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<p><dt><a href="menu:363" target="_top" name="363"><font color="#0000ff">363</font></a> 名前：<strong><a href="about:blank#227" target="_top"><font color="#800080">227</font></a></strong>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:54:01 <a href="id:363" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb </dt><dd>「First Contact」 <br />
<br />
　初めてあの子を意識したのはいつだったかしら。 <br />
　アパートの居間で、みかんの皮を丁寧に剥いている少女の気配を感じつつ、 <br />
黒沢みなもは、台所で皿を洗いながら尋ねた。 <br />
「ねえ。あんたと最初に会ったのっていつかしら」 <br />
<br />
「へ？　」 <br />
　皆から大阪と呼ばれている女子高生は、軽く首をかしげる。 <br />
「にゃも先生は、最初から知っていたで」 <br />
　みなもは、最後のマグカップを洗い終え、濡れた両手を白いタオルで拭きながら、 <br />
季節外れになりかかった、こたつが置いてある居間に戻って、腰を下ろした。 <br />
「そっか。『春日さん』は、最初から私を知っているか」 <br />
「にゃも先生も妙な事ゆーなあ。体育の先生やから知ってて当たり前やと思うねんで」 <br />
　少女は苦笑しながら言葉を続ける。 <br />
<br />
「なんでにゃも先生は、私の事を『大阪』っていわへんの？　」 <br />
　意外な方向からの質問に、みなもは戸惑った。 <br />
「どうしてかしら。何となく大阪って言いにくいの。ゆかりは平気でいうけど、生徒を <br />
あだ名で呼ぶのは少し抵抗があるわ　」 <br />
「私は構わへんで。ホンマは和歌山生まれなんやけどな」 <br />
　大阪はやんわりと微笑みながら、綺麗に、すじまで剥かれたみかんを差し出した。 <br />
「あ、ありがと」 <br />
　口の中に一房だけ放り込むと、ほんのりとした甘さと、微かな酸っぱさが拡がった。 <br />
<br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:364" target="_top" name="364"><font color="#0000ff">364</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:55:34 <a href="id:364" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb </dt><dd>「なんで、そんなこと聞くのん？　」 <br />
　大阪は興味津々といった表情で、大きな瞳を体育教師に向ける。セミロングが <br />
微かに揺れて、こたつの端を柔らかく撫でていく。 <br />
　みなもは、ゆっくりと手を伸ばして、大阪の頭を撫でる。指の間をさらさらな <br />
黒髪が流れて行く。 <br />
<br />
　体育教師はゆっくりと近づいて、少女に身体を寄せた。 <br />
「にゃも先生？　」 <br />
「膝の上に頭を載せていいかしら？　少し考えたいの」 <br />
「ええけど。ほんでも珍しいなあ」 <br />
<br />
　潜り込んだこたつから、少しだけ姿勢をずらして、恋人の為にスペースを作る。 <br />
　黒沢みなもは、少女の膝の上に頭を載せて見上げると、制服姿の教え子の、 <br />
ほんのりとした甘い匂いが鼻腔をくすぐった。 <br />
<br />
　暫くは、無言ながらも心地よい時間が過ぎていく。大阪は微かにほほえんだままで <br />
何も言わない。 <br />
　みなもは、瞼をとじて思考の泉に身を委ね、時計の秒針が五回程回った頃、記憶 <br />
の糸を手元にたぐり寄せた。 <br />
<br />
「初めて意識したのは。そうね　」 <br />
　制服のリボンを指先で弄びながら、話を始める。 <br />
「あんたが、ここに転校して間もない頃だったかしら。体育のバレーの授業で、 <br />
ちよちゃんとパスの練習をしていたでしょう」 <br />
「あったかもしれへん」 <br />
　大阪も微かに記憶が残っていたようだ。 <br />
<br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:365" target="_top" name="365"><font color="#0000ff">365</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:57:30 <a href="id:365" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb </dt><dd>「その時。二人ともパスができなくて『なんだかなー』って思ったの」 <br />
「結構、ひどいなあ」 <br />
「ううん。言いたい事はそうじゃないの。ちよちゃんって、飛び級で高校に来る <br />
くらい、成績はずば抜けているし、性格も素直でいい子なんだけど、体力は年相応の <br />
小学生の女の子でしょ。初めから体育の授業についてくるのは難しいなって分かって <br />
いたわ」 <br />
「そやなー」 <br />
　みなもの整った顔を見下ろしながら、大阪は頷いた。 <br />
「でも、あんたがちよちゃんを誘ってくれて、彼女とほとんど同じレベルだったから <br />
安心したの」 <br />
「これはホンマにひどいで」 <br />
　大阪は、ほっぺたを風船のように膨らました。 <br />
<br />
「ごめんごめん。でも、その頃から何となく意識するようになったのよ」 <br />
「全然知らへんかった」 <br />
　大阪は驚きを隠さずに言うと、体育教師の口元にみかんをもう一房を差し入れる。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:366" target="_top" name="366"><font color="#0000ff">366</font></a> 名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:59:05 <a href="id:366" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb </dt><dd>「あんたはどうなの？　」 <br />
「そやな……　最初は普通の優しい先生やなあと、おもてたんやけど、にゃも先生を <br />
良く知るようになったのは、ちよちゃんの別荘の時やな」 <br />
「そうだったの？　」 <br />
<br />
「あん時、ゆかり先生に男の人から振られた事、言われて落ち込んでたやろ　」 <br />
「そ、そんな事もあったわね」 <br />
　過去の記憶が蘇って、心の何処かがチクリと痛む。 <br />
「変な言い方なんやけどな。ずーんと落ち込んだ先生がちょっと新鮮だったんや　」 <br />
「落ち込んでいる私が？　」 <br />
<br />
「にゃも先生は、体育の授業の時は、いつもかっこええか、優しいかどちらかやねん。 <br />
先生でもあんな顔すんのやなーって、おもたねん」 <br />
　少女の話を聞き終えて、みなもは軽くため息をついた。 <br />
<br />
「結局、『塞翁が馬』ってことなのね」 <br />
「えーと？　」 <br />
　ことわざの意味を把握できずに考え込む、少女に向かってくすりと微笑む。 <br />
<br />
「あの人と別れたから、あんたと出会えたのよ」 <br />
「あっ、そやな。流石にゃも先生や」 <br />
　大阪は、全てを吸い込んでしまうような魅力的な笑顔を見せて、みなもの <br />
首筋に腕を回した。 <br />
　制服ごしに膝の上の感触を楽しんでいたみなもも、少女の求めに応える為に <br />
しなやかな身体を起こして、柔らかい唇をゆっくりと塞いだ。 <br />
　 <br />
（終わり）</dd></p>

<dl><dt><a target="_top" href="menu:363" name="363"><font color="#0000ff">363</font></a>名前：<strong><a target="_top" href="about:blank#227"><font color="#800080">227</font></a></strong>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:54:01<a target="_top" href="id:363"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb</dt><dd>「First Contact」<br />
<br />
　初めてあの子を意識したのはいつだったかしら。<br />
　アパートの居間で、みかんの皮を丁寧に剥いている少女の気配を感じつつ、<br />
黒沢みなもは、台所で皿を洗いながら尋ねた。<br />
「ねえ。あんたと最初に会ったのっていつかしら」<br />
<br />
「へ？　」<br />
　皆から大阪と呼ばれている女子高生は、軽く首をかしげる。<br />
「にゃも先生は、最初から知っていたで」<br />
　みなもは、最後のマグカップを洗い終え、濡れた両手を白いタオルで拭きながら、<br />
季節外れになりかかった、こたつが置いてある居間に戻って、腰を下ろした。<br />
「そっか。『春日さん』は、最初から私を知っているか」<br />
「にゃも先生も妙な事ゆーなあ。体育の先生やから知ってて当たり前やと思うねんで」<br />
　少女は苦笑しながら言葉を続ける。<br />
<br />
「なんでにゃも先生は、私の事を『大阪』っていわへんの？　」<br />
　意外な方向からの質問に、みなもは戸惑った。<br />
「どうしてかしら。何となく大阪って言いにくいの。ゆかりは平気でいうけど、生徒を<br />
あだ名で呼ぶのは少し抵抗があるわ　」<br />
「私は構わへんで。ホンマは和歌山生まれなんやけどな」<br />
　大阪はやんわりと微笑みながら、綺麗に、すじまで剥かれたみかんを差し出した。<br />
「あ、ありがと」<br />
　口の中に一房だけ放り込むと、ほんのりとした甘さと、微かな酸っぱさが拡がった。<br />
<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:364" name="364"><font color="#0000ff">364</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:55:34<a target="_top" href="id:364"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb</dt><dd>「なんで、そんなこと聞くのん？　」<br />
　大阪は興味津々といった表情で、大きな瞳を体育教師に向ける。セミロングが<br />
微かに揺れて、こたつの端を柔らかく撫でていく。<br />
　みなもは、ゆっくりと手を伸ばして、大阪の頭を撫でる。指の間をさらさらな<br />
黒髪が流れて行く。<br />
<br />
　体育教師はゆっくりと近づいて、少女に身体を寄せた。<br />
「にゃも先生？　」<br />
「膝の上に頭を載せていいかしら？　少し考えたいの」<br />
「ええけど。ほんでも珍しいなあ」<br />
<br />
　潜り込んだこたつから、少しだけ姿勢をずらして、恋人の為にスペースを作る。<br />
　黒沢みなもは、少女の膝の上に頭を載せて見上げると、制服姿の教え子の、<br />
ほんのりとした甘い匂いが鼻腔をくすぐった。<br />
<br />
　暫くは、無言ながらも心地よい時間が過ぎていく。大阪は微かにほほえんだままで<br />
何も言わない。<br />
　みなもは、瞼をとじて思考の泉に身を委ね、時計の秒針が五回程回った頃、記憶<br />
の糸を手元にたぐり寄せた。<br />
<br />
「初めて意識したのは。そうね　」<br />
　制服のリボンを指先で弄びながら、話を始める。<br />
「あんたが、ここに転校して間もない頃だったかしら。体育のバレーの授業で、<br />
ちよちゃんとパスの練習をしていたでしょう」<br />
「あったかもしれへん」<br />
　大阪も微かに記憶が残っていたようだ。<br />
<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:365" name="365"><font color="#0000ff">365</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:57:30<a target="_top" href="id:365"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb</dt><dd>「その時。二人ともパスができなくて『なんだかなー』って思ったの」<br />
「結構、ひどいなあ」<br />
「ううん。言いたい事はそうじゃないの。ちよちゃんって、飛び級で高校に来る<br />
くらい、成績はずば抜けているし、性格も素直でいい子なんだけど、体力は年相応の<br />
小学生の女の子でしょ。初めから体育の授業についてくるのは難しいなって分かって<br />
いたわ」<br />
「そやなー」<br />
　みなもの整った顔を見下ろしながら、大阪は頷いた。<br />
「でも、あんたがちよちゃんを誘ってくれて、彼女とほとんど同じレベルだったから<br />
安心したの」<br />
「これはホンマにひどいで」<br />
　大阪は、ほっぺたを風船のように膨らました。<br />
<br />
「ごめんごめん。でも、その頃から何となく意識するようになったのよ」<br />
「全然知らへんかった」<br />
　大阪は驚きを隠さずに言うと、体育教師の口元にみかんをもう一房を差し入れる。<br />
<br />
</dd><dt><a target="_top" href="menu:366" name="366"><font color="#0000ff">366</font></a>名前：<font color="#228b22"><strong>名無しさん＠秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日：2007/04/24(火) 22:59:05<a target="_top" href="id:366"><font color="#0000ff">ID:</font></a>mCE0AQRb</dt><dd>「あんたはどうなの？　」<br />
「そやな……　最初は普通の優しい先生やなあと、おもてたんやけど、にゃも先生を<br />
良く知るようになったのは、ちよちゃんの別荘の時やな」<br />
「そうだったの？　」<br />
<br />
「あん時、ゆかり先生に男の人から振られた事、言われて落ち込んでたやろ　」<br />
「そ、そんな事もあったわね」<br />
　過去の記憶が蘇って、心の何処かがチクリと痛む。<br />
「変な言い方なんやけどな。ずーんと落ち込んだ先生がちょっと新鮮だったんや　」<br />
「落ち込んでいる私が？　」<br />
<br />
「にゃも先生は、体育の授業の時は、いつもかっこええか、優しいかどちらかやねん。<br />
先生でもあんな顔すんのやなーって、おもたねん」<br />
　少女の話を聞き終えて、みなもは軽くため息をついた。<br />
<br />
「結局、『塞翁が馬』ってことなのね」<br />
「えーと？　」<br />
　ことわざの意味を把握できずに考え込む、少女に向かってくすりと微笑む。<br />
<br />
「あの人と別れたから、あんたと出会えたのよ」<br />
「あっ、そやな。流石にゃも先生や」<br />
　大阪は、全てを吸い込んでしまうような魅力的な笑顔を見せて、みなもの<br />
首筋に腕を回した。<br />
　制服ごしに膝の上の感触を楽しんでいたみなもも、少女の求めに応える為に<br />
しなやかな身体を起こして、柔らかい唇をゆっくりと塞いだ。<br />
　<br />
（終わり）</dd></dl>