視聴覚室のような狭くパイプ椅子の並んだ部屋
部屋の中心で俺は座り込み、ぶら下がる汚れた蛍光灯に照らされた埃っぽいその部屋の中を見渡してみる

「…ヒュー」

 声をだそうと思って、しかしそれはかなわず粗末な呼吸音が響くだけ
だから、なにを自分が言おうとしたのか、次の瞬間には忘れてしまった

 扉や窓がなく、前方にプロジェクターが白い幕に古ぼけた映像を流している
右を見れば丁度扉一枚分程度の間を前に空けて短い黒板がチョークで汚れた姿を晒している


「夢だと思えばいいんだよ」


 ここはどこだろうと、再び声の代わりに二酸化炭素を多分に含んだ吐息を漏らすと同時に声が聞こえた

「心の原風景、それを映し出すのは夢」

 そこで初めて声のだしかたを思い出したように
俺は先ほどまでと打って変わって流暢に言葉を平然と口にする

「誰だ?」

 振り向きながら言った言葉、振り向いた先に言葉の主が居ると思ったから
だがこの狭い空間の中、視界には人間は映らない
なら喋っているのはパイプ椅子かと荒唐無稽な考えを浮かばせかける

「おやおや、流石にそれはないよ。心の原風景とは体験を風景として抽象したもの
 夢とは過去の記憶を整理する行動。君の過去に無機物が喋る記憶が? それともそんな体験をしたことが?」

 その天井にぶら下がる蛍光灯、その天井と蛍光灯の隙間に腰掛ける
年端も行かないような少女 明晰夢というのは聞いたことがある
夢の中にいながらにして、それを夢と自覚し、確認することができる状態
だが夢の中の住人にそれを教えてもらう、そんなことがありえるのだろうか
俺自身は現実とも夢とも思っていなく、この状況を漠然と受け止めていたというのにだ

「知らないわよ、そんなこと私に聞かれたってね」

 蛍光灯の少女が掻き消えて、同時に背後から張った声が飛ぶ
それを怠慢な動きで振り向くけば、いつの間にか強気な表情をした同い年くらいの少女が―

「あくまでもこの中は夢、他者の介入の余地が無い完全個人主義の世界なのよ
 私は形が違うあんたということで、結局あんたが私になにかを聞くのは自問自答でしかない」

「俺が知らないことを答えようがないと?」

 シャボン玉のように二人目の少女ははじけて消えた「一概にはそうは言えんさ、何事も自分の胸に手を当て考えることで得られるものも、確かにある」

 後ろから手が伸びて、俺の肩をポンと叩いてしゃべる男
ひどく見慣れた声をした男と向き合えば、鏡を見てるように見慣れた顔があった

「俺はお前か」
「俺がお前なんだ」

「なら俺は俺に聞きたいことがある」
「なんでも問えば良いさ」

「俺はなんのために戦ってるんだ?」
「そんなの決まってるさ、自分のためだろう」

―――――

汗が気持ち悪い、酷く息苦しい暑く体中にまとわりつく湿気が不快感を煽る

「…夢か」

 布団から起き上がって部屋の中を見渡す
青いLEDの電球が点きっぱなしになっている

 変な夢だったのだと思う
が、それは曖昧で有耶無耶であやふやで
瞬間かすれゆく靄のように輪郭をぼかして記憶から失せる
こういう朝は非常に意識がしっかりして、それゆえにしばらくこの気分を引きずる

「顔でも洗うか」

 寝癖の目立つ髪をかいて立ち上がり
俺はとりあえず洗面所に向かい気分転換を兼ねて顔を洗おうとした
「えっ?」
「ん?」

 風呂場の前、脱衣所と洗面所にあとは向かいにトイレの扉があるこの空間
俺は壁の磁石にくっ付いてる横に引く大げさなカーテンのようなものを引いた

いくらしっかりしてると言ってもそこは起床直後の頭
脳がしっかり稼働するまでにはあと一刻は必要であろうときであり
しかもここの所は柊も隣に移住したため余計に危険性が減った所為もあり確認を怠ってしまっていて

「ちょ! ちょっとキョン、バックバック!」
「のわっ!」

 徹夜明けの朝のシャワーを浴びていたのだろうかこなたが風呂上りそのまんまの格好で立っていた

哀れ俺はいきなりの俺の登場に動揺したこなたに張った押されて後方に不様に転んだ
シャッと激しく音を立ててカーテンは閉められ
向こうからこなたのまくし立てる声が高らかに朝の空気に響く
当初に懸念したドッキリハプニングをこんな所で果たす羽目になったが

「…すまんこなた、寝起きでちょっと気付かなかった」
「もうホント勘弁してよ! 見た? なんか見た!?」
「……いや、位置が低くてなにも見えなかったな」
「なめんな!」

 おかげで頭の意識レベルが更に二段階程度上がってしまった
俺は尻餅をついた体勢から起き上がって後頭部を掻き
視界に入ったものに思考を巡らせていく
嘘をついたわけじゃない、あいつの裸体など後ろ向きだったため
その長い頭髪が背中一面を覆ってほとんど見えやしなかったのは紛れもない事実だ

「あれは…多分一つの傷なんだろうな」

 台所のシンクで代わりに顔を流しながら、小さな声で呟く
あの長く綺麗な青い髪、しかしそれでも覆い切れなかった肩と腰の傷
あれは恐らく背中を斜めに横断する一つの大きな傷なんだろうな 消えない傷…か
女の子だっていうのにまったく、報われないな
家族だなんだって言っても、俺達は互いの過去を知りはしない
俺や柊は確かに書類としての情報、表面上ではあるがはこなたは知っている

 だがこなたの過去や思い出話などをそういえば俺は聞いたことがない
多分柊や長門だって聞いたことはないだろう
ならばあいつが言ったことないという方が正鵠を指してると言えるのだろうか

「まぁ、そういう点じゃ私は確かに不公平だよね。かがみんも温泉の時言ってたけどさ」
「居たのか」

 シンプルな服装、ハーフパンツにタンクトップという格好で
頭にフェイスタオルをのせて髪の毛を拭きながら
こなたはいつの間にかテーブルに体重をかけてのんびりとそこに居た

「まぁ口では見てないと言ってもね、キョンの観察力は十分にわかってるつもりだし
 いくら寝起きでも思いっきり背中を向けてたからね。気付かない筈はないと思ってたよ」

 だからタンクトップか、そういえばこいつがそんな短いわき腹や肩がでるような服装を
今思えばこの暑い万年夏の国で四六時中袖のあるシャツばかり

「その辺りにも気付く要因はあったよね事実、まぁキョンのことだから男女での警戒とか解釈してそうだけど」

 タオルを置いて髪を後ろで括り、ポニーテールを作るこなた
そしてこちらに歩いてくる姿は、タンクトップの裾や肩の部分から
いままで気付かなかった傷痕が生々しく残っている

「キョンは2歳、私は4歳の頃だよ」
「…二度目か」

 15年前に起こったそれ、ジュラ紀だか白亜紀だかなんだったか
恐竜の時代に落ちたとされ、氷河期の原因となった一つの巨大災害。ジャイアントインパクト
それと同列に並べられて二度目と表されるセカンドインパクト

 人間の体は大体四ヶ月程度あれば内臓器官を除いた皮膚や髪や爪やそういったものは全部すげかわる
15年前の傷が今尚残っているというのは最低でも筋肉まで届いた、深く致命的な傷

「見てみな」
「…」

 後ろになり服の裾を上げて背中を俺に晒すこなた
そこには大きく凄惨な傷、色が変わり肉が盛り上がり腫れた背中
色が白く湯上りでわずかに紅に染まる背中
そんな傷のない部分の皮膚が艶やかできめ細かく美しいほど
その大きな裂傷の残痕は生々しく映る

「酷いもんでしょ」

 自嘲するように呟くこなた、服を持つ手が、晒される背中が、震えてる
いまにも泣くのではないかと言うそんな不安定さ
手を伸ばし、その傷を、肩から連なる一本の道を、指でなぞっていく

「…ひゃっ」

 顔を洗った水で冷えた手が、風呂上りの暖かなこなたの皮膚に触れ
こなたはわずかに体をよじって声をあげる
残っていた水が傷の上に指の軌跡を作り、やがて消える

「悪かった」
「べつに不可抗力なのは理解してるよ、それにキョンの事を聞いといて
 話してもらっておきながら隠してた私の方が責められるべきだよ」

 痛々しい、本来人間にはあるはずのない背中の多数の起伏

「私はその二度目で両親を亡くしてね、自分にも消えない傷が残った
 当時4歳だよ? 私は一人じゃ当然なにもできなくてね、親戚のお姉さんに引き取られたよ
 そこに二つ下のゆたかっていう子が居てね、妹みたいに一緒に育ったんだ」

 共通点、そんなものが次々と見つかるこの台詞
俺は傷をなぞる指を止めて、手のひらをその背中に当てる
微かに届く心臓の鼓動が、異常なほど高鳴っているのが手の平越しに伝わる

「べつに珍しいことじゃない、あの日生き残った子供はみんな同じ
 キョンだって当時2歳、記憶が残るギリギリの位置だよね」

「あぁ、だから俺は幸か不幸かあの日のことは覚えちゃいないし、両親の顔だって覚えてない
 だから悲しいとか寂しいとか思うことなんてなかった。
 院の連中はどいつもこいつも似たり寄ったりな環境で、親持ちなんて一人も居ない。羨ましいと思うことすらなかったよ」 幼少期を院で過ごした俺。小学校、中学、そして高校
今思えばこの短い人生で初めての家族、友達、仲間

「ごめん、今だからいうと最初は同情だった」

 服から手を離して、腕を下ろし、俺の腕はタンクトップの布に二の腕の先が隠れてしまう

「私と共通するその環境、私はありがたいことに姉さんに引き取られて楽しく過ごした期間
 その間も全て一人で過ごしたキョンに私は同情してたと思う」

 汗ばむのはこなたの背中か俺の手の平か
しっとりと手にに張り付いた背中が、妙に意識される

「でも今は違う、大切な一人の家族だと思ってる」

 その場で反転してこちらを向く、自然俺の腕はずれ
中途半端に腰に触れて、まるでダンスの最中のようだとその感触から思考を逃がす

「正直さ、俺だって最初はただ迷惑に思ってただけだったさ」

 俺はこなたの水のような蒼い瞳を見返して
独白のように呟いていく、あの時の感情、あの時の思考を
できるだけ思い返して伝わるように
目は口ほどに物を言う、両方から伝えようとすれば、この思いの1/3以上伝わるだろうか

「うるさいし、小さいし、その癖上司とか言われるし
 当番はサボるし、口喧嘩にはちょくちょくなるし。そもそも女だし」

 色んな不平不満を持っていた、なんでわざわざ他人と一緒に暮らさなくちゃならないのかと
喧嘩するたび、嫌な感情を抱くたびに思っていた
でも、いまじゃそれもない。喧嘩しないわけじゃない、呆れ果てて投げ出したくなる時がないわけじゃない

「それでもお前を嫌いとは思わない、でて行って欲しいとか思わない
 居るのが当然ってのが家族なら俺達はすでにこれ以上ないほど家族だ」

―――――

「…というのが事のあらましであって決して俺達は朝から事に及ぼうとしたわけじゃない」

 のんきに茶をすする長門
その隣、俺の正面に座りねめつける様に鋭い視線を送ってくる柊
そして俺と同じく裁判にかけられてる隣のこなた

 いま、我が家の四人掛けの机を使用した家族裁判が行われていた
容疑者俺、共犯者こなた、裁判長柊、陪審員長門、弁護人は無し
かけられた容疑は俺がこなたに対し朝から年頃の男特有の滾る情欲をぶつけようとした事
第一次裁判(柊の脳内会議)での判決は有罪で張り手の刑

 俺は無罪を主張して現在その判決に対し(すでに刑は執行されてるものの)控訴し
先ほどの起きてからの流れをこなたの傷やなにやらを隠しつつ説明していた
「本当なわけ? こなた」
「マジですよ」

 柊と長門、この二人が朝食を食べるためにいつもやってくるのを忘れてた俺達は
突然の彼女らの来訪にうまく反応することができず
とりあえず傷を隠すためにこなたが髪を解いただけで
至近距離で俺がこなたの腰に手を回した体勢を発見されるに至ったわけで

「そもそも、なんでそこまで疑うのか俺には理解できんな。こいつのどこに俺が劣情を抱くというんだ」
「…まぁそれはそうよね」
「ちょっ! なにその結論!? べつの理由で今度は私が告訴するよ?」

 幾分空気が戻る、少なくとももう湿気た話はさよならだ
くだらない話をする適当に流れる時間それでいい

「…お腹が減った、早く朝食にすべき」

 ズズッとお茶を飲み干して、まさに空腹を訴えられてしまった

「了解、適当にトースト焼いてとコーヒー淹れるさ」
 四枚切りのパンに包丁で耳の少し内側にと、さらに十字に
あわせて田の状態になるように切込みを入れる
そして表面と切り込みの間にマーガリンをたっぷりと塗って
上からグラニュー糖を結構な量ふりかける
それを人数分×2、つまりはこれで二斤分
八枚切りに直すと一人四枚になるのだが、いやはや家の家族は朝から食欲旺盛なので問題なし

 トースターに二枚ずつパンを入れて
溶けたマーガリンが染み込み砂糖が溶けたらとりだす大体4分程度
その間にレギュラーコーヒーをドリップしてゆっくりと滴る黒い液体を眺める
待つだけのあいつらにはない、俺だけの朝の楽しみである

 独特の濃いコーヒーの匂い、そしてそれに混ざる溶けたマーガリンと砂糖の甘い匂い
ただそれだけで優雅な気分に浸れる身近で小さな幸せ

「あぁ、そういやこんなことを幸せと思うのも心に余裕ができたって事なんだろうな」
「ほらできたぞ、最初のは少し冷めてるかもしれないが」

 ふかふかと柔らかくなったパンを皿にのせて
湯気の立つトーストを各人に渡していく
そして一旦戻ってコーヒーを四つのマグカップに注ぐ
砂糖少なめミルク多めの長門とその逆の柊
両方多めに入れるのが俺とこなた

「…と、コーヒーは一気に持ってくと危ないよな」

 二つずつ、色の違う揃ったマグカップ
それに入った乳色混ざったコーヒーが波紋を揺らして照明の光を歪める

「ん? なんだ待ってたのか?」

 すでにパンは渡した、もう齧り始めてると思ってたのだが

「とうぜんでしょ、作った人置いて食べるのはレストランだけよ」

 柊が飄々と言う
俺は苦笑いを浮かべたかどうか、コーヒーをこなたと自分の前において
みんなで食べ始めた、少し冷めたパンは砂糖をかけすぎたのか非常に甘かった

―――――

 風を切る音、鋭い音と共に勢いをつけた脚が俺の側頭部を狙って上がってくる
同時に上体は下がり理想的な体勢のハイキック
それを俺は体を後ろに反らしてよけて、さらにバックステップを入れて距離をとる
本来攻撃の後の隙に攻撃を入れるのが定石ともいえるパターンだが
しかしこの蹴りは一撃では終わらず、ギリギリで除ければ追撃でいつか食らう

「…っしゃ」

 俺はしゃがみ床に手をついて
片足を伸ばしその場で回転し軸足を払い体勢を崩させる

「っつぅ…」

 脚があがっていたため上体を左半身から打ち付ける形になる
俺はそれを好機と腕をつかみ極める直前に持っていく

「俺の勝ちだ」
「…あぁ、もう」
 ピーと笛の音が吹かれて俺は柊の腕を外し
胴着の襟を正して、礼をする
一拍遅れて柊も立ち上がり同じく礼

―――――

「あぁ…勝率下がってきちゃったわよ。参ったわね」
「基本的に男と女だ、あまり気にするな」

 格闘訓練、場は本部内唯一の畳を引かれた道場

「でもまぁ、約束は約束だ、炭酸系が飲みたいぞ俺は」
「はいはい、買ってきてあげるわよ」

 首を左右に揺らしてため息をつく柊
対する俺は最近の自分の好調な成績に笑みを浮かべる

「気持ち悪いから一人笑いはやめたほうがいいわ、これは忠告」

 三ツ矢サイダーのペットボトルで頭を叩かれた
前の買い物の時もそうだったが、どうにも柊は炭酸を乱暴に扱う傾向が見られる

「その発言はともかく、サイダーはさんきゅ」
「はいはい、どういたしまして」

 自分の分のペットボトルを開き炭酸の抜ける音をさせる柊
汗をかいた後は炭酸に限ると、俺も少しキャップを開いて炭酸を逃がす
どうやら噴出の危険性はないようだと確認して残りを開いて口をつける

「さて、私は約束守ったんだから。あんたも約束守りなさいよ」
「はて?」
「この間クレープ奢ってくれるって言ったでしょ」
「…あぁ、そんなこともあったな」
「呆れた、やっぱり忘れてるのね」 停電の日にした約束だったか、うろ覚えだ
そういや長門にもラーメン食わせるとか言ったな、明日かなんかの晩飯にするか

「ったく、あんたもう少し記憶しときなさいよ。女の子との約束はなにがなんでも守るのが男の鉄則よ」

 そしてそれを最大に利用するのが女の鉄則ってか?
腕時計を眺めて時間を確認、午後4時
いつもならそろそろ居なくなる時間帯だが今日は休日なのでまだ居るだろう

「…あぁ! もう、あんたわかってないわね鈍感!」
「はぁ?」

 いきなりキレられた、唐突過ぎてただただ惚けるだけだ

「あんたあやのに告られてちゃんと返事するって約束したんでしょ!?」

 聞いてやがったのか…
まぁ様子からみて知ってるだろうとは思っていたがまさか聞き耳立てていたとはな

「あんた好きな奴でもいるわけ?」
「いやそういうわけじゃないが」

 炭酸くさい息を吐くんじゃない
なんでそんなに俺は当事者でない人間から追求を受けなくてはならないのか

「ならいいじゃない」
「そうは言っても、軽々しく受けるわけにも行かないしな」

 あやのはいい奴だ、実際身の回りにいる女子じゃ
一番気になってる子ではあるけれど、だからこそ適当にするわけにはいかない
いつでもいいと言ってくれたのを真に受けてるわけじゃない
できるだけ早い方がいいのはわかってる
それでもやっぱり悩まずにはいられない
俺みたいな人間が交際なんてものに頭を悩ます日が来るとは思っていなかったぜ

「…まぁ真剣に考えなさいよ」
「言われなくても」
「ならよろしい」
「ってかそういえばあやのの退院ってまだなのか? 三日目になるが」
「…あっ! そういや今日じゃない!」
「お前…人の記憶うんぬん言ってる場合じゃないだろそれは」

 二人して炭酸を一気に飲み干して、その刺激に顔を七変化させながら
直属の病院に向かって廊下を走る走る

「あぁ! あんたがごちゃごちゃやってるから忘れちゃったわよ!」
「俺に責任押し付けんな!」

 喧嘩しながら、この流れだと多分あやのに会うのだろう
あの日から話してない俺は答えをこの走ってる間にださないといけない
保留のままで会うわけにはいかない
 そんな止め処ない思考を垂れ流しながら廊下を走っていたのだが
流石に病院内ではそれは出来るはずも無く、だんだんと勢いを落として
焦りながらも歩調を抑えて院内に入る
まだあやのは居るのかどうか、聞くために受付に向かう

「遅いよ二人とも」

 待合室の長い革張りの椅子からぴょこんと飛び降りたあやの
その隣にはなぜかこなたの姿も見える

「…すまん、さっき訓練が終わったところでな。走ってきたんだが」
「せっかく退院したのにまだ病院から一歩もでてないんだよ?」

 頬を少し膨らませて、先日のやりとりなんて微塵も窺わせない自然な態度に
俺も自然と気張ってた感情がほぐれて笑みを浮かべる

「退院祝いになにか奢るから勘弁してくれよ、なんなら今夜うちで飯食ってくか?」

 俺がそう提案してみると、あやのはらしくない意地悪そうな笑みを浮かべる
…いや、傍から見ればそれは温和で柔和な可愛らしい笑みなのだが
しかしその裏になにか隠れていて、しかもそれを隠そうとしていないのがわかる
俺のそんな心中を察したのかどうか、黙って座っていたこなたが立ち上がり笑う

「へっへー、そんな必要はないよキョンさんいぇー」
「どういうことだ?」

 いぇーはスルー、自分の身のために

「キョン君達が遅いから私とこなたさん二人でちょっとこれからのこと話してたのよ」

 これからのこと、その響きはまるで腹の中で小石が弾けるような違和感と予感をもたらしてくれた

「こなたさんとキョン君、柊ちゃんに長門さん、みんな同じあのマンションで暮らしてるのよね?」
「…まさか」
「そのまさかだよキョン、あやのっちがこれから我が家族に加わりますよ!」

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最終更新:2009年02月04日 13:03