亀 回 路

2. 問題を構成する

最終更新:

kaerujicho

- view
管理者のみ編集可

2.1 望ましい問題とは


 1 章では問題の分析に注力し、良し悪しについてはゲームが滞りなく進行するかどうかという客観的にも判断のつきやすい基準から避けるべきことに言及するにとどめました。良し悪しは人の好みもあり、あまり私の好みや主観を導入しては他の方の参考になりにくいという考えからです。

 この章では問題の構成を考えることにしますが、価値基準、判断基準無しには問題設計の方針は立てられません。そこで先の章で触れた基準をもう少し明確な形で価値観として導入し、それを踏まえての問題設計について論じることにします。

 この章で導入する価値観は「解答者が楽しくストレス無く参加できるよう、ゲームの進行をよく考えてある問題が望ましい」というものです。初出厨さんの「★★ウミガメのスープコテハン図鑑★★」内の「ウミガメ出題者に100の質問」で私は次のように書いています。
Q.59 あなたにとって良問の条件とは?
スタートから解説まで出題者がどう回答者を惹きつけ、どこを難所として使い、それをど
う突破させるかというように質疑の進行の展開をきちんとあらかじめ考えてある問題。
出題者がゲームマスターとしてゲームの展開に責任を持ち、回答者に無意味な負担を強いることのない問題。
それさえちゃんとしているなら特殊な知識を要求する問題だろうと問題文が抽象的過ぎてどんな回答も思いつけてしまう問題だろうとべつにいいんじゃないかと思ってます。

 現実には特殊な知識が必要だったりあまりに抽象的過ぎる問題で円滑なゲーム進行はなかなか困難でしょう。これはゲーム進行や展開を考えて問題を作ることを第一義とすればおのずとそのような問題には慎重にならざるを得ないであろうことを念頭においての発言です。
 私としては「ゲームの進行をよく考えて問題を設計することはよいことである」というのは多くの人にとって同意できるか少なくとも大きな異論を引き起こすものではない条件であろうと考えています。以降この点を留意しながら設問について考えてみたいと思います。


2.2 探索型とトリック型


 問題を大きく探索型とトリック 型に分けるとすると、トリック型はほとんど進行については考える必要がありません。ある考え方、ひらめき、それが解答者に舞い降りるまで静かに待つ。それ がトリック型における出題者の役割です。様々な質問がなされるでしょうが、本質的には必要な情報がほとんど問題文に織り込まれていてこそ成立するトリック 型の問題では提供するべき新しい情報はもとよりないか、あっても問題文から当然発生する質問、つまり後から提供するものと出題者が分かっているものに限られることが普通でしょう。これに対し探索型では出題者の役割はとても重要ですし、問題設計の妙が進行に大きく影響します。以降の節では探索型を念頭に置 き、進行と問題設計について考えてゆくことにします。


2.3 探索型の問題構成


 探索型の問題においてまず重要になるのがベールの厚さ、そしてクルーの配置です。まずベールとクルーの意義を出題の進行の視点から再論しましょう。

2.3.1 ベールの厚さの設定

 ベールの厚い探索型問題はたくさんの参加者がいるときに適しています。多くの人が相補的に質問をすることで真実に少しずつ近づく楽しみを味わうことができるからです。逆に参加者が少ない時にはそのような問題は参加者に非常に多くの労力を要求します。時として時間がかかりすぎて、参加者を疲れさせてしまうことになります。自分が出そうと する問題のベールの厚みを把握していて、状況を読んで適切なベールの厚さの問題を提供することは、(そして出題してからベールが厚過ぎたと判断した時には 臨機応変に誘導することは)出題者に期待される資質の一つではないかと思われます。

2.3.2 クルーの設定

 探索型の問題文を作る際、肝心なのが何をクルーとして設定するかということになります。基本的には進行上の道標になったり、第一歩を踏み出す方向付けとなったり、他の方向へ行かせない為の質問を誘発するものが望ましいと思われます。

 適切なクルーの設定は2つの意味で先述の問題構成の方針に貢献します。

 第一に、適切なクルーの設定は解答者の単純作業を減じ、知的な喜びを増す効果が期待できます。出題の最初の方では外堀埋めの質問が定番ですが、同じ外堀 埋めでも手がかりをもとに自分なりの解答の目算をもってする質問は知的な喜びを伴います。これに対し全く手がかりのない状態で、他に手がなくてやむを得え ずする質問はどちらかといえば単純作業に近いもので、喜びの乏しいものではないかと思われます。

 第二に出題がうまくいかずに解答者の喜びを減じる危険を遠ざけます。クルーのない問題構成は進行が迷走する可能性が高くなります。その結果どうしようも なくなって最後には過度の誘導をしてしまい、ほとんど自分で答を言ってしまうような展開になってしまうかもしれません。それでは解答者が問題を解いたとい う満足感を得るのは難しいのではないでしょうか。そうならない為の一策が適切なクルーの設定です。

2.3.3 問題の規模の設定

 解説で用意されるストーリーに 通常期待される質問によって明かされることだけでは話が繋がらない箇所があることがあります。登場人物の人格の異常性、普通考えられないような誤解や偶 然、あるいはオカルト的な超常現象などが結末を通常の予想の埒外に運ぶような話はその例にあたるでしょう。そこが話のキモであり面白いところでもあったり するわけですが、逆に発想の飛躍が必要で解にたどり着くための難所となりえます。

 私は自分の問題においては難所はせいぜいひとつになるように心がけています。これは複数の難所を設定することによる危険を嫌ってのことです。例えば最初 の難所が越えられないと後の難所はどうしようもない問題なのに後の難所に質問が集中してしまうと誘導で苦労するはめになります。最悪の事態をいつもいつも考える必要はありませんが備えの気持ちは余裕をもたらしてくれます。
 問題の進行をよく考えておくと いう事は自分で取り回しきれる大きさなのかを考えておくと言う事でもあります。私はあまりに難所が多いネタの場合整理しますし、特殊な知識が必要な問題は その知識を問題文に盛り込んでしまいます。結果的には私の問題はすぐ終わる問題ばかりです。これは私の問題を取り回す能力の限界を考えてのことです。


2.4 実例をもとに


 ここからは実際の例を取り上げて説明します。まずベールとクルーの設定について論じ、次に進行を考えた上での設問の微調整について論じます。

2.4.1 クルーとベール再論

 ベールの厚みの調整とクルーの置き方の関係を例を元に考えて見ます。まず解説を示し、その後に問題文としてどのようなものが考えられるか考察します。

【解説】
彼は奴隷売買でヨーロッパに運ばれる途中の黒人。仲間とともに船上で反乱を起こすことに成功し、白人をすべて殺した。しかし殺してしまってから、帆船の操縦の仕方が分からないことに気が付いた。ボートで帰ろうとした仲間達は波に飲まれて死に、船に残った仲間も水と食料が尽きると死んでいった。
彼ももうすぐ死を迎えることになるだろう・・・。

問題は第1回のウミガメマラソン2914からです。実際に出題に使われた問題文は次のようなものでした。

【問題】
彼は憎むべき敵を仲間とともに打ち倒した。
しかしその結果としてたった一人、飢えて死のうとしている。
彼がこのような状況に至った理由を考えて欲しい。

 問題文は実質2 行で、与えられる情報は「敵の存在」「敵を倒した」「仲間の存在」「現在は一人」「飢え死に」という5つです。ここでの出題は24時間マラソンの最後と言 う事もあり、わずか15分ほどで解説まで持ち込みたいという欲が働いています。そこで言葉をギリギリまで絞り込まず、すこし残す形で出題しています。そこ でまずもっと言葉を削ってベールを厚くするとどうなるか考えて見ます。
 本人の死はチャームとして残し たいですね。たった一人という要素は省いても問題ないででしょう。飢えたという要素はどうでしょうか。これは彼の死が敵に殺されたものではないということ だけでなく、彼のおかれている状況を間接的に説明する効果が期待されます。クルーとして残したいですね。
 敵の存在はどうでしょうか。これを除くと問題文は「男は飢え死にした、なぜ?」になってしまい、あまりに漫然としてしまいます。

 仲間の存在はどうでしょうか。これも省いてもよい要素と思われます。なぜなら敵という言葉から、どのような戦いにおける敵であるのか(戦争?競技?ゲーム?)に関する一連の質問は当然発生すると期待され、それらに答えてゆくことで仲間の要素はあぶりだされるからです。
 以上を踏まえもし可能なところまでベールを厚くするなら次のようになったと考えられます。

【問題】
彼は憎むべき敵を打ち倒したが、その結果として飢えて死のうとしている。
彼がこのような状況に至った理由を考えて欲しい。

  この問題でも敵を倒すだけの力がある主体が飢えねばらないという状況から、彼がおかれている状況、彼のいる場所がどこであるかが重要であるということは見 えてくるはずです。船上であることが分かれば、敵対するもの同士が同じ船に乗り合わせている状況とは?という疑問に進み、この時点でまだ出てなかったとし ても時代背景を問う質問が出るでしょう。ベールが厚くなっている分、元のものよりすこし時間はかかるかもしれませんが、ゲームの展開はほとんど影響を受け ないでしょう。

 もしもっとあっさり終わらせたければここからすこしベールを薄くしてやればよいでしょう。彼が黒人であることを暗示する言葉を入れてもいいでしょうし、死にかけている彼の耳に波の音を届かせて海の存在を示唆してもいいでしょう。

 いかがでしょうか。ここで注目していただきたいのは、クルーによって定まる 質疑の方向性を乱すことなく、ベールの厚みを調整できるのだということです。クルーとして使われる文言とベールとして使われる文言は同じ文言でも問題文中 での役割は異なります。クルーは探索の方向付けをもたらすためのものであるのに対し、ベールは探索の対象なのです。


2.4.2 例をもとに考える2:ゲームの進行を考えての問題設計

 もうひとつ割と最近の出題から挙げてみましょう。今度は2006年の闇鍋からです。

【解説】
彼は釧路湿原国立公園に勤め、大水などで放棄されたタンチョウ鶴の巣から卵を回収し、人工孵化を手がけている。生まれたら親代わりに餌を与え、世話をする。鶴のような大型の鳥は教えてやらないとしっかり飛ぶようにならない。ある時期になると彼は事務所の裏の野原で鶴と一緒に手を広げ、ばたばたさせながら走り、鶴に飛ぶことを教えるのだ。
飛ぶことを覚える頃、鶴は野生の環境に帰される。

実際の出題においては次のような問題文を使いました。

【問題】
男が自分のオフィスの裏地で息を切らしながら両手を広げて走り回っている。
周囲に人はいない。彼だけだ。
息が上がってつらい。しかし見てる人もいないのに彼は手を抜かない。
これも公務員である彼が誇りをもってやっている仕事の一部なのだ。
彼は何をしているのだろう?

 これは例えば「両手を広げて走り回っている男。なぜ?」という形でも一応問題としての形を成すでしょう。直前の出題の参加者数からあまり参加者が集まらなさそうと判断できる状況だったかことから、ベールをやたら厚くする事はやっていませんが、もし厚くしたければオフィス、公務員を含め仕事がらみだということを示す要素は省いても問題な いと思われます。なぜならこの問題のチャームは男の不可解な行動という謎であり、1章で述べたように謎はそのままクルーとしての機能が期待できるからです。
 2 行目3行目は何のためにあるかお分かりでしょうか。これは両手を広げての奇妙な走りという不思議な状況のチャームに、周囲が無人であるという状況を付加してチャームを強調する機能があるわけですが、それだけではありません。これは当然聞かれると考えられる、しかしあまりしてほしくない質問を一旦遠ざけるための仕掛けでもあります。
 手を広げて走っている男。それだけを説明した問題文ではこのような質問が予想されます。
「誰かに見せていますか?」
そう聞かれれば人でなくても誰かに見せていることに変わりはありませんからYes と答えざるを得ません。その瞬間から男は何をしているかという問題文中の問いは一旦遠のき、誰に見せているのかを絞るプロセスが始まってしまいます。私が 望んだのは男が何をやっているのかをまず絞りこみ、その意外な対象が最後に明らかになる、という展開でした。そのためには最初のほうで「誰かに見せていま すか」という質問が出る事は避けたかったのです。
 実際の出題ではほぼ期待したと おりの展開で進行しました。私としては「鳥に教えている」というのはハードルとしては高すぎるかもしれないので「動物を対象としている」ということが出た 時点で正解にしようと考えていました。しかし結果的には最後にそのものずばりが出て、解答者の素晴らしい冴えに舌を巻かされる(ウミガメスレで出題者を やっていれば少なからずする経験ですね!)ことになりました。

 考えられる質問を想定し、自分が望む方向へ質問を誘導するように問題文を構成するやりかたの一例を見ていただきましたが、いかがでしょうか。ゲームの展開をよく考えて問題設計を行うためにはどんな質問が来るかの目算が必要です。 ベールをはがしてゆくための基本的な質問(男は人間か?職業重要?時代背景重要?等々)は来るものと期待してよいでしょうが、話の肝にかかわる質問は望む とおりにいくとは限りません。そこでどのような調整を施すかが作問の肝となります。問題を分析し、把握し、自分が解答者ならどんな質問をするかを考えながら問題文に調整を施す。この調整作業が私の作問における大きな楽しみであったりします。

進行を考えた設問の例については(Appendix A)も参照してください。


2.5 出題者にとっての効用


「解答者が楽しくストレス無く参加できるよう、ゲームの進行をよく考えてある問題が望ましい」という基準は、なんだか解答者にへりくだりすぎた態度に思われるかもしれません。しかしそうではなく、むしろ多くの利益を出題者にもたらす考え方だと思っています。
 進行を考えて問題を構成すると 言う事は、そのプロセスの中で自分の問題の特徴を十分に把握すると言う事でもあります。自分の問題がどのような特徴を持っており、どれだけの負荷を解答者 に求めるものであり、どこが困難なポイントとなるかを把握していることは出題者に大きな利益をもたらします。
 自分の問題を理解してその進行 に目算がついていれば、何かミスが起こしたとしてもリカバリーが容易になりますし、誘導の労力の低減も期待できます。グダグダの回避にも役立つでしょう。 それらは出題者に出題を楽しむ余裕を与えます。同時に解答者に気持ちよく乙と言ってもらえるという、出題者にとっての最大の報いをより沢山もたらしてくれ る助けともなります。
 そして自分の出題がうまく行か なかったと感じたとき、どこに問題があったのか、それを的確に分析するのも自分の問題を正しく把握していて初めてできることです。失敗からのフィードバッ クはきわめて重要です。その第一歩が自分の問題を自分でよくわかっている、ということなのです。







目安箱バナー