1.

「そ、でっかい海にくりだしてビックな船にのらないかって事だ」

 俺は窓際最前列を維持してる自分の席で
あやのとみさおにこなたから提案された話を身振り手振りで説明してた

「はぁ~、すっげぇなあやの!」
「いいの? なにかまた事情があって行くのに私達が混ざって邪魔にならないかしら?」

 単純に喜ぶみさおと伏目がちに気を使うあやの
対照的な二人の反応だった、まぁ予想通りだが


「いつだったか、言ったろ? 俺が提案してるんだ、自分のやりたいほうを選べって」



「は? 先週に続いてまた出張?」

 今朝の話である、納豆をかき混ぜながらテレビを見ていた俺は
またもこなたの発言を呆れた声で反復した

「ん、ちょいと違うんだけどね。今回は出迎えみたいなもの」
「出迎え? なんのだ?」

 俺の作ったあさりの味噌汁を口付け、わざわざ意味ありげに一拍おいてからこなたは
意地悪そうな笑みを浮かべて俺に言った

「太平洋に弐号機とセカンドチルドレンを迎えにだよ」

「セカンドチルドレンか…」

 そういや世界に三人とか言ってたな、俺と長門ともう一人
そのもう一人とその機体が日本に太平洋渡ってどんぶらこっことやってくるわけだ

「それってやっぱりここに配属されるのか?」
「そうだよ、現状で戦闘に参加できる全ての機体とパイロットがここに揃う訳だよ」

 なんか日常的にかかわってるから忘れがちだが
エヴァは基本的に現代の科学の枠を超えた最強兵器だ、それを三機独占
そりゃ日本政府も焦ってあんなJ.A.なんてものを作る訳だな

「現状でって事は他にもあるのか? ってか弐号機はどこからくるんだ?」

 どこの国からくるのかは知らんがそうとう渋っただろう事は想像に難くない
ここ以外の唯一戦力となる機体だったわけだろ?

「現在はアメリカで3号機と4号機が建造中、弐号機はドイツからくるの」
「ってことはパイロットもドイツか、ってかその二つの国には支部があることになるな」
「結構幅広いよ~うちの組織」

「ドイツか…そういやドイツに知り合いがいたっけな」
「おやキョンも意外とネットワークが広いようで」
「けっ」

 個人的感情を抜きにすれば尊敬に値するが
しかしあの男の『個』は非常に俺が嫌悪するタイプだ
まったくつまらないものを思い出してしまった

「で、まぁとりあえずパイロット同士の顔合わせってことでキョンも強制連行ね」
「はぁ!? じゃあ長門も行くのかよ?」
「いや? 万が一に備えてパイロットのうち一人は待機」
「じゃあなんで俺なんだよ?」
「有希はコミュニケが苦手だからね」

 俺は中腰になりかけた体制を戻し
椅子に深く腰をかけて朝食に手を伸ばし平静を保ってみせる

「ま、そんなわけでとりあえず今日は学校に行って明日向かうから
 なんだったらあの正反対の二人組みの友達もつれてきていいよ
 あぁ、どっちかは彼女かな? いんや~キョンはもてもてですにゃー」
「黙れ」

   2.

で、面倒だからそのまま当日


「ほう、あれが太平洋艦隊か」
「そ、で、そこにいる一際でかいのが旗艦のオーバー・ザ・レインボー」

 またとんでもない船を足にしたもんだ
どうせまた嫌味言われるんだろうな…、この面子だし

「でけー! あやのでけーぞ! 戦闘機も一杯あんぞ!」
「そうねぇみさちゃん、あまり身を乗り出さないようにしないとヘリが傾くわよ」
「でけー」

 一人で四人分うるさいみさおとそれを適当にもほどがあるあしらい方のあやの
こなたは普通にしてるし軍服着てるが外見上12歳、こなたと二人はごめんだから
言われたとおりにこの二人を連れてきたのだがこれはむしろまずかったかもわからんね

 ゆっくりと分厚い甲板が近づいてくる
先ほどこなたが行ってた虹の名を冠する巨大な船の広い甲板の上にヘリは着地する
(この場合着”地”といっても地上どころか土の欠片すら見えない海上であることは言わなくてもわかることなので突っ込み禁止だ)
日に焼けた厳つい海兵(今回は杞憂に終わったが俺はもし彼らがセーラーを着用してたらその場で帰る気だった)が
作業してる中ヘリから十代の子供が数人出て行くのは少々気まずいところがあり
特にこなたはやけに視線の的になっていた、決していい意味ではなく

「とりあえずは艦長に会いに行って弐号機の引渡しの書類等色々手続きを済ませるから」
「了解」

 あたりをきょろきょろするみさおとそれと一緒に歩いて
時折シュールな突込みを入れるあやの、今日は少しあやののモチベーションが異常だ

「あらこなた、久しぶりね」

 こなたが分厚い書類をぺらぺらと捲くってる隣でボケッと周囲を見渡していると
不意にどこからか声をかけられた

「お! かがみ、見ないうちに大きくなって」
「あんたはまったく変わらないわね」

 紫の長い髪を潮風になびかせて
薄い空色のワンピースを着てこちらに歩いてくる少女

「おいこなた…」
「そ! この子がセカンドチルドレンの弐号機専属パイロット柊かがみだよ」

 バサッと書類の持った手を向けて紹介された少女は
なにやら尊大な態度で腕を組んでこちらを無遠慮な視線で見てくる

「どれがサード?」

 どれ呼ばわりだった、無遠慮な上に無思慮らしい
しかしいつのまに合流したのだろうか真後ろにあやのとみさおが居て
紹介された少女を眺めていた

「俺だ」

 その態度も視線も口調もどことなく気に入らない俺は
それ以上無遠慮な視線に晒されるのはごめんだと前に出て自分から名乗る
俺は短気ではないが気に入らないことは多い

「はぁん、あんたがあのサードチルドレン?」
「残念ながらお前とコソアド語で喋れる間柄になった覚えは無いが
 しかしサードチルドレンは俺だ」

 品定めするような視線が俺の体を上下する
非常に不愉快極まりない、一瞬で悟った、俺はこいつと仲良くなれない

「普通ね」
「お前は自分のことを特別だと思ってるのか? おめでたいな」
「はぁ!? ちょっと喧嘩売ってんの」
「さぁな」

 自然口調が喧嘩腰になる
人間の恋愛関係と同じ様に、相手が自分を嫌ってるという事実だけで人は相手を嫌えるのだ
一度両者がそれを自覚すれば後は連鎖だ、スパイラル

「ちょ、ちょっとキョン君。落ち着いて…ね?」

 あやのが後ろからそっと耳打ちしてくる、吐息がこそばゆい
俺はそれにほだされたって訳じゃないが少し警戒レベルを落とそうとする
が、

「なに、あんたの彼女? わざわざ連れてきて束縛癖のある男って最低」
「どうしても来たいっていうから連れてきてあげたんだよ」

 売り言葉に買い言葉
俺は耳打ちするまで近づいていたあやのの肩を抱き寄せて
両腕で強くホールドする向かい合って抱き合う形になった俺は
あやの肩にあごを乗せて、柊とそのまま睨み合う

「あ、あの! キョ、キョン君、そういうのは、いきなり、えと…えっと!」

 あやのがテンパッてるがちょいと見ないふり

「はいはい、ストップストップ
 私は艦長さんに会いに行きたいんだけど~?」
「…わるい、行くか」

 こなたが両手を叩いて中断させる
俺はあやのを離して後頭部をかきながらそれに続く
まぁ文字通り手打ちって奴だ

「ちょっと、待ちなさいよあんた!」
「待つわけねーだろ、俺はお前に会いに着たんじゃねぇの」

 片手をひらつかせて艦内に入る
甲板の照り返しと無駄に元気な太陽のダブルの所為で中が暗いこと暗いこと
明順応より暗順応の方が遅いからな、ちかちかする

   3.

「ガールスカウトの集団が見学に来たのかと思ったが
 どうやらそれは違うようだな」

 艦長に会って早々言われた台詞がこれだった
まったくごもっともな意見だがしかし真っ向から言われると少々対応しずらい
こなたはしかしそれには反応せず
「まずこれに目を通してください」といって持ってた分厚い書類を手渡す
お前の所為でこの手段の外見的平均年齢が一気に下がってることを認知してもらいたい
こなたが年相応の二十歳前後の外見であればまだ少しはマシだっただろうに

「弐号機の機体引渡し、また権利の移譲
 電源ソケットの配置緊急時のマニュアル…ふん、貴様らのおもちゃにはずいぶんと金がかかっとるな
 しかもそのうちの一機に対してずいぶんの護衛じゃないか」

 …なぜ俺のほうを見て言う

「弐号機の兵器としての重要度を考えれば
 これでもまだ不足してると言えますけれど」

 こなたは続けて言う
おいおい、もう少し口の利き方に気をつけてくれ
この太平洋艦隊旗艦の艦長となれば大将、中将の将官になるんだぞ?
新生組織の軍的官位になればただの佐官程度のこなたが
そんな口を利いていい相手じゃないんだ…
頼むからもう少し穏便に、あぁ胃が痛い

「…君」
「はい」

 なぜ俺がそこで呼ばれる?
勘弁してください俺みたいな一般パイロットからしたらあなたは本来雲の上の人なんですよ?
軍人の意識がほぼない俺だがしかし緊張して死ぬ

「…ほう、そうだったのかすまない
 となると君があの有名な、ほう、なら君はいくつだったね?」
「17です」

 かけられた声に多少強張りながらも答えると
艦長は一瞬呆気にとられてから豪快に笑った

「はっは! 君は、そうか大人びているというより、老成してるな雰囲気が!」
「…恐縮です」
「ふむ、君の組織は嫌いだが君は気に入った
 だが太平洋艦隊の名にかけて日本につくまで弐号機は我々が護衛する
 問題はないかね?」

 最後の質問はこなたに向けて
こなたは少し逡巡した後静かに「はい」とうなずいた

   4.

「お前本当ふざけんなよ! 俺を胃潰瘍にさせるきかよ!?」
「いや、そんなつもりはないんだけどさ
 高圧的態度には屈しない精神で」
「実際めちゃくちゃ偉いんだよ!
 しかも旧大戦の英雄艦だし、当然のプライドもある
 それがエヴァを運ぶために総動員させられてるんだ、嫌味の一つ二つで済むなら安いもんだ!」

 艦内食堂で軽食を取りながら俺はこなたに声を荒げる
流石に勘弁してもらいたいにもほどがある
こいつはずっとこんな調子だったのか? 周囲の組織から嫌われるもんだ

「あやのー、ジュースがさっきより薄くなった」
「氷が溶けたからね」

 こいつらは全然先ほどのやりとりを得ても変わらない
俺は手元の紙コップに入ってるコーヒーを飲み干して息をつく

「サード、ちょっといい?」

 しばらくは船の上、日本につくまであとしばらくは船上見学でもぶらりとするかと思い
とりあえずはあやのとみさおが一息つくまでまとうと椅子の背もたれに寄りかかると
後ろからまたも声をかけられた
俺はそのままぐいっと背中を反らして後ろを見ると
やはりセカンドが腰に手を当てて先ほどの話じゃないが高圧的態度でたっていた
こいつは俺より偉いわけじゃない

「なんのようだ?」

 相手によって態度を変えるのが賢い人間 by俺

「私の弐号機を見せてあげようと思ってね」

 俺は反らしてた体を戻してこなたにいまだにのんびりとした感じの両名を頼んで
椅子から立ちあがりセカンドこと柊に向き合った

「付き合おうじゃないか」

 一番最初に作られたらしい零号機
次に作られたのが俺の初号機
そしていまのところ最後に作られた弐号機
零号機を見たときその初号機との外見的特長の相違がよくわかりまた
どう改善されたのかもそこそこ理解できる作りだったが
しかしならば初号機から弐号機はどのようにバージョンアップしてるのか?

 …目が四つになってた
なんだろうか、零号機単眼、初号機双眼に続いて弐号機は…四眼?
改善点は特に目に重視されるのだろうか?
そもそもじゃあこのエヴァとシンクロしたら視界はどのようになるのだろうか
興味は尽きない、…ついでに色は赤でこれまた更に派手になっていた

「プロトタイプの零号機やあんたのテストタイプの初号機とは違う
 エヴァンゲリオンの本物なのよこの弐号機は」

 ということはアメリカで製造されてるという3号機4号機も目は四つなのだろうか?
興味は尽きない、が、柊に対する苛立ちも尽きない

「へぇ、ずいぶんと綺麗な機体だな
 真っ赤なカラーコーティングも完全に塗れているし」

 俺はまず一度弐号機に近づいて色々な角度から見ながら
その弐号機を褒める、持ち上げて落とすのは基本だからな
柊はそれに気を良くした様に橋の上でふんぞり返る
…あぁ説明不足か

 ここはいま先ほどの船とは違うエヴァを積んでる別の貨物船で
エヴァは横たわるように収納され、そこには液体が溜まっている
で、液体の上をあるくためにドラム缶と木の板という簡易型の橋がエヴァと通路の間に架かっている

「いやぁ、まったく傷一つ無いな」
「あったりまえじゃない!」

 上記のようなやりとりを幾度か行う
…そろそろか、俺はタイミングを計って話題を変えずに柊を落とすことにした

「俺の初号機は傷だらけでさ、所々色がはげてるんだよ
 メンテはするんだけど間に合わなくってな」

 柊は褒められて気を良くしたのか俺の話にも静かに耳を傾けている
このあたりも計算どおりである、自分が褒められたわけじゃないのにな

「第三新東京市はまだ開発してないところもあるから戦闘中に砂や石がぶつかって細かい傷が耐えないし
 この間なんて敵の攻撃食らって装甲とけちまうしよ
 流石に弐号機はまだ”一度も戦った事無い”だけあって綺麗だよなぁ?」

 つまりはそういうことだ、戦う兵器であるエヴァが綺麗ってことは実践にでていない
ただのお飾りにすぎない、これからはこの間の戦闘で改修された零号機同様前線にでるんだろうが
いまのところ戦闘未経験なのだったらそこをつついてやれ

 こなた曰く、こいつはポッとでの俺が神人を三体倒していることに腹を立て
さらに長いことパイロットやってるとう自負やらなんやらが偉そうな態度に繋がってるという

「ま、まぁでも私が日本に行けばあんた達はお払い箱よ
 私がいままでどれだけ訓練したと思ってるの? 私にお任せよ」

「おや、ドイツ暮らしの長い柊さんはどうやら日本の言葉とかには詳しくないようだ
 1回の実践は100日の訓練を超えるというのを知らないのか?」

「いるのよね、まぐれで起動できて勝てたからって自分の実力だと思う
 勘違い男ってどこにでもさ」

「あぁ居るな、レーシングゲームで自分はうまいと思っちゃって実際の車乗って
 大事故起こして死んじまう馬鹿な勘違い女ってどこにでも」

「それにパイロットが優秀で機体の性能までも高いんだもの
 私が居ればもうこれからの敵は雑魚よ雑魚」

「確かに優秀なパイロットだ、自分のが一番と妄信して他を見ない上に
 結局性能あるマシンもクラッシュさせちまうんだからな
 まぁお前が自分のことをエリートとか思ってるかどうかは知らんし
 弐号機がどれほどすぐれてるかなんて知らないけど
 俺はすでに三体もの神人を倒してる、零号機のパイロットだって一緒に出撃した
 …お前は?」

「そんなの結果論だわ、ドイツに来てれば全員私が一人で倒してたもの」

「は、そんな夢想、空想のなかならなんだっていえるよな?
 人間がなにを一番重んじるか知ってるか? 結果だよ
 結果よければ全てよしっていう言葉があるくらいな」

「だからこれからは私が一人で倒してやるわよ!」

「それも無理だ、三機あるのに戦力を出し惜しみするわけ無いだろ?
 戦闘があるとしたら常に三機だ」

 言い合ううちに柊はだんだんと近づいてきて
いまや俺の胸に人差し指を突きつけて俺を食い殺さんばかりの剣幕である
たーのしっ

 柊はその距離のまましばらく俺を睨んでいたが
一旦離れて深呼吸をしだした、あれだけ浅い息を繰り返せば過呼吸になる

「いいわ、あんたがそんなにいうなら直接バトルよ」
「バトル? 悪いが俺には白兵戦のスキルはあまりないぞ」

 武器なしの格闘や短剣術程度なら多少は心得があるが
しかし自信を持ってできるってレベルじゃない、師範に筋がいいと言われる程度だ

「違うわよ、私達はパイロット。なら種目は決まってるでしょ?」
「シミュレーションか……」

 インダクションモードに代表されるような仮想空間でのシミュレーション
市街の再現、シンクロ率の反映された動き、模擬体の神経接続を利用した実際と同じ身体の感覚
実際の搭乗に限りなく近づけたシミュレーション
それは二人以上のパイロットが居れば同時のフォーメーション練習等にも使える

もちろんパイロット同士の模擬戦闘にもだ

 だがまさかただの道中の船に二人分のシミュレーション設備があるとは…
正直まったく思ってなかった、あの艦長だって嫌ってたし

「艦長はいい人よ、ただSOSの組織のあり方が気に入らないって言ってたけど」
「そういえば組織事態は嫌いだが俺のことは気に入ったって言ってくれたな」

 エヴァの機体から少し離れた一室がシミュレーションルーム
中は想像以上に広くこんな広さシミュレーションに必要ないだろというほどだった

「娯楽が少ないからね、私が仮想空間でエヴァを操縦するのをゲーム画面感覚で見てたりするのよ」
「おいおい…」

 海兵さんはずいぶんと陽気だった

「だったら一人でのろくさ動く敵を片付けるより俺達の戦いのほうが見ごたえはありそうだな?」
「そうね、私達の勝敗をきちんと見てもらわないとね。あんたがごねたら嫌だもの」
「言ってろ自信過剰女」
「えぇ言わせてもらうわ勘違い男」

 ちょっと待ってなさいと言って一回部屋からでて人を集めてくるらしい柊
俺はその間に本部のと少し違うシミュレーションシステムを見回していた

   5.

「ルールの確認するわよ?」
「あぁ」

 見慣れた光景、星と月と太陽が無い第三新東京市の仮想空間で
相手の声だけが聞こえる状況

「場所はあんたの得意な第三新東京市。電源、武装、兵装、装甲、各ビルの位置は実際の位置と同一」
「最初のお互いの位置は初号機A-2ブロックで弐号機はG-9ブロック
 バックパックにバッテリーを標準装備で全種の武器使用可」

 お互いに交互にルールを言い合う
今のところ齟齬は無い

「勝利条件は相手のエヴァの行動不能」
「敗北条件は自機の行動不能」

「ドゥーユーアンダスタン?」
「アーユーレディ?」

 GO!

 エントリープラグの壁面を模した画面に開始を表す文字が浮かび
低いアラートがなる、カウントはバッテリー含めて35分
初期装備はB型装備の標準武器、つまりナイフのみ
どっかの武装ビルで武器を手に取るか先にケーブルを繋ぐか
だが相手の位置がわからない状況でケーブルに繋ぐのは自身の束縛
バッテリーはケーブルに繋げば同時にチャージできるんだし

「いまは武器を取って攻撃あるのみ!」

 俺は身をかがめて全力でA-4ブロックまで移動
シミュレーションのシステム越しに後方から野太い声援やらが聞こえるのが熱いね
…あった、俺は武装ビルからこの間のキラキラ野郎を攻撃するのに使おうとした
緑の長距離用ライフルを取り出す、よくわからない敵にはまず様子見から
換えの弾もとってパックにしまう
あとは接近戦用の武器も腰のホルダーにしまっておきたい所だ
長短どちらも応対できるのが一番望ましい

「それに使ってみたかった武器もあるしな」

 仮想空間ならなかなか使えない最近作られたばかりの量産性の低い武器も使える

「初号機はカウンターソードとマゴロクターミネーターソードを手に入れた!」

 ファンファーレの音は自分で口ずさむ
そして別の武装ビルからとりだしたそれらを腰にかける
これで武装は完璧だ、まず移動、発見と同時に遠距離武器で発砲
まぁあちらもエヴァならフィールドで防がれるだろうが目くらましや威嚇にはなる
で、相手が気付いたら接近戦へ変更
ライフルの射程の長さだったら気付かれたことに気付いて武器を捨てて
それからカウンターソードを構えてもまだ間に合うはずだ

「あとは弐号機がどこにいるか索敵しなければならんな」

 …俺は一度ライフルを真上に向けて手動で発砲する
火薬の爆発音と弾丸が昇っていく軌跡、たぶん弐号機にも聞こえただろうし見えただろう
このままこの広い市街をうろつくよりこの方法のほうが早く決着が尽くし俺のほうが有利だ

「さぁて、やってくるかこないか」

 あっちが武器をなに装備したかでまた変わってくるんだよな
G-9ブロックは開拓中の多いエリアであるから逆にこの地形を知らなくても
あの辺りにたってる立派なビルはみんな戦闘関係のビルだとすぐわかる

 そもそも新型なのだから標準武器の方にも違いがあると考えていいだろうしな

「くそ、こういうスナイパーな行動は長門の役割だって」

 俺が若干のジレンマを感じ始めたころ
ビルとビルの間の若干の隙間から赤い機体が見えた
やっぱりあの色は目立つ、…初号機に負けず劣らず目立つ
多分あっちからも観測されたんだろうな

 俺は見えたときに弐号機が動いてた進行方向と逆の方向に走る

 銃声、とともに俺が先ほどまで居たところの前にあった
ビルの一つが跡形も無く破壊された
俺は疾走する脚を一旦とめてそのまま跳躍する
ライフルを右手で構えて、少し遠くに見える赤い的に標準もろくにあわさずに放つ
片手で適当に打ったために反動で後ろに回転しながら地面に着地

 歓声がうるさくなってきた

「やっぱ飛びながらじゃダメか、オートでやろうもんなら後ろに本当に飛んじまう」

 多分弐号機は連射の利くパレットライフルだと思うんだが
となるとこっちのライフルが届いてパレットライフルが届かない丁度の距離を作らないと危険だな
考えてるうちにまたビルが崩れていく
横に薙ぐ形で連射してるのかだんだんこちらに近づいてくる

「だったら…」

 前方に勢いをつけて跳躍、そのままライフルを手動で三発撃つ
弐号機は横にすばやく移動してそれを避けてビルの裏に隠れる
俺はライフルの反動と跳躍の向きがうまく相殺されたおかげでその場に下りる
まぐれだったが次はうまくいくかわからない、まぁ次やって大丈夫なら実践でもできるな

 俺は崩れたビルの破片を左手に掴んで弐号機が隠れたビルに回りこみ投げつける
弐号機はパレットライフルを持ってる腕でそれを払って砕き、こちらに銃口を向けてくる
俺はそのまま前転して頭が地に付いたときにライフルを地面に置き去りにする
頭上ギリギリを劣化ウラン弾が粉塵をまいて着弾する
前転の起き上がりざま、俺は脚を伸ばして飛び跳ね起きの要領で弐号機の腹にドロップをねじ込む

「しゃぁ!」

 衝撃で後ろに吹っ飛び、弐号機も手からライフルを離す
こっからは接近戦、俺は体制を整え立ち上がりながら腰のマゴロクソードを抜き構える
剣道は少しだけかじったことがある。左手を鍔の下、右手を柄尻につけ
立ち上がる弐号機の首元に先端が重なるように

 バク転を決めてその場から距離をとる弐号機は
左肩のウェポンラックからプログナイフを取り出す

「…形状が俺の初号機のナイフと違うな」

 俺のはアーミーナイフのような形状なのに対して弐号機のはカッターナイフそのものだった
たしか『PK-02』とか言う新型のプログナイフだったか
カッターと同じく替え刃がある変わりに俺の『PK-01』プログナイフより強度が劣るらしいじゃないか
だがやっぱり装備に若干の違いがあることはわかった
ナイフが替え刃式ってあたりが、右のウェポンラックがナイフじゃない可能性を高く肯定してるな

「要注意って…」

「―ことか!」

 マゴロクソードを手首のスナップで向きを変え
剣道のすり足で距離を縮めて逆袈裟に切り上げる
弐号機はプログナイフで受け止めるのでなく横からナイフをぶつけて軌道をずらして来た
その所為で軸がぶれて予定よりやや高めを切り上げた
ソードの下をくぐって弐号機がナイフを構える

「ちっ」

 マゴロクソードをとめて、向きを変えて、振り下ろす
その動作の間に俺の腹には穴が開いてしまう
俺は柄尻を掴んでいた右手だけを離して
さらに腰から脇差程度の長さのカウンターソードを抜刀する
腰に水平に収納していたカウンターソードを逆手で抜刀しながら身体をひねってまわるように
弐号機のエヴァに共通した細い首を狙う

 ギィン、としかしそれも弐号機にはとどかなかった
弐号機が左腕でカウンターソードを先ほどと同じように
水平に弐号機の首を刎ねようとする刃を下から殴りあげたのだ

 このままだと腹にナイフを突き立てられる俺は仕方なく
距離をとるために後転し、起き上がり二本のソードをまた鞘に仕舞った
そして変わりに一本ナイフを取り出して腰溜めに構える

「バッテリーの残量も少ないんでな…」

 跳躍しナイフを振り上げると弐号機も顔前にナイフを横に構える
俺はそれを見てからナイフを振り上げたまま首にローキックの要領で
腰を捻って蹴り倒す
あとはとどめとナイフをもう一度振り上げる

「な…?」

 右腕に五本の黒く太い針が突き刺さっていた
じんわりとした痛みの所為で動きが鈍る
とっさにナイフを弐号機に投擲するが肩に傷を作るだけ―

   6.

「だぁぁ! なんだよあれ!?」
「弐号機の標準装備のニードルガンよ」
「なんだそりゃ? 規定外だろそんな新兵装」
「でも標準装備よ、べつに私がなにかしたわけじゃないもの」

 シミュレーション室で言い合う俺と柊
結局あの後しばらく戦闘を続けたものの、あの攻撃でみそがついたのか
最終的に両者電源切れで俺の判定負け

「判定負けとか…一番納得いかない負け方だ…」

「ま、結果が全てっていうなら私の勝ちよね」

「始終俺が攻めてたがな」

「過程より人間は結果を重視するんだし」

「お前がその理屈を認めた場合、結果はやはり俺が
 三体の神人を倒したというところに舞い戻ってくるぞ?」

「…ま! さっきのは引き分けでいいわよ!」

「そうか、そこまでして俺の過去の戦果を認めたくないと」

 足元に衝撃、水が跳ね上がる音、同時に爆発音

「水中衝撃波か!」
「敵って事?」
「他に何がある!? 神人だろうよ!」

 俺は波に揺れる船に足元をふらつかせながら、シミュレーション室をでる

「こっちよ!」

 柊の声に引かれて通路を駆ける
やがて海が見えるところにあたり身を乗り出して外の様子をのぞく
海を縦横無尽に行き来する黒い影、そして沈んでいく護衛艦が一隻

「今度は水中戦かよ…」
「弐号機で出撃するわ!」
「だがB型装備だろう!」

 B型装備はベーシックの頭文字をとった装備
つまりは基本装備、水中戦闘は常識的に考えて基本に含まれない

「なんとかなるわよ!」

 そういう柊の目は正しいはずの俺がたじろぐほどのものだった
…ちぇ、らしくもなく熱いじゃねぇか

「まぁ確かになんとかなるならないじゃなくて、しなくちゃならない状況なのは確かだ」

 それでも俺は先急ごうとする柊を止める
こいつは少々ばかり冷静にならないといけない

「俺もVTOLに積んである初号機ででる
 お前は先に弐号機で頼んだぞ!」
「そんなの! 私一人で…」

「柊! 状況を考えろ!」

 柊の言葉にかぶせる様に怒鳴る俺
全身を強張らせ黙る柊を俺はしばらく見つめる

「…わかったわよ」
「よし、頼んだぞ」

「こなた!」

 オーバーザレインボーに戻りこなた達と合流する
こなたは流石にすでに状況を察してるようで頷いて俺にラッピングされたスーツを投げ渡してきた

「弐号機はいま起動してる!」
「おっけ!」

 一言だけ言葉を交わしてから俺はそのまま走り出す
…と、すぐに呼び止められた

「少年!」
「艦長!?」

 艦の司令室からでてきた艦長だった
艦長は俺に親指をぐっと立てて

「決して死ぬんじゃないぞ」

 といってくれた

「了解!」

 俺は見よう見まねの敬礼でそれに返し
今度こそ初号機に向かって走り出した

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最終更新:2009年06月01日 03:26