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600 :アレティエ一歩手前:2008/04/14(月) 11:23:03 0

待機中に突然僕の私室にやってきたティエリアは、部屋に入って僕の顔を見た途端、俯いて黙り込んでしまった。彼が僕の部屋に来るなんて珍しい……というか、初めてのことだ。
ティエリアとは、ミッションに関すること以外ではほとんど交流がなかったけど、僕はひそかに彼と仲良くなりたいと思っていたから、少し嬉しい。
「ティエリア、どうかした?」
「……ああ、実は……。その、君に、話があって来た」
ティエリアは、いつだって物事をはっきり言う――たとえそれが相手の感情を傷つけるような言いにくいことだったとしても。ティエリアの口ぶりはいつになく歯切れが悪かった。それに今日の彼はどこかそわそわしている。話というのは、もしかして何か悪いニュースだろうか?
「ティエリア、ここじゃ話しにくいんだったら、食堂にでも、」
僕がそう言いかけると、ティエリアは片手をあげて僕の言葉をさえぎった。
「ここでいい」
「そう? 君がそういうなら……。話ってなんだい?」
ティエリアは何かを決心したようにきっと顔を上げた。思いつめたような険しい表情をしている。
「話というのは、君の……君と俺のことだ」
僕とティエリアの話? いったい何だろう? 最近ティエリアと組んだミッションでは大きな失敗はしていないはずだけど……。
「最近気が付いたんだが……君がそばにいると、俺は……俺は、」
ティエリアは胸のあたりをぎゅっと手で押さえ、声を絞り出すように言った。
「……君と同じ部屋にいるだけで、俺は胸がしめつけられるように苦しい……」

彼の言葉に、てっきり(君はガンダムマイスターにふさわしくない)系のお説教を聞かされるものだと思っていた僕は、予想が外れてぽかんとしてしまった。
「……特に君が近くにいて、君との身体的接触を伴う場合には、生理的反応が著しい。心拍数と呼吸数が上昇して、筋肉が過度に緊張し……何にも集中できなくなる……」
話すうちに囁くような小さな声になってしまったティエリアの声を聞き取ろうとして顔を近づけると、ティエリアは飛びのくような勢いで身を引いた。
「離れてくれ! 君が近くにいると、落ち着かないと言っている……!」
顔を覗き込むと、ティエリアは首筋まで真っ赤になっていた。心なしか目が潤んでいる。
「俺が思うに、これは……俺は、」
ハレルヤ……これは、ひょっとして……。僕は自分の想像に、頭に血が上るのを感じた。
もしかして、もしかしてだけど、ティエリアは僕のことを……
「俺は、君の脳量子波の影響を受けて、生体に異常をきたしているらしい」
……って、ええっ!? 脳量子波?
さっきとは違った意味で予想が外れて、僕はまたぽかんとしてしまった。今度はさっきよりもショックが大きい。ティエリアはそんな僕の様子に構わず、せきを切ったようにしゃべり続けている。
「他のマイスターやクルーにも聞いてみたが、どうやら現時点でこのような症状が出ているのは俺だけだ。俺は君と組むことが多いから、他の者よりも脳量子波の影響を多く受けてしまったのだろうと思う」
……み、みんなに話したの?
「これ以上、君の脳量子波の影響を受け続けていたら、俺はどうなってしまうか分からない。今、ドクターモレノに言って調べさせているから、原因がはっきりして対処方法が見つかるまで、ミッションで君とは組まない方がいいという結論に達した」
え、ええっ! 僕はあっけにとられてしまい、黙ったままティエリアの話を聞くしかなかった。
「待機中もなるべくトレミーと地上で別れていたほうがいいだろう。ヴェーダとミス・スメラギにそう提言しようと思うが、君も異存ないな?」
まくし立てるようにそこまで言ってしまうと、ティエリアは僕の返事を待たずに身を翻した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、ティエリア!」

そのまま部屋を出て行こうとしていたティエリアを、僕は腕をつかんで引き止めた。
「……っ! な、何だ!」
僕は……、まだ自分の気持ちだってはっきりしないけど、このままこんな風に離れ離れになってしまうのはイヤだ……。
「ティエリア、……僕ね、君の胸の痛みを少しでも緩和する方法を知っている、と思う」
言うべきだろうか? その胸の痛みはちっとも心配することはないと。君はきっと僕のことが好きで、胸の痛みや動悸はそのせいだからと。そして……たぶん僕も君が好きなんだと。
「なに?」
……結局、僕は何も言えないまま、ティエリアの背中に腕を回して、彼を優しく抱きしめた。ティエリアが息を呑んで、腕の中で体をこわばらせるのが分かった。
「は、離せ!」
「ティエリア、力を抜いて大きく息を吸って、そう。今度はゆっくり吐いて……。どう?」
小さい子をあやすように背中をさすって深呼吸を促すと、ティエリアが腕の中で力を抜くのを感じた。
「……驚いたな……。胸の痛みが消えた」
ティエリアは僕の肩に頭を預けて、ほぅっと息を吐いた。
「そうか、こうやって脳量子波を発する者と影響を受ける者の距離が限りなくゼロに近づくと、互いの脳波が打ち消しあうのかもしれない」
ティエリアは普段の調子を少し取り戻して、僕の耳元で状況分析を始めた。彼の吐息が首筋にかかって、今度は僕の方が落ち着かない……。ティエリア、僕は君のことが……君が……。
好き、と言おうとして、どうしても言葉にできない。それでも何とか想いを伝えたくて、僕はティエリアの頬に手を添えると、唇にそっと口付けた。
「な、何をする!」
それは触れるだけのキスだったけれど、ティエリアをひどくびっくりさせてしまったようで、僕はあわてて彼の背中に回していた方の腕を解いた。
「ご……ごめん!」

ティエリアの気持ちを確かめたわけでもないのに、我ながら大胆なことをしてしまった。恥ずかしくてティエリアの顔をまともに見られない。
「アレルヤ、ミッションの話だが……」
そうだった。ティエリアの問題は結局解決していないのだ。僕は絶望的な気分になった。それでなくても、無理やりあんなことをした僕とは、ティエリアはもう組みたくないと言うに違いない……。
「……たとえ俺が君の脳量子波の影響を受けても、君が、さっきのように対処処置を取ってくれれば、ミッションの遂行に問題ないだろう」
対処処置? ティエリア、それは……。
「ヴァーチェとキュリオスは相性がいい。君と組めるのなら……それが一番だからな」
あぁ、君って人は……。あたたかい気持ちが胸の奥に広がるのを感じる。
抱きしめてキスまでしたのに、僕の意図が伝わっていないことを少し残念に思ったけど、僕にはその言葉だけで十分だった。いつか互いに本当の想いを言葉にして伝えられる日が来るといいのだけど……。
「ティエリア、僕にできることなら何でも協力するよ」
ティエリアの目を見てそう言うと、彼はまた赤くなってしまった。そんなティエリアがいとしくて、僕はもう一度ティエリアを腕に収める。しばらくして、ティエリアも僕の背中に腕を回してしっかりと抱きしめ返してきた。
「次のミッションまで時間がある。それまでこうしていてくれ」
――僕たちは、次のミッションの作戦会議を始めるからとスメラギさんが呼びにくるまで、長い間、互いを抱きしめあっていた。

それからというもの――作戦会議室で、マイスター待機室で、食堂で、展望室で――時と場所を選ばず、人の目を気にすることもなく、トレミー内のありとあらゆる場所で、
「脳量子波が及ぼす悪影響への対処処置」と称して、熱い抱擁を交わすアレルヤとティエリアの姿が見られた。そしてそれは、ティエリアが真実に気付くまで、しばらくの間続いたのだった……。

おしまい