ゆっくりの寿命は短い 前編

「一匹のゆっくりを振り返ってみる。」

知られてはいないが、ゆっくりの寿命は短い

大概は事故、縄張り争い、捕食によって命を失ってしまい気づかれないからだ





【春】

お母さんに見送られて、一匹の子れいむが巣から顔を出した
赤ちゃんの頃からずっと今まで、巣の中で暮らしてきた子れいむには
外の世界はとても眩しく感じられた

暖かいお日様
草の匂い
頬を撫でる風

今日はお父さんまりさが外で一緒に遊んでくれるという

 「れいむ! ゆっくりしないでおとうさんについておいで!」

 「ゆゆ!? おとーさん まって! ゆっくりしてね! まってぇえええ!」

こてん

転がってしまった
狭い巣の中では大きく跳ねる必要もなく
体全体を使うような経験がなかったからだ

転んでいるうちにお父さんの姿はどんどん小さくなる

 「いじゃいよぉお あんよが ひりひり ずるのおぉおおお」

 「…」

お父さんまりさは子れいむに振り返るが、すぐにきびすを返して跳ね始めた

 「ゆ!?」

お父さんに助けてもらえると思っていた子れいむは
思いがけない対応に驚く

 「おとうさん もういくからね! れいむも はやくきてね!」

 「ゆぅううう! おどーじゃあん! まっでよぉおお!」

初めて見た見知らぬ草原
子供頃、親とはぐれ迷子になった時の恐怖を覚えているだろうか?
しかもココは野生の子れいむにとって、何の目印もないのっぺらぼうな大草原だ

 「ゆっく! ゆぅ… ゆっ! ゆっ! ゆっ!」

お父さんが助けてくれない事をゆっくり理解すると、子れいむは体を起こして跳ね始めた
するとどうだろう
自分でも思いもかけなかった力が体からあふれてくる
今まで泣きじゃくっていたれいむは悲しいことも忘れて
より遠くへ より高く 自分の跳ねる力に楽しさを覚えていた
何度か転ぶ事もあったが、力いっぱい跳ねられる楽しさに比べたらなんてことはない

 「ゆっ! ゆっ! ゆっ!」

 「おー やっときたね! れいむは ぴょんぴょんが じょうずだね」

 「ゆへへぇ///」


これが子ゆっくりを巣の外に連れ出した時、初めて覚えさせる事の一つだ

ゆっくりがなによりも大切なジャンプ
移動・狩り・逃げる・採集・加工
全ての場面で必要とされる重要な事だ

これでお父さんまりさの一つの役目が終わった

 「ゆ! れいむ! ちょうちょうさんだよ!」

 「ほんとうだ! ちょうちょさんだね! ゆっくりしていってね!」

黄色い蝶々が子れいむの鼻をかすめ、気ままに春風の中を泳いでいる

 「れいむ! ちょうちょうさんは かわいいけど おとうさんたちの ごはんでも あるんだよ!」

 「ゆ! れいむ しってるよ! でも れいむが しってる ちょうちょさんは こんなにゆっくりしてなくなかったよ! すごいちょうちょさんだね!」

 「ほんとうのちょうちょうさんは ゆっくりしてなくて すごいんだよ! さあ いまから ごはんの じかんだよ!」

 「ゆゆーん! きょうの ごはんは ちょうちょさん なんだね! 」

子れいむは黄色い蝶々に目を輝かせていた

 「…」

 「…」

 「…」

 「おとうさん ちょうちょさん たべたいよ!」

 「そうだね ちょうちょうさんは おいしそうだね! おとうさんは おとうさんで つかまえるから れいむも すきなちょうちょさんを つかまえてね!」

 「ゆ!?」

蝶々といえば、ご飯に出てくる羽のついた可愛い虫
いつもみる蝶々はふるふると震えて、ご飯のはっぱの上にいた
しかし巣の外で見る蝶々の元気の良さにれいむは驚嘆した

お父さんは蝶々を昼食にするといっているが、いつまでたってもれいむに運んできてくれない
なんと自分で蝶々さんを食べろというのだ

子れいむは、とにかくお口を開けて蝶々さんを追いかけるが
ひらひらと子れいむを馬鹿にするように飛んでいる

 「おとうさん! ちょうちょさんが ゆっくりしてくれないよ!」

 「そうだね! ちょうちょさんも たべられたくないんだね! だから ゆっくりしないで つかまえてね! おとうさんは てつだわないよ!」

 「ゆぅぅううう???? なんで おとうさんは れいむを いじめるのぉおおお!?」

大好きなお父さんの言葉に子れいむは涙を浮かべてしまった

 「れいむ! おとうさんは いつまでも れいむの そばには いられないんだよ?」

 「ゆー?」

 「おとうさんの そばには いま おとうさんのおとうさんが いないでしょう? れいむも いつか ひとりになることがあるんだよ」

 「ゆぅ…」

 「だから れいむは おとうさんが はずかしくないような りっぱな ゆっくりになってね!」

 「………ゆ! おとうさんのために! れいむ がんばるよ!」

なんとなく理解した子れいむは、蝶々に近づく
ひらひらと軌道の読めない蝶々に苦戦して
子れいむは子一時間ほど格闘するとやっと捕まえることができた

 「ゆー♪ つかまえたよ! おとーさん! れいむが つかまえたよ!」

 「すごいよ れいむ! れいむは ちょうちょうとりの たつじんだね!」

 「ゆぅー///」

 「ほら たべてごらん?」

 「ゆ…ちょうちょさん ごめんね! むーしゃ むーしゃ    ?!    しあわせーーーーー☆」


狩りの訓練

動く生き物を狩る難しさ
自分で採ったご飯の美味しさ
そして先ほど獲得した自分の跳ねる能力を
ここで発揮し理解して自信をつける事ができる
これで子れいむは一人でも巣の近くでご飯を採れるだろう


 「ゆぅー ちょうちょさん だけだと つまんないよ…」

 「じゃあ おとうさんに ついてきてね! おやさいを たべようね!」

 「ゆ! れいむ きのこさんも わらびさんも ぜんまいさんも だいすきだよ!」


森にやってきた
巣の中とは違う意味で薄暗く、そして複雑な地形に
子れいむは怖がってしまっていた

 「お、おとうさん! れいむは こんなところに はいりたくないよ!」

 「だいじょうぶだよ れいむ もりさんは とてもゆっくりできるところだよ!」

しかし森には子れいむの背を遥かに越える草むらや
とてもとても大きい木々が立ち並んでいる
まるで巨人の国に来たみたいだ

 「ほら! あそこに きのこさんがあるよ!」

 「ゆ! しいたけさんだね! ゆっ!ゆっ!ゆっ!」

そんな恐怖も、ご飯を目にすると飛んでしまい
子れいむはお父さんが見つけたきのこに跳ねて行った

 「ちょっとまってね!」

かぶりつこうとしていた子れいむにお父さんが待ったをかける

 「これは たべられない きのこさんだね!」

 「これは しいたけさんだよ?」

しいたけはしゃくしゃくとした歯ごたえで、子れいむが大好物の一つなのだ

 「よくみてごらん? ここのかたちが しいたけさんと ちがうんだよ!」

 「ほんとうだ! ちょっとだけ かたちが ちがうよ! おとーさん すごい!」

 「これは しいたけさんに すごい にてるけど ぜんぜんゆっくりできない きのこさん なんだよ!」

 「そうなの? れいむは どんなきのこさんでも すきだよ!」

 「じゃあ れいむ ちょっとだけ このしいたけさんを なめてごらん? ちょっとだけだよ?」

 「ゆっゆ~♪」

ぺろ

 「!? ゆげぇえええええええ へんなあしがするよ!!! したが ひりひりするよ!!!」

 「そうだよ! これは しいたけさんに とてもにてるけど ゆっくりできない きのこさんだよ!」

 「ぺっ! ぺっ! ゆげぇええ! にぎゃいよおおお!」

どんなきのこも好きだと言っていた子れいむだったが
ゆっくりできないきのこをひと舐めしただけで
小さいな舌をべーっと出しながら瞳を潤ませている

 「こんなものを みつけて すぐにたべたら ぽんぽんが いたくなるからね! ちゃんと たべられる きのこさんか! しらべるんだよ!」

 「ゆげぇ! わがっだよ! れいむは ぼう ごんな ぎのござん だべないよ!」


この後
とても綺麗な山菜に見えるけど苦い草花や
美味しい木の実があるけれど虫がたくさんいて痛い所
冷たいお水さんがあるところでは水浴びをしてふやけてしまったりもした

そして獣道に生える野いちごをつまみ食いしたり
森を抜けた小高い丘でお昼寝をしたりもした
身をもって森の豊かさと危険を勉強する子れいむだっだ



【夏】


梅雨や日照りのある季節だ
水に弱く乾燥も命取りなゆっくりにとって、冬と共に危険な季節だ

 「ゆぅ~ あついよ~」

お父さんから狩りを教えてもらった子れいむも更に大きくなっていた

 「れいむ! なつというのは あついだけじゃ ないからね!」

 「ゆゆ? おとーさん なつは あついんでしょ! れいむも わかるよ!」

 「あついあついといっても あつくないときがあるんだよ」

 「???」

お父さんの言うことがまったく理解できない子れいむ

 「だから これから そのあつくないときの ための じゅんびをするよ?」

 「…ゆ?」

すんごい暑いのに 暑くない時の準備をする、子れいむにはさっぱり意味がわからなかった

まずは子れいむを連れて森に行くと
花や山菜などをさけて、虫・木の実など硬くてパサパサしたご飯を集め始めた
ある程度頬袋に溜めて終えると、これは今日のご飯じゃないというお父さんまりさ
へとへとに疲れて必要以上の量を採ってきたのに
これは食べないだなんて、子れいむは全然納得ができなかった

 「ぷくぅ~! れいむが せっかく がんばって かりをしたのに! どうして たべないの!」

 「これは あとで たべるためのものなんだよ れいむ」

 「はやくたべないと おはなさんみたいに くちゃくちゃに なっちゃうよ!」

 「ちがうよ れいむ このきのみさんや ちいさいむしさんはね しばらくほっておいても ゆっくりしているんだよ!」

 「ゆぅ~???」

ぽかーんとしている子れいむをそのままに
今度はおうちの改造だという

 「おとーさん! なんで おうちのいりぐちを ふさいでいるの? こんな かたちだと れいむが ころんじゃうよ?」

 「これでいいんだよ いりぐちと じめんさんに やまを つくっておくんだよ」

 「こんなことすると おうちにはいりにくいよ! どうして こんなことするの!?」

 「だいじょうだよ! おとうさんのおとうさんも このいえに こうしてきたんだよ ずっとむかしからね!」

なんだかわけのわからない事ばかりやらされる子れいむ

 「もう! れいむは こんなこと やりたくないよ! おとーさんだけ やればいいよ! れいむは ゆっくりする!」

 「れ、れいむ!?」

そういうと子れいむは 巣の中に引っ込もうとした

 「ゆっくりまってね!」

べしっ

あわてて止めようとしたお父さんまりさは、子れいむを突き飛ばしてしまった

 「ゆぅ…………ゆぅえええええええええええええええん!!!!! ゆえええええええええん!」

 「…」

子れいむはお父さんまりさの横をすり抜けると泣きながら巣に入ってしまった
しかしお父さんまりさは、子れいむを追いかける事はせずに土いじりを再開した

 「ゆえええええん!ゆええええん!おどーーざんのばがぁああ!れいむは わるいごどじでないのにぃぃい!」

巣の中で大声で泣きじゃくる子れいむ

 「おちびちゃん」

藁のベッドに飛び込むと
お母さんれいむは、そっと子れいむにすりすりしてあげた

 「おがぁあじゃあああん! おどーざんが れいむに いじわるずるんだよぉおおお!」

 「おちびちゃん おちびちゃんは いいこだよ」

すりすりしてくれね大きいお母さんれいむの暖かさに、やっと子れいむは落ち着いた

 「ゆぅ…」

 「おちびちゃん おとうさんは おちびちゃんに いじわるをしてるわけじゃないんだよ」

 「ゆ…」

 「おかあさんがすき?」

 「…すき」

 「なら あかあさんがだいすきな おとうさんが おちびちゃんに いじわるするわけないよね?」

 「…ゆ」

 「おとうさんは どのゆっくりよりも おちびちゃんに ゆっくりしてほしいんだよ」

 「…」

 「おちびちゃんは おかあさんの たからものの なかで いちばんのたからものなんだよ?」

 「きれいな いしさんより?」

 「そうだよ」

 「かわいい おはなさんより?」

 「もちろん」

子れいむの涙は乾いており、お母さんからぽよん離れると
そのまま藁のベットを飛び降りて入り口へ向かって跳ねていった

 「…おかーさん」

 「ゆ?」

 「おとーさんに あやまってくる」

 「ゆ! いってらっしゃい」

子ゆっくりは 入り口へ向かうと
お父さんは土いじりを終えて空を見上げていた
入り口は高く盛り上げられ、よじ登らないとお外に出れない
がんばって段差を乗り越えると子れいむはお父さんの前に来た

 「ゆっ………おとーさん、あのね…」

 「れいむ? おとーさんは その…」




ザァーーーーーーーーーーーーーーーー




突然の豪雨が襲ってきた!
今まで見たことのない
まるでたくさんの小石が降ってきたような光景に
子れいむは硬直してしまった
みるみるうちに髪飾りは湿気り、皮は透けて中の餡子が見えそうだ

 「ゆっ! れいむ!」

お父さんまりさは
溶けかけている子れいむを帽子にツバでひっかけながら
新しく出来た入り口の段差を乗り越えて、巣の中に一緒に逃げた

 「だいじょうぶ? れいむ?」

 「ゅ…ゅ…………ゆ!?」

濡れた皮がやっと乾くと子れいむは目を見開き

 「おとーさん! すごいあめさんが ふってきたよ! どうしよう! すごいおおきな みずたまりができちゃうよ! みんな かわさんになって ながれてくるよ! どうしよう!どうしよう!」

どうしようと連呼する子れいむにお父さんまりさは

 「おちついて れいむ」

 「おちついて ゆっくりなんかできないよ! おとーさん あめさんみてたの? はやくしないと おうちのなかにも あめさんが いっぱいはいってくるよ!」

 「そうだね あめさんは すごいね でもね れいむ いりぐちをみてごらん」

 「…ゆ?」

先ほどお父さんまりさがやっていたのは
巣の入り口に防波堤を作り
外が多少ぬかるんだり増水しても、水が流れ込んでこないようにしているのだ

 「す、す、すごいよ! おとうさん! おとうさんは てんさいだね!」

 「いやいや そんなことはないよ これは おとうさんのおとうさんに おしえてもらったんだよ!」

 「おとうさんのおとうさんて すごいね! だから おとうさんも すごいんだよ!」

 「ゆっはっはっ」

とんちんかんな賞賛をして興奮する子れいむ

 「さあ れいむ! おうちのなかにはいろうね いつまでたっても あめさんは やまないよ」

 「ゆ!? いつまでたっても!?」

 「そんなに ながくは ないけど おつきさまが なんかいも ぐるぐるしないと やまないかもね!」

 「ゆーーーーーー!? そんなに あめさんふっていたら おそとに かりに いけないよ!」

 「れいむ? きょうは なにをがんばったのかな?」

 「ゆ! いっぱい ごはんをとって………ゆっ!?」

 「そういうことだよ さあ あめさんが やむまで しばらくおうちで ゆっくりしようね」

そう言い聞かせるとお父さんまりさは、子れいむの背中を押してお母さんれいむの所へうながせた

 「あのね おとうさん…」

 「ゆ?」

 「うんとね…」

 「…」

 「…」

 「…」

 「…め……い…」

 「…?」

 「…ごめんなさい」


 「れいむは―」

お父さんに叱れるのを覚悟していた子れいむは、身を硬くして待った




 「れいむは いいこだよ おとうさんの『たからもの』だよ」



梅雨の準備は万全だった
笑顔の子れいむと ちょっと涙ぐんでるお父さんまりさが おうちの中に並んで跳ねていく
れいむが昼間集めた木の実を、お母さんれいむが擦りつぶして団子にしてくれた
しばらくは木の実や虫さんとか味気ないものばかりだけど
お母さんとお父さんと一緒にいられると思うと ちっとも嫌じゃないと思う宝物の子れいむだった





【秋】


実りの秋
春の時と同じように子れいむは巣の外に顔を出した
今度はお母さんも外にいる

 「…」

春の時は目を輝かせてお外を見ていた子れいむだったが
表情は陰り、はっぱで作られた荷物を抱えている

 「おちびちゃん きをつけてね! つらくなったら もどってくるんだよ!」

 「だめだよ! もうすぐ さむいさむい ふゆが くるから そのとき かおを みせてね!」

 「おかーさん おとーさん! れいむは さびしくないよ! ちゃんと ひとりで ゆっくりできるよ!」

子れいむはいまや、成れいむだ
春夏と過ごした巣は成体三匹では手狭となっている
今まで"おとうさんやおかあさん"の"おとうさんやおかあさん"をみたことはない
うすうす成れいむは、大きくなったら一人で暮らさなくてはいけない事をわかっていた

 「れいむ ほんとうに おおきくなったね! おとーさんはうれしいよ!」

お父さんまりさは、自分と同じくらい大きく育った成れいむを嬉しがっていた

 「おとーさんの おかげだよ! れいむなら どんな かりでも できるよ!」

お母さんれいむは、自分と同じくらい賢く育ったに成れいむを喜んでいた

 「おちびちゃん! ふゆになるまえに ごはんをあつめるんだよ!」

 「もう おちびちゃんじゃないよ おかーさん! れいむは おかーさんにならった りょうりで いつも おいしいごはんを つくれるよ!」

 「…」

 「…」

 「…」

 「ゆわぁああああああああん」

 「れいむぅぅ!」

 「おちびちゃああああん!」

この数ヶ月で、両親から受け継いだ狩りや自然の知識を学び 子れいむは一人前のゆっくりとなった
もう自分一人の力で生きていかなくてはならない
ひとしきり別れを惜しんですりすりし終えると
何度も何度も両親を振り返りつつ、成れいむは遠い山の向こうを目指した


秋の山は食べ物にあふれている
いろんな芳しい匂いに釣られるが
ちゃんと食べられるもの ゆっくりできないものを吟味していく
保存の効くものは、頬袋やはっぱの荷物入れにしまう




まだ巣の中しか知らない幼い頃
閉ざされた入り口の隙間からは、冷たい風が入り込み
藁の敷いていないおうちの地面はとても冷たかった

しばらくしてお父さんが入り口を空けて
子れいむを帽子の上に乗せて散歩した時も
春には蝶々がたくさん飛んでいた原っぱも
野いちごが生るはずの森もシンと静まり返っていた





とても寒く、他にはなんにもない
それが冬なのだ

もりさんも たいようさんも ゆっくりしなくなる
その冬が来る前に、寒さを凌げるおうちや 冬を乗り越えるご飯を探さなくてはならない

 「これはたべられるものだね! これはたべられない! あれは すぐにだめになっちゃうから いまたべちゃおう!」

れいむが食べ物を探して散策していると

なんとゆっくりが一匹いたのだ

 「ゆ!?」

家族以外のゆっくりと会うのは、実は成れいむにとって初めてだった

 「…?!……ゅ…ゅ………ゆっくりしていってね!」

初めての挨拶をかけるが

 「…」

反応がない
初めての挨拶に戸惑い恥ずかしがると
しぶしぶと相手の様子を見た

 「!」

相手のゆっくりが返事を返してくれないのも無理もない
なんと倒れこんで苦しがっている!

 「ゆゆ!? だいじょうぶ? ゆっくりしてね! れいむが ゆっくりさせてあげるよ!」

 「…ゅ…ぃ…」

あたふたと成れいむが、体をしらべるてみると
苦しがるゆっくりの下から 派手な色に染まったきのこがたくさん出てきた

 「ゆ! これは ゆっくりできない きのこさんだね! まっててね! いま おくすりを だすからね!」

荷物から葉っぱに来るんだ薬を出すと
倒れたゆっくりに差し出した

 「これをのんでね! そうすれば ゆっくりできるよ!」

 「…ゅ…ゅ…」

薬を飲むどころではない
額には汗がびっしり浮きでており
ぎゅっとつぶった目からは涙が流れている
このままでは毒にあたって死んでしまうだろう

 「どうしよう! どうしよう! どうしよう!」

 「…ゅ…ゅ…」

毒に犯されたゆっくりの息は更に激しくなり、もう後がない

 「そうだ! ゆっくりわかったよ!」

成れいむは 葉っぱから薬を取り出すと
口に含んでゴリゴリとすり合わせた

 「…ゆぐ…」

 「…ゅ…ん…」

成れいむは
むかし病気にかかって、ご飯が食べれない時
お母さんに口移しで食べさせてもらった時の事を思い出したのだ

 「…ゅ…んぐ………………………ゆ?…」

 「ゆ! げんきになったね! よかったよ! ゆっくりしていってね!」

 「ゆ? ゆゅ! ありがとう! すごく ゆっくりできるよ!」

成れいむは介抱したゆっくりを抱き起こすとびっくりした

 「お、おとうさん?」

 「? まりさは まりさだよ!」

その姿は成れいむの父親と同じ まりさ種だったのだ
しかしよく見ればお父さんとは違うところがいくつかあり
体の大きさは成れいむより一回り小さく
逆に髪の毛はふわふわで飾りはキラキラで、まるで綺麗な自分のお母さんのようだった

 「ゆ…////」

いまさら成れいむは綺麗なまりさと口付けをしてしまったことに照れていた
命を救ってもらったまりさは、そんなれいむの同様には気付かず

 「ほんとうにありがとう れいむ!」

 「ゆ…えっと ああいう きのこさんは たべたら だめなんだよ! しらなかったの!」

 「ごめんなさい まりさは もりの かりが にがてなんだよ…」

 「それなら しょうがないね! れいむが いっしょにごはんを さがしてあげるよ!」

 「ありがとう れいむ!」

れいむは頼りないまりさを手助けする程度のつもりだったが
自分が綺麗なまりさに惹かれているなんてのは気づきもしなかった








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最終更新:2009年07月13日 19:45