったんで小型ロケット付けて鎧の方もそれに耐えられる様にガワ一枚分厚くして
ブーツ重くしてサポートアーム付けて足の裏に鉄球のローラー付けて背中に蒸気機関背負って動力にして
名付けてスチームメイルってあらやだそのまんま過ぎますかしらねいや名前なんてどうでもよろしいですわね
これ着てチャリオットに乗ればきっと根源種族どころかきっとI=Dの装甲だってぶった切れるはず———』

「えー加減にせーやっ、ボケー!!!」

おぉっとセレナ選手素早い組み付きから豪快な一本背負い!イタ選手吹っ飛んだー!
一回転、二回転、三回転、壁に激突ー!そして床に倒れこむ!イタ選手起き上がれないー!
えぇ、アレは強烈ですねぇ。ダメージもさることながら鎧が重くて立ち上がれないでしょうねぇ。

「仕事!サボって!何を!しとるかと!思うたら!趣味に走ってただけか〜い!!」

なーんとなんとぉ、セレナ選手倒れたイタ選手に対してスタンピングだ!容赦がなーい!
これはいけませんねぇ。止めた方が良いんじゃないでしょうかねぇ。審判は何をしてるんでしょうかねぇ。

『ま、待ってセレナちゃん、これは———』

「問答無用じゃー!!!」

ゴギン。ガクッ。スタスタスタ。バタン。

気を失ったイタと置いてかれたちよこ様。近づいてポンッと肩をたたく。
それはまるで<気にするな。余はそれ気に入ったぞ>とでも言っているようだった。

/*/

後日談。ストレス解消して頭を冷やしたセレナちゃんは、「良く考えたらアレかなり有用かもしんない」
と思い返してイタに謝り、仕事押し付けてしまった九重にも謝り、
この復興が終わったら二人に最高級すきやきを奢ると約束したそうな。

おしまい。
最終更新:2007年05月18日 17:00