新・アリス×ゆっくり魔理沙2




「おわった?」
「もう少しよ……はい、終わり」
ゆっくりまりさに帽子をかけながらアリスはそう言った。
「すっきりしたよ!」
今までじっとしていた分を埋め合わせるかのようにまりさはそこらじゅうを跳ねまわった。
「家具にぶつからないように気をつけてよ」
「ゆっくり、ゆっくり」
返事か鳴き声か判別しにくい声をあげながらまりさは相変わらず跳ねまわっている。
「さて、これぐらいあれば……二、三体分ってところかな?」
敷物の上に落ちている金色に輝く髪を集めながらアリスが呟く。
まりさの髪は人間と同じように切ってもすぐに生えてくる。人形の素材には最適だ。別に人間の髪を使ってもいいのだが、自分の髪を使うと人形が盗まれたときに困ったことになる。同様の理由で人に頼んでも断られるだろう。現に、一度魔理沙に髪を切らせて欲しいと頼んだことがあるが、「呪う気か?」と一蹴されてしまった。
ゆっくりなら人畜・妖畜ともに無害な生物だから髪を採集しても特に問題はない、というわけだ。
「さて」
そろそろお茶の時間だ。今日はうるさいのはいないし、静かにお茶を楽しめる。今日だけと言わず、彼女はしばらく来ないだろうが。
「まりさ、来なさい。お茶にするわよ」
「いつものゆっくりするの?」
「ゆっくりじゃなくてお茶よ。いい加減覚えない」
「ゆっくり、ゆっくり」
アリスは小さな溜息をついた。知恵が一向につかないのは困りものだ。もっとも捕まえた直後に比べればだいぶましにはなっている。騒ぎすぎない、暴れすぎない。……たったこれだけのことを教えるために何度折檻したことか。
「ゆっくり、ゆっくり」
アリスはまりさを抱き上げる。
「貴女、他のこと言えないの?」
「ゆっ?」
ふう、と今度は聞こえるほどの大きな溜息をつく。
「……ま、仕方ないわね」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、お茶の用意に取りかかる。
「お茶受け何にしようかな……」
戸棚を開いてみると、一種類のお菓子がほとんどのスペースを占有していた。パッケージにはゆっくりまりさのイラストとともにこう記してある。
"銘菓 ゆっくり大福"
「いくら売れたお礼だからって、こんなにいらないのに……」



先日のこと。
ちょっと前に人間の里で人形劇をしに行ったのだが、その時に一体人形を忘れて帰ってしまった。そのことに気づいたアリスは、再び里に受け取りに行くことにした。これほど短い間隔で人里に行くのは久し振りのことである。
馴染みのある製菓店に挨拶に行ったところ、そこの店主が人形を預かってくれていた。
「これですね。はい、人形」
「ご迷惑おかけしました」
「いいんですよ。マーガトロイドさんにはお世話になってますし。ところで、先日お渡ししたお菓子は召し上がられましたか?」
「ええ、とても美味しかったです。あれなら紅茶だけでなく、飲み物全般に合うと思いますよ」
「そうだとは思うんですがね……」
「何か問題でも?」
「ええ、大したことじゃないんですが……売上がどうもよろしくないのですよ。味は確かなんですけどね……商品のインパクトが薄いんでしょうか」
アリスは陳列棚に置いてあるパッケージを見た。確かに地味である気もする。
「惜しい気分ですよ。まったく……」

「ゆぎーっ!!!」

突如店の奥から悲痛な叫び声が聞こえる。直後、アリスにとってあまり愉快でない人物を想像させる人物の頭がアリスの顔めがけて飛んできた。
「あうっ!」
「ゆぃっ!」
物体は顔面に直撃したが、弾力豊かだったので対した痛みはなかった。
「あああ! 起きたのかこいつ! 申し訳ありませんマーガトロイドさん!」
店主が慌てふためきながら飛んできた物体を拾い上げる。
「ゆっくりはなしてね!!!」
店主の腕の中でアリスの見なれた顔が暴れまわっている。
「ま……まりさ? の、頭??」
「ん? 確かにこいつは自分のことをまりさと言ってますが、どうしてそれを?」
「い、いえこちらの話です。……これは?」
「ゆぎゃー!!ゆぎゃぎゃー!!」
店主に掴まれているのが嫌なのか、猛烈に暴れまわっている。
「静かにしろ! ……こいつは最近この辺に現れたんですよ。店の商品を荒らして食べていくので手を焼いていたんです。人間を襲ったりはしないようですし、見た目が見た目ですから子供の評判も良くて、処分するには忍びなくうちで預かっているんです。全く懐きませんがね」
「ゆっくりしね!!!」
「あいてっ!」
店主の腕を噛み、怯んだ隙に魔理沙の頭は飛び出した。素早くアリスの元に這い寄る。
「ゆっ♪ ゆっ♪」
アリスの脚に頬を摺り寄せている。
「……懐いてますね」
「……そうみたいですね」
アリスは考えた。これはひょっとして魔理沙そのものなのでは? 魔法に失敗したか、誰かにこの姿にされたか。それで自分に助けを求めているのでは? あるいは、幻想郷の誰かが、魔理沙そっくりに誰かが創りだした生物……だとしたらなぜ人里に?
(いずれにせよ、興味深い生き物だわ。研究の価値はありそうね)
下を向いてアリスが答える。
「あなた、名前は?」
「まりさだよ!」
アリスはまりさと自称する物体を拾い上げた。先ほど顔面で確認したとおり感触は柔らかく、粘り気のない餅のようだ。……ここの新作のお菓子に感触が似ている。
「この子、処分に困っているようでしたら、私に引き取らせていただきませんか?」
「え! それは構いませんが……今はおとなしいですが、暴れたり食い荒らしたりするかもしれませんよ」
「構いません」
アリスはにっこりとほほ笑み、そう答えた。
「そうですか、それは助かります」
アリスは時計を見た。もうすぐ昼時だ。店も忙しくなるだろう。
「では、お邪魔にならないように、私はこの辺で」
「あ、はい! またいつでもこちらに遊びに来てくださいね」
「はい、ぜひ……あ、新作のお菓子ですけど、この子をイラストを使ったらどうですか? 饅頭見たいな形してますし」
アリスはまりさを軽く揉んで感触を再確認する。やはりこのお菓子に似ている。
「ふむ、確かに独特の顔をしてるんで受けるかもしれませんね……でもそうなると、今の名前と合わないので名前も変えた方がいいですね。どんな名前がいいかな……」
「ゆっくりしていってね!!!」
店主がまりさをじろじろと見ていると、まりさがそう叫んだ。
「……そうだ、ゆっくりだ! この顔に合うイメージはまさにゆっくり。『銘菓 ゆっくり大福』! これで行こう!」
(……変な名前)
アリスはそう思ったが、胸躍らせている店主に水を差さないように黙っていた。

後日、ゆっくり大福は爆発的なムーブメントを引き起こした。独特なまりさのイラストと"ゆっくりしていってね!!!"のキャッチフレーズが受け、若い女性と子供を中心に大人気を博した。
……そのうちに彼女を表現する記号の羅列が電子の海を駆け巡ることになるのだが、それはまた別の話。



文化的にほとんど人里と隔絶された幻想郷にも流行りの波は徐々に押し寄せていた。お茶を嗜み、または菓子類を好む者たちの間でひっそりとゆっくり大福は流通していった。
博麗神社。ここの巫女も例外ではなく、どこからかゆっくり大福を手に入れてその味にすっかり夢中になっていた。今ではお茶を飲みながら毎日のようにつまんでいる。
「ゆっくり、ゆっくり」
最近現れた自分そっくりの頭もこのお菓子が気に入ってるようだ。
「よーっ、霊夢。遊びに来てやったぜ」
頼んでもないのに魔理沙がやってきた。まあこちらも暇だったし、お菓子も美味しくて機嫌もよかったので、魔理沙にも振舞ってあげることにした。
「れ、霊夢? それは……」
お菓子を見た魔理沙が驚いている。いや、怯えている、という方が正しいのだろうか。そういえば前から気になっていたが、菓子袋に描いてある絵は魔理沙に似ている。

「この袋に描いてある饅頭の絵って魔理沙そっくりねえ、うふふ。魔理沙も食べると甘いのかしら」

「お、お前もか、霊夢ーーーっ!!」
「わっ!」
いきなり叫んだかと思うと、魔理沙はよろめきながら箒に乗って飛んで行った。
「……なんなの」
「ゆっくりしてないね!!!」



「くそう、霊夢もおかしくなっちまった。アリスが妙なこと吹き込んだのか……」
箒の上で胡坐をかき、腕をながら魔理沙はこれからどうするか考えた。
「……パチュリーのところに行くか。さすがにあいつは大丈夫だろう」
(略)
「は、謀ったなパチュリー!」



激しく飛び回り疲弊した魔理沙は箒の上に寝そべって息を切らしていた。
「ひぃ、ひぃ、ふぅ……ぢ、畜生、幻想郷はいつからカニバリズムの聖地になったんだ。迂闊に降りるわけにもいかないぜ……」
魔理沙の奇行はしばらく続くことになる。

銘菓 ゆっくり大福は某所からネタをお借りしました。
新・アリス×ゆっくり魔理沙3に続く
  • 魔理沙カワイソスwwwwこれは新鮮でいいな、GJ -- 名無しさん (2008-07-19 16:33:27)
  • これはいいw -- 名無しさん (2008-07-25 09:39:57)
  • (゚Д゚)・・・ -- 名無しさん (2008-10-03 18:04:51)
  • ドタバタは皆さんお好きなようで! -- Jiyu (2008-10-05 23:44:15)
  • 本家寄りの世界観でこの奇劇ww スバルスィ(意味不 -- 名無しさん (2008-12-09 02:08:32)
  • ゆっくりがほしい・・・ -- 名無しさん (2009-08-08 10:14:00)
  • たのしい -- 名無しさん (2010-11-27 17:28:26)
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最終更新:2010年11月27日 17:28