「426」(2007/05/06 (日) 12:30:44) の最新版変更点
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<p><dt><a href="menu:426" target="_top" name="426"><font color="#0000ff">426</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:16:28 <a href="id:426" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>(五月の恋人たち) <br />
<br />
太陽が南中線を過ぎて程無い頃、同じくらいの背の二人の少女達が、駅前の通りを <br />
歩いていく。 <br />
今日はGWのまっただ中。天気も見事な五月晴れということで、すれ違う人が多い。 <br />
滝野智はショートカットに帽子、Tシャツにジーンズという、動きやすい格好、 <br />
一方、春日歩はワンピースに麦わら帽子という、少し大人しめで清楚な雰囲気を <br />
漂わせている。 <br />
<br />
二人が談笑しながら、駅に程近い、お店を通りかかった時―― <br />
『本日開店1周年記念につき、カップル様限定に、大型パフェをプレゼント! 』 <br />
という広告が、出入り口の隣に備え付けられた看板に書かれていた。 <br />
「おおっ、大阪、これ見て」 <br />
プレゼントという言葉に惹かれたのか、智は看板の後ろにあるショーウインドーを <br />
幸せそうな表情で見つめる。 <br />
<br />
大阪と呼ばれる少女も看板を覗きこむが、残念そうに首を振った。 <br />
「でも、カップルじゃないとあかんねん」 <br />
「だって、私たちカップルじゃん」 <br />
何の衒いもなく言い放った。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:427" target="_top" name="427"><font color="#0000ff">427</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:18:12 <a href="id:427" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 二人が同じ大学に入り、共同でワンルームマンションを借りて、同じ部屋で生活し、 <br />
夏には恋人同士となった。それから、既に一年近くが経過している。 <br />
「あかん。あかん。普通カップルってゆーたら、男女のカップルやでー 」 <br />
普段ぼんやりしていながら、奇妙なところで冷静な少女に、智はぷうっと頬を <br />
膨らました。 <br />
<br />
「わ、分かってるって 」 <br />
言いながらも、未練たらたらで物欲しげにパフェの模型を見ている少女を <br />
眺めながら、大阪は、腕組みをして考え込んだ。 <br />
「ほんでも、あのパフェは惜しいなあ。そや! 」 <br />
恋人の顔をじっーと見つめて、うんうんと頷く。 <br />
「どしたの? 」 <br />
智は、不思議そうに尋ねた。 <br />
少女の全身をじっくりと眺めてから、大阪ははっきりとした口調で言った。 <br />
「ともちゃんが、男役をやればええねん」 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:428" target="_top" name="428"><font color="#0000ff">428</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:19:39 <a href="id:428" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「えー 」 <br />
智の口から不満そうな声があがる。 <br />
「何で、私が男役やらないといけないんだよー 」 <br />
しかし、大阪はのんびりとした微笑を崩さず、 <br />
「ともちゃん。無料のパフェ、食べたくないのん? 」 <br />
と、子悪魔めいた表情で尋ねる。 <br />
<br />
「うぐっ」 <br />
クラスメイトであった高校時代もふくめて、丸四年も親密に付き合えば、お互いの <br />
性格なんかは知り尽くされている。 <br />
GWの前半にマジカルランドに遊びに出かけ、懐具合がいささか寂しい彼女に <br />
とって、あの豪華なパフェが無料というのは、かなり美味しい話だ。 <br />
定価は1800円とかなり高額なだけに、余計無視することにためらいを覚える。 <br />
<br />
「だったら、大阪が男役やれば…… 無理か」 <br />
言いかけて瞬時にあきらめる。ワンピース姿の男子なんて想像するだけで恐ろしい。 <br />
一方の、智はパンツルックでショートカット、おまけに帽子付き。なんとかごまかせ <br />
ない事もなさそうだ。 <br />
<br />
「よっしゃあ。ともちゃんの演技力をみせてやるっ」 <br />
「流石や。女の鏡やでー 」 <br />
いささか怪しげな造語で褒められたが、智は上機嫌に宣言した。 <br />
「今から大阪の彼氏になるから 」 <br />
「はや」 <br />
<br />
帽子を深くかぶりなおして、胸をぐんと張り、彼女役になった大阪の掌を握り <br />
締めて、店内に足を踏み入れた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:429" target="_top" name="429"><font color="#0000ff">429</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:21:03 <a href="id:429" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 重々しい木製のドアを開けると、からんころんと、いささか古めかしい呼び鈴が <br />
彼女達を出迎える。落ち着いた雰囲気の店内を見渡すと、ほとんどの席がカップルで <br />
埋まっている。 <br />
<br />
「いらっしゃいませ。お客様」 <br />
本来の意味での給仕姿の女性が、大きなひだ付きのエプロンの裾を摘みながら <br />
お辞儀をする。 <br />
「2名様ですね。ただいまご案内いたします」 <br />
微笑んだまま彼女は、2階の窓際の席まで案内する。上の階もほぼ満席で <br />
かなりの盛況だ。 <br />
「みんなあのパフェが目当てなんやろかー 」 <br />
<br />
「そうだな」 <br />
席に着いた彼女達に、店員はメニューを渡しながら言った。 <br />
「ご注文がお決まりになられる頃に伺います」 <br />
優雅な礼とともに去ろうとするが、大阪は、早速呼び止める。 <br />
「あのー すみません」 <br />
「はい」 <br />
ゆるいウエーブのかかった、温和な感じの店員が、微笑を浮かべたまま答える。 <br />
「カップル用の無料パフェって、まだあるのですか? 」 <br />
大阪の直線的な質問に、智はどきりとした。ここが勝負どころだ。 <br />
智が声を出すと流石に女性である事がばれてしまうので、帽子を深くかぶりながら、 <br />
少しだけ視線を落とす。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:430" target="_top" name="430"><font color="#0000ff">430</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:23:57 <a href="id:430" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「ええ。ございます! 」 <br />
朗らかに言うと、彼女はエプロンのポケットから一枚の用紙を取り出し、机の上に <br />
丁寧に置いた。 <br />
「カップルパフェをご注文された方には、こちらの用紙にお名前のご記入をお願い <br />
しております」 <br />
<br />
ちょっとした心理的なプレッシャーだな。と、智は思う。 <br />
なりすましの小心者の偽カップルだったら、この時点で撤退を試みるかもしれない。 <br />
「わかりましたー 」 <br />
しかし、大阪は意外と度胸が据わっており、普段と全く同じ口調で受け取ると、 <br />
春日歩、滝野智とさらさらと書いて渡す。 <br />
「かすがあゆむ様と、たきの…… とも様」でよろしいですか? 」 <br />
「そやで」 <br />
「ありがとうございます」 <br />
優雅にお辞儀をして、店員は離れていった。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:431" target="_top" name="431"><font color="#0000ff">431</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:26:03 <a href="id:431" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 彼女の姿が完全に見えなくなってから、智は大きくため息をついた。 <br />
「あー なんか疲れたよ」 <br />
「智ちゃん。ホンマにお疲れ様や」 <br />
<br />
大阪は、両手をあごにつけながら微笑んだ。 <br />
「私は何もしてないけどな。でも案外上手くいったね」 <br />
「智ちゃんは、宝塚いっても通用するかもしれへんで」 <br />
「こらっ 私は男っぽくなんかないぞー 」 <br />
軽く怒って見せた後、尋ねる。 <br />
「大阪にいた時、宝塚いったことあんの? 」 <br />
<br />
「あー 残念やけどあらへん」 <br />
「そんなら、今度行ってみない? なんか面白そう」 <br />
わくわくした表情をおもてに出して提案する。 <br />
「そやなー 私もトップスターに憧れた事もあるねん」 <br />
「大阪には無理だなー 」 <br />
「えー それはひどいで」 <br />
他愛の無い会話をしていると、先程と同じ店員がお盆の上に盛大なパフェを <br />
持参してきた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:432" target="_top" name="432"><font color="#0000ff">432</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:27:33 <a href="id:432" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「お待たせいたしました」 <br />
大型パフェを目の前にして、ふたりは歓声をあげた。 <br />
重量感のある大きなガラスの中は、チョコクリームがたっぷりと入っており、 <br />
上には大きなバニラアイスが乗っている。更に数々の果物 ―― オレンジ、梨、 <br />
メロン、リンゴ、さくらんぼ、キュウイが乗っかり、最上段には板チョコが突き <br />
立てられている。 <br />
<br />
「うわー、大阪、みてみて」 <br />
板チョコをのぞくと、描かれたハートマークの中に、ローマ字で『 Tomo & Ayumu 』 <br />
と書かれている。 <br />
「うわー ちょっと『きざ』やねん」 <br />
「かなり古いぞ、大阪。でもちょっと嬉しいな」 <br />
<br />
「でも、どうやって食べればええんやろう」 <br />
メッセージ入りの板チョコは1枚しかない。せっかくのチョコを割ってしまうのは、 <br />
少し躊躇われる。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:433" target="_top" name="433"><font color="#0000ff">433</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:28:48 <a href="id:433" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「そうだ。一緒に食べよう」 <br />
智は指を上にあげて、脳裏に閃いた言葉を口にした。 <br />
<br />
「それって、めっちゃ恥ずかしいで? 」 <br />
大阪は頬を赤らめて周囲を見渡した。しかし、近くにいる客は自分達の話に <br />
熱中していて、周りをみている様子はない。 <br />
「でも、誰もみてへんのといっしょやな 」 <br />
「そうだろ」 <br />
智は、板チョコの端を摘み上げた。 <br />
<br />
「私こっち側だから、大阪は逆ねー 」 <br />
「なんか、ポッキーゲームみたいやな 」 <br />
大阪が呟き、智がくわえた板チョコの逆側に唇を付ける。 <br />
(うわー 大阪が目の前だ) <br />
普段、みなれているはずの少女も、真っ昼間からドアップで見つめられると、 <br />
なんだか凄く照れくさい気分に襲われる。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:434" target="_top" name="434"><font color="#0000ff">434</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:30:20 <a href="id:434" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「んん…… 」 <br />
小さくえづきながらゆっくりと距離を近づける。 <br />
(すごく恥ずかしい…… ) <br />
大阪との距離が縮まるにつれて、脈拍が急上昇する。 <br />
(ともちゃん。これはやばいねんで) <br />
<br />
それでも、少しずつチョコレートは削られて、お互いの距離が3センチを切ると、 <br />
流石に大阪も、緊張と戸惑いで動けなくなる。 <br />
ちらりと周囲をみると、いくつかのカップルがこちらの方を向いている。 <br />
(これは羞恥プレイやねん) <br />
あんまり時間がをかけると、もっと注目を集めてしまうことになりそうだ。 <br />
大阪は決意を固めて、思い切って唇を動かした。同時に智も前に動かし、二人の <br />
唇が合わさった。 <br />
<br />
(柔らかい) <br />
人目のつかない所では、慣れているはずのキスでも、場所が違うとこうまで <br />
興奮するのかと思いながら、大阪の張りの良い唇の感触を、味わっていたが、 <br />
流石にあまりの恥ずかしさに、十秒ほどしかもたずに唇を離して、顔を両手で隠した。 <br />
<br />
「大阪、これって恥ずかしすぎるよ」 <br />
周囲に座っているカップルの幾つかは、「彼女たち」の行為に気づいていて、妙に <br />
生暖かい視線が集中していた。口付けが終わった後も、羞恥心は中々おさまらず、 <br />
お互いの顔をまともに見ることができない。 <br />
「私もや…… 」 <br />
大阪は、首筋まで真っ赤になりながら、意味も無くハンカチを拡げたり、閉じたり <br />
している。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:435" target="_top" name="435"><font color="#0000ff">435</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:31:48 <a href="id:435" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「ま、まあ。後は普通に食おうぜ! 」 <br />
それでも、なんとか羞恥心を振り切った智が言うと、二人はジャンボサイズと <br />
呼んでもさしつかえないほどの、大きな山を崩し始めた。 <br />
<br />
「おなかぽんぽんやー 」 <br />
小一時間程パフェと格闘した後、大阪は、可愛らしい声で自分のほとんど <br />
でっぱっていないお腹を叩く。 <br />
「大阪、4分の1も食べてないぞ」 <br />
「ごめんなあ、ともちゃん」 <br />
素直に謝られると、これ以上は追求できない。仕方ないなーと呟き、残りのパフェを <br />
頑張って口に入れていく。 <br />
<br />
「ふー ようやく食べた! 」 <br />
ようやく、全てを片づけた智は、膨れたおなかを押さえながら、満足そうに息を吐いた。 <br />
「ともちゃん。ほんまにお疲れ様やー 」 <br />
曇りの無い笑顔でねぎらわれると、苦闘の跡(といっても、ジャンボパフェを制覇 <br />
しただけだが)も、あっさり消えてしまうようで、笑ってしまう。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:436" target="_top" name="436"><font color="#0000ff">436</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:35:10 <a href="id:436" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 雑談を再開して暫く経った後 ―― <br />
「なあなあ、ともちゃんてやー 私のどこが好きなん? 」 <br />
白いワンピースに包まれた少女が、こくんと首を傾けながら何気ない調子で尋ねた。 <br />
「そりゃ。おまえ、なんていうか 」 <br />
真正面から言われると、何だか、とてもむず痒い気持ちになってしまう。 <br />
「守ってあげなきゃと思うわけよ。危なっかしいからな」 <br />
「そうなん? だいぶしっかりしてきたと思うねんけどなー 」 <br />
「いやいや。まだまだだね」 <br />
「ほんなら、ずっとこの先も守ってくれるん? 」 <br />
<br />
智は、さりげなく重大な事を恋人に聞かれて、戸惑ってしまう。 <br />
確かに半ば自由人として、のんびりしている大学生の間はこのままでいいだろう。 <br />
でもそれからは? 社会人になっても彼女と一緒にいられるのだろうか? <br />
何も言えずに動けない智に、大阪は少しだけ寂しそうな口調でやんわりといった。 <br />
<br />
「ごめんなー ともちゃん。変な事ゆーてもーて」 <br />
「それは、いいんだけど」 <br />
更に少しだけ考えた後、智はゆっくりと口を開いた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:437" target="_top" name="437"><font color="#0000ff">437</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:36:30 <a href="id:437" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd>「ごめんね、卒業したらどうなるか分からないよ。でもさ、大学にいる間は大阪を <br />
愛する事を誓うよ」 <br />
<br />
「ほんま? 」 <br />
大阪の顔に喜色が広がる。彼女も現状認識ができない程、お子様ではない。 <br />
決してあなどってはいけない存在なのだ。 <br />
「うん。あと三年間、大阪が悲しめば私も哀しむ。大阪が喜べば一緒に歓ぶ。そして、 <br />
大阪が危機に陥る事があれば全力で助ける」 <br />
智はきっぱりといった。 <br />
<br />
大阪も、智といつかは離れ離れになることは直感的に知っている。この国は同性 <br />
同士という形の愛情には拒絶的な反応を示されることが、多い事は分かっていた。 <br />
<br />
「ほんなら、私も誓うでー 在学中はともちゃんを全力で支えてあげるで。ほんで、 <br />
ともちゃんが辛いとは一緒に泣くし、ともちゃんが楽しいときは、いっしょにわろて <br />
あげるねん」 <br />
大阪もゆっくりとした口調で断言し、混じり気のない笑顔を恋人に向けた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:438" target="_top" name="438"><font color="#0000ff">438</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:37:46 <a href="id:438" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 暫くお互いの瞳を見つめあった後で、智は微笑を浮かべて言った。 <br />
「そろそろ出よっか」 <br />
腕時計を眺めると、既に三時を回っていた。 <br />
「そやな」 <br />
二人は立ち上がった。大阪は、半透明の伝票入れの中から、紙製の封筒を摘み <br />
上げる。 <br />
表面には板チョコと同じように、しかし漢字で、「春日歩様 滝野智様」 <br />
と書かれている。 <br />
「なんやろう? 」 <br />
「無料パフェの証明書みたいなものじゃないかな」 <br />
<br />
案の定、一階に下りてレジの店員に呈示すると、あっさりと通してくれた。 <br />
「ありがとうございました。またのお越しを」 <br />
朗らかな女性店員の声が、彼女たちの後を追うように届いた。 <br />
「ええ。お店やったなー 」 <br />
「そだな」 <br />
「また、行ってみてもええかもしれん」 <br />
「今度は無料じゃないけどな」 <br />
「そやな 」 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:439" target="_top" name="439"><font color="#0000ff">439</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:40:14 <a href="id:439" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo </dt><dd> 太陽がだいぶ西に傾いたとはいえ、陽の長い五月では十分に明るい。爽やかな風が <br />
頬を撫でて、黒髪を心地よく揺らす。 <br />
「そや。この封筒の中に何か入っていると思うで」 <br />
唐突に言ってから立ち止まり、薄桃色のポシェットからカードを取り出して、 <br />
封を開ける。 <br />
中には「弊店をご利用いただきましてありがとうございます」という定型的な <br />
挨拶文の下の余白に、手書きのペンで『お幸せに。かわいいお嬢様方へ』と <br />
書かれていた。 <br />
<br />
「あちゃー 思いっきりばれてたんだな」 <br />
智は力なくうなだれた。 <br />
「あはは。店員さんに…… 一本とられてもた…… あはははっ」 <br />
大阪の方は、よっぽど可笑しかったのか肩を震わせながら、お腹を押さえて <br />
路上にしゃがみこんでしまっている。 <br />
笑いを止めることができない、恋人の姿に苦笑しながら、智は背中を軽く <br />
さすってあげることに決めた。 <br />
<br />
(終わり) <br />
</dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:426" name="426"><font color="#0000ff">426</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:16:28<a target="_top" href="id:426"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>(五月の恋人たち)<br />
<br />
太陽が南中線を過ぎて程無い頃、同じくらいの背の二人の少女達が、駅前の通りを<br />
歩いていく。<br />
今日はGWのまっただ中。天気も見事な五月晴れということで、すれ違う人が多い。<br />
滝野智はショートカットに帽子、Tシャツにジーンズという、動きやすい格好、<br />
一方、春日歩はワンピースに麦わら帽子という、少し大人しめで清楚な雰囲気を<br />
漂わせている。<br />
<br />
二人が談笑しながら、駅に程近い、お店を通りかかった時――<br />
『本日開店1周年記念につき、カップル様限定に、大型パフェをプレゼント! 』<br />
という広告が、出入り口の隣に備え付けられた看板に書かれていた。<br />
「おおっ、大阪、これ見て」<br />
プレゼントという言葉に惹かれたのか、智は看板の後ろにあるショーウインドーを<br />
幸せそうな表情で見つめる。<br />
<br />
大阪と呼ばれる少女も看板を覗きこむが、残念そうに首を振った。<br />
「でも、カップルじゃないとあかんねん」<br />
「だって、私たちカップルじゃん」<br />
何の衒いもなく言い放った。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:427" name="427"><font color="#0000ff">427</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:18:12<a target="_top" href="id:427"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 二人が同じ大学に入り、共同でワンルームマンションを借りて、同じ部屋で生活し、<br />
夏には恋人同士となった。それから、既に一年近くが経過している。<br />
「あかん。あかん。普通カップルってゆーたら、男女のカップルやでー 」<br />
普段ぼんやりしていながら、奇妙なところで冷静な少女に、智はぷうっと頬を<br />
膨らました。<br />
<br />
「わ、分かってるって 」<br />
言いながらも、未練たらたらで物欲しげにパフェの模型を見ている少女を<br />
眺めながら、大阪は、腕組みをして考え込んだ。<br />
「ほんでも、あのパフェは惜しいなあ。そや! 」<br />
恋人の顔をじっーと見つめて、うんうんと頷く。<br />
「どしたの? 」<br />
智は、不思議そうに尋ねた。<br />
少女の全身をじっくりと眺めてから、大阪ははっきりとした口調で言った。<br />
「ともちゃんが、男役をやればええねん」<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:428" name="428"><font color="#0000ff">428</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:19:39<a target="_top" href="id:428"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「えー 」<br />
智の口から不満そうな声があがる。<br />
「何で、私が男役やらないといけないんだよー 」<br />
しかし、大阪はのんびりとした微笑を崩さず、<br />
「ともちゃん。無料のパフェ、食べたくないのん? 」<br />
と、子悪魔めいた表情で尋ねる。<br />
<br />
「うぐっ」<br />
クラスメイトであった高校時代もふくめて、丸四年も親密に付き合えば、お互いの<br />
性格なんかは知り尽くされている。<br />
GWの前半にマジカルランドに遊びに出かけ、懐具合がいささか寂しい彼女に<br />
とって、あの豪華なパフェが無料というのは、かなり美味しい話だ。<br />
定価は1800円とかなり高額なだけに、余計無視することにためらいを覚える。<br />
<br />
「だったら、大阪が男役やれば…… 無理か」<br />
言いかけて瞬時にあきらめる。ワンピース姿の男子なんて想像するだけで恐ろしい。<br />
一方の、智はパンツルックでショートカット、おまけに帽子付き。なんとかごまかせ<br />
ない事もなさそうだ。<br />
<br />
「よっしゃあ。ともちゃんの演技力をみせてやるっ」<br />
「流石や。女の鏡やでー 」<br />
いささか怪しげな造語で褒められたが、智は上機嫌に宣言した。<br />
「今から大阪の彼氏になるから 」<br />
「はや」<br />
<br />
帽子を深くかぶりなおして、胸をぐんと張り、彼女役になった大阪の掌を握り<br />
締めて、店内に足を踏み入れた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:429" name="429"><font color="#0000ff">429</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:21:03<a target="_top" href="id:429"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 重々しい木製のドアを開けると、からんころんと、いささか古めかしい呼び鈴が<br />
彼女達を出迎える。落ち着いた雰囲気の店内を見渡すと、ほとんどの席がカップルで<br />
埋まっている。<br />
<br />
「いらっしゃいませ。お客様」<br />
本来の意味での給仕姿の女性が、大きなひだ付きのエプロンの裾を摘みながら<br />
お辞儀をする。<br />
「2名様ですね。ただいまご案内いたします」<br />
微笑んだまま彼女は、2階の窓際の席まで案内する。上の階もほぼ満席で<br />
かなりの盛況だ。<br />
「みんなあのパフェが目当てなんやろかー 」<br />
<br />
「そうだな」<br />
席に着いた彼女達に、店員はメニューを渡しながら言った。<br />
「ご注文がお決まりになられる頃に伺います」<br />
優雅な礼とともに去ろうとするが、大阪は、早速呼び止める。<br />
「あのー すみません」<br />
「はい」<br />
ゆるいウエーブのかかった、温和な感じの店員が、微笑を浮かべたまま答える。<br />
「カップル用の無料パフェって、まだあるのですか? 」<br />
大阪の直線的な質問に、智はどきりとした。ここが勝負どころだ。<br />
智が声を出すと流石に女性である事がばれてしまうので、帽子を深くかぶりながら、<br />
少しだけ視線を落とす。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:430" name="430"><font color="#0000ff">430</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:23:57<a target="_top" href="id:430"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「ええ。ございます! 」<br />
朗らかに言うと、彼女はエプロンのポケットから一枚の用紙を取り出し、机の上に<br />
丁寧に置いた。<br />
「カップルパフェをご注文された方には、こちらの用紙にお名前のご記入をお願い<br />
しております」<br />
<br />
ちょっとした心理的なプレッシャーだな。と、智は思う。<br />
なりすましの小心者の偽カップルだったら、この時点で撤退を試みるかもしれない。<br />
「わかりましたー 」<br />
しかし、大阪は意外と度胸が据わっており、普段と全く同じ口調で受け取ると、<br />
春日歩、滝野智とさらさらと書いて渡す。<br />
「かすがあゆむ様と、たきの…… とも様」でよろしいですか? 」<br />
「そやで」<br />
「ありがとうございます」<br />
優雅にお辞儀をして、店員は離れていった。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:431" name="431"><font color="#0000ff">431</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:26:03<a target="_top" href="id:431"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 彼女の姿が完全に見えなくなってから、智は大きくため息をついた。<br />
「あー なんか疲れたよ」<br />
「智ちゃん。ホンマにお疲れ様や」<br />
<br />
大阪は、両手をあごにつけながら微笑んだ。<br />
「私は何もしてないけどな。でも案外上手くいったね」<br />
「智ちゃんは、宝塚いっても通用するかもしれへんで」<br />
「こらっ 私は男っぽくなんかないぞー 」<br />
軽く怒って見せた後、尋ねる。<br />
「大阪にいた時、宝塚いったことあんの? 」<br />
<br />
「あー 残念やけどあらへん」<br />
「そんなら、今度行ってみない? なんか面白そう」<br />
わくわくした表情をおもてに出して提案する。<br />
「そやなー 私もトップスターに憧れた事もあるねん」<br />
「大阪には無理だなー 」<br />
「えー それはひどいで」<br />
他愛の無い会話をしていると、先程と同じ店員がお盆の上に盛大なパフェを<br />
持参してきた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:432" name="432"><font color="#0000ff">432</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:27:33<a target="_top" href="id:432"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「お待たせいたしました」<br />
大型パフェを目の前にして、ふたりは歓声をあげた。<br />
重量感のある大きなガラスの中は、チョコクリームがたっぷりと入っており、<br />
上には大きなバニラアイスが乗っている。更に数々の果物 ―― オレンジ、梨、<br />
メロン、リンゴ、さくらんぼ、キュウイが乗っかり、最上段には板チョコが突き<br />
立てられている。<br />
<br />
「うわー、大阪、みてみて」<br />
板チョコをのぞくと、描かれたハートマークの中に、ローマ字で『 Tomo & Ayumu 』<br />
と書かれている。<br />
「うわー ちょっと『きざ』やねん」<br />
「かなり古いぞ、大阪。でもちょっと嬉しいな」<br />
<br />
「でも、どうやって食べればええんやろう」<br />
メッセージ入りの板チョコは1枚しかない。せっかくのチョコを割ってしまうのは、<br />
少し躊躇われる。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:433" name="433"><font color="#0000ff">433</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:28:48<a target="_top" href="id:433"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「そうだ。一緒に食べよう」<br />
智は指を上にあげて、脳裏に閃いた言葉を口にした。<br />
<br />
「それって、めっちゃ恥ずかしいで? 」<br />
大阪は頬を赤らめて周囲を見渡した。しかし、近くにいる客は自分達の話に<br />
熱中していて、周りをみている様子はない。<br />
「でも、誰もみてへんのといっしょやな 」<br />
「そうだろ」<br />
智は、板チョコの端を摘み上げた。<br />
<br />
「私こっち側だから、大阪は逆ねー 」<br />
「なんか、ポッキーゲームみたいやな 」<br />
大阪が呟き、智がくわえた板チョコの逆側に唇を付ける。<br />
(うわー 大阪が目の前だ)<br />
普段、みなれているはずの少女も、真っ昼間からドアップで見つめられると、<br />
なんだか凄く照れくさい気分に襲われる。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:434" name="434"><font color="#0000ff">434</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:30:20<a target="_top" href="id:434"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「んん…… 」<br />
小さくえづきながらゆっくりと距離を近づける。<br />
(すごく恥ずかしい…… )<br />
大阪との距離が縮まるにつれて、脈拍が急上昇する。<br />
(ともちゃん。これはやばいねんで)<br />
<br />
それでも、少しずつチョコレートは削られて、お互いの距離が3センチを切ると、<br />
流石に大阪も、緊張と戸惑いで動けなくなる。<br />
ちらりと周囲をみると、いくつかのカップルがこちらの方を向いている。<br />
(これは羞恥プレイやねん)<br />
あんまり時間がをかけると、もっと注目を集めてしまうことになりそうだ。<br />
大阪は決意を固めて、思い切って唇を動かした。同時に智も前に動かし、二人の<br />
唇が合わさった。<br />
<br />
(柔らかい)<br />
人目のつかない所では、慣れているはずのキスでも、場所が違うとこうまで<br />
興奮するのかと思いながら、大阪の張りの良い唇の感触を、味わっていたが、<br />
流石にあまりの恥ずかしさに、十秒ほどしかもたずに唇を離して、顔を両手で隠した。<br />
<br />
「大阪、これって恥ずかしすぎるよ」<br />
周囲に座っているカップルの幾つかは、「彼女たち」の行為に気づいていて、妙に<br />
生暖かい視線が集中していた。口付けが終わった後も、羞恥心は中々おさまらず、<br />
お互いの顔をまともに見ることができない。<br />
「私もや…… 」<br />
大阪は、首筋まで真っ赤になりながら、意味も無くハンカチを拡げたり、閉じたり<br />
している。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:435" name="435"><font color="#0000ff">435</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:31:48<a target="_top" href="id:435"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「ま、まあ。後は普通に食おうぜ! 」<br />
それでも、なんとか羞恥心を振り切った智が言うと、二人はジャンボサイズと<br />
呼んでもさしつかえないほどの、大きな山を崩し始めた。<br />
<br />
「おなかぽんぽんやー 」<br />
小一時間程パフェと格闘した後、大阪は、可愛らしい声で自分のほとんど<br />
でっぱっていないお腹を叩く。<br />
「大阪、4分の1も食べてないぞ」<br />
「ごめんなあ、ともちゃん」<br />
素直に謝られると、これ以上は追求できない。仕方ないなーと呟き、残りのパフェを<br />
頑張って口に入れていく。<br />
<br />
「ふー ようやく食べた! 」<br />
ようやく、全てを片づけた智は、膨れたおなかを押さえながら、満足そうに息を吐いた。<br />
「ともちゃん。ほんまにお疲れ様やー 」<br />
曇りの無い笑顔でねぎらわれると、苦闘の跡(といっても、ジャンボパフェを制覇<br />
しただけだが)も、あっさり消えてしまうようで、笑ってしまう。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:436" name="436"><font color="#0000ff">436</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:35:10<a target="_top" href="id:436"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 雑談を再開して暫く経った後 ――<br />
「なあなあ、ともちゃんてやー 私のどこが好きなん? 」<br />
白いワンピースに包まれた少女が、こくんと首を傾けながら何気ない調子で尋ねた。<br />
「そりゃ。おまえ、なんていうか 」<br />
真正面から言われると、何だか、とてもむず痒い気持ちになってしまう。<br />
「守ってあげなきゃと思うわけよ。危なっかしいからな」<br />
「そうなん? だいぶしっかりしてきたと思うねんけどなー 」<br />
「いやいや。まだまだだね」<br />
「ほんなら、ずっとこの先も守ってくれるん? 」<br />
<br />
智は、さりげなく重大な事を恋人に聞かれて、戸惑ってしまう。<br />
確かに半ば自由人として、のんびりしている大学生の間はこのままでいいだろう。<br />
でもそれからは? 社会人になっても彼女と一緒にいられるのだろうか?<br />
何も言えずに動けない智に、大阪は少しだけ寂しそうな口調でやんわりといった。<br />
<br />
「ごめんなー ともちゃん。変な事ゆーてもーて」<br />
「それは、いいんだけど」<br />
更に少しだけ考えた後、智はゆっくりと口を開いた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:437" name="437"><font color="#0000ff">437</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:36:30<a target="_top" href="id:437"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd>「ごめんね、卒業したらどうなるか分からないよ。でもさ、大学にいる間は大阪を<br />
愛する事を誓うよ」<br />
<br />
「ほんま? 」<br />
大阪の顔に喜色が広がる。彼女も現状認識ができない程、お子様ではない。<br />
決してあなどってはいけない存在なのだ。<br />
「うん。あと三年間、大阪が悲しめば私も哀しむ。大阪が喜べば一緒に歓ぶ。そして、<br />
大阪が危機に陥る事があれば全力で助ける」<br />
智はきっぱりといった。<br />
<br />
大阪も、智といつかは離れ離れになることは直感的に知っている。この国は同性<br />
同士という形の愛情には拒絶的な反応を示されることが、多い事は分かっていた。<br />
<br />
「ほんなら、私も誓うでー 在学中はともちゃんを全力で支えてあげるで。ほんで、<br />
ともちゃんが辛いとは一緒に泣くし、ともちゃんが楽しいときは、いっしょにわろて<br />
あげるねん」<br />
大阪もゆっくりとした口調で断言し、混じり気のない笑顔を恋人に向けた。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:438" name="438"><font color="#0000ff">438</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:37:46<a target="_top" href="id:438"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 暫くお互いの瞳を見つめあった後で、智は微笑を浮かべて言った。<br />
「そろそろ出よっか」<br />
腕時計を眺めると、既に三時を回っていた。<br />
「そやな」<br />
二人は立ち上がった。大阪は、半透明の伝票入れの中から、紙製の封筒を摘み<br />
上げる。<br />
表面には板チョコと同じように、しかし漢字で、「春日歩様 滝野智様」<br />
と書かれている。<br />
「なんやろう? 」<br />
「無料パフェの証明書みたいなものじゃないかな」<br />
<br />
案の定、一階に下りてレジの店員に呈示すると、あっさりと通してくれた。<br />
「ありがとうございました。またのお越しを」<br />
朗らかな女性店員の声が、彼女たちの後を追うように届いた。<br />
「ええ。お店やったなー 」<br />
「そだな」<br />
「また、行ってみてもええかもしれん」<br />
「今度は無料じゃないけどな」<br />
「そやな 」<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:439" name="439"><font color="#0000ff">439</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/01(火) 14:40:14<a target="_top" href="id:439"><font color="#0000ff">ID:</font></a>1OKs8sgo</dt><dd> 太陽がだいぶ西に傾いたとはいえ、陽の長い五月では十分に明るい。爽やかな風が<br />
頬を撫でて、黒髪を心地よく揺らす。<br />
「そや。この封筒の中に何か入っていると思うで」<br />
唐突に言ってから立ち止まり、薄桃色のポシェットからカードを取り出して、<br />
封を開ける。<br />
中には「弊店をご利用いただきましてありがとうございます」という定型的な<br />
挨拶文の下の余白に、手書きのペンで『お幸せに。かわいいお嬢様方へ』と<br />
書かれていた。<br />
<br />
「あちゃー 思いっきりばれてたんだな」<br />
智は力なくうなだれた。<br />
「あはは。店員さんに…… 一本とられてもた…… あはははっ」<br />
大阪の方は、よっぽど可笑しかったのか肩を震わせながら、お腹を押さえて<br />
路上にしゃがみこんでしまっている。<br />
笑いを止めることができない、恋人の姿に苦笑しながら、智は背中を軽く<br />
さすってあげることに決めた。<br />
<br />
(終わり)<br />
</dd></dl>
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