無口で静かではあるがおとなしいわけでは決してなく
長門とキャラがかぶるような事はないという点では安心の周防

 基本友好的な奴ではあるがどうにもそれに合わせて
こちらから少し近づいてみるとなにやら痛い目を見る羽目になる橘

「あいつらと比べるとやっぱお前普通だな」
「普通という単語は基本良い意味を持った言葉ではないな」

 がちゃがちゃとスティックと三色六個のボタンを両手で操り
画面内のキャラクターを動かして戦う、周囲は多種多様な音が重なり合い
少し離れてしまえば会話も成立しないような騒音
俺と藤原は、現在ゲームセンターと呼ばれる娯楽施設にいた

「はい終了」
「ふん、やはり苦手だな」

 画面の敗北と勝利の英字
それを確認してからゲーム機から離れると、すぐに別の人間がゲームを始める
ゲーセンに来たことの無いという発言を拾っての今回の行動だったのだが
しかし格闘ゲームなんぞほとんどやったことの無い俺が勝ってしまうほどだ
たまに、本当にたまにだがこうしてる時は普通にこいつらと友達感覚になってしまう

「じゃあなにやるよ?」

 気をつけようとしても、だがしかし自分自身そういうのに慣れていないためどうにも距離が難しい

「あれだな」
「ガンシューティング…」

 そりゃ比較的得意であろう事は予想がつくが

「…まぁいいか」

 訓練が無い日、ここしばらくはこなた達は3号機4号機のことやら何やらで忙しなく働いていて
どうにも最近は俺達は暇をもてあましていて
その退屈しのぎに俺はよく柊達やこいつらと遊びに行くことが多くなった

「単純に敵に向かって撃てばいいわけだ、足元のペダルを離すと身を隠せる」
「なるほどな」

 見たことの無いもの、触ったことの無いもの、総じて知らないもの
そういったものと接するたびにこいつらは普通の高校生に見える
俺は後ろで観戦決め込み、UFOキャッチャーに寄りかかる

「あっ」
「ん?」

 声がして、あぁどこに行ったかと思った橘は以外とぬいぐるみなんか欲しいのかと
そんなことを思う間もなく制服の襟を掴まれる

「あぁ! もうちょっとで落ちたのにキョン君の所為で落ちた!」

 ついでに俺の意識も落ちそうになってる

「いや、悪かったけど流石に色々と間違ってる。もう一回やればいいじゃないか」
「お金が無い!」
「…やるから、取れるまで付き合うから」

 だから手を離してください、お願いだから
俺の提案に文字通り、手放しで喜ぶ橘。俺も自分の生還が喜ばしい
硬貨の中で最も価値あるそいつを橘に手渡して
藤原に目を向ければ、なんかどんどんスコアを上げてやがるし
今回はついてこなかった周防は確か柊に連れてかれてるらしいし

本当の立場を考えれば決してあってはいけないことなんだと思っても
俺はこの状況を非常に楽しんでいた

例えば、学校の昼食
あぁして円を作って並んで弁当を広げるなんてのはありえない
話してることはもうただの世間話にもならない事で、日下部やあやのも一緒になっても
こんな至近にいるという事実そのものが懸念すべきこと

教室で同じ時間を過ごして、授業を聞かずにメールをよこしてきたりする橘や
おきてるのか寝てるのかわからない周防や意外と成績のよろしい藤原

こうしてたまに一緒に遊んで、たまにいっしょに飯食って

だから俺はあんなことになった時、とっさに優先順位を間違えてしまったんだ

あいつらは敵で、柊と長門は仲間で、あやのや日下部は守るべきもので

そんな基本的なことすら忘却するに至ってしまったんだ

…もしかしたら、それさえもあいつらがここに来た理由の中かも知れなかったのだが

―――

「第二支部の消滅、また4号機の欠番?」
「そう、3号機は無事に先日本部に到着。正式に配属されたんだけどね。
 3号機と4号機は、同じアメリカ内でも第一と第二の支部で、別々に移送される筈だったんだけど…」

 3号機に比べて4号機が遅れるのは元から織り込み済みだったらしく
ぎりぎりのタイミングで新しいなにかを第二支部が4号機に詰め込めこもうとしてたらしい
しかし遅れに遅れた上に、きちんと機能しなく、結局遅ればせながら太平洋を越えて飛んでくる途中
移送中の4号機が撃墜され、また第二支部が消滅したらしい

「爆発とかじゃなくて消滅?」
「そ、衛星からの映像とかもあるけど、ありゃ確実に生存者はいないね」

 第二支部丸々と一緒に数千の人間が消えうせたということだ
まぁそれが3号機がこっちについた前日のことである

とりあえず時系列順に並べる
まずは日本の本部がアメリカの両支部に3号機4号機の徴収命令を出す
第一支部、第二支部は一応承諾し3号機は早期に準備にかかる
しかし第二支部は研究中だったなにかを4号機に乗せる実験を行っているためそれが遅れた
結局実験は失敗、4号機はそのまま日本に送られる
そして第二支部の消滅、4号機の欠番で、3号機が本部に着く事となる

「まぁとりあえず3号機だけでも無傷で来たのはよかったよ
 もし二体ともこれなかったらどうしようも無かったもん」
「そうらしいな」

 初号機の腕が切断されたときや零号機が大破したとき等
そういった一定以上の損傷があったときに
5号機や6号機の素体を持ってきて入れ替えたりしてる
なので、もし3号機4号機の両機体がこっちに来なければ
それ以降の量産機が戦闘に耐えられるステージまで完成するのは当分先になるので
ほぼ零号機から弐号機までの三体でこれから戦い続けなくてはならなくなる

「しかし、真っ黒だな」
「真っ黒だよ、向こうはベタ塗りが好きなんだろうね」
「残りも全部そうだとするなら俺達はそうとう機体に恵まれてるな」
「あっはっは、それを喜緑さんに言って上げると喜ぶよ」

 新設のケイジ、他三体と同じく紅い液体に身を浸けている3号機

「ということでだよ、今度この3号機の起動実験を松代でするから」
「ずいぶん遠いな」
「まぁね、ちょっと神経質になってるんでしょ? 念には念をだよ」

 こいつは当然それに参加するのだろう?
ならばその万が一に巻き込まれるかもしれない訳だ…

「気をつけろよ」
「勿論だよ、まぁ最高の技術部長さんが万全を期してくれるので問題ないっしょ」

 こなたに喜緑さん、オペレータの三人組も行くのだろうし
それで万が一が起きた場合、この本部は機能するのだろうかね
まぁそうならないのが一番だ、二番なんてない唯一の結果であって欲しい

「変わったね」
「…なにがだ?」
「キョンがだよ」


 どうだろうか、わからない
他人の子は早く育ってるように思えるとうが
それは身近すぎるとゆっくりとした成長に気付かずに慣れてしまうから
そして人間がもっとも身近にあり、もっとも長く接する人間は当然自分自身で

「ほら、いうじゃない。男子三日会わざれば刮目してこれと見ゆべしって」
「さて…ね」

 へらへらと笑みを浮かべながら見つめてくるこなたから
俺は目を逸らして3号機に視線を移す、…そういえば

「パイロットは、そういやどうするんだよ」
「…あ~」

 今度はこなたが俺から目を逸らす
口をもごもご言わせて辺りをきょろきょろして、非常に挙動が不審である
夜中にやっていれば青い制服着たむかつく連中に職務質問されかねない
―この街ではありえない例えではあるのだが



「…もう決まってるのか?」

 少し、質問を変えて聞きなおす
するとこなたは肩を落として、あきらめたように答える

「えっと…、まぁそうだよ。キョンの次のパイロット、つまりはフォースチルドレンは決まってる」
「誰だ?」

 こなたは、さらに周囲を見回してから意を決したように俺をにらむ

「キョンには悪いけどそれは言えない、実験が終わって戻ってきたら、教えるよ」
「…そうか」

 こなたは俺の横をゆっくり歩いていって、ケイジからでていった
俺は、もう一度3号機を見上げ、そして続いて外に出た

――
「違うな…」

 学校の端末とは別のノートパソコンを開き
キーボードの音を響かせながらディスクの中身を読み込み
いざファイルを開こうとすると、パスワードがかかっていた

「…違う」

 俺はこなたからのヒントを合わせていくつか浮かんだそれを次々に打ち込んでいく
すれ違いざまに渡されたディスクと一枚の紙
既にこなたは家をでて、松代に出立してしまっている
ここで俺が誰がパイロットになったのか知ろうとするのはただの自己満足だ

「…日下部、みさお」

 違う、か。しかしこなたも考えたと思う、そのパイロットの名前がパスワードという設定の仕方
もし自分の周りの人間が該当しなければそれでよし
俺に知る権利を与えるのは俺の周囲の人間がパイロットとして選択された場合のみというこのやり方


 昔の知り合いから、今のクラスの連中まで
俺と同年代の奴を片端から入れていき、とうとう俺の至近の人間にまでそれが及び
そのうちの一人

「…峰岸、あやの」

 パッと現れたのはエラーの文字では無かった
峰岸あやの、生年月日から始まり血液形、家族構成等の表面上の情報
そしてDNAの配合パターン、EVAとのシンクロ率
それは紛う事なく、彼女が、峰岸あやのという人物がフォースチルドレンであることをあらわすファイルだった

「ハルヒ…」

 俺は机を蹴って椅子に乗ったまま後方に移動する
キャスターの音が耳障りだった

「この選択は故意か?」

 夕飯を終えたこの時間、俺しか居ないこの家で、俺に答える人間は当然いなかった


「あやの休みだってー」

 日下部が、学校について早々の俺に近寄ってきて
無垢な笑顔を浮かべつつそう報告してくる

「…そうか」
「んだよ、テンション低いな~。あやのが休みってだけでそれか?」
「いや、そうじゃないから」

 知ってる、なんて言うこともできず
適当に応対するものの、しかし今現在彼女が実験に参加し
あやのがこちら側に足を入れてしまったという事実が俺の気分を沈降させていく

「ちょっと、扉のところでたちどまらないでよね」
「…あぁ、すまん」

 柊に言われて席に向かう、ハルヒだったらまたドロップキックを食らってたなと思いながら
そのハルヒもまた当然のように姿が見えなかった


「…ん?」

 いや、それだけじゃない
疎開で減っていくクラスメート、しかしそれにしても今日は空席が目立つ

「…日下部、タチバナーズはどうした?」
「全員休みじゃねぇの? 来てない見てない、聞いてない」

 つまりいつものメンバーのうち半数以上が欠けてることになるのか
ここに残ってるのは俺と柊と、窓際で本を読んでる長門と、目の前の日下部のみ

「今日は寂しいなぁキョン」
「…そうだな」

 多分、もうあの面子であつまる事は二度とないのだろうと言う予感がした
 いつもの屋上、寝転がり曇天の空を眺めている
風はヒンヤリと冷たく、心地よいすごし易い天気
大丈夫、あやのがEVAに乗り戦うことになってもやることは同じだと
俺達が戦って勝って、あやのを守っていればいいのだと
そうすればなにも変わらずに居られると、俺は半ば本気で信じていた

「なんのようだよ委員長」

 どれだけ慎重にあけても音のする扉
控えめながらしかししっかり軋んでうるさい音を立てたその扉をあけたのはみなみだった
みなみは風に靡く髪とスカートを押さえながらこっちに歩いてくる

「…授業、サボっちゃダメです」
「でても、何もしないからいいんだよ。委員長がサボるほうが問題だぞ? もう鐘はなっただろう」
「キョンさんの所為ですから」
「じゃあ仕方ないな」
「…授業、サボっちゃダメです」
「でても、何もしないからいいんだよ。委員長がサボるほうが問題だぞ? もう鐘はなっただろう」
「キョンさんの所為ですから」
「じゃあ仕方ないな」
 なにも言わず、なにも聞かず、なにもせず
みなみはただ横に座って仰向けになる俺を眺めていた
俺はその視線から逃げるように背中を丸める

「大丈夫ですよ、なにも心配することありません」
「…」

 唐突に、風にかき消されかねないような声でささやく
涼やかなその声質は耳心地よく、俺はただその声を聞いた

「なんとなくですけど、事情は察してます。峰岸さんもそうですけど、橘さん達の事とかも」
「…」

 なんとなく、といってもそれなりに根拠あるものだろう
俺は、最初あいつらと話すときにあやのや日下部を一時的に離す為にみなみに頼んだり
その立ち位置からよく頼み事をしていた、そして俺達がEVAのパイロットであることも周知の事実
どうとでも後ろ暗いものは読み取れるのだろう
「気にして、気になって、それで注意力散漫になってしまえば逆に失敗しますよ」

「……そうかもな」

正直なにがわかったとか言う訳じゃない
ただみなみにこんな風に気を使わせてしまったということに
自分に腹がたった

バイブレーション、携帯の着信
俺は起き上がりポケットから携帯を取り出し耳に当てる」
―緊急収集、俺の動作にみなみはすぐに理解したようですっくと立ち上がった

「私は先に行ってますね」
「みなみ」
「はい?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

呼び止めて、そして結局みなみを抜き去って屋上から階段を一気に降りきる
やはり連絡があったようで長門、柊とも合流し、同時に遅れながらサイレンが鳴った

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最終更新:2009年02月04日 09:28