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かがみの気持ち と こなたの想い  前篇

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匿名ユーザー

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 む―――――。

 お風呂上り。
 私は目の前に佇む、約30センチ四方のとある器具を睨んでいた。
 その器具は一般家庭だったらどこにでもある極々平凡な健康器具でありながら、見たくもない現実を直視させるという、 まったく、開発したやつを呪いたくなるような代物だ。

 なんでこんな機械の数字1つで一喜一憂せなならんのだ・・・。
 本っっっっっっ当に憎たらしい・・・。

 などと、開発者が聞いたら「言いがかりも甚だしい」と怒り出しそうなことを考えていると、
 背後に誰か人の動く気配を感じた。
 しかし私が振り向こうとするよりも一瞬早く、その気配の主はおもむろに言葉を発した。

「かがみさぁ。普通に乗ってもゆっくり乗っても結果は変わんないよ?」
「ぎゃ――――っ!!」

 思わず叫び声をあげながら振り返ると、そこにはどこかで見たことのあるようなニマニマした顔で私を見つめる、まつりお姉ちゃんが立っていた。










「かがみはさー、口で言う程、危機感ないんじゃないのー?」
「えー。そっかなぁ」

 いくら姉とは云え、年頃の風呂上りの妹の背後に立ち、挙句デリカシーもへったくれもない言葉を放ったことに対して文句を一通り言い終えた私は、
 髪の毛をタオルで拭きながらそれでもあっけらかんと笑っている姉と会話を続けていた。

「やっぱ、そういうモチベーションを維持するにはアレだね。『恋』だネ!!
 可愛くなりたいって気持ちが大事よ」

 なんだろう・・・。この人に言われても、あんまり納得できない。
 でも、それをそのまま言うのは人として憚られるから、当たり障りなく返答しよう。

「えー・・・。まぁ、わかる気もするけど・・・・・・。
 じゃー、誰かいい人紹介してよ」
「こらこら。何を甘えているのかねキミは―――」

 お姉ちゃんは、ふぃーとため息をついて首を振る。

「大体、そんな人がいたら、まず私が狙ってるって。あんたにゃまわさないヨ?」

 毎年クリスマスには家族全員がそろう我が家の現状を省みると、妙に説得力のある答えだった。

「そうね・・・・・・。そうだったわね・・・・・・」

 かと言って、大学に入っても勉強三昧の自分の現状を振り返ってみても、これと言って特に出会いがあるわけでもない。
 私の日常は大学と家の往復を繰り返しているのみだ。

 はぁ・・・。こんなんじゃ、私もお姉ちゃんと同じ末路を辿るのかなぁ・・・。

 一抹の不安と何とも言えない物悲しい気分に暗く落ち込んでいると、
 そんな私を気にもしていないような明るい声でお姉ちゃんが口を開いた。

「ま、そうはいっても、あんたにはあんな可愛い彼女がいるんだし」
「はぁ?! だ、誰のことよ! っていうか、彼女って何!?」

 私の驚きをよそに、お姉ちゃんは相変わらずニマニマ笑いながら私の肩を叩いた。

「ほら。あのちっちゃくて、よくあんたと遊んでいた子」
「こ、こなたのこと?」
「そうそう。高校の時、な~んかすごく仲良かったじゃない? あの子のためと思えば、ダイエットだって成功すると思うわよ」

 お姉ちゃんの爆弾発言と、その突拍子もない発想に呆れながらも、私はつっこみをいれずにはいられなかった。

「な、何言ってんのよ!! こなたはただの友達じゃない!
 つーか何で女の子なのよ!?」
「そう? 傍から見てるとそういう風に見えるけどな~。かがみってそっちなのかと思ってたけど?」
「ば、ばばばかなこと言わないでよ!! っていうか、妹がそんなだったら普通心配するもんでしょ!?」
「別に相手が女の子だっていいんじゃない? 私もここまでくると女の子でもいいかとおも」
「おいっ!! そんなんで方向転換すんな!!」

 ムキになって言い返していると、お姉ちゃんはさも愉快そうに笑い出した。

「あははははは。冗談よ。冗談。ま、かがみはそこまで太ってないんだし、気にしなくても良いと思うけどね?」

 お姉ちゃんは無責任なことを言うだけ言うと、ケタケタと笑いながら2階に上がっていった。

 ・・・・・・。あれでも私の姉なのか?

 そんな姉を見送った私は洗面所に行き、タオルであらかた乾いた髪にドライヤーを当てながら、なんとなくその言葉を反芻する。

 ―――ま、そうはいっても、あんたにはあんな可愛い彼女がいるんだし。

 ったく・・・。なんで私がこなたのためにダイエットしなくちゃならないのよ・・・。
 そりゃあ、こなたとは仲良かったけどさ・・・。

 ・・・・・・・・・。

「こなたが・・・彼女・・・・・・か・・・」

 何気なくそう呟くと、突然脳裏に制服姿のこなたが浮かんだ。
 こなたは少し照れたような顔で私を見つめ、幸せそうに笑いかける。
 その笑顔は私の胸の鼓動をゆっくりと強め、それに合わせるかのように忘れていた何かを思い出させていった。

 へ? な、なんで・・・。

 予想もしなかった自分の反応に戸惑いながら鏡を見返すと、なぜか私の顔は真っ赤に色づいていた。

 ちょ! な、何で私、こんな顔・・・・・・。
 ち、ちがうって!! そんな風にこなたのこと見たことなんてないし!
 あ! き、きっとお姉ちゃんが変なこと言うからよね! うん! きっとそうよ!!

 無理やりに自分を納得させると、私はそそくさと自分の部屋に戻った。
 でも、ベッドに横になっても頭に浮かぶのはこなたのことばかり。
 その所為で、否応無しに私の意識は高校時代に向けられていった。

 お姉ちゃんの言う通り、高校の時に1番仲が良かったのはこなただ。
 それは断言できる。
 人の気にしているところをズバズバ言って、しかもいたずらばっかりしてきて。
 でも、私からの思わぬ反撃にたじろいだり、普段とは想像もつかないような可愛い顔で照れたり。

 小学校、中学校と思い返しても、こなたとの関係が今までで1番近かったと思う。
 こなたがどう思っていたかはわからないけれども、それは世間一般的に見れば、『親友』と呼べるような間柄なんだろう。
 それに異論はない。

 ・・・でも・・・・・・。

 私の中に、『親友』という言葉だけでは割り切れない、何か特別な気持ちがあったのも否定できない。
 それがこなたを拒否するような感情でないことだけはわかっていたけれども、その感情に何て名前をつけたら良いのか、 結局高校を卒業しても、そして今になっても私にはわからなかった。

 ・・・・・・・・・・・・。

 いや・・・本当はわかっていた・・・。
 ただ、「それ」を認識できるきっかけも口に出す勇気もなかっただけで・・・。
 言い訳かもしれないけれど、今の自分にはそう思える。

 だけど、それを伝えることも改めて認識するのも今更な気がする。
 それにこなたにそれを伝えることを考えただけで顔が高潮していくのを感じる一方、
 なぜか言いようのない不安が私の心を満たしていく。
 そして、それがこなたに拒否されたときのことを想像してのことなのは、自分でも良く分かっていた。

 だからこそ、私は自分の気持ちに気づかない振りをしてきたんだ・・・。
 そんな危険を冒すくらいなら、今までの関係を・・・。
 『親友』の関係を続けて行くことを選んだんじゃない・・・。

 いつの間にかそうやって自分を納得させていたはずなのに、今更になってその感情は私の元に舞い戻り、
 まるで出口の見えない迷路に陥ったようにグルグルと同じところを回り続けていた。
 考えても答えはでないはずなのに、その思考を止められない私には、この日いつまで経っても睡魔は近づいてこなかった。











 あくる日、私は久しぶりにかつてのクラスメイト、日下部に電話をした。
 なんで直接こなたに電話しなかったのかって?
 それは、たまたま目についた番号が日下部だっただけで・・・。
 べ、別に久しぶりに電話するのが恥ずかしかったとか、お姉ちゃんに言われて意識しちゃってたとか、そんなんじゃないんだからね!!

「おーす、日下部。久し振りー」
「おう、ひぃらぎ。調子どう?」

 高校の時と変わらない元気そうな声が聞こえ、昨晩から続く重苦しい気持ちが少しだけ和らいだ。

「んー。こっちはぼちぼち。そっちは?」
「こっちもまーまーかなー? ちびっ子もいるし」

 やっぱりこなたと一緒にいるんだ・・・。
 ・・・・・・当然ちゃ、当然か。同じ大学行ってんだもんね・・・。

 少しだけ胸がチクリと痛んだ。
 でも、楽しそうに話す日下部の声にすぐに意識は受話器の向こうに戻される。

「ひぃらぎもあやのもいねーから、いろいろ面倒っちーけど。レポートとかな~」
「それが普通だっつーの!! でも、その感じだと何とかやってるみたいね」
「まーなー。わたしなりにちゃんとやってるよー」

 日下部の楽しそうな話に、一人置き去りにされたような孤独感と胸を締め付けられるような思いがした。

 私と比べるとなんだか楽しそう・・・。
 ・・・・・・自分で選んだ道なのに・・・ちょっと寂しい・・・。

「とりあえず、ちびっことジャンケンして負けた方がやってくることにしてんだ~」
「全っ然ちゃんとやってねーな。お前等どれだけダラけてんだ」

 だけど、高校の時と変わらずダラけた2人の様子につっこみを入れるだけでまるで私も高校の時に戻ったような気持ちになり、それはそれで少しだけ嬉しかった。

「そういえばこなたも元気なの?」
「まぁ、そこそこじゃん? ん? ひぃらぎは連絡とってねーの?」
「え? あ、ま、まぁ・・・わ、私も忙しいから」
「へぇ~。高校の時はあんなに仲良かったのに珍しいな。
 っていうか、ひぃらぎから連絡したらいいじゃん? ちびっ子も喜ぶと思うよ」
「な、何でよ?」
「いやー、最近ちょっと寂しそうにしてるしさ」
「え? こなたが?」
「うん。なーんか、元気ねーっていうか・・・。
 話しかけても上の空っていうか・・・」
「そうなんだ・・・」
「そうだ。今度、久しぶりにみんなで会わねーか?」
「そうね・・・。今はちょっと忙しいんだけど、時間が空いたらまた連絡するわ」
「わかった。んじゃ、またな~」

 電話を切り、そのままベッドに横になる。

 こなた・・・なんで元気ないんだろ・・・。
 日下部とは仲良くやってるみたいだけど・・・。
 なんかあったのかなぁ・・・。

 こなたとは春休み中は頻繁に連絡をとったり遊んだりしていたものの、実際に大学が始まると、
 講義の複雑さや予習復習の大変さからいつしか疎遠になっていた。
 心配ならばすぐにでもこなたに電話すれば良いことなのに、私は携帯に表示されたこなたの番号を見つめたまま、
 その指を動かすことができなかった。

「お姉ちゃ~ん。いる~?」

 その時、不意につかさの声が聞こえると同時にドアが開けられた。
 私はなぜか咄嗟に携帯を枕の下に隠す。

「あ、電話中だった?」
「え? う、ううん。もう終わったから大丈夫よ。ど、どうしたの?」
「この前お姉ちゃんが教えてくれた本貸してくれる?」
「あ、ああ、あれね。そこに置いてあるから持ってっていいわよ」
「ありがと~」

 とその時、つかさの携帯から音楽が流れる。

「あれ? えーと・・・あ、田村さんからだ。もしも~し」

 いつものようにおっとりとした口調で電話に出たつかさは、ひとしきり挨拶を交わすと、
 突然飛び上がらんばかりに大声を上げた。

「ええ!? お姉ちゃんに? すごいなぁ・・・・・・」
「な、なによ?」

 そのただならぬ様子に思わずつかさの肩を叩くと、つかさは電話口を抑えたまま、焦ったように早口で私に話しかけた。

「お姉ちゃん宛のラブレターがあったんだって!」
「・・・・・・へ?」

 何の脈絡も無いつかさの言葉に、私の頭の上にはクエスチョンマークがいくつも浮かぶ。
 それに気付いたのかつかさは一息つくと、もう一度説明をした。

「だから、お姉ちゃんの使ってた机の中に入ってたラブレターを、田村さんの先輩が見つけたんだってさ」
「え? ラブ・・・・・・・・・って、えええぇぇぇぇぇぇ!!」
「!? ひ、ひぇぇぇ!」

 想像もしていなかった事実に思わず大声をあげると、その声に驚いたつかさの指がスピーカーのボタンを押したらしく、
 携帯からは田村さんの声が聞こえてきた。

「お届けにあがるか、泉先輩にお願いしようかと・・・・・・」

 それを聞いた瞬間、私はほぼ反射的につかさの携帯を取り上げ、
 「小早川さん経由で・・・」と言っている田村さんの言葉を遮った。

「あー、もしもし田村さん? あいつには教えちゃ駄目よ?」

 いたって普段通りに言ったつもりだったけれど、田村さんはなぜか理由も聞かずに、怯えたように即答した。

「りょ、了解っス」

 申し訳ないんだけど家までもってきてもらいたいと丁寧にお願いすると、
 田村さんは今にも泣きそうな声で了承して電話を切った。
 電話を返そうと振り向くと、つかさは目をキラキラさせて私を見つめていた。

「お姉ちゃん、すごいねぇ~」
「で、でも、高校の時でしょ? い、今更な感じよね」
「え~。そんなことないよ。もしかしたら、そこから出会いがあるかも~」
「はは・・・。流石にもう時効でしょ?」

 内心ドキドキしながらも、私はそれを悟られないように軽口を叩きベッドに座り直した。

「この話したら、きっとこなちゃんもびっくりするだろうなぁ~」

 そう言われた瞬間、胸の奥の方で何かがざわめいた。

「え・・・? な・・・何で・・・?」

 突然襲ったその感覚に戸惑っている私に気付かず、つかさはあくまでも無邪気な笑顔のまま言葉を続けた。

「え~? だって、こなちゃんこういう話好きだったし、きっとすごく驚くと思うよ」

 その時、心臓が思い切り締め付けられた。
 私はまるでその力に絞り出されるように言葉を吐く。

「だ・・・・・・だ、だめよ! 絶対こなたには言っちゃだめだからね!!」
「え? な、なんで?」

 つかさは私の剣幕をきょとんとした表情で返し、首を少しだけ傾けた。
 その反応に我に返った私は、しどろもどろになりながら言葉を繋ぐ。

「へ? え・・・えっと・・・その・・・・・・。 だ、だって、こ、こなたがこのこと知ったら、絶対冷やかしにくるでしょ?」
「そ、そうかも・・・」
「ね? それに、今更高校の時のことなんて、恥ずかしくてこなたには知られたくないし」
「そ、そっか~・・・」
「だから・・・その、こなたには黙っていて欲しいんだ・・・」
「う、うん・・・わかった。お姉ちゃんがそう言うなら・・・」
「ありがと、つかさ」

 私の説得につかさは納得しつつも、「でも、すごいなぁ~」と言い、楽しげな表情であれこれ想像を巡らしているようだった。
 そんなつかさの顔を横目で見ながら、内心ホッと胸を撫で下ろす。
 でもそれは、こなたに冷やかされることを避けられたからではない。

 本当はそれをきっかけにこなたと恋愛の話になることを避けたかっただけ。
 きっとそうなったら、一旦納得させたこなたへの気持ちがもう一度私を苦しめるだろうし、それにもしかしたら、こなたが私以外の誰かに特別な感情を持つようになったことを知ることになるかもしれない。
 そんなことはこなたの自由だといくら頭ではわかっていても、それでも私はそれを聞くのが怖かった。

 そしてそれを知った時、きっと自分にとって大切なものを永遠に失ってしまう・・・。

 そんな薄暗い恐怖を感じている私とは対称的に、つかさは相変わらず遠くを見つめながら微笑んでいた。











 後日―――

「お姉ちゃん。今日田村さんから預かっておいたよ~」
「お、おお~。さんきゅっ」

 こなたへの気持ちはさておき、それでもラブレターをもらうことは内心嬉しかった。
 気恥かしく思いながらも、一体どんなことが書かれているんだろうかと期待に胸を膨らませて手を伸ばすと、
 どこからともなくつつつと二人の姉が現れた。

「かがみさんっ、3年間、ずっとアナタのコトを見ていました!!」
「言葉にできなかった想いを手紙に認めます」

 ・・・・・・・・・・・・。

「アレらはこなたと同類でしょーがぁ・・・・・・」
「な、何か、持ってるとそわそわしちゃって・・・・・・っ」

 ニマニマした顔で「早く開けよーよーっ」と言っている姉二人を無視し、私は部屋に入って1人封を開いた。




 ―――拝啓 柊かがみ様へ

 突然の手紙で申し訳ありません。
 面と向かってはお話しづらいことでしたので、先に手紙にて失礼します。

 私は3年間、ずっとあなただけを見てきました。
 あなたの何事にも真面目に取り組まれる姿勢を見て、私自身大きな影響を受け、少しでもあなたのようになりたいと思っていました。
 そして、周囲に対する細やかな気遣いや優しさが、尚一層あなたへの気持ちを強くさせました。

 私には勇気がなく、このような機会でしか気持ちをお伝えすることができませんでしたが、もしご迷惑でなければ直接お伝えしたいことがありますので、卒業式の後屋上にきていただければと思います。
 ではまた。




 ・・・・・・・・・。
 ・・・うん・・・。
 ・・・その・・・。
 ・・・えーと・・・。
 始まりはお姉ちゃんたちが言ったことと同じで・・・って、あいつら読んだんじゃないだろうな?

 ま、まぁ、ここまで私のことを想ってくれた人がいたっていうのは悪い気はしないわね・・・というか、正直嬉しい・・・。

 はぁ・・・何で気がつかなかったのかなぁ・・・。

 実際、卒業式の時にこの手紙に気がついて屋上に行っていたとしても、私はその人と付き合うという判断はしなかったと思う。
 でも、ここまで私のことを想ってくれていたのなら、どんな人だったのか知りたい気持ちもあった。
 だけど手紙には差出人の名前もなく、今となってはその事実も確かめようが無い。
 ただ、それでも後悔する気持ちは少なく、頭の片隅ではこなたの顔がちらついていた。

 手紙って言えばあいつ・・・ふふ。
 エイプリルフールの時に偽物の手紙書いて呼び出されたっけな。
 あの時もドキドキして待ってて・・・。
 だけどなかなか来なくて・・・。
 諦めかけた時にこなたが来て・・・。

 そう・・・。
 一瞬だけ、こなたが手紙の送り主かと思ったけど・・・。
 結局いたずらだったんだよな・・・。
 その時何とか気持ちは抑えたけど、でも帰ってからずっと泣いてて・・・。
 あまりにも残酷だって思ったけど・・・。
 でも、やっぱりこなたとの関係は崩せなかった・・・。
 ・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・こなたのバカ・・・私の気も知らないでさ・・・」

 1人そう呟くと、私は手紙を抱えたままベッドに寝転んだ。
 天井を見上げるその先にはこなたの顔が浮かんでいる。

 はぁ・・・。
 これがこなたからの手紙だったら良かったのにな・・・。
 それもいたずらじゃなくって、本当の・・・・・・。

 そう考えた途端、顔が思いきり熱くなり、胸元に置いた手にまで心音が伝わってきた。
 その感情に身もだえるようにベッドをコロコロ転がりながらも、不思議と心は満たされていた。

 変に怖がってないで、電話しちゃおっかな・・・。
 でも・・・余計なこと言っちゃったらまずいし・・・。
 それにこなたの恋愛の話になっちゃったらやだし・・・。

 なんてウジウジ考えながら携帯を見つめたまま、時間だけが過ぎていく。

 う~・・・。だけど、もうダメ!
 このままこなたの声聞かないと妄想ばっかり膨らんじゃうわ。
 よしっ! 大丈夫!
 こなたとは友達よ。友達。友達なのよ。

 ・・・・・・・・・・・・。
 はぁ・・・・・・。

 自分で言ったセリフに軽く落ち込みながらもようやく決心した私は、微かに震える指で発信ボタンを押した。
 コール音が聞こえるたびに今にも切ってしまいたい衝動を我慢しながら待つと、
 携帯の向こうから高校時代に散々聞かされた気の抜けたような声が聞こえた。

「やふ~、かがみん。久しぶりだね」
「うん。元気だった?」
「ま、ぼちぼちだよ」

 あれだけ緊張していたのに、そんな他愛もない挨拶から始まる。
 かなり久しぶりの電話なのに、お互いまるでつい最近まで話していたような口調。
 なんか懐かしいようで、でも日常のようで。

 私はこの時間がいつも好きだった。
 そして、またこの時間を味わうことができてすごく嬉しかった。

「いや~。かがみも忙しいみたいだね」
「まぁね~。ところであんたはいっつも遊んでんじゃないの?」
「むぅ~。そんなことないよ。これでも結構忙しいんだよ」
「ほぅ。何がそんなに忙しいのよ?」
「ほら、バイトと講義とレポートと」
「ふぅ~ん。日下部と交代でレポート書いてるのに?」
「うぉぅっ!! な、なぜそれを・・・」
「ちっちっちっ。私の情報網を甘く見ないでもらいたいわね」
「ま、どうせみさきちが言ったんだろうけど」
「って、もう少し食いつけよ!!」

 さっきまで感じていた不安はどこかに消えてしまい、私は高校の時と同じ『親友』として話していた。
 それは私にとって辛い選択であると同時に、何ものにも代えがたい大切なものを守るために必要な選択だった。

 私はこの時間を、この感覚を守りたかった・・・。

 私は胸にチクチクと刺すような痛みを感じながらも、こなたといる瞬間がいかに安心できて、
 いかに大切な時間だったのかを再確認していた。

「あはは・・・。ところでかがみ。今日はずいぶん上機嫌だね~」

 んなっ! ななな、なんで? そ、そんなにテンション上がってた!?

「さては、大学いって春でもきたかナ~?」
「や!! いやいやいやいや。そんなワケないでしょ!!」

 こなたと話せて嬉しかったからなんて絶対言えないよね・・・。

 と、内心落ち込みながらも、それを気取らないように私は平静を装う。

「あー。春といえばさ。卒業式の時、悪戯で偽ラブレターを机に入れといたのに、
 かがみ気付かずに帰っちゃうんだもんな~っ。つまんないのー」

 え――――――。

 その時、一瞬にして思考が停止し、目の前が真っ暗になった。

「あれ? もしもし、かがみ?」

 私を呼ぶこなたの声がひどく遠くから聞こえる。
 まるで、自分だけがこの世界に取り残されたような感覚。
 同時に、私が必死に守ろうとしてきたものがガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。

「どうしたの? かがみ?」

 心配そうに少し強めのトーンで聞き返すこなたの声に、ようやく現実に引き戻される。

「・・・え? ・・・あ・・・な、なんでもないわ・・・」

 何とか言葉を繋いだけれど、身体は小刻みに震え、携帯を持つ手にはじんわりと汗が浮いた。
 でも、そんな様子を見ることもできないこなたは不信そうな声は出すものの、そのまま話を進めていった。

「そう? あ、そうだ。久しぶりに今度遊ばない?」
「ん・・・うん・・・。いいわよ」
「? 何かあった?」
「あ、い、いや。何でもないわ」
「んじゃ、また連絡するね~」
「う・・・うん・・・」

 こなたが電話を切ると携帯からは無機質な音が繰り返された。
 まるでその音に誘われるかのように、逃れようの無い現実が私の中に流れ込んでくる。

 確かにこなたは友達だった。
 それは紛れもない現実。
 そして、・・・私の選んだ現実・・・。

「もう・・・。こなたのいたずらなんて、いつものことじゃない・・・。
 何をそんなに落ち込んでるのよ・・・」

 その現実は私にとってあまりにも辛い。

「それに・・・・・・私の気持ちだって、私が勝手に想ってるだけなんだし・・・。
 そんなの・・・こなたには関係ないわけだし・・・・・・」

 それでも私は必死でその現実を守ろうとしている。
 自分を納得させる事で・・・・・・。

 でも・・・・・・・・・。



 本当は少しだけ期待していた・・・。
 100%じゃなくてもいい。
 たとえこの手紙の100分の1くらいでもいいから、私のことを想ってくれてたらなって・・・。

「・・・・・・ほんと・・・」

 でも、そんな幻想は木っ端みじんに砕かれた。
 騙されたことへの傷つきなんて微塵も感じない。
 そんなことよりも、この手紙みたいに私のことを想ってくれるこなたはこの現実にはいないんだってわかったことのほうが、その何倍も辛かった。

「・・・・・・バカみたい・・・」

 だけど、頭でいくら納得しようとしても心は悲鳴をあげている。
 その声にならない悲鳴は涙となって両眼から溢れ、パタパタと音を立てて絨毯を濡らしていった。

「・・・ひぐっ・・・・・・こなた・・・」

 私は目の前に佇む制服姿のこなたに呼びかける。
 それが現実のこなたではないことはわかっている。
 だけど今にも心が折れてしまいそうな私は、それでも尚それにすがらずにはいられなかった。

「私・・・・・・ぐすっ・・・こんなにも・・・こんなにも辛いんだよ?
 ・・・こんなにも・・・苦しいんだよ?
 ・・・わ、私・・・うぅ・・・・・・どうしたら・・・いいの・・・・・・?」

 でもこなたは何も言わず、ひどく傷ついている私に、ただ柔らかな笑顔を向けているだけだった・・・。




                                    続





かがみの気持ち と こなたの想い  中篇(こなた&かがみ)(かがみ視点)
かがみの気持ち と こなたの想い  後篇(こなた&かがみ)(かがみ視点)








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  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-30 02:52:36)
  • 久々の職人様からの投稿、おまけに感動作の予感。
    期待と共に続編へ・・・ -- kk (2012-02-14 23:08:11)
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