第二章 


「Ah... Ms.Komahagi. What did the author find out about Bordes?」

 明美入学騒動から少し日が経った。

 もう大分明美も帝王高校に慣れてきたみたいで、最近では俺の知らない女友達まで作るようになった。

 っつか、とけ込むの早すぎでしょ。

 そして、これは授業が始まって分かったことなのだが、明美は意外と、いやかなり頭がいい。

 うちの学校は言語授業はレベルが相当上で、英語はもちろんのこと、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語は高校一年から学び、二年に進級すると新たに中国語の勉強を始める。

 まあ、俺と明美は日本人だから日本語の授業とか正直暇なんだが、フランス語とドイツ語は日本の教育課程をはるかに上回っている。

 というか、日本の高校ではフランス語もドイツ語もやらないのか。

 だから明美はつまずくと思ったのだが…

 これが意外にびっくり。学年で一番出来る奴しか分からなかった問題に明美が答えられたのだ。

 あの時ばかりはネイティブの教論も本気でびっくりしていた。

 英語だって…

「Bordes painted very many pictures of the people of Rouen.」

 この通り。

「No.」

 間違えたけど。

 心底悔しそうに席に座る明美。かなりプライドが高いのか?

 だが、事実学内試験では全学年で2位を取るという快挙を成し遂げた。

 明美よ。なぜ学問が出来て殲滅作戦がたてられない。

 とはいえ、これは大分誇っていいことであると思うんだが…

「Then…Mr.Yayumi.」

 おっと、指名されてしまった。今明美が間違えた問題だ。

 実は、本人は相当気にいってないことがあるそうだ。

 その気持ちはわからんでもない。

 2位ということは、唯1人自分より学力が上な人間がいる訳なんだが…

 俺は立ち上がって答えた。

「Bordes painted scenes which tended not to be cheerful ones.」

「Yes! Excellent!」

 その1人が、俺であるという事。

「ふぅ…」

 教論からの指名が終わり席に着くと、ものすごく不満そうな明美の顔が後ろにあった。

「なんだよ」

「どうして私の唯一上に立つ男が貴様なのだろうか…」

 因みに、俺が学力1位であることには理由がある。

 話は入学時までさかのぼるが、いくらなんでも裏社会のセレブだけでは帝王高校に入学させることは出来ないと今の校長が言ったのがきっかけだ。なんでも、さすがにそれだけでは入学させられないのでそれを補って余りある学力を見せてくれ、と。

 という訳で、俺は入学前2ヶ月間特別に学校の補習を受けていたのだ。

 そのときに叩き込まれた内容がすごい。

 英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、オランダ語、ラテン語、古代世界史、美術史、数学、天文学、地学、力学、電気学、化学、統計学などなど…

 よくこれだけ入ったなと俺も思うが、いくら集中講座とはいえたった2ヶ月でこれほどの学問を身につけることが出来たのは俺ぐらいしかいない、と帝王高校側も褒めてくれた。

 そんな訳で皆より早くスタートを切っているから入学試験では2位の倍以上の点数を取って学年1位の成績を取った。

 それ以来学内テストではまだ1位より落ちた事はない。

 ……明美が来てから護衛科は学年2位になったが。

「私は順位などどうでも良くて、貴様に勝てればよかったのに…」

「Be quiet, Ms. Komahagi.」

「Oh…Sorry.」

 明美が私語を注意された。

 先生へは人当たりのいい笑顔を向けていたのに、俺に対しては素晴らしい睨みをくれる。俺が何かしましたか?

 まあ、自分の手下である男が学年1位で不快になる気も分かるが、残念ながらそこは譲れない。

 悪いな。



「確かにむかつくんだよね」

 昼休み。学校の食堂で俺、明美、エバ、アドリフ、梅花で飯を食っている。

「しょうがねぇじゃねぇか。じゃねぇと帝王高校にいられねぇんだからよ」

 話は、明美の一言で始まった。

『不快だ…学力で貴様に劣るとは…』

 それに仲間意識を持ったのかアドリフが食いついたが、明美は失言だったと言わんばかりに顔を顰め、それ以降だんまりを決め込んでいる。

 しかし、それで止まる男ではないことを俺は長年の付き合いで知っていた。

「でもさぁ。人がこうめちゃくちゃ悩んでる問題をさらっと解くのがむかつくんだよな」

「そういっておいて、テスト前には礼人っちに泣きつくくせに」

「ば…そういう梅花だってそうじゃねぇか」

「私は礼人っちを悪く言ってないからいいのよ。むしろ尊敬してるよ」

「でも…エバちゃんはどう? 礼人の学力について」

「え? わ、わたしは…」

「正直に言っちゃいなよ!」

「……かっこいいかなって……」

 エバは赤面してうつむいてしまった。

(何言ってんのこの子は!?)

 俺だって一応男子なんだよ。そんなこと言われたらドキリのひとつぐらいするっての。

 だが、俺以上に呆然としている男がいることを忘れてはならない。

「か、かっこいい…」

 アドリフの周りだけ時間が止まった。

 そして、ようやく動き出したと思った刹那、

 バン

 どうやったのかは分からないが、アドリフは普通に椅子に座っていた体勢からいつのまにか俺の目の前で土下座をしていた。

「師匠!」

 お前黙れよ。少しは周りの目線気にしろよ。

 教室ならともかく、ここ食堂だって分かってんのか。

「俺に……俺にフランス語を!」

「お前は故郷の言語も使えなくなったのか」

「……はっ!?」

 おい、今の素かよ。寒いジョークかと思ったんだが。

「すまん! 今のはジョークだ! だから…」

「土下座してまでジョークを言うのは結構だが、生憎俺はあまり暇じゃない」

 明美が俺の部屋に来てからは、本当に暇がなくなった。

 まず、協力するといった次の夜には、うちの校長でもある国連総長と電話で話をした。

 サシで話をする機会なんて後にも先にもあれ一回だっただろうから、がちがちに緊張して変な英語になってしまった。

 それに、その後もジョヴァンニが正式に契約を交わすための資料とかが物凄い量配られて、数日間はその処理に追われていた。

 代表者の署名欄は、当然俺の名前で書いた。

 親父の名前なんか書いたらリアルに首が飛ぶ。

 俺と親父は親子の関係と同時に、上司と部下なんだからな。

 後日親父に国連側の提案だけを知らせたら、「分かった。くれぐれも死ぬんじゃねぇぞ」と柄にでもないことを言われた。

 なんだかんだいって息子想いだから憎めないんだよなぁ…

 さて、話を戻すか。

 アドリフに勉強を教えてやれない理由は他にもある。

「なあ、そこを何とか…」

「お前、この前の校内実力試験、400人中何位だったか?」

「……」

「言ってみろよ」

「…372位」

 嘘でしょ? という梅花の声が聞こえた。

 それが聞こえたのか、急にバン、と机をたたき、

「じゃあ梅花は何位だったんだよ!?」

「私? 17位だったけど。ちなみにエバちゃんは35位だから」

 あうぅ、と顔が赤かったエバがさらに小さくなる。

「マジか。エバより成績上とは、意外に梅花って頭良かったんだな」

「当然でしょー。商業組合会長ってのは小賢しくないとやって行けないのよ」

「そんなものか」

 徐々にアドリフの顔色が蒼くなっていく。

 無理もないか。

 今テーブルを囲んでいるメンツの順位を確認しようか。

 俺 1位。

 明美 2位。

 梅花 17位。

 エバ 35位。

 アドリフ 372位。

 ……

「お前、泣いていいよ」

「憐れんだ目で俺を見るなぁ!」

「そうか…そういう物は生まれつきだったりする。気にするな」

「遺伝子のせいにするなっ!」

「ぷっ、くくく……次があるよ、次が」

「笑いを押し殺すな!」

「アドリフ君……」

「いや……エバちゃんのうる目が一番精神的に効いた……」

 アドリフに勉強を教えない最大の理由。

 アドリフに関しては、正直手遅れなのだ。

 前に3回ぐらい見兼ねてテスト前に勉強会を開いたことがあったが、全くあいつの頭には物が入らないということが分かった。

 それ以来は、あいつに関しては放置という方向性で行くことになっている。

 劣等生の指導こそ教論の仕事だからな。

「…ま、まぁ! そんなことはいまどうでもいいじゃないか!」

 無理やり話を変えやがった。

「それよりも…」

「なんで俺を見るんだよ」

 っつか、その薄気味悪い口のつり上げ方やめろ。リアルに気持ち悪い。

「どうなのよ、例のところ」

 それは俺に言ってるんだろうか。色々なところを端折りすぎてて分かりにくい。

「なにが『例』なのさ」

「決まってるじゃないかーい、礼人君」

「鬱陶しいな。はっきり言わないと殺すぞ」

「なんとも物騒なことを仰る」

 脳の血管が3本程度切れたので、アドリフの頭に手を伸ばす。

「あれー? 俺にそんなことしていいのかな?」

 妙にこいつ余裕だ。

「どういうことだよ」

「明美と同居してること、言いふらされたいのか?」

 手を伸ばしていない方の手でカップの紅茶をまさに飲もうとしたところでこぼしそうになった。

「な、なんで知ってんだよ!?」

 明美と俺が同居しているという話は、道徳の都合上内密にしておくと約束した。明美が口を割るとは思えないし、俺も誰かに話した記憶はない。

 まさか、情報が漏れたか!?

「あ、ホントなの」

 アドリフの目の色が変わった。

「しまっ――――っ!」

 俺の正面に座っていた明美の蹴りが、俺の脛にどストライクした。

「痛いっ!」

 もんどりうって椅子から転げ落ちる。

 周りの目線が一瞬で俺に集まった。ああ、恥ずかしい…

 しかしまあ、良く毎回急所に的確に攻撃してくるなぁ。

 ……って、そうじゃない。

 かまをかけるとは、こいつ成長してやがる…

「だから、なんで本当とかそういう話になるんだよ」

「だって、あからさまに動揺したじゃん」

「あれは…」

 くっそ、上手く言い返せない…

「というか、なんで知ってんだよ、と礼人が言うってことは真実である、と言っているようなもんじゃないか」

「そう決めつけるのは感心しないな」

「ほぉ…」

 アドリフの視線が横に流れる。

「で、そこんところどうなんですかね。もう一人の当事者としては、明美さん」

 どうやら、俺が黙っているから明美に振ったのだろう。

 脛をさすりながら椅子を戻し、そこに座る。

(まあ、明美ならいいか)

 明美は、必要以上のマナーは身につけている。

 その明美が自分の日常を好き好んで話すわけがない。

 その点では、アドリフは話を振る相手をミスったな。

 チラッと、明美が俺の方を向いた。

 信頼していたので特に何もしないでいると、

 ニヤッ

 急に片方の口の端がつり上がった。

 ……

(あれ、絶対なにか企んでるだろ)

「ああ、非常に困っている」

「困っている? それはどんな?」

 へ?

「実は、私が彼の部屋に訪ねた時に、急にベットに私を連れて行って、私が彼に覆い被さるように寝させられたのだ」

「ちょ、おい!?」

 冗談じゃない。そんなことが世に知れたら、始業式の勢いなど軽く超えるだろう。

「で、挙句の果てに『お前と一緒に住みたい。この部屋を使ってくれないか?』と言ってきたのだ」

「言ってねぇー!」

 またチラッと明美がこっちを見た。

 一瞬だけ、顔がものすごく獰猛な笑みに変わった。

 有り得ん……あのドS女……

 っつか、アドリフはこっちをたまに見る目つきがマジなんですけど。女が関係すると意外と怖いんだが。

「それに加え、私がシャワーを浴びている時に、彼は脱衣所で私の下着を弄びながら私が脱衣所に出てくるまで待ち伏せしていたのだ」

「ぐっ……」

 違うんだ。あれは待ち伏せしたんじゃない。散らかってた洗濯物を籠に入れていただけなんだ!

 そんなことを今言ってどれだけ説得力あるかな…

「そして、風呂から出た私の裸を見て、彼は…」

 カラーン

 何かが床に落ちる音が聞こえた。

 見れば、さっきまで赤面していたエバは消え、満面の笑みで、且つこめかみをひくひくさせているエバがいた。

 まるで幽霊にとりつかれたかのように、無気力に床に落ちたフォークを拾い上げ、

「あっ、フォーク落としちゃった。洗ってこないと」

 あははは、と虚ろに笑いながら水道に向かっていった。

「こ、壊れちゃった…」

 そんなことをぽつりと、梅花がつぶやく。

 あれはまずいだろ。どうかんがえても。

(おい、明美…)

 どうしてくれるんだよ、と目で訴えかけてみるが、

「他はともかく、風呂での出来事に嘘は一つもない」

 当然のごとく捨てられた。

「マジなの!? おい、で、どうなのよ!? 明美さんの私生活!?」

 そんな場の空気を全く読まないアドリフは、ぐっとこっちに乗り出してきた。

「ばっ、顔近いよ!」

「気にするなよ兄弟ー。それぐらい教えてくれてもー」

「馬鹿野郎、もっと近寄ってんじゃねぇ! っつか、こんな変態兄弟なんかいらねぇ!」

「まあまあそんなに照れないで。言ってごらんなさいよー」

 全く自重しないので、本気でアドリフの頭をつかんだ。

「だ――っ、ギブギブギブ! マジでイテェッ!」

 アドリフが、掴んでいる方の腕をバンバンと叩く。

「じゃああまり粋がった発言はするんじゃねぇ。いいな」

「わーったわーった! だから放せ!」

 放せ放せとうるさいので、持ち上げていることを気にしないで手を放した。

 案の定、アドリフは腰から床に激突する。

「イテぇッ!」

 間抜けな悲鳴を上げるアドリフ。

 さて、エバの誤解をどうしようかと考えていると、

「むかついた。もうむかついた。こうなったら意地でも素性を問いただしてやる!」

 キレるポイントが全く分からないが、アドリフが怒って俺の胸ぐらを掴んだ。

「明美さんのおっぱいとかどうだったの!? お尻とかさあ!? ってか、胸のサイズはいくつだったんだよ!?」

「あ?」

 鬱陶しいから、軽く殺気を飛ばしてみる。

「ひぃっ!」

 アドリフは完全に石化した。ざまあみろ。

 アドリフの手から逃れ、席に座りなおした。

 さて、ランチの続きをしようではないか。

「礼人君」

 ボンゴレを食べようとする手が止まった。

 ただ一言、名前を呼ばれただけなのに…

(なんだ、この殺気…)

 背後に立っているであろうエバから発せられるオーラで、完全に固まった。

「…どうして答えないの?」

 さらに迫ってくるエバ。声はより一層無気力なものになる。

 …怖ぇ。

「…ねぇ?」

「あーっ、お前はホラー映画に出てくる呪縛霊か! いいか、俺は明美とは同居してない! これでいいだろ?」

 そう言って後ろを振り向き、

「な…」

 エバは笑っていた。

 見事に目は笑っていなかった。

「それ、天なる神様に誓って言える?」

「あ、いや…」

 思わずどもってしまう。それが終わりだった。

「……ほ」

「ほ?」

「本当だったんだ――――――――――――――!!!」

 さっきまで浮かべていた不気味な薄笑いから一転、完全に泣き崩れたような顔をしてエバは絶叫して食堂を出て行ってしまった。

「あ、おい!?」

 慌てて俺も食堂を出てエバの姿を確認しようとしたが、その姿はもう見ることができなかった。

「あー、礼人っちがエバちゃん泣かせたー」

 梅花が強烈なジト目でこっちをにらんでくる。

 うっ、その目、正直明美よりきついぞ。

「な、泣かせたってわけじゃ…」

「誰がどう見ても貴様が泣かせただろう。そんなことも分からんか、馬鹿者」

 ば、馬鹿者とか真顔で言うなよ。傷つくわ。

「お前女の敵だな。人間として最悪だわ」

 いつの間にか石化から解放されたアドリフまでもが、俺を非難してくる。

「ねぇ、あの男が女の子を泣かせたんだって…」

「あれって暴力団の男じゃん」

「うっわー。サイテー」

「人間じゃないよ、あの男。虫けらだわ」

 ……外野の視線とたまに聞こえる声がものすごく痛い。

「そ、そりゃ、俺の失言からこうなったのは否定しないけどさあ…」

「だったら責任取って来んか」

「エバちゃんを取り戻すまでお前とは口を気かねぇ」

「礼人っち、男ならちゃんと仲直りして連れ戻してきなよ」

 なんですかこの急展開。

 今日何度目か分からないため息をつく俺。

 ああなったエバを宥めるのは、昔から大変だった。

 やだなぁ…



 エバは、校内の中庭にいた。

「好き…嫌い…好き…」

「マジで怖くなるからやめろ!」

 慌ててエバから花弁がなくなった花(花と言えんのか? これ)を取り上げる。花を取られたエバは俺を見上げて、あ、と一言ぽつりとつぶやいた。

「礼人君…」

「よかった。反応してくれた」

 茎だけとなっている花を取り上げても、反応の一つしないエバを頭の中で想定していただけに、俺は安心した。

「ねぇ…」

 それでも、エバの目は凍るように冷たい。

 どうフォローを入れればいいんだ? こういう時。

「あー、えー、まあ、ゆっくり話をしようよ」

 取りあえず、俺は考える時間を確保しようと試みる。

「…うん」

 ものすごーく気まずい空気が流れた後に、何とか、その提案は承諾された。

 ほぅ、と一つ安堵のため息をついて俺はエバの隣に座った。

 なにげなく見てみると、エバの傍にはアーチェリーの道具一式が置いてあった。どういういきさつでそうなったのかは知らないが、教室から持って来たみたいだ。

「とりあえず、さっきの話な」

 話す事もないので、さっさと先ほどの話題を持ち上げる。

「明美との話だが…」

「ねぇ」

 エバが唐突に俺の言葉をさえぎった。

「どうして…礼人君は明美さんと一緒に住むことになったの?」

 とっさにはぐらかそうとしたのだが、エバの瞳には有無を言わせぬ強い光があった。

 参ったな、これ。嘘を付こうにも付けねぇぞ。

 とにかく、誤解を生まないように、慎重に説明するしかなさそうだ。

「ああ…それは…」

 俺は、話せば長くなりそうな気がしていた。というか、絶対に長くなる。人生で一度しか遭遇しないだろう場面を言葉にしようものなら、本が一冊できる。

 でも、エバはおっとりしているように見えて俺に関する事は鋭い。ばれるのも時間の問題だ。

 それに、目が本気だ。断ろうものならすぐさま心臓を射抜かれるに違いない。

 そう思った俺は観念して事の顛末を話した。

 明美と出会い、ジョヴァンニ以外の暴力団を排除するために手を組んだ事、そしてそれを了承した事。

 本当は、明美は俺の破廉恥な行為を阻害するために同居をすることになったのだが、エバにそんな事を言ってしまえばとんでもない事になるだろうし、実際俺すらその言葉の意味があまり分かっていない。

「ふぅん…」

 俺の話を聞き終った頃には、いつものエバに戻っていた。

 賢いエバは、俺を取り巻く状況を理解できたらしい。

 本当にほっとした。

「ジョヴァンニがシチリアを制覇するって、ちょっと大変じゃない?」

 そして、いつもの明るい口調でエバはさらなる詳細を尋ねてきた。

 もうエバは俺と明美の関係を疑っていない、と捉えていいよな?

「当然俺だって楽観視してないさ。でも、これ以上血まみれの生活を送るよりはましかなって…」

「――――ぷっ、くすくす」

 エバはそこで、ようやく笑みを見せた。

「すごく礼人君らしい答えだね」

「らしいってなんだよ…」

「だって、早く平和な生活がしたいんでしょ。いかにもって感じだよ」

「いかにもって…」

 エバと話をして、内心俺は驚いていた。

 幼馴染、という関係がそうさせているのだろうか。明美には話せなかったこともエバには無意識に話してしまう。

 一緒にこうやって話すだけで気持ちが落ち着くのは、エバのおおらかな性格のおかげなんだろうか。

「でも、頑張るよ。俺も全力で行かないといつ死ぬか――――」


 ――――ズキューン









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最終更新:2011年02月18日 21:42