「471」(2007/05/06 (日) 12:33:39) の最新版変更点
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<p><dt><a href="menu:471" target="_top" name="471"><font color="#0000ff">471</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:51:23 <a href="id:471" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM </dt><dd>3月も終わりに近づいたある日。 <br />
「…来てくれたんだ」 <br />
通勤ラッシュの終わりかけた駅前に、二人の少女が立っていた。 <br />
<br />
「我慢できなくて…迷惑だったかな?」 <br />
「…ううん。すごく嬉しい」 <br />
春休みとあって、平日にしては人通りが多い。 <br />
皆、この陽気にじっとしていられなかったのだろう。 <br />
「誰にも教えてないなんて水臭いぜ」 <br />
少女は不機嫌そうな顔をする。 <br />
「…みんな忙しいと思って。独り暮らしの準備とか」 <br />
「私は実家だっつーの」 <br />
そっぽを向いてふくれてしまった少女に、彼女はごめんと小さく呟いた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:472" target="_top" name="472"><font color="#0000ff">472</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:05 <a href="id:472" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM </dt><dd>出発まではまだまだある。 <br />
まだまだあるが…。 <br />
その時が来てしまえば、電車は彼女を乗せて遠くへ行ってしまうのだろう。 <br />
週末だからって簡単には訪れることのできない、田舎の大学。 <br />
次に会えるのはいつかわからない。 <br />
<br />
二人の時間が少しずつ減っていっている…そんな雰囲気が少女に口を開かせた。 <br />
「いつ帰ってこれるんだよ」 <br />
遠くを見たまま尋ねる。 <br />
「落ち着けば」 <br />
答える彼女は穏やかに微笑んでいた。 <br />
<br />
「…そうか」 <br />
少し呆れたようなため息をついて、少女はうつ向いてしまった。 <br />
<br />
こんな晴れた日に、こんな湿った空気を帯びた場所があるだろうか。 <br />
旅立ちを祝うためにここに来たはずなのに。 <br />
会えなくなるわけじゃないとわかってるのに。 <br />
こんなに寂しいのは、彼女を信じていないから…? <br />
…いいえ、きっと大切に思うから。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:473" target="_top" name="473"><font color="#0000ff">473</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:51 <a href="id:473" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM </dt><dd>「榊…」 <br />
顔をあげた少女の目に映った世界は、涙でぼやけていただろう。 <br />
「寂しいよぅ…」 <br />
言うつもりではなかった言葉が口をつく。 <br />
昨日出尽くしたはずの涙も、どこからか、あふれてくる。 <br />
「嫌だよ…榊…」 <br />
愛しい人に向かってふらふらと歩きだした少女を、長く白い腕が抱きとめた。 <br />
<br />
「うぇ・・・榊…さか…きぃ…」 <br />
「よしよし・・・」 <br />
「私のこと・・・うっ、忘れんなよ・・・」 <br />
<br />
少女は自分で、馬鹿なこと言っているな、と思った。 <br />
<br />
「・・・行かないでよ・・・。榊ぃ・・・。」 <br />
<br />
でも、今日は感情的になりたかった。 <br />
<br />
「マヤーが・・・羨ましいよぅ。・・・私も、榊と、・・・一緒にいたい・・・う・・・ひくっ」 <br />
「大丈夫・・・。すぐ戻ってくる」 <br />
「嫌だ!明日も・・・榊と・・・うあ・・・うぅ・・・」 <br />
<br />
泣きじゃくって甘えたかった。 <br />
<br />
「好きだから・・・さがき・・・ずぎだよ・・・あうぅ・・・」 <br />
「・・・わかってる。私も大好きだよ」 <br />
<br />
嗚咽と涙でぐちゃぐちゃになった少女は、もう何を言っているのか自分でもわからなかった。 <br />
もうすぐ来るであろう別れに備えて、大好きな人を両腕で固く抱くのが精一杯だった。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:474" target="_top" name="474"><font color="#0000ff">474</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:53:49 <a href="id:474" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM </dt><dd>長身の彼女は、人目を気にしながらも…確実な幸せと、切ない感傷に浸っていた。 <br />
「ありがとう…。こんなに可愛い子に待たれてちゃあ…」 <br />
真っ赤な目が見上げる。 <br />
「早く帰ってこないとな」 <br />
穏やかな日の光の射す春先の駅前で。 <br />
涙を流す二人の表情は、やっと季節に見合うものになっていた。 <br />
<br />
<br />
「もう行かなくちゃ」 <br />
向けられた笑顔に、少女も最後ばかりは涙を見せるべきでないと判断したのだろう。 <br />
「・・・帰ってくるときは連絡しろよ」 <br />
笑ってみせる。 <br />
彼女はうん、と頷くと、もう一度顔を近づけた。 <br />
「じゃあまた!」 <br />
「ああ」 <br />
いつもの笑顔に戻った少女は、小さくなる後姿をずっと見つめていた。 <br />
<br />
彼女の匂いと唇の感触だけが、まだ少し残っていた。 <br />
</dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:471" name="471"><font color="#0000ff">471</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:51:23<a target="_top" href="id:471"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM</dt><dd>3月も終わりに近づいたある日。<br />
「…来てくれたんだ」<br />
通勤ラッシュの終わりかけた駅前に、二人の少女が立っていた。<br />
<br />
「我慢できなくて…迷惑だったかな?」<br />
「…ううん。すごく嬉しい」<br />
春休みとあって、平日にしては人通りが多い。<br />
皆、この陽気にじっとしていられなかったのだろう。<br />
「誰にも教えてないなんて水臭いぜ」<br />
少女は不機嫌そうな顔をする。<br />
「…みんな忙しいと思って。独り暮らしの準備とか」<br />
「私は実家だっつーの」<br />
そっぽを向いてふくれてしまった少女に、彼女はごめんと小さく呟いた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:472" name="472"><font color="#0000ff">472</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:05<a target="_top" href="id:472"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM</dt><dd>出発まではまだまだある。<br />
まだまだあるが…。<br />
その時が来てしまえば、電車は彼女を乗せて遠くへ行ってしまうのだろう。<br />
週末だからって簡単には訪れることのできない、田舎の大学。<br />
次に会えるのはいつかわからない。<br />
<br />
二人の時間が少しずつ減っていっている…そんな雰囲気が少女に口を開かせた。<br />
「いつ帰ってこれるんだよ」<br />
遠くを見たまま尋ねる。<br />
「落ち着けば」<br />
答える彼女は穏やかに微笑んでいた。<br />
<br />
「…そうか」<br />
少し呆れたようなため息をついて、少女はうつ向いてしまった。<br />
<br />
こんな晴れた日に、こんな湿った空気を帯びた場所があるだろうか。<br />
旅立ちを祝うためにここに来たはずなのに。<br />
会えなくなるわけじゃないとわかってるのに。<br />
こんなに寂しいのは、彼女を信じていないから…?<br />
…いいえ、きっと大切に思うから。<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:473" name="473"><font color="#0000ff">473</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:51<a target="_top" href="id:473"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM</dt><dd>「榊…」<br />
顔をあげた少女の目に映った世界は、涙でぼやけていただろう。<br />
「寂しいよぅ…」<br />
言うつもりではなかった言葉が口をつく。<br />
昨日出尽くしたはずの涙も、どこからか、あふれてくる。<br />
「嫌だよ…榊…」<br />
愛しい人に向かってふらふらと歩きだした少女を、長く白い腕が抱きとめた。<br />
<br />
「うぇ・・・榊…さか…きぃ…」<br />
「よしよし・・・」<br />
「私のこと・・・うっ、忘れんなよ・・・」<br />
<br />
少女は自分で、馬鹿なこと言っているな、と思った。<br />
<br />
「・・・行かないでよ・・・。榊ぃ・・・。」<br />
<br />
でも、今日は感情的になりたかった。<br />
<br />
「マヤーが・・・羨ましいよぅ。・・・私も、榊と、・・・一緒にいたい・・・う・・・ひくっ」<br />
「大丈夫・・・。すぐ戻ってくる」<br />
「嫌だ!明日も・・・榊と・・・うあ・・・うぅ・・・」<br />
<br />
泣きじゃくって甘えたかった。<br />
<br />
「好きだから・・・さがき・・・ずぎだよ・・・あうぅ・・・」<br />
「・・・わかってる。私も大好きだよ」<br />
<br />
嗚咽と涙でぐちゃぐちゃになった少女は、もう何を言っているのか自分でもわからなかった。<br />
もうすぐ来るであろう別れに備えて、大好きな人を両腕で固く抱くのが精一杯だった。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:474" name="474"><font color="#0000ff">474</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:53:49<a target="_top" href="id:474"><font color="#0000ff">ID:</font></a>hiwjenlM</dt><dd>長身の彼女は、人目を気にしながらも…確実な幸せと、切ない感傷に浸っていた。<br />
「ありがとう…。こんなに可愛い子に待たれてちゃあ…」<br />
真っ赤な目が見上げる。<br />
「早く帰ってこないとな」<br />
穏やかな日の光の射す春先の駅前で。<br />
涙を流す二人の表情は、やっと季節に見合うものになっていた。<br />
<br />
<br />
「もう行かなくちゃ」<br />
向けられた笑顔に、少女も最後ばかりは涙を見せるべきでないと判断したのだろう。<br />
「・・・帰ってくるときは連絡しろよ」<br />
笑ってみせる。<br />
彼女はうん、と頷くと、もう一度顔を近づけた。<br />
「じゃあまた!」<br />
「ああ」<br />
いつもの笑顔に戻った少女は、小さくなる後姿をずっと見つめていた。<br />
<br />
彼女の匂いと唇の感触だけが、まだ少し残っていた。<br />
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