619 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 01:36:20.83 ID:ZkAAKZrb0
スター・デストロイヤーに着艦したシャトルから降りれば、ロイヤル・ガードの他にも、艦長以下
数十名の将校が格納庫まで出迎えに来ていた。
とりわけ艦長とその周囲は脂汗を流し、緊張した面持ちでベイダー卿を迎えた。

居住区画へ向かう間、艦長はベイダー卿に付き従って離れようとしなかった。
「べ、ベイダー卿。知らぬこととは言え、この度はとんだご無礼を……」
ベイダー卿はしつこく食い下がる彼を、片手を上げて制した。
「よい。だが理由を説明してもらおうか」

艦長はしどろもどろになりながら、ターキンからの依頼について話した。
それから、皇帝がベイダー卿の存在を、一部の例外を除いて秘匿していたことも――もっとも、
艦長自身がつい先ほど知ったことではあったが。

しかし艦長はまだ知らない。
ベイダー卿がシスの暗黒卿であり、皇帝の右腕とも言うべき存在であることを。

そして、皇帝がロイヤル・ガードにしか任務の内容を告げなかったのは、全銀河の恐怖の象徴
となるべきベイダー卿のお披露目が、未開の土地から救助されることであることを嫌がった
からである、ということを。


623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 01:42:23.45 ID:ZkAAKZrb0
ベイダー卿の方は、その辺りの事情をシャトルの中でロイヤル・ガードから聞かされていた。
もちろん、かなり言葉を濁して、だが。

(なるほど)
ベイダー卿は腰のライトセイバーを抜いた。
ハルケギニアにいる間に手になじんだそれは、もちろんムスタファーで失った彼自身のもの
ではない。本来は皇帝が使っていたものだった。
皇帝としては、ベイダーの手術が終わったら、彼がライトセイバーを製作する時間も惜しんで
すぐにでもジェダイ狩りに向かわせるつもりだったようだ。

帝国の支配はまだ磐石とは言えない。
皇帝自ら恐怖政治を布くには、リスクが大きすぎる。
そのため、帝国の悪の面を担う、泥よけにも似た存在が必要なのだ。
それが、シスの暗黒卿ダース・ベイダーに負わされた役割である。


632 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 01:48:35.43 ID:ZkAAKZrb0
ベイダー卿は艦長の方を振り返った。
汗まみれのその顔が、さらに蒼白になる。

「一つ聞きたい。あの星との航路は確立できたのか?」
「はっ。ハイパースペース中のデータは全て取ってあります。おそろしく遠いことに変わりは
ありませんが、往路よりは安全に、より短い期間でコルサントに辿り着けます」
ベイダー卿は少し考える素振りを見せ、それから、不安におののく艦長の顔を覗きこんだ。

「いいか。私の言うことをよく聞くんだ。きみはこの星で何も見ていない、そうだな?」
「……い、イエス、ロード・ベイダー」

「皇帝への報告は私が行う。モフ・ターキンにも私から話しておこう。この星には労働力になる
人間どころか、生物すらほとんどいなかった、と。搭載戦力の被害は捜索活動中に星の爆発
にでも巻き込まれたことにしておく。だが、いいな。余計なことは何一つとして喋らないことだ。
全士官に厳命しておけ。どこから情報が漏れても、私が自らきみを殺す」
「イエス、ロード!」
そう答える他、何ができたろうか。
艦長は直立で敬礼した。




648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 01:56:45.99 ID:ZkAAKZrb0
ルイズは机の上の黒いグローブをぼーっと見ていた。
その甲に刻まれたルーンは、気のせいかだいぶ薄くなっている気がする。

ベイダーと別れて、もう一月前にもなる。
アンリエッタとキュルケから話を聞いたとき、その内容を思ったより冷静に受け止めている自分
に、ルイズは内心驚いていた。
思えば、ベイダーが本当の名前を告げて操縦席から飛び降りたときから、ああなることを予感
していたのかもしれない。

タバサもそうだったのだろう、「そう」と一言呟くなり、後ろも振り返らずシルフィードに乗ってその
場を飛び去ってしまった。
誰にもその顔は窺えなかった。


661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:02:13.27 ID:ZkAAKZrb0
森の中に避難し、軍によって保護された村人の中に、シエスタの姿もあった。

シエスタは、『竜の羽衣』が大戦果を挙げるのを見ていたらしい。
着陸した羽衣に駆け寄ってルイズとタバサを真っ先に出迎えたのが、森から出てきたシエスタ
だった。
だが彼女は、ベイダーがハルケギニアを去ったことを聞かされると大泣きになった。
それを告げる羽目になったのは、ルイズだった。おかげで、なだめるのにずいぶん苦労した。

シエスタだけでなく、ベイダーは思ったより多くの者たちの心の中で大きな存在になっていた
ようだった。
アンリエッタは戦勝記念パーティの席上で救国の英雄を称える詩を詠んだし、コルベール先生
とギーシュとマリコルヌは、回収された竜の羽衣にまたかかりっきりだ。

あのキュルケでさえ、時折張り合いがなさそうな表情を見せる。


676 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:06:43.66 ID:ZkAAKZrb0
「ベイダー、あんたまだお星さまの世界をさ迷ってるわけ? そこはどんな所なの?」

机に肘を突き、顎を両手で支えながら、ルイズはグローブに問いかけた。
この一ヶ月というもの、他に何もすることのないとき、ルイズはこうやってグローブを眺め、時に
は語りかけたりしていた。
もちろん、グローブが答えることはなかった。ただそこに、無言で横たわっているだけだった。

だが、今日は少々様子が違った。ルイズはハッとした。
そうやって眺めている内に、グローブの甲のルーンが、じんわりと滲むようにかすれ、どんどん
薄くなってゆくではないか。

「ベイダー!!」
思わず叫び、グローブを手に取った時には、『ガンダールヴ』のルーンは完全に消失していた。


692 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:11:02.63 ID:ZkAAKZrb0
ルイズはぎゅっ、とそれを握り締めた。
頑丈な上に伸縮性にも富んだグローブは、ルイズの手の中でつぶれた形を取った。

不意に、その手に違和感が伝わる。
ルイズは少し逡巡してから、グローブを逆さにして何度も振ってみた。
果たしてその中から、くしゃくしゃに丸められた紙片が飛び出し、地面に落ちて乾いた音を立て
た。それを拾い上げ、広げてみる。
それから、ルイズは目を見開いた。
紙片には、覚えたての上殴り書きしたらしくお世辞にも上手とは言えないものの、はっきりそれと
わかるハルケギニアの文字がおどっていたからだ。


706 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:14:19.78 ID:ZkAAKZrb0
ルイズは食い入るようにその紙片に目を走らせた。


「ルイズ、
短い間だったが、きみと過ごした期間、悪くはなかった。
遠く離れた銀河から、メイジとしてのきみの大成を祈っている。
常に僕とフォースがきみと共にあることを忘れないでほしい。

きみの使い魔にしてジェダイの騎士 アナキン・スカイウォーカー」


たったそれだけの文面だった。
だけど、それだけで十分だった。
ルイズは紙片を抱きしめ、床に突っ伏すと、あの日以来初めて声を上げて泣いた。
いつまでも泣き続けた。




726 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:20:54.26 ID:ZkAAKZrb0
ハイパースペースから通常宇宙に出ると、ベイダー卿は艦長を伴ってブリッジに姿を現した。
そして、ハイパースペース航法を司るコンピュータの前に歩み寄ると、驚く艦長の前でライト
セイバーを起動させ、そのデータボックスを徹底的に破壊した。

「バックアップは?」
「はっ。ありません」
艦長は呆気に取られて答えた。
その言葉に嘘はなかった。
ハルケギニアを攻撃することに夢中で、バックアップを取るよう指示することなどすっかり忘れ
ていた。

ベイダー卿はフォースでその答えの真偽を探り、一応満足すると、呆然とする艦長を残して
ブリッジを出て行った。

(不思議だ……)
居住区画へと向かいながら、ベイダー卿は首を傾げた。
無性にパドメに会いたい。

そしてまた一方で、使い魔でなくなることで一緒に消えるかに思われた、ルイズやその仲間
たちを慕わしく思う気持ちも残ったままだった。


736 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:25:35.79 ID:ZkAAKZrb0
ハルケギニアでの出来事は、確実にベイダー卿を変えていた。
彼の精神は今、ライトサイドとダークサイドの狭間で揺れている。
だが彼はまた同時に、ルイズに名乗ったほど簡単にはジェダイに戻れないことも知っていた。
そうするには、あまりに遅すぎた。

だが、一つだけはっきりしていることがある。
皇帝は除かなければならない。
たとえ今は無理でも、いつの日か、必ず。

「あなたは負けるよ、陛下……」
ベイダー卿はそう呟き、仕舞い忘れていたライトセイバーの柄を握り締めた。


748 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:30:04.62 ID:ZkAAKZrb0
執務室の窓から外を眺めやりながら、パルパティーンは弟子の帰還を今か今かと待ち構えて
いた。

(また執着する対象を見つけてきたようだな、我が弟子よ)
彼はほくそ笑んだ。

ベイダー卿のダークサイドの力はまだまだ未熟だ。
それどころか、彼は自分の弟子がダークサイドから脱出したことを感じている。
だが、パルパティーンにとってそれは、降って湧いた僥倖とも言えた。
もう一度、しかも徹底的に怒りと絶望を与えてやれば、その時こそシスの暗黒卿ダース・ベイ
ダーは完成する。
そのための材料を、今の彼は握っている。

だが、絶望しきってもらっても困るのだ。
辛うじて執着できるもの、そのためにあらゆる束縛を踏み越えられるものを持っていてくれた
方が、都合がいい。
――そのためになら、師である彼自身をすら殺すことができるようなものを。

そして、行方不明の期間中に、ベイダーはそれを見出してきた。
(どこまでも愚かな男だ。ジェダイ・オーダーが過度の親愛の情を禁じていた理由が、未だに
わからないようだな)


761 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:36:15.36 ID:ZkAAKZrb0
今のベイダーからは、彼に対する敵意を感じる。
そしてそれこそが、シスのあるべき姿だった。
師は弟子を裏切り、弟子は師を裏切ることで、シスはその力を増大させていくのである。

(理想的だ。早く戻って来い、我が弟子よ)
他に人気のない執務室で、パルパティーンは湧き上がる愉悦に身を委ねていた。



パルパティーンの思惑どおり、ベイダーが二度と這い上がることが不可能なほどダークサイド
に堕ち切るのか――

あるいは、ベイダーの中に蘇ったジェダイとしての感情が、激しい怒りと深い絶望の前に完全に
潰えることなく、その後も無意識下で命脈を保ち続けるのか――

二人の意志が将来どのような結果を生むのかは、この時点ではまだ誰にもわからない。




770 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:40:19.33 ID:ZkAAKZrb0
ルーンが消えた翌日の午後遅く、ルイズは魔法学院を見下ろす小高い丘に立っていた。
ほんの数ヶ月前、ここで『サモン・サーヴァント』の呪文を唱え、ベイダーを使い魔として呼び
出したのだ。
自分ではとっくに立ち直っているつもりだったのに、昨日手紙を読んでから気持ちの整理を
つけるまで、丸一日を費やしてしまった。
そしてようやく今、新しい使い魔を召喚する決心をつけたところである。

ルイズの周りには、タバサにキュルケ、ギーシュにマリコルヌ、それから、もっと多くの学院の
生徒が集まっていた。
その他にも、ミスタ・コルベールを初めとする教師陣も幾人かやって来ていた。
シエスタやマルトー親父らの平民の姿も見える。
皆、ルイズの召喚儀式を見守るためにやって来たのだ。

ルイズは杖を振り上げた。


784 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:43:23.58 ID:ZkAAKZrb0
オールド・オスマンは学院長室でパイプの煙をくゆらせていた。
「やれやれ、そんなに大騒ぎすることでもあるまいに……。のぉ、モートソグニル?」
オスマン氏は、彼の掌から餌をもらっているハツカネズミに問いかけた。
その言葉を理解してか、モートソグニルはちゅうちゅうと鳴いた。

「まあできれば、次はもうちょっと可愛げのある『ガンダールヴ』じゃとよいがのお……」
そう言って、オスマン氏は窓の外に目をやった。
日没が近い。


811 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/10(火) 02:48:31.50 ID:ZkAAKZrb0
(見てなさいよ、ベイダー。神聖で美しく、そしてあんたなんかよりももっと、もぉーっとすごい
使い魔を召喚してやるんだから)

ルイズは光のゲートをくぐってやって来るべき使い魔を待ち構えていた。
周囲の観衆も、固唾を飲んでそれを見守る。

ルイズが凝視するゲートの遥か彼方の空で、大小二つの月が並び、暮れなずむ太陽に代わっ
て優しい光を投げかけ始めていた。



(画面が暗転してエンディング)

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最終更新:2007年07月10日 02:54