鳥居龍蔵 とりい りゅうぞう
1870-1953(明治3.4.4-昭和28.1.14)
人類学者・考古学者。徳島の人。東大助教授・上智大教授などを歴任。中国・シベリア・サハリンから南アメリカでも調査を行い、人類・考古・民族学の研究を進めた。晩年は燕京大学教授として遼文化を研究。著「有史以前の日本」「考古学上より見たる遼之文化」


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。

◇表紙の鈴は、朝鮮咸鏡かんきょう南道・咸興かんこうの巫人の持てるものであって、先端に鈴は群をなし、そのかたわらに小さな鏡が結びつけられ、柄の下端には五色の長い絹の垂れがさがっている。彼女が神前で祈り舞うとき、これを手に持って打ち鳴らすのである。(本文より)







本書を
荒井さが子刀自とじに捧ぐ
        著者


もくじ 
日本周囲民族の原始宗教
神話・宗教の人種学的研究(一)鳥居龍蔵

  • ミルクティー*現代表記版
  •   日本周囲民族の原始宗教(一)
  •     序言
  •     日本周囲民族の原始宗教
  •      一、緒言
  •      二、東北アジア民族の宗教
  •       東北アジア民族の分類
  •       カムチャツカ 付 アラスカ、ベーリング
  •        チュクチ、コリヤーク、エスキモー、
  •        ツリンキット、ハイダ、チムシャン
  •       千島、北海道、カラフト
  •        アイヌ、ギリヤーク、オロッコ
  •       極東シベリア
  •        ツングース、オロッコ、ゴリド
  •       満州
  •        満州人
  •       朝鮮
  •        朝鮮人
  •       沖縄諸島
  •        沖縄人
  •       モンゴル
  •        モンゴル人
  •       中部シベリア 付 露領トルキスタン
  •        ソロン、バラカ、ブリヤート、ヤクート、
  •        トルコ人
  • オリジナル版
  •   日本周圍民族の原始宗教(一)
  • 地名年表人物一覧書籍
  • 難字、求めよ
  • 後記次週予告

※ 製作環境
 ・Macintosh iBook、Mac OS 9.2.2、T-Time 2.3.1
 ・ポメラ DM100、ソニー Reader PRS-T2
 ・ソーラーパネル GOAL ZERO NOMAD 7
  (ガイド10プラス)
※ 週刊ミルクティー*第五巻 第四四号より JIS X 0213 文字を画像埋め込み形式にしています。
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(c) Copyright this work is public domain.

*凡例〔現代表記版〕
  • ( ):小書き。 〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:底本の編集者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送り、読みは現代表記に改めました。
  •    例、云う  → いう / 言う
  •      処   → ところ / 所
  •      有つ  → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円い  → 丸い
  •      室《へや》 → 部屋
  •      大いさ → 大きさ
  •      たれ  → だれ
  •      週期  → 周期
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いった → 行った / 言った
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、英語読みのカタカナ語は一部、一般的な読みに改めました。
  •    例、ホーマー  → ホメロス
  •      プトレミー → プトレマイオス
  •      ケプレル  → ケプラー
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符・かぎ括弧をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸   → 七〇二戸
  •      二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改め、濁点・半濁点をおぎないました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、和歌・俳句・短歌は、音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名・映画などの作品名は『 』、論文・記事名および会話文・強調文は「 」で示しました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記や、時価金額の表記、郡域・国域など地域の帰属、法人・企業など組織の名称は、底本当時のままにしました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫・度量衡の一覧
  • [長さ]
  • 寸 すん  一寸=約3cm。
  • 尺 しゃく 一尺=約30cm。
  • 丈 じょう (1) 一丈=約3m。尺の10倍。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 丈六 じょうろく 一丈六尺=4.85m。
  • 歩 ぶ   左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。
  • 間 けん  一間=約1.8m。6尺。
  • 町 ちょう (「丁」とも書く) 一町=約109m強。60間。
  • 里 り   一里=約4km(36町)。昔は300歩、今の6町。
  • 尋 ひろ (1) (「広(ひろ)」の意)両手を左右にひろげた時の両手先の間の距離。(2) 縄・水深などをはかる長さの単位。一尋は5尺(1.5m)または6尺(1.8m)で、漁業・釣りでは1.5mとしている。
  • 海里・浬 かいり 一海里=1852m。
  • [面積]
  • 坪 つぼ  一坪=約3.3平方m。歩(ぶ)。6尺四方。
  • 歩 ぶ   一歩は普通、曲尺6尺平方で、一坪に同じ。
  • 畝 せ 段・反の10分の1。一畝は三〇歩で、約0.992アール。
  • 反 たん 一段(反)は三〇〇歩(坪)で、約991.7平方メートル。太閤検地以前は三六〇歩。
  • 町 ちょう 一町=10段(約100アール=1ヘクタール)。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩。
  • 町歩 ちょうぶ 田畑や山林の面積を計算するのに町(ちよう)を単位としていう語。一町=一町歩=約1ヘクタール。
  • [体積]
  • 合 ごう  一合=約180立方cm。
  • 升 しょう 一升=約1.8リットル。
  • 斗 と   一斗=約18リットル。
  • [重量]
  • 厘 りん  一厘=37.5ミリグラム。貫の10万分の1。1/100匁。
  • 匁 もんめ 一匁=3.75グラム。貫の1000分の1。
  • 銭 せん  古代から近世まで、貫の1000分の1。文(もん)。
  • 貫 かん  一貫=3.75キログラム。
  • [貨幣]
  • 厘 りん 円の1000分の1。銭の10分の1。
  • 銭 せん 円の100分の1。
  • 文 もん 一文=金貨1/4000両、銀貨0.015匁。元禄一三年(1700)のレート。1/1000貫(貫文)(Wikipedia)
  • 一文銭 いちもんせん 1個1文の価の穴明銭。明治時代、10枚を1銭とした。
  • [ヤード‐ポンド法]
  • インチ  inch 一フィートの12分の1。一インチ=2.54cm。
  • フィート feet 一フィート=12インチ=30.48cm。
  • マイル  mile 一マイル=約1.6km。
  • 平方フィート=929.03cm2
  • 平方インチ=6.4516cm2
  • 平方マイル=2.5900km2 =2.6km2
  • 平方メートル=約1,550.38平方インチ。
  • 平方メートル=約10.764平方フィート。
  • 容積トン=100立方フィート=2.832m3
  • 立方尺=0.02782m3=0.98立方フィート(歴史手帳)
  • [温度]
  • 華氏 かし 水の氷点を32度、沸点を212度とする。
  • カ氏温度F=(9/5)セ氏温度C+32
  • 0 = 32
  • 100 = 212
  • 0 = -17.78
  • 100 = 37.78


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『歴史手帳』(吉川弘文館)『理科年表』(丸善、2012)。


*底本

底本:『日本周圍民族の原始宗教』岡書院
   1924(大正13)年9月20日発行
   1924(大正13)年12月1日3版発行
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1214.html

NDC 分類:163(宗教/原始宗教.宗教民族学)
http://yozora.kazumi386.org/1/6/ndc163.html





日本周囲民族の原始宗教
神話・宗教の人種学的研究(一)

鳥居龍蔵

   序言じょげん


 日本民族祖先の宗教、すなわちわが祖先個有の原始神道の研究は、従来ただ『記』『紀』のみによる批評的方法、またわずかにシナとのみの比較、あるいはインド・ヨーロッパ、セミチック、ハミチックなどの宗教上よりの論及によってなされたのである。これら学者の研究方法は、もとよりそれぞれるところのあるものなることはいうまでもないが、余はここに吾人祖先の他と雑化せざる純粋の原始神道の研究は、日本自身のそれを究むるとともに、日本周囲のアジア大陸および南方諸島における固有の原始宗教との比較によってなされねばならぬということをあえて主張したいのである。
 これら周囲民族が、いずれも吾人祖先と近密なる系図的関係にあるものである以上、いやしくも日本における人類・人種・民族・考古・言語・土俗学的あるいは文化史的研究をなさんとする者は、そのいかなる事項にもあれ、かならずやこれを周囲のそれと比較せねばならぬということは、拙著『有史以前の日本』の序においてすでに述べておいたのであるが、今上梓じょうしせんとする本書もまた、この主張にもとづいてんだものである。
 余は本書においては、主として日本周囲民族の原始宗教、その他を記述したのであって、日本それ自身のことには、多くは触れなかった。これについては、他日べつに日本文化・宗教などを主としてあつかった一書を公にする考えである。
 シャーマニズム、南蛮の植物尊拝の宗教、南方諸島のアニトの宗教などは、日本原始宗教との比較研究上きわめて必要なるものであるが、とくに沖縄諸島・朝鮮・満州(固有の満州人)・シベリア・モンゴルの巫覡ふげきは注意すべきものである。また、シナの原始的道教も注意をおこたってはならぬ。
 この東北方アジアにおこなわるるシャーマンは、わが原始神道に直接すこぶる深い関係を有するものであって、じつにわが国の古代は原始宗教上、このシャーマンの分布圏内に属するものである。その巫覡ふげき、その祭る神々・善悪の霊魂みたま神楽かぐら・舞・祭典など、ことに宇宙を高天原たかまがはらなかくにそこつ―夜見よみくにと、三階段に区別するがごときシャーマン式宇宙観は、もっとも彼此ひし対照すべきものであるが、その他、手向たむけ・神の社・注連縄しめなわ幣束ぬさ・鏡・鈴などもまた大いに考うべきものである。
 要するに、人類学上よりわが原始神道の研究をするに、『記』『紀』以下の文献の必要なるはもちろんであるが、今日の日本の各神社、ことに残れる古い形式の神社・鳥居・祭式・祭具・服飾・巫覡ふげき・神楽・占い・その他民間の信仰・土俗などにわたって調査し、さらに原史時代古墳およびそれよりの発掘物、当時の聚洛じゅらくと神社との関係、ついには神・みたま・未来の夜見の国・殉死・埴輪との関係などの民族心理学的条件にまで研究の歩みを進めねばならぬ。しかしてこれらは、ただただ日本周囲のそれと比較することによって、はじめてげ得らるるのである。さいわいにして日本周囲の諸民族には、これらの信仰・土俗が、いまなお土俗学的に残存しているのである。本書に主として載せたるものは、すなわちこれである。
 なお日本と韓国からくにとの記憶を呼びおこさんがために、ここに特に全羅道ぜんらどうと九州との間にある済州島さいしゅうとうと、慶尚けいしょう江原こうげん両道と出雲との間にある鬱陵島うつりょうとうとの記事を載せておいた。これは原始神道研究上、忘るべからざる所であるからである。
 すでに述べたるごとく、本書は日本周囲の宗教・神話などの一般を記述したものであって、わが島国の周囲にはいかなる民族が現存して、いかなる文化を形成し、ことにその宗教・神話はいかなる色彩を有するものであるかということの大略を読者に知らしむればるのである。もし本書がこれらの文化・宗教・神話と、日本のそれとの類似・近縁関係をいかに暗示しているかを、おぼろげながらも覚知し得らるればさいわいである。
 本書の目的は以上のごとくではあるが、余は不幸にしていまだかくのごとき著述の公にせられたることを聞かない。その意味において本書は人類学上より見たる日本周囲の文化・宗教として、はた、日本原始神道の基礎的研究としての先駆であるといってもさしつかえないと思うのである。

 大正十三年(一九二四)九月一日
 大震災紀念日 わが書斎において
鳥居龍蔵   


   目次


日本周囲民族の原始宗教
一、緒言
二、東北アジア民族の宗教
東北アジア民族の分類
カムチャツカ 付アラスカ、ベーリング――チュクチ、コリヤーク、エスキモー、ツリンキット、ハイダ、チムシャン
千島、北海道、カラフト――アイヌ、ギリヤーク、オロッコ
極東シベリア――ツングース、オロッコ、ゴリド
満州――満州人
朝鮮――朝鮮人
沖縄諸島――沖縄人
モンゴル――モンゴル人
中部シベリア 付露領トルキスタン――ソロン、バラカ、ブリヤート、ヤクート、トルコ人
三、中部、南シナ民族の宗教
中部、南シナ――漢族、苗族、
四、南東アジア諸島民族の宗教
フィリピンの北部ルゾン――イゴロ人
台湾 付紅頭嶼――インドネジアン(生蕃・熟蕃)
太平洋諸島 付ニュージーランド――マリヨーポリネシア族、マオリ人
五、結論

朝鮮の巫覡ふげき
一、緒言――朝鮮の宗教
二、巫人―巫覡ふげき
三、巫――女巫
四、覡――男覡
五、結論

シベリアのシャーマン教より見たる朝鮮の巫覡ふげき
一、シャーマニズムとシャーマン
二、シャーマンの種類
三、シャーマンの性――女巫より男覡へ
四、鏡・太鼓・鈴とシャーマン
五、シャーマンの称呼
六、シャーマニズムより来たれる朝鮮現存の習俗

民族学上より見たる済州島(耽羅)
一、総説
二、済州島の称呼
三、歴史上に現われたる済州島
四、自然地理・地質学上より見たる済州島
五、土俗学上より見たる済州島
六、結論

人種・考古学上より観たる鬱陵島うつりょうとう
一、総説
二、現住民の移住状態
三、文献・史上に現われたる鬱陵島
四、考古学上に現われたる鬱陵島
   于山国時代の遺跡
   新羅時代の遺跡
   石器時代の遺跡
五、『于山』について

南シナ蛮族とその文化および宗教
一、緒言
二、漢民族と南蛮との関係
三、南蛮の地域と歴史
四、南シナの蛮族概観
五、三派の蛮族
六、苗族の伝説・風俗・生活状態
七、の体格・文字・神話
八、蛮族の文化について
九、結論

の宗教と神話
の神話

吾人祖先の石器時代と国津神
一、アイヌおよびわが祖先の石器時代遺跡の地理的分布
二、考古学・文献上に現われたる国津神および天孫派の移住状態
三、わが祖先と沿海州方面との接触関係

吾人祖先有史以前の男根尊拝

妣の国
一、文献に現われたる妣の国およびその意義
二、妣の国の位置
三、三界の神話

日本周囲民族の原始宗教 目次 終

 日本周囲民族の原始宗教


日本の周囲にはどんな宗教がおこなわれているか、余はこれについて本編を起草した。しかもこれらの多くは原始民族、原始的宗教である。わが古い固有原始神道を研究する者はよろしくこれらを比較せねばならぬ。

  一、緒言しょげん


 日本周囲の大陸および南方の諸島には、まだ原始民族の状態を保ったものが住んでいる。彼らの風俗にも習慣にも、よほど太古をしのばせる面影おもかげの残っているものが多い。ことにその宗教などは、これを人類学上からみてきわめて興味の存することである。すなわち、吾人民族の宗教がいかに発達したったかの経路を知るにおおいに便利である。ことにこれらの日本付近の大陸および南方諸島は、われら日本人の原始宗教の研究上、非常に参考となるのであって、これによってわれわれが利益を得ることは非常に大である。いま大体、これら民族のあいだに残っている宗教について話そうと思う。

  二、東北アジア民族の宗教

   東北アジア民族の分類


 まず最初は、東北方アジアからはじめる。東北方アジアの民族は、通常これを二つにかつことができる。すなわち一つは古シベリア族、一つは新シベリア族である。古シベリア族というのは、チュクチ、コリヤーク、カムチャダール、ユカギール、アリュート〔アレウト〕、ギリヤーク〔ニヴヒの旧称〕、エスキモーなど(あるいはアイヌ)の総称であって、これらはごく辺鄙へんぴな不毛の地、あるいははなはだしく交通不便な島々に住んでいて、要するに過去の民族の残され者、敗残者である。
 それでこれらの民族は、チュクチはカムチャダールと何の縁故もなく、カムチャダールはユカギールと何らの関係を持たず、ユカギールはギリヤークとさらに関係するところなく、いずれも個々独立の民族である。元はそれぞれ人数も多く繁昌して、もっともよい場所に住んでおったのであろうが、新たに入り来たった新シベリア族に追われて、今日の土地に落ち着いたのである。
 されば古シベリア族は、かように一つに集められているが、いずれも個々別々であって、人類学上なんらの意味をも持たないのである。彼らは地理学的・歴史的に統一さるべきもので、言語学的・人類学的には統一されない。学者が仮に分類上集めたのであるから、彼らは一つのモザイク式で、あちらこちらから集めて一つに合わせたにすぎないのである。昔からこれらの民族の分類に困って、分類すべからざる東北方民族などと称しておったのである。しかるに近ごろになってロシアの学者はこれを古シベリア族と呼ぶにいたったのであるが、ロシアのシュレンク〔Shrenk, Leopold Ivanovich、1830-1894〕は、かつてこれに古アジア民族の名を付した。とにかく、これら民族は寄せ集めたものであって、文化の程度ごく低く、人類学上・土俗学上おおいに参考となるのである。
 新シベリア族は、これまでウラル・アルタイ民族といったもので、その中に含まれるのは、ツングース族、モンゴル族、トルコ族、フィン族(あるいはサモエッド族)などである。これらはまず四つの群にわけるが、系図的には同一のもので、元はあるxの場所に共に住んでおったのが、後に各所にわかれたのであるゆえ、人類学上・言語学上、同一に取り扱うべきものであって、古シベリア族がモザイク式であるのと違っている。この新シベリア族は、相当に他の文化の影響をも受け、また自分自身の文化も自然に発達しておって、古シベリア族とはとうてい比較にならぬが、なお彼らの風俗習慣には、古風をよほど存している。朝鮮人・満州人のごときもみなこの新シベリア族のうちに入れてよろしい。
 そこで、アジアの東北方にてこれらの二群族が、宗教上どういう位置に立っているかということを話そう。

   カムチャツカ 付 アラスカ、ベーリング
     チュクチ、コリヤーク、エスキモー、ツリンキット、
     ハイダ、チムシャン


 まず古シベリア族の方からいうと、このうちで殊にチュクチおよびコリヤークのごときは、なお現に石器時代の状態にあって、近ごろまでも石器を使用しておった。風俗習慣も非常に原始的であって、今日、東北方アジアにおいて、ごく古い原始生活状態を味わおうとするには、この二民族についてするのがよい。これらは南方諸島の原始的民族パプアン、オーストラリア土人〔アボリジニ〕の風俗習慣と対照すべきものである。
 さてこれらのチュクチ、コリヤークの宗教はどんなものであるかというに、シャーマン教である。そもそもシャーマン教は、東北方アジアにおける文化の一つの特色であって、これらの民族からシャーマン教を引き去れば、なんらの物も残らぬくらいであるから、彼らについての調査はシャーマン教の研究にもっとも適している。そこでチュクチ、コリヤークのシャーマン教はいかなるものであるかというに、よほど原始的である。一体シャーマン教には巫人がおり、これが吉凶をうらない、神にいのって人間の病気をなおし、風雨をしずめて豊饒ほうじょうをつかさどるのであって、神と人間との中間に立つのがこのシャーマンの巫人である。シャーマンには二種あり、一つはファミリー・シャーマン、一つはプロフェッショナルのシャーマンである。前者には時に巫人として神に仕える専門的のものなく、各自の家々にて祈祷きとう禁厭きんえんをおこない病気をなおすのであって、これを家族的のシャーマンといい、後者の職業的シャーマンは、この家族的シャーマンの一歩進んだもので、専門的の巫人があって神に仕えることをして、一般民衆のために加持・祈祷・占いなど種々のことを営むのである。チュクチ、コリヤークのシャーマンは全く家族的シャーマンに属するのであって、たとえば一家に病人のあるばあいには、その家の娘が主なる巫人となり、両親が神に供物くもつをささげたり、太鼓を打ったりする役をつとめてシャーマンの儀式が成り立つので、きわめて簡単である。太鼓は自家に持っているものもあるが、多くは一村共通で、ある場所に備えつけてあるのを諸所の家から借りにくるのである。この太鼓は、彼らの間には神聖な威力を持ったものと考えられておって、シャーマンには必須のつきものである。悪魔は太鼓の音を聞けば退散するという。あるところでは、嫁入りの際に太鼓を持参するものもある。各自の家にあるものも一村共有のものも、太鼓は非常におごそかに精進・潔斎けっさいして保存せられ、これに触れたり、これに向かっていたずらを試みることを禁じでいる。
 彼らは神に善神・悪神の二種ありと信じ、人間が死ぬと冥途めいどすなわち夜見の国へ行くのであって、御霊みたまに善霊と悪霊とがあるという。悪神に触れ、またはこれにつきあたると病気になり、あるいはたちまち死ぬことがある。悪霊にかれたばあいにも病にかかり、または死ぬ。一般に流行病はやりやまいにかかること、狩猟に出て獲物ものがなく、海にて漁のないのも悪神・悪霊の影響であるとしている。彼らは、野にも山にもまた海や川などいたるところ神や霊がち満ちているものと思って、これに触れることを恐れ、目に見えぬものであるのでいっそう恐れをいだくのである。彼らは原始的の護符を持っている。これは人の形(神体)って首にさげる。また、石・木などをけているものもあり、これを一種の悪魔よけと考えている。これをつけていれば、悪魔が近寄り得ないというのである。
 家々には、人の形をした神の像を置いてあって、この民族については装飾品は単に美的であるにとどまらず、宗教的意味を含んでいる。毛髪の幾本か残してあるのも悪魔よけであり、衣服の何々の飾りとか首飾りとかもやはり悪魔よけにもちいる。これらは、よほど未開のものであって原始的装飾以上に神秘で、宗教的意味を持っておって、悪霊・悪神に対する防御ぼうぎょとなっている。彼らは、装飾品も単に美的のみの考えでなく、むしろ宗教的の意味を多く含んでいる。いたるところに悪霊・悪神がおって、巫人はこの間にあって常にこれらの悪霊・悪神に対して祈祷きとうしているのであって、かかる研究上にも原始の面影おもかげがしのばれるのである。巫人はすべて女子。
 しかるに神というのは何であるかというに、その形は人間の目に見えないものであるが、石を見ると石そのものを神とし、海岸の岩に対して供物などをささげ、岩石と神とを区別しない。木・川・海などの神もまたそうである。これらの物質そのものと神そのものとの区別の立たぬのがおもしろいところで、新シベリア族のほうでは、たとえば石・岡・山・川・木などにしても、それらの内にそれぞれの神が宿っているのであるという思想を持っている。チュクチ、コリヤークになるとこれよりもいっそう原始的であって、物質と神との区別を認めないのである。
 コリヤークの考えによると、宇宙を三分して地下にある国が夜見の国にあたり、その上にわれわれの住むこの国があって、人間のみならず動植物などあらゆる生きたものが住んでいる、ここがなかくにである。そしてこのまた上に存するのが、スプリーム・ビーイング〔supreme being、至上神しじょうしんのいますところ、すなわち最高の神のいますところである。ここにいる神は、あまかみすなわち善神である。つまり、これはわが高天原たかまがはらに似ているのであって、その下は日本人のいわゆる中津国なかくにすなわち人間やいっさいの青人草あおひとくさの国となるのである。ここにはわれわれをはじめすべての生物が住んでいるが、善神・悪神・人間も住み、また善霊・悪霊もいる。しかして中つ国の下にまた一つの世界がある。ここは人間が死ぬとここにくるのであって、ここに住む人間にも父母兄弟・家族があり、狩猟・漁獲ぎょかくをいとなみ、亡者としての生活をしている。これは日本のくに底津国そこつくに夜見よみくにに相当する。
 右の最下の国にはカラウという一つの悪魔王がいる。カラウは元から夜見国におった王ではなく、天つ国に住んでいたのである。巨大で身長高く、腰をかがめて歩く。力も強く、性は薄鈍うすのろで、悪事をなしたため、天の諸神から憎まれて夜見の国へ蹴落けおとされたのである。これはミルトン〔John Milton、1608-1674〕の『失楽園』の、天使が下落げらくしてついに悪魔になったという詩と似ている。かくてカラウは下界の王となったが、人間を害することはなはだしく、人を殺し、病気にするのはこの一族のしわざである。彼らには一族・子どもらがある。彼らが中つ国へ出るには、家々で囲炉裏いろりで火をたいたとき、煙炎えんえんの中をつたうて下から人間の国へ入るのである。人間が彼らの持った斧で頭を打たれると頭痛を感じ、弓でつけられると死ぬという。ゆえにカラウのないように祈るのであって、追儺ついなのような祭りをおこない、木の仮面をかぶってカラウを追うような仕業しわざをする。
 かように宇宙を上中下の三段に分けることは、日本の古代の思想における高天原、中津国、根の国・夜見国と酷似し、日本の原始哲学観の古い形はこんな形式からきたものかと考えられる。高天原を地上に求めるにはおよばない。高天原の神と中津国の神とちがうのも、古代日本人の考えに似ている。カラウの巨人が根の国へ追いやられたというのは、わが素戔嗚尊すさのおのみことの話にそっくりである。われわれの祖先とコリヤークとの間には人類学上なんの関係もないが、かかる神話・伝説は古代のシベリアに一般におこなわれた形式のものと見られる。ただし日本の高天原・中つ国・夜見国の哲学観は、コリヤークのにくらべると数等すうとう発達している。彼らの信ずる神々の種類・形状・その信仰、それにささぐる供物などを研究すればおもしろい事実が知られるのである。
 またここには、大烏おおからすがこの世界のすべてを作ったという伝説がある。ここの神話・伝説には大烏の話の入らぬものはない。かかる色彩がチュクチ、コリヤークの宗教をとおして見られるのである。大烏がすべてのものをつくったという話、すなわち大烏についての信仰思想は、チュクチ、コリヤーク、カムチャダールにさかんであって、彼らの神話・伝説の百中に九十二、三までもこの鳥の分子が加わっていないものはない。彼らにはトーテミズムが発達して、大烏に対してトーテムの信仰が盛んとなっているのである。この大烏は夜見国に住まず、高天原に住んでいるが、元は地上におってすべてのものをつくりおわったので、天上界へ行ったのだという。そしてこの大烏がカラウと戦ったという話がある。この大烏についておもしろいのは、カムチャツカ半島からベーリング海峡の一衣帯水いちいたいすいのアラスカ海岸に住むアメリカ・インディアンとしてのツリンキット人の伝説である。ツリンキット人では、その祖先はカラスとオオカミとから生まれたのであるといって、彼らの住む家の屋根や室内には、彫刻としてカラスとオオカミとの像を立てている。彼らの絵画・彫刻・模様などにもすべてオオカミとカラスとの形が絵画として、あるいはそれを変化した図案としてもちいられている。彼らの舞踏にもカラスおどりというのがあって、カラスの仮面をかぶって踊るのである。ここではトーテムはもっとも盛んである。近ごろ学者はこれについて、この神話・伝説とチュクチ、コリヤークなどシベリアの向こう岸にいる民族との間に、人類学上の関係はなかろうかということを研究し、ついにこれらが互いに連絡していることをとなえ出した人さえもある。
 なお、ツリンキット人のいる付近のハイダ島の土人にもこの話がある。なおチムシャン人も関係がある。彼らは元はシベリアからベーリング海峡をわたって移住したもので、その当時にはまだ今日のごとく彼ら以外のインディアンはおらず、彼らの一族のみが栄えていたが、後にインディアンがきて、ついに彼らは少数のものとなってしまった。ゆえに風俗習慣はのちに来たインディアンとは大いに違っている。人類学的にいえば、ツリンキット、ハイダ、チムシャンは、コリヤーク、チュクチと大いに連絡を持っているとされるのであるが、これは近ごろ言い出されたところでさらに研究を要するものである。
 エスキモーもやはりアメリカの北部からアラスカ・ベーリング島・アジアのカムチャツカの北端にまでくさびのごとくに分布しているが、ここにはカラスの伝説はない。もっとも場所によって伝わっているところもないではないが、それは意味をなしてはいない。学者は、ベーリングにいる古シベリア族と米国海岸のツリンキット、ハイダ、チムシャンと連絡があって、エスキモーは後に移住して中間に入ったのであろう、そしてそのために神話・伝説に感染はしたが、ついに意味をなすにいたらずしてのこったのであろうと言っている。

   千島、北海道、カラフト
     アイヌ、ギリヤーク、オロッコ


 以上述べたのは、古シベリア民族における宗教上の信仰状態であるが、これが北千島幌筵ぱらむしる占守しゅむしゅ阿頼度あらいどのいわゆる千島のアイヌのほうへくると、それが南の蝦夷えぞアイヌとこのカムチャツカにいる古シベリア諸族との間にいる関係から、自身アイヌ族に属するにかかわらず、それら北方のカムチャツカ諸族との間にもやはり接触関係があるらしい。ここには仮面をかぶる風俗習慣もあり、カラウと同じくフージルという巨人の伝説もある。このフージルは人をらえ食うという話もある。しかもこれはいつ出るかわからない。夜間、家のかたわらから出て、外へ出る者を捕らえ食うということである。その関係上、妙な遊戯があって、人をおどすに仮面をかぶるという風習がある。
 これをフージルの仮面という。なにゆえに仮面をかぶっておどかすかというに、フージルが人間に接近するときには、仮面をかぶるというふうに伝えているので、人をおどかすにも仮面をかぶると、いずれが本物のフージルであるか見きわめがつかないで、大いに驚くというわけである。
 フージルはカムチャツカに根拠地をおくというのであるが、このこともカラウと互いに何らかの関係があるように思われる。そこでこのカラウの研究には、北千島アイヌをその仲間に入れる価値がある。
 それから北海道アイヌの神さまは、人の形をしているものよりも形をなさぬもののほうが多い。たとえば水の神、山の神、海の神、太陽の神、火の神なども自然そのものを尊信そんしんするのであるが、千島アイヌの神は人の形をなしている。たとえば火の神は衣装をつけて、顔は火のごとくに燃えている。雷神のカンナンカムイのごときは、巨人であって頭にはサバウドベをかぶり、衣服はアッシ〔アツシ〕を着し、長いくつをうがち、エムシュ槐樹えんじゅか〕の太刀をはいている。難船のときにカンナンカムイに祈ると、天上に寝ている彼の神はここに降り来たり悪魔を一刀に殺すという。北海道アイヌの神はこれと趣きを異にしている。怪物といっても河童かっぱなどのごとく人の形をしたものが多い。ゆえに千島アイヌの神の信仰・怪物の考えは、これを北海道アイヌ・古シベリア族のそれと比較しておもしろい点がある。
 とくに注意すべきは、北海道アイヌにしても千島アイヌにしても、シャーマンの巫人の存在せぬことである。もっともトスクルというものがあって、これがすなわち巫人にあたるが、これらアイヌのトスクルはさほど勢力を持たない。熊祭りのごときも酋長らが祭りをつかさどることとなっている。北海道アイヌのごときはことにそうである。なお北海道アイヌの神に現われた思想には、日本の原始神道と区別のできぬようなものもある。これは北千島アイヌがカムチャツカ半島の土人と似ているのと同じく、吾人祖先と長く接触しておったがためであろう。日本古語とアイヌ語との区別も立たないものもあるし、蝦夷アイヌの古伝説の形容・言い表わし方に日本古代のそれとよく似ているものがある。さればその区別については研究を要する。
 カラフトのアイヌにいたってはシャーマンの風習多く存在し、彼のトスクルの制度がなおおこなわれている。どこの村には誰のトスクルがいるなどといって、祈祷・禁厭きんえんおよび熊祭りなどのとき、彼らによっておこなうのである。これはギリヤーク〔ニヴヒの旧称〕およびツングース族のオロッコ〔ウィルタの旧称〕などの影響であるか大いに比較研究を要する。
 さらにアイヌの北のギリヤークではいかがであるかというに、ギリヤークにもやはりシャーマンが盛んであって、巫人もある。ギリヤークの風俗習慣はほとんどシャーマンで、絵画・彫刻・模様などシャーマン的のところが多い。アイヌのごとくに熊祭りをもするが、ギリヤークではこれが祭りの一つとなっている。北海道および千島のアイヌの宗教はシャーマン風のところが少ないが、ギリヤークは非常にシャーマン的であって、ぬさをももちい、シャーマン教の太鼓を使用し、祈祷も盛んにおこなわれる、ゆえにシャーマンを研究する上に、ギリヤークの研究はよほど価値あるものと思われる。

   極東シベリア
     ツングース、オロッコ、ゴリド


 カラフトから黒龍江、ウスリーの流域、後貝加爾州・エニセイ州などにかけて広く分布しているツングースにもなかなかシャーマンは盛んである。たとえば吾邦のカラフトからロシア領カラフトにいるオロッコのごときはツングースの一つであるが、ここにもシャーマンが盛んである。ツングースのシャーマンとして研究すればよほどおもしろい点がある。ここには男のシャーマン・女のシャーマンがあって、男の巫人をフセ・シャーマンといい、女の巫女をアプチイ・シャーマンと呼んでいる。人間が病気になるのは悪霊が体内に入るからで、これを取り除けば病がなおるといって、巫人が祈祷をすればその悪霊が去ると考えている。人間が病気にかかるのをウヌウといい、人が死んだらばアンバーとなるという。アンバーは夜見の国へ行って生活するのであるが、人が死んでアンバーとなるのに、善悪の別がある。善のアンバーを「オマンガ」といい、悪のアンバーを「オルキ」という。オルキが体内へ入ると病気になるのであるから、これを取り去る仕事をする。
 オロッコでは、シャーマンが死ぬと後のものがシャーマンを継ぐのであるが、この際にその者の精神状態が一転するのであって、これをオロッコ語では「シャマンドエニ」という。シャーマン化するという意味である。このときは狂気のような状態になる。彼らは飲酒をつつしみ、悪事をさけるので、これによってアンバーは出て行ってしまう。悪いシャーマンは悪いアンバーが体内から出ない祈祷するときは、木をけずって花の形を作り、イルラオ(アイヌのイナウ)をかぶり、両腕に削りかけをつけ、革の腰巻をして腰鈴を結び、左手に太鼓、右手にむちを持ち、太鼓を打って舞踊するので、腰を伸ばして動かすたびに鈴が音響を発する。かくする際に体内にある悪いアンバーが退却するという。シャーマンの神として、人形または動物の形をつくる。
 なお大陸にいるアムール、ウスリー流域のゴリド・その他ツングースの風俗習慣ではシャーマンが盛んであり、善神・悪神、善霊・悪霊があって、体内に悪霊が入ると病になるといい、男女のシャーマンがあってこれを除く方法をおこなう。悪霊にとりかれることを恐れるので、これらを取り除けるためにシャーマンの勢いが強い。病をなおす祈祷のためには財産を傾けて物を出すのである。祈祷のときは、頭に今のイナウのごとき削りかけ・鈴をつけ、胸に鏡をかけ、腰には幾枚もの鏡や鈴を帯んでいるため、動くたびにかちあって光を発し、響きをおこす。また神楽の太鼓を打ち、これらの光や音にて悪魔を追う手段とする。鈴・鏡をつける風習は他にも伝わり、日本の昔に鈴・鏡などのあったことと対照してみるとおもしろい。注連縄しめなわ・削りかけ・幣束などもある。家の入口には一本の大木を立て、人形や動物の形をって、悪魔よけの神杆とする。要するにシャーマンが盛んにおこなわれるところである。

   満州
     満州人


 つぎに満州人はどうかというと、いまはほろびて中華民国となったが、満州人固有の宗教はやはりシャーマンである。彼らはツングースで、長白山ちょうはくさん〔朝鮮名、白頭山はくとうさん・ウスリーおよび黒龍江あたりと同系統である。言葉も立派なツングースの言葉である。今、シナ化して都会に住む満州人にはシャーマンの風はないが、吉林省・黒龍江省あたりの奥にいるものの間にはシャーマンが残っている。たとえば、門を入ると神杆が立っていて、これに対して祭りをおこなう。清朝の皇室においても乾隆帝のころ〔在位一七三五〜一七九五〕まではシャーマンを信じておったのであって、奉天の清寧せいねい宮にも残っている。乾隆帝の御寝所ぎょしんどころにシャーマンの神像・祈祷の太鼓および楽器・腰鈴などが並べられてあって、日本皇室に賢所かしこどころのあるのと同じ意味である。清寧殿に入ると神杆が庭に立っている。
 なお、満州の太祖〔ヌルハチか〕以前の満州歴代の墓は渾河こんがの上流興京こうけい〔ホトアラ〕というところにあるが、そこをまた永陵という。この陵は土饅頭どまんじゅう形の古墳で、上に幣束へいそくが一本ずつ立てられてある。春秋に祭りをおこない、ここで祈祷するのである。
 かように満州人中にはシャーマンがあって、今でも吉林・黒龍江省の山中には残っている。余は吉林省琿春こんしゅんの山の中にて、満州人のシャーマン巫人が太鼓をたたいて祈祷をしているのを見たことがある。なおこのシャーマンの神は、満州人がシナ人と接触してから関羽の神と結びついて、奉天宮殿にはシャーマンの神として関羽の像がまつってある。民間でもシャーマン信仰の懸軸などは中央に関帝を描き、山の神とシャーマンの神とが配してあって、シャーマンと道教との混化したことがわかる。かく満州のシャーマンとシナの道教との融合した事実は注意すべきことで、道教と付近の民族の宗教とが接触変化したのはおもしろいことであると思う。

   朝鮮
     朝鮮人


 ツングースおよび満州人と、人類学上もっとも関係の深い朝鮮人はいかがかというに、ある人は朝鮮の宗教は儒仏二教からなりたっているといい、あるいはまた儒教がまったく朝鮮の根本宗教であると説く人さえもあるが、これを人類学上よりみれば、儒仏二教は彼らの真の宗教ではない。固有の朝鮮人の宗教といえば、これまで説き来たったシャーマンであって、これこそ彼らの古い時代からの宗教である。そこで余は、このことについて大体を記してみようと思う。
 朝鮮には、ある時代から民衆の階級すなわちケストの制がおこなわれ、その中でも巫人はごく下位に置かれておった。ただし、下位におったにかかわらずその勢力はなかなか盛んで、朝鮮京城けいじょう〔日本支配期のソウルの称〕の南山には王室に対する巫人の祈祷所があり、これまで巫人が李王家の宮中に出入りして一時は非常に勢力を得て、びん王妃のごとき聡明なる女性をもってしてもなお、この巫人を信仰したのである。巫人の中心地は、京城より仁川インチョンへ行く途中の鷺梁津ノリャンジンというところで、そこに大なる巫人の集会所がある。歴々の人たちも病気・その他のときに病人を連れなどして、ここにまで祈祷をうのである。なお田舎では各所に巫人がおって、一朝いっちょう病気にかかった場合にはこれを迎えて祈らせ、また流行病はやりやまい飢饉ききん・洪水の際などにも、巫人をたのんで祈祷してもらうのである。彼の朝鮮の官吏かんりのごときは、李朝時代〔一三九二〜一九一〇〕には表面では詩とか漢文などをよくし孔子の教えを奉じておっても、裏面を見ると、家庭ではひそかに巫人との往来があったのである。知識階級においてすでにしかりであるから、一般民衆の信仰は思いやられる。山には山の神、川には川の神、その他いたるところに神々が存在する。善神・悪神、あるいは善霊・悪霊などがおり、人の病気は悪霊にかれるゆえであると説くなど一般のシャーマンと変わらない。
 さればちょっとみれば、朝鮮の宗教は儒教・仏教または道教であるが、これは表面のことでそれらのものに彩色されているにすぎない。その木地きじはシャーマンで、東北方アジア民族と同じである。すなわち彼らはシャーマン分布区域として見るべきものである。もと彼らはシャーマンを信じておったのであるが、後に儒・仏・道教が入って混和融合して一種の妙なものになってしまったのである。日本の原始神道が、道教・仏教・儒教の影響を受けてのちに別様のものができたのとその趣きを同じくするもので、朝鮮固有の宗教研究上、シャーマンの研究はもっとも必要である。
 朝鮮の巫人は、咸鏡かんきょう北道ほくどう吉州きっしゅう以北をのぞいたほか、各道すべて女の巫子である。ただ、吉州以北・豆満江とまんこうまでの間に男の巫子がある。
 朝鮮の女の巫人は職業的シャーマンで、夫を持ってもさしつかえないことになっていて、一村に一人か二人はかならずいる。主人は別の仕事に従事していて、妻は巫子として他からへいせられたときは、服装をあらためて御祈祷に行くのである。咸鏡かんきょう南道なんどう永興えいこう付近の話によると、巫子いちことなるには鏡が必要であって、山林中に探し求めてこれを得たときに巫子となるという。これはおそらく、ごく古い形式の話であろう。また、巫子の職を娘に伝えることがあり、他に病気のなおった者が巫子となることがある。巫子はたいてい一組三人からなって、一人は主たるもの、二人は介添かいぞえである。その一人は太鼓をたたき、他の一人は鐃鉢にょうはちを打つのである。太鼓はたいがい女の役で、鐃鉢は女男ともにやる。これらは主たる巫子の付属物で勢力を持っていない。病者のあるときは、これら三人がそのところへ行って、祭壇を設け供物をささげる。はじめに斎主である巫子が諸神に祈念し、病人のそばで舞いを舞うのであって、それが熱してくると狂気のようになる。こうして悪魔を退散させるのであって、これは数日にわたることがある。それがために家産を傾ける家さえある。巫子の服装は一種別様のもので、一方の手には三番叟さんばそうの持つようなかっこうで、下に長い薄い五色の絹布けんぷれている鈴をにぎって、一方には扇を持って踊るのであって、日本の風と変わらない。こうして神をいさみ立たせ、また一方では悪霊を退治するのであって、巫子の鈴は大きな威力を持つものとされている。悪霊はこの音に驚かされるという。太鼓もまた威霊いれいをそなえている。朝鮮の巫子の太鼓はいくらか音楽的であるが、シベリアなどのシャーマンの太鼓と比較すると、まさしくこの種の太鼓であることがわかる。以上によっても朝鮮の巫人がシャーマンの性質のあることがわかる。病気のときのほかに、新築・新造船のばあいにも祈祷をおこない、新築地の四方または船にも注連縄しめなわをつるす。森林にも神がいるといって注連縄をはる。これはタブーせられた形である。日本の注連縄は左いであるが、朝鮮のそれも左様さようである。日本の注連縄は、単にいまは儀式のときのみにるが、朝鮮のほうでは今日、実際土俗としてやっている。
 神聖の場所に注連縄しめなわをはるのは、人のみだりに入るのを禁ずのであって、途中で死人にったもの、死人の家に行った者、その他身にけがれのあるもの、血を出した者などは入ることができないのである。
 朝鮮では、村の入口には左右に相対して恐ろしそうな人の形を立て、これに「天下大将軍」と刻しているものを見る。これには一年のある時節に注連縄をかける。これも悪魔よけである。なお田舎の村の中で、ある家の入口に一本の竿さおを立てて、その上にかもを彫刻した形を置いたものがある。これも悪魔ばらいで、神杆の一種と見られる。黒龍江、ウスリーのゴリド人の立て居る神杆にもこれと同じものがある。朝鮮で神杆を立てる風習は、『魏志』の「馬韓伝」にもある。馬韓ばかんの風俗習慣では、村に蘇塗を立てるというが、これは神杆の一種である。蘇塗という語は満州語ではトワーという。すなわち同一語根である。全羅道の多島海たとうかい珍島チンドにも蘇塗を立てる風がのこっている。
 かかる事実はシャーマンに関係のあることで、これによれば、いにしえの朝鮮の宗教の面影おもかげがあざやかに見られるのである。朝鮮は儒教国・仏教国であるというが、やはりシャーマンの国であるということができる。ここのシャーマンは、道教の神・仏教の影響を受けているので、これらの衣をいで見なければならぬ。これを除き去ったとき、いっそう明らかにそれがシャーマンであることがわかる。

   沖縄諸島
     沖縄人


 朝鮮の巫女につづいて注目すべきは沖縄諸島の巫女で、彼らはノロクモイまたはノロクメの名称をもってよばれ、朝鮮の巫女と等しく諸神に仕えて祈りをしている。これは明らかにシャーマン的色彩を遺憾いかんなく発揮しているもので、そのまつる神々・祈り・儀式などよく日本の古代宗教の遺風を存しており、いまなお曲玉まがたまを首にかける風俗さえもある。余は二回にわたって八重山・宮古島みやこじま・沖縄本島・大島諸島〔奄美諸島か〕などにおいてこれを調査したことがある。日本古代の原始的神道の研究説明には是非ともこれと比較せねばならぬ。また、わたしが原始神道と沖縄諸島のそれとを比較するならば、あわせて朝鮮の巫女およびその宗教との比較をして見ねばならぬ。な、シャーマンとしての彼らをともに比較対照して見ねばならぬ。これらはいずれも共に、シベリア式シャーマンの色彩を濃厚に具備するものである。

   モンゴル
     モンゴル人


 つぎに朝鮮の西、モンゴルのほうはいかがであるかというに、彼らモンゴル人は、今日はチベットから入ったラマ教〔チベット仏教〕を信じている。モンゴルは一般に仏教国と考えられているが、精密に調査すると決してそうではない。固有の宗教はシャーマンである。仏教の入る前もそうであった。現に今でもシャーマンの風習が多く存する。占いのこと、鏡をかけ五色のはくをたれて悪魔をはらうこと、ぬさなどのあることなど、仏教の中には見ない風習がおこなわれている。四方に木を立てて注連縄しめなわをはって祈祷する風習もある。民間のラマを信ずる家にもこの風習が存するのである。
 モンゴル人のうちにも巫子の風習がのこっておって、巫子のことをボー(Bo)という。朝鮮のムー(Mu)あるいはムータン(Mutan)と同じ発音である。巫子は鏡を一つずつ持ち、なお小さな銅で作った人形や鳥の形したものを持っている。これは神体である。病気のときには舞踏ぶとうして祈祷するのでこれにも鈴をもちい、一人は太鼓をたたく。このやり方はまったくシャーマンとすこしも違わない。このシャーマンの信仰にそれぞれの神があるが、それはインドの仏菩薩ぶつぼさつではない。かようにモンゴル人にはシャーマンの風がのこっている。

   中部シベリア 付 露領トルキスタン
     ソロン、バラカ、ブリヤート、ヤクート、トルコ人


 モンゴルのそばに住むソロンもシャーマン信者であり、バラカというモンゴル人もシャーマンを信じておって、彼らもやはりシャーマンの分布区域であることがわかる。
 バイカル付近より後貝加爾州あたりに住むブリヤート人はいかがかというに、ラマ教ではあるがシャーマンの分子を含んでいる。
 ヤクート州にはトルコ民族のヤクート人が住んでいるが、このヤクート人はいかがかというとシャーマンが盛んである。一般にシベリアからロシア・トルキスタンにいるトルコ民族は回々フイフイ〔イスラム教の異称〕であるが、シベリアにいるトルコ民族のヤクート人はなお固有のシャーマンが盛んであって、ことにヤクート人のシャーマンは大いに注意すべきもので、儀式は複雑である。彼らの間には、彼のコリヤークにおけると同じく宇宙が三段に見られている。すなわち天国・中つ国・根の国すなわち夜見国の三段である。最上の天には最高位の善神が住み、中つ国には人間・獣類・草木など生きとし生ける蒼人草あおひとくさが住み、地下の世界すなわち夜見の国には、中つ国の人間がひとたび死ねば行くという。夜見の国は穢土えどであって、この考えは日本のわれわれの祖先とすこしも変わらず、コリヤークとも違わない。シャーマンの勢力が盛んであって、吉凶ともにみなシャーマンの勢力の下にある。
 かように考えると、アジアの東北方、シベリア全体・満州・朝鮮・露領トルキスタン方面にかけておこなわれている宗教はシャーマンである。かくのごとく、シャーマンが広く分布している上からわが日本の原始神道をみれば、これとよほどよく似た点がある。今、軽々しく結論は与えないが、日本の神道、すなわちわれら祖先の固有の宗教中には、このシャーマンの分子がかなり多い。高天原・中つ国・夜見の国などシャーマンの哲学的考察、神に奉仕する巫子のあること、政治・宗教の接着していること・その他、種々の儀式も非常に両者相似ている。鏡・鈴などもそうであるし、鈿女命うずめのみことなどの動作、神社に仕える巫覡ふげきが古く女の巫人であることなど、シャーマン的色彩をおびている。ゆえに日本の神道研究には、東北方アジアのシャーマニズムを度外視どがいしすることはできない。朝鮮と日本との関係あることを考えるについて、両者がシャーマンにて結ばれていることをも考えのうちに入れるべきである。
(つづく)



底本:『日本周囲民族の原始宗教』岡書院
   1924(大正13)年9月20日発行
   1924(大正13)年12月1日3版発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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日本周圍民族の原始宗教(一)

神話宗教の人種學的研究
鳥居龍藏

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)山《やま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)人々《ひと/″\》
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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[#図版、朝鮮鷺梁津の巫が祈祷をなせる所なり(プロフェショナル・シャーマン)]

[#図版、コリヤークのシャーマン巫(ファミリー・シャーマン)]

[#図版、台灣卑南のパイワン群タマリ社酋長の祠堂]
此は酋長の住宅なりしが其死後家人は之れを忌みて他に移り跡を其儘祠となせるものなり

[#改ページ]
[#ここから罫囲み]
本書を
荒井さが子刀自に捧ぐ
        著者
[#罫囲みここまで]

[#改ページ]
表紙の鈴は、朝鮮咸鏡南道・咸興の巫人のもてるものであつて、先端に鈴は群をなし、其の傍に小さな鏡が結び着けられ、柄の下端には五色の長い絹の垂れが下つてゐる。彼女が神前で祈り舞ふ時、之を手に持つてうち鳴らすのである。


[#改ページ]
   序言

 日本民族祖先の宗教、即ち我が祖先個有の原始神道の研究は、從來唯『記』『紀』のみに據る批評的方法、又僅かに支那とのみの比較或は印度歐羅巴、セミチック、ハミチック等の宗教上よりの論及によつてなされたのである。是等學者の研究方法は、固より夫々據る所のあるものなる事は云ふ迄もないが、余は茲に吾人祖先の他と雜化せざる純粹の原始神道の研究は、日本自身の其れを究むると共に、日本周圍の亞細亞大陸及南方諸島に於ける固有の原始宗教との比較によつてなされねばならぬと云ふ事を敢へて主張したいのである。
 是等周圍民族が、何れも吾人祖先と近密なる系圖的關係にあるものである以上、苟くも日本に於ける人類、人種、民族、考古、言語、土俗學的或は文化史的研究をなさんとする者は其の如何なる事項にもあれ、必ずや之れを周圍の其れと比較せねばならぬと云ふ事は、拙著『有史以前の日本』の序に於て既に述べて置いたのであるが、今上梓せんとする本書も亦此の主張に基いて編んだものである。
 余は本書に於ては、主として日本周圍民族の原始宗教、其の他を記述したのであつて、日本其れ自身の事には、多くは觸れなかつた。之れに就いては、他日別に日本文化、宗教等を主として扱つた一書を公にする考へである。
 シャーマニズム、南蠻の植物尊拜の宗教、南方諸島のアニトの宗教等は、日本原始宗教との比較研究上極めて必要なるものであるが、特に沖繩諸島、朝鮮、滿洲(固有の滿洲人)西伯利、蒙古の巫覡は注意すべきものである。又支那の原始的道教も注意を怠つてはならぬ。
 此の東北方亞細亞に行はるゝシャーマンは、我が原始神道に直接頗る深い關係を有するものであつて、實に我が國の古代は原始宗教上、此のシャーマンの分布圈内に屬するものである。其の巫覡、其の祭る神々、善惡の靈魂《みたま》、神樂《かぐら》、舞、祭典等殊に宇宙を高天原《たかまがはら》、中《なか》つ國《くに》、底《そこ》つ――夜見《よみ》の國《くに》と、三階段に區別するが如きシャーマン式宇宙觀は、最も彼此對照すべきものであるが、其の他、手向《たむ》け、神の社、注連《しめ》繩、幣束《ぬさ》、鏡、鈴等も亦大いに考ふべきものである。
 要するに、人類學上より我が原始神道の研究をするに、『記』『紀』以下の文献の必要なるは勿論であるが、今日の日本の各神社、殊に殘れる古い形式の神社、鳥居、祭式、祭具、服飾、巫覡、神樂、占、其の他民間の信仰、土俗等に亘つて調査し、更に原史時代古墳及び其れよりの發掘物、當時の聚洛と神社との關係、遂には神、靈《みたま》、未來の夜見の國、殉死、埴輪との關係等の民族心理學的條件に迄研究の歩を進めねばならぬ。而して是等は唯々日本周圍のそれと比較する事によつて、初めて遂げ得らるゝのである。幸にして日本周圍の諸民族には、是等の信仰、土俗が、今尚ほ土俗學的に殘存して居るのである。本書に主として載せたるものは即ち此れである。
 尚ほ日本と韓國《からくに》との記憶を呼び起さんが爲めに、茲に特に全羅道と九州との間に在る濟州島と、慶尚、江原兩道と出雲との間に在る鬱陵島との記事を載せて置いた。這は原始神道研究上忘るべからざる所であるからである。
 既に述べるた[#「述べるた」は底本のまま]如く、本書は日本周圍の宗教、神話等の一般を記述したものであつて、我が島國の周圍には如何なる民族が現存して如何なる文化を形成し、殊に其の宗教、神話は如何なる色彩を有するものであるかと云ふ事の大略を讀者に知らしむれば足るのである。若し本書が是等の文化、宗教、神話と、日本のそれとの類似、近縁關係を如何に暗示して居るかを朧氣ながらも覺知し得らるれば幸である。
 本書の目的は以上の如くではあるが、余は不幸にして未だ斯くの如き著述の公にせられたる事を聞かない。其意味に於て本書は人類學上より見たる日本周圍の文化、宗教として、將日本原始神道の基礎的研究としての先驅であると云つても差支ないと思ふのである。
[#ここから地付き、地から6字上げ]
大正十三年九月一日大震災
紀念日 我が書齋に於て
[#地から3字上げ]鳥居龍藏



   目次

日本周圍民族の原始宗教
[#ここから1字下げ]
一、緒言
二、東北亞細亞民族の宗教
[#ここから3字下げ、折り返して4字下げ]
東北亞細亞民族の分類
カムチヤツカ 附アラスカ、ベーリング――チユクチ、コリヤーク、エスキモー、ツリンキツト、ハイダ、チムシヤン
千島、北海道、樺太――アイヌ、ギリヤーク、オロツコ
極東シベリヤ――ツングース、オロツコ、ゴリド
滿洲――滿洲人
朝鮮――朝鮮人
沖繩諸島――沖繩人
蒙古――蒙古人
中部シベリヤ 附露領トルキスタン――ソロン、バラカ、ブリヤート、ヤクート、トルコ人
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三、中部、南支那民族の宗教
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中部、南支那――漢族、苗族、※[#「けものへん+果」、U+7313]※[#「けものへん+羅」、U+7380]
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四、南東亞細亞諸島民族の宗教
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フイリツピンの北部ルゾン――イゴロ人
臺灣 附紅頭嶼――インドネジアン(生蕃、熟蕃)
太平洋諸島 附ニユージーランド――マリヨーポリネシヤ族、マオリー人
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五、結論
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朝鮮の巫覡
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一、緒言――朝鮮の宗教
二、巫人――巫覡
三、巫――女巫
四、覡――男覡
五、結論
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西比利亞のシヤーマン教より見たる朝鮮の巫覡
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一、シヤーマニズムとシヤーマン
二、シヤーマンの種類
三、シヤーマンの性――女巫より男覡へ
四、鏡、太皷、鈴とシヤーマン
五、シヤーマンの稱呼
六、シヤーマニズムより來れる朝鮮現存の習俗
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民族學上より見たる濟州島(耽羅)
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一、總説
二、濟州島の稱呼
三、歴史上に現れたる濟州島
四、自然地理、地質學上より見たる濟州島
五、土俗學上より見たる濟州島
六、結論
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人種、考古學上より觀たる鬱陵島
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一、總説
二、現住民の移住状態
三、文献、史上に現れたる鬱陵島
四、考古學上に現れたる鬱陵島
    于山國時代の遺跡
    新羅時代の遺跡
    石器時代の遺跡
五、『于山』に就て
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南支那蠻族と其の文化及宗教
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一、緒言
二、漢民族と南蠻との關係
三、南蠻の地域と歴史
四、南支那の蠻族概觀
五、三派の蠻族
六、苗族の傳説、風俗、生活状態
七、※[#「けものへん+果」、U+7313]※[#「けものへん+羅」、U+7380]の體格、文字、神話
八、蠻族の文化に就て
九、結論
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※[#「けものへん+果」、U+7313]※[#「けものへん+羅」、U+7380]の宗教と神話
※[#「けものへん+果」、U+7313]※[#「けものへん+羅」、U+7380]の神話

吾人祖先の石器時代と國津神
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一、アイヌ及我祖先の石器時代遺跡の地理的分布
二、考古學、文献上に現れたる國津神及天孫派の移住状態
三、我祖先と沿海州方面との接觸關係
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吾人祖先有史以前の男根尊拜

妣の國
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一、文献に現れたる妣の國及其の意義
二、妣の國の位置
三、三界の神話
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日本周圍民族の原始宗教目次 終



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  日本周圍民族の原始宗教

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日本の周圍にはどんな宗教が行はれて居るか、余は之に就て本篇を起草した。而かも是等の多くは原始民族、原始的宗教である。我が古い固有原始神道を研究する者は宜しく是等を比較せねばならぬ。
[#リード文ここまで]

   一、緒言

 日本周圍の大陸及び南方の諸島には、まだ原始民族の状態を保つたものが住んで居る。彼等の風俗にも習慣にも、よほど太古を偲ばせる面影の殘つてゐるものが多い。殊に其の宗教などは、之れを人類學上から觀て極めて興味の存することである。即ち吾人民族の宗教が如何に發達し來つたかの經路を知るに大に便利である。殊に是等の日本附近の大陸及び南方諸島は、吾等日本人の原始宗教の研究上、非常に參考となるのであつて、之れに依て吾々が利益を得ることは非常に大である。今、大體、是等民族の間に殘つて居る宗教について、話さうと思ふ。

   二、東北亞細亞民族の宗教

     東北亞細亞民族の分類

 先づ最初は、東北方亞細亞から始める。東北方亞細亞の民族は、通常之れを二ツに分つことが出來る。即ち一は古シベリア族、一は新シベリア族である。古シベリア族といふのは、チユクチ、コリヤーク、カムチヤダール、ユカギール、アリユート、ギリヤーク、エスキモー等(或はアイヌ)の總稱であつて、是等は極く偏鄙な不毛の地、或は甚しく交通不便な島々に住んで居て、要するに過去の民族の殘され者、敗殘者である。
 それで是等の民族は、チユクチはカムチヤダールと何の縁故もなく、カムチヤダールはユカギールと何等の關係を有たず、ユカギールはギリヤークと更に關係する處なく、何れも個々獨立の民族である。元はそれ/″\人數も多く繁昌して、最もよい場所に住んで居つたのであらうが、新に入り來つた新シベリア族に追はれて、今日の土地に落着いたのである。
 されば古シベリア族は、斯樣に一つに集められて居るが、何れも個々別々であつて、人類學上何等の意味をも有たないのである。彼等は地理學的、歴史的に統一さるべきもので、言語學的、人類學的には統一されない。學者が假に分類上集めたのであるから、彼等は一のモザイツク式で、あちらこちらから集めて一に合せたに過ぎないのである。昔から是等の民族の分類に困つて、分類すべからざる東北方民族などと稱して居つたのである。然るに近頃になつてロシアの學者は之れを古シベリア族と呼ぶに至つたのであるが、ロシアのシユレンクは、曾て之れに古亞細亞民族の名を附した。兎に角、是等民族は寄せ集めたものであつて、文化の程度極く低く、人類學上、土俗學上大に參考となるのである。
 新シベリア族は、これまでウラルアルタイ民族と云つたもので、其の中に含まれるのは、ツングース族、蒙古族、トルコ族、フイン族(或はサモヱツド族)等である。是等は先づ四の群に分けるが、系圖的には同一のもので、元は或るxの場處に共に住んで居つたのが、後に各處に分れたのである故、人類學上言語學上、同一に取扱ふべきものであつて、古シベリア族がモザイツク式であるのと違つて居る。此の新シベリア族は、相當に他の文化の影響をも受け、又自分自身の文化も自然に發達して居つて、古シベリア族とは到底比較にならぬが、尚彼等の風俗習慣には、古風をよほど存して居る。朝鮮人、滿洲人の如きも皆此の新シベリア族の内に入れてよろしい。
 そこで、亞細亞の東北方にて是等の二群族が、宗教上どういふ位置に立つて居るかといふことを話さう。

     カムチヤツカ 附 アラスカ、ベーリング
       チユクチ、コリヤーク、エスキモー、ツリンキツト、ハイダ、チムシヤン

 先づ古シベリア族の方から云ふと、此の内で殊にチユクチ及びコリヤークの如きは、尚ほ現に石器時代の状態に在つて、近頃までも石器を使用して居つた。風俗習慣も非常に原始的であつて、今日、東北方亞細亞に於て、極く古い原始生活状態を味はうとするには、此の二民族についてするのがよい。是等は南方諸島の原始的民族パプアン、オーストラリア土人の風俗習慣と對照すべきものである。
 さて是等のチユクチ、コリヤークの宗教はどんなものであるかといふに、シャーマン教である、[#読点は底本のまま]抑々シヤーマン教は、東北方亞細亞に於ける文化の一の特色であつて、是等の民族からシヤーマン教を引去れば、何等のものも殘らぬ位であるから、彼等についての調査はシヤーマン教の研究に最も適して居る。そこでチユクチ、コリヤークのシヤーマン教は如何なるものであるかといふに、よほど原始的である。一體、シヤーマン教には、巫人が居り、之れが吉凶を占ひ、神に祈つて人間の病氣を癒し、風雨を鎭めて豐饒を司るのであつて、神と人間との中間に立つのが此のシヤーマンの巫人である。シヤーマンには二種あり、一はフアミリー、シヤーマン、一はプロフエシヨナルのシヤーマンである。前者には時に巫人として神に仕へる專門的のものなく、各自の家々にて祈祷禁厭を行ひ病氣を癒すのであつて、之れを家族的のシヤーマンと云ひ、後者の職業的シヤーマンは、此の家族的シヤーマンの一歩進んだもので、專門的の巫人があつて神に仕へる事をして、一般民衆のために、加持祈祷占ひなど種々の事を營むのである。チユクチ、コリヤークのシヤーマンは全く家族的シヤーマンに屬するのであつて、例へば一家に病人のある場合には、其の家の娘が主なる巫人となり、兩親が、神に供物を捧げたり、太鼓を打つたりする役を勤めて、シヤーマンの儀式が成立つので、極めて簡單である。太鼓は自家に持つてゐるものもあるが、多くは一村共通で、或る場所に備へ附けてあるのを、諸處の家から借りに來るのである。此の太鼓は彼等の間には、神聖な威力を有つたものと考へられて居つて、シヤーマンには必須の附き物である。惡魔は太鼓の音を聞けば退散すると云ふ。或る處では、嫁入の際に太鼓を持參するものもある。各自の家にあるものも一村共有のものも、太鼓は非常に嚴かに精進潔齋して保存せられ、之れに觸れたり、之れに向つて惡戯を試みることを禁じで居る。
 彼等は神に善神、惡神の二種ありと信じ、人間が死ぬと冥途即ち夜見の國へ行くのであつて御靈《みたま》に善靈と惡靈とがあるといふ。惡神に觸れ、又は之れに突當ると、病氣になり或は忽ち死ぬことがある。惡靈に憑かれた場合にも病に罹り、又は死ぬ。一般に流行病に罹ること、狩獵に出て獲物がなく、海にて漁のないのも惡神惡靈の影響であるとして居る。彼等は野にも山にも又海や川など到る處神や靈が充ち滿ちて居るものと思つて、之れに觸れることを恐れ、目に見えぬものであるので一層恐を懷くのである。彼等は原始的の護符を持つて居る。此は人の形(神體)を彫つて首に下げる。又、石、木などを掛けてゐるものもあり、之れを一種の惡魔除と考へて居る。之れを着けてゐれば、惡魔が近寄り得ないと云ふのである。
 家々には、人の形をした神の像を置いてあつて、此の民族については、裝飾品は單に美的であるに止らず、宗教的意味を含んで居る。毛髮の幾本か殘してあるのも惡魔除であり、衣服の何々の飾とか、首飾りとかもやはり惡魔除に用ひる。是等は、よほど未開のものであつて原始的裝飾以上に神祕で、宗教的意味を有つて居つて、惡靈惡神に對する防禦となつて居る。彼等は裝飾品も單に美的のみの考でなく寧ろ宗教的の意味を多く含んで居る。到る處に惡靈惡神が居つて、巫人は此の間に在つて常に是等の惡靈惡神に對して祈祷して居るのであつて、かゝる研究上にも原始の面影が偲ばれるのである。巫人は總て女子。
 然るに神といふのは何であるかといふに、その形は人間の目に見えないものであるが、石を見ると石そのものを神とし、海岸の岩に對して供物などを捧げ、岩石と神とを區別しない。木、川、海などの神も亦さうである。是等の物質そのものと神そのものとの區別の立たぬのが面白い處で、新シベリア族の方では、例へば、石、岡、山、川、木などにしても、其れ等の内にそれ/″\の神が宿つて居るので[#「神が宿つて居るので」に傍点]あるといふ思想を有つて居る。チユクチ、コリヤークになると、是れよりも一層原始的であつて、物質と神との區別を認めないのである。
 コリヤークの考によると、宇宙を三分して、地下にある國が夜見の國に當り、其の上に吾々の住む此の國があつて、人間のみならず動植物等あらゆる生きたものが住んで居る、ここが中つ國である。そして此また上に存するのが、シユープレム、ビーイングのいます處、即ち最高の神のいます所である。ここに居る神は、天つ神即ち善神である。つまり此は我が高天原《たかまがはら》に似て居るのであつて、其下は日本人の所謂|中津國《なかつくに》即ち人間や一切の青人草の國となるのである。此處には吾々を始め、總ての生物が住んで居るが、善神惡神人間も住み、又善靈惡靈も居る。而して中つ國の下にまた一つの世界がある、[#読点は底本のまま]此處は人間が死ぬとこゝに來るのであつて、此處に住む人間にも父母兄弟家族があり、狩獵漁獲を營み、亡者としての生活をしてゐる。之れは日本の根《ね》の國《くに》、底津國《そこつくに》、夜見《よみ》の國《くに》に相當する。
 右の最下の國にはカラウといふ一の惡魔王が居る。カラウは元から夜見國に居つた王ではなく、天つ國に住んで居たのである。巨大で身長高く、腰を屈めて歩く、力も強く、性は薄鈍で、惡事を爲した爲め、天の諸神から憎まれて夜見の國へ蹴落されたのである。這はミルトンの失樂園の、天使が下落して遂に惡魔になつたといふ詩と似て居る。斯くてカラウは下界の王となつたが、人間を害すること甚しく、人を殺し、病氣にするのは此の一族の仕業である。彼等には一族、小供等がある。彼等が中つ國へ出るには、家々で圍爐裡で火を焚いた時、煙炎の中を傳ふて下から人間の國へ入るのである。人間が彼等の持つた斧で頭を打たれると頭痛を感じ、弓で射つけられると死ぬといふ。故にカラウの來ないやうに祈るのであつて、追儺のやうな祭を行ひ、木の假面を被つてカラウを追ふやうな仕業をする。
 斯樣に宇宙を上中下の三段に分けることは、日本の古代の思想に於ける高天原、中津國、根の國夜見國と酷似し、日本の原始哲學觀の古い形は斯んな形式から來たものかと考へられる。高天原を地上に求めるには及ばない。高天原の神と中津國の神と違ふのも、古代日本人の考に似て居る。カラウの巨人が根の國へ追ひやられたといふのは吾が素戔嗚尊の話にそつくりである。吾々の祖先と、コリヤークとの間には人類學上何の關係もないが、かゝる神話傳説は古代の西比利亞に一般に行はれた形式のものと見られる。併し日本の高天原、中つ國、夜見國の哲學觀は、コリヤークのに比べると數等發達して居る。彼等の信ずる神々の種類、形状、その信仰、それに捧ぐる供物などを研究すれば面白い事實が知られるのである。
 又、こゝには、大烏が此の世界の總てを作つたといふ傳説がある。こゝの神話傳説には、大烏の話の入らぬものはない。かゝる色彩がチユクチ、コリヤークの宗教を通して見られるのである。大烏が總てのものを造つたといふ話、即ち大烏についての信仰思想は、チユクチ、コリヤーク、カムチヤダールに盛んであつて、彼等の神話傳説の百中に九十二三までも此鳥の分子が加はつてゐないものはない。彼等にはトーテミズムが發達して、大烏に對してトーテムの信仰が盛んとなつて居るのである。此の大烏は夜見國に住まず、高天原に住んで居るが、元は地上に居つて、總てのものを造り了つたので、天上界へ行つたのだといふ。そして此の大烏がカラウと戰つたといふ話がある。此の大烏について面白いのは、カムチヤツカ半島からベーリング海峽の一衣帶水のアラスカ海岸に住むアメリカインデイアンとしてのツリンキツト人の傳説である。ツリンキツト人では、其の祖先は烏と狼とから生れたのであると云つて、彼等の住む家の家根[#「家根」は底本のまま]や室内には、彫刻として烏と狼との像を立てゝゐる。彼等の繪畫、彫刻、模樣等にもすべて狼と烏との形が繪畫として或はそれを變化した圖案として用ひられて居る。彼等の舞踏にも烏踊りといふのがあつて、烏の假面を被つて踊るのである。こゝではトーテムは最も盛んである。近頃、學者はこれについて、此の神話傳説とチユクチ、コリヤーク等シベリアの向ふ岸に居る民族との間に、人類學上の關係はなからうかといふことを研究し、遂に是等が互に連絡して居ることを唱へ出した人さへもある。
 尚ほツリンキツト人の居る附近のハイダ島の土人にも此の話がある。尚ほチムシヤン人も關係がある。彼等は元はシベリアからベーリング海峽を渡つて移住したもので、其の當時にはまだ今日の如く彼等以外のインデイアンは居らず、彼等の一族 み[#「 み」は底本のまま]が榮えて居たが、後にインデイアンが來て、遂に彼等は少數のものとなつて了つた。故に風俗習慣は後に來たインデイアンとは大に違つて居る。人類學的に云へば、ツリンキツト、ハイダ、チムシヤンは、コリヤーク、チユクチと大に連絡を有つて居るとされるのであるが、此は近頃言ひ出された處で更に研究を要するものである。
 エスキモーもやはりアメリカの北部からアラスカ、ベーリング島、アジアのカムチヤツカの北端にまで楔の如くに分布して居るが、こゝには烏の傳説はない。尤も場所に依つて傳はつてゐる處もないではないが、それは意味を成してはゐない。學者は、ベーリングに居る古シベリア族と米國海岸のツリンキツト、ハイダ、チムシヤント[#「チムシヤント」は底本のまま]連絡があつて、エスキモーは後に移住して中間に入つたのであらう。[#読点は底本のまま]そして其の爲めに神話傳説に感染はしたが遂に意味を成すに至らずして遺つたのであらうと云つて居る。

     千島、北海道、樺太
       アイヌ、ギリヤーク、オロツコ

 以上述べたのは、古シベリア民族に於ける宗教上の信仰状態であるが、之れが北千島の所謂千島のアイヌの方へ來ると、其れが南の蝦夷アイヌと此のカムチヤツカに居る古シベリア諸族との間に居る關係から自身アイヌ族に屬するに拘はらず其れ等北方のカムチヤツカ諸族との間にも矢張接觸關係があるらしい。こゝには假面を被る風俗習慣もあり、カラウと同じくフージルといふ巨人の傳説もある。此のフージルは人を捕へ喰ふといふ話もある。然も之れはいつ出るか判らない、夜間家の傍らから出て、外へ出る者を捕へ喰ふといふ事である。その關係上、妙な遊戯があつて、人を脅すに假面を被ると云ふ風習がある。
 之れをフージルの假面といふ。何故に假面を被つて脅かすかといふに、フージルが人間に接近する時には、假面を被るといふ風に傳へて居るので、人を脅かすにも假面を被ると、何れが眞物のフージルであるか、見究めがつかないで、大に驚くと云ふわけである。
 フージルはカムチヤツカに根據地を置くといふのであるが、此の事もカラウと互に何等かの關係があるやうに思はれる。乃で此のカラウの研究には、北千島アイヌを其仲間に入れる價値がある。
 それから北海道アイヌの神樣は、人の形をしてゐるものよりも形を成さぬものゝ方が多い、[#読点は底本のまま]例へば水の神、山の神、海の神、太陽の神、火の神なども、自然其のものを尊信するのであるが、千島アイヌの神は、人の形を成して居る。例へば火の神は、衣裳を着けて顏は火の如くに燃えて居る。雷神のカンナンカムイの如きは、巨人であつて頭にはサバウドベを被り、衣服はアッシを着し、長い靴を穿ち、エムシユの太刀を佩いて居る。難船の時にカンナンカムイに祈ると、天上に寢て居る彼の神は此處に降り來り惡魔を一刀に殺すと云ふ。北海道アイヌの神は之と趣を異にして居る。怪物と云つても河童などの如く人の形をしたものが多い。故に千島アイヌの神の信仰、怪物の考は、之れを北海道アイヌ、古シベリア族の其れと比較して面白い點がある。
 特に注意すべきは、北海道アイヌにしても千島アイヌにしても、シヤーマンの巫人の存在せぬことである。尤もトスクルといふものがあつて、之れが即ち巫人に當るが、是等アイヌのトスクルはさほど勢力を有たない。熊祭の如きも酋長等が祭を司ることゝなつてゐる。北海道アイヌの如きは殊にさうである。尚ほ北海道アイヌの神に現はれた思想には、日本の原始神道と區別の出來ぬやうなものもある。此は北千島アイヌがカムチツヤカ[#「カムチツヤカ」は底本のまま]半島の土人と似てゐるのと同じく、吾人祖先と長く接觸して居つたがためであらう。日本古語とアイヌ語との區別も立たないものもあるし、蝦夷アイヌの古傳説の形容云ひ現はし方に日本古代の其れとよく似て居るものがある。されば其の區別については研究を要する。
 樺太のアイヌに至つてはシヤーマンの風習多く存在し、彼のトスクルの制度がなほ行はれて居る。何處の村には誰れのトスクルが居るなどゝ云つて、祈祷禁厭及び熊祭などの時、彼等によつて行ふのである。之れはギリヤーク、及びツングース族のオロツコなどの影響であるか大に比較研究を要する。
 更にアイヌの北のギリヤークでは如何であるかといふに、ギリヤークにもやはりシヤーマンが盛んであつて、巫人もある。ギリヤークの風俗習慣は殆どシヤーヤン[#「シヤーヤン」は底本のまま]で、繪畫、彫刻、模樣などシヤーマン的の處が多い。アイヌの如くに熊祭をもするが、ギリヤークでは之れが祭の一となつて居る。北海道及び千島のアイヌの宗教は、シヤーマン風の處が少ないが、ギリヤークは非常にシヤーマン的であつて、幣をも用ひ、シヤーマン教の太鼓を使用し、祈祷も盛んに行はれる、故にシヤーマンを研究する上に、ギリヤークの研究はよほど價値あるものと思はれる。

     極東シベリヤ
       ツングース、オロツコ、ゴリド

 樺太から黒龍江、烏蘇里の流域、後貝加爾州、エニセイ州等にかけて廣く分布して居るツグース[#「ツグース」は底本のまま]にもなかなかシヤーマンは盛である。例へば吾邦の樺太からロシア領樺太に居るオロツコの如きは、ツングースの一であるが、こゝにもシヤーマンが盛んである。ツングースのシヤーマンとして研究すればよほど面白い點がある。こゝには男のシヤーマン、女のシヤーマンがあつて、男の巫人をフセシヤーマンと云ひ、女の巫女をアプチイシヤーマンと呼んで居る。人間が病氣になるのは、惡靈が體内に入るからで、之れを取除けば病が癒ると云つて巫人が祈祷をすれば其の惡靈が去ると考へて居る。人間が病氣に罹るのをウヌウと云ひ、人が死んだらばアンバーとなるといふ。アンバーは夜見の國へ行つて生活するのであるが、人が死んでアンバーとなるのに、善惡の別がある。善のアンバーを「オマンガ」と云ひ、惡のアンバーを「オルキ」といふ。オルキが體内へ入ると病氣になるのであるから、之れを取り去る仕事をする。
 オロツコでは、シヤーマンが死ぬと後のものがシヤーマンを繼ぐのであるが、此の際に其の者の精神状態が一轉するのであつて、之れをオロツコ語では「シヤマンドエニ」と云ふ。シヤーマン化するといふ意味である。此の時は狂氣のやうな状態になる。彼等は飮酒を愼しみ、惡事を避けるので、之れによつてアンバーは出て行つて了ふ。惡いシヤーマンは惡いアンバーが體内から出ない祈祷する時は、木を削つて花の形を作り、イルラオ(アイヌのイナヲ[#「イナヲ」に傍点])を被り、兩腕に削り懸けを着け、革の腰卷をして腰鈴を結び、左手に太鼓、右手に鞦[#「鞦」は底本のまま]を持ち、太鼓を打つて舞踊するので、腰を伸して動かす度に鈴が音響を發する。斯くする際に體内に在る惡いアンバーが退却するといふ。シヤーマンの神として、人形又は動物の形を造る。
 尚ほ大陸に居るアムール、烏蘇里流域のゴリド其の他ツングースの風俗習慣では、シヤーマンが盛んであり、善神惡神善靈惡靈があつて、體内に惡靈が入ると病になると云ひ、男女のシヤーマンがあつて之れを除く方法を行ふ。惡靈にとり憑かれることを恐れるので之 [#「之 」は底本のまま]を取除ける爲にシヤーマンの勢が強い。病を治す祈祷のためには財産を傾けて物を出すのである。祈祷の時は、頭に今のイナヲの如き削り懸け、鈴を着け、胸に鏡をかけ、腰には幾枚もの鏡や鈴を帶んで居るため、動くたびにかち合つて光を發し響を起す。又神樂の太鼓を打ち、これらの光や音にて惡魔を追ふ手段とする。鈴、鏡を着ける風習は他にも傳はり、日本の昔に鈴、鏡などのあつたことゝ對照してみると面白い。注連繩、削り懸け、幣束等もある。家の入口には、一本の大木を立て、人形や動物の形を彫つて、惡魔除の神杆とする。要するにシヤーマンが盛んに行はれる處である。

     滿洲
       滿洲人

 次に滿洲人はどうかと云ふと、今は亡びて中華民國となつたが、滿洲人固有の宗教は、やはりシヤーマンである。彼等はツングースで長白山、烏蘇里及び黒龍江邊と同系統である。言葉も立派なツングースの言葉である。今、支那化して都會に住む滿洲人には、シヤーマンの風はないが、吉林省、黒龍江省邊の奧に居るものゝ間には、シヤーマンが殘つて居る。例へば門を入ると神杆が立つてゐて、之れに、對して祭を行ふ。清朝の皇室に於ても乾隆帝の頃まではシャーマンを信じて居つたのであつて、奉天の清寧宮にも殘つて居る。乾隆帝の御寢所にシヤーマンの神像、祈祷の太鼓及び樂器、腰鈴等が並べられてあつて、日本皇室に賢所のあるのと同じ意味である。清寧殿に入ると神杆が庭に立つて居る。
 尚ほ滿洲の太祖以前の滿洲歴代の墓は、渾河の上流興京といふ處にあるが、そこをまた永陵と云ふ。此の陵は土饅頭形の古墳で、上に幣束が一本づゝ立てられてある。春秋に祭を行ひ、こゝで祈祷するのである。
 斯樣に滿洲人中にはシヤーマンがあつて、今でも吉林、黒龍江省の山中には殘つてゐる。余は吉林省琿春の山の中にて、滿洲人のシヤーマン巫人が太鼓を叩いて祈祷をして居るのを見た事がある。尚ほ此のシヤーマンの神は、滿洲人が支那人と接觸してから、關羽の神と結びついて、奉天宮殿にはシヤーマンの神として關羽の像が祀つてある。民間でもシヤーマン信仰の懸軸などは、中央に關帝を描き、山の神とシヤーマンの神とが配してあつて、シヤーマンと道教との混化したことが判る。斯く滿洲のシヤーマンと支那の道教との融合した事實は注意すべきことで、道教と附近の民族の宗教とが接觸變化したのは面白いことであると思ふ。

     朝鮮
       朝鮮人

 ツングース及び滿洲人と、人類學上最も關係の深い朝鮮人は如何かといふに、或る人は朝鮮の宗教は儒佛二教から成り立つて居ると云ひ、或は又儒教が全く朝鮮の根本宗教であると説く人さへもあるが、之れを人類學上より觀れば、儒佛二教は彼等の眞の宗教ではない。固有の朝鮮人の宗教と云へば、これまで説き來つたシヤーマンであつて、之れこそ彼等の古い時代からの宗教である。乃で余は、此の事に就いて大體を記して見ようと思ふ。
 朝鮮には、或る時代から民衆の階級即ちケストの制が行はれ、其の中でも巫人は極く下位に置かれて居つた。併し下位に居つたにかゝはらず其の勢力はなかなか盛んで、朝鮮京城の南山には王室に對する巫人の祈祷所があり、これまで巫人が李王家の宮中に出入して一時は非常に勢力を得て、彼の閔王妃の如き聰明なる女性を以てしても尚ほ此の巫人を信仰したのである。巫人の中心地は、京城より仁川へ行く途中の鷺梁津といふ處で、そこに大なる巫人の集會所がある。歴々の人達も病氣其の他の時に病人を連れなどしてこゝにまで祈祷を請ふのである。尚ほ田舍では、各處に巫人が居つて、一朝病氣に罹つた場合には之れを迎へて祈らせ、又流行病、饑饉、洪水の際などにも、巫人を頼んで祈祷して貰ふのである。彼の朝鮮の官吏の如きは、李朝時代には表面では詩とか漢文などを能くし、孔子の教を奉じて居つても、裏面を見ると、家庭では潜かに巫人との往來があつたのである。知識階級に於て既に然りであるから、一般民衆の信仰は思ひやられる。山には山の神、川には川の神、その他到る處に神々が存在する。善神、惡神、或は善靈、惡靈等が居り、人の病氣は惡靈に憑かれる故であると説くなど一般のシヤーマンと變らない。
 されば一寸觀れば、朝鮮の宗教は儒教佛教又は道教であるが、此は表面のことで其等のものに彩色されてゐるに過ぎない、[#読点は底本のまま]その木地はシヤーマンで、東北方亞細亞民族と同じである。乃ち彼等は、シヤーマン分布區域として見るべきものである。もと彼等はシヤーマンを信じて居つたのであるが、後に儒佛道教が入つて混和融合して一種の妙なものになつて仕舞つたのである。日本の原始神道が、道教、佛教、儒教の影響を受けて後に別樣のものが出來たのと其の趣を同じくするもので、朝鮮固有の宗教研究上シヤーマンの研究は最も必要である。
 朝鮮の巫人は、咸鏡北道の吉州以北を除いた外、各道すべて女の巫子である。唯、吉州以北豆滿江までの間に男の巫子がある。
 朝鮮の女の巫人は職業的シヤーマンで、夫を有つても差支ないことになつてゐて、一村に一人か二人は必ず居る。主人は別の仕事に從事して居て、妻は巫子として他から聘せられた時は、服裝を改めて御祈祷に行くのである。咸鏡南道永興附近の話によると、巫子となるには鏡が必要であつて山林中に探し求めて之れを得た時に巫子となるといふ。此は恐らく極く古い形式の話であらう。又、巫子の職を娘に傳へることがあり、他に病氣の治つた者が巫子となることがある。巫子は大抵一組三人から成つて、一人は主たるもの二人は介添である。其の一人は太鼓を叩き、他の一人は鐃鉢を打つのである。太鼓は大概女の役で、鐃鉢は女男共にやる。これらは主たる巫子の附屬物で勢力を有つてゐない。病者のある時はこれ等三人が其の處へ行つて、祭壇を設け供物を捧げる。初めに齋主である巫子が諸神に祈念し、病人の傍で舞をまふのであつて、それが熱して來ると狂氣のやうになる。斯うして惡魔を退散させるのであつて、之れ [#「之れ 」は底本のまま]數日に亘ることがある。それがために家産を傾ける家さへある。巫子の服裝は一種別樣のもので、一方の手には、三番叟の持つやうな恰好で、下に長い薄い五色の絹布の垂れてゐる鈴を握つて、一方には扇を持つて踊るのであつて、日本の風と變らない。斯うして神を勇み立たせ、又一方では惡靈を退治するのであつて、巫子の鈴は大きな威力を有つものとされてゐる。惡靈は此の音に驚かされると云ふ。太皷も亦威靈を具へてゐる。朝鮮の巫子の太皷はいくらか音樂的であるが、シベリアなどのシヤーマンの太皷と比較すると、まさしく此の種の太皷である事が分る。以上に依ても朝鮮の巫人がシヤーマンの性質のあることが判る。病氣の時の外に、新築新造船の場合にも祈祷を行ひ、新築地の四方又は船にも注連繩をつるす。森林にも神が居ると云つて注連繩を漲る[#「漲る」は底本のまま]。此はタブーせられた形である。日本の注連繩は左綯ひであるが、朝鮮の其れも左樣である。日本の注連繩は單に今は儀式の時のみに張るが朝鮮の方では今日實際土俗としてやつて居る。
 神聖の場處に注連繩を張るのは、人の猥りに入るのを禁ずのであつて、途中で死人に逢つたもの、死人の家に行つた者、其の他身に汚れのあるもの、血を出した者等は入ることが出來ないのである。
 朝鮮では村の入口には左右に相對して恐し相な人の形を立て之れに「天下大將軍」と刻して居るものを見る。之れには一年の或時節に注連繩を掛ける。之れも惡魔除である。尚田舍の村の中で或る家の入口に、一本の竿を立てゝ其の上に鴨を彫刻した形を置いたものがある。之れも惡魔拂で、神杆の一種と見られる。黒龍江、烏蘇里のゴリド人の立て居る神杆にも之れと同じものがある。朝鮮で神杆を立てる風習は、『魏志』の馬韓傳にもある。馬韓の風俗習慣では、村に蘇塗を立てると云ふが、之は神杆の一種である。蘇塗といふ語は、滿洲語ではトワーと云ふ。即ち同一語根である。全羅道の多島海の珍島にも蘇塗を立てる風が遺つて居る。
 斯かる事實はシヤーマンに關係のあることで、之れによれば、古の朝鮮の宗教の面影が鮮かに見られるのである。朝鮮は儒教國佛教國であるといふが、やはりシヤーマンの國であると云ふことが出來る。こゝのシヤーマンは、道教の神、佛教の影響を受けて居るので、これらの衣を剥いで見なければならぬ。之れを除き去つた時、一層明らかにそれがシヤーマンであることが判る。

     沖繩諸島
       沖繩人

 朝鮮の巫女に續いて注目すべきは沖繩諸島の巫女で、彼等はノロクモイまたはノロクメの名稱を以て呼ばれ、朝鮮の巫女と等しく諸神に仕へて祈りをして居る。這は明かにシヤーマン的色彩を遺憾なく發揮して居るもので、其祭る神々、祈り、儀式等よく日本の古代宗教の遺風を存して居り、今尚ほ曲玉を頸に掛ける風俗さへもある。余は二囘に渡つて八重山、宮古島、沖繩本島、大島諸島等に於て之れを調査した事がある。日本古代の原始的神道の研究説明には是非とも之れと比較せねばならぬ。また私が 始[#「 始」は底本のまま]神道と沖繩諸島の其れとを比較するならば、併せて朝鮮の巫女及び其宗教との比較をして見ねばならぬ。否なシヤーマンとしての彼等を共に比較對照して見ねばならぬ。是等はいづれも共に西比利亞式シヤーマンの色彩を濃厚に具備するものである。

     蒙古
       蒙古人

 次に朝鮮の西、蒙古の方は如何であるかといふに、彼等蒙古人は、今日は西藏から入つた喇嘛《ラマ》教を信じて居る。蒙古は一般に佛教國と考へられて居るが、精密に調査すると決してさうではない。固有の宗教はシヤーマンである。佛教の入る前もさうであつた。現に今までもシヤーマンの風習が多く存する。占ひのこと、鏡を掛け五色の帛を垂れて惡魔を拂ふこと、幣などのあること等、佛教の中には見ない風習が行はれて居る。四方に木を立てゝ注連繩を張つて祈祷する風習もある。民間のラマを信ずる家にも此の風習が存するのである。
 蒙古人の内にも巫子の風習が遣つて[#「遣つて」は底本のまま]居つて、巫子のことをボー(Bo)といふ。朝鮮のムー(Mu)或はムータン(Mutan)と同じ發音である。巫子は鏡を一つづゝ有ち、尚ほ小さな銅で作つた人形や鳥の形したものを有つて居る。これは神體である。病氣の時には、舞踏して祈祷するので之れにも鈴を用ひ、一人は太皷を叩く。此のやり方は全くシヤーマンと少しも違はない。此のシヤーマンの信仰にそれ/″\の神があるが、それは印度の佛菩薩ではない。斯樣に蒙古人にはシヤーマンの風が遺つて居る。

     中部シベリヤ 附 露領トルキスタン
       ソロン、バラカ、ブリヤート、ヤクート、トルコ人

 蒙古の傍に住むソロンもシヤーマン信者であり、バラカと云ふ蒙古人もシヤーマンを信じて居つて、彼等も矢張シヤーマンの分布區域であることが判る。
 バイカル附近より後貝加爾州邊に住むブリヤート人は如何かといふに、喇嘛教ではあるがシヤーマンの分子を含んで居る。
 ヤクート州には土耳古民族のヤクート人が住んで居るが、此のヤクート人は如何かといふと、シヤーマンが盛んである。一般にシベリアからロシア・トルキスタンに居る土耳古民族は囘々教であるが、西比利亞に居るトルコ民族のヤクート人は尚ほ固有のシヤーマンが盛んであつて、殊にヤクート人のシヤーマンは大に注意すべきもので、儀式 [#「儀式 」は底本のまま]複雜である。彼等の間には、彼のコリヤークに於けると同じく宇宙が三段に見られて居る。即ち天國、中つ國、根の國即ち夜見國の三段である。最上の天には、最高位の善神が住み、中つ國には、人間獸類草木等生きとし生ける蒼人草が住み、地下の世界即ち夜見の國には、中つ國の人間が一たび死ねば行くと云ふ。夜見の國は穢土であつて、此の考は日本の吾々の祖先と少しも變らず、コリヤークとも違はない。シヤーマンの勢力が盛んであつて、吉凶共に皆シヤーマンの勢力の下にある。
 斯樣に考へると、亞細亞の東北方、西比利亞全體、滿洲、朝鮮、露領トルキスタン方面に掛けて行はれて居る宗教はシヤーマンである。斯くの如く、シヤーマンが廣く分布して居る上から我が日本の原始神道を觀れば、之れとよほどよく似た點がある。今、輕々しく結論は與へないが、日本の神道即ち吾等祖先の固有の宗教中には此のシヤーマンの分子が可なり多い。高天原、中つ國、夜見の國等シヤーマンの哲學的考察、神に奉仕する巫子のあること、政治宗教の接着してゐること其の他、種々の儀式も非常に兩者相似て居る。鏡、鈴等もさうであるし、鈿女命などの動作、神社に仕へる巫覡が古く女の巫人であること等、シヤーマン的色彩を帶びて居る。故に日本の神道研究には、東北方亞細亞のシヤーマニズムを度外視することは出來ない。朝鮮と日本との關係あることを考へるについて、兩者がシヤーマンにて結ばれてゐることをも考への内に入れるべきである。
(つづく)



※ 鼓と皷、献と獻、連と聯、タイアルとタイヤル、パイワンとパイアン、マリヨーとマレヨー、マオリーとマウリー、秘と祕の混用は底本のとおり。
底本:『日本周圍民族の原始宗教』岡書院
   1924(大正13)年9月20日發行
   1924(大正13)年12月1日三版發行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
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*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • アジア大陸 Asia・亜細亜。六大州の一つ。東半球の北東部を占め、ヨーロッパ州と共にユーラシアを成す。面積は約4400万平方km、世界陸地の約3分の1。人口は約34億6000万(1995)で、世界人口の2分の1以上。東は日本、北はシベリア、南はインドネシア、西はトルコ・アラビアにわたる地域。
  • [ロシア]
  • シベリア Siberia・西比利亜 アジア北部、ウラル山脈からベーリング海にわたる広大な地域。ロシア連邦の一地方でシベリア連邦管区を構成。西シベリア平原・中央シベリア高原・東シベリアに三分される。面積約1000万平方km。十月革命までは極東も含めてシベリアと称した。ロシア語名シビーリ。
  • コリヤーク Koryak シベリア東端のオホーツク海岸からベーリング海、カムチャツカ半島にかけて住む少数民族。言語は古アジア諸語に属する。海岸部では海獣猟と漁労、内陸ツンドラ地帯ではトナカイの飼育を行う。
  • カムチャツカ半島 カムチャツカ はんとう (Kamchatka) ロシア東端の太平洋に突出した半島。東はベーリング海、西はオホーツク海に面し、千島海峡を隔てて千島列島のシュムシュ島と対する。28の活火山を含む160以上の火山がある。長さ約1200km。最高地点はクリュチェフスキー火山(標高4750m)。
  • [アメリカ]
  • アラスカ Alaska 北アメリカ大陸北西部にあるアメリカ合衆国の州。アリューシャン列島を包含し、ベーリング海峡を隔ててロシアのチュコト半島と対する。面積151万平方km。州都ジュノー。1867年ロシアから買収。石油・金などの地下資源、木材、水産資源に恵まれる。北アメリカの最高峰マッキンリー山がある。
  • ベーリング
  • ベーリング海峡 ベーリング かいきょう アラスカとシベリア東端のチュクチ半島との間の海峡。北極海とベーリング海を連結する。長さ96km。最狭部約86km。7〜10月以外は結氷。中央部を日付変更線と米ロ両国の国境線が南北に通る。
  • ベーリング島
  • アラスカ海岸
  • ハイダ島
  • [モンゴル] Mongol 中国の北辺にあって、シベリアの南、新疆の東に位置する高原地帯。また、その地に住む民族。13世紀にジンギス汗が出て大帝国を建設し、その孫フビライは中国を平定して国号を元と称し、日本にも出兵した(元寇)。1368年、明に滅ぼされ、その後は中国の勢力下に入る。ゴビ砂漠以北のいわゆる外モンゴルには清末にロシアが進出し、1924年独立してモンゴル人民共和国が成立、92年モンゴル国と改称。内モンゴルは中華人民共和国成立により内モンゴル自治区となり、西モンゴルは甘粛・新疆の一部をなす。蒙古。
  • [満州]
  • 長白山 (Changbai Shan) 中国東北部と朝鮮との境にそびえる火山。松花江・豆満江と鴨緑江との中間にある長白山脈の主峰。山頂のカルデラ湖を天池という。標高2744m。朝鮮では白頭山(ペクトサン)と呼ぶ。
  • ウスリー Ussuri ロシア・烏蘇里 中国黒竜江省とロシア沿海州との境をなす川。興凱湖(ハンカ湖)に発源、ハバロフスク付近で黒竜江に注ぐ。長さ890km。
  • アムール Amur 黒竜江のロシア語名。
  • 黒竜江 こくりゅうこう (Heilong Jiang) 中国東北地区の北境、シベリアの南東部を東流して、間宮海峡に注ぐ大河。南は内モンゴルのアルグン河、北はモンゴルのオノン河を源流とし、松花江・ウスリー江を合わせ、長さ6237km。別称アムール川。
  • 吉林省 きつりんしょう (Jilin) 中国東北地方中部の省。省都は長春。面積約19万平方km。漢族のほか、朝鮮族・満州族・回族・モンゴル族などが住む。
  • 黒龍江省 こくりゅうこうしょう 中国東北部最北の省。面積約45万平方km。省都は哈爾浜(ハルビン)。肥沃な松※(第4水準2-5-78)平原・三江平原をもつ。略称、黒。
  • 渾河 こんが ホゥェンホォ。中国、北東地区南部、遼寧省東部の川。省東端の山地に源を発し、南西流して営口の北側で遼東湾に注ぐ。長さ318km。遼河とともに東北平原南部の遼河平原を形成し、流域に撫順、瀋陽などの都市がある。(外国地名コン)
  • 興京 こうけい 中国遼寧省北東部の地名。清朝の発祥地。満州語名、赫図阿拉(ホトアラ)。清の太祖がこの付近に都し、太宗の8年(1634)に興京と改称。
  • 永陵 えいりょう? 興京の別称か。
  • 琿春 こんしゅん ホゥェンチゥェン。中国、東北地区中部、吉林省東部の県。図們の東50km。琿春河中流右岸に位置。北朝鮮・ロシアと接する交通・貿易の要地。1895年の下関条約で通商地として開市された。住民の70%は朝鮮族。(外国地名コン)
  • 奉天 ほうてん 中国遼寧省の瀋陽の旧名。
  • 瀋陽 しんよう (Shenyang) 中国遼寧省の省都。清朝の国都として盛京と改称し、北京遷都後は陪都として奉天と称した。清の東陵・北陵が残る。周辺の撫順・本渓・鞍山を含めた地域は重要な鉱工業地帯。人口530万(2000)。
  • 奉天宮殿
  • [朝鮮]
  • 馬韓 ばかん 古代朝鮮の三韓の一つ。五十余の部族国家から成り、朝鮮半島南西部(今の全羅・忠清二道および京畿道の一部)を占めた。4世紀半ば、その一国伯済国を中核とした百済によって統一。
  • 全羅道 ぜんらどう
  • 済州島 さいしゅうとう/チェジュド (Cheju-do) 朝鮮半島の南西海上にある大火山島。面積1840平方km。古くは耽羅国が成立していたが、高麗により併合。1948年、南朝鮮単独選挙に反対する武装蜂起(四‐三蜂起)の舞台となる。付近海域はアジ・サバの好漁場。観光地として有名。周辺の島嶼と共に済州道をなす。
  • 多島海
  • 珍島 チンド/ちんとう 韓国南部、全羅南道南西部にある島。花源半島の南、鳴港海峡を隔てた対岸に位置。面積447km2。最高峰は尖察山485m。島の北東部および南西部は山地で、北西・南東部に平野がひらける。気候は温和で、綿花・麦・米などが栽培される。牧牛がおこなわれる。漁業はグチ・エビ・タイ漁。(外国地名コン)
  • 慶尚道 けいしょうどう 高麗、李氏朝鮮のころ、朝鮮半島の南東部に置かれた道。北西部に大白山脈が、西境に小白山脈が走り、洛東江が貫流する。古代の辰韓の地で、慶州には新羅の首都が置かれていた。韓国併合後に南北二つの道に分けられた。
  • 江原道 こうげんどう/カンウォンド (Kangwon-do) 朝鮮半島中部、日本海に臨む道。中央を北西から南東に太白山脈が走る。林産・鉱産資源に富む。軍事境界線によって南北に分けられ、北側の道庁所在地は元山(ウォンサン)、南側は春川(チュンチョン)。
  • 鬱陵島 うつりょうとう/ウルルンド (Ullung-do) 朝鮮半島の東岸から東方約140kmにある火山島。慶尚北道に属する。漁業の根拠地。日本では時代により磯竹島・竹島・松島など異なった名称で呼んだ。
  • 京城 けいじょう 日本支配期のソウルの称。李朝時代の王都漢城を、1910年(明治43)の韓国併合により改称。朝鮮総督府が置かれた。
  • 南山 なんざん? 京城(ソウル)。
  • 仁川 インチョン (Inchon) 韓国北西部の港湾都市。京畿道に含まれていたが、1995年広域市に指定。ソウルの西30kmにあり、その外港として京仁工業地帯を成す。1883年開港。朝鮮戦争中の1950年9月15日、アメリカ軍の上陸作戦が行われた。人口261万5千(2003)。
  • 鷺梁津 ノリャンジン 京城より仁川へ行く途中。(本文)
  • [北朝鮮]
  • 咸鏡北道 かんきょう ほくどう/ハムギョン‐プクト (Hamgyong-puk-to)朝鮮民主主義人民共和国北東部、日本海に臨む道。大部分が山岳地帯で、豆満江を隔てて中国・ロシアと接する。
  • 吉州 きっしゅう (1) 朝鮮半島北東部、咸鏡北道の南部にある郡。(2) (1) にある都市。製紙、人絹糸製造の工業がおこなわれる。
  • 豆満江 とまんこう/トゥマン‐ガン (Tuman-gang) 朝鮮半島の大河。白頭山に発源、中国東北部およびロシアの沿海州(プリモルスキー)地方との国境をなし、日本海に注ぐ。長さ521km。中国名、図們江。
  • 咸鏡南道 かんきょう‐なんどう/ハムギョン‐ナムド (Hamgyong-nam-do) 朝鮮民主主義人民共和国北東部、日本海に臨む道。中央部に平野が広がり、咸興(ハムフン)などの工業都市がある。
  • 咸興 かんこう/ハムフン (Hamhung) 朝鮮民主主義人民共和国咸鏡南道の道都。直轄市。咸興湾に臨み、咸興平野を控えた農産物の集散地。李朝発祥の地。化学工業が発達。人口71万(1993)。
  • 永興 えいこう 永興郡。朝鮮民主主義人民共和国咸鏡南道金野郡の旧名。永興湾に名を残す。(Wikipedia)
  • [台湾]
  • 卑南 ひなん 卑南郷は、台湾台東県に位置する郷。
  • [中国]
  • シナ
  • 中華民国 ちゅうか みんこく 辛亥革命の結果清朝が倒れた後、1912年中国最初の共和制政体として成立した国。初代大総統袁世凱。28年中国国民党が国民政府を樹立、全国を統一したが、第二次大戦後共産党との内戦に敗れ、49年本土を離れて台湾に移った。
  • 奉天 ほうてん 中国遼寧省の瀋陽の旧名。
  • 瀋陽 しんよう (Shenyang) 中国遼寧省の省都。清朝の国都として盛京と改称し、北京遷都後は陪都として奉天と称した。清の東陵・北陵が残る。周辺の撫順・本渓・鞍山を含めた地域は重要な鉱工業地帯。人口530万(2000)。
  • 清寧宮 せいねいきゅう?
  • チベット Tibet・西蔵 中国四川省の西、インドの北、パミール高原の東に位置する高原地帯。7世紀には吐蕃が建国、18世紀以来、中国の宗主権下にあったが、20世紀に入りイギリスの実力による支配を受け、その保護下のダライ=ラマ自治国の観を呈した。第二次大戦後中華人民共和国が掌握、1965年チベット自治区となる。住民の約90%はチベット族で、チベット語を用い、チベット仏教を信仰する。平均標高約4000mで、東部・南部の谷間では麦などの栽培、羊・ヤクなどの牧畜が行われる。面積約123万平方km。人口263万(2005)。区都ラサ(拉薩)。
  • 中部シベリア
  • トルキスタン Turkestan アジア中央部、パミール高原および天山山脈を中心としてその東西にわたる地方。西部の西トルキスタンはカザフスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギスの5共和国から成り、東部の東トルキスタンは中国の新疆ウイグル自治区に属す。
  • ソロン ソロン語。広義のツングース語の一つ。中国内モンゴル自治区北東部や黒龍江省などに分布するソロン族固有の言語。
  • バラカ
  • ブリヤート Buryat (1) ロシア中部の自治共和国。南シベリア、バイカル湖の東方から西方に位置する。13世紀ごろからモンゴル系のブリヤート人が居住、17世紀末にロシアに併合された。工・鉱業、牧畜が盛ん。中心都市ウランウデ。(2) バイカル湖周辺からモンゴル北部、中国東北地区に住む蒙古族の一つ。ブリヤート族。
  • ヤクート Yakut 東シベリアに住む民族。ヤクート人。自称サハ。ヤクート語はチュルク語の一つ。/東部シベリアを代表する民族で、自称ではサハ(Sakha)という。ヤクートというのはツングース諸語のかれらに対する呼称であったイェコ(Yeko)という呼び名に由来するといわれる。人口は約32万8000人(1979年)、主としてヤクート自治共和国内に居住している。言語はアルタイ語派チュルク語群に属するが、文法的にも語彙的にもモンゴル語やツングース語などの要素が多分に含まれているといわれる。ヤクートの祖先はかつてバイカル湖の周辺にいたチュルク系の遊牧民であるといわれ、時代はまだ特定されていないが、17世紀にロシア人らと接触するまでに現在のヤクーチャ(レナ川中流域)に移住し、その地の原住民たちと融合したと考えられている。(文化)
  • サハ Sakha (1) ヤクート人の自称。
  • トルコ人 → トルコ族
  • トルコ族 トルコぞく アルタイル語族の主要な一民族。トルコ共和国に住むものを狭義にトルコといい、その他をテュルクと区別する場合もある。かつては遊牧・狩猟民としておもに内陸アジアを舞台に活躍した。人種的には元来、モンゴロイド型であったが、現在東北アジアからヨーロッパにかけて広く分布し、他民族との混血・同化がいちじるしく地域差が大きい。トルコ族は、前3世紀末から丁零の名で中国人に知られ、バイカル湖の南辺からアルタイ山脈の北方にかけて居住した。後5世紀に高車と呼ばれたものはその後身で、486年ごろに独立してジュンガリアの地に高車国を建てた。6世紀この民族は、中国史料で鉄勒 Turk と総称され、バイカル湖の南からカスピ海地域まで広まっていた。その中からアルタイ山麓に突厥が興り、北アジアに遊牧帝国を建設した。(東洋史)
  • トルコ Turco ポルトガル・土耳古 小アジア半島と、バルカン半島の南東端とにまたがる共和国。オスマン帝国の中心として栄えたが、第一次大戦に敗北後、ケマル=パシャの指導する民族運動が興って帝政を廃し、イギリス・ギリシア・フランスなどの侵入軍を撃破、1923年共和制を宣言し、ローザンヌ条約で現国土を確保。国民はイスラムを信奉。面積77万5000平方km、人口7115万(2004)。首都アンカラ。
  • バイカル → バイカル湖か
  • バイカル湖 バイカルこ (Baikal) ロシア、シベリア南東部にある南北に細長い大淡水湖。長さ636km、水面標高456m、面積3万1500平方km。世界一深い湖で、最大深度1620m。透明度は40mを超え、世界一級。断層で生じた地溝湖。12月〜5月は氷結。世界遺産。
  • 後貝加爾州
  • ヤクート州
  • ロシア・トルキスタン 西トルキスタン(カザフスタン・キルギス・タジキスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタンの五か国)か。
  • 西トルキスタン
  • エニセイ州
  • エニセイ川 Yenisei ロシア、シベリア中部の大河。モンゴル北端サヤン山脈に源を発し、北流してアンガラ川を合わせ、北極海エニセイ湾に注ぐ。冬季には全面結氷。サヤン・クラスノヤルスクなどの発電所がある。長さ4102km。
  • インド・ヨーロッパ語族 インド‐ヨーロッパ ごぞく (Indo-European) 東はインド北部から西は大西洋沿岸に到り、北はスカンディナヴィアから南は地中海に及ぶ広い範囲で用いられている諸語の総称。先史時代において一つの共通原語(印欧祖語)から派生したものと考えられる。インド‐アーリア語派・イラン語派・ギリシア語派・イタリック語派・ケルト語派・ゲルマン語派・スラヴ語派・バルト語派・アルメニア語派・アルバニア語派・トカラ語派・アナトリア語派に分かれる。印欧語族。
  • セミチック Semitic セミティック。(1) セム族に関するさま。 → セム族 (2) セム語族。(カタカナコン)
  • セム族 Semitic races 西アジア、アラビア、北アフリカに分布。セム語を用いる民族の総称。アラビア人、エチオピア人、ユダヤ人など。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教を生み、発音記号を発明した。セミティックとも。(カタカナコン)
  • ハミチック ハム語族か → ハム=セム語族
  • ハム=セム語族 Hamito-Semitic family ハム諸言語とセム諸言語を一括した呼称。ハム語はアラビア、シリア、エジプト、アフリカ北東部から北部におこなわれた古代エジプト語・リビア語・クシ諸語などで、現在ではほとんど死語。セム諸語は北アフリカから西南アジアにかけた地域でおこなわれているヘブライ語・アラビア語・エチオピア語などで、古代フェニキア語も含まれる。他にチャド諸語、ベルベル諸語。文化史上も重要な諸語の一つ。単にハム諸語とも。★印欧語族に次いで系統のはっきりした語族といわれている。(カタカナコン)
  • 千島 ちしま (→)千島列島に同じ。
  • 千島列島 ちしま れっとう 北海道本島東端からカムチャツカ半島の南端に達する弧状の列島。国後・択捉(以上南千島)、得撫・新知・計吐夷・羅処和・松輪・捨子古丹・温祢古丹(以上中千島)、幌筵・占守・阿頼度(以上北千島)など。第二次大戦後ロシア(旧ソ連)の管理下にある。クリル列島。
  • 北千島 きたちしま 幌筵・占守・阿頼度。
  • 北海道 ほっかいどう 日本の最北端、宗谷海峡を隔ててサハリン(樺太)に対する一大島、北海道本島とその属島の総称。渡島・後志・胆振・石狩・天塩・日高・十勝・釧路・根室・北見の旧10国を含む。近海は世界的漁場の一つ。古く蝦夷と称し、または北州・十州島ともいった地で、先住民はアイヌ。本州からの移住はほぼ室町時代以降で、江戸時代には松前藩の領有地であった。18世紀末からロシア・イギリス人などが来航、1869年(明治2)開拓使をおき、北海道と改称。このとき設置された千島国を含めると11国になる。86年内閣直属の北海道庁を置き、1947年地方自治法で府県と同格の地方自治体となる。道庁所在地は札幌。面積8万3455平方km。人口562万8千。全35市。
  • カラフト 樺太 サハリンの日本語名。唐太。
  • サハリン Sakhalin 東はオホーツク海、西は間宮(タタール)海峡の間にある細長い島。1875年(明治8)ロシアと協約して日露両国人雑居の本島をロシア領北千島と交換、1905年ポーツマス条約により北緯50度以南は日本領土となり、第二次大戦後、ソ連領に編入。現ロシア連邦サハリン州の主島。北部に油田がある。面積7万6000平方km。樺太。サガレン。
  • 出雲
  • 九州
  • 沖縄諸島 おきなわ しょとう 沖縄本島およびその周辺と西方とに散在する島嶼群。
  • 八重山 やえやま 八重山諸島。沖縄県南西部、先島諸島西部の諸島。石垣・西表の2島のほか、幾つかの小島を含む。八重山列島。
  • 宮古島 みやこじま 沖縄県、宮古諸島の主島。面積159平方km。サトウキビ・宮古上布を産する。
  • 沖縄本島 おきなわ ほんとう 琉球諸島北東部にある最大の島。北東から南西にのびる狭長な形をなす。南西部の那覇市が中心都市。太平洋戦争末期の激戦地。面積1185平方km。おきなわじま。
  • 大島諸島 → 奄美諸島か
  • 奄美諸島 あまみ しょとう 鹿児島県、大隅諸島・吐※(第3水準1-15-20)喇列島とともに薩南諸島の一部をなす諸島。大島を主島とする。海岸には隆起珊瑚礁があり、サトウキビを栽培。奄美群島。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。『コンサイス外国地名事典』第三版(三省堂、1998.4)『縮刷版 文化人類学事典』(弘文堂、1994.3)『新編東洋史辞典』(東京創元社、1980)『コンサイス・カタカナ語辞典 第四版』(三省堂編修所、2010.2)




*年表

  • 李朝時代 りちょう じだい 1392-1910 朝鮮の最後の王朝。1392年李成桂が高麗に代わって建て、対外的には朝鮮国と称す。1897年に国号を大韓帝国と改め、1910年(明治43)日本に併合されて、27代519年で滅んだ。国教は朱子学(儒学)。都は漢城(現ソウル)。朝鮮王朝。李氏朝鮮。
  • 清 しん 1616-1912 中国の王朝の一つ。女直族のヌルハチが、1616年帝位(太祖)について国号を後金と称し、瀋陽に都した。その子太宗は36年国号を清と改め、孫の世祖の時に中国に入って北京を都とした。康熙・雍正・乾隆3帝の頃全盛。辛亥革命によって12世で滅亡。
  • 乾隆帝 けんりゅうてい 在位1735-1795 清朝第6代の皇帝高宗の称。諱(いみな)は弘暦。世宗(雍正帝)の第4子。大いに学術を奨励し、天下の碩学を招いて「大清一統志」「明史」「四庫全書」を編纂させ、また、天山南北路・四川・安南・ビルマなどを討ち、十大武功ありとして自ら「十全老人」と称。(1711〜1799)


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。



*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
  • 素戔嗚尊・須佐之男命 すさのおのみこと 日本神話で、伊弉諾尊の子。天照大神の弟。凶暴で、天の岩屋戸の事件を起こした結果、高天原から追放され、出雲国で八岐大蛇を斬って天叢雲剣を得、天照大神に献じた。また新羅に渡って、船材の樹木を持ち帰り、植林の道を教えたという。
  • 鈿女命 うずめのみこと → 天鈿女命
  • 天鈿女命 あまのうずめのみこと 天鈿女命・天宇受売命。日本神話で、天岩屋戸の前で踊って天照大神を慰め、また、天孫降臨に随従して天の八衢にいた猿田彦神を和らげて道案内させたという女神。鈿女命。猿女君の祖とする。
  • 孔子 こうし 前551-前479 (呉音はクジ) 中国、春秋時代の学者・思想家。儒家の祖。名は丘。字は仲尼。魯の昌平郷陬邑(山東省曲阜)に出生。文王・武王・周公らを尊崇し、礼を理想の秩序、仁を理想の道徳とし、孝悌と忠恕とを以て理想を達成する根底とした。魯に仕えたが容れられず、諸国を歴遊して治国の道を説くこと十余年、用いられず、時世の非なるを見て教育と著述とに専念。その面目は言行録「論語」に窺われる。後世、文宣王・至聖文宣王と諡され、また至聖先師と呼ばれる。
  • 関羽 かんう ?-219 三国の蜀漢の武将。字は雲長。諡は忠義侯。山西解の人。劉備・張飛と義兄弟の約を結ぶ。容貌魁偉、美髯を有し、義勇をもってあらわれ、劉備を助けて功があり、のち魏・呉両軍に攻められ呉の馬忠に殺された。後世軍神・財神として各地に廟(関帝廟)を建てて祀った。
  • 関帝 かんてい 明代以降、帝号を得たことによる関羽の敬称。
  • ヌルハチ 奴児哈赤・弩爾哈斉 1559-1626 清の太祖。姓は愛新覚羅。中国東北部、建州女直の1首長から起こり、女直諸部を征服して汗位につき、国号を後金と称。サルフの戦に明軍を破り、遼東、さらに遼西に進出、寧遠城の攻撃で傷ついて死亡。(在位1616〜1626)
  • 乾隆帝 けんりゅうてい 1711-1799 清朝第6代の皇帝高宗の称。諱は弘暦。世宗(雍正帝)の第4子。大いに学術を奨励し、天下の碩学を招いて「大清一統志」「明史」「四庫全書」を編纂させ、また、天山南北路・四川・安南・ビルマなどを討ち、十大武功ありとして自ら「十全老人」と称。(在位1735〜1795)
  • 李王家 りおうけ 李氏朝鮮の王家。1910年(明治43)韓国併合の際、韓国皇帝を李王、前皇帝を李太王として設立、日本の皇族の礼遇をなした。
  • 閔王妃 → 閔妃か
  • 閔妃 びんひ 1851-1895 (Min-bi) 李氏朝鮮26代の国王高宗の妃。閔致禄の娘。大院君を斥け、閔氏一族による政権を立て、守旧的な政治を行なった。日清戦争の後、ロシアと結び日本排斥を図っていると見なされ、日本公使三浦梧楼の陰謀により1895年10月8日、日本守備隊および日本人壮士に惨殺された。ミン‐ピ。
  • 荒井さが子
  • シュレンク Shrenk, Leopold Ivanovich 1830-1894 シレンク。ロシアの動物学者。東部シベリアを旅行し(1853-57)、とくに黒龍江流域の民族学的、地理学的研究に貢献した。(岩波西洋人名)
  • ミルトン John Milton 1608-1674 イギリスの詩人。清教徒革命に参加、自由と民主制のために戦い、クロムウェルの共和政府にも関与。失明し、王政復古後は詩作に没頭。叙事詩「失楽園」「復楽園」、悲劇「闘士サムソン」の他に、言論の自由を論じた「アレオパジティカ」など多くの政治評論がある。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『岩波西洋人名辞典増補版』。



*書籍

(書名、雑誌名、論文名、映画・能・狂言・謡曲などの作品名)
  • 『記』き → 古事記
  • 『古事記』 こじき 現存する日本最古の歴史書。3巻。稗田阿礼が天武天皇の勅により誦習した帝紀および先代の旧辞を、太安万侶が元明天皇の勅により撰録して712年(和銅5)献上。上巻は天地開闢から鵜葺草葺不合命まで、中巻は神武天皇から応神天皇まで、下巻は仁徳天皇から推古天皇までの記事を収め、神話・伝説と多数の歌謡とを含みながら、天皇を中心とする日本の統一の由来を物語る。ふることぶみ。
  • 『紀』き → 日本書紀
  • 『日本書紀』 にほん しょき 六国史の一つ。奈良時代に完成した日本最古の勅撰の正史。神代から持統天皇までの朝廷に伝わった神話・伝説・記録などを修飾の多い漢文で記述した編年体の史書。30巻。720年(養老4)舎人親王らの撰。日本紀。
  • 『有史以前の日本』 鳥居龍蔵の著。1918年刊。
  • 『失楽園』 しつらくえん (Paradise Lost) ミルトンの12巻1万行余りの叙事詩。1667年刊。アダムとイヴの楽園追放の説話を礎にして、清教徒的世界観を展開しながら神とサタンとの闘争を描く。「楽園喪失」とも訳す。「復楽園」はその続編。
  • 『魏志』 ぎし 中国の魏の史書。晋の陳寿撰。「三国志」の中の魏書の通称。本紀4巻、列伝26巻。
  • 「馬韓伝」


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。



*難字、求めよ

  • 巫・覡 かんなぎ (古くはカムナキ。神なぎの意) 神に仕え、神楽を奏して神慮をなだめ、また、神意を伺い、神おろしを行いなどする人。男を「おかんなぎ(覡)」、女を「めかんなぎ(巫)」という。かみなぎ。こうなぎ。
  • 祈祷 きとう 神仏にいのること。呪文をも含めてすべての儀礼の要素中、言語の形をとるもの。原始的には、対象や内容について別に限定なく、宗教的経験が自然に発露する独白のようなもの。
  • シャーマン shaman → シャマン
  • シャマン shaman 自らをトランス状態(忘我・恍惚)に導き、神・精霊・死者の霊などと直接に交渉し、その力を借りて託宣・予言・治病などを行う宗教的職能者。シベリアのツングース系諸族の例が早くから注目された。シャーマン。
  • プロフェッショナル・シャーマン
  • ファミリー・シャーマン
  • パイワン 排湾族。台湾南部に住むインドネシア語系に属する原住民である高砂族の一種族。広義にパイワン族と呼ばれるものには、北部より山地のルカイ族と北東部より平地のプユマ族とが含まれ、南部山地に分布するのが狭義のパイワン本族で、その北西部を除けば自らパイワンと称する。(Wikipedia)/Paiwan 南部山地を占拠していた台湾原住民の一集団。オーストロネシア語族ヘスペロネシア語派に属する。伝統的に村は大きな集村で、平均50戸余り、中には100戸を越える村もあった。現在はほとんどの村が山麓近くの平地に移住したが、そこでも大きな集村をつくっている。(文化、p.582a)
  • タマリ社
  • 刀自 とじ (トヌシ(戸主)の約。「刀自」は万葉仮名) (1) 家事をつかさどる女性。とうじ。(2) 主に年輩の女性を敬意を添えて呼ぶ語。名前の下に付けても用いる。
  • 巫人
  • 鏡 かがみ (1) 滑らかな平面における光の反射を利用して容姿や物の像などをうつし見る道具。中国から渡来。古くは金属、特に銅合金を磨いたり錫を塗ったり、または錫めっきを施したりした。円形・方形・花形・稜形などに作り、室町時代から柄をつけるようになった。今日では、硝酸銀水溶液をガラス面に注ぎ、苛性ソーダなどによってコロイド状の銀をガラス面に沈着させ、その上に樹脂などの保護膜を塗る。鏡は古来、呪術的なものとして重視され、祭器や権威の象徴・財宝とされた。
  • 原始神道 → 古神道
  • 古神道 こしんとう 仏教・儒教・道教など外来宗教の強い影響を受ける以前の神祇信仰の称。記紀・万葉集・風土記などにうかがわれる。
  • 『記』『紀』 きき 古事記と日本書紀とを併せた略称。
  • 吾人 ごじん (1) われ。わたくし。(2) われわれ。われら。
  • 土俗学 どぞくがく 民俗学と民族学が分化する以前の称。
  • 文化史 ぶんかし 科学・芸術・文学・教育・衣食住・風俗・宗教・交通などを文化の要素として、人類の文化的活動の変遷を記した歴史。政治史・経済史などと対置。
  • シャーマニズム shamanism → シャマニズム
  • シャマニズム shamanism シャマンを媒介とした霊的存在との交渉を中心とする宗教様式。極北・シベリア・中央アジア、北米の先住民に一般的で、類似の現象は南アジア・東南アジア・オセアニアなどにも見られる。中国・朝鮮・日本では巫術・巫俗等の名で知られる。シャーマニズム。
  • 南蛮 なんばん (南方の野蛮人の意) (1) 古く中国で、インドシナをはじめとする南海の諸国の称。
  • 植物尊拝
  • アニト anito 精霊。(文化、p.618a)
  • 巫覡 ふげき (ブゲキとも) 神と人との感応を媒介する者。神に仕えて人の吉凶を予言する者。女を巫、男を覡という。
  • 原始的道教
  • 道教 どうきょう 中国漢民族の伝統宗教。黄帝・老子を教祖と仰ぐ。古来の巫術や老荘道家の流れを汲み、これに陰陽五行説や神仙思想などを加味して、不老長生の術を求め、符呪・祈祷などを行う。後漢末の五斗米道(天師道)に始まり、北魏の寇謙之によって改革され、仏教の教理をとり入れて次第に成長。唐代には宮廷の特別の保護をうけて全盛。金代には王重陽が全真教を始めて旧教を改革、旧来の道教は正一教として江南で行われた。民間宗教として現在まで広く行われる。
  • 霊魂 みたま 御霊。(ミは敬意を表す接頭語) (1) 神の霊。神霊。(2) 死者の霊の尊称。(3) おかげ。みかげ。恩恵。
  • 神楽 かぐら (「かむくら(神座)」の転) (1) 皇居および皇室との関連が深い神社で神をまつるために奏する歌舞。伴奏楽器は笏拍子・篳篥・神楽笛・和琴の4種。毎年12月に賢所で行われるものが代表的。(2) と区別する場合は御神楽という。神遊。(2) 民間の神社の祭儀で奏する歌舞。(1) と区別する場合は里神楽という。全国各地に様々な系統がある。
  • 舞 まい (1) 舞踊を舞と踊とに分けた時の一方。舞は元来「まふ」こと、すなわち旋回動作で、歌や音楽に合わせて、すり足などで舞台を回ることを基礎とし、踊は跳躍に基づく動作で、リズムに乗った手足の動作を主とする。一般には、神楽・舞楽・白拍子・延年・曲舞・幸若舞・能楽・地唄舞などの舞踊を舞という。(2) 能や狂言などで、謡がなく、囃子だけで行う舞踊部分の呼称。舞事。(3) 幸若舞の別称。
  • 祭典 さいてん 祭りの儀式。祭礼。また単に、祭り。盛大な行事。
  • 高天原 たかまがはら/たかまのはら (1) 日本神話で、天つ神がいたという天上の国。天照大神が支配。「根の国」や「葦原の中つ国」に対していう。たかまがはら。(2) 大空。
  • 中つ国 なかつくに 中央にある国。葦原中国。
  • 葦原中国 あしはらの なかつくに 葦原の中つ国。(「中つ国」は、天上の高天原と地下の黄泉の国との中間にある、地上の世界の意)(→)「葦原の国」に同じ。
  • 葦原の国 あしはらのくに 記紀神話などに見える、日本国の称。
  • 底つ国 そこつくに 底の国。地の底の国。ねのくに。よみ。
  • 夜見の国 よみのくに 黄泉。(ヤミ(闇)の転か。ヤマ(山)の転ともいう) 死後、魂が行くという所。死者が住むと信じられた国。よみのくに。よもつくに。よみじ。こうせん。冥土。九泉。
  • 手向け たむけ (1) たむけること。神仏や死者の霊に物を供えること。(2) 旅のはなむけ。餞別。(3) (そこで道祖神にたむけをするからいう) 越えて行く坂道の上。峠。
  • 神の社 かみのやしろ → 神社
  • 神社 じんじゃ 神道の神を祀るところ。一般には神殿と付属の施設から成る。やしろ。おみや。もり。
  • 注連縄 しめなわ 標縄・注連縄・七五三縄。(シメは占めるの意) 神前または神事の場に不浄なものの侵入を禁ずる印として張る縄。一般には、新年に門戸に、また、神棚に張る。左捻りを定式とし、三筋・五筋・七筋と、順次に藁の茎を捻り放して垂れ、その間々に紙垂を下げる。輪じめ(輪飾り)は、これを結んだ形である。しめ。章断。
  • 幣束 ぬさ/へいそく (1) 神に捧げる物。にきて。ぬさ。(2) 裂いた麻や畳んで切った紙を、細長い木に挟んで垂らしたもの。御幣。 
  • 人類学 じんるいがく (anthropology) 人類の形質・文化・社会の多様性と普遍性とを、さまざまな側面から総合的・実証的に明らかにする学問。生物学的側面の研究を主とする自然人類学と文化や社会生活面から接近する文化人類学・社会人類学とに大きく分ける。
  • 神社 じんじゃ 神道の神を祀るところ。一般には神殿と付属の施設から成る。やしろ。おみや。もり。
  • 原史時代 げんし じだい 先史時代と有史時代の中間に位置づけられる、文献的史料の断片的に存在する時代。日本では弥生中期頃から古墳時代に当たる。
  • 古墳 こふん 高く土盛りした古代の墳墓。日本では3〜7世紀に当時の豪族ら有力者が盛んに造営した。その形状により円墳・方墳・前方後円墳・前方後方墳・上円下方墳などがある。高塚。
  • 聚洛 じゅらく 人の集まった都。すなわち、京都。
  • 未来の夜見の国
  • 殉死 じゅんし 主君が死んだとき、あとを追って臣下が自殺すること。おいばら。
  • 埴輪 はにわ 古墳の上や周囲に立てならべた土製品。円筒埴輪と形象埴輪とがあり、後者は人物・動物・器財・家屋などをかたどったもの。前者は筒形のもので、弥生土器の祭祀用の壺をのせる器台から発展したとされる。
  • 民族心理学 みんぞく しんりがく 習俗、道徳、神話、宗教、言語などの文化の発展から、その民族特有の心理を研究する心理学。特に原始民族の生活様式の特質を探求する心理学をさすこともある。
  • 唐国・韓国 からくに 古代、中国または朝鮮を指して言った語。
  • 将 はた (一説に、「はた(端)」が語源で、「ふち(縁)」「ほとり(辺)」などと関係があるという) (1) ひょっとすると。もしや。(2) 上の意をうけて、これをひるがえす意を表す。(3) しかしながら。そうはいうものの。(4) それとも。あるいは。(5) 上をうけて、それと同様であることを表す。やはり。(6) …もまた。(7) その上にまた。
  • 古シベリア族
  • チュクチ Chukchee チュクチ語。チュクチ・カムチャツカ語族に属する言語。シベリア北東端、チュクチ(チュコト)半島に住む少数民族のチュクチ族によって話される。かつてはルオラベトラン語とも呼ばれた。/Chukchi, Chukchee チュクチャ(Chukcha)ともいう。ユーラシア大陸の最東端のチュコト半島を中心に居住するソ連の少数民族の一つ。コリヤークと同様に内陸ツンドラ地帯のトナカイ・チュクチと海岸地帯の海岸チュクチとに大別できる。人口は約1万4000人(1979年)。17世紀以来、ロシアの支配に対して徹底抗戦をおこない、また、隣族のコリヤークとは“真の敵”と呼び合うほどの対立抗争を続けていたため、チュコト半島はソヴィエト政権が樹立されるまで、長らく戦争状態が続いた。文化要素ではエスキモーとの類似点も注目されている。(文化)
  • カムチャダール Kamchadal カムチャダール語。主にカムチャツカ半島の西部に居住しているイテリメン人によって話されている言語。古アジア諸語のチュクチ・カムチャツカ語族に属するとみなされている。イテリメン語とも呼ばれる。/自称ではイテリメン(Itel'men:「居住者」を意味する)という。言語は古アジア語系で、チュクチ語、コリヤーク語に近い。現在、カムチャツカ半島の中部西海岸を中心に1400人ほど(1979年)いる。18世紀には南部カムチャツカの全域に分布し、北はコリヤーク、南は千島アイヌと接していた。18世紀以後ロシア人の進出入植がさかんになり、彼らとの混血・同化によってイテリメンの伝統的生活は急速に消滅した。(文化)
  • ユカギール Yukagir ユカギール語。アジア大陸の北東部に住む少数民族のユカギール族が話す言語。系統は不明。/北東シベリアの少数民族の一つ。現在の居住地はコリマ川下流のツンドラ、森林ツンドラ地帯とその上流の2か所に限られ、人口は約800人(1979年)。言語は古アジア諸語に分類されているが、チュコト・カムチャツカ語やケット語、ギリヤーク語とも異なる。近年、サモイェード語との類縁関係が指摘されている。17世紀までは、レナ川からチュコト半島までの広大な地域に分布する強大な民族であった。基本的には野生トナカイ狩猟民。(文化)
  • アリュート Aleut。アレウト。アリューシャン列島の先住民。アラスカ半島西部などにも居住。その言語アレウト語はエスキモー語と同系で、エスキモーと文化的共通点が多い。アリュート。
  • ギリヤーク Gilyak (→)ニヴヒの旧称。
  • ニヴヒ Nivkhi アムール川(黒竜江)流域とサハリン(樺太)北部に住むロシアの少数民族。言語は古アジア諸語の一つで、周辺のツングース系諸語やアイヌ語の影響を受ける。漁労・海獣猟に従事。ニヴフ。旧称、ギリヤーク。
  • エスキモー Eskimo グリーンランド・カナダ・アラスカ・シベリア東端部の極北ツンドラに居住する先住民族の総称。カナダではイヌイット(Inuit)と自称し、公的にもそう呼ぶが、グリーンランドではカラーリット、アラスカではエスキモーが公的な総称。モンゴロイドに属し、漁労・海獣猟・カリブー猟・捕鯨などに従事する。夏は皮製のテントに、冬は雪製の半球型の家(イグルー)やツンドラの土で覆った家に住むが、文化的な差異も大きい。現在は定住化が進む。
  • アイヌ Ainu (アイヌ語で人間の意) かつては北海道・樺太(サハリン)・千島列島に居住したが、現在は主として北海道に居住する先住民族。人種の系統は明らかでない。かつては鮭・鱒などの川漁や鹿などの狩猟、野生植物の採集を主とし、一部は海獣猟も行なった。近世以降は松前藩の苛酷な支配や明治政府の開拓政策・同化政策などにより、固有の慣習や文化の多くが失われ、人口も激減したが、近年文化の継承運動が起こり、地位向上をめざす動きが進む。口承による叙事詩ユーカラなどを伝える。
  • 新シベリア族
  • ウラル・アルタイ民族 ウラル・アルタイ語族。ウラル語族とアルタイ諸語を同系言語であるとかつて想定して与えた名称。現在は切り離して考えられている。
  • ウラル語族 ウラルごぞく (Uralic) スカンディナヴィア・中欧・ロシアなどに分布する諸言語。フィン‐ウゴル語派(フィンランド語・ハンガリー語など)とサモイェード語派(ネネツ語など)に分かれる。アルタイ語族とまとめてウラル‐アルタイ語族と呼ぶこともある。
  • アルタイ語族 アルタイごぞく (Altaic) 中国北部から中央アジア・東部ヨーロッパにかけて分布する諸言語。チュルク語派・モンゴル語派・ツングース語派に分かれる。ウラル語族とまとめてウラル‐アルタイ語族と呼ぶこともある。
  • ツングース族 Tungus・通古斯。シベリアのエニセイ川からレナ川・アムール川流域やサハリン島、中国東北部にかけて広く分布するツングース諸語を話す民族の総称。漢代以降の鮮卑、唐代の靺鞨・契丹、宋代の女真、満州族などを含む。狭義にはそのうち北部のエヴェンキ人を指し、生業は狩猟・漁労・採集、トナカイ・馬・牛の飼育等を主とする。
  • モンゴル族 Mongol 中国の北辺にあって、シベリアの南、新疆の東に位置する高原地帯。また、その地に住む民族。13世紀にジンギス汗が出て大帝国を建設し、その孫フビライは中国を平定して国号を元と称し、日本にも出兵した(元寇)。1368年、明に滅ぼされ、その後は中国の勢力下に入る。ゴビ砂漠以北のいわゆる外モンゴルには清末にロシアが進出し、1924年独立してモンゴル人民共和国が成立、92年モンゴル国と改称。内モンゴルは中華人民共和国成立により内モンゴル自治区となり、西モンゴルは甘粛・新疆の一部をなす。蒙古。
  • トルコ族 ヨーロッパの一部、シベリア、中央アジアに居住する民族。古く北蒙古にあったものは丁零、高車と呼ばれた。6世紀にはアルタイ山脈西南に突厥がおこり、その東部をウイグルが受け継いだ。西部では11世紀にセルジュク・トルコが帝国を建て、イラン、小アジア、シリアを支配。その滅亡後オスマン・トルコがこれに代わり、さらにケマル=アタチュクルの革命後トルコ共和国となった。
  • フィン族 Finn フィンランド人。広義には、フィン‐ウゴル語派のうち、ヴォルガ流域から移動してバルト海沿岸に広まったフィン語群の諸言語を話した人々を指すが、狭義には、さらに北上して今日のスオミ語(フィンランド語)を話す人々を指す。
  • サモエッド族 samojed サモエード。ロシア連邦最北部、シベリア北極海沿岸地方に住む蒙古系種族。ウラル語族に属するサモエード語を話す。トナカイ飼育および狩猟・漁猟を主とする。サモディ。
  • 偏鄙 辺鄙(へんぴ)か。
  • 古アジア民族 → 古アジア諸語
  • 古アジア諸語 こアジア しょご 北アジアに住む諸民族のうちアルタイ諸語にもウラル語族にも属さず、たがいの系譜関係が不明な言語および語族を消極的かつ暫定的に総称して「古アジア諸語」という。「古アジア民族」の名称をはじめてもちいたシュレンク(L. von Schrenck)は、これにアイヌをもふくめた。しかしその後、アイヌは古アジアの範疇からはずされることが多くなる。今日一般に古アジア諸語に含まれるのは、いずれもツングース語域の周縁部でようやく余喘をたもっている少数民族の言語である。(文化)
  • 朝鮮人 ちょうせんじん 朝鮮の人。朝鮮半島および周辺の島に分布する韓民族集団の総称。人種的にはモンゴロイド(蒙古人種)に属し、黒色・直毛の頭髪、高いほお骨などを特徴とする。
  • 満州人 → 満州族
  • 満州族 まんしゅうぞく 中国、東北地方に居住するツングース系の民族。その祖先にあたる靺鞨は7世紀末に渤海を建国し、女真は12世紀初めに金を建国した。15世紀末、建州左衛の首長ヌルハチが女真人を統合し、1616年に後金を建国。後金は中国を征服したのち、女真に代えて満州という民族名を用いるようになった。
  • 石器時代 せっき じだい 考古学上の時代区分の一つ。人類文化の第1段階。まだ金属の使用を知らず、石で利器を作った時代。旧石器時代・新石器時代に大別。
  • 石器 せっき (1) 石で作った器具。主として先史時代の遺物をいう。石斧・石鏃などの利器、石皿・叩石などの什器がある。製作技術によって打製石器と磨製石器とに分ける。(2) (→)〓器に同じ。
  • パプアン Papuan パプア諸語。ニューギニア島とその周辺で話されている非オーストロネシア系の諸言語。(カタカナコン)/パプア諸族。パプアとは縮毛を意味するマレー語に由来する。メラネシア人をインドネシア人、ポリネシア人、ミクロネシア人と対比して広義に用いる場合、パプア諸語はメラネシア人に含まれる。しかし、一般にはオーストロネシア語を話す狭義のメラネシア人とパプア(非オーストロネシア)諸語を話すパプア諸族に分けるのがふつうである。分布の中心は、西部、北部、東部の沿岸部を除くニューギニア島の大半の地域。狭義のメラネシア人と比較すると皮膚の色がやや淡く、広鼻であり、顔面がオーストラリア・アボリジニのように凹凸の強い傾向がみられる。血清タンパクなど多型形質に着目した集団遺伝学の研究によると、パプア諸族は狭義のメラネシア人とオーストラリア・アボリジニの間に位置する。(文化)
  • オーストラリア土人 → アボリジニ
  • アボリジニ aborigine (先住民の意) オーストラリアに4、5万年前から住む先住民。狩猟採集生活をしていたが、ヨーロッパ人の入植以降、人口が激減。1920年から保護政策が採られ、67年にオーストラリアの市民権を獲得。岩壁画などの美術で知られる。
  • 一体 いったい (1) (多く「に」を伴って) おしなべて。総じて。(3) もともと。
  • 禁厭 きんえん まじないをして悪事・災難を防ぐこと。
  • 加持 かじ 〔仏〕(1) 仏が不可思議な力で衆生を加護すること。(2) 真言密教で、仏と行者の行為が一体となること。災いを除き願いをかなえるため、仏の加護を祈ること。印を結び真言を唱える。(3) 供物・香水・念珠などを清めはらう作法。
  • 供物 くもつ (グモツとも) 神仏に供える物。そなえもの。
  • 太鼓 たいこ (1) 打楽器の一つ。胴の両面または片面に革を張り、打ち鳴らすものの総称。大太鼓・楽太鼓・締太鼓など多くの種類がある。(2) 日本では (1) のうち、中央のくびれた胴をもつ鼓を除いたものを指す。
  • 精進 しょうじん (古くはソウジ・ショウジ・ソウジンとも) (1) 〔仏〕ひたすら仏道修行に励むこと。(2) 心身を浄め行いを慎むこと。(3) 肉食せず、菜食すること。(4) 一所懸命に努力すること。
  • 潔斎 けっさい 神事・法会などの前に、酒や肉食などをつつしみ、沐浴をするなどして心身をきよめること。ものいみ。
  • 善神 ぜんしん 正法を守る神。福を与える神。
  • 悪神 あくじん 人にわざわいを与える神。
  • 冥途 めいど 冥土・冥途。〔仏〕死者の霊魂が迷い行く道。また、行きついた暗黒の世界。冥界。黄泉。黄泉路。
  • 夜見の国 → 黄泉
  • 黄泉 よみ (ヤミ(闇)の転か。ヤマ(山)の転ともいう) 死後、魂が行くという所。死者が住むと信じられた国。よみのくに。よもつくに。よみじ。こうせん。冥土。九泉。
  • 善霊 ぜんれい 性が善良な霊魂。たたりをせず、人を見守り助ける霊魂。
  • 悪霊 あくりょう たたりをする死霊。もののけ。怨霊。あくろう。あくれい
  • 憑かれる つかれる 他の霊魂がのりうつった状態になる。神がかりになる。
  • 流行病 はやりやまい 一時にはやる伝染病。はやりやみ。時疫。
  • 護符・御符・御封 ごふ (ゴフウとも) 神仏が加護して種々の厄難から逃れさせるという札。紙に真言密呪や神仏の名・像などを書いたもので、肌身につけ、また、飲んだり、壁に貼りつけたりしておく。まもりふだ。護身符。護摩札。おふだ。
  • 神体 しんたい 神霊を象徴する神聖な物体。礼拝の対象となるもので、古来、鏡・剣・玉・鉾・影像などを用いた。霊御形。みたましろ。
  • 魔除け まよけ 魔性のものを避けるための物。まもり。護符。
  • 中つ国 なかつくに 中央にある国。
  • スプリーム・ビーイング supreme being
  • 最高神 さいこうしん (→)至上神に同じ。
  • 至上神 しじょうしん (supreme god) 全知全能で創造主として世界の最高位を占める神の観念。至上者(supreme being)・至高神・高神(high god)とも近い観念で、世界の諸民族の間に広く見られる。
  • 天つ神 あまつかみ 天にいる神。高天原の神。また、高天原から降臨した神、また、その子孫。←→国つ神。
  • 高天原 たかまがはら/たかまのはら (1) 日本神話で、天つ神がいたという天上の国。天照大神が支配。「根の国」や「葦原の中つ国」に対していう。たかまがはら。(2) 大空。
  • 青人草 あおひとくさ (人のふえるのを草の生い茂るのにたとえていう) 民。民草。国民。蒼生。
  • 根の国 ねのくに
  • 底津国 そこつくに
  • 底つ根の国 そこつねのくに 地の底にある国。よみのくに。また、海中の他界。
  • カラウ 悪魔王。(本文)
  • いろり (「囲炉裏」「居炉裏」は当て字) 地方の民家などで、床を四角に切り抜いてつくった炉。地炉。
  • 煙炎 えんえん 煙焔。けむりとほのお。
  • 射付ける いつける (1) 射てあてる。(2) 射通して他のものに刺し通し動けないようにする。(3) 日の光が強くさす。
  • 追儺 ついな 宮中の年中行事の一つ。大晦日の夜、悪鬼を払い疫病を除く儀式。舎人の鬼に扮装した者を、内裏の四門をめぐって追いまわす。大舎人長が鬼を払う方相氏の役をつとめ、黄金四つ目の仮面をかぶり、黒衣朱裳を着し、手に矛・楯を執った。これを大儺といい、紺の布衣に緋の抹額を着けて大儺に従って駆けまわる童子を小儺とよぶ。殿上人は桃の弓、葦の矢で鬼を射る。古く中国に始まり、日本には8世紀初め頃、文武天皇の時に伝わったといわれ、社寺・民間にも行われた。近世、民間では、節分の行事となる。「おにやらい」「なやらい」とも。
  • 大烏 オオガラス
  • トーテミズム totemism 親族集団をそれぞれ特定の自然物(トーテム)と象徴的に同定することによって社会の構成単位として明瞭に識別される社会認識の様式。トーテムに対する儀礼やタブーの遵守が個人の社会認知の機会として重視される。
  • トーテム totem 社会の構成単位となっている親族集団が神話的な過去において神秘的・象徴的な関係で結びつけられている自然界の事物。主として動物・植物が当てられ、集団の祖先と同定されることも多い。
  • 一衣帯水 いちいたいすい [陳書後主紀]一筋の帯のような狭い川・海。その狭い川や海峡をへだてて近接していることをいう。
  • アメリカ・インディアン American Indian (ヨーロッパ人が、インド人だと考えたことから) 南北アメリカ大陸先住民の総称。言語・文化には地方的な差が大きいが、すべて最終氷期に当時陸続きだったベーリング海峡を経てアジア大陸から渡来した人びとの子孫。現在はネイティブ‐アメリカンと呼ばれる。
  • ツリンキット人
  • 家根 屋根か
  • オオカミ 狼 (大神の意) ネコ目(食肉類)イヌ科の哺乳類。頭胴長約1〜1.5m、尾長35〜55cm。毛色は灰色から茶色。イヌの原種と考えられ、体形はシェパードに似る。かつては北半球に広く分布したが、西ヨーロッパ・中国の大部分、日本などでは絶滅。家族単位の集団で生活する。シカなどの大形獣のほか、ネズミなど小動物も食べる。日本本土産は小形系でヤマイヌとも呼ばれたが、1905年奈良県を最後に姿を消し、大形の北海道産(別称エゾオオカミ)も1900年頃絶滅。
  • チムシャン
  • インディアン Indian (1) インドの。インド人。(2) アメリカ‐インディアン。
  • オロッコ Oroke ウィルタの旧称。
  • ウィルタ Uilta サハリン(樺太)に住む少数民族。漁労・狩猟・トナカイ飼育を行う。アルタイ語族ツングース語派の言語を話し、文化的にもアムールのツングース系諸民族と共通点を持つ。旧称、オロッコ。
  • 千島アイヌ → アイヌ
  • 蝦夷アイヌ → アイヌ
  • アイヌ Ainu 北海道アイヌ、樺太アイヌ、千島アイヌの三者は、言語や文化に多少の差異をもった地域集団であった。とくに、樺太では南部海岸の処々に集落をなし、ギリヤーク(ニヴヒ)、オロッコ、ウリチ、キーリン(エヴェンキ)族などの原住民と接触交渉をもったが、樺太アイヌの大部分は第二次大戦後に北海道に移住した。千島アイヌは北千島のシュムシュ島とポロシリ島に居住していたが、1875(明治8)年にシュムシュ島へ集結、1884年に色丹島へ移住させられ、その結果、人口は激減し、第二次大戦後には一族は消滅したと言われている。アイヌ語の系統関係については未だ明らかでなく、パレオアジア諸語(ニヴヒ語や東北シベリアの原住民の言語)に含められることが多い。また、人種的帰属をめぐっても諸説あるが、この問題も最終的には未解決である。(文化)
  • フージル 巨人。(本文)
  • 北千島アイヌ → アイヌ
  • 北海道アイヌ → アイヌ
  • カンナンカムイ 雷神。巨人。(本文)
  • サバウドベ
  • アッシ/アツシ 厚子・厚司 (1) (アイヌ語) オヒョウの樹皮から採った糸で織った織物。またそれで作ったアイヌの上衣。(2) 大阪地方で産出する厚くて丈夫な平地の木綿織物。紺無地か大名縞で、仕事着・はんてん・前掛けなどに用いられた。
  • エムシュ
  • 槐 えんじゅ (ヱニスの転) マメ科の落葉高木。中国原産。幹の高さ約10〜15m。樹皮は淡黒褐色で割れ目がある。夏に黄白色の蝶形花をつけ、のち連珠状の莢を生ずる。街路樹に植え、材は建築・器具用。花の黄色色素はルチンで高血圧の薬。また乾燥して止血薬とし、果実は痔薬。黄藤。槐樹。
  • トスクル
  • 熊祭 くままつり (→)「熊送り」に同じ。
  • 熊送り くまおくり 熊を神の使者として神聖視し、毎年定期的に熊の霊を神のもとに送り返す行事で、ユーラシアから北アメリカ北部の森林の狩猟採集民の間に広く見られる。アイヌでは熊自身を神と見、春に捕った小熊を丁重に育て、弓矢で殺してから歌舞で霊を親元に送り返す。これをイヨマンテと呼ぶ。熊祭。
  • 土人 どじん (1) その土地に生まれ住む人。土着の人。土民。(2) 未開の土着人。軽侮の意を含んで使われた。
  • カラフト・アイヌ → アイヌ
  • 吾邦 わがくに
  • フセ・シャーマン 男の巫人。(本文)
  • アプチイ・シャーマン 女の巫女。(本文)
  • ウヌウ 人間が病気にかかること。(本文)
  • アンバー 死者のこと。(本文)
  • オマンガ 善のアンバー。(本文)
  • オルキ 悪のアンバー。(本文)
  • シャマンドエニ オロッコ語。シャーマン化するという意味。(本文)
  • イルラオ アイヌのイナウ。(本文)
  • イナウ inau イナオ。アイヌ人が宗教儀礼に用いる道具の一つ。削り掛け(削り花)のようなもので、皮を取り去った柳などの小枝を削りかけて、采配のように垂らしたもの。御幣と同じように神にささげる。
  • 鞦 しりがい?
  • 帯んで おんで?
  • 神杆 しんかん?
  • 御寝所 ぎょしんどころ おやすみになる所。ぎょしんじょ。
  • 腰鈴 こしすず?/ようれい?
  • 賢所 かしこどころ (恐れ多く、もったいない所の意) (1) 宮中で、天照大神の御霊代として神鏡の八咫鏡を模した別の神鏡を祀ってある所。内侍所ともいった。平安時代は温明殿に、鎌倉時代以後は春興殿にあった。現在は皇居吹上地区にあり、神殿・皇霊殿と共に宮中三殿という。けんしょ。(2) 神鏡を指す称。
  • 清寧殿 せいねいでん?
  • 太祖・大祖 たいそ (1) 中国・朝鮮各王朝の始祖を称する廟号。後梁の朱全忠、高麗の王建、宋の趙匡胤、遼の耶律阿保機(やりつあぼき)、金の阿骨打(アクダ)、元の成吉思(ジンギス)汗、明の朱元璋、清の奴児哈赤(ヌルハチ)、朝鮮李朝の李成桂など。(2) あることを始めた人。始祖。元祖。
  • 土饅頭 どまんじゅう 土を饅頭のようにまるく盛りあげた墓。つか。土墳。
  • 幣束 へいそく (1) 神に捧げる物。にきて。ぬさ。(2) 裂いた麻や畳んで切った紙を、細長い木に挟んで垂らしたもの。御幣。
  • 懸軸 かけじく?
  • 儒仏 じゅぶつ 儒教と仏教。
  • 儒教 じゅきょう 孔子を祖とする教学。儒学の教え。四書・五経を経典とする。
  • ケストの制 朝鮮の民衆の階級。(本文)
  • 一朝 いっちょう (3) (副詞的に用いて) ひとたび。一旦。命運にかかわるような大きな事柄をいう。
  • 木地 きじ 生地・素地。(「木地」とも書いた) (1) 人工を施さない自然のままの質。生れつきの質。素質。(2) 化粧を施していない素肌。素顔。
  • 聘する へいする (1) 礼物を贈って安否を尋ねる。訪問する。(2) 礼を厚くして人を招く。
  • 神巫・巫子・市子 いちこ (1) 神前で神楽を奏する舞姫。(2) 生霊・死霊の意中を述べることを業とする女。くちよせ。梓巫。巫女。いたこ。(3) (市子) 町家の子供。
  • 鐃鉢 にょうはち 仏家・寺院で用いる二種の打楽器、鐃と※(第3水準1-93-6)。つねに組み合わせて用いられたところから併称される。のちには、※(第3水準1-93-6)を特にさしていう。にょうはつ。
  • 斎主 いわいぬし 斎(いわい)に同じ。/さいしゅ 祭の儀式を中心になっておこなう人。
  • 斎・祝 いわい (2) 神を祭る所。また、その人。
  • 三番叟 さんばそう (1) 能の「翁」に出る狂言方の役とその担当部分。三番三。(2) 歌舞伎舞踊・三味線音楽の一系統。能の「翁」に取材し、(1) を主体に扱う。長唄「種蒔三番叟」「廓三番叟」「操三番叟」、清元・長唄掛合「舌出し三番叟」、清元「四季三葉草」、常磐津「子宝三番三」など。(3) (演目の初めに演じられることから) 物事の始め。幕開き。
  • 絹布 けんぷ 絹糸で織った布。絹織物。
  • 勇み立つ いさみたつ 気力を奮い立てて事に向かう。勢いこむ。
  • 威霊 いれい 威力のある神霊。また、天子の威光。
  • タブー taboo; tabu (ポリネシア語で「聖なる」の意のtabu, tapuから) 超自然的な危険な力をもつ事物に対して、社会的に厳しく禁止される特定の行為。触れたり口に出したりしてはならないとされる物・事柄。禁忌。
  • 天下大将軍
  • 大将軍 たいしょうぐん (ダイショウグンとも) (3) 暦の八将神の一神。太白(金星)の精で、この神の在る方角は3年間変わらず、3年ふさがりとして万事に忌む。
  • ゴリド人 → ナナイ
  • ナナイ Nanai, Nanaitsy かつてゴルディ(Goldi)またはゴリド(Gol'd)の名で知られていたソ連極東の少数民族。ナニ(Nani)とも称する(ともに“土地の人”を意味する)。アムール川下流域、ウスリー江、松花江とその支流域に分布し、人口はソ連側に約1万500人(1979年)、中国側に1476人(1982年)いる。言語はアルタイ語族ツングース・マンチュー語派南方ツングース語に属す。満州族と境を接していたことから古くから中国文献に登場し、魚皮韃子または剃髪韃子(満州族の影響で弁髪がおこなわれていたため)などの名で知られていた。主生業は河川での漁撈で、サケ類、マス類、各種淡水魚、チョウザメなどをとる。(文化)
  • 蘇塗 そと 蘇屠。朝鮮の古代のやしろ。また、卒塔婆(仏骨を入れる塔や骨を納めたしるしの立て札)のこと。
  • ノロクモイ 大アムシラレの下に属する田舎の神官。地方の豪族の女子(昔は未婚の女子)が任ぜられた。
  • ノロクメ
  • のろ 祝女・巫女 (沖縄で) 部落の神事をつかさどる世襲の女性司祭者。
  • 大アムシラレ おおアムシラレ 大阿母志良礼などと記され、大アモシラレともよぶ。王府の女神官組織のなかの職名。聞得大君の次位に位置し、首里を三分割した三平等に対応。沖縄を三区分した各地域のノロを監督、国家的祭祀にかかわった。/三殿内(三神社)の神官。
  • 曲玉・勾玉 まがたま 古代の装身・祭祀用の玉。C字形で、端に近く紐を通す孔がある。多くは翡翠・瑪瑙・碧玉を材料とし、また、純金・水晶・琥珀・ガラス・粘土などを用いた。長さ1cm未満の小さいものから5cm以上のものもある。形状は縄文時代の動物の犬歯に孔をうがったものから出たといい、首や襟の装飾とし、また、副葬品としても用いられた。朝鮮半島にもあり、王冠を飾る。まがりたま。
  • モンゴル人 Mongol 狭義には、モンゴル人民共和国のハルハ族と、中華人民共和国内蒙古自治区のチャハル族を指す。広義にはソ連領バイカル湖周辺のブリヤート族、ヴォルガ下流域のカルムク族と、さらに中国領内のトンシャン(東郷)、ダグール、トゥ(土)、ボウナン(保安)などの少数諸族も併せて呼び、総人口は500万前後に達する。その名が文献に登場するのは、唐代の「蒙兀」などを最初とするが、チンギス・ハーンのもとに、タイチトウ、ナイマン、ケレイト、メルキトなどの諸部族が統合された12〜13世紀に民族としての基盤が形成された。(文化)
  • 喇嘛教 ラマきょう (Lamaism) チベット仏教の俗称。
  • チベット仏教 チベットぶっきょう 仏教の一派。吐蕃王国時代にインドからチベットに伝わった大乗仏教と密教の混合形態。チベット大蔵経を用いる。のちモンゴル・旧満州(中国東北地方)・ネパール・ブータン・ラダックにも伝播した。主な宗派はニンマ派(紅教)・サキャ派・カギュー派・ゲルク派(黄教)の4派。俗称、ラマ教。
  • 帛 はく きぬ。絹布。
  • 幣 ぬさ (1) 麻・木綿・帛または紙などでつくって、神に祈る時に供え、または祓にささげ持つもの。みてぐら。にぎて。幣束。(2) 贈り物。
  • ラマ Bla-ma チベツト・喇嘛 チベット仏教の高僧。現在ではチベット仏教僧一般に対する敬称としても用いる。
  • ボー Bo モンゴルで巫子のこと。(Wikipedia)
  • ムー Mu
  • ムータン Mutan ムーダン(mudang)。巫堂。朝鮮の職業的宗教者。クッとよばれる祭儀をつかさどり、激しい歌舞の中で憑依状態となり神託を宣べる。(カタカナコン)
  • 仏菩薩 ぶつぼさつ ほとけとぼさつ。
  • 回回教 フイフイ きょう (フイフイは中国語)(→)イスラム教の異称。
  • イスラム教 イスラムきょう 世界的大宗教の一つ。610〜632年頃、ムハンマドが創始、アラビア半島から東西に広がり、中東から西へは大西洋に至る北アフリカ、東へはイラン・インド・中央アジアから中国・東南アジア、南へはサハラ以南アフリカ諸国に、民族を超えて広がる。サウジ‐アラビア・イラン・エジプト・モロッコ・パキスタンなどでは国教となっている。ユダヤ教・キリスト教と同系の一神教で、唯一神アッラーと預言者ムハンマドを認めることを根本教義とする。聖典はコーラン。信仰行為は五行、信仰箇条は六信にまとめられる。その教えは、シャリーアとして体系化される。法学・神学上の違いから、スンニー派とシーア派とに大別される。中世には、オリエント文明やヘレニズム文化を吸収した独自の文明が成立、哲学・医学・天文学・数学・地理学などが発達し、近代ヨーロッパ文化の誕生にも寄与した。三大聖地はメッカ・メディナ・エルサレム。回教。マホメット教。
  • 蒼人草 あおひとくさ 青人草。(人のふえるのを草の生い茂るのにたとえていう) 民。民草。国民。蒼生
  • 穢土 えど 〔仏〕けがれた国土。三界六道の苦しみのある世界。凡夫の住む娑婆。この世。現世。穢国。←→浄土。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)『縮刷版 文化人類学事典』(弘文堂、1994.3)。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


書きかえメモ。
這は → これは
偏鄙 → 辺鄙
シユープレム → スプリーム

 『長岡半太郎隨筆集 原子力時代の曙』(朝日新聞社、1951.6)。前半の随筆は入力がすんで青空文庫へ送ってあるものの、後半の鼎談部分は未着手。渡辺 やすし・藤岡由夫よしおともに1976年没。
 しかしこの鼎談内容が、じつに興味深い。
 二名の著作権保護期間が経過するのを待ちきれないので、長岡半太郎の発言部分にかぎって、二、三を引用してみる。

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藤岡由夫 ふじおか よしお 1903-1976 大正・昭和期の物理学者。東京教育大学教授、国連原子力局アイソトープ部長。専門は理論物理で、分光学を研究。政治力のある異色の学者である。著書に「物理学ノート」など。

渡辺 寧 わたなべ やすし 1896-1976 大正・昭和期の電気・電子工学者。東北大学教授、電気学会会長。半導体、トランジスタを研究。著書に「空間電荷伝導論」など。

◇参照:『人物レファレンス事典』(日外アソシエーツ、2000.7)。
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ぼくはしかし、漢學者の讀まないものを讀んでいます。讀むものもやつたけれども、讀まないものを讀んだ。『莊子』とか、『准南子』(抱朴子)というものを讀んだ。その中にはシナ人のサイエンスが出ている。『莊子』を讀んで驚いたのは、『莊子』の中に雷のことが書いてあるが、それがいまの學説とほとんど一致しているんです。陰と陽です。ポジティヴとネガティヴと、陰陽ところを失うから雷が起る。雨のどしや降りの時に稻光りがする。これは水中火ありだという。二、三行だが、ちやんと説明が書いてある。それから『莊子』で驚いたのは、空が青いのは本色かということを問うている。ブルー・スカイというものは、天の本色であるか、それともほかのものであるか、こういうことは前世紀の一八八四年ごろにロード・レーリーがはじめて説明したものです。それを二千三百年前に問題にしているんだからね。面白いですよ。それから面白いのは、ハーフ・アクティヴィティーの原理をもとにして、莊子自身じやないが、惠施という人の議論に、棒を一つとつてそれを半分に割る。その半分をまた半分に割る。そうして行くと、いくらいつても終るところがない。すなわちインフィニティシマル(無限小)の考えです。實に鋭い頭をもつて、戰國の人は自然を論じているんです。そういうものをぼくは讀んだ。(p.196-197)
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つい先月見つけ出したのは、地球がだん/\まるくなつて行つて、二つ交叉するものと考えて、その交叉するところが緯度三十五度二十一分というところになる。そういうところに一番大きな地震がなければならんということは前から考えていたんだが、このごろちやんと正式に勘定してみると、三十五度二十一分何秒ということになる。それが何ぞはからん、富士山と相模灣の沿岸に當るんです。關東大地震のようなものがしば/\あるのは當然だつたんです。ある人はそれをまだのみ込まん人がある。それから中國の一番大きな地震で明の嘉靖年間に起つた地震があるが、黄河と渭水の交叉するところです。あそこに當時世界一の大地震があつた。今から約五百年前のことです。それからサンフランシスコの地震もやゝそれに近い。その他いろ/\ある。いまそれをちようど發展させつゝあるんです。日本人は地震について、何か日本の中の地震を論じなければ承知しないようなあんばいである。それが大なる間違いじやないかと思う。(p.206-207)
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まあ、これからアトミック・エージ(原子力時代)になるんだからインダストリーなんかの方面もそつちのほうになるでしよう。最近讀んだ報道によると、アメリカ全體の一年間の電氣のパワーはどのくらいですかね。何千萬キロワットでしようが、アトミックに供給し得るウラニウムの分量は、わずかに四十五トンだという。アメリカの何千萬キロワットの電氣を四十五トンのウラニウムでやれるというんです。たゞ窒素がカーボンにかわり、金が水銀になるというような、厄介なことがある。そのカスをどう處分するかということですね。ビキニーあたりのリディアクティヴ(放射)状況が今日まで存續しているんだから、そんな方面のアトミックの方面のことをやるべきだと思います。ウラニウムを使わずしてやる方法も考えるべきだ。(p.211)






*次週予告


第五巻 第四六号 
日本周囲民族の原始宗教(二)鳥居龍蔵


第五巻 第四六号は、
二〇一三年六月八日(土)発行予定です。
定価:200円


T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第四五号
日本周囲民族の原始宗教(一)鳥居龍蔵
発行:二〇一三年六月一日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
 http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
 〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
 アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。