1.

 初号機、弐号機の両機撤退後
一時的処置としてN2爆雷を敵上空から投下
敵表層部の29%の焼却、効果としては一週間の足止めに成功
後に入った情報によると敵は二つの紅球でお互いを補完しあい
片方が破壊されてももう一つで修復するという相互干渉形態らしい
その自己再生能力の高さが他の神人に比べて非常に脆い理由

「で、その修復をさせないためには両方を同時に破壊すればいいわけよ」

 とこなたの談
つまりは片方が片方を回復させるなら双方に同時にでかい破壊力のダメージを与え
回復の隙を与えずに撃破という形らしい

 しかしそうはいってもやっぱり簡単なもんじゃない
千分の一秒でも誤差が生じればそれは成功せずその隙間で回復を行われるらしい
二体に分裂した際の二つの紅球に攻撃
こちらも動いてあちらも動くその状況下でタイミングを
コンマ秒まで揃えるのは至難の業の粋すら超える

「というわけで、ユニゾン」
「「ユニゾン?」」

 我々は現在こなたが家に呼んだ柊を含めた
三人で作戦概要説明会を開いていた

「そ、ユニゾン。二人の息を揃えて完全な一心同体で二箇所のコアの同時加重攻撃、これで決まり!」

 そう息巻くこなたと置いてけぼりの俺と柊
こなたはどうにも説明不足になりがちだ


「はぁ!? 二人で一週間一緒に住むってこと!?」
「そだよ、私の方も忙しくてしばらくキョン一人だし丁度いいっしょ」

 こいつは説明が足りないというより知能が足りない

「お前さっきの説明のどこに俺とこいつが同居しないとならん理由があった?」
「つまりは生活リズムの時点からあわすんだよ、体内時計とかね
 精神面での一体も大事だしそれには四六時中同じ空間に居て生活するのが一番」

 こなたはそういっておもむろに指を鳴らす
と、SOSのスタッフが数人やってきてなにやら居間に機械をセットし始める

「この最新シンクロマッスィーンで二人の呼吸を一週間でパーペキにしてもらうよん」

 こなたの笑みはどうにも迫力に欠けるあくどさがあった

「まぁ、物は試しだ」
「…そうね、もうなにもしない内から疲れたわ」

 そろってため息をつく

「そそ、その調子」

 この野郎…、なにか言ってやろうと思うもののしかしそれを抑えて
とりあえずは機械に向かう、どうやらツイスターゲームの要領で
複数のランダムに光るボタンを両手両足を使用して押していくものらしいが

「じゃ、ミュージックスタート」

 こなたがいつの間にか用意したコンポから流れる音楽
これに合わせて実際の戦闘もこなさないといけないらしい
とことんやってられん

   2.

「…ロボコンじゃないか」
「ボタンはとりあえず押しまくったわよ」
「引けないからな」
「そうね」

 惨々たる結果だった
ってか音楽のタイミングが悪いんだ
音楽もボタンが光るタイミングも計れば四拍子なんだが
トン、トン、トン、トンとなるボタンに音楽が半拍子ずれて重なって流れてくる
 トン、トン、トン、トン

 上記の感じ
その結果なんと俺は今までの人生で一度もとったことも見たことも無い点数を取ってしまった
いくらゲームとはいえショックである

「この音楽に合わせたダンスの振り付けもあるからそれも練習するよ!」

 勝利の道はベクトルの違う方向で最も辛く険しくなりそうだった

「とりあえず、今日はここに描かれてる振り付けを覚えること
 んで音楽を常時流して身に染み込ませる事!」

 こなたは数枚に及ぶ振り付けを印刷した紙を俺達に渡す
棒人間もどきが紙上で踊っている
これを踊れというのか、俺と柊が?

「一週間ぶっ通しで練習、学校は公的事情による欠席になるから
 出席日数は気にしなくていいよ、じゃあ私は仕事あるから!」

 ……いい逃げしやがった
こなた、作戦が終わったら一発殴ってやる

「結構長いわねこのダンス」
「…お前も真面目に読んでるなよ」

 目を皿のようにして振り付けに目を通す柊

「また、失敗しちゃったからね」
「はぁ?」

 さっきの事か、焦ってまだ攻撃パターンも不明の相手に対して
早急すぎる接敵行動、そして殲滅できずに撤退

「また、あんたに借り作っちゃった」
「お前を受け止めたことか? あの程度気にすんな、細々したのは忘れて行動あるのみだ」
「ごめん」

 俺はいつだったかあやのとした会話を思い出す
やっぱり俺は謝られるよりこういうシーンでは礼を言うほうが双方ともに気分がいいと思う
とりあえず振り付けの紙に目を落とし会話を中断、明日以降に備える

――

「う~ん、なんっていうかさぁ、息があってないんだよ
 かがみは一歩引いてる感じ、キョンは飛ばしすぎなんだよ」

 一日中同じ曲をエンドレスで聴いて、ツイスターゲームやって
残りは音楽と合わせてダンス&ダンス&ダンス
パラッパラッパーよりも踊ってる気がする

「そうは言ってもな、実際ビデオ見てみてもわかんねぇんだよ
 こう、漠然と違うってのは俺もわかるけど」
「そうね、抽象的なマーブル模様の情報なのよ」

 訓練開始から三日
音楽が耳について離れなくなり
振り付けも頭にほぼ叩き込んだ現状
本格的にダンスの練習を開始したわけだが

「そうねぇ、二人とも個人で見ればダンスは凄い綺麗にできてるのよね」
「はっはー、キョンがダンスとか似合わねー」

 こなたがいまいち揃い切らない俺と柊にゲキを飛ばし
なぜかあやのと日下部、長門にさらにはみなみまでもいた
人口密度が激しく上がっている我が家、男が俺だけというのが…

「…これって二人の息を合わせる訓練なんですよね」
「そうだよん」

 みなみがそろそろと手を上げて発言する、学校じゃないんだが

「つまりダンスの完成度は関係なくて、ダンスを利用して動きを合わせるんですよね?」
「…そういうことだ」

 今度答えたのは俺、人数が多いと説明が忙しいが
とりあえずみなみはその俺の発言を聞いて首をかしげる

「つまりあれよ、二人はダンスの動きの向上だけでお互いを意識できてないのよ」

 言葉の選択に苦労するみなみに代わって今度はあやの
みなみもどうやら長門ほどじゃないが口下手の傾向があるらしい

 だがしかし、なるほど多少なりとも思うところがないでもない
お互いを意識していないわけじゃないが
しかしそれはユニゾンのパートナーというよりライバル的な
相手よりうまくという考えに似たものだ
…合うはずがねぇな、柊にはそういう初対面に抱いた感情がいまだにある
長門ならどうだろうか? いつだったか川縁で話し合った時のあいつとだったら…

「いや、そういやなんで俺と柊なんだ? 零号機も長門も健康そのものだろう」
「ん? そういやそうね、最初の出撃がキョンとかがみだったからそのまま移行したけど
 ユニゾンに関してはシンクロ率の上下は今回あんま気にしなくていいしね」

 長門は自分に話が振られて、さぁなにをしてるのだろうかと言えば
まぁ考えるまでも無く読書中だった、なにしにこいつはこの場に居るのかまったく理解できない

「ちょいと有希、かがみとタッチ」
「了解」

 柊が言われてTシャツの裾で額を拭きながら後退
その際にへそが見えたが俺は紳士なので当然じろじろ見たりしない、鉄則
そして代わりに制服姿の長門横に並ぶ、身長は長門のほうが低め

「長門」
「なに?」
「振り付けわかるよな?」
「大丈夫」

 小さく頷く長門、俺にしか聞こえない声量で小さく音楽のイントロを口ずさみ
人差し指はまっすぐ伸ばした脚の横で四拍子を刻んでいる

「じゃあ行くか」
「えぇ」

「じゃあスタート」

 こなたがいうと同時にスイッチを入れて音楽が流れ出す


 両手を上にあげて、手の平を重ねて突き出すように前に
右腕左腕の順で腕を横に伸ばして降ろす
足を交互に踏んで足幅を広げて、降ろした腕を肘を抱えるように右左の順で内側へ
右足を一歩後ろに引いて、その場で一回転
振り返りざまに左手を突き出して終了

 ぱちぱちと手拍子が数人分、柊は壁に寄りかかり俺と長門をじっと見ていて
壁から背中を離してあごに手を当てる

「んー、やっぱり私達の時と違うわね」
「あぁそうだな、長門があわしてくれてるのがわかるんだよな」

 俺は特になにを変えたつもりは無い、ただ長門が合わそうとしてるのがわかって
それを少し意識しただけだったが

「やや、有希は流石に練習してないからダンスの完成度ならかがみの方が上なんだけどね」
「見ててこっちの方が気持ちいいんですよね」

 こなたとあやのの台詞

「…そうですね、柊さんとキョンさんのは社交ダンスというか
 綺麗なんですけど少し違う感じなんです、あってるんだけど合ってないというか」

 柊がゆっくりと険しい顔でこっちに歩いてくる
長門をチラッと一瞬横目で見た後、俺に向かって手の平をかざす

「今度は私とチェンジよ」
「了解」

 俺も手をだして柊と軽くハイタッチ
長門は俺と柊の間に一回視線をやってから
何事も無かったかのように踊ってる途中でずれた立ち位置を直す
特にこれといって不満は無いようだ

「こなた、始めてくれ」
「あいよぅ」

 長門と柊か、普段話したことのないペアでいきなりのぶっつけユニゾン
結構興味が湧くもんだ、俺はフェイスタオルを二枚持ってきて一枚を首にかけて
汗を拭いながらなんとなく空いてたみなみの横に腰を下ろす

―――

「ほぅ…」

 現在演技中、だが先ほどまで俺と柊でやってた奴のビデオと比べた差は歴然だった
ダンス自体の上手さ、巧さ、技術という面ではない感性的な合致

「なぁみなみ…」
「はい、なんでしょう」
「さっきの俺と長門のもあんな感じだったか?」
「…そうですね、息が合ってるのを見てる側も理解できるというか」

 そうか、やっぱり長門か
シンクロ率や戦果とはべつの所、…長門はすげぇな
人の心や動きに合わせられると言うのは、相手を理解しきらないと無理だ
そして俺の考えや柊の心にしっかり合わせられる長門は、やっぱりちょいと感情表現が苦手な女の子だ
どうにかして周りとのコミュニケーションを取らせてやりたいな

「ほぃ、終了。お二人ともよくできました」

 音楽とともに動きをとめて息をつく二人
俺はタオルを長門と柊に渡す
二人ともそれを受け取って、並んで座る
このユニゾンを通して少しはこの二人も距離を短くしてくれればいいんだがな
しかしこの広い居間もこれだけの人数居ると手狭に感じるな
まったく、みんなが帰った後が寂しいじゃないか

「ねぇキョン」

 タオルで身体を拭いてた柊は、一息ついて俺に話しかけてきた

「なんだ?」
「ファースト、凄いわね」
「だな、俺達にぴったりあわせてしかも見てただけなのに振り付けも完璧だ」

 それどころか、いまタオルで額を拭いてる長門は
踊ることを楽しんでいるようにすら見えた
表情の差異は見えないのだが、しかし雰囲気というかなんというか

「で、どうするの?」

 こなたはコンポ(コブラ)に肘をついて俺達に聞いてきた
この場合の俺達は、俺と柊と長門の三名が含まれる
長門も一度タオルを持つ手を止めて、柊と俺は目を見合わせる
このとき、この訓練を始めて初めて(なにやら変な一文になってしまったが)
お互いの意思が完全に繋がった気がした

 俺と柊は、少しそのまま見詰め合ってから
伝わったお互いの考え通りの行動を起こすために立ち上がり
左右対称にこなたに向かって指を突きつけて



「やっぱりこのままでいい、コンビを入れ替えるのはなんか負けた気がするから」

 こなたはステレオで言われた台詞に
ニッと口の端をあげて、そういうと思った、と笑った

「柊、どうせやんなら踊りもユニゾンも完璧だ」
「あったりき、ツイスターゲームで100点とりまくりよ」

 柊と向かい合って拳を軽くぶつける
長門はそんな俺達を見ていたが、すぐに本を取り出してまた読書に入ってしまった
こころなしか満足げに見えるのは俺の目の錯覚だろうか?

「じゃあさ! 今日中に二人が100点取れなかったら今日はキョンちで晩飯ごちになるからな!」
「おっ、いいじゃん楽しくて。今夜は焼肉パーティでもするかい?」

 と突然無茶をいいだす日下部とそれに便乗するのがこなただった
焼肉はいいんだが臭いがつくのは嫌なんだが…

「じゃあお肉たくさん買ってこなくちゃね」
「いいんちょも混ざるだろ」
「…えっと、いいんですか?」
「おっけー、おっけー」
「お前が許可するな日下部」

 わいわいとにわかに慌しくなる室内
長門だけは相変わらず本を読んでいるが
しかしあやのやみなみまで話に乗っかって本格的にパーティーをやる運びになってる
…この人数でやるなら明日は一日ファブリーズしなけりゃいかんだろ
俺は息をついて、勝手に話を進めてる連中を放ってツイスターゲームの電源を入れる

「まぁ適当にやりましょうか」
「そうだな」

 横に並ぶ柊と共に肩を軽く竦めて
しかし今夜は祭りの後の寂しさを感じずに居られそうだと
俺達はまた一から音楽と賑やかな声に合わせて訓練を始めた

   3.

「―まぁ心機一転がんばろうって言ったその日に満点取れるはず無いよねー」

 そういいながらこなたは国産牛を口に運ぶ
しばらくもぐもぐと咀嚼して、もってる箸を俺に突きつけて

「んにゃ、それでも点数はあがったし目に見えて変わった点もあるんだからそんなへこむ事無いんじゃない?」

 結局あれから2時間ぶっとうしでやったのだが
100点をとることはできずに終了、もはや満点とってもとらなくても焼肉はやることになっていたが
それじゃ罰はどうするかってことで、こなたが指名した
果てなく高い国産和牛を俺と柊の自腹で大量購入する羽目になった
こなた、柊、長門、日下部、あやの、みなみ、俺
計七人が満腹になる量の肉となればただでさえそれ相応の金額になるというのに

「ちくしょう、なにが100g980円だ馬鹿野郎」

 我が家のエンゲル係数はあがる一方です

「エンジェル係数?」
「俺とお前の二人暮しのこの家に子供は存在しない」
「…実は、最近アレがこないの」
「そもそもお前はまだ初潮が来てないんじゃないか?」
「死ね!」

 殴られた、こなただけじゃなくて柊にも殴られた

「キョン君、デリカシーがないよ…」
「はっはっは! キョンさいこー!」

 どうやらさっきの発言は紳士じゃないらしい
どうにも思ったことをそのまま口にするのはいかんな…当然か

「って、あ! お前ら喰い過ぎだ!」

 いつの間にかずいぶんと減っている
俺はまだほとんど食ってないのに!

「あんた金あるでしょうが」
「お前もパイロットだろ! しかも俺よりずっと長期間!」
「戦闘報酬のことを考えなさいよ!」

 あぁ…、あぁ?
そういや最近口座いじってないな、最初に引き抜いた数百万でここ数ヶ月生活してるからな

「あんたね…」
「確か二匹目の敵を倒したときが最後だな」

 二千万程度あったっけか

「その時点で十分金あるじゃないの」
「馬鹿野郎、一生というロングスパンで見るなら足りんぞ!
 老後に苦労するのはごめんだからな!」
「…あんたポジティブね」
「おうよ」

 あれから四回の出撃と二回敵を殲滅してるから…

「大体キョンの今の口座残高は6000万程度だよ」

 おや、存外結構あるもんだな

「…へ? いまのがキョンの全財産て訳?」
「おう」

 日下部がまわりを代表して俺に言う
柊とこなたと長門を除いた、まぁ一般人の三人には途方も無い額だからな

「よしキョン! お前わたしを養え!」
「なぜ俺はこの年で扶養家族を持たなくちゃならない!」

 ただでさえ手間のかかる子供が既に一人居るというのにだ
俺は肉をかっくらう青髪少女を見つめる
こなため、気付いてるのかいないのか、がんがん喰ってやがる

「…なくなるまえにとりあえず食おう」

 金の有無の前に空腹感だ
腹が減って眠れないのは嫌過ぎる

「だったらもっとかいたしてくりゃいいじゃん!」
「俺は、金を手に入れたからって金銭感覚を無くす奴が大嫌いなんだよ」

 まったく、悪銭身につかずって言葉はその辺から来てる
大金を手に入れたからって調子に乗ればすぐなくなっちまうんだからよ

「まぁ言いたいこともわかるけど、ケチと節約は違うわよ?」

「この人数に国産和牛を奢っといてケチ呼ばわりされるとは…」

 絶望した! 遠慮の欠片も無い友人に囲まれた自分に絶望した!

「ってか、お前ら肉しか食ってないけど米食えよ!
 炭水化物とれよ! 血管詰まるぞ!」

 こんだけ美味い肉なんだからご飯のどんぶり一杯程度どーんといけよ
日本人なんだからさ、欧米じゃないんだから肉のみはあかんてば

――

 とかなんとかいいながらも、最終的には満腹な俺だったりする
賑やかで楽しくはあったがしかし次回以降なにか大人数でやる場合は
こういう不平等がでないようにしないといけないな
誰か鍋奉行を仕立て上げないと

「あぁ、もう九時じゃん」

 日下部がやったら牛になると言われる行動を平然と他人宅でやりながら
たまたま掛け時計が目に入ったのだろう、現在時刻を口にする
…しかしもうそんな時間か、女子高生が同じクラスの男子の家で遊んでる時間じゃないだろ
こいつらみんなして寛いでるけど、お前ら帰れよって話だ

「今日キョンちにとまっていい~?」

「あぁいいじゃんいいじゃん、とまってけばー」

「えぇ? でも私着替えもってきてないし」

「気にしない!」

「おいこなた! 勝手に話進めんな!」

「いいじゃねぇかよキョン、修学旅行ののりだぜ~」

「だぜ~」

「お前らキャラかぶってんだよ!」

「岩崎さんも泊まってく?」

「えぇと…」

「いいんちょもとまっちゃえ!」

「焼肉も含めて流されに流されてるぞ俺…」

「…」

「長門は?」

「ここにいる」

「…あぁ! もう! 好きにしてくれ!」

「ってことでキョンは部屋に戻っとけ!
 わたし達はここで雑魚寝すっから」

「酷い仕打ちだ…」

「一応みんな女の子だしね」

 男と女が一対一ならまだしも、ここまで勢力差があるとただただ辟易するだけである
まぁとにかく、とにかくである!
流れのままに流されて焼き肉パーティの次はパジャマパーティ(死語)だった
俺は一人自室で就寝、しかも布団は女子`S(複数形)に巻き上げられてしまった状態で

「この野郎、所によっては冬というものがいまだ存在する中この仕打ち…」

 俺は一人床に転がって涙を流した

   4.


「ま、なんとかロボコンからロビンちゃんにはなれたな」
「あんたのその例えやめた方がいいわよ」

 六日目、明日にあの分裂野郎との二度目の戦闘を控えた今日
俺達は最後の通し練習を終え、居間の椅子に座って100点と言う表記と
その周りを装飾してる点滅するライトが眩しいツイスターゲームもどきを見ていた

「はぁ、しかし長かったな」
「そうね、心機一転始めてから三日目にしてやっと。
 明日に戦闘備えたギリギリのギリだものね」

 現在時刻9時前、戦闘直前の待機等を考えるとそろそろ体力的に寝ないといかん時間だ

「お腹へった~、なにか食べましょ」
「そうだな、なにか作るか」

 ”作る”と言う俺と”食べる”と言う柊
それだけでもうこの一週間の日常がよくわかるというものである

 しかしなんかさっぱりしたものを食いたいな
そうめんじゃ腹持ちが悪いしここは冷やし中華でもするか

「柊、冷蔵庫に卵とハムはあるか?」
「え? ちょっと待ってて。 え~と…、卵はあるわね、ハムはこの間使い切ったんじゃなかった?」

 ごそごそと冷蔵庫に近寄って扉を開け、中を探る柊
俺のほうが若干近いがことが料理関係になると
柊は役に立たないので比較的俺の言うとおりに動いてくれる

「あぁ、炒飯に使ったんだったな。卵はいくつある? あとキュウリは?」
「四つあるわね、きゅうりはあるわ。三本」
「じゃあハムと麺を買ってくれば問題ないな」
「冷やし中華でもやるの?」

 俺が聞いた材料からしっかり今日の夕飯を把握した様子の柊
料理は作るほうの知識は無いくせに…食い意地がはってるのかなんなのか

「スーパー閉店までもギリギリね」
「まぁ飛ばせば間に合うだろ」

 ヘルメットを掴んで食器棚の横にかけてある鍵を取って玄関へ
本当に急がないといかんと思っていると柊が

「私が行って来るわよ」

 そういって俺のヘルメットをふんだくる

「なんだ? 免許持ってるのか?」
「原付だけだけどね、でも自分のバイクくらい持ってるわよ」

 初耳だった、買い物は一気に済ませる俺としては
いつも買い物はこなたの車か自分で行ってたからな
柊と暮らし始めてからの6日間は特に柊に買い物を任せられないという事実も手伝って
そういえば全然こいつと家を同時にでたことはなかったか

「どんなん?」
「マグナ50」

 普通にスクーターとかじゃ無かった
どうやら柊はずいぶんといい趣味をしてるようだ
…嫌味ではなく

「行ってきまー」
「らっしゃ、…場所わかるよな?」

 俺のメットを担いで玄関をでる柊に
ふと疑問を感じて質問する、だから買い物は俺が一人で行ってるんだって

「…えっと?」
「あぁ、………俺が行く」
「大丈夫大丈夫!」
「残念だが地理に関しては根性論や精神論は適応されないぞ」

 あと、人のヘルメットを振り回さないように
几帳面や潔癖じゃないが、だがそれはものを大事にしないのとイコールではないぞ

「だいじょぶだって! あれっしょ、こなたとここに来た時に通ったスーパー!」
「そうだが、少し道を間違えてるうちに閉まっちまうなんてことないだろうな」

 この言い合いの時間も果てしなく無駄な時間である
普通に俺が行けばよかったじゃないかよ

「いいから! 買い物は私に任せてあんたは今ある材料でできることやっといて!」

 バシュと閉まるドア、ご注意くださいだコラ

「まったく…、卵を焼いてキュウリを切ったら実は麺変えませんでしたにならんでくれよ?」

 意地っ張りというか頑固というか、一種考えなしとも取れる行動に呆れながら
俺は閉まったドアにため息をついて台所に引き返した

…あと事故もしないでくれよ?

「まぁ仕方ない、とりあえずはやることやるか」

 これ以上遅くなると作るのも面倒になるしな
柊も俺に買出しも調理も任せるのが少しだけ悪く思っての行動だろう
ならば少なくとも俺は口出しをしないほうがいい
今日はあいつに任せて自分のことをやろう

「とりあえず卵ときゅうりな」

 俺は卵を4つあるだけ取り出してすすいだボールに全部割りいれる

「おっ」

 その一つが双子の卵だった、一つ一つは小さいけどお得な気分だった
で、それを菜ばしで黄身と白身をかき混ぜ、油の引いたフライパンに薄く広げる
厚いところのないようにフライパンを傾けて前面に薄く薄くとゆっくりとのばしてく
卵は弱火でやらないとすぐ焦げるからな

 あとはきゅうりのへたを切り落として
まずは三本全部を斜め切りをして、さらにそれを縦に細く切っていく

 切ったキュウリをざるに入れて水にさらす
その間にまたフライパンに戻りまな板に上に薄く焼いた卵を
そっと破れないように箸で移動させ、また油を少し引いて二枚目を焼く
あとは二枚目が焼けてから卵を金糸卵のより少し太い程度に切ればこの二つはオーケー

「あとはハムと麺がくるのを待たなくちゃいかんな」

 時間的にそろそろ帰ってきてもいいんじゃないかと思うんだが
…そういえばかがみは冷やし中華のごまと醤油をどっち買ってくるだろうか?
俺は胡麻派なんだが、醤油を買ってこられたらちょっとショックがでかい
食べないわけじゃないが食べたいものと中途半端に違うものを食べるのは
逆に嫌な感じだ、どうせなら全然違うものの方が諦めがつく

「カレー食べようとしたら、あっ、福神漬けが無い! …まぁ仕方ないか。見たいな」

 少しだけローテンションになる、俺は福神漬け使わないけどな
ついでに福神漬けとは、そのまま七種類のものが材料として使われてるから
七福神から福神漬けらしい、豆知識

「ただいま~」

 どっちになるか俺が本格的に悩む前に柊が帰ってきた
ナイスタイミングとこれはいえるのだろうか?
もうちょい早く帰ってきてくれれば疑問を浮かべることも無くだな…
いや、そのパターンで醤油だったら余計にえ~ってなるな

「やぁ柊、丁度良かった聞きたいことがあってだな。
 いやまったく些細なことなんだが冷やし中華の味はなにかな?」

 俺は不自然にならないように玄関から入ってきた柊に
さりげなく胡麻か醤油かを聞く、あくまでもさりげなく

「え? 私醤油好きだから―

 ちょっと待て、それはバットエンドルートだ、誰も幸せにならない選択だ

 ―両方買ってきたわよ」

「やっふぅ!」

 ナイス柊! 今度から柊に買い物を任せても大丈夫だと俺は判断した

「は、はぁ? どうしたのあんた?」
「いや、俺はいたって普通だが」

 むしろ好調ですらある、校長絶好調
俺は柊からマイヘルメットと買い物袋を受け取り
メットは所定の位置に、そして袋の中からハムと冷やし中華の麺…

「三人前×2だと……?」

 ごまと書かれた奴と醤油の奴、が一つずつ
これはいい、だがしかしその一つが三人前とはこれいかに
計六人前ではないか

「両方の味を買おうとしたらこういうことになりました」
「明日も冷やし中華をしろって…そういいたいのか!?」

 いくらなんでも三人前は多いだろ
二人前は余裕だが三人前は無理だ、普通に

「…まぁいいか、とりあえず内二つは冷蔵庫に入れといて四つだけ茹でるか」

 残ったのは明日戻ってくるこなたにでも食わせてやればいい
もう本当に時間が無いんだからな、遅くなりすぎだ

「そういやちゃんとスーパーについたんだな?」

 すっかり忘却してたが、目的地に着かないという可能性が
今回かなりの割合をしめていたのだ

「なんとかなったわ―」

 こなたにここへ連れてこられた時の一回見ただけの場所に
しっかり制限時間内に到着できるということは、実は記憶力がいいのだろう

「―勘でね!」
「やっぱりダメだ!」
「なによ!? しっかり役目は果たしたわよ!」
「お前もういいよ! 勘でドイツに帰れよ!」

   5.

「二人とも準備はいい?」
「おっけ」
「大丈夫よ」

 紅と紫の二体のエヴァそのプラグ内で作戦実行を待つ俺と柊
両機はカタパルトにセットされて街に再進行している敵が
規定の位置にまでやってくるまでの数分の会話

「二人とも、少し眠そうだけど…昨夜はお楽しみでしたか?」

 色々あった昨夜、俺は結局ほとんど寝ることができなかった訳で
それに目聡く気付いたこなたはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ
オヤジのようなことを言う

「…さぁな」
「んなわけないでしょ?」
「二人とも乗り悪いな~」

 戦闘前にノリノリの方が嫌だろうが
そんな奴に世界は任せたくない

「…世界ね」

 ふと自分の独白に平然と混ざった責任に自嘲交じりの表情になる
俺は、平常で平静で平穏で平和で、安定で安穏で安静で安全な

総じて”平安”なそんな毎日があればそれでいいのに
不特定多数の全地球人の命なんて…正直どうでもいいってのに
なんで俺は自分の命を懸けて戦ってるんだろうか

「きたよ」

 一気に引き締められた思考
こなたがいうのと同時にプラグ内にいつもの第三の地図
そして敵の現在地が描かれている

「んじゃ、さくっと行くか柊」
「そうね、62秒の間にね。キョン」
「ん?」

 キョン、こいつが俺のことをそう呼んだのはそういえばこれが初めてだった

「ミュージックスタート」

 カタパルトが射出され上部に向かってエヴァ二機が高速で打ち上げられる
普段されてる肩部の拘束が無く地上に出ると同時に慣性でそのまま上空へ飛ぶ
そしてスピーカーからもはや耳にタコの音楽が流れる
同時に柊の思考が聞こえる気がした、次にどんな行動を取るかがわかる
相互リンク状態の意識

 眼下に存在する二体の倒すべき敵
俺達はその二体の敵と一定の距離を持ち左右対称に着地する
そして武器庫から同時にライフルを取り出し俺は左の柊は右の一体に射撃を開始する
腕、脚、頭部、胴体、紅球、着弾地点までもが揃った攻撃に
神人は果たしてこちらの狙いに合わせるように、左右対称に飛び上がる

 俺と柊は後転からバク転に繋ぎ更に敵から距離をとる
敵は一瞬前まで俺達が居た地点を切り裂いて動きを止め
俺達と対峙する

 そして予定通りの形になったこの陣形
俺と柊が遠距離で向き合い、その間に二体の神人が
背中合わせに俺達と向かう、四体の巨人が一列に並ぶ

 そしてその中心を線対称に俺達は動き出す
ライフルを捨て、目の前の敵に走り向かい
俺は右手で弐号機は左手でプログナイフを構える
敵は俺達がシンメトリーに動くさまを見て同じく完璧なリズムで動きをあわせる

 腕で俺達のナイフを払い腹部に体当たりをかまされ
俺たちは後ろに宙返りしナイフを投擲し再度距離を詰める

 行くぞ柊!
 わかってる!


 声が無くともそう意思疎通が行えたと思った
そして攻撃、接近し敵に回し蹴りをして吹き飛ばす
続いて掌底を食らわして宙に浮かす

 空中で跳ね上がった二体の敵が背中同士をぶつけて動きを止める
弐号機が上げた腹部を下に向けた状態の緑の敵とその背中に乗るように重なる
もう一体の赤い色の敵、今度は動きが同じでも上下での同動作
一体がうつぶせになりその背中に仰向けになるもう一体

 そして音楽のクライマックス、敵の更に上空に飛ぶ初号機で跳躍し弐号機と完全に動きを合わせる
弐号機は少し足を浮かして頭よりさらに高く脚を上げて紅球を
俺はその動きを上下逆に地に頭を向けて脚を振り”降ろす”して紅球を

 音楽の終了と同時につま先で打ち砕いてやった

 ガラス球が砕けるような軽く繊細な音が聞こえた気がする
そして閃光、白く染まる視界、爆発
逆さまに空中に居た俺はその間も真っ白な世界を自由落下し
地面についた小さな衝撃を感じた
…こんなに小さいものか? と疑問感じたのも束の間

「これで貸しは一つ返したわよ」

 開けてきた視界にはすぐ近くに弐号機の顔があり
柊の少し得意げな声が聞こえた

「…さんくー」

 どうやら俺は弐号機に抱えられる形で受け止めてもらったらしく
少し以上に気恥ずかしい状況で俺は、いつだったかこなたに使った
ふざけた感じの礼で返すことにした

「おかえりー」

 例によってびしょぬれの前髪を払いながら
いい加減痛みも感じず違和感と嫌悪感程度で
肺からLCLを吐き出せるようになった自分に色々思ってるとこなたがケイジに現れて
拍手を叩きながら景気よく話しかけてきた

「おう」
「まぁ予定調和って感じよね」

 それに対し俺達の対応は結構冷ややかだった
そんなことより早くシャワーを浴びさせてくれってのがあるからな
この状態で乾くのだけは確実に避けたいものだ

「うにゃにゃ、最後の決めのシーンのブイがあるけど
 あれは凄いね、映画のアクションを超えるね!」

 なにがやりたいのか、非常に楽しげにまくしてくる
音楽にあわせてアクロバティックな戦闘をしたのがそんなにお気に召したのだろうか?

「まぁCGじゃねぇからな」

「流石にただの映画には負けたくないわよね」

 こっちは命をまるまま、そのままの意味で懸けてるのだ
俺は映画に命を懸けてる! と熱血な監督が言ったところで
映画を取れなかったら実際に死ぬようなわけではないだろう
映画を取れないと死ぬ病気とかどんな珍病だよ…

「いんやー、凄かったよ!
 本当に映画だよ、マトリックス見たいな感じだけどスケールが違うよね!
 でかいでかい! で最後も完全に決まったわけじゃなくて
 こう仲間の絆見たいのが見えたあたりいいよねぇ」

 大声で先ほどの戦闘を語り続けるこなた
最後のあたりは特に聞きたくない
格好がつかなくてしょうがない

「あと借りは一つよね?」

「あぁそうだな、もう俺は先にシャワー浴びてくるからな?」

 もう本当に適当に言い切ってその場を去ろうとする俺
まったくどいつもこいつも…

「当然のように戦闘は録画してあるけど見る?」

「…あぁ」

 まったくどいつもこいつも俺も…

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最終更新:2008年07月07日 11:02