1.


「遊園地行こうぜ!」

 こなたが目を光らせて意気揚々とそういいだしたのはいつのことだったか
その日は俺も柊も予定があったために強制的に却下にされたそのこなたの案だったが
しかしそれからしばらくたった今日、学校も休みで訓練も無し(こなた権限)でこなた当人も急ぎの仕事は無い
という状況でこなたが今一度言った

「だからみんなで遊園地行こう!」

 その手には複数の遊園地のチケット、一日フリーパス
ここらでは少し前に話題になった遊園地で、いまも根強い人気は相変わらずらしいが

「みんなとは…誰のことを表すんだ?」
「私達と学校のみんな」

 こなたはもう少し言葉の意味を察する努力をするといい

「だからその私達と学校のみんなを詳しく言えといってるんだ!」
「私じゃん? キョンにかがみにみさおちゃんにあやのちゃんにみなみんにパティも」

 七人、学校の遠足の班の人数にも多いぞ
一人はみ出るのがいるから一つの班だけ周りより一人多い班みたいな 

「ってかすでに上記の面子にはキョン以外声かけて用意してもらってるよ!」
「用意周到って言うか俺からしたら万事休す!」

 逃げ場は無いと言うことか! これは腹を括るしかないな…
まぁそもそも嫌がる理由なんてあんまりないんだがな
あるとするならば

「絶対にお前か日下部かパティの人の話を聞かないトリオの誰かが一度は迷子になるな」

 多人数での行動、しかも人口密度の高い場所で、という状況が重なると
必ずお調子者や抜けてる奴とか話し聞かない奴が迷子のおばかちゃんになる
しかもこの三人は全員が話し聞かないお調子者で少し抜けてるという凶悪なコンボである

「まったく、キョンは保護者に向かってなんということを」
「ほ…ご……しゃ?」
「なんだよぅ?」
「いや、…別に」

 今の面子自分で言うのもなんだが
この七名の保護者の立場に居るとすればそれは確実に

「確実にあんたが保護者よね」

 全員を遊園地の入り口前で整列させて迷子になった時の対応法を話していると
柊が呆れたようにため息をついてそういった

「でも、キョン君の電話番号、実は始めて知ったかも」
「そういえば柊とこなた以外教えてなかったな」

 有事の際は俺の携帯にかけるように全員に個人用の携帯電話番号を教える俺
あやのがにこにこと笑って携帯を眺めている

「まぁあとは離れ離れになったらその場所を動かないってのが鉄則だな」

 双方動くと遭遇率が極めて低くなるからな
俺はそれだけを最後に言って締め――


「おいこなた、俺も人のことは言えないが。そういえば長門は…」

「……、エンジョイしようぜ!」

「おいこな―」

「今日は一日楽しむぜ!」 

 一人で先に園内にダッシュしてしまうこなた
あの野郎、俺も今まで気付かなかったけど

「あの子だったら来ないって言ってたわよ」

 罪悪感にやられかけていた俺に柊が助け舟を出してくれた

「昨日こなたに話聞いたときに面子聞いたのよ
 で、ファーストを素で忘れてるっぽかったから私が連絡入れたのよ」

 それで電話を入れてみたらその日は予定があるから無理と丁重に断られたそうだ
既に他の連中にも連絡が言ってるため仕方なく長門には悪いと思いつつ柊もそのまま参加したとのこと

「言ってくれよ」
「ごめん、あんたなら気付くと思ってたんだけどね」

 耳が痛かった
だがしかし訓練も学校もないのに長門の用事とはなんだろうか?

「さぁ、私は連絡をして、断られて、予定があると言われただけよ」
「ほぅ」

 まぁいいさ、柊が連絡してくれていたのならよかった
それでも罪悪感がないわけでもないが、とりあえずは楽しもう
俺は思考を切り替えて自分も入場することにした

   2.

「えっとまずはフリーフォール?」

「初っ端からそれはないだろ」

 とは言ったものの俺も遊園地という場所には比較的疎く
こういう場所での行動パターンなんてものはまったくインプットされてない
入ってないものを出すことはまぁ捏造しない限りできないので
俺はこの場では完全にフィーリングに任せて動くことになる

「ジェットコースターの種類が多いらしいからコンプしようぜ!」
「おぉいいねぇ!」
「でも勝手に行っちゃダメよ?」

 日下部とこなたの似たものコンビは早々に暴走しかけてるし
学校なら日下部のブレーキになるあやのもなぜかみんなで集まってるときは
どうにもアクセルにジョブチェンジしてる感じである
いや、とめてはいるんだが、帰りの会で「私は止めました」というための止め方だ
本気で止める気が無い

「まぁでもいいんじゃないの? みんなで楽しめれば問題ないんだから
 あんたがずっと眉間に皺寄せてたらダメよ、みんなあんたを頼りにしてるんだから」
「お前な、頼りにしてるっていっても、俺たち忙しいから教室の掃除頼んだぜ! な! みたいな感じだぞ」

 今日の俺の比喩の方向性:学校ネタ

「でも、午前中はガーッと遊んでごはんたべてからゆっくり周るってのも正攻法よ?」
「…そんなものか?」
「そ、せっかく早い時間に着たんだから人が居ないうちに人気のアトラクション乗っちゃいましょ」

 俺の肩をバシンと叩いて柊は並んで歩いてるこなたと日下部の間を通るようにして
二人と肩を組んで三人四脚よろしくで一番近くのコースターに走っていった

「おいおい、ボケとノリが多すぎる、俺には突っ込みきれんがな」
「なら一緒にのっちゃいえばいいんじゃない?」
「…あやの」
「その方が楽しいわよ?」
「まぁ、周りを見失わない程度には遊ぶさ」

 俺とあやのはいまだ後ろでのんびりあるいてるみなみとパティを呼び
早速見失い始めてるこなたと日下部を追いかけることにした

「おーい、いまなら待たないで即行で乗れるって!」
「はようせい!」

 ぴょんこぴょんこと飛び跳ねてうるさい連中である
人がもっと増えてきたときにやられればひたすらに目立つだろう
まぁ見つけやすいのは助かるけれどもな

 追いついた俺達は本当に人の居ないジェットコースターの駅(?)に入る

「一つに二人か、…じゃあ一人余っちまうな」
「じゃあワタシとキョンが隣同士で他の人は好きにすればいいヨ」

 いきなり俺の腕に自分の腕を絡めてくるパティ
勢い余って前に倒れそうになるのをどうにか踏ん張る
加減を知らない奴だ、俺の腕が肩から持っていかれたらどうする
ちょっとしたおふざけのつもりが大事になることなんていくらでもあるんだぞ
かばん持ちでランドセルを五個持たされた状態で転んで腕を折った奴を俺は知ってる

「なら私がひっとりで先頭!」
「あ、いいな~」
「早いも勝ちー」
「子供だ…」

 こなたが先頭のコースターの真中に陣取る
ベルトじゃなくて上から端から端までを押さえるバーが降りてくるタイプなのでそれも可能なのだ

 ということで先頭がこなた、次に俺とパティ、その次に柊と日下部で最後にあやのとみなみ
あやのと日下部がコンビ解消したのには少々驚いたが
しかし新コンビの方もなかなか様になってるとも思う

「ではいってらっしゃいませ」

 とスタッフの声と一緒にコースターがゆっくりと加速する
こなたが両手をあげてぱたぱたするのが視界に入って邪魔である

「おいこなた、手をあげるのは上昇したあとに急降下するときだけにしろ」

 後ろから頭を叩き文句を言う俺
常に手を上げて馬鹿ですか、子供め

「なんだよー別にいいじゃんかよ」
「お前ちっこいから中途半端な位置を手がぷらぷらすんだよ」
「なんだと!?」
「よくコースターに乗れたな、もっと勢いのある絶叫系コースターだったら身長制限に引っかかるんじゃないか?」
「130cm以上あれば問題ないでしょう」
「あれ、お前130もあったのか? 初耳だな」
「ムキーッ!」

 絶対に反撃を受けない状況でこなたをからかうのは非常に楽しい
振り返ればできないこともないだろうがこなたも
流石にジェットコースターでそこまで行動起こすほどお馬鹿では無かろうて
はっは、愉快愉快

「くそぅ、降りたら目にもの見せてやる」
「はっは、そろそろお望みの急降下地点だぞ」

 カラカラとチェーンで引っ張り上げられて
もう少しで山なりのレールの頂上付近になる
ふと、右手をパティに強く握られる
そういえばさっきから黙ってるなとパティの顔を窺おうと顔を向けて

「いっやふぅ!」
「のわっ!」

 タイミングよく降下するコースターに首が一気に後ろに持っていかれそうになる
同時にさらに右手を握る力が強くなるパティ

「おい、まさかパティこの手の苦手か?」

 これは比較的ゆるい方のジェットコースターだと思うが
身長制限もないし子供でも乗れるのだから

「え? そ、そんなことな…」
「やふー!」

 引き攣った笑みを浮かべるパティ
そういえばこなたと日下部に混ざって騒ぐのがいつものパターンなのに
今回は柊がその位置にいてパティはみなみやあやのとゆっくりしていた
その辺に俺ももう少し早く気がつけばよかったが…

「いやーほぅ!」
「うるせぇ!」

 こなたが前で大声を上げて最高にエンジョイしてやがる
嫌な有言実行だった

   3.

 ゆっくりと減速、停止
バーが上に戻り乗ったときとは反対にでてコースターから降りる

「なんで最初に言ってくれなかったんだよ?」
「キョンが居れば大丈夫だと思ったんだけどネ」

 すでに普通の笑顔に戻ってるパティ
当然のように俺の手を握ったまま歩いてる
正直止めて欲しいのだが、しかしどうにも言い辛い場面である

「…あぁ、でもあいつらしばらくこの手のを乗りまわすつもりだぞ?」
「なんとかナル!」

 なんとかなるとか、なせば成るって言葉は信用なら無いんだよな
基本的にどうにもならないときの最後の捨て台詞っぽいんだよ

「まぁ無理だったら無理と言えばいいさ、…それに」

 どうやらもう一人この手のが苦手の人物も居るみたいだしな

「大丈夫かみなみ?」
「…その、えっと、なんとか」

 なんでどいつもこいつも無理して黙って乗るのかな
言えよ、本当にさ。みんなで楽しむのに水を差すって考えもわからないではないが
しかしこうなってしまうと、二人には言い方悪いが逆に困る。舵が取り辛い

「おいこなた、このまま連続でハイ&ローなコースターを繰り返していたらこの二人はやばいぞ」

 それに俺も最後まで付き合えるとかわからん位だしな
本来なら二手に分かれるなり、あいつらが乗ってるときに下で待ってるとかもすればいいのだが
…どうにも騒がしい連中が纏まって視界から消えるのは不安でならない気がする

「じゃあハイ&ハイは?」
「死人が増えるな」
「俺の屍を超えていけ!」
「俺はそんなにかっこいいこと言わなくていいから生きたい」
「情けない!」
「ならお前はコーヒーカップを一人で勢いよくやってろ、五回位」

 最悪の気分になるだろうて
確実に吐くぜ? 一回だって酔うときは酔うのだ
回転系のアトラクションはどうにも好きになれない

「まぁ、別れた方がいいんじゃない?
 こっちは私やあやのでどうにか対応するわよ」

 そう提案するのはやはり柊、初っ端から一緒になってた所為かどうにも言葉に重みが無いが
それでもやはりこのメンバーでそういう役割を押し付けられるのは俺以外には柊くらいだろう
あやのは確かに普段日下部とコンビを組んでるときはお目付け役だが
前述の通りなにやら自分の役目をすっかり忘れてるし、元から少し天然の気があるからな
だからその次にはみなみがくるのだが今回は残る側なので

「そうだな、お前達のテンションが少しでも下がる午後までは別れるか
 昼頃に合流すれば良いだろう」

 喋りながら移動し外のベンチ
みなみとパティを座らせその前で俺達が会話してるのだが
その間残った三名は余裕のよしこでマップを開いて
どういう順番で回遊するのが一番効率がいいかを吟味しておった
あの三人とか、柊にはご苦労さんといっておこう
どうせ一緒に騒ぐのだろうし任せてしまえ

「待ち合わせ場所はどうする?」
「一時位に園内レストランでいいだろう」
「了解、あいつらには後で言っとく」

 それが、あいつらと交わした最後の言葉だった…

「おいパティ、変なナレ入れんなよ」
「キョンが構ってくれなくてつまんないんだよぅ」

 足をばたつかせるパティ、まったくこっちはこっちで面倒だなおい

「まぁ、なんかあったら電話するわ」
「あいよ、んじゃそういうことで」

 軽くタッチを交わして柊はこなた達の後頭部をはたいて行ってしまった

「その時、僕達はまだあんな事件が起こるなんて誰も思っても居なかった」
「やめろって言ってるんだよ」

 俺もパティの頭を手の甲で小突く、完全に回復していやがる
見るとみなみもやり取りをみて笑う元気があるようで
どれ、そろそろうろちょろしますかね?

「みなみはもう大丈夫か?」
「全然平気です」

 ベンチから立ち上がり両手でガッツポーズをとるみなみ
足もしっかりしてるし問題ないな

「おら行くぞパティ」
「よく思うけどキョンってあからさまに対応を変えるよネ?」
「まぁな」

 いつもみたいにまた文句をたれるかと少々期待したのだが
まさか手法を変えてくるとは

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最終更新:2008年07月11日 13:33