九重 千景と玲音。
になし藩国において緊張感とは程遠いランキングベスト5
に間違いなく選ばれる二人だったが、
今は厳しい顔をして互いに見つめあっている。睨み合っていると言ってもよい。
「だからですね──」
耐えかねた様に九重が口を開く。
「にーなちゃんは正体バレバレなんやけどみんなにはバレてないと思ってる感じの
空回りキャラにしたいんです!」
「それもいいですが、やはり魔法少女物の様式美からすれば正体は最終回で明らかになる方が」
「それやとにーなちゃんの日常が描けんやないですか!」
「むぅ」
一理ある、と言う風に唸る玲音。
やはりと言うかなんと言うか、会話の内容は緊張感とは程遠かった。
「ロゴだって藩王の部分がわかるように消してあるんやからそういう方向で行くべきですよ」
「まぁ、その部分は保留として固められる部分から固めませんか?」
「うむむ」
今度は九重が唸る番だった。
あからさまに話を逸らされているのは解るがこのまま議論を続けても平行線──
それを悟った九重、しぶしぶ頷く。
「じゃあとりあえず魔砲少女になった経緯から」
「二人の案合わせちゃえばええんやないですかね?仮面のメードガイ(正体はシロ宰相)
からステッキをもらった、と」
「なるほど。では魔砲少女につきものの使命」
「ミニぽちと絡めたい所なんで、冷凍睡眠から目覚めたら何故か
ちっちゃくなってたぽち姫を元に戻すために周りの世界のぽちを──
これって不敬罪ですかね?」
玲音、哂う。子供が見たら通報しそうな顔であった。
「フィクションなら問題ありますまい」
「そうですよねぇフィクションですもんねぇ」
九重、嘲う。兎とかハムスターに見せたらストレスでコロリといきそうな顔をしていた。

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「まぁ話の主軸はそれで行けますね。次、セレナちゃんの役どころ」
「本人はなんやいっとらんかったですか?」
「小粋な敵役希望、としか。ああ、丁度いいところに本人が」
ちなみに場所は味のれんである。定時上がりでほろ酔い加減の客も多いせいか
トンデモ議論をしている二人も特に目立ってはいない。
「セレナちゃんは敵の魔法少女っていうのが妥当かな、思うんですが」
「おー、いいねぇ魔法少女」
仕事上がりは大抵上機嫌なセレナ、よさげな役どころをもらって満面の笑みを浮かべる。
笑えばまぁ人並み以上にはかわいい。
「名前、セレニティア=フロルーダ、公称Arebだから……セレ子、ロル子、
Areb子のどれがいいですか?」
が、九重のこの台詞で一瞬にして笑顔が消えた。手はジョッキで塞がっていたので
脚でげしげし椅子を蹴りつける。
「待てい。なんでそんなに適当なのよ。特に最後」
「え、だって、どうでもい──いえ、どれもいい名前やないですか?」
急に黙りこくる玲音。口を開けば脚が飛んできそうで、
頼んでから一時間近く放置していたほっけの身をほぐしている。が、
「ごめんちょっと詰めてね」
と言われる前に蹴られて席の端へ追いやられる。空いたスペースに座るセレナ。
「にーなより可愛くないのは納得いかないんだけど。いや名前だけでももうちょっとまともに……」
「じゃあセニアかレティ。それが嫌ならご自分で考えてください」
「うーん、まともにはなったけどちょっと考えさせて」
「そもそもセレナちゃんは身長はともかく少女ってトシじゃぶごぉっ!?」
「で、ここに玲音さんが指定して絵師に描いてもらったコンテがあるんですけど」
「うわ、今それを見せるんですか。さてはさっき話逸らしたの根に持ってますね!?」
「どれどれ──って、なんで普段着にシークレットブーツなのかなぁ?」
ゴゴゴゴゴゴゴ(空気の重みが増した音)
「いつも気になってたんだけど、キミたちはあたしに対する扱いがぞんざいすぎじゃないかな?
あたしせっしょーだよ?」
「自業自得」「因果応報」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!(空気が質量を伴い始めた音)
「お前らちょっとそこに座れ。あ、椅子じゃなくて床ね」


になし藩国の夜はこうして更けていく──。

/さらに続く/



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最終更新:2007年05月11日 02:45