1.

「エントリー開始、初号機パイロット、サードチルドレン
 起動フェイズを4番から25番まで省略、コード12582652」

 武器は無し、場所は水中、戦闘時間は5分のみ、敵はまだ見ぬ魚型水中戦主体の神人

「不利すぎるだろ…」

 一応持ってきた電源ソケットを背中に差込み甲板から水中を見る

「弐号機の状況は?」
「だめね、敵を捕らえられてないで攻撃されては逃げられて」

 典型的なヒット&アウェイだ、このままじゃ削り殺し状態だ
俺は釣竿のリールのようになってるソケットからケーブルを引っ張り出して
弐号機の影が見える付近の海に飛び込む


 初号機の巨体が海に飛沫を上げて沈む
大量の気泡が青い海水に混じり視界を埋め尽くす
エヴァの装甲の隙間などに海水が入り込みしばらくの間気泡が出続けて
やっと視界が戻るころには相当沈んでいて
コバルトブルーとセルリアンブルーの狭間の色がゆっくりと流れていた
太陽の光は海面の揺れと同時になびいてキラキラと反射する
戦闘中という非常事態を忘れさせる美しさに一瞬目を奪われるが

「くそっ、なにやってんだよ柊」

 弐号機はすでに動きを止めて、無抵抗のまま神人に攻撃を受けている
分厚い数十枚の装甲が攻撃を多少の傷のみで終わらせてるが数を受けてはいずれ終わる
俺は身体を捻って弐号機の横にならび肩に手をかけ直接通信を開く

「おい馬鹿! さっきのシミュの動きはどうしたよ!?」

 返事は返ってこない、攻撃を食らって気絶したとかくだらねぇ落ちじゃねぇだろうな…
俺は一時弐号機との通信を切って周囲を警戒しつつ司令室との通信を開く

「こなた、弐号機の様子が変だがなにか異常があったのか?」
「わからない、ここは本部と違うから細かい判断ができないよ
 ただかがみの方になにかあったんだと思うけど」

 くそ、面倒だな
敵の攻撃を警戒しつつ弐号機のお守りもしないといけないのかよ
俺はもう一度弐号機と通信を開く、声だけじゃ埒が明かん
ウインドウをよういた回線を使ってさい通信

「おい柊! 死にたいのか!?」
「…いや」
「柊?」

 様子がおかしい、操縦桿から手を離して自分の身体を抱くようにしている

「おい! なにをやってるんだ、望みの実戦だぞ!?」

 かろうじて光が届く程度の暗い水深で
ほぼ勘で敵が来るのを感じて俺は右手をかざしてフィールドで防ぐ
敵は大きな口を開けて突進をしてきた格好のままフィールドに衝突
また暗い海に消えていった

「こんなの、訓練と全然違う…」
「あたりまえだ! いいからとっとと動け、足手まといだ!」

 俺は向きを変えて弐号機と背中を合わせるようにしてナイフを取り出し構える
少なくとも警戒する方向は減る、こいつの戦闘意欲の有無に関わらずとりあえずは壁だ

「こんなに怖いと思わなかった、こんなに痛いと思わなかった、こんなに冷たいと思わなかったの」
「黙って構えろ! フィールドを張るだけでいい、それだけでも俺がやりやすくなる!」
「できない…」

 冗談じゃねぇ、なんのための訓練だ実戦の恐怖を感じなくさせる精神面の訓練は基礎じゃないのか?

「なまいってんじゃねぇぞ! やれ!」
「できないのよ! 私はエヴァでA.T.フィールドを張ることなんて出来ないの!」

 柊はウインドウ越しに怒鳴る
目に涙を浮かべながら俺に怒鳴りつける

「そもそもエヴァがフィールドを張れるなんて誰も思ってなかった
 あんたがやるまでずっと”理論上は”っていう言葉がついてただけ
 それは神人以外ではあんたしかできないことなのよ!」
「なんだと?」

 おいおい、まじかよ?
知らないぞそんなこと、そういや長門と零号機が張ったところも見なかったな
言われてみればあの形状変化の幾何学的な奴と戦ったときも
盾だけじゃなくてフィールドも同時展開すればよかったのに長門はしなかった

”できなかったから”ってことなのか?

「まぁいいさ、そんだけ怒鳴る根性あって敵に向かう根性ねぇって事はないよな?」
「…」
「せめて武器を構えろ、前を向け、敵の接近を知らせろ。その程度でいい」

 初号機の後ろで弐号機が動くのを感じた
よし、まだやれる。

「しかし問題は思いっきり相手に地の利があって俺達のアウェイだってことだよな」

 ここは地ではなく水であるがしかしそんなことを訂正するつもりはない
意味が通ればいい、そういった諺や格言や比喩や揶揄に修正を加えてたら
俺の人生は手間がかかってしょうがなくなる

 だが本当にまいったものだ、この地に足つかない浮遊感
四肢を動かすたびにある空気の数倍の抵抗、まとわりつく感覚
特にエヴァの感覚を通して伝わる冷たい水の感覚が嫌だ
人間は基本的に水は怖いんだよ、目をつぶれば自分がこんな深海に裸で居るような気分ですらある

「…まぁならば地に足つけちまえって話か」

 俺はこなたとの通信を開いて、アンビリカルケーブルを限界まで伸ばすように頼んだ

「柊、いまある不安定感のうちの一つだけ俺が解除してやる」
「…え?」

 俺がそういうと柊は不可思議そうに声を上げる
こなたはどうやら俺の指示通りの行動を早急に行ってくれたらしく
ケーブルの余ってる長さを全て伸ばされて、俺達は自身の重量と重力によって沈み始める
つまりは”海底”に向かって段々と近づいていく
ここはもうすぐ日本につく程度には陸に近い比較的浅いあたりで
どうやらケーブルの長さが足りなくなることなく海底につくことが出来た

 つま先で床を叩くように海底の土を蹴り上げる
あまりの暗さになにも見えないが、しかし敵とお互いの機体の位置だけはレーダーでわかる
そしてそれさえわかれば問題ない

「柊、今度は戦えよ?」
「…うん」

 大丈夫そうだな、俺は一応頭部についてる非常用のライトをつける
ほんの一部だが周囲が照らされて、続いて弐号機もライトのスイッチを入れる
地に足つけるために海底に行って、今度は暗闇が怖いじゃ話にならない

「現在レーダーに反応無し、距離は大体500以上って所か」

 一応柊にも聞こえるように言ったのだがしかし返答は無い
まったくとことんやりにくい、これが長門と零号機ならもっと息があうのだろうな
だが無いものねだりをするほど俺も愚鈍じゃない

「反応あり!」

 柊の声が入る
俺は一瞬遅れたのに対しすぐに柊は反応した
さきほどまでの情けない姿ではなく、戦闘に集中しだしてるってことだ

 レーダーを見ると白い点が高速でこちらに迫ってくる
これはかなりの速度だな、レーダーもなしにライトだけを頼りに仕掛けてきたか

 くそ、早い。攻撃は間に合わないな

「A.T.フィールド展開!」

 もう一度フィールドを発生させて俺の目の前で動きを止める
しかし今度はそのまま方向転換することなく体当たりをフィールドにしている
だが、こっちとて今は地に足ついてる。宙ぶらりんじゃ無理だったがここなら…
俺はA.T.フィールドを解除して減速した神人を両手で捕まえる

「ここなら踏ん張れるんだよ!」

 海底の土が重量と勢いに負けて大きく陥没する
先ほどライトで口の中が照らされて紅球が見えたのだが
しかしこれでは攻撃の仕様がない、頭突きで攻撃したらこっちのほうが痛そうだ

「柊! 俺が抑えとくからお前がやれ!」

 指を硬い皮膚にめり込ませて力ずくで動きを止める
だが急がなければこの捕まえ方だと逃げられる
抱え込もうとしたものの俺の腹が食いちぎられる危険性もある

「了解!」

 弐号機がすばやく近づいてナイフを構える

「口の中にコアがある」
「コア?」
「赤い球体の形したこいつらの弱点だよ!」

 俺を噛み砕こうとしてなんども開閉する口から
鋭く鮫のように二重になってる鋸の様な歯が覗く
だが柊はなかなか攻撃をしない、相手は捕らえてるのだからなにを迷う

「片手じゃこいつの口の動きをとめられない!」

 そういうことだった、ナイフでこいつのコアを破壊するためには
片手でナイフを握り、振りかざして切りつけるか突き刺すかしないといけない
だが片手でこいつの口をこじ開けるのは無理だろう
物理的にも力的にも

「…なら別の武器だ!」

 俺は攻撃から逃れようととうとう方向性を変えた動きをする神人をどうにか捕まえながら怒鳴る
柊はだがしかしうまく理解できてない

「単純なことだ、片手で開けないなら両手で口の上下を掴めばいい!」
「だからそうしたら攻撃ができないじゃない!」

 あぁ、冷静さを欠いてる奴に少ない情報での察し合いに似た会話は
逆に時間を浪費するだけなのか、理解した

「お前の弐号機は右のウェポンラックになにが入ってるんだよ!?」
「あっ!」

 やっと気付いたようだった
柊はナイフを収納しなおして両手で口を掴んで少しずつこじ開けていく
神人は俺を喰うことを目的から外した時から弱点の紅球を隠すように
口を頑なに閉ざしてしまっているので少々骨だ

「うわぁぁぁ!」

 柊が叫んだのが聞こえたと同時に弐号機が両腕を広げ
神人の武器と弱点を兼ね備えた口を豪快に開く
こんなでかい口、エヴァも一飲みって感じだな
俺は勝負が決まったのを確信してそんなことを考える

 弐号機は開いた口に上半身をねじ込み紅球に右肩のラックを当てる
バイバイ神人、俺は内心でそう別れを告げる
弐号機の肩からパシュっと音がして七本のニードルがゼロ距離で紅球に刺さる
ガションと薬莢がでて、再装填しもう一発、装填しさらに一発
計三回、二十一本のニードルで剣山になった紅球は輝きを失い
神人も完全に沈黙した

 俺は画面の向こうで荒く息をつく柊をみてから
なにもいわずウインドウ通信を切って司令室に連絡しこなたに引き上げてもらった

 ケーブルを逆巻きして引き上げられる二機のエヴァ
本当につりみたいだと思いながら腰を引っ張られる俺達
初の水中戦で魚類相手によく勝てたと感心しつつ
ゆっくりと明度を増してく水中で見えてくる赤いカラーの
淡く光る海水と対を成す様な弐号機を見る

「…ごめんなさい」

 いきなり柊の声が聞こえた
通信なのはわかるがまさか向こうから繋いでくるとは思わなくて動揺してしまった

「大言壮語の身の程知らずもいいところだったわ
 結局あんたにおんぶ抱っこで足手まといになって」

 俺は口を挟まない、フォローするとこしないとこ
今回は柊に非があるのは事実だし、戦闘中の戦意喪失は本当に致命的なミスだった
俺達だけじゃなく海上の全ての人間が死ぬところだったんだ
それにエリートだの何だの、矜持が高い人間が謝ってるんだ最後まで聞くのが礼儀ってもんだろう

「あんたに迷惑をかけた
 私の不手際でみんなを死なすところだった…」

 ごめんなさい、最後にもう一度謝って沈黙する柊
ここからが俺が喋る場面だ
もう海面までそう距離も無い、言葉を選んで伝えたいことを伝えてきりよく終わらせないとな

「過程はどうあれ結果は敵を倒して、誰も死ななかった」

 柊は答えず俺の言葉に耳を傾ける
スピーカー越しのサウンドオンリー回線だが、それくらいはわかる

「だが、もう一つの結果として今回の戦闘の結果として俺はお前を助けて借りをつくった」
「…うん」

 小さく頷く声に覇気が無い、まぁ素直に受け入れてるのでそれはとりあえず無視

「それでもお前は今回実戦を経験したんだ
 つまりいままでの訓練に匹敵するくらいの経験を積んだ
 だから、次の戦闘では俺に借り返せよ?」
「うん、わかった」

 これで俺からの言うことは終了だ
まったく疲れたが、しかし今回は少し俺の予想が外れたな…


柊とはそれなりに仲良くなれそうだ


   2.

「この間は悪かったな、まさかあんなことが起きるなんて思わなかった」

 学校のHR前の時間
俺は先日の事態について頭を下げる
結局二人を戦闘に巻き込んでしまう結果になった
俺が誘わなければうまく俺達ができなくても
零号機と長門が殲滅してくれる
そうすれば二人には危険がなかった筈なんだ

「いんや~、面白かったぜー。絶対普通じゃ乗れないかんな!」
「私は色々言いたいこともあるけど、まぁちゃんと無事だったんだからいいわ」

 あやのはため息をついて、日下部は俺の背中を叩きながら笑う

「いてぇよ馬鹿」
「あっはっはー、この間お前が海に飛び込んだときに頭うったんだぞー!」

 …べつの事で少し怒ってらっしゃった
バシバシと俺の背中に平手を叩きつける日下部、正直結構痛い

「みさちゃん落ち着いて…、ちょっと衝動的に行動しすぎよ」
「まったくだ、背中が紅葉型にへこむ」

 今回は甘んじて受けるがしかしYシャツ一枚で平手はキツイ
打撃と違ってあとにジンジンと引っ張るダメージなんだよ
SOSの方で格闘訓練等で最近体力をつけてるからまだ耐えられるが

「…お前、力強いな」
「はっはー」

 と、ちょっち話し込んだというかじゃれすぎたというか
まぁ時間を潰し過ぎた様で

「おらー座れ、2馬鹿+優等生」
「座れってよ2馬鹿」
「え! みさちゃんはともかく私が馬鹿!?」
「わたしは馬鹿でもいいけど、キョンが優等生なのは断固却下だ」
「だからとりあえず座れっていってるだろ!」

 短気な担任教諭である
仏の顔は一度で終わってしまった

「へ~い」
「すみません」
「うっす」

 三者三様の返事をして席にようやっと座る
しかし今日はまた珍しく遅刻しないどころか鐘が鳴る直前には教室に入ってくるとは
一体なにがあるのだろうか、なんかしらのイベントがあると思うのだがどうだろう

「正解や、まぁイベントっちゅうか…転校生って奴や」
「転校生?」

 俺もちょいと前までその肩書きを持っていたのだが
この短期間に二人も同じクラスに転校してくるか?
このクラスが他のクラスより生徒数が少ないって訳でもないだろうて

「んじゃ、入ってきていいで~」

 黒井担任にいわれて扉が静かに開くと
薄紫の特徴的な髪の毛の少女が入ってきた

 なるほどこれは流石に遅れるわけにはいかんな先生よ
柊は先の大声でのやりとりで俺の存在に気がついていたのだろう
気まずげに小さく手を上げた

「…やっ」
「…よぅ」

 後ろを振り向くと長門はやはり関係なしに本を読んでいた
ピアノのソロ演奏の楽譜、んなの見て面白いのか?
ずいぶんと雑食派らしい

「やっぱり知り合いか自分」
「えぇ、まぁ察しの通りでして」

 日下部とあやのもこの間会ったばかりの人物が
いきなり転校してきたことに多少驚いているようだ

「まぁええわ、とりあえず岩崎、柊のことしばらく頼むで」
「あ、はい、わかりました先生」

 若干居辛そうにしてた柊は
黒井担任に席を教えてもらうとさっさとそこに移動して座った
どうにも捉えにくい性格である
船での時はあんなに堂々としていたのに

   3.

「よぅ、一昨日来たばかりでよくこんな早く転校できたな」

 第二から第三に引っ越しただけの俺は
しかし初登校したのは二週間程度立ってからだったぞ

「まぁ私がこっちにくるのは結構前から決まってたことだしね」
「先に手続き済ませたのか……」

 そのまえにそんなことできるのか?
できるんだろうなぁ、あぁ面倒くさい

「で、ファーストって誰? 同じクラスなんでしょ?」
「あぁ…まぁそうだ」

 俺はこいつを長門と引き合わせることに若干、やめといたほうがいいんじゃないか?
と、頭をなにかがよぎったものの
しかし同じチルドレン同士結局会うんだし、背中を預けるもの同士早めに交流を持っとくべきだろうと

「あそこで本を読んでる奴だよ」

 長門を指差した

「おい長門! ちょい来てくれ」

 俺が半分仕方なく呼ぶと長門は本をボムッと閉じてこちらを向いた
あくまでもこっちにわざわざきたり、立ち上がったりしないあたりが
程よく長門加減である

「なに?」
「いや、こいつが柊かがみって弐号機のパイロット。昨日正式配属された件お前も聞いてるだろ?」

 長門は一拍置いて、なんだそんなことか、と言わんばかりに
顔を背けてまた本を開いた、なんというなんという

「えぇ」
「だからさ少しチルドレン同士仲良くっつうか、少し交流をだな」
「それ、必要?」
「あぁ」

 ってかお前はもう少しそれ以外にも人間関係を構築しろ
頼むから、あと少しだけでいいから

「長門有希、零号機のパイロット。よろしく」

 一応柊の方を向いてそう長門が一言いって
また本に目を戻す、一時は少しだけこいつのことがわかった気がしたのだがな

「はぁ、変わった子ね。本の虫っていうかさ」
「否定はしないが俺からしたらお前も変だ」

 後半は心の中でだけ言っておく
これ以上一日の受動打撃数を増やしたくは無い
そもそもなんだそのカウント

「ま、あんたもしばらくよろしく」
「あぁ、とっとと借り帰せよ?」
「わかってるわよ!」

 とまぁ前置きはこれくらいか
とりあえず長門と柊両名の顔合わせが済んだ事と
柊が2-Aに転校してきたことがわかればいいさ

 ついでに、さきほどのあたりで柊がエヴァパイロットで
あることも周知の事実になったわけだが
俺の時のハルヒの行動があったためか今回は騒ぎになることなく終了した

   4.

「で、いきなりこれか…」

 海からまるで大の字のような格好で上陸してくる敵
俺と柊はその敵と向かい合って迎撃に当たっていた
ついでに零号機は改修作業は終わったのだが
今回の作戦が本部を離れての戦闘となるため待機だ
しかし、毎度面白い形態をしているな…

「弐号機行きます!」

 スピーカーを通して声が聞こえる
弐号機はソニックグレイブというプログナイフと同じ刃の構造をしてる薙刀を構えて
敵に先んじて攻めに行く

「おい柊!」
「借りはとっとと返さないと気がすまないのよ!」

 あの馬鹿、変な風に気負いやがって
口調では強気だが前回の戦闘を気にしてるのがみえみえだった

「ちっ、初号機フォロー入ります!」

 仕方なくパレットライフルを構えて威嚇射撃をする
弐号機に当てては元も子もないので敵に対する命中率は保障できないがな
海に着弾し縦に幾つも水柱が上がる、ウラン弾は環境汚染が激しいんじゃなかったかねぇ
まったく結局遠回りに自滅してるきもしなくもない戦い
ふと俺が気が抜くと同時に弐号機から柊の声が聞こえる

「うぉりゃぁ!」

 音も無く両断される神人、切れたところからピンクの目に鮮やかな肉が
痙攣しビクビクと波打っている様が見て取れる
今回は失敗せずにうまく事を運べたのかと一息つきかけたとき
俺は敵に紅球が二つあるのに気がついた
それはうまく左右に分断された肉体に一個ずつ配置される形になり
俺をひどく落ち着かない気分にさせた

「ふぅ、これで借りは返したわよね?」

 そういって武器を下ろして
こちらに戻ってこようとする弐号機に向かって俺は怒鳴る

「まだだ、……まだだ柊!」
「え?」

 なんの事かわかってない様子の柊、こいつは紅球に気付いてない
俺の声を受けて漫然と振り返る弐号機の向こう

「なにこれ!?」

 神人は両の傷口から新たに手と足を生やし
プラナリアよろしく二体に分裂しやがった
俺は構えたままのパレットライフルを右の赤い一体に放ち
今度は複数の弾を確実に着弾させる
すると過去にこの武器を使ったときのように硬い神人の表面に砕けることなく
むしろ敵の腕と思わしき部分が粉々に散っていった

「なっ!」

 千切れ飛び、幾分短くなった腕が
しかし数瞬後にはトカゲの尻尾のようにお手軽に回復した

「キョン! 一時後退!」
「了解」

 弐号機は接近で二体に囲まれ先ほどまでの余裕をなくして
薙刀を無闇に振り回す、その一閃が敵の紅球の中心を分かつが
しかしそれすらも効果が無くすぐに直ってしまう

「柊、後退だ。一旦引くぞ」
「う、うん。わかった…きゃぁ!」

 通信を入れたタイミングが悪かったか
俺に返答した一瞬の隙を突かれて敵二体に接近される
すぐにフォローをしようと発砲するもあまりに弐号機に近すぎて攻撃がしにくい

「いやぁぁぁ!」

 弐号機はもうどうにもならんと俺がパレットライフルを捨てて
代わりにナイフで接近して敵を引き離そうとしたが
しかし距離が違いすぎた、俺が走って近づかなくてはならんが
奴らは弐号機に手を伸ばすだけで済むんだからな

 そして二体の敵は弐号機の四肢を掴み力強く放り投げた
エヴァの100メートル近い全長のさらに数倍の高さまで上げられた弐号機
俺はナイフを仕舞いなおして敵に注意をしつつ
落ちてくる弐号機を

「…ぉもっ!」

 なんとか受け止めた、が装甲同士が激しくぶつかり小さく火花が散った
腕が痺れ、海岸の柔らかい地面が陥没する

「くっ、弐号機回収、初号機も帰還します!」

 足元のパレットライフルを再度拾って片手で機銃射撃を行いつつ
俺は弐号機を担いで早急に撤退した

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最終更新:2008年07月03日 22:58