0.

「橘京子は今日朝七時に起きて、キョン君のためにこの制服を着ました! 似合う?」

 俺の机の前でくるりと一回転してみせるツインテ少女


…え?

   1.

 修学旅行が休日に一部重なったため、週末あけての月曜日が振り替えで休み
次の火曜日から学校が再び開始され、俺は配達されたいちご牛乳を飲みつつ
朝の短い静かな時間を満喫していた

 あと五分もすれば柊が長門をつれてやってくるし
こなたも起こさなくてはならない、この短い時間が朝の至福だった

 そうして一日を始めて朝食をのんびり作り
とうとう四人掛けの椅子全てが埋まることになり
テレビで戦略自衛隊がなにやらいつぞやのJ.A.に続くなにかを作ってるとか言うニュースを見て

 そして、よし学校に行こうと登校して
あやの達と談笑し、黒井担任にいつものようにからかわれ
静かになった教室に続いて入ってきた三人組

見たことのある…三人組

「…本当に転校してきやがったよ」

 人の机の前にやってきて、この間と違うこの高校の制服を来た三人
不機嫌な顔をした男と、無表情な黒髪の女と、このツインテ少女
どっかの誰かさんたちに負けないくらい個性的な奴らだ

「で、似合うかな?」
「あぁ、はいはい、似合う似合う、制服は誰が着ても似合う似合う」
「ひどっ! そこはかとなくひどいよ!」

 普通の反応だった、拳や膝が飛んでくることの無いただの突込みだった

「転校早々うるさいぞ、そのツインテールを抜いてやろうか」
「やめてよ! あたしのチャームポインツなんだから」

 しかしなんだ、柊のときも思ったがこのクラスに集中してる転校生
俺を含めてどいつもこいつも一般人じゃないみたいだし、どうにもなんかありそうだな
こなたに今度さりげなく問い詰めてみるかね
あっさり口を割りそうなのはこなたか……あとはパティくらいだが
パティはそもそもその手の情報を知ってるかどうか怪しい立場だからな

「ふん、久しぶりだな」

 黒井先生に指定された席に移動する――藤原だったか?
まぁいい、野郎の名前なんてものに記憶容量を割くのも馬鹿らしい
とにかくそいつの席が俺を先頭とする窓際の列だったようで
通り際に足を止めて声をかけてきやがった
あの黒髪の方はまだ会話したこと無いので判定できないが
ツインテの少女と比べるとやはりこいつには敵愾心の欠片を常に感じる

「…そのようだな」
「相変わらず女に囲まれてるようで」
「お前、眼鏡でも買ったらどうだ? 少しは目つきよくなるだろう」
「ふん、生まれつきだ」

 それはそれは生意気なガキだったのだろう
こいつをそのまま縮小したのを想像すると本当に顔を顰めたくなる

「お前はどうにも僕達を嫌っているようだが
 僕らは別にお前らに危害を加えるつもりは毛頭ない、それだけは念頭に置いて貰いたい
 何度も同じ事を言うのはごめんだが、俺の目つきは生まれつきだ」

「…まぁ、適当にクラスメートとして接するさ」

―――

「トライデント?」
「性格には陸上軽巡洋艦のトライデント級だ
 J.A.の実質後続機とも言える機体でパイロットが操縦する形式に変更され、実戦配備も目前らしい」

 屋上の錆付いた柵によりかかる俺と柊
空は若干曇り空で、いまにも神様が如雨露を振りかざそうとしているようだが
しかしかといって屋内でするような会話じゃない
…木は森の中で騒がしい場所というのが本来の正攻法だが
周囲に話題の中心人物、しかもスパイと思わしき人間がいるなかするよりはいい
ここなら見晴らしもよく監視の連中もキチンと仕事をしてるだろうしな

「あいつらがそのパイロットってわけ?」
「確証は無いがな、だがタイミングや状況等を鑑みるに多分そうだ
 あのクラス、俺達パイロットが集められた2-Aに三人まとめてやってきたってだけでも怪しさ大爆発だってのに
 前から俺達のことを知っていたし、転校してきたのもなんかしらの関連があるだろう」

 新しいチルドレン等のSOS関係者ではないのは確定済み
それで俺達のことを知ってる同い年の三人組
同時に完成したパイロット式の戦略自衛隊の兵器

「少年兵って法律上問題があるでしょう?」
「俺達も一応軍人扱いのパイロットだ、お互い様さ」

 そもそも戦自というのが圧倒的に怪しいじゃないか
あの連中にはそうとう嫌われてるしな

「で、そのトライデントってどんなの?」
「俺に聞かれてもな…」

 正直よくわからん、俺のカードはレベル3
一般的な職員のレベル2に比べれば高い閲覧権限があるといってもそれは比較的というもの
もう少し折り入ったことを調べるのであれば
せめてオペレーターズの持ってるレベル4、できればこなた達のレベル5は欲しい所だ
俺の権限でSOSのコンピュータから手に入る資料なんて
存在の確認がされてることと、それがパイロット式の新型戦闘兵器であり
試作機が三体すでに完成してることぐらいの端的な情報しか手に入らない
――これでも学校の端末からがんばった方だがな

「ま、俺達の味方じゃないだろう事は確実か」

「でも神人迎撃を目的としてるんでしょう? 見方を変えなさいよ敵の敵は味方とも言うわよ?」

「…その考え方も間違いじゃないが、しかし個人戦じゃないんだよ
 個人の思想や見解、信望や敵意等の単純なものじゃなく、これは組織間の事だ
 ハルヒ達がどうだか知らないが戦自は味方にはつかないさ」

 どころか、漁夫の利を得ようと神人との戦闘に無理やり介入し
双方を消そうとする可能性が一番でかいとすら思うがね俺は

「三体の試作機ね」
「そうだ、”三体”のだ」

 これも俺が疑う相似、偶然の合致というのは簡単だ
大数の法則をだすまでもなく
この程度は物事を意識した途端にそれに関連する事柄がやけに目に付くようになるのと同じで
人間が20人集まれば50%の確立で誕生日が同じになるようなものだ
…だがしかし、やはり気にならないわけじゃないし
他の情報と組み合わせることによってやはり猜疑心は高まる一方

「…そういえば三体のってことで思い出したけど」
「なんだ?」

 手のひらを拳で叩いて、いま思い出したと強調する柊
どうにも会話にそういった細かなジェスチャーを盛り込むのが好きらしい
会話なんて本の片手間におこなったりする俺はそれでちょいちょい、ちゃんと聞いてるかといちゃもんつけられる
どうして会話を視覚的に行わなくてならないのか俺は時々悩む

「アメリカの第一と第二支部で開発されてた3号機と4号機が徴発されたらしいわよ」
「…決まったのはいつだ?」
「さぁ? 話してるのを耳にしただけだもの、知らないわよ」

 また重要なイベントが一つ時期が重なったか
まるで物語が加速してるようだ、部分的に早送りされて無理やりタイミングを合わしたような
…帳尻がズレてる感覚が否めない

「パイロットが俺達だけって事を考えると気軽に増やせるようなものでもないんだろ?」

 パイロットが何を基準で選ばれているのかは知らないが
しかし17やそこらの子供に命のやりとりをさせるんだ
いざというときの替え玉が居ないのはやはりその基準が厳しすぎるからとしか思えない
俺が一体何をクリアしたのかは知らないが、おいそれと増やせるものではないのだろう

「なら、ここでエヴァを二機も持ってきてどうするつもりだ…」

 宝の持ち腐れっていみではアメリカにあってもここにあっても変わらないと思うが
それとも機体が損傷した際の、エヴァ側の替え玉って事か?
しかし各機体とパイロットは1on1の専属形式、ロボットのように操作するのとはわけが違う
交換はやはり利かないのじゃなかったか

「まぁなんだっていいわよ、私達がやることが変わるわけじゃない」
「負担が減りそうだというだけでも儲けもんか」

 楽観的な考えだが仕方ない、一介のパイロットに上部の判断など伝わってくる筈もなく
ただただ辞令に従ってエヴァに乗るだけにすぎない

「なんかあったらその時はそのときで考えればいいわ
 しばらくは仲良くやってましょうよ? 他の二人はともかく橘ってのは個人的に好きだわ」
「へいへい」

 明らかに対立しそうな不良タイプ
圧倒的に馴れ馴れしい友好タイプ
どちらともとれない無口タイプ
どうにも極端でわかりやすく解し難い連中だ
裏があるだろうとおもいっきり思わせる感じで、意識させてボロを出すのを待ってるのか
はたまた裏の裏をかいて――みたいな

「疑り深いんだね~、キョン君はさ」
「…いつからいたよ?」

 いつの間にか、本当にいつの間にかだ
柊がいるのと逆の方向の俺から見て右手に平然と橘が柵に腰掛けていた

 柵に背中を預け、出入り口に目を向けていたにも関わらずに橘の接近に気付かなかった
まるでそこにいるのが当然のように柵に腰掛けて、ぐらぐらと後ろに身を反らす

「落ちるぞ」
「だいじょーぶい!」

 一般的な女子高生にしか見えない、だからこそ大きな違和感がある
まずいな、本当に戦自の少年兵だとか言ったら俺と柊じゃちょいと荷が重い
あちらがなにもアクションを起こしてない状況だし、危害を加えないと入った藤原の言葉に嘘は無い
ならこいつは見張りか? その性格ゆえに行動をともにしても周りからみれば普通に仲良くなったと映るか

「Exactly」
「…なにがだ?」

 流暢な発音でその通りと呟く橘はどうにも古泉を彷彿させる笑みを浮かべ続けている

「私達はトライデントのパイロットですよぉ」
「えっ!?」
「―やっぱりそうか」

 橘の登場から一言も喋らず硬直していた柊がこの台詞で一瞬で解凍された

「まったく修学旅行でもそうですが、貴方は私達の予定表を何度も書き直させてくれますね」

 本来ならしばらくは隠してキチンと交友関係を築いてからの筈だったんですけど
そう続ける橘の顔にはしかし困惑や落胆やその手の表情、感情は欠片も見えやしなかった

「予定は未定って言葉知らんのか?」

 左手で柊を制しながら俺は橘から視点を先刻までと同じく屋上出入り口に戻す
あの向こうに残りも居ないだろうな? 三人相手だと武器があったとしても勝てんぞ

「まったくあなたのその技術や思考速度、さらに涼宮さん仕込みの大量な知識
 いささか以上に厄介ですね、本当に参ります」

 口調が少しキツくなったが、こちらが素か
まぁいまどきあんな舌どころか頭まで足り無そうな喋り方を地でする人間は居なかったか
個人的に好きだったのにな…閑話休題

「ハルヒ仕込み?」
「…ちっ、忘れてくれ」

 舌打ちが意識せずにでる
橘の奴、なかなかどうして狡猾じゃないかよ
人のウィークポイントを的確に突いてくる
下手をすればキレられる可能性があるやり方だが
俺の性格じゃ柊が居る場面でそれは自制してしまう

「いいんですけどね、やるべきことができなくなった訳じゃありませんから
 ただ予定がどうにも早送りされてるみたいで気分が良くないんですよ
 誰かに操作されてるというのは考えるだけで嫌になります」

「……同感だ」

 どうにも誰かが裏でタイミングを合わせてる気がしてる
タイミングを合わせて、次になにをするかといったら、GOのサインを出すだけだ
この状況でなにが始まるのか、まったく想像するだけで怖気が走る

「三機の試作型トライデント」

 呟いて俺の様子を伺う橘、なにも言わずに出入り口の鉄製の扉を眺める俺に

「三人の転校生」

 さらに続けて話を一人で進めていく
ゆらゆらと柵の上で身体を揺らして、一度後ろに強く反ってから前に軽く飛んで
罅割れた屋上のコンクリートに新品の上履きで着地する

「その二つはイコールで結ばれたわけだよね?」
「…」
「なら同時に起こった、キョン君が不審に思った物は何?
 そしてそれとイコールで結ばれるのは?」
「それは…」

 ツインテールを風になびかせ、後ろでに手を組み俺に詰め寄る橘
―そしてどこからか感じる強い視線、いや、本来目からなにかしらの物が発信されることは無い
瞳は受信機だ、ならば気配とも言えるなにかと言い換えるべきか
とにかく、普段常に感じてる諜報の奴とは違う監視の目
ふん、自分からペラペラと情報を小出しにしてこちらになにかださせるつもりだったか?
…これはまずいな、下手すると狙撃の可能性も視野に入れなくては

「キョン君は完璧超人ですか? どうしてどうして、敏感じゃないですか、鋭敏と言ってもいいです
 文武両道、才色兼備、しかも喧嘩も強い、そんなのはアニメの中のチートですよ?」

「そんな台詞はハルヒに言ってやれよ、俺は平凡で凡弱で薄弱な人間さ」

 転校初日から攻めてくるな、まったく
危害は加えないってのは嘘じゃなくとも
しかしボーダーラインはかなりギリギリっぽいな
参った参った、こうなりゃ銃の一丁でも持ってくればよかった
なんのための普段の訓練だよ、射撃訓練結構やっただろう俺

 …だが、喧嘩ね。嫌な言い方してくれるな

「なんだっていいんですけどね、私は今日はさよならです
 今日からクラスメートとして仲良くしたいという挨拶ですよ」

「気持ちだけで結構だ」

「いえいえ、今度キチンと菓子折り持ってお伺いしますよ」

「菓子折りなんてこの間の沖縄で山ほどうちにあるんだよ」

「なら八つ橋はいかがですか?」

「甘いもんはしばらく食いたくねぇな」

 くすくすと、しかし擬音が同じだろうとあやのとは違う含みのある笑い方

「なら仕方ありませんね、今回は諦めましょう」
「そうしてくれ、…用があるなら俺からでむいてやるよ」

 橘は笑い、細めていた目を少し開いて
先ほどとは違う、ただただおかしそうに笑う

「ふふ、ではその日を心待ちにさせてもらいましょう」
「そろそろ授業が始まる、とっとと教室戻るぞ、扉の向こうの奴もな」

 ぎぃ、と扉が開いて太ももまで届きそうな黒髪の少女がこちらを伺っている

「――先、行く」

 初めて聞いたその声は無機質で無感情な平坦な声だった

   2.

「――でさぁ」
「はぁん、―――ねぇ」

 久方ぶりに洋室に戻った自室
俺はベットに横になりゲーテのファウスト(劇場台本版)を読んでいると
ふと扉の向こうから輩の声が聞こえ、俺は本を閉じて居間にでる

「やぁキョン、今日は色々あったようで重畳だよ」
「くだらない冗長な時間を過ごしただけだ」

 しかし気楽なものだ
J.A.の時と違い工作するまもなく完成しすでに実践使用の前段階まできてしまい
さらにそのパイロット、つまりは戦略自衛隊には情報の漏洩し
しかも同じクラスに転校してきたというこの状況だというのに

「はっはぁん、あれっしょ? 修学旅行に会った子達っての
 いやぁしかし六人のパイロットねぇ、選ばれた戦士が立ち上がる! みたいな?」

「笑えねぇよ、互いの大義が違えばただの敵だ」

「大義ね、戦自にそんなものがあればそれだけで感嘆物だよ」
「その辺はどうだっていいさ、べつに俺としてはあいつらが神人を全滅させてくれるならそれでもいいさ
 どうせその他大勢の人間にはどちらも変わらないだろうさ」

 それが出来るならとういう大前提を置いての話ではあるがな
J.A.があれだ、トライデントというのがどんなもんでも高が知れるというものだ

「いやいや、そうといってられないんだよね、実際」
「…結構やばいらしいわよその兵器」

 茶をすすりながら言うこなたと、腕を組んで椅子に寄りかかる柊

「…長門は?」
「あっちでテレビ見てる」
「…そのようだ」

 興味ないのだろうな、長門がなにかに興味を見せた事なんて非常に稀有だ

「A.T.フィールドの展開や中和はできないみたいだけど
 しかしそれを抜いてもあの新型人形兵器は前回のあの木偶人形と比べ物にならないよ」

 湯飲みを両手でつかんで中身を飲み干して、ニッと笑うこなた

「まぁ百聞は一見に如かずってね、明日はちょいと付き合ってもらうよ」
「実物でも見に行くの?」

 んな馬鹿な、新兵器を遠足気分で拝めるほど警戒態勢が緩い訳も無いだろう

「いくつか写真や新規の情報、書類も交えての会議をやるからね
 あっちに情報がいくら漏れてるのか知らないけどさ
 でもこっちにもそれ以上の情報が流れてくるんだよね」

「あくどい奴だな」

「私個人の話じゃないでしょ、喜緑さんの領域だもん」

「ハッキングか」

「そ、痕跡も残さずデータを引っこ抜くくらい朝飯前だよん」

 こなたは空の湯飲みを傾けて、その後首を傾げた

   3.

 分厚い装甲がごつごつとした小山のような印象を与える
青、黄、赤と信号色の三機の機体
J.A.と同じく原子炉を内蔵し長時間の単独運用可能
またJ.A.の時に問題点となった遠隔操作ゆえの格闘船での致命的な遅れはパイロットがカバー
エヴァに近い敏捷性も兼ね備え、かなりの重装備

「都市を一つ消す火力には十分だな」

 だが神人相手にはどうだろうか、確かにあの間抜け面よりはよほど使い物になりそうであるが
時間をかければいいというものではないんだ
A.T.フィールドを破壊する火力には、やはり届かない

「でも、三機」
「あぁ三機だ」

 三機の高火力の高機動兵器、こりゃエヴァでも厄介だぞ
3on3になれば問題なく勝てるが二対三だとキツいかもな

 足元の大きなモニター
鮮明に映る三色の巨大な機体、暗い会議室

「これが量産されるとなるとキツいな」
「だからイコール、その橘って少女が言いたかったのは別の方向だろうけど
 でもここで一つ繋がってくるものがあるよね?」
「3号機と4号機の徴収か」
「イエス」

 …プロダクトモデルのエヴァが新しく二体配属されて計五体
はっ、世界を悠々と滅ぼせるな

「ってことは、やっぱり戦力の増強か」
「うん、で橘さんが言いたかったのは多分ここだね
 三機のトライデントに自分達がイコールのように二体のエヴァに―」
「―二名の新規パイロットか」

 ポンポンと数珠繋ぎのように面倒事が起きていく
楽しいことだけを紡いでられるなんて思っちゃいないが…

「誰になるんだ?」
「…まだ審議中だよ」
「審議中ね」

 そういえば、昨日浮かんだ疑問だがいいタイミングだろう
面子もそろってることだ、聞いてみるか?

「パイロットの、選抜基準ってなんなんだ?」
「…知らない」
「知らない?」

 どういうことだ? 仮にも組織の幹部であるこなたがなに寝ぼけたことを言ってる
それは人の上に立つ者としてやってはいけないこと、言ってはいけないことだ

「全部、有希もかがみもハルちゃんが決めたからね
 そして二人ともエヴァに乗ることができた、キョンもそう
 だから多分これからもそう」

 ハルヒの独断で決められてるというのか?
ふざけてる、徹頭徹尾、あいつは俺を挑発してるとしか思えない

「落ち着きなさいよミットも無い」
「確かにここは球場じゃないからミットもバットも無いけどさ」

 くだらない突っ込みさせるんじゃねぇよ、おかげですっかり落ち着いてしまった
だがはやりハルヒが何を考えてるのかわからずそれに怒りを感じてるのは事実だ
あいつにはあいつの考え? 知るかそんなの

「まぁいい、その追加戦力はいつくるんだ?」
「さぁて、来週くらいになると思うよ」
「お前の来週は振幅激しいんだよ」
「…そうね四日後になると思うわ」

 いつもあいまいな上にしかもあてにならない発言をするこなた
それに喜緑さんが凛とした声で正確な情報をキチンと教えてくれた

「なんだいなんだい、四日後だって来週だろう!」
「お前は明日から七日後までが来週だからな、一ヵ月以上になれば多少のズレは仕方ないが
 短期間で一日二日の差はでかいぞ」

 ふと、弐号機を始めてみたときを思い出す
3号機や4号機は目が増えてるのだろうか

「なぁ、3号機と4号機の写真とかないのか?」
「ん? あぁあるよ。みくるちゃん、チェンジしてくれる?」
「はい、わかりました」

 普段と違ってきびきびした動きでモニターを操作し画像を入れ替える朝比奈さん
それでも、あれ? とかえっとぅ、とか聞こえてくるのはご愛嬌

「あ、でたでた」

 黒と白の無骨な形状の二体
色が違うだけで形は同じ、顔は通常の双眼で角等の装飾も無い
肩にウェポンラックがあるくらいが共通点で、あとは色彩にしても形状にしてもどうにも同じエヴァとは思えない

「そりゃね、名前の番号みればわかるだろうけど零号機から弐号機までは漢数字でしょ?
 これは日本が製作したからで、3号機4号機はご存知のようにアメリカだからね」

「…ん? まて弐号機はドイツから輸送しただろう」

「それは日本で設計したのをドイツで組み立てただけだよ、基本は日本でね
 だから比較的簡単に手放してくれたんだけど」

 なるほどね、しかし無駄な装飾や彩色はアメリカよりだと思っていたが
その認識をどうやら改めなくてはならんらしい

「でもこなた、機体があってもパイロットの方がそんな短時間で使い物になるかしら?
 正直キョンという例外を考えてもすでに定期的に敵が来る中で新兵育てて間に合う?」

 それもそうなんだ、頭数そろっても足手まといじゃしょうがない
現在のフォーメーションを崩せば俺達だってまた陣形等覚えなくちゃならないし
柊も長門も三年前から訓練を受け続けていたんだ
それを新しいチルドレンに一週間二週間訓練させたところで付け焼刃って奴だ

「そうなんだよねぇ」

 こなたは、しかし俺達の不安を払拭するどころか助長する発言をする
こいつは本当さっきからなにをやってるんだという話だ

「でも、乗れる人間が決まってる以上しかたないんじゃないの?」
「判断基準がわからないのに仕方ないとよく言えるな」

 もしかしたら自分が乗れるかもしれないという可能性があるのだぞ?

「いや、それはないよ。 関係者は全て乗ることができない、これだけは確実なんだよ
 それに政府、国連、戦自、その手の国の関係者等も手の届く限りはやってるの
 で、その結果は全員アウト、ただの適当や独断じゃないことは私達は知ってるよ」

「それでハルヒを信用しろと?」

「さぁ?」

「でもさ、少なくとも選んだ三人は全て本物だったよ?」

 わかってるさそんなこと、だからむかつくんだよ

「言ってもわからないから言わないだけじゃないの?
 ハルちゃんは本当に凄いからね、なにがじゃなくて全部凄い」

 わかってるさそんなこと、だから悔しいんじゃないか

「今回もそんなところだろうと思うよ
 ダメだったら、そんとき考えなよね、ネガティブ思考はあかんよ」

「…なぜお前はあいつをそこまで信用できる?」

「なんでキョンはハルちゃんをそこまで疑うの?」

 ―一瞬の視線の交錯で俺は負けた
信じるのに理由は要らない、信じることは無償だから
だが疑うのは理由が必要だ、そうではないという理由が必要なのだ

「今回の集まった目的はそんな話をするためじゃないしね
 スパコンに手に入った情報から分析してシミュレーションに予想ではあるけど
 とりあえずの模擬戦闘ができるようにしてあるから、有事のために何度かやっといて」

「三賢者だかなんだか知らないが、ずいぶんと凄いスパコンだな」

「スポコン?」

 それは巨人の星とかだからな柊
日常会話は下手な日本人よりも流暢に話すくせになんで時折ボケかますんだよ

「あぁ、穴に向かって投げて跳ね返った球がまた穴を通って戻ってくるって言う…」
「しっかり知ってるじゃんかよ…」

 なんかもうダメだ色々と、俺とか

「…はい」

 と、この悪いというか悪ノリの流れを断ち切って長門が手を上げる
パーン! と張り手を見舞う手を上げるではなく
長門は普通に手をあげただけだ、念のため

「なんの念よ?」

 そんなの俺にわかるわけねぇだろ

「どうしたの有希?」
「……なんでもありません」

 一度あげた手を、二度小さく握り
そして下げ、小さくなんでもないと頭を振る長門
…一体なにがどうしたのだろうか、といぶかしむ間もなく
長門はそのまま一礼して部屋をでて行ってしまった


「キョン、どうしたのかわかる?」
「……そんなの俺にわかるわけねぇだろ」
「なんでもいいや、もう話は終わったんだし二人とも今日は帰っていいよ」
「あぁ、そうさせてもらうことにするさ」

 少し身体を反らすと背骨が音を立てる

「やめなさいよそれ」
「やらないと気分が悪いんだよ」

 柊と暗い会議室から廊下に出ると等間隔にならんだ蛍光灯と明るい色の廊下の壁の所為で
どうしても目が細くなる、もう少し会議室内を明るくしてもかまわないと思うのだが
しかしそれだとモニターが今度は見づらくて仕方なくなるんだろうな

「あれ? あんたそこに居たの?」

 少し歩いたところの廊下、エレベーターの前のベンチにちょこんと腰掛けていた
なにか用事があったから先んじて一人で行ってしまったって訳じゃないってことか

「よぉ長門、なにしてるんだそこで」
「…待ってた」

 おやおや、おやおやおや?
これは、なんだろうな、相当の予想外だが―悪くは無いよな

「へぇ? あんたどういうつもりよ珍しいわね」
「…べつに」
「いいじゃないか、たまには三人そろって帰るというのもさ
 どっか寄り道してくか? なんか奢ってやらないこともない」

 二つの三角形のスイッチ、上を向いた方のそれを押してエレベータがくるのを待つ
扉の上のデジタルな表記は目まぐるしく変わっていく

「私クレープとか食べたいんだけど」
「ドンと来い」

 クレープ屋の車はなぜかしょっちゅう街を徘徊している
結構同級生などの話題に上がる、美味いクレープとかなんとか

 チンとありがちな軽い音を立ててエレベーターが到着
会話を一時中断して中に入る

「…ラーメン」
「ん?」
「……ラーメンが食べたい」

 あぁさっきの話か、ラーメンねぇ
それだと晩飯になってしまうな、となるとこなたのこともあるし家で作るか?
だが家で作っても中途半端になりそうだな、なんかそれらしいのを食いたい気分ではある
とりあえず俺は承諾し、はてさてどうしたものかと最奥にもたれ考えていると

 ガコン、という歯車の外れた音のようなものが聞こえてエレベータがとまった
…あれ、エレベータ? エレベーター? どっちだったっけか
まぁとりあえずそんな場合じゃない、上部の螺子のような絡繰のメーターは動きを止め
体感的にもとまってるのは確かっぽい

「柊、お前体重何キロだ?」
「殺すわよ? 定員13人って書いてあるしょうが」

「冗談だ、ちょっと時計で時間計ってくれ」
「え? えぇ、わかったわ」

 アナログの時計だがストップウォッチの機能くらいはあるのだろう
柊は少しボタンを操作して針盤を覗き込んでいる

「…長門、可能性としては何が大きい?」

 次に長門に問う、長門は少し目を伏せて考えてから
エレベーター横の非常連絡用のボタンを押す、が反応は無し
二度、三度試したものの同じ

「停電と思われる、このジオフロントの電気回線は正、副、予備の三つがある」
「復旧にかかる大体の時間はは?」
「早ければ3分、遅ければ10分、それ以上は…」

 ―なんかしらの異常事態ということか

「でも、もう既に3分は経ってるわよ」

 復旧の目処はなし

「オーケイ、柊続けて計っててくれ」
「わかった」

 時計は俺と柊で二つ、携帯は非常用のは全員持ってるだろうと
あとは自分のを持ってるが一般の携帯はジオフロントのさらに深部となると使えない

「長門、復旧しなかった場合を想定して話を進めるぞ
 現在のエレベータの位置であるフロア5から発令所まで行くには
 電気で動く扉が複数ある、それを回避して移動する道を知ってるか?」

 長門が俺達の中でここに一番長く居る
もしかしたらその手の非常用経路があるかもしれない
五分、と柊が控えめに呟く―まだ復旧する気配は無いか

「…一つ、通風孔のダクトを使えば発令所に一直線で向かえる」
「なるほど」

 多少手狭だろうが確かに部屋と部屋をつなぎ無数にのびてる通風孔を通れば
時間はかかっても確実に発令所に到着できるだろうが…

「だが通風孔の中で発令所の方向がわかるか?」

 ルートもなにも書かれていないただの細長いパイプ、迷えばそこで終了だ

「……大丈夫、私に任せて」

 長門は、力強くそういった

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最終更新:2008年07月07日 12:31