予兆に戻る
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(つかさ視点)
秋が深まりゆく、ある日の夕方。
田村さんから借りた同人誌を返しに1年D組の教室に入ると、小早川ゆたかちゃんが、
とても寂しそうに席に座っていた。
「こんにちは。ゆたかちゃん」
「つかさ先輩…… 」
ゆたかちゃんは一瞬だけ、微かに笑顔をみせたけれども、すぐに物憂げな表情になってしまう。
「ひよりちゃんはもう帰った? 」
「え、あ、そうみたいです…… 」
ゆたかちゃんは答えてくれたが、心ここにあらずという感じだ。
「そっか。ごめんね」
「いえ。お役にたてず、すみません」
俯き加減で答えた彼女の声は、蚊の鳴くように小さい。
「どうしたの、ゆたかちゃん。体の具合が悪いの? 」
私は心配になって尋ねた。ゆたかちゃんは体調を崩すことが多い。
「いえ。違います。ちょっと…… 」
ゆたかちゃんは、助けを求めるように話し始めて、すぐに口ごもる。
「な、なんでもありません。なんでも」
一旦は、口にしながら止められると、気になって仕方がない。
田村さんから借りた同人誌を返しに1年D組の教室に入ると、小早川ゆたかちゃんが、
とても寂しそうに席に座っていた。
「こんにちは。ゆたかちゃん」
「つかさ先輩…… 」
ゆたかちゃんは一瞬だけ、微かに笑顔をみせたけれども、すぐに物憂げな表情になってしまう。
「ひよりちゃんはもう帰った? 」
「え、あ、そうみたいです…… 」
ゆたかちゃんは答えてくれたが、心ここにあらずという感じだ。
「そっか。ごめんね」
「いえ。お役にたてず、すみません」
俯き加減で答えた彼女の声は、蚊の鳴くように小さい。
「どうしたの、ゆたかちゃん。体の具合が悪いの? 」
私は心配になって尋ねた。ゆたかちゃんは体調を崩すことが多い。
「いえ。違います。ちょっと…… 」
ゆたかちゃんは、助けを求めるように話し始めて、すぐに口ごもる。
「な、なんでもありません。なんでも」
一旦は、口にしながら止められると、気になって仕方がない。
「あのね。ゆたかちゃん」
私は、少し迷ったけれど、思い切って尋ねてみることにした。
「悩みがあるのだったら相談にのるよ」
「で、でも、ご迷惑ですし」
ゆたかちゃんは人に遠慮をしすぎると思う。
「そんなに私って頼りない? そりゃ、こなちゃんや、お姉ちゃんと比べるとそうかもしれないけれど、
一応は三年生だよ」
先輩面をしたい訳ではないけれど、可愛い後輩が悩んでいるのだから、力になりたい。
「確かに、悩みを解決できるとは約束できないけど…… 話すだけで気持ちが楽になると思う。
もし、ゆたかちゃんさえ良ければ、話してくれないかな」
うつむき加減のゆたかちゃんの大きな瞳を見据えて、説得を試みる。
私は、少し迷ったけれど、思い切って尋ねてみることにした。
「悩みがあるのだったら相談にのるよ」
「で、でも、ご迷惑ですし」
ゆたかちゃんは人に遠慮をしすぎると思う。
「そんなに私って頼りない? そりゃ、こなちゃんや、お姉ちゃんと比べるとそうかもしれないけれど、
一応は三年生だよ」
先輩面をしたい訳ではないけれど、可愛い後輩が悩んでいるのだから、力になりたい。
「確かに、悩みを解決できるとは約束できないけど…… 話すだけで気持ちが楽になると思う。
もし、ゆたかちゃんさえ良ければ、話してくれないかな」
うつむき加減のゆたかちゃんの大きな瞳を見据えて、説得を試みる。
「そ、そうですね…… 」
しばらく逡巡した後ではあるけれど、ゆたかちゃんは頷いてくれた。
「お願いですから、他の人には内緒にしてくださいね」
「うん。もちろんだよ」
私の返事を聞いてから、ゆたかちゃんはゆっくりと口を開いた。
「実は、好きな人がいるんです」
ゆたかちゃんの悩みは、誰もが経験するものではあるけれど、自分だけの答えを
見つけなくてはいけないものでもあった。
しばらく逡巡した後ではあるけれど、ゆたかちゃんは頷いてくれた。
「お願いですから、他の人には内緒にしてくださいね」
「うん。もちろんだよ」
私の返事を聞いてから、ゆたかちゃんはゆっくりと口を開いた。
「実は、好きな人がいるんです」
ゆたかちゃんの悩みは、誰もが経験するものではあるけれど、自分だけの答えを
見つけなくてはいけないものでもあった。
「そっかあ。ゆたかちゃんは恋をしたんだね」
片想いは辛いけれど、恋をしている人は輝いて見える。
「ええ。話をするだけでどきどきして…… 胸が締め付けられるように痛くなるんです」
ゆたかちゃんはとても辛そうな表情をみせながら、声を絞り出した。
「告白はしないの? 確かに怖いことかもしれないけれど…… 」
私の言葉に、ゆたかちゃんは私の言葉を遮るようにして叫ぶ。
「普通の場合だったらできるんです! でも! 」
片想いは辛いけれど、恋をしている人は輝いて見える。
「ええ。話をするだけでどきどきして…… 胸が締め付けられるように痛くなるんです」
ゆたかちゃんはとても辛そうな表情をみせながら、声を絞り出した。
「告白はしないの? 確かに怖いことかもしれないけれど…… 」
私の言葉に、ゆたかちゃんは私の言葉を遮るようにして叫ぶ。
「普通の場合だったらできるんです! でも! 」
「ゆ、ゆたかちゃん」
珍しく感情を露わにする、ゆたかちゃんに驚きながらも、疑問に思ったことをそのまま口に出す。
「ゆたかちゃん、『普通の場合』ってどういうこと? 」
「あっ…… 」
彼女は口に手をあてて黙り込んだけれど、結局は打ち明けてくれた。
「私が好きになったひとは、女性です」
泣きそうな顔をしているゆたかちゃんが、とても可哀想で愛しい。
もし、自分が同じ性別の人が好きになっちゃったら、狼狽するのも無理はない。
珍しく感情を露わにする、ゆたかちゃんに驚きながらも、疑問に思ったことをそのまま口に出す。
「ゆたかちゃん、『普通の場合』ってどういうこと? 」
「あっ…… 」
彼女は口に手をあてて黙り込んだけれど、結局は打ち明けてくれた。
「私が好きになったひとは、女性です」
泣きそうな顔をしているゆたかちゃんが、とても可哀想で愛しい。
もし、自分が同じ性別の人が好きになっちゃったら、狼狽するのも無理はない。
誰が相手なのかが凄く気になるが、流石に今のゆたかちゃんから聞き出すことは憚られる。
しかし、おそらくは彼女のナイトである岩崎みなみちゃんなのだろう。
傍から見ていれば、ゆたかちゃんとみなみちゃんは両想いとしか思えなかったから、
ここは後押しをしてあげた方が良いと思う。
しかし、おそらくは彼女のナイトである岩崎みなみちゃんなのだろう。
傍から見ていれば、ゆたかちゃんとみなみちゃんは両想いとしか思えなかったから、
ここは後押しをしてあげた方が良いと思う。
「ねえ。ゆたかちゃん」
「は、はい」
私は、後輩の小さな手を包み込むように覆ってから話し始めた。
「あのね。告白した相手が女の子であっても、ゆたかちゃんのことを嫌ったりしないと思うよ」
「で、でも、同性ですし…… 」
彼女の不安を鎮めるように、笑顔を向けて言葉を続ける。
「だって、ゆたかちゃんって、凄く可愛らしくて魅力的だもん。もっと、自分に自信をもった方がいいよ」
「そうでしょうか? 」
ゆたかちゃんは、自信なさげに問い返す。
「は、はい」
私は、後輩の小さな手を包み込むように覆ってから話し始めた。
「あのね。告白した相手が女の子であっても、ゆたかちゃんのことを嫌ったりしないと思うよ」
「で、でも、同性ですし…… 」
彼女の不安を鎮めるように、笑顔を向けて言葉を続ける。
「だって、ゆたかちゃんって、凄く可愛らしくて魅力的だもん。もっと、自分に自信をもった方がいいよ」
「そうでしょうか? 」
ゆたかちゃんは、自信なさげに問い返す。
「うん。ゆたかちゃんに想いを打ち明けられたら、男の子じゃなくても嬉しいと思うよ。それにね。
とても優しいゆたかちゃんが好きになった子が、相手を傷つけるようなことをするはずがないよ。
だから、例え結果が上手くいかなくなったとしても、気まずくなったりはしないはずだよ」
一気に話し終えて、返事を待つことにする。
とても優しいゆたかちゃんが好きになった子が、相手を傷つけるようなことをするはずがないよ。
だから、例え結果が上手くいかなくなったとしても、気まずくなったりはしないはずだよ」
一気に話し終えて、返事を待つことにする。
無言の時間がずいぶんと過ぎて、下校を促すベルが鳴った頃。
「ありがとうございます…… 」
お礼をいってくれたゆたかちゃんが、ようやく、本来の魅力あふれる笑顔をみせてくれる。
「私、すごく臆病でした。嫌われたらどうしようって、ずっと後ろ向きに考えていました。
だけど、逃げてばかりじゃ駄目なんですね」
ゆたかちゃんは、大きく息を吸ってから言い切った。
「私、告白します」
きっぱりと宣言したゆたかちゃんは、先程よりも、うんと大人びてみえる。
「うん。がんばって」
「はい。ありがとうございます。つかさ先輩」
私は、満面の笑顔をみせてくれた彼女の手を、ぎゅっと握りしめた。
「ありがとうございます…… 」
お礼をいってくれたゆたかちゃんが、ようやく、本来の魅力あふれる笑顔をみせてくれる。
「私、すごく臆病でした。嫌われたらどうしようって、ずっと後ろ向きに考えていました。
だけど、逃げてばかりじゃ駄目なんですね」
ゆたかちゃんは、大きく息を吸ってから言い切った。
「私、告白します」
きっぱりと宣言したゆたかちゃんは、先程よりも、うんと大人びてみえる。
「うん。がんばって」
「はい。ありがとうございます。つかさ先輩」
私は、満面の笑顔をみせてくれた彼女の手を、ぎゅっと握りしめた。
すっかりと元気になったゆたかちゃんと別れてから、駅に向かってゆっくりと歩く。
秋の短い太陽は、既に地平線の下に隠れており、あたりは黄昏から夜の領域に踏み出している。
私は、瞬き始めた星の間を縫うように落ちていく大きな流れ星に願った。
秋の短い太陽は、既に地平線の下に隠れており、あたりは黄昏から夜の領域に踏み出している。
私は、瞬き始めた星の間を縫うように落ちていく大きな流れ星に願った。
ゆたかちゃんの恋がうまくいきますように、と。
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ガラスの壁へ続く
ガラスの壁へ続く
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- これがすべての始まりか… -- 薫風 (2008-11-20 02:24:47)