「壊れちゃうんですね、これ」
作業員達が黙々と爆薬を仕掛ける。自動開閉にあわせて吹き飛ばす為の仕掛けや、狙いをごまかすためにほかの部分との連携のために積み込まれた品々を誰もが黙々とつけている。
ダム、よけ藩国の食糧危機を何度も救い、その修正値から、いざとなったらこれで、等と冗談交じりにも語られてきた最後の切り札だ。
でも、結局戦場は移り変わり、ただ笑い話としてのみ残るとおもっていた、良いモニュメントってかんじで。
でも、なぜだかこれから始まる、限りなく絶望的な戦いの最後の切り札としての役目を背負うことになる。
「なんかこう、申し訳ないっすね」
「酷使して、酷使して、最後はドカンだからなあ」
作業に携わるのはほとんどダムの管理にかかわってきた人たちだ、最後は自分の手でやらせてほしいといわれ、作業を手伝って貰っている。
爆薬がセットされ、放水部分の水の残量も規定値、下流では、人々が偽装のために財産を残したまま退去している。
これですら、よけ国の実力では、敵に一撃を与えることが出来るかどうかあやうい、そもそも先に殴られたら終わりだ。
でも、やるのだ、無駄になっても必要でなくても、最後の一つまで使い切る。
遠距離無線での装置と有線をくみ分ける、一人、だけ、近くの施設から隠れてスイッチを押すため残った。
空が綺麗に晴れている。
静かだった、静かな空に、大きな音が響いていた。
濁流が、全てを呑み込むために動く
(嘉納)
ダム爆破……
ニューワールド暦xx年 よけ藩国 ダム爆破前
よけ藩国の、作業員達は、これから自分達の手によって爆破されるダムを見上げながら爆破が及ばない場所へと移動をしていた。
「俺達が作ったこのダムが……俺達がいつも見てきたこのダムが…もうすぐ……消え去るのか……」
そう誰かが呟いた……しかし…その顔に後悔の念は欠片も無かった。
そのダムの内部には遠隔操作の爆薬が多量に仕掛けられていた、
内部のエレベーターシャフトや柱などには赤く点滅する起爆装置つきの爆薬があちこちに見受けられ、
起爆にはパスの入力後にスイッチを押すことにより強度の脆い所から徐々に爆発していく仕組みとなっていた。
全ては国を守るためにこの国の建築士達が…いや…全ての国民達が下した苦肉の決断である。
生き残れば作り直すことができる…生き残らなければ全てが終わってしまう、
ならば俺達は、私達は。我々は、生き残る為に力をあわせよう、皆で自らの帰る場所を守ろう。
そうした想いの中で仕掛けられた爆薬のスイッチが、
ダムの爆破範囲の外で待機していた一人の作業員の手によって押されようとしていた……
そして……スイッチは押された……物凄い爆音と煙が立ち上がり、そしてそれが晴れたとき……
(爆破スイッチ/からす)
ダムはまだその場所に鎮座していた……その光景を見た作業員がもう駄目かと思った…その時……
(ダム/森沢)
ダムはゆっくりと崩れ始め、よけ藩国を支えてきた命の糧は、国民を守るための『力』濁流となり、
その猛威を国民の帰る場所を奪おうとする者達を飲み込むために下流へとに向かって行った。
(神楽坂・K・拓海)
【ダム、爆破したあとに】
「いやぁ、実にすがすがしく行ったね。どかんと」
「のうきん」こと青にして紺碧が能天気に口を開く。
「確かに、このダムは1ターンかけて自動再生するけれど、それにしてもまぁ……」
「爆破しすぎです。もうちょっと大事にしてください」
「「ごめんなさい」」
ダム設計者にしてよけ藩国の建築家、森沢がよけ藩国の摂政2名を正座させている。国王がいないからと、ダム爆破に同意、指示したこの2名をどうしてやろうかと頭の中で考える。
「こんなこともあろうかと、自己再生機能、つけておいてよかったです」
「うん、だってそれがあるから爆破しようって思ったわけだし」
「あのね!何も爆破する必要は、どこにも、まーったくないんです!あれは排水口を全部閉じて、満杯にして、あふれると同時に、排水溝も全部開けば、いわゆる決壊状態になって水がまとめて流れていくんですよ!それくらい学校で習わなかったんですか?」
「「……ごめんなさい」」
「罰として、二人にはダムの再生が完了するまで毎日交代でダムの調査を行なってもらいますからね、いいですね!」
「「……はーい」」
教訓。
何事も悪乗りで決定してはいけない。
(青にして紺碧)
最終更新:2007年08月05日 18:12