1.


「俺が守るから、かキザな台詞だね~同居人」
「やかましい居候、聞き耳は感心できないな」

 渡されたタオルで頭を拭く
回収班の車で本部に向かう、エヴァはべつにあとで回収

「でキョン君は、私も守ってくれるのかな?」

 人差し指を唇に当てて上目遣いで俺を見つめてくるこなたに

「キョン」
「え? なに?」

 俺はこの街で知ったローカルルールをあだ名に応用して言ってみた

「キョンでいいさ、君は要らない。家族にそんなものは必要ないだろ」
「……了解、じゃあ私のことはハニーでいいよ」
「黙れ」

 結構本気で言った台詞を茶化され、ため息をついて横を見ると
先ほどのわざとらしい笑みとは違う
少し困ったような、照れたような、だが自然な笑みを浮かべたこなたがいた

   2.

「とりあえず、シャワー浴びてくるように
 で、着替えて帰ってて。私は報告書とかまとめないといけないからね」

「わかった。飯は作って置いとくから、温めて食えよ?」

「んふ~、やさしいねキョンは。家族愛!」

「やかましい」

 本部についてすぐの会話
戦闘報告とか、壊れた建物や道路の再建築
前回と違い自爆しなかった神人の死体の処理
戦闘に使われた武器や薬莢の回収
こなたを含めた本部の連中の仕事はむしろこれからだそうで
俺はそんなことはお構いなしに今回も無事生き残ったことを素直に喜びつつ
熱いシャワーを頭から浴びてLCLを流す

 30人は入るだろう広いシャワールーム
人数の多い運動部とかが重宝しそうなここも
俺以外の人間が使うのを見たことがない
パイロット専用なのだろうか、だったらなんていう場所の無駄使いだ
…でもだったら長門が使ってる可能性もあるのか、流石にLCLでずぶぬれの状態で
私服に着替えるのは嫌過ぎる

…俺は最初私服でプラグに乗っていたんだがその辺は無視
ん、まてよ、じゃあ長門もスーツあるんだろうな?
ってかあいつは他の機体のパイロットといってたが、その他のエヴァと言うものを俺は見たことがない
本当にここにあるのだろうか、化け物相手に騎士道精神気取っても意味がない
1on1でやる必要なんかないんだから他にあるなら同時に行くべきだろ
なら動かせない理由でもあるのだろうか?

「えぇい、面倒だ。明日かまぁその辺でこなたに直接聞けばいいだろう」

 ごちゃごちゃしたことは今は考えたくはない

「そういや、あやのはどうしたんだろな」

 こってり絞られた事はまぁ確実だろうとは思う
まぁおかげで俺は喜緑さんにエヴァの腕をちょんぎったことを
笑顔で愚痴られないで済んだわけだが

「あの人怖いんだよ…」

 非常に魅力的な笑顔で延々と独り言の愚痴に近い文句を連ねてくる
初対面でのタメ口になる日は来ないだろうという予想は
ほぼ的中したといって過言でないだろう

 ロッカーから制服を取り出して、プラグスーツを脱ぎにかかる
そういやこの更衣室も俺以外が使ってるのを見たことが無い
まぁ大してここに居るわけじゃないから単にタイミングの問題かも知れんが

 手首のボタンを押して空気を入れ、だぼだぼになったスーツを脱ぐ
着るときは簡単だが、脱ぐときは手の部分とかが張り付いて
無理に脱ごうとすると裏返しになるので困る

 パシュ、と圧縮空気が抜ける音
オート開閉式のドア、つまりは普通に自動ドア
逆に言えば風だのなんだので勝手に空く筈の無いドア
俺は脱ぎかけのスーツを掴んだままとっさに音のした方に顔を向ける

「……」
「……は?」

 あやのがドアの向こうに手の甲をこちらに向けて顔の横辺りに掲げて立っていた
まさに今からノックするような体制だ
俺はこの時点で大体の状況は把握できた、つまりはあれだ
確認のためのノックをしようとしたんだが、そこは自動ドア
自動ドアにノックするまで近づけば基本的にセンサー式ならば勝手に開いてしまうだろうということだ

「……キ、」
「あ、ちょ!」
「キャー!!」

 キャーは着替えてる側の俺の発言だろう

「…ふぅ、入ってきていいぞ」
「う、うん」

 俺が許可を出して、それからドアをあけて入ってくるあやの
あれからキャーキャー言うだけのあやのに慌てて背を向けて
ドアから離れろと何度か言って追い出して。着替えて。
…やってらんねぇ

   3.

「ドアノブがない事に不審を抱かなかったのか?」
「全然気がつきませんでした…」
「大体、更衣室って書いてあんだからもう少し配慮ってもんを…」
「えっと、それは泉さんだっけ? あの人に案内してもらって”ここに居るから”って言われたから」
「ほっほう」

 あいつの晩飯になにか混入させてやろうか
鷹の爪とか唐辛子とか一味とか

「だがこんな早くによく開放してもらったな」

 正直もっとかかると思ってたし、終わってからは家に強制送還されるとも思ってた
まさかこんなあっという間に、しかも本部内を歩かせるとは…

「うん、最初はね、髪の長いお姉さんに正座させられて怒られてたんだけど」
「髪の毛が緑色のかかった?」
「うん」

 間違いなく喜緑さんである

「でも涼宮さんが、―涼宮さんもここの関係者なのね? 知らなかった」

 ってか一番偉い人である

「で、涼宮さんが。『今日見たこと、あった人間、その他諸々口外するな、わかったら行ってよし』って」
「それは…」

 予想外だった、まさかハルヒがそんなことを言うとは
真っ向から怒鳴ると思っていたが、変わってないようでこの三年でずいぶんと変わったのか

「で、さっきキョン君に言い忘れたことがあったから」
「俺に言い忘れたこと?」

 俺はプラグ内の戦闘後の短いロスタイムに交わした会話を思い出す
…こなたに言われた所為もあるが、思い返すとこっぱずかしい台詞を言ったものだ

「ありがとう」
「…」
「守るって言ってくれてありがとう」
「…謝られるよりよっぽど気分がいいな」
「えへへっ、…あともう一つ」
「ん?」


「お友達になりましょ」

 あやのはそういって俺に右手を差し出してきた
俺はいつだったか、長門に自分がして無視されたことを思い出しながら
しかし俺はそれを強く握り返した

「あぁ、だが日下部によると俺達はもうとっくに友達らしいぜ」
「友達の友達は友達、でしょ?」

 こうして俺とあやのは”仲直り”を果たした訳だ

「そういやあやの、お前の家はどこだ?」
「え? なんで」
「学校からそのままここに着ちまっただろ?」

 自転車通学らしいが、それは学校に置きっぱなしだし
俺がエヴァに乗せてジオフロントの本部に直行したので
ここからあやのは徒歩で家に帰らないといけないわけだ

「俺が送ってってやるよ」
「送るって…なにで?」
「バイク」

   4.

「あっはっは! で、しかも明日も送ってくって言っちゃったの?」

「やかましい、少しボリューム下げろ。音割れしてるぞ」

「うん、私的見解を述べさせてもらうとそれは耳鳴りだねキョン」

 けらけらと腹を抱えて笑うこなたを残して、少し回想
あれから俺はタンデムに使う予備のヘルメットを被らせ
少々以上に怖がるあやのを後ろに乗せてすっかり夕暮れの色になった街を送っていったわけだが
俺は家の場所を知らないし肝心のあやのは

「もっとゆっくりー!」
「きゃー!」

 文字通りというか、見たとおりというか話にならなかった

 で、想像以上に時間を食ってちょっと大き目の一軒家に到着
あやのを配達したその場所は意外と自宅のでかマンションの近くだった
丁度学校とあやの邸の中間あたりにでかマンションがある感じで

「ありがと、キョン君」
「いや構わないが、しかしここから徒歩で明日学校は面倒だろ」
「…まぁ仕方ないよ、明日は早起きするわ」

 で、ここが問題のシーン

「なんだったら明日も学校まで送ろうか、俺の家そこのマンションだし」

「え? 迷惑になっちゃうよ」
「俺からした提案だ、乗るか乗らないかでいいんだよ。自分の楽なほうを選べばいい」
「…じゃあお願いしてもいい」
「あぁ」
「ごめんね」
「そうじゃないだろ?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 はい、ここまで回想
最後の方が台詞だけなのはやっぱりなんかこっぱずかしいからだ
本当は完全カットしたいぐらいだってのに…

「しっかし、転校してから派手だね~
 初日はハルちゃんに連れてかれて
 二日目は来て早々に戦闘
 明日は女の子を後ろに乗せてバイクで登校ですか?
 あっはっはっは!」

「……」

 うるさかった、非常にうるさかった
だが事実なので反論できなかった、自然眉間に皺が寄る
しかも遅くなると言ってたくせにもう帰って来てる所為で食事に香辛料をそっと追加するという
ささやかな嫌がらせもできなくなった
俺のストレスは溜まる一方です

「ってかバイク登校ありだっけ? あの高校って」
「知らん」

 屋上を平気で弁当食べる場にしてる高校だ
結構問題ないと思うのだが

「…あれ? もう弁当食べるようなことあった?」
「人から聞いた」

 今日は一応持ってったのだが食わなかったしな
明日の弁当の中身はどうするか…毎日となるとそう凝る事もできないしな

「まぁ基本夕食の残り+朝食に使った食材でなにかって感じかな?」
「なにが?」
「弁当の中身、お前の分も作ってやろうか?」

 俺の当番の時だけな

「うにゃ、頼もうかな。食堂もあるけど手作りのほうがやっぱりいいもんだしね」
「つってもあんまり手の込んだことはしないからな」

 ストップ過剰な期待
なんか手のひらのマークと一緒な感じで

「あんがと。で、お返しに一つ」

「なんだ?」

「今日の戦闘でキョンは学校から自宅へダッシュ、のちにバイクで本部へ行ったわけですが
 学校に最初からバイクで行けばそんな問題はなくなるわけですよ」

「…ほう」

「もしバイク登校が本来ダメでも私が話をつけてやりましょう」

「それは弁当のお返しにしては釣りがでるような話だな」

「なに、お弁当は毎回ですが。私のこの行動は一回やれば終了なのでね」

 ついでにこの会話、こなたは笑うのをやめてから
テーブルに置いてある浅漬け(俺の自作)を爪楊枝でつつきながら
俺は笑ってる間に机を離れて台所にたって交わしている
念のため。

さて、あとはまぁ追記みたいな感じになるか
その日はまぁ適当に就寝して
次の日の朝、普段どおりに起きて顔を洗って歯を磨いて制服に
こなたも昨日に引き続いて戦闘の事後処理のため早めに起こす

朝食は先日と打って変わって和食風に
茶碗にご飯をよそって、わかめと豆腐の味噌汁
昨日とは違う漬物(きゅうりとかぶ、たくあんは個人的理由で無い)
さらに目玉焼きというチョイス
毎日一つ卵を食べるのは健康によろしいそうで

ゴミをまとめてカバンと一緒に担ぎ
こなたと同時に家を出て施錠し
俺はゴミを捨ててバイクに跨り、こなたは車に乗って別れる

「よう」

 ちょいと格好つけてあやのの家の前まで行ってみると
あやのはすでに玄関の門の前で俺のことを待っていた

「後ろ空いてる?」
「お前のために空けといたさ」

 なんとなく自分の被ってるフルフェイスのメットをあやのに押し付けて
予備のヘルメットを被る

「ではしっかりつかまってくださいねお姫さん」
「らしくない」

 くすくすと手を口に当てて笑うあやのをみて
なにも言わずに発進させてそのまま学校へ向かう
きゃーきゃー言って自分にしがみつく女の子を乗せてバイクで学校に行くのは
確かになかなか刺激的で新鮮ではあったが


「なぁキョン、仲直りしろとは言ったけど、仲良くなりすぎじゃないか?」

 変な誤解も招く羽目になった。お粗末。

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最終更新:2009年06月01日 03:21