14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 22:42:42.68 ID:Fr2I5kJw0
                   内戦終結! アルビオン大陸で勃発した内戦は、反乱軍の勝利を

                      もって幕を閉じた。アルビオンの新たな政府は自ら『神聖アルビ

                      オン帝国』を名乗り、同盟の締結を発表したトリステインとゲル

                      マニアに国交の回復を求めてきた。未だ軍備の整わない両国は、

                      これに応ずる他なかった。

                      ハルケギニアに平和が戻るかに見えた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 22:46:40.47 ID:Fr2I5kJw0
                  そしてちょうどその頃、ベイダー卿捜索の命を受けて銀河帝国の首

                     都コルサントから派遣された一隻のスター・デストロイヤーが、過

                     去に例のないほどの長期間に及ぶハイパースペース・ドライブを終

                     えようとしていた。ハルケギニア全土を数日で焦土に変えうるほど
         
                     の戦力を搭載して……




(以上オープニング)


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 22:53:38.03 ID:Fr2I5kJw0
時は少し遡り、戦が終わった二日後。照りつける太陽の下、死体と瓦礫が散乱する戦場の
跡を、三人の人影が歩いていた。
その内の一人は聖職者然とした服装の三十代の男。
一人の長身の貴族が彼のために戦場を案内していた。

貴族はワルドだった。傍らにはロープを被ったフーケもいる。

そして、彼らに先導されて歩く一見冴えない中年聖職者にしか見えない男こそ、『レコン・
キスタ』の指導者にして神聖アルビオン帝国皇帝、オリヴァー・クロムウェルであった。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 22:56:31.83 ID:Fr2I5kJw0
「あそこでございます、閣下」
破壊された城門をくぐってしばらくしてから、ワルドは立ち止まってそう言い、前方に見えてきた
瓦礫の山を左手で指した。
彼とベイダー卿が切り結んだ、城内の礼拝堂の跡である。
そこで彼は敗れ、右腕を失った。主を失った服の袖が、ひらひらと風に揺れていた。

クロムウェルが頷くのを確認してから、ワルドは再び歩き出す。
「あんたの腕も落ちてるかねぇ」
そのワルドにしか聞こえない声で、フーケが軽口を叩いた。
ワルドは渋い顔をしたが、あえて何も言い返さず、元は礼拝堂だった廃墟へと歩を進めた


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:01:46.16 ID:Fr2I5kJw0
「こ、これは……」
礼拝堂前の惨状を目にして、最初に口を開いたのはフーケであった。

瓦礫の前の地面に、百を越える死体が散乱していた。
『レコン・キスタ』は王軍の十倍近い損害を出していたので、死体自体は珍しいものでは
なかったが、さして広くもないスペースに密集して倒れ伏すその有様はあまりにも異様
だったのである。

そして、大半の死体は一刀のもとに斬り殺されていた。
ある者は胴を貫かれ、ある者は首をはねられ、またある者は左右に両断されている。
恐怖に駆られて逃げようとしたのだろう、背中から切りつけられた死体もあった。
さらにその傷口は炭化しており、出血はほとんどない。

フーケはちらり、とワルドの腕を見た。この惨状を作り出したのが誰であるか、フーケは即座に
理解していた。
それから慌てて辺りを見回す。
『奴』があの戦を生き残り、まだ近くに潜んでいるかもしれない。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[>>26仕様です] 投稿日:2007/05/29(火) 23:05:24.02 ID:Fr2I5kJw0
ワルドも同じことを考えたようで、右腰に移された鞘から杖を引き抜いた。

「やれやれ、子爵はずいぶんな化け物と戦ったようだな」
二人のただならぬ様子の意味するところを感じ取って、クロムウェルが口を開いた。

「この小隊については、消息不明という情報以上の報告はありませんでした。援軍を呼ぶ
使者を立てる間もなく、一人残らず戦死したということでしょう」

ワルドは吐き捨てるように言った。右腕の傷口がうずいた。

魔法で瓦礫が吹き払われ、ルイズたちが脱出した穴が発見されたのは、それから程なくの
ことであった。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:09:28.32 ID:Fr2I5kJw0
一方、こちらは魔法学院。

ルイズがトリスタニアでアンリエッタに任務の成功とニューカッスル城の悲劇を報告してから、
五日が経っていた。
静養のために一日休んだだけで、到着の翌々日からルイズは授業に出席するようになった。

婚約者であるワルドが裏切り者だったことで、キュルケたちは少々心配をしていたが、ルイズ
自身は思ったほどショックは受けていないようで、すぐにいつもの調子を取り戻していた。
いや、王女からの密命を成功させた自信からか、むしろいつも以上に勝気になっている。
授業中に知識を問われれば率先して発言するし、魔法の実演も進んで行おうとする。
もっとも、すでにルイズの噂は新任の教師にも知れ渡っているようで、その魔法の腕前を披露
する機会には未だに恵まれていなかったが。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:11:23.64 ID:Fr2I5kJw0
そんな風にして、平和を謳歌する空気は魔法学院をも包んでいた。

しかし、ルイズとベイダー卿の平和は、二方面からやって来た請求書によってあっさり破られる
ことになる。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:15:52.20 ID:Fr2I5kJw0
ルイズは昼食を終えると、ベイダーを引き連れて午後の教室に姿を現した。
ベイダー卿を平民と侮る者は、もはやクラスには一人もいない。

あの呼吸音にはまだ慣れないし、ルイズとベイダー卿がやって来るとみなおしゃべりをやめて
沈黙する有様だったが、それでもギーシュを半殺しにした時のように暴れることはなくなった
ため、徐々に受け入れられつつあった。

ルイズとベイダー卿は、ほぼ指定席になりつつある教室の中ほどの椅子に隣り合って腰かけた。
その周りには誰も座ろうとせず、エアポケット状の空間が形成された。
避けられているというよりは、単純にベイダー卿の呼吸音が授業に対する集中を妨げるせい
である。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:18:25.62 ID:Fr2I5kJw0
そのまましばらく待つと、教室の前の扉をくぐり、中年の教師が教壇に上がった。
秀でた額も眩しいミスタ・コルベールである。

彼は昨日まで、土くれのフーケが脱獄した一件で、城下に裏切り者が! すわトリステインの
一大事! と怯えていた。

が、今朝になってオスマン氏に呼び出され、「とにかくもう大丈夫じゃ」といわれたので安心して、
いつもののんきな彼に戻っていた。
もともと彼は政治や事件にはあまり興味がない。興味があるのは学問と歴史と……、研究で
ある。
そんな彼は授業が好きだった。自分の研究の成果を、存分に開陳できるからである。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:21:15.26 ID:Fr2I5kJw0
「こんにちは、皆さん」
にこにこと挨拶をしながら、コルベールは教卓の上に妙なものを載せた。皆の注目がその
異様な物体に集まる。

「それはなんですか? ミスタ・コルベール」
生徒の一人が質問した。

果たしてそれは、妙な物体であった。長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが
延びている。パイプはふいごのようなものに繋がり、円筒の頂上には、クランクがついている。
そしてクランクは円筒の脇に立てられた車輪に繋がっていた。
そしてさらにさらに、車輪は扉のついた箱に、ギアを介してくっついている。

「ほう」
ベイダー卿が珍しく声を漏らした。
ルイズは首をめぐらせて、そんなベイダーを仰ぎ見ながら囁いた。
「知ってるの?」

「あれはエンジンだ。僕も知識としてしか知らない、かなり原始的なタイプのものだが。それに
してもこの星であんなものを作るとは、あの教師、只者ではないな」


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:24:10.66 ID:Fr2I5kJw0
ベイダーの言っていることが理解できないルイズが再び視線を前方に戻すと、楽しくてたまら
ないといった様子で、コルベールが発明品を実際に動かしているところだった。

ふいごを踏んで気化した油を円筒内に送り込みながら、円筒の横に空いた小さな穴に杖の
先端を差し込み、呪文を唱える。
『発火』の呪文だった。
断続的な発火音が起こり、次いでそれは爆発音に変わった。
「諸君、見てごらんなさい! この金属の円筒の中では、気化した油が爆発する力で上下に
ピストンが動いておる」
ピストンの動力がギアを介して伝わり、箱の扉が開いてヘビの人形がぴょこっ、ぴょこっ、と
顔を出した。

教室内に、どうしようもなく白けた空気が漂った。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:28:18.59 ID:Fr2I5kJw0
コルベールは一心に自分の発明品の効能と応用可能性とを説いていたが、生徒は誰もそれを
理解しようとしない。そんな装置を使わずとも、何事も魔法で済ませられる、それが貴族の
子弟たちの一般了解であった。
額が反射する光が、本人の心中を代弁して寂しそうに鈍った。

ひとりベイダー卿だけが興味をそそられた様子だった。
彼は一目でコルベール製エンジンの構造を把握すると、ルイズのノートのページを勝手に破り
取り、同じく勝手に取り上げた羽ペンでその上に何か書き始めた。
ルイズは呆気にとられ、そんなベイダーの様子を横目に見ていた。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:31:23.49 ID:Fr2I5kJw0
「さて! では誰かこの装置を動かしてみないかね? なあに! 簡単ですぞ! 円筒に開いた
この穴に、杖を差し込んで『発火』の呪文を断続的に唱えるだけですぞ。ただ、ちょっとタイミ
ングにコツがいるが、慣れればこのように、ほれ」
コルベールはふいごを足で踏み、再び装置を動かした。ヘビの人形がぴょこぴょこ顔を出す。
「愉快なヘビくんがご挨拶! このように! ご挨拶!」

しかし、誰も手を挙げようとしない。
コルベールはなんとか自分の装置に対する生徒の興味を引こうと思い、『愉快なヘビくん』を
採用したのだが、まったくウケなかったようだ。
コルベールはがっかりして肩を落とした。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:37:11.54 ID:Fr2I5kJw0
するとそこで、やおら『香水』のモンモランシーが立ち上がり、ルイズを指差した。
「ルイズ、あなた、やってごらんなさいよ」

コルベールの顔が輝いた。
「なんと! ミス・ヴァリエール、この装置に興味があるのかね?」
ルイズは困ったように、首をかしげた。

「土くれのフーケを捕まえ、なにか秘密の手柄を立てたあなたなら、あんなこと造作もない
はずでしょ? それとも何? また、使い魔の功績を横取りしたの?」

学校を休んでいる間に、ルイズがまた何やらとんでもない手柄を立てたという噂がいつの間
にか広まっていた。おそらくは口の軽いギーシュの仕業だろう。

そのため、多くの生徒はルイズに対する見方を改めていたが、中にはもちろんそれを面白く
思わない者もいた。
高慢さではルイズに負けないモンモランシーもその一人である。
「やってごらんなさい? ほら、ルイズ。ゼロのルイズ」
ゼロと呼ばれてルイズはかちんときた。モンモランシーごときにナメられては、黙っていられ
ない。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:39:27.67 ID:Fr2I5kJw0
ルイズは立ち上がると、無言でつかつかと教壇に歩み寄った。
すると、前列の席に座った生徒たちが、こそこそと椅子の下に隠れた。

その様子を見て唐突にルイズの魔法の腕前を思い出したコルベールは、その決心を翻そうと
して、おろおろと説得を試みた。せっかく作った装置を壊されてはたまらない。
「あ、ミス・ヴァリエール。その、なんだ、うむ。また今度にしないかね?」
「わたし、洪水のモンモランシーに侮辱されました」
冷たい声で、ルイズは言った。鳶色の瞳が、怒りで燃えている。

「ミス・モンモランシには私から注意しておくよ。だから、その、杖をおさめてくれんかね?いや
なに、君の実力を疑うわけではないが、魔法はいつも成功するというわけではない。ほら、
言うではないか。ドラゴンも火事で死ぬ、と」
ルイズはきっ! とコルベールを睨んだ。
「やらせてください。わたしだって、いつも失敗しているわけではありません。たまに、成功、
します。たまに、成功、するときが、あります」
ルイズは自分に言い聞かせるように、区切って言った。

コルベールは天井を見上げ、嘆息した。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:49:06.36 ID:Fr2I5kJw0
ルイズがふいごを踏むため足を上げようとすると、いつの間にか隣にいたベイダー卿がそれを
制止した。
ざわついていた教室が、瞬時に静寂に包まれた。

「コルベールといったか。この星の技術力で可能と思われる範囲で、僕なりにその装置の
改良案を考えてみた。技術力の不足は魔法で工夫できるだろう。検討してみるといい」
ベイダーはそう言い放つと、ノートの切れ端をコルベールに突きつけた。
コルベールはしばし呆気に取られていたが、紙片に視線を落とすと息を呑んだ。

「こ、これは! す、すす、素晴らしい……! 使い魔くん、いや、ベイダー卿! 少しこれを
お借りしますぞ!」
コルベールは額の汗を拭いながら、持ってきた装置を抱え上げ、「自習!」と叫ぶなり教室を
飛び出していった。

爆発に巻き込まれるのを免れた生徒たちが、一斉に胸を撫で下ろした。


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:53:40.59 ID:Fr2I5kJw0
自習と言われても、その日の授業はこれが最後であったため、さっさと自室に帰ろうとする
生徒が大部分であった。
残りの生徒たちは三々五々おしゃべりに興じている。

ちょうどそこへ、学院で奉公している平民の小間使いがやって来た。

「すみません、ミスタ・グラモンならびにミス・ヴァリエール、学院長がお呼びです」
ルイズとギーシュは顔を見合わせた。


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:56:46.78 ID:Fr2I5kJw0
ルイズがギーシュと連れ立って出て行くのを見送ってから、ベイダー卿も教室を後にした。

ベイダー卿にとって、この星の魔法という技術体系は実に興味深かった。
だが、授業を聞いているだけでは物足りない。

元来学者集団であったジェダイも、そこから派生したシスの暗黒卿も、知識欲が並外れて
強いのだ。

しかしベイダー卿は、そんな知識欲を妨げる問題があるのを、先ほど設計図を描く際に痛感
していた。


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/29(火) 23:59:43.36 ID:Fr2I5kJw0
ベイダーが向かった先は、本塔の大部分を占める図書館であった。

入り口では眼鏡をかけた司書が座り、出入りする生徒や教師をチェックしていた。
ここには門外不出の秘伝書とか、魔法薬のレシピが書かれた書物なんかが置いてあるので、
普通の平民では入れないのである。
ハルケギニアの貴族ではないベイダー卿は最初足止めされたが、軽く手を振るとすんなり
通してもらえた。

三十メイルほどもある書架に、ぎっしり詰まった書籍を見上げて、ベイダー卿は腕組みをした。
銀河の公用語とも、彼の訪れたことのある星々の言葉とも違う見慣れぬ文字が、書籍の背を
飾っていた。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:03:33.16 ID:IvgOszB/0
おそらくここに召喚される際に潜り抜けてきたというゲートに秘密があったのだろう、ルイズたちハルケギニアの住人との会話に不自由はない。
その代わり、文字が全く読めなかった。
コルベールに渡した設計図を描く際にも、文字による説明書きができないため苦労したのである。
ベイダーはフォースを使い、薄めの本をいくつか手元に引き寄せてみた。
そのページを開き、紙面に目を落とす。

「コーホー」
内容が少しも理解できなかった。


110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:05:46.09 ID:IvgOszB/0
いったいどうしたものか、と思案していると、遠くのテーブルに見知った顔を見かけた。

青い髪の小さな少女。
タバサだった。

おそらくは自習になった途端に教室を出、図書館に来ていたのだろう。


118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:10:32.94 ID:IvgOszB/0
優れた聴覚を持つ『風』系統のメイジであるタバサは、ベイダーが図書館に入ってきた直後に、呼吸音によってそれを感知していた。

甲高い声で彼を叱責しようとする若い女性の司書の態度を、手振り一つでコロリと変えさせてしまう手腕には相変わらず感心させられるとともに、どこか可笑しさの感じられる情景だった。

タバサは小さく、本当に小さく、クスリ、と笑みをこぼした。


127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:14:54.05 ID:IvgOszB/0
ベイダー卿はそんなタバサのテーブルに歩み寄ると、許可も求めずに向かいの椅子に腰を下ろした。
「精が出るな。知識はあらゆる力の源だ。励むがいい」
「はい」
タバサはコクリと頷いた。
噛み合っているのかどうか、判断しにくいやり取りだ。

「ベイダー卿も読書を?」
本から目を上げ、タバサが尋ねる。
「そう思ってやって来たのだが、どうやら僕にはこの星の文字は読めないらしい」
ベイダーは手にした一冊の本を掲げて見せた。

公用語の他にいくつもの星系の言葉を理解できるベイダー卿だが、とっかかりも何もない のではお手上げである。


131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:17:23.65 ID:IvgOszB/0
タバサは蒼い、透き通るような目でベイダーの顔を見つめた。
そうしてしばらくすると、再び小さく頷き、驚くべき台詞を口にした。

「わたしが字を教えてあげる」

「コーホー」


136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:19:19.55 ID:IvgOszB/0
「本を眺めるだけじゃ、字は覚えられない」
「アイ・アム・ア・スロー・ラーナー。迷惑ではないのか?」
「かまわない」
タバサはそう言うと、教科書代わりの本を見繕うため、書架に向かって歩いていった。


140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/30(水) 00:21:51.90 ID:IvgOszB/0
一方、ルイズとギーシュはげんなりとした様子で学院長室を退出していた。
ほぼ一月前の決闘で壊してしまった学院の設備の弁償請求が、今頃になって来たのである。

その中には、宝物庫の扉に『固定化』の魔法をかけてくれた『土』のスクウェアメイジに対する報酬も含まれているため、さして裕福ではない軍人の家系の出であるギーシュはおろか、ルイズにとっても相当に痛い出費であった。


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/30(水) 00:26:26.80 ID:iDb4qBqV0
それだけではない。
学院宛に、ルイズに対する請求書が届いていたのだ。

ラ・ロシェールで泊まった最上等の宿からは、宿泊費と一階の酒場の修理費用。
アルビオンに行くために乗り込んだ『マリー・ガラント』号の船主からも、チャーター料が請求
されてきていた。

どうやら宿帳にも船の契約書にも、ワルドは自分の他にルイズの名前を連名で書き付けて
いたらしい。

さすがに、公爵家の娘といえども、小遣いでまかない切れる金額ではない。


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/30(水) 00:29:15.55 ID:iDb4qBqV0
「どうしようか、ルイズ……?」
ギーシュが青い顔をルイズに向ける。
「どうしようもないわ。今月のお小遣いも残ってないし……」
ルイズも肩を落とした。厳格な父母に泣きつくのだけは避けたい。

「アルバイトでもしようか」
「アルバイト?」
ルイズは怪訝な顔をした。
トリステイン王国でも裕福な部類に入るラ・ヴァリエール公爵家の三女には、働いてお金を
稼ぐという発想が希薄なのだ。


151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/30(水) 00:31:22.98 ID:iDb4qBqV0
「そう、アルバイトさ。依頼をこなして報酬を得る。幸いと言うべきか、このところ治安が悪化して
いるので、戦闘が得意な貴族は引く手数多だそうだ」

ルイズは眉をひそめる。
トリステイン国内の治安の悪化は、ルイズの耳にも入っていた。

アルビオンの内戦の大勢が決してから、王党派を見限った傭兵たちが続々とトリステインに
流れ込んできていた。
さらに、内戦が終わってからは、『レコン・キスタ』に雇われていた兵士たちも食いっぱぐれて
トリステインに流入し、盗賊紛いの活動をしていると聞く。
各地の領主も領内の治安維持に努めているようではあるが、何分手が足りなすぎるようだ。

そうなると当然、割を食うのは平民しかいない村である。
ただでさえ小さな村は亜人種や怪物に襲われやすいのに、それらを掃討すべきメイジの
派遣が遅れるからだ。


156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/30(水) 00:33:34.97 ID:iDb4qBqV0
「うーん、まあそれもありかもね」
お金を稼げて感謝もされるなら、それほど悪い話ではない。ルイズは腕を組んで思案した。

「宝探しというのもどうかしら?」
いつからそこにいたのか、キュルケが二人の会話に割って入った。

「あんたは別に関係ないでしょ」
ギーシュはぎょっとして飛び退ったが、突然出現されることにはベイダーで慣れているルイズ
は、落ち着いて応対した。

「つれないわね。こんなに宝の地図を見つけてきてあげたっていうのに」
キュルケはそう言って笑いながら、手に持った羊皮紙の束をルイズの顔に叩きつけた。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 01:36:25.32 ID:z4UHNTfo0
キュルケが怪しい店を巡って買ってきたという胡散臭い地図の束をめくりながら、ルイズは
自室まで戻ってきた。
なぜかキュルケとギーシュもついてきている。

ルイズとしては本当はアルバイトの方がよかったのだが、資産家で有名なツェルプストー家
の出であるキュルケは、報酬を貯めるよりも一攫千金の方が性に合っているようだった。

「それでルイズ、出発は明日の朝でいいの?」
「ていうか、なんであんたもついてくるのよ」
「そりゃ、面白そうだからよ。こないだも結局蚊帳の外で不完全燃焼だったじゃない」
キュルケが口を尖らせた。この赤毛の少女は派手なドンパチが大好きなのだ。
まったくこれだからゲルマニアの野蛮な貴族は……とかなんとか口の中でぶつぶつ言いつつ、
ルイズが部屋の扉を開けると、珍しいことにベイダー卿が不在だった。

「あれ?」
ルイズが首を傾げる。
ベイダーが授業後にどこかに出かけるなんて、ここしばらくなかったことだ。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 01:41:43.96 ID:z4UHNTfo0
「なんだ、ベイダー卿はいないのかい?」
いつの間にかすっかり胡麻スリキャラになっていたギーシュが、拍子抜けした態度で尋ねた。
「みたい、ね。明日のことについて話をしておこうと思ったんだけど」

キュルケが不満そうな顔を浮かべた。
「いーじゃない、あんな奴いなくたって。あたしたちだけでなんとかなるでしょ」
「でも……」
「あなた、ずいぶんあの使い魔にべったりじゃない? あ、あなたもしかして……?」
ルイズの顔が紅潮する。
「なな、な、何言ってんのよ! そそ、そんなんじゃないわよ! ベイダーを抑えられるのは
わたしだけなんだから、目を離すわけにはいかないでしょ!」
キュルケはニヤニヤ笑みを浮かべた。
「あ~ら、そう? ま、いいわ。それよりもタバサよ。あの子は戦力になるし、何よりもシルフィー
ドに乗せてもらわなきゃね。使い魔には後で話しておきなさいな」
キュルケはそう言うと、どこか引っかかるところのある陽気な態度で、タバサの部屋に向かって
歩き出す。
何か弁明しなければ、と感じるルイズは、仕方なくその後をついていった。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 01:48:23.67 ID:z4UHNTfo0
一方、こちらは寄宿舎にあるタバサの部屋。
タバサとベイダー卿が、書き物机に並んで腰掛け、文字の練習をしている。
ベイダー卿はいるだけで館内に威圧感を振り撒くため、教科書代わりの本を見繕った後で
この部屋に移動してきたのだ。

タバサはベイダー卿の語学習得力に舌を巻いていた。「覚えが悪い」などと自分で言っていた
くせに、一通り文字を覚えると、ベイダー卿はあっという間に本が読めるようになった。
だがそれは、ベイダー卿本人にとっても驚きであるらしかった。
「覚えが悪い」などという彼なりの謙遜はさておくにしても、他の言語をここまで早く覚えたこと
はないと言う。
「文字情報というより、別の何かとして解釈しているような感じだ」

タバサはこくり、と頷いた。
事の真偽は不明だが、ベイダー卿は魔法学院にやって来た時から一貫して、違う星から来た
と主張している。
おそらくはサモン・サーヴァントのゲートをくぐった際に、入力された情報を既知の言語体系の
中で捉える、何らかの能力が付加されたのだろう。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 01:53:04.00 ID:z4UHNTfo0
ベイダー卿とタバサが一致して出した仮説は、すぐに証明された。
普段から完璧に言葉を話し、今では難しい文章をもどんどん読めるようになっていっている
にもかかわらず、ひとたびベイダー卿が筆を取ると、初級文法すら間違うのである。

「どうやら本に書いてあることは僕の頭の中で勝手に翻訳されて、それをまたこちらの言葉に
翻訳してから口に出しているらしい。だけど文章を書く面では、この自動翻訳の能力が却って
正確な文法の習得を邪魔しているのだな。……不思議な感覚だ」

ベイダー卿の言葉に、タバサはまた頷いた。
そして、しばらく考えてから、おもむろに口を開く。
「でも、卿はこれで大体の本は読めるようになった。所期の目的は達成されたと思う」
そう言って、ほんのわずかに淋しそうな表情を浮かべた。
タバサは、ベイダー卿が本を読むためだけに文字を覚えようとしているのだと思っていた。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 01:57:42.99 ID:z4UHNTfo0
だが、ベイダー卿自身はそれに満足していなかった。
やはり、設計図を描いて他人に理解してもらうには、文字による詳細な情報が必要である。
今まさに彼が必要としているのは、そのための能力であった。

すでに二ヶ月近くが経過しているにもかかわらず、皇帝からの通信は最初の一度きりである。
彼の頭の中の何かが、皇帝と繋がるチャンネルだけを勝手に妨害しているかのようだった。
これでは捜索の情況がまったく掴めない。

最悪、何年かかるかわからないが、自力での帰還を目指すことになるかもしれない。
ハルケギニアの一般的な技術力では絶望的な話だが、今日の授業でコルベールが教室に
持ってきたエンジンは、この星の製品としてはなかなか見事なものであった。それ以上に、
機械という発想そのものがないこの星でエンジンを発明したことが評価される。

ベイダー卿とコルベールが協力すれば、大気圏脱出も不可能ではないかもしれない。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:02:08.16 ID:z4UHNTfo0
それに、長年この地に留まるとなれば、その間文字を書く機会くらい何度もあるだろう。
だからベイダー卿は、タバサの胸中を知ってか知らずか、こう答えたのだった。

「いや、これではまだ不十分だ。もっと教えてもらえれば助かるのだが」
タバサの顔が、少しだけではあるが、確かにそれとわかるくらいに輝いた。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 02:07:00.50 ID:z4UHNTfo0
「わたしがこれから読み上げるセンテンスを、あなたの知っている言葉で書いてみて。……
そう。今度はその文を次回までに翻訳してきて」
ベイダー卿は言われたとおりにいくつかの例文を紙に書き付け、頷いた。
課題を出されたところで、今日のレッスンは終わりだった。

廊下をこちらへと歩いてくる存在を感知したのはそんな折だった。
フォースが警告を発する。
なんだか非常に厭な予感がして、ベイダー卿は紙片とペンを握り締めてタバサと隣り合った
椅子から弾かれるように立ち上がると、窓を開けて飛び降りた。

呆気に取られるタバサの耳にも、足音と話し声と、それに続くノックの音が飛び込んできた。
「タバサ、いる?」
入ってきたのはキュルケだった。その背後にはルイズもいる。
ベイダー卿が突然部屋から出て行った理由が、なんとなくわかったタバサだった。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 02:12:00.58 ID:z4UHNTfo0
「きゃっ!」

後先をあまり考えずに飛び降りたベイダー卿だったが、着地と同時にその背後から悲鳴が
上がった。
振り返れば、声の主はシエスタだった。驚きのあまり、尻餅をついている。

「べ、ベイダーさん。うう、ひどいです……いきなり空から降ってくるなんて。くすん」
よほど肝をつぶしたのだろう、目尻に涙を溜め、動悸の収まらない胸に片手を当てながら立ち
上がるシエスタ。

「フォースの警告に従ったまでだ」
そう言いつつ、ベイダー卿はシエスタの非難がましい瞳から顔を逸らす。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 02:20:02.47 ID:z4UHNTfo0
シエスタを言いくるめるよりもまずは脅威の存在を確かめることが先決だ、ベイダー卿はそう
判断して、今さっき飛び降りてきた窓に向かって跳躍した。
その跳躍力に驚いてまた腰を抜かすシエスタを尻目に、五階にあるタバサの部屋の窓枠に
うまく取り付く。

ガラスを通して、中の話し声が聞こえてきた。
どうやらルイズ、キュルケ、ギーシュがタバサの部屋を訪問してきたらしい。
ベイダー卿は少しだけ首を傾げた。なぜ自分は彼らを脅威と判断したのだろうか。

もう少し部屋の中の会話に耳を傾けようとしたが、置いてけぼりを食ったシエスタが足下から
声を張り上げた。
「ベイダーさーん! どうしたんですかぁー!?」
ベイダー卿は心の中で舌打ちした。中の連中に聞かれたら面倒だ。

しかたなくベイダー卿が片手を伸ばすと、シエスタの体が宙に浮いた。
「わぁわぁ! わぁ! わたし、空を飛んでる!」
シエスタがじたばた暴れる。ベイダー卿はマスクの口吻部の前に人差し指を立てるジェスチャ
ーをした。
その意図するところがなんとなく伝わったのか、シエスタがうんうんと頷いて口を閉ざした。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:23:55.13 ID:z4UHNTfo0
シエスタは、タバサの部屋の窓を挟む形でベイダー卿と同じ窓枠に降り立った。
その幅は決して広くはないので、空を飛ぶことのできない平民の少女にとってはかなり怖い
はずなのだが、意外にもシエスタは落ち着いていた。

「もし落ちても、ベイダーさんがさっきの力で助けてくれますよね?」
彼女はそう言って微笑み、ベイダーと同じく部屋の中の会話に耳をそばだてる。

「コーホー」
ベイダー卿は無言だった。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:29:21.01 ID:z4UHNTfo0
部屋の中のルイズたちは、宝探しがどうこうという話をしていた。
出発は明日の朝とのこと。
せっかくタバサから文字を習っていたのに、また面倒なことになりそうだ、とベイダー卿は
思った。

「宝探しに行くんですか……?」
辛うじて聞き取れるくらいのささやき声で、シエスタが尋ねてきた。
「どうやらそのようだな」
と、音量を調節しながら、ベイダー卿が答える。

「お宝といえば、わたしの故郷の村にも一つあるんですよ? 『竜の羽衣』っていうんです。
それを身に着けた者は空を飛べるっていう言い伝えで……ま、インチキなんですけどね」
シエスタはそう言い、ペロっと舌を出した。
ベイダー卿はそれには応えなかったが、なんとなく心惹かれるものを感じた。

考えてみればパルパティーン議長救出作戦以来、あまり飛ぶ機会に恵まれていない。
さらに、ハルケギニアに召喚されてからは皆無だった。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:34:22.86 ID:z4UHNTfo0
「でも、見た目はなかなか立派なので、一度ベイダーさんに見てもらいたいな。ううん、それ
より、わたしの故郷、タルブの村っていうんですけどね、とっても広い、綺麗な草原があるん
です。春になると、春の花が咲くの。夏は、夏のお花が咲くんです。ずっとね、遠くまで、地平
線の向こうまで、お花の海が続くの。今頃、とっても綺麗だろうな……」
足場の不安定な高所にいるにもかかわらず、シエスタは思い出に浸るように、目をつむった。

「そうだ、宝探しにわたしも行っていいですか? そうすれば……」
――ベイダーさんと一緒に草原が見られる、と言おうとしてシエスタが目を開いた時、すでに
ベイダー卿の姿はそこになかった。

「……あんたが来てどうすんのよ」
代わりに、ルイズが窓から顔を出していた。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:39:37.40 ID:z4UHNTfo0
「ひゃっ! ミス・ヴァリエール! きゃっ……わ、わわ……!」
驚いた拍子にバランスを崩し、窓枠から落っこちそうになるシエスタの腕を、慌ててルイズが
ひっ掴む。

「こ、こら! ちょっと……勝手に落ちないでよ! こんなとこで何やってんの?」
「いえ、えーと……」
パニックになりかけながらキョロキョロと視線をさ迷わせると、いつの間にかまた地面に飛び
降りていたらしいベイダーが、小さくかぶりを振るサインを送ってよこすのが目に入った。
なんとか誤魔化せ、ということらしい。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 02:46:00.90 ID:z4UHNTfo0
「そ、そう! 窓の掃除をしていたんです! そしたらたまたまお話が耳に入って……」

「それで? 宝探しについてきて、どうしようっての?」
そう尋ねたのはキュルケだ。タバサとギーシュも窓辺に集まってきていた。
「え、えーと。なんでもいいから皆さんのお手伝いをしたいな、と思って……」
「ダメよ。平民なんか連れてったら、足手まといになるじゃない」

「バカにしないでください! わ、わたし、こう見えても……」
キュルケの言葉を聞き、シエスタは拳を握り締めると、わなわなと震えた。
腕を掴んで支えてやってるルイズにはいい迷惑だ。

「こう見えても?」
キュルケは、まじまじとシエスタを見つめた。自信ありげな態度である。もしかしたらこの平民、
ルイズの使い魔と同じように特殊な能力を秘めているのかもしれない。

「料理が出来るんです!」
「知ってるよ!」
その場の全員が、シエスタにつっこんだ。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/04(月) 02:52:50.23 ID:z4UHNTfo0
「でも! でもでも、お食事は大事ですよ? 宝探しって、野宿したりするんでしょう? 保存
食だけじゃ、物足りないに決まってます。わたしがいれば、どこでもいつでも美味しいお料理が
提供できます!」
シエスタはそう宣言すると、胸の前で握り拳を固めてガッツポーズを取った。ルイズはそろそろ
腕が痺れてきた。

「でも、あなたお仕事あるでしょう? 勝手に休めるの?」
顔を真っ赤にして踏ん張るルイズを無視して、キュルケが眉根を寄せた。

シエスタの言うとおり、貴族である彼女たちは不味い食事には耐えられないが、厨房を切り
盛りするコック長が厳しい人間であることも聞き及んでいる。

「大丈夫です。コック長に『ベイダーさんのお手伝いをする』って言えば、いつでもお暇はいた
だけますから……」
そこでシエスタは失言に気づき、口を噤んだ。
この部屋で、ベイダー卿の名はまだ出ていなかったのだ


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 03:02:13.43 ID:z4UHNTfo0
ギーシュは何とも思わなかった。ベイダー卿はルイズの使い魔なのだから、一緒に来て当然
だし、シエスタもそのつもりで名前を出したのだと思っていた。最も自然な反応である。

しかしながら、さっきまで一緒にいたタバサは、ハッとして少しだけ身を固くしていた。

一方、キュルケは考えた。
コック長のマルトー親父は、ベイダーの崇拝者である。たぶん、シエスタの言うとおりになる
だろう、と。

そしてルイズは、予期していなかったベイダーの名を聞き、シエスタに詰め寄ろうとした。
そして当然のことながら、突如支えてくれる力が消失してバランスを崩したシエスタの体重に
引っ張られ、悲鳴を残して彼女もろとも真っ逆さまに転落した。


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/04(月) 03:08:34.63 ID:z4UHNTfo0
キュルケたちが慌てて『レビテーション』の呪文を唱えるより早く、地上にいたベイダー卿が
フォースで二人を受け止め、そろそろと地面に降ろした。

そして、地面にへたり込んで涙目で見上げるルイズに向かい、言い放つ。
「奇遇だな、マスター」
一瞬湧き上がった疑問がショックで吹き飛んだのか、ルイズは大人しくこくり、と頷いた。

ルイズが簡単に丸め込まれたのを見て、必死で誤魔化した挙句死ぬ思いをしたシエスタは、
なにやら釈然としない気がしていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年12月21日 20:03