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2009.4.5 No.37

堤中納言物語(三) 池田亀鑑(訳)
 かいあわせ
 思わぬ方にとまりする少将
 はなだの女御
 はいずみ
 よしなしごと
定価:200円(税込)  p.320 / *99 出版
付録:別冊ミルクティー*Wikipedia(101項目)p.515

 下京あたりに、賎しからぬ家柄のものではあるが、今は零落して貧しく暮している女を、にくからず思って、永年の間同棲していた男があった。それが懇意の人の所へ出入している間に、その人の娘にふと懸想をして、人知れず通うようなこととなってしまった。
 新しく珍しかったせいか、初めの女よりも情け深く思われて、人目も憚らず通っていたので、親たちも聞きつけて、
「長年つれそうた女が別にあるにはあるが、こうなった以上は、何とも仕方がない」
といって許して住まわせた。
 前の女はこの事を聞き知って、
「今となっては縁の切目らしい。女の方でもいつまでも通わせてなどはおくまい、きっと同棲するだろう」
と思って、
「どこか自分の行くところでもあればよいのに……すっかり捨てられてしまわない先に、こちらからどこへか行こう」
などと思ったが、さて行こうにも行くべき適当な所もない。(略)
「つらいものは男女の仲でした。どうしたらいいのでしょう。今度の女がおしかけて来た時に、こんなみすぼらしいありさまで逢うのも見苦しい。ひどいつまらない所ではあろうが、あの大原のいまこの家へでも行きましょう。あれよりほかには知った人もないのだから」
と女は言う。

37.rm
(朗読:RealMedia 形式 284KB、2'16'')

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(636KB)


2009.3.28 No.36 堤中納言物語

堤中納言物語(二) 池田亀鑑(訳)
 虫めづる姫君
 ほどほどの懸想
 逢坂こえぬ権中納言
月末最終号:無料  p.219 / *99 出版
付録:別冊ミルクティー*Wikipedia(32項目)p.198

「世間の人たちが、花よ蝶よともてはやすのは、なんて浅はかな量見でしょう。人というものは浮べばかりでなく、本当に物の奥底をつきつめるというまじめさがあって、はじめて心ばえもゆかしく思われるものです」
といって、いろいろな虫の恐ろしそうなのを、取りあつめて、それらがどんなふうに変わってゆくかを観察しようとして、さまざまな篭や箱などに入れさせて見ておられる。なかでも毛虫が、深みのありそうな様子をしているのが、奥ゆかしいというので、朝晩いそがしそうに、髪を耳ばさみにして、てのひらの上にころがしながら、熱心に見ておられる。(略)
 毛虫は、毛のぐあいなどはなかなか趣があるが、歌や故事などのないのが物足りないと云って、カマキリや、かたつむりなどを取り集めて、それらに関した詩や歌を、大声によみあげさせてきき、自分も男まさりの声をはり上げて、

 蝸牛(かたつむり)の角(つの)の上に何事をか爭ふ
 石火の光の中にこの身を寄す

などと、朗詠をうなっていらっしゃる。
 男の子たちの名前は、平凡なのはつまらないといって、虫の名をおつけになった。螻蛄男(けらお)とか、ひきまろとか、いなかだちとか、蝗麻呂(いなごまろ)とか、雨彦とかの名をつけて、召使われたのであった。
36.rm
(朗読:RealMedia 形式 272KB、2'12'')

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2009.3.21 No.35 堤中納言物語

堤中納言物語(一) 池田亀鑑(訳)
 花桜折る少将
 このついで
定価:200円(税込)  p.142 / *99 出版
付録:別冊ミルクティー*Wikipedia(29項目)p.149

※ オリジナル版に加えて、ミルクティー*現代表記版を同時収録。
※ JIS X 0213・ttz 形式。
※ この作品は2009年3月21日現在、青空文庫にて入力中です。翻訳・朗読・転載は自由です。
(c) Copyright is public domain.

 あかるい春の夜の月影を、夜明けの明りと思い違えて、夜深く女のもとを出てしまったものの、今となっては、さぞやつれない男とうらんでもいようと、残してきた女がいとしく思われないでもなかったが、いまさらひきかえすのも遠すぎる、ままよと、少将はそのまま家路をたどるのであった。
 こうして歩いて行くと、今日はまだ夜深いせいか、そのあたりの小家などには、いつも聞える騒々しい物音もせず、ひっそりと静まり返っている。あちらこちらの花の梢が、折からの隈ない月の光をあびて、霞にまぎれるほど、夢のようにぼうと浮き出ている。
 そこ——そこは道すがら見てきた所にもまして風情のある所なので、少将はそのまま行き過ぎにくい心地がして、

 そなたへと行きもやられず花桜にほふ木かげに立ちよられつつ……

35.rm
(朗読:RealMedia 形式 196KB、1'34'')

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堤中納言物語 つつみちゅうなごん ものがたり
平安時代後期以降に成立した短編物語集。編者は不詳。10編の短編物語および1編の断片からなるが、成立年代や筆者はそれぞれ異なり、遅いものは13世紀以後の作品と考えられる。複数の物語をばらけないように包んでおいたため「つつみの物語」と称され、それがいつの間にか実在の堤中納言(藤原兼輔)に関連づけられて考えられた結果「つつみ」中納言物語となったのではないか、など説がある。

池田亀鑑 いけだ きかん
1896-1956(明治29.12.9-昭和31.12.19)
鳥取県日野郡福成村(現・日南町)生まれ。国文学者。平安文学専攻。鳥取師範学校、東京高等師範学校を経て、女子学習院助教授、1926年、東京帝国大学国文科卒業、同副手。1934年、助教授、その一方、大正大学教授、日本女子専門学校教授、昭和女子大学日本文学科科長、立教大学教授を務める。1955年、58歳でようやく東京大学教授となるが、翌年死去。池田芙蓉のほか、青山桜洲、村岡筑水、北小路春房の筆名で、多くの少年少女小説を書いた。
◇参照:Wikipedia


公開:2009.3.23
更新:2009.4.7
目くそ鼻くそ/PoorBook G3'99
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最終更新:2009年04月07日 14:23