1.

 レーザーカッターの、なんというのだろうか?
チィィィというかシィィィというか、歯と歯の間から細く息をだすときの音のような。
そんな高く鋭い音、どうじにあちこちで大量に飛び散る白い火花
そうか、火花って普通は白いもんだよなと。確認。
しかしずいぶんと高性能小型化である
あんなものが平然と数十台単位でここには存在してるのか

以下、こなたとの会話の一部抜粋

「ん、今までも結構使われてたんだよ?」
「例えば?」
「敵の攻撃受けて壊れたエントリープラグから気絶したキョンを助けるためにプラグに穴あけるのに一昨日使った」
「…」


 このカッターは俺の救助に一役買っていたらしい
見たこと無いどころかもろ恩恵に授かってる形だ


 ―現在、郊外で前回前々回と倒した神人の処理を行ってる現場に居る
最初の敵が来てから一ヵ月半かなり短いスパンで続いた敵の襲来に対し
若干処理が追いついてない感じは否めず
かといって化け物の遺体を眺めながらの日常生活は不健康極まりないので
二体とも都市内で倒したあと、俺が初号機でずいぶんと離れた位置に動かし
その周囲を囲むように急造の建物を建ててその中で作業をしている
…しかし蒸れる、プレハブのこの建物の壁は非常に薄くまた年中夏の日光を程よく吸収し過熱する
その中でこれだけの人数が火花を散らして作業をしてるのだ

「暑い…」
「こんじょだこんじょ!」
「お前はNHK見ててもなんの違和感も無いな」
「うるせぇ!」

 こなたをからかうテンションもダウン、それでもからかわないという方向に向かないのは俺だが

「しかし、これは本当にすごいわ。改めて御礼を言いたい気分よキョン君」

 喜緑さんは自身もヘルメットをかぶり神人の体を触って
子供のようにはしゃいでいる、といっても声質や表情等は別段違いが見えないのだが
それをして、なおわかるほどに態度が陽気である

「生きたコアの完全なサンプル、これは素晴らしいの一言よ」

 前回の敵から俺が剥ぎ取った紅球はそちらの世界では
そうとうに価値のあるもの(この言い方はいささか以上に不遜であるがしかし俺は他にこれを表す言葉をもたない)で
これを元に神人の情報がいままでと比べ物にならないくらい手に入るというらしい
最初は喜緑さんも前々回の両生類野郎の体から研究を進めていたのだが(この辺が処理に時間のかかっている理由である)
このコアのおかげでいまは用済みになってさっさと削られ切られていく

「で、その素晴らしい研究素材から一体どんなことがわかりましたかね、えみりさん」
「泉さんに話したところで到底理解できるとは思えないけれどね」

 この二人は本当に仲がいいのか悪いのかわからない
ちょいちょい口喧嘩未満の言い争いをしているのを見かけるが
よくつるんでるのもそれと同じくらいの遭遇率で見かける
昼時の食堂にいけば大抵二人は一緒に食事をしている

 まぁとにかく今回も適当に数分で言い合いは終了
えみりさんはタラップを降りて悠々とこちらに歩いてくる
小さなこの言い争い、俺の確認できる範囲での戦績
こなた全戦全敗、喜緑さん全戦全勝
平然とこちらにあるいてくる喜緑さんに対してこなたは少し髪が跳ねてる


「確かにコアは情報量としては破格の素晴らしいものだけど
 でもそれを理解できるかはどうかはべつなの」

 喜緑さんは俺達を素通りして、近くの椅子を持ってきてパソコンに向かい
そしてそう俺達に前置きしてから話を始める

「コアや、その前の神人の身体を構成する物質からわかったことといえば
 まだほんの少し、十の内の一もわかってないの
 だからその辺を前提として話半分程度に聞いてね」

 人の言うことは話半分に聞けというが、しかしということは四半分になるのだろうかと
くだらない、一種揚げ足取りになりかねないような突っ込みは自重

「まずわかったことは神人を構成する物質は波と粒子二つの性質を持つということ」
「…それって光って事ですか?」

 自分の知ってる情報にヒットする情報が数件
その中で現状にもっともマッチしたものを発言してみると
喜緑さんは一瞬驚いたような顔を見せた後、顔を綻ばせて
「そうよ」と意味ありげに頷いた
(個人的に意見を言わせてもらうならこれは話をわかる人間に説明するという科学者や研究者の特性のようなもので
 こなたや俺が言ってることを理解できないならそれをすごいとも思わないだろうという辺りからの反応だと伺える)

「でも、その光の特性をもってるけどならば量子力学が適応されるわけでもないの
 ただこの構成素材は素粒子に近いということもわかった」

「素粒子で光の特性、なら光量子がもっとも近いと思うのは素人考えですかね?」

「ううん、間違ってるわけじゃないの。でもそうだとするとこの不安定の塊のような変動を観測することはありえないの」

「変動? 確かに光量子は崩壊因子のない安定した素粒子ですけど」

「そもそも、私達の科学や常識とは一線を駕しているのよ。
 あくまでも近いのであってそのものじゃない」

「似て非なるものはあくまで非なるものですか」

「そういうことね」

 この間こなたはただひたすらに意味深に頷いていたが
たぶん理解できてないのだろうと俺は推測する
少々以上に興味をそそられる話題で、いつか喜緑さんとこういった話を詰めて行きたいとも思うが
しかしそれはこなたの居ないときだ

「まぁわかってるのは本当にそれくらいね
 …これを見てくれる?」

 喜緑さんはそういっていくらかキーをタッチすると
モニターに映される映像が切り替わった
『601』

「素数…ですけど、これがなにか?」
「解析不能のコードよ、これ以上のことは本部のスパコンを使っても進めないの」
「要するにわけわからんってことでしょ?」
「要約しすぎのぶっちゃけすぎだ!」

 ここまでの解析でも十分すぎるほどダイナマイト賞だ
俺はべつにこなたの事を無学だと一笑に付すつもりは無いが
しかしだからといっていまの発言は正直頂けないものもある

「まったく、馬鹿は黙ってればばれないのにおしゃべりだから泉さんは困るわね」

 手に負えないと肩をすくめる喜緑さん
小さな言い争い、またも俺の確認できる範囲での原因は
ほぼ喜緑さんである、なんだかんだで楽しんでるのか。その方面で俺と同じ人種なのか
一層語り明かしたい気分である

「あんたら、なにやってんの?」

 不意にかけられた声に俺は心臓が二ミリほど縮んだ気がした

「ハルヒか」

 長い髪を後ろでに縛ってお下げにしてるハルヒが
腰に手を当てて俺に鋭い目を向けている

「誰だと思ってた?」

 不満げな声、さっきの俺の台詞が癇に障ったのだろうか

「お前の声を聞き違えるか」
「そう」

 事実を口にすることで変わることもある
俺の答えに満足したようにハルヒは嫌らしく笑う 

「あれね、前回手に入れた完全なコアのサンプル」

 二体の神人の動かぬ身体から少し離れた位置にある巨大な球体
それは見方を変えて大きさを無視すれば紅く輝くルビーのようで
あるだけで壮厳な雰囲気すら与えられる

「へぇ、やるじゃんキョン。まぁ狙ったわけじゃなくて結果なんでしょうけど」
「まぁな、一番早いパターンを選んだだけだ。べつにサンプルとか研究とかは頭に無かった」

 同じように目線をずらし発光するその球体を眺めると
なぜか喜緑さんが口を挟む

「キョン君、あんなに知識あるのに興味ないの?」



  それは、こいつと俺がそろってる場面では、タブーだ
  一瞬フラッシュバックするのは幼少時代の天狗になってた自分
  そして小学校5年生、こいつと出会い交わした事

「……ない、ですよ。俺は、…ただの聞きかじりですから」

「私と話があんなに合うのに? もったいないわねそれは個人的に話し込みたい位なのに」

 喜緑さんは尚も食いつく、勘弁してくれと懇願したいくらいの暗い気分
口惜しそうな表情を見せる彼女にそういった意図はないのをわかってなお

「キョンがどんな知識を披露してくれたのか、…そうね興味あるけど
 でもえみり、その話はあとで二人でしてちょうだい」
「わかりました」

 ハルヒが一言いうと引き下がる喜緑さん
だが、俺としてはもうどうしようもない
こいつの前でいま喜緑さんがもらした言葉、あれだけでハルヒは全てを察するだろう
ハルヒは長い黒髪をかいてため息をつく

「なんかタイミング悪いわね私、あまり機会が無いから少しあんたと久しぶりに話したい気分だったんだけど
 まぁその調子じゃ…無理よね? 私はもう行くわ」

 俺の考えていたどのパターンとも違う行動をとってハルヒは早々に帰ってしまった
残されたのは状況を理解できてないこなたと喜緑さんと、

そして俺だけ

 二人ともなにも言わない
俺とハルヒの間になんかしらの禍根があることだけは覚ってくれてるが
しかしこの場にそれがなんの助けになるだろう
いっそ話をふってくれたほうが誤魔化しようもある
あいつがいないのであれば適当にお茶を濁すことだって出来るのに
沈黙は八方塞りだ

 コーンと金槌の音がして、レーザーカッターが火花を散らす中
俺はしばらく立ち尽くしていた

   2.

「なんで俺が一緒にいかないとならないんだ?」


 自宅で朝食をこなたと二人で食べている時の話
こなたはトーストを齧りながら
「今日旧東京に行かないといけない事情があるんだけど、キョンもついてきて」
と、軽く言われてしまった

「J.A.って聞いたことある?」
「あぁ、民間企業が作った巨大人型自走兵器とか言う奴だろ?」

 エヴァを意識して作ったのがよくわかる汎用兵器

「正確には日本重化学工業共同体って奴なんだけどね、それの起動実験が
 旧東京の再開発臨海の国立第三試験場で行われるの」
「はぁ、それに付き合えと?」
「イエス」

「その日本重化学工業共同体ってのは曲者でね
 民間で独自に作り上げたってことになってるけど」

 どうでもいいが暢気に朝食を食べながら、頬にパンカスつけて話す事柄ではない
俺もまぁハムエッグを適当につつきながら聞いてるのだが

「けど?」
「実際は日本政府が確実に後ろに居る筈」

 なるほど、見えてきた
現状神人に対応できるのはエヴァだけ
そしてそれを唯一保有するSOS機関の専横行動
まぁ目の上のたんこぶではある
だから神人、そしてエヴァに対抗できる兵器を作ってSOSの特権や超法規的処置を弱めようってのか

「大体そんなところ、実際はそのJ.A.なんてのはお話にならない出来なんだけどね
 それでもこっちを快く思ってない連中はたくさんいるし、そいつらは性能が劣ってようとなんだろうと
 J.A.をめちゃくちゃ持ち上げるだろうね」
「安易な行動だな」
「で、それに対する手ってのを裏方で打ってるのか」
「そ」

 まぁパイロットである俺が出張る理由は二つ
そのままパイロットの視点からの経験によるJ.A.の脆弱性の指摘と
こちらが本命だろう、エヴァを動かしてその場に居る人間に圧倒的性能差を見せ付けるってあたりだろう
そんな政府が絡むような大掛かりなできレース、それはそれは国の重鎮が集まっているだろうし
当然記録機器もそろってることだろうしな
実際の戦闘は放送等が圧力によってできないからな
これはむしろうまく事が運べばSOSにとっての利点はでかい
少なくとも日本国内にはそのエヴァの有用性とJ.A.の無能性が伝わる

「俺が思うに喜緑さんたちが手回ししてそのロボットを操作不能、さらには暴走させると思われるんだが?」

「正解、そして颯爽とエヴァが登場しあっという間にそれを鎮圧せしめる」

「は、それこそできレースだ」

「まぁそうでもしないとこちらとしても色々苦しくてね
 特にあのボロットの建造費に相当資金持ってかれてるし」

「いいさ、俺はそういうわかりやすいの嫌いじゃないぜ」

 パンに残ったハムエッグを乗せて一口で食らう
やっぱり卵料理はマヨネーズが基本だろ?

「だろうと思ってわざわざ正面から極秘事項を教えてあげたんじゃん」

「俺のことをよくわかってることで」
「家族だからね」

 そう嘯くこなたは俺と同じく楽しそうだった
自信満々にわざわざ俺達をその場に呼んで行う起動実験が
むしろただのかませ犬的行動に終わり結果こっちの利になる
持ち上げて落とすのは基本だ

「それに、実際見てみたいしな、その新兵器」

   3.

 巨大人型自走兵器 JET ALONE 通称J.A.
エヴァに取って代わる神人撃退想定巨大陸戦兵器J.A.は
その形態をエヴァ同様人型にすることによって汎用性、弾力的運用が可能
動力源は胸部内臓の原子炉でケーブル等の外部接続なしで連続150日の運用が可能
遠隔操作により運用されるJ.A.は特定のパイロットを介さず発令所から直接的に操作する

その他諸々色々種々様々
手元に置かれた書類とふんぞり返って壇上でプロジェクターを使って説明する
時田とかいう男の話を混ぜた大体の説明

「しかし、扱いがこうも違うと俄然楽しくなってくるな」
「だよね~」

 団体ごとにテーブルを分けられ、その中心に俺達のテーブルが置かれていて
他のテーブルには豪勢な食事が並ぶ中このテーブルにはSOS団一同様と書かれたプレートのみ
どこまで笑わしてくれるのやらだ

「なにか質問はありませんか?」

 不愉快な笑顔でマイク越しに拡大された声を放つ時田
それの視線の先はまぁ考えるまでもなく俺達、特に技術関係担当の喜緑さんに向かっている
わざわざ乗るまでも無いことだが、しかしここで黙って逃げたととられるのは殊更不愉快だった
喜緑さんも同様な思考の流れを辿ったのか静かに手を上げ立ち上がる

「核分裂炉を内蔵してるとありますが、しかしそれはメルトダウン等の危険性があり
 万一の際には周囲に放射能汚染の恐れもあります」

「その危険性は十分に考慮しています、原子炉は6本の制御棒で完全にその危険性を回避できるよう
 設計されています、そしてそれを入れてありあまる程の行動面での利益があります
 多量の電力を消費し、それですら数分と動かぬロボットよりは汎用性に優れると考えます」

「操作面での問題もあります、遠隔操作では有事の際の一刻を争う事態に素早い判断を下せません
 対神人の接近戦を視野に入れてるならばその一秒の遅れは致命的となりますが」

「パイロットの精神汚染の危険性、現場での独断専行
 さらには暴走による市街の破壊。命令系統が崩れ思うように動かない道具は必要ないでしょう?」

「ですが実際の戦闘の際でJ.A.では神人に対し有効打を入れることは不可能です
 これはEVAの特異性特殊性から神人と唯一渡り合える兵器としてなりたっているのは」

「A.T.フィールドですか?」

 喜緑さんが一瞬言葉に詰まる
極秘情報だだ漏れじゃないか、こりゃやっぱり情報をリークしてる奴が居るな
俺は横目で周囲をうかがう、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてるのも結構な数に上る

「そうだ」

 言葉に詰まった喜緑さんに代わって俺が立ち上がる
まったく平均年齢18歳の俺達三人に対してずいぶんとクールな歓迎だ
こんなガキに国どころか世界を動かす世界最強の兵器が握られてるのだから
気持ちはわからないでもないがな

「そちらの開発したJ.A.が150日の単体連続行動が可能で
 我々のEVAが内蔵電源では5分という短時間しか動けないのは確かだが
 何事も長ければいい、大きければいいってわけじゃない」

「君は…、あぁ有名なあのエヴァンゲリオンのパイロット君だね」

 馴れ馴れしい奴だ

「あんたらが150日かけてやる仕事をこちらは5分で片付ける
 それだけだ、短時間で出来ることを時間をかけてやるのはただの間抜けだ
 それどころかエヴァが数分で勝利した過去の神人ですら
 J.A.じゃ150日どころか150年かけたところで倒せやしないさ
 ご存知のA.T.フィールドでな、しかしあんたのところのねずみはいささか以上に間抜けだな?
 あるとわかってようと対処法が不明じゃお話にならないな
 A.T.フィールドはEVA以外の兵器で対応するためには
 フィールドを破壊せしめる破壊力を持って攻撃をしなければならない
 なぁおっさん、じゃああんたのところのJ.A.って奴はもちろんN2爆雷やN2地雷よりよっぽど高い破壊力を保有してるんだろう?」

 俺は喜緑さんの多分言いたかったことを適当に代弁する
俺は一介のパイロットだ、同じ事を言うにも彼女には高い立場に居る故に発言の自由が狭い
だが俺には関係ないね
時田はマイクをつかんでいた手の指が白くなる程握り締め
何度か口を開きかけたがとうとううめきしか聞こえなかった

「そもそも攻撃云々の前にそのJ.A.は奴らの攻撃を避ける事や耐えることができるのか?
 二番目にきた奴の鞭は俺もあとで知ったが音速を超えていた
 それをご自慢のJ.A.はよけられるか? 無理だろうな、遠くで眺めてるあんたらが攻撃を見て
 命令を出すころにはロボットの腕なんかちょん切れてるだろうよ


 …まぁ、おしゃべりはこれくらいにして。とっとと起動実験始めようぜ?
 まずは歩けるかどうかを確かめてやるよ、転んだら言えよ? EVAが起こしてやるさ」

   4.

「いやぁ、スカッとするねぇ」
「本当ねキョン君やるときはやるのね」
「むかつく奴に嫌がらせするのは好きだ」

 ドーム形状の会場の側面、分厚いガラスで仕切られ外の様子が見える
二つの大きな建物に挟まれるように不細工なロボットが立っている
俺達はガラスに群がりカメラを構える凡弱達から離れた壁に背を向けて
三人で談笑していたところだ

「さて、そろそろ始まるみたいだぜ」

 J.A.の起動フェイズが始まりにわかに慌しくなってく発令所
「起動、前進微速」の声が聞こえて歯並びの良すぎるつぶれたかえるのようなロボットが歩き出す
(この際かえるに歯がないという突っ込みは禁止だ、比喩表現に突っ込まれると立つ瀬が無い)
ぺらい竹の蛇のおもちゃのようにいくつもの部品が繋がった腕がへろへろと動くさまはどうにも迫力にかける

「データの改竄での異常行動はいつごろ起こす?」
「起動し数分後よ、まぁそれまでは適当に観察してましょう」

 まるでキチンと前に進み歩いたことを誇るかのように
自信に満ちた表情で順調に稼動するJ.A.を見やる時田
ふん、その顔も数分でおさらばだ
先刻まで散々おちょくってくれたお礼はさせてもらう
俺は他人に悪戯したり馬鹿にするのは好きだが逆は嫌いだ
まぁ人間は基本的にそういうふうにできてるがな

「全長はエヴァより少し大きいくらいか」

 それでもとりあえずは観察、外見的情報を頭に入れておく
一応SOSが手を打った程度の性能があることは確かなのだから

「後ろのあの棒が言ってた制御棒だね」
「部屋に入ろうとして頭はぶつからないけど後ろの荷物が引っかかってひっくり返るパターンだな」
「転んだらあの手じゃ立ち上がれないよね~」

 どうにも真剣味にかけるのは仕方が無い

「原子炉内部の温度が予定より2.7%上昇、なおも進行中」
「冷却材を5%増やして移動速度を軽微にして様子見」
「効果ありません、6.9%更に上昇」

 発令所がうるさくなってきた
見ればJ.A.の移動速度があがって心無しこちらに接近してきている

「そろそろ始まりか?」
「そうね、登場準備しておいてねキョン君」
「了解です」

 俺はその場から足早に去り裏の諜報部員の黒塗りの車に乗る
目指すは近くに停めてある貨物運搬用のVTOL機
ついでのこの車には残念だが空を飛んだり海に入ったりするボタンはついてない、NOTゴーゴー

「エントリー開始、初号機。サードチルドレン
 起動フェイズを3番から27番まで省略、コード05281769
 エヴァンゲリオン初号機起動」

 既に待機中だった初号機に俺は手早くスーツに着替えてプラグに乗り込む
出張先のためシャワーがなく、帰りはプラグに乗ったままになるのが憂鬱だが
まぁ仕方あるまい、せっかくこの間新調した正装をぐちゃぐちゃにするほうが欝だ

「エヴァンゲリオン初号機、発進します」

 コンテナを手動で空け外にでながら言う
充電は完璧、さらに肩部のバックパックにバッテリーを装着
実はこの緊急バッテリーをつければ、バッテリー30分+内蔵電池5分で
合計35分の作戦行動が可能になる。まぁJ.A.の出番は一生無いって事で

 実験発令所のドームをとっくに通り過ぎ
間抜けながらもそこそこの速度で前進するJ.A.を肉眼で確認
結構な距離があり、小さくなってる後姿に向かって俺はクラウチングスタートの格好でダッシュする
目測で大体J.A.の三倍近い速度でかける初号機
一瞬で通り過ぎたドームはなにやら半壊状態であり、崩れた瓦礫からこなたと喜緑さんが
慌てふためく周囲に我関せずで平然と残った壁に寄りかかり立っている

「しかし、早く捕まえないと俺の勇姿が誰の目にも映らんな…」

 と俺の発言を聞きつけたわけではないだろうが
数機のヘリが上を飛んでるのを見つけた
J.A.の暴走にそれを食い止めんとするEVA、しかも今回に限り報道規制無し
本来はJ.A.の起動実験を取るはずのカメラがここで役に立っている

 一気に近づいてきた背中にさらに加速する

「よし、ちょいと試してみるか!」

 走りながら上下に動かしていた右腕をJ.A.に向けたかざす
そしてJ.A.の前にA.T.フィールドを出現させる
J.A.はフィールドに体当たりを正面からかまして
その場で手をじたばたさせるだけでフィールドは毛頭揺らがない

「これでA.T.フィールドに対してJ.A.が役に立たないこともカメラにきちんと映ったと」

 あとはその場の地面を削るだけのこの役立たずの後ろについてる巨大な取っ手をつかんで
それを引っ張り地面に叩き付ける、オートバランサーがついてるといってもあくまでも一般行動での範囲
他方からの強力な衝撃を加えられればあっとゆうまにこの様だ
俺は地面に張り付いたこいつをさらに上から踏みつける
完膚なきまでに壊してもいいが、それだと放射性物質が散布されてしまう

「えぇと確かあくまでもエヴァがこいつを止めたことにしないといけないから
 外部からとめる条件があるって喜緑さんが言ってたな」

 俺は足元で蒸気を噴出して暴れる無力な金食いロボを見下ろす
さっきまでつかんでたその背中の辺りで出入りする制御棒を見る
えっとこれを中に全部力ずくで折らないように挿入すればいいんだったか

「とりあえず裏返すか」

 顔の熱放射スリットの辺りを踏みつけていた足を一旦離して
蹴りを入れて裏返してもう一度踏みつけ六本の制御棒をつかんで中に戻す
…結構硬いぞこれ、六本入れるのは少し骨だな

「…よし」

 六本の制御棒を入れ込むとやっとJ.A.の動きがとまる
手間だけはかけさせてくれる奴だった
あとはJ.A.を両手で持ち上げてドームにまで戻る
…非常に重い、一体なんで出来てるんだこいつ?
俺はやっぱり地面に置きなおして背中の取っ手をつかんで引きずることにした

 地面に広いへこんだ道を作りながら運ぶ俺
あぁ、重くて引きずることに変えたところも撮られたのだろうか?
それは少々格好悪いな


「次はもうちょいマシなプログラムを組んでください」

 俺は濡れた前髪をうっとうしく思いつつ
呼びつけられたのでエヴァから降りてスーツのままでこなた喜緑さん両名とともに
時田と向き合っていた

 結局データの改竄、暴走、鎮圧のあとデータは通常の物に戻されて
今回のことは重化学工業共同体のプラグラム面での不手際が原因ということになった
傑作とこなたに評されたJ.A.を引きずって初号機がここに到着した際の時田の呆けた表情は見れなかったが
まぁ先ほど馬鹿にされた事のお返し程度はしといたし、しばらくは大人しくしてるだろう

「今回のことは神人との戦闘で無いから戦闘報酬はでないけど
 特別出動の、まぁボーナス的なのはつくからね。
 まぁ神人戦でのアシスタント報酬の更に半分くらいだけど」

 とは帰りのVTOL機内でのこなたとの通信会話
ついでに神人戦闘出撃に一回で200万、成功報酬1200万、アシスタント報酬600万だ
…十分に法外な額である、これまでで三回の戦闘勝利の報酬四回の出撃と月の給与
俺の口座はすでに俺が今まで見たことの無い額になっている
いつ死ぬかわからないからと豪遊するか、あるかもしれない将来のために貯蓄しておくか
意外と悩みどころであったりする

「ふう…」

 ため息、こぽぽっと音を立てて気泡が浮かび。やがて消えていく
もはや慣れきって感じなくなったLCLの血に似た匂い
目をつぶるとコンテナの暗い鉄壁が見える
目を閉じると見えるというこの不安定感に満足して
俺は残り数十分のフライトを浮遊感だけ体感した

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年07月11日 18:51