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白い日~闘争編~

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「ファミコンウォーズが出~るゾ~!」
「「ファミコンウォーズが出~るぞ~!」」
「こいつはどえらいシミュレーション!」
「「こいつはどえらいシミュレーション!」」
 春休みまで間もないある日の放課後。グラウンドのトラックを、三人の生徒が歌いながら走っている。先頭を行くのはパティことパトリシア=マーティン。後ろについてきているのは、クラスメイトの田村ひよりと岩崎みなみだ。
 ひよりもそうだが、みなみはとても恥ずかしそうでほとんど声が出ていない。
 しかしそんな羞恥心はどこ吹く風と、先頭を行くパティはまだまだ走り続ける。変な歌とともに。
「詩織を気取って髪ピンク~!」
「「詩織を気取って髪ピンク~!」」
「会社を追われて今漁師~!」
「「会社を追われて今漁師~!」」
「染みついたッ」
「「染みついたッ」」
「女装癖ッ」
「「女装癖ッ」」
「俺だけのッ」
「「俺だけのッ」」
「パラダイスッ」
「「パラダイスッ」」
「ぜんた~~い……ときめけ!」
 即興の割には揃った足並みで、三人がその場に直立する。
「パティ! 質問が!」
 ひよりが手を挙げた。
「何ですカ?」
「何故に私達がいきなりランニングを? あとパロネタをパロった漫画の歌詞をそのまま持ってきてもうわけが分からないんだけど」
 ひよりの質問に、横のみなみもコクコクと頷いて同意した。
「ヒヨリ! 今日は何日ですカ?」
「え……三月十三日だよね」
「明日三月十四日は何の日ですカ?」
「ホワイトデーだけど」
「一ヶ月前のバレンタインにチョコを上げましたor貰いましたカ?」
「小早川さんから貰ったけど。パティもそうだし、岩崎さんもそうでしょ」
 みなみが頷き、パティも「そのとーりでス!」と同意する。
「つまり我々にハ、来る三月十四日ホワイトデー、ユタカに心の籠もったお返しをするという崇高なる使命があるのでス!!」
 握り拳を高々と天へ突き上げ、パティは威風堂々宣言した。
「三倍返しならぬ三人返し! ヒヨリ! ミナミ! ユタカにジェットストリームアタックをかけるゾ!! というわけデ! 我々三人は明日のために即席の強化訓練を受けることにしたのでス!」
「そういうことならちゃんと事前に言ってよ……って、さっきの半分羞恥プレイみたいなのが強化訓練?」
「ノンノン。あれはただの余興でス。間もなく教官殿が到着しまス。本番はそれからでス」
「教官殿……?」
 ひよりとみなみが疑問符を浮かべたその時、上空からヘリコプターのエンジン音が聞こえてきた。
 爆音は風を切って陵桜学園の敷地に近付き、その音がひより達の真上から聞こえたと思うと、次第に遠ざかっていた。
 もちろんこのヘリコプターはひより達に何の関係も無い。ただ近くを通っただけである。


「お待たせー」
 片手にスーパーのビニール袋を提げながら歩いてきたのは、三人の二つ上の先輩、柊つかさだった。既に卒業しているので私服である。
「Master Chiefに敬礼ッ!!」
 その姿を認めた途端、パティが稲妻のような勢いで号令を掛けた。
(つかさ先輩が教官なの……?)
 色々と疑問を感じながらもひより、次いでみなみも見様見真似の敬礼をする。
「ますたち……?」
 状況がよく分かっていない様子のつかさだが、パティは構わず続ける。
「教官殿! 今日はよろしくお願いしまス!」
「う、うん。ホワイトデーのお菓子作りだよね? みんな一緒に頑張ろうね」
 ここでようやくひよりとみなみにも話が飲み込めた。
 天然ドジっ子なつかさだが、料理とお菓子作りに関しては相当な猛者である。そのつかさに、明日のホワイトデーに向けてのお菓子作りを訓練してもらおうというわけだ。
「……ってことは、お返しを手作りお菓子にするってのは決定事項なわけね」
「当然でス! 目には目ヲ! 歯には歯ヲ! ダイヤモンドにはダイヤモンドヲ! 手作りチョコのお返しは手作りお菓子に決まってるでス!」
「分かった分かった。で、どこでやるの?」
「私のアパートでス。既に準備は万端ですヨ♪」

 前言の通り、パティ宅のキッチンには、お菓子作りに必要な器材等が一通り揃えられていた。つかさはそれらをくまなくチェックしていく。
 万一不備が見つかれば、たちまちつかさは鬼教官と化すであろう。そんな想像が冗談にならないほど、その横顔は真剣だった。
「うん。それじゃあ始めようか」
 無事にお菓子作りスタート。一年生三人は軽く胸を撫で下ろした。
 まずはつかさが用意したレシピで、パティ、ひより、みなみの三人が協力してクッキーを作ってみる。
 数十分後。出来上がったクッキーをつかさが試食する。 
「……ちょっとシナモンの量が多いかな。あと、小麦粉をふるいにかけるの横着にしたでしょ。できあがりの木目が全然違ってくるんだよ。それから――」
 つかさは妥協することなくガンガン批評していく。ことごとく的を射ていたので、ひより達は反論の気すら起こらなかった。
「それじゃあ、このクッキーは失敗作ってことスね……?」
「失敗ってほどでもないと思うよ。でもそれ、ホワイトデーの贈り物にするの?」
 つかさの言葉には悪意も裏表も一切ない。だからこそ辛辣に耳を打った。
「先輩! もう一度ご指導お願いします!」
「お願いします……!」
 ひよりもみなみも、珍しく体育会系のテンションになってきている。
「うん。それじゃあ次はフルーツケーキを作ってみよっか。今度は私も一緒に作るからね」
 その後、厳しい先輩の指導の元、後輩達は真摯にお菓子作りを学んでいく。三人にとって非常に密度の濃い時間であった。


 翌日のホワイトデー。朝の一年D組教室。
「どうしたのみなみちゃん? 田村さんに、パティちゃんも、目の下に凄いクマ……」
 揃って寝不足丸出しな顔を並べるクラスメイト達に、ゆたかはいささか困惑気味だ。
「いやぁ、私はいつも通り原稿に追われて寝不足で」
「私もいつも通り徹ゲーで寝不足で」
「私もいつも通り…………寝不足で」
 みなみは理由が思いつかなかったらしい。ともあれ、三人とも寝不足の真の理由は言うまでもなかった。
「決戦は放課後でいいですカ?」
「異議なし」
「うん……」
 三人は小声で会話を交わし、ひとまず解散となった。

「ユタカ!」
「小早川さん!」
「ゆたか……」
 授業が終わって放課後になった途端、三人から一斉に呼びかけられ素でびびるゆたか。ハムスターなどの小動物は、驚かせるとショック死することもあるというのに。
「な、何?」
「私達からバレンタインのお返しでス」
 我先にと争うようなことはなく、三人は足並み揃えてそれぞれのプレゼントを差し出した。色とりどりのラッピングをされた三つの箱を前に、ゆたかは目を白黒させている。
「あ……今日、ホワイトデーだったね」
「そのとーりでス!」
「さあ小早川さん」
「開けてみて……」
 三人の気迫に半ば押されるようにして、ゆたかはそれぞれの箱を開けてみる。
 みなみはホワイトチョコをまぶしたクッキー。ひよりはドライフルーツのパウンドケーキ。パティは旬の苺を使ったイチゴ大福。全てつかさからレシピを伝授されたお菓子だが、完成度はかなりのものだ。
 和洋揃った三種類のお菓子を見て、ゆたかは目を輝かせた
「うわあ……これ、全部みんなが作ったの?」
「Yes! 三人力を合わせればこれくらい軽いでス。一本や二本の矢は簡単に折れますガ、三本束ねるとなかなか折れないのでス。これぞ毛利のサンコンの矢!」
「三本の矢、ね。そっちはギニアの人だから」
「実は柊先輩にコーチしてもらって……」
「へえ、そうなんだ」
 ゆたかは手作りのお菓子をそれぞれ一つずつ摘んでみる。
「ん~……美味しい~!」
 ゆたかは両頬を押さえて満面の笑みを浮かべた。
 その様子を見て、ひよりは思った。『ほっぺたが落ちる』という表現は、きっと昔の人が小動物系萌やしっ子のこのような仕草を見て考えたのだろうな、と。
「どれもすっごく美味しいよ! こんなに美味しいお菓子がこんなに沢山あって、私虫歯になっちゃいそう」
「日にちをかけて、分けて食べれば……」
「あ……でもクッキーはともかく、フルーツケーキとイチゴ大福はあんまり日持ちしないんじゃないかな?」
 そう言って、ゆたかはしばらく俯いて考える。やがて、何やらひらめいたのか、パッと明るい顔になった。
「そうだ。良かったら、これからみんなで食べようよ」
 ゆたかの提案に、みなみ、ひより、パティの三人はちょっと顔を見合わせた。
「いいの?」
「うん。こんなに美味しいお菓子、私一人じゃもったいないし、食べきれないもの」
「んー……それじゃあ」
「お言葉に甘えますカ」
「うん……」
「そんじゃあ、ひとっ走りお茶買ってくるね」
 そういうわけで、手作りお菓子を四人で囲み、ちょっとしたお茶会になった。
「ところでユタカ。どのお菓子が一番美味しいですカ?」
「え、ええっ? そんなの決められないよぅ……」
「こらこらパティ。小早川さんを困らせない。物が違うんだから優劣付けようないでしょ」
「それもそうですネ。Sorry ユタカ。お詫びニ……はい、あーン」
「え?」
 にっこり笑ったパティが、ゆたかに向けてイチゴ大福を一つ差し出す。
 ゆたかは少し戸惑いながら、口を開けてパティの手から直接それを食べさせてもらった。
「美味しいですカ?」
「うん。とっても」
 照れ笑いを浮かべながら、ゆたかは頷いた。
 その様子を横目で見て、静かに対抗心を燃やしているのはみなみである。
「ゆたか……こっちも、良かったら……」
「う、うん……」
「あーん……」
 クッキーを差し出すみなみ。
「あーん」
 ゆたかは口を開けてそれを受け入れる。
「……美味しい?」
「うん。もちろんだよ」
 眩い笑顔を浮かべるゆたかに、みなみは嬉しさと恥ずかしさが綯い交ぜになった表情で俯いた。
 そんな一連のやり取りを見て、ひよりが妄想世界へ旅立ったのは言うまでもない。
 何はともあれ、一年生達のホワイトデーは和気藹々と過ぎていった。


おわり

















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コメント:
  • 平野耕太の「進め!!聖学電脳研究部」やね。
    ぜんたーい、ときめけ! -- 名無しさん (2010-02-06 16:51:14)
  • 思い出せない…なんかの漫画で同じセリフが… -- 名無しさん (2010-01-30 18:53:18)
  • ヘリから降り立ったのは柊先任一曹。



    「口からメレンゲ垂れる前と後ろにマァムを付けろ!」

    「なんだこのケーキは!おつとめ品半額ほどの価値もないッ!」

    「じっくり可愛がってやる!妄想したり同人書いたりできなくしてやる!」 -- 名無しさん (2008-12-17 12:39:11)
  • ヘリコプター…
    爆○大佐でも出てくるのかと
    思いました… -- 無垢無垢 (2008-12-16 18:47:17)
  • GJ!!一年組はやっぱりイイ・・・!! -- 名無しさん (2008-03-15 18:29:20)

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