692 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:39:54.85 ID:lbgBr8l60
ワルドは風竜の上で、にやりと笑った。
彼はこの時を、『レキシントン』号の上空の雲に隠れ、ずっと待っていたのであった。

次々に味方の火竜を撃墜した、謎の竜騎兵。
己の風竜がまともにぶつかったのでは勝ち目は薄い。ならば虚を突かねばならぬ。

そして、優秀な敵ならば『レキシントン』号が上方に死角を持っていることを見抜くはずと読み、
そこに張っていたのである。

果たして彼の予想通りやってきた敵の姿は、興味深いものだった。
これは竜ではない……、一目見てワルドは思った。
これは、ハルケギニアの論理で作られたものではない……


696 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:43:06.13 ID:lbgBr8l60
「ワルド!」
ルイズがハッとして顔を上げる。二度と会うことはあるまいと思っていたかつての婚約者と、
こんな状況で再会するとは。

一瞬だけ、ワルドと目が合ったような気がした。
この途方もない相対速度の中である。錯覚かもしれない。
だがその瞬間、確かにルイズは背中に冷たいものが伝うのを感じた。


一方のワルドの目は、キャノピー越しに桃色がかったブロンドの髪を捉えていた。
そして、敵の尾翼に踊る『ゼロ』の文字。
ならば、あの竜モドキを操っているのは……。

失った右腕がうずく。
風竜のブレスは役に立たぬが、自分には強力な呪文と光線銃がある。
ワルドは手綱を握り直し、周囲の雲海に散らばった“彼ら”に思念を送った。


700 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:45:12.65 ID:lbgBr8l60
「偏向シールドのないこの機体にとっては、ブラスターは脅威となるな」
言いつつ、ベイダーは大きく機を旋回させ、風竜でも追従できない速度で後ろに回り込もうと
した。
ワルドの射撃の腕前は未知数だが、正面からの接近は避けた方がいいだろう。

しかし、完全に死角からのアプローチであったにもかかわらず、ワルドはそれを見越したかの
ように正確にブラスターを撃ってきた。

驚きつつも咄嗟に反応し、機を傾けて避けようとしたが、かわし切れず右翼の下に被弾。
頑丈なハードポイントが一撃で破壊され、ミサイルが地上目がけて落下していった。

バランスを崩し、機体が大きく揺れた。
横向きのローリングに加え被弾の影響で一気に減速したため、体にベルトを食い込まされた
ルイズが呻いた。


704 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:49:31.19 ID:lbgBr8l60
ベイダー卿はどうにか機の体勢を立て直すと、再びスピードに乗せた。
「きゃあきゃあ、きゃあ!」
今度は座席の背もたれに押し付けられる格好になり、悲鳴を上げるルイズ。
「大丈夫かよ、娘っ子?」
デルフリンガーが思わず口を開いた。

ルイズはきっ、と目を吊り上げた。
「わたしの心配なんていいわよっ! それよりベイダー、何やってんの! こんな所で手こずっ
てる場合じゃないでしょ!」

ルイズの言うとおり、『レキシントン』号が弾種を散弾から砲弾に戻し、再びラ・ロシェール目
がけて艦砲射撃を開始しようとしていた。
陸軍も混乱を収拾させつつある。

「コーホー」
たしかに、あまりワルドの相手に時間をかけるわけにはいかなさそうだ。


707 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:54:39.17 ID:lbgBr8l60
「だから、頑張りなさい! ワルドなんかに撃ち落されたりしたら、わたしがあんたを殺すから
ねっ!」
そんな矛盾きわまる台詞で発破をかけると、ルイズは再び『始祖の祈祷書』のページに目を落とした。

光の中に、文字が浮かび上がっていた。
古代のルーン文字で書かれたそれを、真面目な勉強家であるルイズは読むことができた。



「序文。

これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四
の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統
は、『火』『水』『風』『土』と為す。


710 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:56:53.09 ID:lbgBr8l60
神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒よ
り為る。神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に
干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚
無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。

これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いし
ものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われ
し『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多
大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。し
たがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開
かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。

     ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ


714 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 01:59:51.97 ID:lbgBr8l60
ルイズは呟いた。
「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの? この指輪がなくっちゃ、『始祖の祈祷書』
は読めないんでしょ? その読み手とやらも……、注意書きの意味がないじゃないの」

そして、はたと気づく。読み手を選びし、と文句にある。ということは……。
自分は読み手なのか?

思えばこれまで自分が魔法を使おうとすると、そのたびに爆発が起こった。
周りのみんなは失敗と笑ったが、その原理を説明できる者は誰一人としていなかったでは
ないか。
よくわからないけど、あれが『虚無』なのだとしたら……?

それに、自分が召喚したベイダーはかつて始祖ブリミルが使役した伝説の使い魔、『ガンダー
ルヴ』だという。――皮肉にも、最初にルイズにそのことを告げたのはワルドであったが。

すると自分はやはり読み手なのかもしれない。
信じられないけど、そうなのかもしれない。

ルイズは緊張で渇いた喉に唾を飲み込んだ。


718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:02:07.36 ID:lbgBr8l60
しかし、次のページを開いて失望した。
それ以降はまた、今までどおりの文字の記されていない白いページが続いていたからだ。

「なによ、もう……。期待させておいて」
失望と共に無性に腹が立った。涙さえ出てきた。自分は相変わらず『ゼロのルイズ』なのだ。

だからルイズは、前の席に座るベイダーに向かって腹立ち紛れの声を張り上げたのだった。

「もうっ! もどかしいわね、なにやってんのよ! あんなの早く落としなさいよ!」


722 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:07:00.49 ID:lbgBr8l60
ベイダー卿は背後から飛んでくるルイズのわめき声を無視しながら思案していた。

ワルドは思った以上に手強い。
左手一本で正確な射撃をしてくる上に、こちらの射線に入るのをぎりぎりの所で回避している。
「さすがは『風』のスクウェアといったところか」
かつてフォースグリップをかわしただけのことはあった。

しかしそれ以上に気にかかるのが、ワルドの異様な反応の良さだ。
死角から攻撃しようとしてもあっさり看破され、逃げられる上にブラスターを撃たれる。
二倍以上のスピードで飛ぶハリアーの動きを、手に取るように掴んでいる様子である。
まるで、フォースを感知する力でもあるかのように。

スピードの面で絶対的な優位にあるはずなのに、ベイダー卿は攻めきれずにいた。


724 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:10:27.95 ID:lbgBr8l60
そうこうしている内に、とうとうアルビオン艦隊の艦砲射撃が再開された。
途方もない砲声が轟き、大気がびりびりと震撼した。

「姫さま……!」
ルイズが顔色を変えた。
ベイダーのハリアーは何度目かのアプローチに失敗し、光弾に追い立てられるようにして
ワルドから距離を取っていた。
どの方位から接近を試みても、どうしても射線に捉えることができない。

「相棒、あいつは時間を稼ぐつもりだぜ。先にあのデカブツをなんとかしなきゃ、姫さんたちが
やばいんじゃないのか?」
そのデルフリンガーの言葉に、ルイズも同意した。陸軍も再び進行を開始している。
「そうよ、ベイダー。もうワルドなんてどうでもいいわよ。もっと物事を大局的に見て動きなさい
よ」


727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:13:01.01 ID:lbgBr8l60
そんな何気ないルイズの言葉に、ベイダーは何かを思いついた様子で少し考え込み、やや
あって頷いた。
「なるほど、大局的に、か。……そういうことか」

フォースの探知範囲を拡大し、確かめてみる。どうやら間違いない。
そしてそれから、ベイダー卿は背もたれ越しにルイズを見た。
「奴のからくりがわかった。マスター、今まで以上に危険な操縦をするぞ。耐えられるか?」

ルイズは内心の恐怖を気取られまいと精一杯胸を張って答えた。
「あっ、あったりまえじゃない! わたしを誰だと思ってんのよ! わたしはルイズ・フランソ
ワーズ・ル――」
「わかった」
ベイダー卿は小うるさそうに手を振って遮ると、操縦桿を握り直した。
ルイズが何か言いたそうに口を開きかけたが、結局彼女は一言も声を発することができな
かった。
ハリアーが大きくロールし、またもや悲鳴を上げる羽目になったからである。


739 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:20:54.86 ID:lbgBr8l60
「ふふふ、とうとう痺れを切らしたか」
風竜に跨るワルドはほくそ笑んだ。敵の竜モドキが転進し、『レキシントン』号目がけて飛んで
いったからである。
彼はこの時を待っていた。

「どんなに速く飛ぼうと、この銃の弾からは逃げられんぞ!」
常識を越えたハリアーの速度も、光速の銃弾にとっては無に等しい。
風竜に『レキシントン』号を目指すハリアーを追尾させながら、ワルドはブラスターを連射した。

それは、ワルドにとっては理想的な形だった。
「『ガンダールヴ』、それにルイズ、きみたちに引導を渡すのは残念ながら僕じゃない」
地上目がけて艦砲射撃を続ける『レキシントン』号であるが、その両舷の艦首と艦尾にある
一門、計四門の大砲には、ワルドの指示で熟練の砲撃手が散弾を準備している。

焦ったベイダーがワルドを無視して『レキシントン』号に向かい、ワルドがそれを追いかける
――ブラスターを避けるのに精一杯のこの時こそ、不意打ちの散弾に対して最も無防備に
なるはずである。


743 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:24:11.59 ID:lbgBr8l60
ワルドは周囲に思念を送った。
『フライ』の呪文で飛ぶ“彼ら”は風竜のスピードには追従できないが、とりあえずついてきて
はいる。

ブラスターをかわすのに精一杯の竜モドキは、トップスピードに乗ることができないでいる
ようだ。
(竜とは違うその直線的な動きこそお前の弱点だ……)
ワルドはその見慣れぬ竜モドキの運動性能をよく観察していた。
加速、速度ともに申し分ないが、常に羽ばたき身をくねらせる竜に比べると、小回りが利かな
いようである。

もうすぐ散弾の射程に入る。この相対速度で散弾を喰らったら、間違いなくあの竜モドキは
バラバラになるだろう。


750 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:27:23.34 ID:lbgBr8l60
しかしほくそ笑むワルドの目の前で、竜モドキは『レキシントン』号との間に浮かぶやや大きめの
雲の中に飛び込んだ。
「ちっ!」
ワルドは小さく舌打ちした。
この銃が、濃密な雲の中では本来の威力を発揮できないことをワルドは知っていた。当てても
致命打にならないかもしれない。
だが、圧倒的優位に立っているという自信と、憎き仇敵をもうすぐ倒せるという喜びが、ワルドを
躊躇なく雲に飛び込ませていた。

ワルドは気づいていなかった。
ワルドが追尾しやすいよう、ベイダー卿が速度を抑えていたことに。
そして、雲に飛び込んだ彼の目の前で、竜モドキの影が忽然と消えた。


「バカな!」
いかに雲の中とは言え、見失うわけがない。第一、それほど濃い雲ではないのだ。
前方に悠然と漂う『レキシントン』号もしっかり視認できる。
慌てて上下左右に視線を走らせるワルド。
その頭脳に、“彼ら”の内の一人から思念が届いた。

例の竜モドキが自分の方に向かっている、と。


754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:32:03.99 ID:lbgBr8l60
「目が覚めたか、マスター」
ルイズが薄目を開けたのを察知し、ベイダー卿は後部座席に向かって声をかけた。

「う、ん……? わたしどうしてたの?」
「ほんの数秒だが気を失っていた。初めて味わう加速度に、体が耐え切れなかったのだろう」
「そ、そう……」
ルイズが額に手を当てる。まだ視界がぼんやりと暗い。

しばらくそうしてから、唐突に置かれた状況を思い出し、ルイズは大声を上げた。
「わ、ワルドは!?」

ベイダー卿は固定武装のトリガーを引きながら答えた。
「これで四人目だ」
機関砲が火を噴き、空中を逃げようとしていた人影に弾を叩き込む。
その人影はワルドだった。二、三発の砲弾をその身に受けたワルドはバラバラに砕け、そして、
消えた。


762 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:35:11.17 ID:lbgBr8l60
ルイズは息を呑んだ。
「――ユビキタス・デル・ウィンデ!」
ベイダーが頷く。
「そうだ。子爵は自分の周りを固めるように分身を配置していたのだ。それも、一キロ近い距離
を置いて。目にも止まらぬこの機の速度も、遠くからなら把握可能だからな。そうして互いに
何らかの手段で連絡をとり、こちらの動きを教え合っていたのだろう。魔法を利用した全方位
レーダーと火器管制システムいうわけだ」

最後の単語はわからなかったものの、なるほど、とルイズは思った。それならばワルドのあの
反応の良さも納得できる。
気づかぬ内にルイズたちは、常時四対の瞳から監視を受けていたのだ。


765 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:37:52.45 ID:lbgBr8l60
「でも、どうやってその囲みを脱出したの?」
「簡単なことだ。誰も把握できない動きをしてみせればいい。特に一番危険な、ブラスターを
持った本体に対して、な。この機体はエンジンノズルの向きを変えることで、予測不可能な
動きができる。そうやって本来ありえない所から雲を抜けた時、分身たちはのこのことこちらに
飛んでくる最中だった」

デルフリンガーが後を引き受けた。
「もっともこの機動は機体と乗り手にとんでもねぇ負担がかかっちまうがな。お前さんはそれで
気絶しちまったんだよ。だけど相棒、さっきみたいな真似はもう無理だぜ。機体がバラバラに
なっちまうよ」
ベイダー卿が頷く。
その視線の先で、雲の中で反転したワルドの風竜がようやく姿を現した。

「なかなかいい策だったが……、終わりだ、子爵」


777 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:43:30.88 ID:lbgBr8l60
ワルドは破れかぶれにブラスターを連射してきた。
無論、もはやそれに当たるベイダー卿ではない。

ハリアーを加速させ、旋回。目で追えぬ程のスピードでワルドの死角に回り込み、一気に距離
を詰める。
火竜に乗った竜騎士たちがそうであったように、今のワルドはハリアーの動きに反応すること
ができなかった。

ブラスターを撃つ余裕はない、そう判断したワルドは咄嗟に杖を振った。

ハリアーの機関砲が、風竜の華奢な体を穴だらけにする。
ワルドは辛うじて自分の背後に空気の壁を作り出すことができた。
しかし、スクウェアメイジの風の障壁ですら、三十ミリ機関砲の弾を防ぎきることはできなかった。
肩と背中に弾が食い込み、ワルドは風竜と一緒に地面に墜落していった。


「さよなら、ワルド……」
落ちていくかつての婚約者を見つめながら、ルイズは口の中で呟いた。
だが、感傷にひたっている暇はない。

今度こそ全ての邪魔者を片付けたベイダー卿が、ハリアーの機首を『レキシントン』号に向けた。


785 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:45:49.73 ID:lbgBr8l60
「ワルド子爵、撃墜されました! 謎の敵が再度本艦に向かってきてます!」
『レキシントン』号の後甲板で指揮をとるボーウッド艦長に、伝令兵が悲鳴に近い声でそう報告
した。

ボーウッドは歯噛みした。
すでに地上の軍勢はラ・ロシェールに到達し、トリステイン軍と戦端を開いている。
今こそ艦砲による援護射撃が不可欠な時だというのに、またあの厄介な奴がやってくる……


793 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:48:40.96 ID:lbgBr8l60
「弾切れだぜ。どうするよ、相棒?」
操縦桿を握るベイダー卿に、デルフリンガーがそう問いかけた。
彼の言うとおり、機関砲の弾倉はワルドとの戦闘で空になっていた。

「まだ一発ミサイルが残っている。木造船など、この一発で沈めてみせる。それでも沈まない
時には……」
「時には?」
ルイズとデルフリンガーが同時に尋ねた。

「――混乱に乗じて直接乗り込み、制圧する」
ルイズは仰天したが、デルフリンガーは興奮したかのようにカチャカチャと震えた。
「いいねぇ、相棒。お前のそういう無茶なとこ、わりかし気に入ってるぜ」
それには答えず、ベイダー卿は操縦に集中した。


815 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 02:56:23.18 ID:lbgBr8l60
アルビオン艦隊の内、『レキシントン』号だけが砲撃を止めている。
おそらくハリアーに対して弾幕を張るために、弾種を散弾に変えているのだろう。
だが、左手の『ガンダールヴ』のルーンが教えていた。この機体に積まれているミサイルは、
対空砲火届く範囲の遥か手前から攻撃可能である、と。

ベイダー卿はためらうことなく発射ボタンを押した。
翼の下のハードポイントから分離したミサイルが、すぐさま音の壁を越えた。


『レキシントン』号左舷の監視員が、敵の竜モドキから何かが発射されたのを視認した時には、
既に何もかもが遅すぎた。
何門かの大砲が独自の判断で散弾をぶっ放したが、まったくかすりもしなかった。


837 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:03:47.68 ID:lbgBr8l60
ハリアーが発射したミサイルには、コルベールが作った『ディテクトマジック』を発信する魔法
装置が組み込まれていた。
中間誘導を終えたミサイルのシーカーは、巨大な魔法力の塊――『レキシントン』号の動力源
たる『風石』をロックし、散漫に飛んでくる対空砲火をものともせず最高速まで加速した。

回避運動を取る暇など、あるわけがなかった。
ミサイルは音の二倍を優に越える速度で『レキシントン』号の船体の中央部に突き刺さり、ベイ
ダー卿が設定した遅発信管により、その弾頭に秘められた破壊力を余す所なく解放した。

高性能炸薬の爆発力に巨艦が傾ぎ、左舷から火柱が上がった。


862 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:14:50.74 ID:lbgBr8l60
『レキシントン』号の甲板にいた将兵の多くが、爆発の衝撃で宙に投げ出された。
魔法が使える貴族の内、意識を保っていられた者は幸いだった。
『レビテーション』や『フライ』の呪文を唱え、宙に浮くことができたからだ。
しかし、それ以外の大多数、気を失ったメイジや平民は皆、遥か彼方の地面目がけて落下
していった。

艦長のボーウッドも同様に艦から振り落とされたが、辛うじて意識を保っていることができた
幸運なメイジの一人であった。

そして、『フライ』の呪文を唱えた彼は、今はなきアルビオン王室が威信を賭けて建造し、王権
の象徴であった不沈艦が、たった一発の攻撃で信じられない損害を受けているのを目の当た
りにした。

外壁と何枚もの隔壁を破ってから爆発したらしき敵の兵器は、『レキシントン』号の左舷に大穴
を開けていた。
甲板から火の手が上がり、すぐにそれはマストの帆布に延焼した。
おそらく艦内の被害はさらに甚大だろう。

だがしかし、幸いにして弾薬庫やバイタル区画への被害は免れたようである。
不沈艦の名に相応しく、『レキシントン』号は辛うじて宙に浮いていた。


887 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:23:24.88 ID:lbgBr8l60
「沈まないじゃない! どうすんのよ、ベイダー!?」
ハリアーのコクピット内に、ルイズの甲高い声が響いた。
ベイダー卿は振り向きもせずに答えた。
「やはり空対空ミサイルでは破壊力不足だったか。……だが、言ったろう。沈まないなら乗り
込んで制圧する、と。今なら対空砲火も止んでいる。甲板のスペースになら降りることが可能
だ」

やれやれ、とでも言うようにルイズが首を振った。
「ま、いいわ。あんたの無茶は今に始まったことじゃないし。付き合ったげるわよ」


894 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:26:32.28 ID:lbgBr8l60
そう言うとルイズはベルトを外し、操縦席の背もたれに両手をかけて抱きつくような形で体を
預けた。
そしてそのまま身を乗り出し、シートからはみ出たベイダー卿のヘルメットにコツン、と額を
当てる。
「ちゃんとわたしのこと、守ってよね?」

「コーホー」
ベイダー卿は沈黙の中に逃げ込んだ。

その姿勢を保ったまま、ルイズが続ける。
「それから、約束して。必ず二人で生きて帰るって。……わたし、置いてけぼりはぜーったいに
ヤなの」

ベイダー卿はしばらくの間やはり無言だったが、やがてポツリと呟いた。
「肝に銘じておこう」


904 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:34:22.97 ID:lbgBr8l60
ベイダー卿はハリアーで『レキシントン』号の上を一巡りしみたが、抵抗らしい抵抗は皆無
だった。
他の戦列艦も、司令官の座乗艦たる『レキシントン』号から火の手があがったことで混乱して
いる様子だった。
『レキシントン』号を制圧するには、絶好のチャンスと言える。


そして、後甲板の竜騎兵の発着スペースになら機を着陸させられそうだ――ベイダー卿が
そう当たりをつけ、その上まで移動して着陸姿勢を取ろうとした時だった。


フォースがかつてないほどの警告を発した。


916 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/26(火) 03:38:32.03 ID:lbgBr8l60
「ッ!!」
ベイダー卿は弾かれたように操縦桿を押し込んだ。
「……きゃああああぁぁぁぁッ!?」
腰を浮かせ、操縦席の背もたれにしがみついていたルイズが、後部座席まで弾け飛んだ。

垂直に切り替わりつつあったエンジンノズルが水平に戻り、ハリアーは全速で『レキシントン』
号の上から離脱した。

そしてその直後、天地を貫く一条の光の束が『レキシントン』号の甲板に突き刺さり、その船体
を真っ二つに引き裂いた。


ベイダー卿とルイズは同時に空を見上げた。
一隻の巨大な船が、遥か上空に浮かんでいた。
高度の差を考慮すれば、その船が『レキシントン』号とも比較にならないほど巨大なものである
ことは、すぐにわかった。

「スター・デストロイヤー……」
彼にしては珍しく呆然とした口調で、ベイダー卿がその名を口にした。

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最終更新:2007年06月26日 15:06