チャットでの「理力使いって魔法少女じゃね?」の一言に端を発した連作SSのような何かです。
このSSは事実を元にしたフィクションであり、実在の人物、魔法少女作品とは全く関係ありません。多分。


時は一月以上遡る。

ここになし藩国王城第一会議室では、定例の国力増強対策会議が行われようとしていた。

椅子があらかた埋まった所で一人の小柄な少女が立ち上がる。
肩口で綺麗に揃えられた赤い髪を揺らしながら摂政──セレニティア・フロルーダ、通称セレナがぐるりと室内を見回し口を開く。
「あー…えー…なんだっけ。ああ思い出した。じゃあ会議始めます。何回目かは忘れたけど」
微妙に気が抜ける号令を出したセレナを、その隣に座っている頭に犬(王犬ちよこさま)を乗せた少女がたしなめた。凛々しい男の声で。
「セレナ。人の上に立つ者としてもう少し威厳をだな」
この少女にしか見えない男が藩王になしであった。全く持って威厳の欠片もない。
「えー。だからあたし摂政とか向いてないよーって言ったのに藩王さまが押し付けたんじゃーん」
「それでも引き受けたからには自覚を持てといつも言っているだろうに。大体そなたは」
「長くなりそうなんでとりあえず資料配布します」
ほぼ恒例になりつつあるやりとりを横目に、吏族長の芒が資料を配り始める。
なにやらA4用紙で二十枚ほどの紙をホチキスで留めただけのあからさまに簡素なものだが、なぜか皆騒然としている。
「会議が始まってから資料が配られたことなんてなかったのに……」
「ていうか今まで対策会議とか何回もやってきたけど初めて会議っぽいですよ?すよ?」
「今まではセレナちゃんトークショーの間違いじゃないのかって感じでしたからねぇ……」
「まぁそれはそれで良かったんですが。仕事さぼれるし」
「とは言えうっかり居眠りでもしようものならセレナちゃんにフランケンシュタイナーでぶん投げられますからね。仕事より緊張感ありますよ」
うんうん、とか全くだ、とか一同頷く。投げられた本人が言ってたので説得力があったのだった。
「じゃああとは企画立てた本人に説明してもらうということで。九重さんどうぞ」
会話の隙間を突いてそれだけ言うと席に座る芒。入れ替わりに九重千景が立ち上がる、
「じゃあ説明させてもらいますー。って言ってもまぁまずは資料見てもらった方がええですかね」
中途半端な関西訛りの言葉に促されて一斉に白紙の表紙をめくる。その動きがまた一斉に止まった。

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言わずもがな、モデルは藩王になしである。アニメの企画書らしい。
「うわぁ……うわぁ?」
「藩王隠れてない…隠れてないよ……」
「魔砲少女?──え?少女だったんですか?」
「待て。余を見るな。というか余に聞くな」
になし、頭を抱える。女装はある程度慣れはしてもこれはキツイ。客観的に見せ付けられると尚更キツイ。
頭を抱えながらも一応次のページも見てみる。企画意図というかプロットのようなものらしい。
『藩王がシロ宰相にもらった怪しいステッキで女の子になって色々大活躍』
「これは宰相に怒られるぞ!?」
「大丈夫ですよ」
九重、自信たっぷりである。普段自信とは程遠い小物っぷりを発揮している人間にも関わらず、だ。
「……根拠は?」
「この作品はフィクションであり実在の人物、地名、団体名とは全く関係がありません。ってテロップつければ」
「…………だめだこいつ。早くなんとかしないと…いっそここで切るべきか?」
「はははは。いやですよぉにーなちゃん。そんな物騒な」(九重
「そうだよにーなちゃん。主役なんだからいいじゃん」(セレナ 完璧他人事なのでとりあえず煽る
「ああ、になしだからにーななのかー…」(月空 マイペース。ある意味いつも通り
「でも服はかわいいよねぇ。ああいやにーなちゃんもかわいいけど」(瑠璃 輪を掛けてマイペース
「これ、わたくしの出番はありますの?」(イタ 面白そうだから混ざりたい
「でも、これがどう国力増強に繋がるんです?」(翠 変に真面目
「そ、それだ。九重、関係ない企画を持ち込むでない」(になし なんとかして却下したい
「魔砲少女かこいい→理力使い増える→国力増強」(九重 その程度の反論は予想済
「くっ…一理ある…」(になし だまされやすい
「あるかなぁ…」(芒 良識派
大抵の人間は自分には累が及ばないと知ってか好き勝手言い始める。
やっぱり正体がばれたら魔砲少女失格になるんですよね、ぽち姫を目覚めさせるためになんか集めるってのはどうでしょう、いやいや敵がプリポチってのは燃えるんじゃないか、etcetc。
(──このままでは、魔砲少女にされる。なんとか逃げ切らなくては)
「それ以外にも予算と人手の問題とかがだな」
「人手はある程度確保できてます。人件費もほとんどかかりません。この前藩王狙撃未遂事件があったやないですか?」
「ああ、そんな事もあったな。芒が微妙な顔で『ええ、特に問題はありません。ありませんとも』とか言ってたからあえて触れずにいたのだが」
「え、ちょっと、あたしがFEG行ってる間にそんな面白イベントがあったわけ?ずーるーいー」
「あれ、狙撃じゃなくてライフルのスコープで藩王見てただけのコアな絵描きやったんですよ」
「前言撤回。たけきのこさんについてってよかったわあたし」
「それで、藩王の絵が書けるなら無給にして無休でもいいって人間がその犯人──っていうのもあれですが、繋がりでいっぱい」
「……喜べばいいのか笑えばいいのか泣けばいいのかわからん」
「そもそも不定期放送でもいいわけですから。こういうのは長く太くやるべきです。どんな藩王…もといにーなちゃんが見たいか国民から応募したりすれば交流にもなると思いませんか?」
「貴様わざと間違えてるだろう!?」
「わかりました。そんなにアニメがいやなら実写にしましょう」
「実写はマジ勘弁」
実写にはなにかトラウマがあるらしい。
「じゃあアニメでいいですよね?」
「うむ…仕方あるまい」
「うわ、めっちゃ誘導されてる」
「じゃあこっちである程度進めておきますね。本格的に動けるのはまだ先でしょうけど、いざとなったら皆さんにも何かお願いするかもしれません」
会議参加者の八割以上が「いざとなったらいやだなぁ」という目で九重を見ていた。


おまけ

如何に会議で決まったとはいえ最終決定権は藩王にある。今から無理矢理この企画をなかったことにもできた。
だがしかし。になしは歯を食いしばり、何かに耐えるように企画書の最後のページを見詰めていた。
『魔砲少女につきもののマスコット ミニぽち+ちよこ(喋る』と書いてあり、絵が添えてある。

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「動くのか…これが動くのか…動くなら見たい…凄く見たい…いや、しかし、余には藩王としての立場が……(ぶつぶつ)」


おまけその2

「そういえば全然関係ないんだけどさー、面白そうな機械買ったんだよねー」
「……結局今回も最後はセレナちゃんトークショーと化したなぁ」
「(聞こえない)犬につけると鳴き声で犬の気持ちがわかるって機械。ちよこさまにつけてみようっと」
わんっ、わんっ。
『セの字は相変わらずちんまいのう…』
「…………」
「なんて出たんですか?ちょっとちよこさま貸してくださいね、っと」
わんわん、わうんっ。
『若月ィ、男が気安く触れるなや』
「………………これはひどい」
「翠ちゃん、ちょっとちよこさま抱いてみてくれる?」
わん。
『突撃馬鹿』
「…………あれ、あたし、犬に馬鹿って言われた?」
「三人ともなんで微妙な顔してるの?」
「ああ、瑠璃ちゃんもちよこさま抱いてみて」
わふわふ。
『瑠璃嬢はたゆんたゆんでええのう…まったくこの国にはろくなオナゴがおらん』
「わー、私の名前わかってるんだー。ちよこさますごーい」
「え、感想それだけ!?」
「いえ、確かにこれはこれで凄い気がしてきました。微塵も嬉しくはありませんが」
わんっ!
『照れるぜ』
「おー、ちよこさまCOOOOOOL」
ちよこを両手で高く掲げてくるくる回る瑠璃。犬よりクールさに欠ける女。
「瑠璃ちゃんは喜んでるけど、みんなの精神安定上これは封印します」


/続く?/



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最終更新:2007年05月11日 02:35