ぱたん。

 軽く、長門の本を閉じる音が聞こえる。
……まさかお前までこっちに興味を示した訳じゃないだろうな?
聞きたいのだが、差出人が来たいまそれは叶わない。
仕方ない、いまは目の前の朝倉に集中にするべき…

「――っ!?」

 キスを、された。
 唐突に、いつの間にか接近していた朝倉に。

「どうしたの?」
「…どうしたもこうしたも」

 背後の茂みが怖いって言う。

「ここに来てくれたってことはいまの彼女から私に乗り換えるんでしょ?」
「いや、そうじゃなくてだな…」

 生徒会書記をやっている朝倉の事は、まぁ一生徒として知っていた。
が、こうして向かい合うのは初めてで。……こんな性格だったのか…
なんと言うか、まぁイメージなんてそんなモノだ

「ん~? あっ二股かけようとしてる? 私はいいけど」

 そう言ってさらに身を寄せようとする朝倉に俺は死を覚悟した。
いつか喜緑さんに言われた言葉が脳に過ぎる

「いや、だからそうじゃなくてっ!」
「あのね、キョン君はあなたにお断りの旨を伝えるために来たのよ。
 朝倉さん生徒会書記をやってるのに回転悪いのね」

 隠れて居たあやのが現われて、俺と朝倉の間に入り込み言う。
そこに普段の柔和な笑みはなかった。

「…あら、そうなの?」
「まぁ…そういうことだ」
「わかったら、もう言ってくれるかしら?」
「…なぜ?」

 なぜ俺はこんな険悪なオレンジロードもどきを体感してるのだろうか?
誰か俺にご教授願いたい。

「ふふっ、いいわ。目的の一つは諦める」

 朝倉はふと笑みを浮かべて、俺達から少し距離を取り、
あやのに対し「そんなに怒らないでよ」と苦笑いを浮かべる朝倉。
いや、俺が言うのもなんだがキスしておいてそれは無いだろ…。
もう少し殊勝な態度の一つは取れないものか。逆の立場で俺ならすでにストリートバトルに発展してるぞ。

一歩。朝倉が首を傾げてから離した距離を詰めた時。
ドンとあやのがその距離以上に俺を押して朝倉から遠ざける
と同時に長門と柊も姿を現して、朝倉に対して構える。

「お、おいあやの。いくらなんでも少し落ち着け! お前らもなんだいきなり!?」

 まさかそこまであやのが怒りに奮えていたのかと思い。落ち着かせようと
手を伸ばした所で、遅ればせながらやっと気付く。
あやのはそんなこととは別の次元で、朝倉と対峙していた。

「あんたこそ落ち着きなさいよ! 言い寄られてパニクってるの?
 あんたそいつが今さっき言った言葉をよく考えて見なさい!」

 先程の言葉

゙目的の一つは諦める゙
目的ってなんだ? 一つってまだ他に俺に用事が? それは一体なんだ?

 一歩。自分の意思で俺は前に進む。
俺の前に立つあやのの肩に手をそえて退いて貰い、さらに一歩。

「本題を、聞かせて貰おうか」
突然草むらから続けて現われた野生の柊と長門にしかし朝倉は、思えば大した反応を見せやしなかった。
わかっていたのかどうかは俺にはわからないが、普通なら多少は驚く所だろう。

「そうね、あなたと仲良くなれないのは残念だけど本題に入らないとね」

 そう言っておもむろに制服の内ポケットに手を入れる朝倉。
まさかいきなり゙BANG!゙なんてことはないだろうが
朝倉のパーソナルが不明であり、何者かわからない以上流石に身構えてしまう。

 鳥が飛び立ち、地が微かに震える大音量。
サイレンに「非常事態宣言発令」の避難勧告。

「敵か!?」
「でも連絡が…」

 朝倉がなにを取り出そうとしたのかなんてのはこの際忘れる。
それよりいまはこの鳴り止まぬ避難勧告だ。
携帯はうんともすんとも言っていないし、神人の姿も見えないが、
しかしまさか誤報と言う事も?

「悪いが朝倉、話の続きは後でだ! とりあえずは本部に向かうぞ皆!」
「う、うん。わかった」
「あんたは先にバイクで行ってなさい、私達は後から追いつくから」

 そう、話がまとまったところで警報がピタと鳴り止む。
なにやらその所為で出鼻を挫かれ、立ち止まってしまう俺達。

「なんだ? 結局誤報か? 三賢者はなにをしくさってるんだ」
「最新鋭都市にも誤報ってあるのかしら?」

 と、誤報の方向で話が固まり始めた時に電話がなる。
――当然緊急用の携帯だ。

「…もしもし」
『キョンいまどこ? って学校か、全員居るね?』
「あぁ…、聞いてるぞ」
『ならよかった、至急全員に来て貰いたい』
「……了解」

 携帯をたたんで、ポケットにしまい。耳を澄して聞いてた三人と
目配せをして再度走りだそうと―

「待って」

 したら、朝倉に呼び止められる。既に避難したと思い込んでいた。
そう何度も戦闘を見学しようとする人が居ても困るんだが。

「ちょっと、聞いての通りよ。さっさと避難しなさい」

 何度も止められて苛立った様子の柊が語気を強めて言う。

「…これを持ってって」
「…これは、手紙?」
「確かに渡したからね」

 朝倉が土壇場で渡したのは、薄い黄色の封筒だった。

――――――

結局バスを利用して本部に到着。
IDカードを読み込ませてゲートをくぐるとやおら騒がしくなっていた。

「で、あの封筒の中身はなんだったの? さっき見たんでしょ」
「……さて?」

 柊の追及をいなしてあたりを見渡す。
こなたからの連絡も合わせて考えるに、やはり何か起きてることは確からしい。

「やほ」

 指令室に向かう過程で、多くのスタッフ達とすれ違った後。
こなたが休憩所でベンチに座って俺達を迎えた。

「おいこなた、一体今日は誰の誕生日だ? 些か大掛かりすぎるようだが」

 とりあえず質問の形を呈した軽口をたたく。
戦闘配備はされてないようだし。第一その場合は各員持ち場につくときは慌ただしくても、
通路を走る人間はすぐに姿を消すはずだし、
それにこなた自身もこんな所でのんびりしてられる筈が無い。状況が見えない。

「いやぁ、まったくご明察だと言いたいんだけどね」
「…こなた、さっさと呼び出した理由言わないなら私達帰るわよ?」

 短気な柊がすぐにそう言い、こなたが渋面を作る。
それを見て、柊を黙らせこなたに再度、真面目に問う。
「あの警報はなんだ? いまなにが起きてる? 神人なのか?」と、
こなたは

「YES、神人の確認に因るコンピュータが自動的に行った警報だよアレは」

 答えを聞いて、柊が俺の腕を退けて「じゃあその敵は!?」と、
今度は誰も止めず、こなたの返答を待ち。

「いま喜緑さんが孤軍奮闘中……かな」

 絶句した。
――――――

 キリスト生誕の折、マリアとキリストを拝み、金と乳香と薬を捧げた
東方より現われた三人の占術士。
即ちメルキオール、バルタザール、カスパール。
 その名を冠した第七世代人格移植OS、それがSOS本部指令室に鎮座する
巨大なスーパーコンピューターの正体だ。
 MAGIと通称されるそのコンピューターの存在を俺は実はかなり前から、
それこそ設計初期段階から知っていた。

 なぜならそれを設計、完成させたのは現在俺の前でキーボードを高速でたたいている、
喜緑江美里さんと涼宮ハルヒと――――、
そして俺の合計四人であるからして。

 ……いや、それは余談。
非常にくだらない、他人の自慢話や、夢の内容の様につまらない話なので、
これ以上は割愛させていただくが、とにかくその地球上で最高の処理能力を誇る
最強のコンピューターと、耐圧ガラスの向こうで発光するナノ単位の神人が、
現在高度な情報戦を行っている。

「敵、今回の神人はナノ単位の極小サイズ、故にエヴァでの直接迎撃は不可能。
非常事態宣言の警報を中断したのは、神人が既に本部内部に潜入済みで、
またその進攻方法がこちらのコンピューターにハッキングし、
本部を乗っとるという過去に例のないパターンのため。ドゥーユーアンダスタン?」

 と言うのがこなたの説明だった。
するとなるほど、戦闘配備されていないにも関わらず過去にない程に慌ただしい本部。
そのくせ手持ち無沙汰なこなた。警報の発令と直後の解除。全てに対し納得できると言う物だ。

「……じゃあこなたさんはなんで私達をここに呼んだんですか?」

 いままで黙っていたあやのが控え目に聞く。
……そういや何故だ?
エヴァでの直接戦闘が無い以上俺達パイロットに出番があるとは思えないんだが。

「ん、そうだね。みんなを呼んだ理由はね」

 そう言って、ハイとプラグスーツを各自に渡すこなた。
こいつは先程言っていた、今回の神人に対しエヴァは使えないという言葉を忘れたのだろうか?
若年性アルツハイマーか?

「失礼な…」
「すまん、だが理由を教えてくれ。どういう事だ?」
「今回の神人は、現在普段テストに使ってる模擬体を侵蝕してMAGIにアクセスしてるの。
だから万一にも、エヴァ本体に手を出されるわけには行かないからパイロットのみんなにはエヴァを地上に射出後、エヴァ内部で待機してもらう。
それに神人がMAGIを乗っ取って最終的になにをするかと言ったら本部の自爆決議、
これはほぼ確定事項だろうとスタッフの意見は一致してる」

 こなたが言うが早いか本部中のスピーカーから、バルタザールによる自爆案の立案されたと放送があり、
こなたは「ほらね?」と苦笑いを浮かべる。

「もしも本部が自爆することになったらエヴァの中が一番安全なんだよ、
12000の特殊装甲とA.T.フィールドがみんなを守ってくれる」
 まるですでに諦めてるともとれる発言。
いや、わかってる。最悪の事態を常に想定し最善にできるだけ近い策を練るのは
作戦指揮官であるこなたの職務であり、それ以上に家族である自分達の身を案じてくれてる事を、俺はそのこなたの瞳の色から、切なそうな色合いのそれから痛い程理解できた。
だから、

「……わかった」
「ちょ、ちょっとキョン! あんた、この状況でなにもしないで自分達だけ安全圏に行くことになにも思わないの!?」

 まるで失望したと言わんばかりの声色で俺に向かって声を荒げる柊。
言いたい事はよくわかる。…だが、悪いがここは引いてくれ柊。

「これからスーツに着替えて、ケージに向かう。各自エヴァに搭乗した後
地上にて別命あるまで待機、これが今回の神人に対する俺達にくだされた命令だ柊」

 少し語気が荒くなったかも知れない。
むしろ非常に冷淡な発声になったかも知れない。
とにかく、俺の通常とは違う勢いの発言で柊は気圧された様に黙る。
あやのも、どこか悲しそうな、哀しそうな眼で俺を見ていた。

 ――ただ長門だけが、いつもと違う意味深長な視線を俺に向けていた。

「…わかったわよ」

 数秒の睨み合いの末、柊は足元に目線を逃がして、渋々てそう呟いた。
そして、先程渡されたプラグスーツを強く握り締めて。
「あんたって本当に馬鹿よ」と言って、指令室をでていった。
続いて長門が「また、あとで」と一言残して去り。
最後にあやのが「今晩はおやつ抜きだからね」と言っていなくなった。

 そして、残された俺はこなたに向き直り。

「それで、俺はなにをすればいい?」
――――――

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最終更新:2009年03月03日 18:43